2007/2/28 日本経済新聞夕刊

名古屋市地下鉄談合 公取委と地検連携 ゼネコン初の立件

 名古屋市営地下鉄工事を巡る談合は28日、
ゼネコン各社の初の独占禁止法違反事件に発展した。名古屋地検と公正取引委員会が歩調を合わせた強制捜査から1カ月強。公共事業を"食い物”にする業界の根深い談合体質が浮き彫りに。公取委は、地検との連携で刑法より立証のハードルが高い独禁法での立件にこぎつけたことで、全国の地検が同法を扱う上での「モデルケースにしたい」と位置づけている。
 
刑法の談合罪は個別の入札での受注調整の有無を対象にしているのに対し、独禁法で立件するためには、複数の入札があった一定の取引分野について、各社間の競争を拘束する事前の「合意の形成」の内容を解明することが必要となる。
 公取委は地検と連携し、仕切り役とされる大林組名古屋支店元顧問、柴田政宏被告(70)らを聴取。その結果、同被告の仕切りで2005年12月中旬、翌年入札予定だった市営地下鉄桜通線延伸工事の5工区の落札予定共同企業体(JV)を決定していたこをが判明した。
 落札予定企業以外は予定価格の95%超の金額で入札することが慣例だったことも明らかに。こうした一定の「談合ルール」の下、受注調整が繰り返されていたことが、競争を拘束する合意内容に当たると判断した。
 ゼネコンが独禁法違反で立件されるのは初めて。法改正で昨年から各地検での立件が可能になって以降、汚泥処理施設談合(大阪地検)に続く共同作業どなった。
 全国に”巣くう”談合根絶に向け「各地検が同胞を扱う上で、今回をモデルケースにしたい」(公取委幹部)という思惑もにじみ、今後も地方都市などを舞台ににした談合の積極的な摘発が続きそうだ。

2007/2/28 毎日新聞夕刊

 調べでは、各社は昨年2月8日〜6月5日にあった市営地下鉄6号線(桜通線)延伸工事の5件の入札で、談合を繰り返した疑い。柴田被告が入札に参加する全共同企業体(JV)と受注予定のJV(チャンピオン)について腹案を作成。各社幹部を集めた05年12月中旬の会合で提案・了承された。5件のうち3件は、ハザマ、前田建設工業、奥村組を筆頭とする各JVが、決定通りに落札したが、残る2件は落札工事が入れ替わっていた。公取委などは、鹿島と清水建設が06年初にひそかに話し合い、落札工事を交換したとみて追及したが、両社幹部は否認。「本社が談合決別を申し合わせた05年末以降は談台しておらず、2件はきちんと競争した」と反論した。
 しかし、公取委と特捜部は、
会合で工事の割り振りを行った時点で独禁法違反が成立すると判断。「競争」を主張する2件についても、会合で決めた通りのJVだけが参加していることなどから「条件付きの競争に過ぎず、自由な競争とは言えない」として、同法違反の成立は揺るがないと判断したとみられる。


自主申告 ハザマは告発免除

 同事件を巡り、公正取引委員会が、準大手ゼネコン「ハザマ」を検察当局への告発対象から外したことが分かった。独占禁止法に違反する行為をした事業者が公取委に自首すれば、告発の免除や課徴金減免の措置を受けられる「
リーニエンシー」と呼ばれる制度を利用し、談台を自主申告したためとみられる。過去に課徴金を減免された企業はあるが、告発を免除されたケースは初めて。ハザマは、公取委による課徴金納付命令の対象からも除外されるとみられる。建設業界でリーニエンシーを利用した企業が」表面化するのは初めて。

2007/3/1 日本経済新聞

名古屋市地下鉄談合、大林組元顧問らを逮捕

 名古屋市営地下鉄延伸工事の談合事件で、名古屋地検特捜部は28日、独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で、大林組名古屋支店元顧問、柴田政宏被告(70)=別の談合事件で公判中=らゼネコン5社の名古屋の支店の担当者5人を逮捕した。大手ゼネコンに対し独禁法違反で刑事責任を追及するのは初めて。

 公正取引委員会は同日午前、同法違反罪で大林組、鹿島、清水建設、奥村組、前田建設工業の5社を告発。名古屋地検と公取委は法人としての責任を追及し、柴田容疑者を頂点とする談合システムの解明を進める。

地下鉄談合 ゼネコン各社代償重く
 独禁法違反 トップヘの適用も焦点

 名古屋市営地下鉄延伸工事の談合事件で公正取引委員会が28日、独占禁止法違反罪で初めて刑事告発したゼネコン5社には厳しい制裁が待ち受ける。巨額の罰金や課徴金、違約金、指名停止…。経営陣は株主代表訴訟の"標的"にもなる。個人、法人だけでなく法人の代表者も罰する独禁法の「三罰規定」が初適用さる可能性もあり、談合の代償は大きなものになりそうだ。
 公取委と名古屋地検は同事件で、談合の実行行為者だけを罰する刑法の談合罪だけでなく、法人の責任も問うことのできる独禁法違反の適用を検討。その結果、ゼネコン各社で受注予定企業を決定した行為が、同法の構成要件となる「基本合意」に基づく「相互拘束」に当たると認定した。
 さらに@落札額が巨額A2005年12月末の「談合決別宣言」後の取り組みが不十分B過去、再三にわたり排除勧告を受けたーーことが、「国民生活に広範な影響を及ぼす悪質で重大な事案」と判断。独禁法の行政処分だけでなく、刑事責任の追及に踏み切った。
 告発された法人(企業)が起訴され有罪が確定すれば、昨年1月施行の改正独禁法に基づき、1社当たり5億円以下の罰金が科せられる。橋梁談合事件では、すでに判決のあった23社には計64億8千万円と史上最高額の罰金が言い渡された。
 行政処分の一種、課徴金納付も命令される。改正独禁法に基づく今回は、大企業には不当行為で得た売上高の10%(従来は6%)の算定率を適用。10年以内に同様の命令を受けた企業は5割増となり、今回、鹿島と清水建設の2社は新潟市発注の公共工事を巡る談合事件で昨年、納付命令を受けており15%で算定される見通しだ。
 このほか工事発注機関(名古屋市)からの違約金請求に加え、公共工事入札で国や自治体から長期の指名停止処分を受けることも予想される。
 一方、ゼネコンの経営陣はこうした巨額の制裁金や逸失利益について株主代表訴訟を起こされる可能性がある。橋梁談合では三菱重工業など7社の株主が各社の経営陣に対し総額64億円を会社に賠償するよう求める訴訟を起こしている。
 独禁法に基づき、談合の実行行為者と法人に加え、法人の代表者も処罰する「三罰規定」が適用される可能性もある。同
法制定以降、適用例はまだないが、法人代表者が直接関与していなくても「違反行為を知りながら是正措置を取らなかった」場合、適用される。

独占禁止法違反罪に伴うペナルティー

  個人 法人 法人の代表者
独禁法 ・3年以下の懲役又は
 500万円以下の罰金
・5億円以下の罰金
・不当行為で得た売上高の最大15%の課徴金
・500万円 以下の罰金
その他   ・発注機関から受注額のlO%前後の違約金を
 請求される可能性
・公共工事の指名停止処分
・株主から損害賠償請求訴訟
 (株主代表訴訟)を起こされる可能性