日本経済新聞夕刊 1993/12/24 

三菱化成・油化が合併 売上高1兆円超す総合化学会社に
 来年10月 業界再編に拍車

 国内最大の総合化学会社、三菱化成(古川昌彦社長、資本金1083億8100万円)と、石油化学最大手の三菱油化(540億9500万円、三浦昭社長)は24日、来年10月に合併することを決めた。同日午後に正式発表する。存続会社は三菱化成で、合併比率は三菱化成1対三菱油化1.3となる見通し。新会社の社名は「三菱化学」とし、三浦三菱油化社長が就任するとみられる。新会社は売上高が国内化学業界で初めて1兆円を超え、群を抜く巨大企業となる。化学業界は企業数が多く過当競争体質となっているうえ、ここ数年は積極的な設備投資を重ねた結果、設備過剰に陥っている。特に自動車、家電などユーザー業界の不振で業績悪化が深刻になっていた。三菱化成、三菱油化は合併することで、企業体質を強化、石油化学製品などの国際競争力の強化を図る。化学業界では再編成の動きが一気に広がる見通しだ。
 新会社は合成樹脂など石化製品をはじめ、医薬品、情報電子材料、肥料、炭素製品など有機から、無機分野、汎用品、ファインケミカルまでそろえた世界でも有数の総合化学会社になる。売上高でも住友化学工業、旭化成工業などを大きく上回る規模となる。
 化学業界では国内ユーザーの不振による需要低迷に加え、合成樹脂を中心に市況が低迷。韓国など海外勢との競争も激化し、日本企業の主要輸出マーケットである東南アジアでも苦戦が続いている。三菱化成が94年3月期に上場以来初めての営業赤字に転落する見通しとなるなど、各社とも軒並み赤字に苦しんでいる。
 昨年春には
三井東圧化学と三井石化の合併構想が表面化するなど、業界再編成の動きが出ていた。企業系列などに基づく樹脂の共同販売会社が設けられ、異なる共販会社に属する企業間の提携が公正取引委員会によって規制されている。しかし、三菱化成と三菱油化は同じ共販グループであり、新会社の主要分野でのシェアも比較的小さいことから、合併の大きな障害にはならないとみられる。三菱油化は戦後、石油化学製品の国際化を目指し、三菱化成をはじめ三菱グループ各社が出資して設立した。三菱化成は三菱油化の株式の約5%を保有している。

 ”共倒れ”の危機感背景に

 「永遠の話題」(故・吉田正樹三菱油化前社長)といわれていた三菱化成と三菱油化の合併がついに現実となった。同じ三菱の冠がつきながら、総合化学の雄、化成と石油化学の雄、油化は人脈、歴史などさまざまな面で競い合うライバルであり「大三菱化学」の誕生は困難視されてきた。それだけに現在凍結中の三井東圧、三井石化の合併など化学業界の再編に弾みがつくのは確実だ。
 自動車、家電向けの石油化学製品の需要が大幅に落ち込み、両社とも営業赤字に陥るほど業績が悪化していた。合併により、抜本的なリストラ(事業の再構築)に乗り出さないと”共倒れ”になりかねない、と首脳陣が強烈な危機感を抱いていたことが背景にある。
 日本の化学メーカーはデュポンなど欧米の巨大化学メーカーに比べ、規模が数分の一に過ぎない。欧米の化学大手はこのところ、市場が成長している東南アジアにターゲットを絞って進出している。この面でも日本の化学メーカーの出遅れが目だち、各社のトップは危機感を強めていた。


日本経済新聞 1993/12/25

苦境の化学 再編に活路  危機感、トップが動く  極秘交渉、三菱銀が支援

 三菱化成、三菱油化の大型合併がついに実現する。同じ三菱グループにありながら双方で石油化学製品を手掛けることから、合併による事業の効率化がかねて叫ばれていた組み合わせだ。長引く不況の中で、ユーザー業界の動向に身をゆだねる素材産業は、独力での打開策を容易に見いだせないでいる。三菱系2社の合併は化学だけでなく、設備過剰など同様の悩みを抱える鉄鋼、紙パ、セメントといった業界にも、大きな影響を及ぼすことになろう。

 同じ企業系列にある両社の統合はこれまで何回となくうわさされてきたが、企業風土の違いや、油化側の化成に対するライバル意識も根強く、踏み切れないままできた。しかし両社の業績悪化が深刻の度を増す中で、「企業体質を強化するには合併がベストの選択」(古川社長)と判断、双方のトップ同士が決断を下した。
 昨年春、三井東圧化学と三井石化の合併構想が表面化した際、油化の故吉田正樹・前社長は「三菱の方は永遠の話題」と話した。同社長は化成より、油化の四日市事業所で原料を供給する日本合成ゴムとの合併を模索した経緯がある。合成ゴムとの一体化で企業規模を拡大し、売上高で油化を大きく上回る化成との合併に備えようとした。
 結局、吸収合併を恐れた合成ゴム側が拒否して実現せず、仕掛け人だった吉田氏は今年初めに急死。今回、交渉がまとまったのは「亡くなった吉田さんのタガが外れ、両社は動きやすくなったからでは」と分析する化学会社首脳もいる。
 一気に大型合併が実現したのは「赤字幅が著しいポリオレフィン事業の統合を模索した延長線上の動き」(三浦社長)という。両社トップは当初、部分的な事業提携で局面打開を模索した。しかし市況の悪化や海外企業との競争激化により国内外で採算悪化が続く同事業だけに、立て直しは容易でない。
 新会社は世界的に見れば小メーカーが乱立する日本の化学業界で群を抜く企業となる。石化製品の中核、ポリオレフィン樹脂の国内シェアは20%弱。10%弱の三井石化や昭和電工に大きく水をあける。
 合併案は三菱油化への配慮も感じられる。新会社の社長の座を譲っただけでなく、合併比率も比較的油化に有利な株価を前提とした。油化の筆頭株主である英蘭シェルグループから、この合併の同ゐを得やすくするため、との見方も出ている。
 合併が実現するまでの交渉は両社首脳が極秘裏に進め「通産省幹部には23日に電話で連絡」(古川社長)、関係者にも直前まで漏らさなかった。24日に緊急の取締役会を開いた油化のある役員も「まったくの寝耳に水だった」と話す。
 だが両社のメーンバンクである三菱銀行だけは例外だった。「合併比率など諸条件の詰めでは、銀行が両社の事務局を指導していたようだ」と化成のある幹部は語る。不況、急速な円高という逆風と、仲介の労をとった銀行という存在が「永遠の話題」を現実のものにした。
 化学業界では円高による自動車などユーザー業界の空洞化で内需の先細りも懸念され「長期的に見て日本の化学業界は立ち直れないかもしれない」(本郷睦出光石油化学社長)といった悲観論も出ている。これほどの危機感はこれまでの不況期にはなく、今回の大型合併の直接的な背景となった。
 三菱両社は三菱レイヨンなど他のグループ企業との提携強化も急ぐ。三菱の総合力が強まれば、三井や住友、日本興業銀行系などの企業群には大きな脅威だ。対抗するためにも、再編の動きが広まるだろう。

 

夏から二人で相談 生産3拠点は残す 両社長会見

 三菱化成の古川昌彦社長と三菱油化の三浦昭社長は24日午後、経団連会館で記者会見した。会見要旨は以下の通り。

ー  いつ決断したのか。
古川 夏ごろから社長同士で共販体制、製販一体化について議論し秋ごろに合併構想に発展した。 11月初めに三菱銀行の伊夫伎一雄会長に報告、支援を約束してくれた。つい最近、最終決断した。
      
三菱ガス化学や三菱レイヨンとの大合同はあるか。
古川 合併後に色々な接触があるだろう。うまく提携できれば拒むものではない。
   
石油化学は投資過剰で環境は厳しいが。
古川 当面の不況を乗り切ることも必要だが、21世紀を見据えた基盤強化が狙いだ。世界の動きに間に合うのは今しかない。
   
人員、設備の削減は。
古川 化成の医薬部門などは人員を吸収する余地がある。新規採用人数の削減は必要かもしれない。新会社の役員は絞り込む。鹿島、四日市、水島の3地域に拠点があることは大きな強みで、いずれも残す。
   
油化の救済合併の意味合いもあるのか。
三浦 救済と言われるのは心外だ。
古川 石油化学部門の強化は化成にとってもメリットは大きい。救済という意識はない。
   
合併比率は油化に甘いのでは。
古川 主に株価をもとに決めた。化成の将来性はもっと評価されていいと思うが、経営者として株価は厳しく受け止めなければならない。

日経産業新聞 1994/8/17

三菱化成ビニル 樹脂加工専業に  化成・油化、合併へ体制整備  「化学」が塩ビ製販

 三菱化成は三菱油化との合併を機に、子会社で塩化ビニールメーカーの三菱化成ビニルを樹脂加工の専業メーカーに衣替えすることを決めた。これに伴い、塩ビの製造・販売部門は10月に誕生する三菱化学が担う。また化成ビニルが属する塩ビの共同販売会社には代わりに三菱化学が参画する予定だ。今回の措置で三菱化学はポリオレフィン、ポリスチレン、塩ビの5大汎用樹脂を生産から販売まで手掛ける体制が整う。
 三菱化成ビニルは三菱化成の100%出資子会社。すでに化成は化成ビニルが水島(岡山県)、四日市(三重県)に所有する塩ビポリマー製造部門(年産約27万トン)を本社に吸収、塩ビ原料からポリマーまで生産している。
 この塩ビ樹脂事業は10月1日付けで三菱化学「樹脂カンパニー」(プレジデント、牧野新三菱油化常務)に統合される。現在、三菱化成ビニルに在籍する塩ビ樹脂の営業社員40人弱は同カンパニーに移籍する見通しだ。
 同時に化成ビニルが現在、属している塩ビの共販会社「中央塩ビ販売」には三菱化学が参加する。
 三菱化成ビニルは農業用フィルム、フィルムシートなど塩ビの加工製品やコンパウンド(成型前材料)の製造販売に特化する。今後は三菱樹脂と同様に三菱化学グループの川下部門を受け持つことになる。
 三菱化成は三菱油化との合併を前にグループ会社の整理統合を推し進めており、すでに油化と共同出資のポリプロピレン運営会社「デーピーピー」、ポリオレフィンの共同販売会社「ダイヤポリマー」については解散することを決めている。