日本経済新聞 2008/6/23

原油高対策 投機抑制へ規制必要 
 産油・消費国会合が声明 協調増産踏み込まず

 主要産油国と消費国は22日、サウジアラビアのジッダで緊急閣僚会合を開き、原油市場への投機資金流入を抑えるため「市場の透明性と規制の改善」の重要性を明記した共同声明を採択した。供給不安の解消策として、サウジは将来的に生産能力を最大で現状の約1.5倍となる日量1500万バレルに引き上げると表明した。

生産能力 サウジ「最大1.5倍に」
 会合は原油価格が1バレル140ドルに迫るなか、サウジのアブドラ国王が呼びかけて開催。甘利明経済産業相やブラウン英首相、ボドマン米エネルギー長官らが参加した。
 会合閉幕後に採択した共同声明は原油価格の高騰や急激な価格変動が世界経済に有害であるとの懸念を明記。金融市場の透明性と規制を改善すべきだと指摘した。
 具体的手段として商品ファンドの行動に関するデータをより正確に把握することや、原油市場間の国境を越えた取引を調査することを挙げた。「規制」という踏み込んだ表現を使い、投機マネーの一層の流入をけん制した。市場の透明化に向けた統計データの整備や開示促進なども検討する。
 また、産油国が生産余力を持つことが世界の原油市場の安定のうえで重要だとし、石油の生産と精製への適切な投資拡大を促した。ただ、主催国のサウジがアラブ首長国連邦(UAE)やクウェートなど生産余力のある、ほかの産油国に働きかけていた協調増産には踏み込まず、供給力の強化について具体的な合意はできなかった。
 閣僚会合で開催国サウジのヌアイミ石油鉱物資源相が2009年末までに生産能力を日量1250万バレルに引き上げる計画を発表。需要があればさらに250万バレル追加する意向も表明した。
 サウジは今年に入って計2回の増産を実施し、7月までに生産量を日量960万ー970万バレルに高める意向。

共同声明の要旨 ロイター

 会合は現在の原油市場の状況について話し合うため、サウジの呼び掛けで開催された。

 参加者は多くの要因によって原油価格が急騰し、値動きが激しくなっていることに懸念を表明した。また、現在の原油価格とその不安定化が世界経済、特に後発開発途上国の経済に有害であると指摘した。

 参加者は現在の状況について、産油国と消費国、石油業界などすべての関係者が、全体の利益のため国際石油市場の安定を目指し、協調して努力することが求められているとの認識で一致した。

 各国の状況や優先課題、国際原油市場の安定と持続的経済成長について共有している利益を考慮し、参加者は以下の項目の重要性を認識した。

世界原油市場の安定のためには、原油サプライチェーンの余剰生産能力が重要。従って、適宜適切な供給が確実に行われるよう川上・川下双方に対する投資の適切な拡大が必要。
   
インデックスファンドの活動に関する一段のデータを把握し、取引所間の取引を調査することにより、原油市場の透明性と金融市場の規制を改善すべき。
   
石油データ共同イニシアチブ(JODI)の品質、完全性、適時性を強化すべき。市場の透明性と安定性の一段の改善のため、JODIに関与している7国際機関─アジア太平洋経済協力会議(APEC)、欧州連合(EU)統計局(ユーロスタット)、国際エネルギー機関(IEA)、国際エネルギー・フォーラム(IEF)、中南米エネルギー機関(OLADE)、石油輸出国機構(OPEC)、国連統計局(UNSD)に川上・川下部門の能力や拡大計画などを含む年次データのカバーを要請。
   
市場の状況をより良く理解するため、IEA、OPEC事務局、IFE事務局が直ちに協力し、原油市場の傾向と見通し、金融市場が原油価格の水準と変動に与える影響について分析する必要。
   
原油価格上昇の後発開発途上国に対する影響を緩和するため、国、地域、国際金融・援助機関からの支援を強化する。
   
すべての産油・消費国が内外および企業間の投資、技術、人材の発展を通じて協力を強化する。
   
技術移転、エネルギーの生産・消費における最良の慣行の共有などにより、すべてのセクターでエネルギー効率が促進される。
   
作業部会を設置し、適宜必要な行動の進展を確認する。次回会合は年末までにロンドンで開催する。

毎日新聞

サウジはOPECと協力し、原油などの購入資金として途上国に5億ドルの低利融資をすると表明した。

IEAは現在のサウジの生産能力を1065万バレルとしている。

 

原油高沈静化 道筋見えず

 高騰する原油高の問題を話しあった産油国・消費国の緊急閣僚会合は、沈静化に向けた具体的な道筋を見出せないまま閉幕した。「産油国と消費国」の対立が随所でほぐれなかったほか、産油国が協調して増産するには至らなかったためだ。1バレル140ドル近くに上昇した価格への懸念は共有したものの、年内にロンドンで開く次回会合に解決策を持ち越した。

高騰要因で対立鮮明

 開催国サウジアラビアは既に二度にわたって計日量50万バレルの増産を表明、今回の会合で生産能力を現在の約1.5倍に引き上げる方針も明らかにした。アラブ首長国連邦(UAE)などの産油国も巻き込んだ協調増産の余地を探ったが、多くの産油国は「原油は十分に供給している」との姿勢。サウジの単独行動に反発もあり、協調増産に向けた合意は空振りに終わった。

成長鈍化の懸念
 原油価格の高騰について、声明は世界経済に有害との認識を示した。産油国にとっても原油高は食糧などの物価上昇を引き起こすほか、世界経済の成長を鈍化させて原油消費量が減少する可能性があるためだ。1日で10ドル前後も上昇するなど相場の動きが激しいことも、原油収入が頼みの産油国にとっての不安要因になる。原油高の一因と指摘されている投機マネーの監視についても討議。声明では商品ファンドの行動把握や市場の透明性確保に言及した。
 この問題では消費国側である米国と日本・欧州の見解に温度差がある。ボドマン米エネルギー長官は21日の記者会見で「投機家が原油価格を押し上げているという証拠はない」と断言。日欧は「投機と需給要因の双方が問題だ」(甘利明経済産業相)と問題意識を明らかにしている。
 共同声明は「規制」という表現で投機マネーの監視に強い姿勢を示した。米国もこの表現を盛り込むことで折り合った格好だが、規制の具体的な内容には触れていない。
 原油先物市場に投機マネーを呼び込んでいる原因であるドル安の基調が変わるかどうかも不透明だ。欧州中央銀行のトリシェ総裁は7月初めにインフレ抑制を狙った利上げを示唆。一方で景気の歩みが重い米国はインフレ下で利上げしにくく、欧米の金利差が広がるとの思惑からドルは売られやすくなっている。
 大阪市で開いた主要8カ国(G8)財務相会合では「強いドル」が容認されたが、市場ではドル買いの動きが限定的だった。ドルを離れた資金が原油や穀物などの商品市場に向かう傾向が続けば原油価格が高止まりする公算が大きい。

各論で思惑交錯
 原油価艦は高過ぎるうえ、「高鱗の原因は一つではない」(サウジアラビアのヌアウヌ石油鉱物資源相)ということは産油国と消費国の双方の共通認識になりつつある。各論に入るとそれぞれの思惑がにじみ出て、歩み寄りの余地を狭めている。
 産油国と消費国の「すくみ合い」が解ける展望がないと市場が受け止めれば、原油価格が一段と上昇する可能性すらある。

原油高の要因に対する立場

  需要と供給 投機マネー
産油国 いまは供給不安なし。将来の需要わからず増産に慎重 原油高の主因と位置づけ
日本・ 欧州 需要は新興国で増加。供給不安解消のために増産要請 需給要因とともに原油高を演出
米国 新興国の需要抑制に向け補助金を撤廃。増産の要請も 投機資金の判別つかず監視困難
中国・インド 需要増に供給が少ない。補助金はインフレ抑制の一手 製品価格上昇で新興国の負担大

 

サウジ、影響力に限界
 産油・消費国会合 双方の協力得にくく

 22日の産油国・消費国緊急閣僚会合でサウジアラビアは主催国として影響力を試された。自ら増産を表明することで、ほかの産油国に協調を促す一方、消費国に投機マネーの規制を要請。世界最大の産油国として、原油高騰に歯止めをかける意思を示したが、産消双方から具体的な協力は得にくかったもようだ。

 「(原油高騰の流れを変える)歴史的な会合になるかもしれない」ーー。石油輸出国機構(OPEC)首脳は今回の緊急会合にかけるサウジアラビアの意思をこう評価していた。これまでも国際エネルギー機関(IEA)などが音頭を取る産消対話は定例化しており、今年4月にも開催したばかり。今回は産油国のリーダーであるサウジが自国で主催したという意味で異例の会合だ。
 ブラウン英首相をはじめ首脳クラスも参加。4月の産消対話に不参加だったボドマン米エネルギー長官も参加者に名前を連ねた。石油需要が膨らむ中国は「ポスト胡錦濤」の有力候補の一人、習近平国家副主席を派遣。主要な消費国の要人が顔をそろえた背景には、原油高の鎮静に向けたサウジの意気込みがあった。
 ただ、サウジが確約している目先の増産規模は日量50万バレル。世界の原油生産(同8700万バレル)に与える影響は限られる。将来は生産能力を1.5倍に拡大すると表明したものの、実際に増産するかどうかまでは踏み込んでいない。他の産油国との足並みに乱れがみられる一方、資材や人件費の高騰で生産規模の増強は難しいという見方もある。
 会合であいさつしたサウジのアブドラ国王は「投機マネーが(原油高の)一因」と指摘。消費国も市場の透明性向上などを受け入れたが、原油高の原因について「需給」を強調する米国などとの溝は依然として埋まっていない。今週もなお原油高が続けば、サウジは主催国として信認を問われかねないリスクを取った。

日本経済新聞 2008/6/24

サウジ増産 5油田の能力増強 海上鉱区など「着手後3年内に生産」


 サウジアラビアが原油生産能力を日量1500万バレルに引き上げるための対象油田が判明した。ヌアイミ石油鉱物資源相は22日の産油国・消費国緊急閣僚会合で、ペルシャ湾北部の海上油田など5油田を開発候補としていることを初めて明らかにした。ガソリンなどへの精製に特別な装置が必要な重質油の本格増産を含んでいる。
 明らかになったのはズルフ、サファニヤなどの5油田で、既存油田の増強が大半。能力増強分の合計は同245万バレル。ヌアイミ氏は具体的な開発日程は明らかにしなかったが「開発に着手すれば3年以内に生産を開始できる」としている。
 サウジには80カ所以上の油田があるとされる。現在同1100万バレルの生産能力を2009年に1250万バレルに引き上げる計画が進行中で、東部のクルサニヤなどの油田開発が大詰めを迎えている。
 5油田のうち、海上鉱区のサファニヤとズルフの2油田で計画の半分以上となる160万バレルを占める。
 同油田で産出する原油は処理が難しい重質油で、専用の精製設備が必要。
 クライスとシャイバの2油田は1250万バレルを目標とする現行の増産計画にも含まれており、さらに増強を続けるものとみられる。



Jun 24, 2008 Bloomberg news

Saudis unveil plan to raise capacity
Biggest oil exporter to boost production to 12.5 million barrels a day by the end of 2009

Saudi Arabia will start production at its delayed Khursaniyah oil field in August and expects to complete the 1.2-million-barrel-a- day Khurais oil field by June next year, an official at state-run oil company Saudi Aramco said.

The Khursaniyah field will start adding 500,000 barrels a day of oil to the kingdom's total capacity, Amin Nasser, senior vice-president of exploration and production at Saudi Aramco, said yesterday. Khursaniyah was originally scheduled to start last December.

Saudi Arabia, like other Persian Gulf oil producers, is implementing large-scale energy projects to boost crude oil and refining to meet rising demand. Projects in the Middle East face delays because of higher raw material and labour costs.

"There is no denying that companies are all facing challenges in implementing oil projects," Mohammed Rabeh, manager of Khurais Projects Department, said at a briefing at the Khurais facility northeast of Riyadh. Aramco uses as many as 26 contracting companies to develop the field, he said.

The Khurais project, which will bring on stream more oil than the annual production of OPEC nations Qatar or Indonesia, has a reserve of 27 billion barrels. It is part of Saudi Arabia's plan to expand total production capacity to 12.5 million barrels a day by the end of 2009. Khurais began producing in the 1960s and was mothballed by Aramco in the early 1990s, Nasser said. It is a satellite of the Ghawar field, the world's biggest.

Saudi Arabia, the world's biggest oil exporter, plans to raise production for a third straight month in July and make further increases as needed to curb record prices. The kingdom will raise daily crude output by 200,000 barrels to 9.7 million barrels next month, Oil Minister Ali Naimi told officials from 35 producing and consuming countries at a summit Sunday in the Red Sea port city of Jeddah.

Other members of the Organization of Petroleum Exporting Countries aren't planning similar increases, and most of them are already pumping as much as they can.

Further capacity additions in Saudi Arabia at the end of this year include 250,000 barrels a day from the Shaybah field in the "Empty Quarter" desert and 100,000 barrels a day from the Nuayyim field.

Another project, Manifa, will add 900,000 barrels a day of heavy crude from onshore and offshore fields in the Persian Gulf from mid-2011. The Manifa field, which was shut in 1985 because the crude quality was deemed to be too heavy, will be expanded by building drilling rigs on more than 20 man-made islands, linked to the Saudi mainland by a causeway.

Naimi spoke of potential capacity additions at five projects; Zuluf, Safaniyah, Berri, Khurais and Shaybah, that collectively could add about 2.5 million barrels a day to Saudi capacity to boost it to 15 million barrels a day, if needed.

The country has the world's largest proved reserves of oil, 264 billion barrels, according to BP PLC's Statistical Review of World Energy.

Aramco plans to raise its overall resource base - a broader measure of reserves that may or may not be accessible - to 900 billion barrels over the next 20 years, from 735 billion barrels now, Aramco research manager Muhammad Saggaf said at the briefing. The company will try to raise its oil-recovery rate to 70 per cent over the same period, from about 50 per cent now, he said.

Oil futures rose yesterday despite the Saudi pledge to raise output. Crude settled at $136.74 (U.S.) a barrel, up $1.38, on the New York Mercantile Exchange. London Brent crude rose 99 cents to $136.24 a barrel.

Nigeria's senior oil workers union began a limited strike at Chevron yesterday, adding to concerns about supplies from the OPEC nation after attacks shut 340,000 barrels of daily production last week.

The European Union approved new sanctions on Iran, including an asset freeze on its biggest bank, over its refusal to end its nuclear program.


クウェート増産

2008/6/24 石油相が言明

 来年半ばまでに30万バレル増産

 2020年までに1.5倍の400万バレルに
 (現在の生産量は 260万バレル)