石油化学新報 2002/10/4 

中国のPVC、旧来のカーバイド製法復活〜原油高で相対競争力向上
 生産比率50%以上に/価格下落招き大手メーカーの収益圧迫

 中国のPVC(塩ビ樹脂)産業で今年に入って、旧来のカーバイドを基礎原料とする製法が急激に復活している。中国のPVC生産量に占めるカーバイド製法の比率は2001年(生産実績290万トン)が44%程度だったのに対し、2002年(同見込み320万トン)は50%以上に高まる勢い。昨今の原油価格高騰に伴い、エチレンやEDC(二塩化エチレン)を原料とする製法に比べ、カーバイド法が相対的に競争力を持ったことが背景にある。中国の大手PVCメーカーは収益悪化の元凶として輸入品を挙げ、今年3月に日本など5カ国製のPVCを対象にアンチダンピング(不当廉売)調査を中国政府に申請したが、実際は国内の小規模カーバイド法メーカーが価格下落を招き、大手の収益を圧迫しているようだ。

■中国60社中40社がカーバイド法
 PVCの原料VCM(塩ビモノマー)の製法は、カーバイドから得られるアセチレンと塩化水素を原料とするカーバイド法と、エチレンおよぴEDCを主原料とするオキシクロリネーション法に大別される。エチレン設備に連動した年産10万トン以上のメーカーだけが存在する米国や日本、韓国、台湾などにおいては、オキシクロリネーション法によるVCMを原料にPVCがほぼ全量生産されている。
 これに対して中国では、内陸部を中心に年産1万トンにも満たない小規模メーカーが多数存在し、そのほとんどが資源として豊富な石灰石べ一スのカーバイドを基礎原料に使用しているため、カーバイド法によるPVC生産比率が依然として高い。
 中国における昨年時点のPVCメーカー約60社のうち、オキシクロリネーション法メーカーは4〜5社(生産実績約60万トン)、輸入EDCを主原料とするメーカーは4社(同約30万トン)、輸入VCMに依存するメーカーは14社(同約70万トン)に過ぎず、残りの約40社(同約130万トン)によるカーバイド法の生産比率は44%にのぼった。
 カーバイド法によるPVCは
 @旧式で小規模な設備で生産されるために品質が劣る
 A原料塩素を生産する食塩電解設備も小規模で電力コストが高い
 Bカーバイドからアセチレンを得る過程で消石灰などの残渣が産業廃棄物として発生すること
などが問題となっていた。
 こうしたなか中国では今後、輸入EDCまたはVCMを原料とするPVC設備の新増設が相次ぎ計画されているほか、2006年以降にはナフサ分解によるエチレン設備に連動したPVC設備の新設も予定されていることから、カーバイド法PVCメーカーは中長期的に淘汰される方向にあるとみられているが、今年に入ってカーバイド法設備の稼働率が急激に上昇している。
 これには99年春以降の原油高を背景にエチレン価格が高止まりしているうえ、昨年以降の世界的な塩素不足を背景にEDCの国際価格も高騰しているため、安価な原料が中国国内で確保できるカーバイド法が相対的に競争力を持ったことが背景にある。また内陸部の人件費が安いことや、雇用対策として電気料金が引き下げられたこと、環境問題となっていた残渣処理について煉瓦やアスファルト材としてのリサイクル技術が確立されたことも追い風になったとの見方もある。
 こうした安価なカーバイド法の台頭に伴い、中国国内のPVC価格は今年に入って、低水準で推移している。現在、カーバイド法のPVCは1トン当たり5,000人民元で利益が出るといわれているが、実際の価格は5,400人民元前後。対するオキシクロリネーション法PVC価格は5,600人民元前後で割高にもかかわらず、多くのメーカーは一昨年以降、原料価格高騰と製品転嫁値上げの遅れで赤字を余儀なくされている模様。品質の問題で全ての用途が競合するわけではないが、カーバイド法の復活がオキシクロリネーション法PVC価格の値下げ圧力になっているのは間違いない。

■ダンピング問題で日本側主張へ
 中国の上海クロルアルカリ化工、槍州化工、錦化化工、北京第二化工、天津大沽化工の大手メーカー5社は収益悪化の元凶として輸入品を挙げ、今年3月に中国政府(対外貿易経済合作部)にアンチダンピング調査を申請し、政府は3月末に日本、台湾、韓国、ロシア、米国製のPVCを対象に調査開始を公示した。約1年の調査期間を経て来年初頭にもダンピング有無の仮決定を発表し、さらに半年以内に最終決定を下す予定。
 ただ現状をみる限り、日本から中国への10月積みPVC輸出価格は今年最高値を付けた5月に比べてトン130ドル安の560ドルで決着したが、これは1ドル=8.3人民元で換算して増値税(付加価値税、VAT)率17%と輸入関税率12.8%を加味すると6,100人民元程度に相当し、中国製の価格を大幅に上回っている。日本のPVCメーカーは必ずしもダンピングしているとはいえないことになる。
 日本のPVCメーカーは経済産業省化学課とともに、年内にも中国のアンチダンピング調査当局を訪問する予定。日本製のPVC価格が中国製より高い事実に加え、日本から中国へのPVC輸出の多くは保税区に仕向けられ、そこで最終製品に加工され米国などに再輸出されている事実などを説明し、日本からのPVC輸出が中国産業に損害を与えていない点を主張するとみられる。
 中国はアジア最大のPVC需要国で年率10%以上で需要拡大が続いているが、需要(2001年約550万トン)のうち半分弱(同約250万トン)を輸入、しかもっ祖の8割を今回の調査対象国から輸入しているのが実状。中国側が今後「クロ(ダンピング被害あり)」と決定した場合、中国のPVC加工企業が原料調達ソースを失い、かえって、利益を損なう可能性があると指摘されている。

 


石油化学新聞 2003/3/10

中国、塩ビ加工業が急成長 建築用プラ製品 2010年400万トンに

 中国で塩ビ管、塩ビ窓枠を中心とする土木・建築向けプラスチック加工産業が著しい伸びを見せている。中国では開放政策に伴ってあらゆる産業で高成長が続いており、幅広い産業分野で部品や資材として不可欠なプラスチック加工製品の需要も急増している。なかでも、2008年の北京オリンピックの開催に向けて、急ピッチでインフラ整備が進んでいることから、関連するプラ加工製品業界が急速に拡大しているもの。また、プラ建材は、省エネや木材資源保護など環境面からも国家施策として普及拡大が図られ、さらに勢いを増している。このため、2010年には、中国のプラ建材の生産量は、すべてのプラ製品生産量の約16%、400万トンに達すると予想されている。
 日本プラスチックエ業連盟が入手した中国塑料加工工業協会の資料によると、中国のプラスチック製品の実生産量は98年に1500万トンを超え、2000年には2200万トンに達しており、世界2位の生産量となっている。製品輸出だけでなく経済成長で内需も拡大、プラ製品の出荷は05年で2500万トン、15年には5000万トンまで拡大すると予想されている。
 塩ビ管をはじめとするプラスチックパイプは、上下水道をはじめ、工業、農業用水などの整備に不可欠だが、中国のプラパイプ産業は94年には生産能力24万トン、生産量15万トンに過ぎなかった。しかし、2000年には能力164万トンまで拡大、2000を超える製造ラインで100万トン(半分は塩ビ樹脂パイプ)を超える生産が行われた。同協会によると、2000年の時点で、中国には20社を超えるメーカーが年産1万トン以上の規模の生産設備を持ち、年間5万トンの大口径ダブルウォールコルゲートパイプを生産し、ドイツ製の最新鋭装置による10ラインで口径800mmまでのパイプを生産しているところもある。さらに8万トン、10万トンを超える規模の工場も建設されつつあり、各地で超大口径(1000−2600mm)のパイプの開発を行う新鋭装置を構入するメーカーも出てきたという。
 現在では、生産能力は170万トン〜180万トン、生産は120万トンを超えたと推定されている。また、用途に応じた各種のパイプが製造されるようになってきている。
 この背景にあるのが、省エネ・森林保護、生活環境改善、建設の機能と質、作業軽減を目的とする国家施策としての「化学建設資材」の普及拡大がある。94年から国家化学建設資材調整指導部会が、化学建設資材の促進、応用のための諸規制などを定め、プラスチックパイプ、門扉、窓枠などの市場が急激に拡大しているもの。とくに、省エネ、耐久性、保温性、耐燃焼性の観点から塩ビ建材はベストの木材代替品だと評価されており、同産業は急激な伸びとなると見られている。このため、同協会は、市場拡大と発展のための情報を提供することを目的に、近くプラパイプメーカーの総合的な調査を実施する計画である。