日本経済新聞スクープ 2000/10/26

日本経済新聞解説

発表会見

大連合の衝撃


日本経済新聞 2000/10/26

住友化学・三井化学が統合 来秋にも持ち株会社  
売上高1兆8000億円、国内首位 巨大外資に対抗  

 化学業界2位の住友化学工業と、3位の三井化学が経営統合に向けて最終調整に入ったことが25日、明らかになった。早ければ2001年秋にも折半出資で持ち株会社を設立、経営統合することで詰めている。「住化-三井化」連合は、国内では連結売上高で三菱化学を抜く1位となり、世界でも6位の化学会社となる。世界の化学業界で大規模な企業の合併・買収(M&A)が起きており、両社は経営統合で巨大外資に対抗する。金融界では住友銀行とさくら銀行が2001年4月に合併するなど住友、三井グループが接近しており、産業界でも旧財閥グループの枠を超えた大型再編が加速するのは必至だ。  
 住友化学の米倉弘昌社長と、三井化学の中西宏幸社長が、経営統合に向けた詰めの作業に入ることで合意した。11月にも統合方針を役員会で決定する見通しだ。  
 共同で持ち株会社を設立後、両社が傘下に入り、石油化学など事業ごとに順次統合していく案を軸に詰めている。ただ、石化事業の中核である汎用合成樹脂のポリエチレンとポリプロピレン事業については、収益が低迷しているため、経営統合より前倒しして統合する可能性もある。経営統合が完了すれば、連結売上高で1兆8千億円の巨大化学会社が誕生する。  
 「住化-三井化」連合は、基礎原料のエチレンの年間生産能力が約173万トンと、首位で155万トンの三菱化学を上回る。主に自動車部品などに使うポリプロピレンと、主に家庭雑貨などに使うポリエチレンでもそれぞれ同1百万トン弱と、国内首位となる。  
 ポリプロピレンの国内シェアは31.6%に達するため、公正取引委員会の審査が必要だが、97年に合併した三井化学のフェノール事業のシェアが約40%だったため、クリアできると見ている。  
 住友化学と三井化学は共に石油化学事業を主力としているが、石油化学以外にも住友化学は農薬、医薬事業に強みを持つ。三井化学は情報電子材料など機能化学品の増強を進めており、石油化学事業の強化とともに、その他の事業でも補完関係を築けると判断した。統合により、成長分野へ人材や資金を集中させる。

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世界の主要な化学会社 (連結売上高、単位:億円)

@デュポン(米)    29,340
ABASF(独)   27,115
Bダウ・ケミカル(米)   27,030
Cバイエル(独)    25,116
Dアトフィナ(仏)    19,077
E住友化学工業+三井化学   18,345
Fエクソンモービルケミカル   17,376
G三菱化学   16,699
Hアクゾノーベル(蘭)    15,730
Iデグサ(独)    15,260

(注)99年暦年、日本企業は2000年3月期、ダウ・ケミカルは合併予定の米ユニオン・カーバイドの売上高を含む
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系列超え国際競争力強化 アジアで巻き返し 化学業界の再編加速  

 世界の企業がグローバル競争を加速させるなか、日本企業も競争力の維持、強化のため系列を超えた再編に突き進み始めた。住友化学工業と三井化学が経営統合で最終調整に入ったのも、再編で巨大化した世界の化学会社が規模のメリットを生かして攻勢をかけ始めていることへの危機感が根底にある。日本では金融危機を乗り切ろうと銀行、保険など金融業界で合従連衡が進みつつあるが、旧来の垣根にとらわれない大型再編の動きは一般産業界にも広がってきた。  
 「住化1三井化」の組み合わせば、両社が千葉県内に隣接する石化コンビナートを持ち、石化事業で協力関係を築きやすい環境にあることが決め手となった。両社は千葉のそれぞれの石化コンビナートを事実上、一体運営する。住友化学が21世紀初頭以降の成長の原動力として計画しているシンガポール石化コンビートの増強プロジェクトも、統合後の新体制で取り組む。大型外資に対抗できる体制を整えるとともに、世界の化学会社が成長市場として狙っているアジアでの橋頭保を築く。  

欧米勢が連合  
 両社は96年に特殊ポリエチレン事業で生産統合会社を設立したのを皮切りに、97年には汎用樹脂のポリスチレンで、99年には自動車や家電向けのABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂で事業統合しており、石化メーカーでは最も緊密な提携関係を構築してきた。  
 欧米ではダウとユニオンカーバイドや米エクソンとモービル、英BPと米アモコの合併など、石油化学事業で強者連合を組む動きが加速している。しかも、エクソンモービルがシンガポールで年産80万トンのエチレン設備を年内に稼働させるなど、アジア市場での攻勢が目立ってきた。  
 2004年の化学品の関税率引き下げにより、国内の石化メーカーは業界全体で「最大1千億円の減益要因を抱える」(百嶋徹ニッセイ基礎研究所主任研究員)との試算もある。外資との競争激化や関税引き下げのコストアップを吸収するには、大胆な事業の再構築が迫られていた。  
 住友化学は2000年3月期末の有価証券含み益が2500億円に達し、化学メーカーで屈指の財務内容を誇る。三井化学も連結ベースの売上高営業利益率で三菱化学を上回っており、統合後も高い収益力を維持できる見通しだ。  
 具体的な協力分野では、まず関税率引き下げの影響が最も大きく、石化事業の核であるポリプロピレンとポリエチレンについて、事業統合したうえで、2−3年後をメドに古い設備の廃棄と新型設備の導入を同時に実施する方向。すでに対象となる工場の候補地選定に動いている。  

医薬など買収へ  
 住友化学が英蘭系シェルと共同で運営しているシンガポールの石化コンビナートを三井化学を加えた新体制で有効活用する構想もある。住友化学はシンガポールに年産100万トン級のエチレンプラントをつくる構想を持っていたが、1千億円規模の投資が必要なため社内には慎重な意見もあった。三井化学が加わることで、資金余力が生まれるほか、エチレンの用途であるポリエチレンの現地生産拡大を軌道に乗せやすくなる。  
 統合で汎用品を中心とした化成品で外資の本格参入に備えたうえで、特殊化学品や医薬・農薬などのファインケミカル分野では積極的な買収などで業容を拡大する。三井化学は住友化学が手掛けていない高機能樹脂原料のフェノールなどの生産を強化。住友化学は三井化学が手薄な農薬や医薬事業でそれぞれ1千億円を超える売り上げがあるが、M&A(企業の買収・合併)戦略を加速する。

人員削減がカギ  
 統合後は人員が約2万9千人に膨らむ。相乗効果を最大限発揮するには、人員削減や重複した事業や研究開発部門の統廃合などスリム化にどこまで踏み込めるかが課題となる。  
 今回の経営統合で国内他社が生き残りをかけた再編に動き出すのは必至だ。化学メーカーとして2番手に後退する三菱化学は単独で鹿島事業所(茨城県神栖町)のエチレン増強を計画しているが、それでも「住化/三井化」連合に規模でかなわない。水島地区(岡山県倉敷市)の石化コンビナートを、隣接する旭化成工業のコンビナートと一体運営するなど、他社との協力関係の強化に動く可能性がある。  また、汎用樹脂の分野で首位の座を明け渡す日本ポリケムや日本ポリオレフィンなどが規模の拡大に向けた提携先を模索するのは確実。「住化-三井化」統合を引き金として、今後国内の化学業界で連鎖的な再編が始まる見通しだ。

住友・三井グループ メーカーに統合拡大 銀行合併が後押し  
 旧財閥など従来の枠組みを超えた金融機関、企業の合従連衡の背景には、経済の低成長時代を迎え、株式持ち合いや系列取引と言った日本的な経営スタイルに固執していては生き残れないとの意識が経営者に浸透してきたことがある。旧財閥系の企業集団が緩やかに解体している格好で、その中でも、住友と三井を軸にした旧財閥同士が手を組むケースが目立っている。  
 水面下で進んでいた住友化学と三井化学の経営統合の動きを後押ししたのは、昨年10月の住友銀行とさくら銀行の合併合意だ。両行は2001年4月に「三井住友銀行」として合併、総資産世界第2位の巨大銀行が誕生する。  
 これに刺激される形で、同じ住友、三井グループの住友海上火災保険、三井海上火災保険も今春、来年10月に合併する方針を打ち出した。三井海上は当初、日本火災海上保険、興亜火災海上保険との経営統合を表明したが、昨年10月の住友銀、さくら銀の合併方針を受けて、三損保連合から離脱、住友海上との合併に転じた経緯がある。  
 証券分野でも、住友銀が大和証券グループ本社と共同経営している大和証券SBキャピタル・マーケッツに、さくら銀の証券子会社のさくら証券を統合する方向で検討が進んでいる。  
 産業界では今年1月に三菱商事、三井物産、住友商事の3社が総務、人事、経理、情報システムなど間接部門の業務を統合することで合意した。提携の具体策第一弾として、日本と欧米、アジアを結ぶ通信回線の共同利用を始めた。通信会社への価格交渉力を高め、通信コストを25%程度削減する狙い。社内の基幹業務システムの開発、導入でも協力し、重複投資を回避する。  
 住友、三井グループ以外でも金融再編の影響が産業界に広がっている。第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行のみずほフィナンシャルグループ内での企業再編も進んでおり、19日に第一勧銀を主取引銀行とする伊藤忠商事と、冨士銀がメーンの丸紅が共同出資会社設立などの形で鉄鋼事業を統合すると発表。興銀が主力で経営破たんしたそごうの再建を第一勧銀と関係の深い西武百貨店が支援する動きもある。


Chemnet Tokyo 2000/10/26

住友化学コメント、三井化学との統合「何も決まっていない」  

 住友化学工業の広報室は26日朝、日本経済新聞が同日付朝刊で「住友化学・三井化学が統合」と伝えたことについて、次の通りコメントを発表した。 『本日、一部報道機関において、当社と三井化学株式会社との統合に関する報道がありましたが、何も決まっておりません』

三井化学もコメント「現時点では何も決まっていない」    

 三井化学広報室も26日朝、住友化学との統合の記事について、次の通りコメントを発表した。 『住友化学・三井化学が統合という一部の報道に関しまして、弊社は事業強化策等について種々検討しておりますが、現時点では何も決まっておりません。  従って、今の段階では具体的に申し上げる内容はございませんのでご了承下さい』 

 


日本経済新聞 2000/10/27

住友化学ー三井化学連合 汎用樹脂など国内首位に
 ポリプロピレン生産 共同で見直し

 経営統合に向けて最終調整に入った住友化学工業と三井化学の2社連合は、主要な化学品市場で国内最大手に浮上する。両社を合わせると基礎原料のエチレンで三菱化学を抜いて生産能力で1位になるほか、汎用合成樹脂のポリエチレン、ポリプロピレンともに年産能力で100万トン弱と、軒並み国内シェア1位に躍り出る。汎用樹脂で国際競争に勝ち残るには、1社で1品種年間100万トン規模は必要と言われ、ようやくスタート台に立つ。今後はポリプロピレンの国内生産体制見直しを進めるなど、2社で競争力強化に動く考えだ。
 ポリエチレンはスーパーのレジ袋や家庭雑貨、日用品などに使う汎用樹脂の代表品種。2社グループ合計の年産能力は94万7千トンと、国内最大の合成樹脂メーカー、日本ポリケム(三菱化学と東燃化学の事業統合会社)や2位の日本ポリオレフィン(昭和電工と日本石油化学の事業統合会社)を上回る。両社の生産拠点を活用、グレードの統合などに乗り出せば、コスト競争力は格段に増す見通し。
 自動車のバンパーなどに使うポリプロピレンでは、2社グループ合計の年産能力が93万7千トンに達し、同じく日本ポリケムの78万2千トンを上回る。シェアも3割を上回り、2位以下を引き離す。
 ポリプロピレンでは統合後の事業強化策の一環として、2社は国内生産体制を再構築する。三井化学は高石工場(大阪府高石市)に2003年をめどに100億円を投じて年産20万トンの大型設備を新設、他の工場の老朽化した小規模設備の停止を計画している。住友化学も千葉工場(千葉県市原市)内で老朽設備を止める一方、新鋭設備の能力増強を検討している。とはいえ、欧米大手との規模の差はなお大きい。海外で本格的に対抗するには「住化−三井化連合」でもなお力不足で、国内の再編劇はまだ幕を開けたばかりと言える。

 石化統合が実現なら…キャッシュフロー412億円
 住友化学工業と三井化学の石化部門のフリーキャッシュフロー(純現金収支)は2000年3月期実績で合計412億円となり、三菱化学を2割弱上回る。総合化学メーカーは石化部門のキャッシュフローを原資に医薬や電子材料などの非石化部門の強化を進めている。石油化学部門の統合が実現すれば、統合会社には企業の合併・買収(M&A)などをする余力が生まれることは確実だ。
 統合会社と三菱化学との間では財務体質の格差も鮮明となる。前期末の連結株主資本比率は三菱化学が20%に対して、住友化学と三井化学の合算値は27%。新会計基準に準じて住友化の保有する税引き後の有価証券含み益1300億円を株主資本に加算すれば、格差はさらに広がる。
 債券格付けにも影響を与えそうだ。住友化学は収益が安定した非石化部門の比重が高く、年金償却もほぼ終了したことから格付投資情報センター(R&I)からダブルAマイナスの格付けを得ている。一方、三井化学、三菱化学の格付けはともにシングルAプラス。事業統合が順調に進み、財務体質の改善が見込めれば、統合会社の格付けはダブルAマイナス以上となり、三菱化学に対して優位に立つ可能性が高い。


日経産業新聞 2000/10/27

住友化学・三井化学連合 2004年問題 背中押す  迫る期限、再編加速  

 住友化学工業と三井化学が石化事業を軸にした経営統合の提携交渉に入ったことが明らかになった。両社を提携に走らせる背景には、化学品の関税率が大幅に下がり外資の本格参入が始まる「2004年問題」がある。限られた時間の中で各社とも提携相手をたぐりよせようとしてきた中で表面化した「住化−三井化連合」。新たな枠組みが固まったことで各社のすくみ合いが解け、業界再編が一気に加速するのは確実だ。  
 住友と三井。両社の石化事業を軸にした提携交渉は一見唐突に見える。しかし、2年ほど前にも大規模な提携が実現するムードが高まった。三井化学側が住友化学に非公式に提携を打診。共同持ち株会社を設立して汎用樹脂や特殊化成品など生産品目ごとに事業統合する案を提示した。このときは「連結納税制度の導入動向などを見極める必要がある」として住友化学がいったん断った経緯がある。  

外資の攻勢必至  
 元々両社は千葉地区に主力の石油化学コンビナートを持ち、パイプラインをつないで余分な原料を相互融通するなど生産体制で協力関係を築いてきた。石化の個別事業でも三井化学が合併した1997年以前から旧三井石油化学と住友化学がメタロセン触媒を使ったポリエチレン事業で生産統合会社を設立したり、旧三井東圧化学が住友化学と汎用樹脂のポリスチレン事業で共同出資会社を設立するなどしている。系列を超えた両社の融合は着実に進んできた。  
 ここにきて両社が石化事業の再編・統合に改めて前向きになり始めたのは、2004年までにポリエチレンやポリプロピレンと言った汎用樹脂の関税率が段階的に下がる問題が直前に迫ってきた影響が大きい。関税率引き下げに伴い生産規模で勝る外資が日本市場に本格参入する公算が高い。割安な輸入品との価格競争が激化し、「業界全体で最大1千億円の収益圧迫要因を抱える」(百嶋徹・ニッセイ基礎研究所主任研究員)との試算もある。  
 石化メーカー各社が検討しているのが、競争力のあるプラントの新設で生産性を高め、コストアップ要因を吸収する戦略だが、新鋭設備の建設には百億円単位の資金が必要。投資効率を高めるために、事業統合を探る動きが水面下で活発だ。  
 住友化学と三井化学も2004年を控え、ポリプロピレンのスクラップ・アンド・ビルド計画を内々に進めている。住化は千葉工場(千葉県市原市)にある年産20万トンのプラントを同4−8万トン増強する方向。三井化は百億円をかけ、高石工場(大阪府高石市)で年産20万トンクラスの大型設備の導入を検討中。石化事業を統合すれば石化製品の生産・物流・販売面での効率が一段と高まる。  

どう出る三菱  
 「これでようやく提携先を絞りこむことができる」ーー。「住化−三井化連合」の枠組みを確信したある石化メーカーの幹部はこう語る。同社は2004年問題に対応するため、子会社の合成樹脂メーカーを他社と合併させようと複数の石化会社を奔走した。しかし、反応は鈍かった。  
 「千葉地区で最も密接な関係にある住友、三井が本当に手を結ぶのかどうか見極めたいとの声が多かった」と言う。しかし、今回の連合で号砲が打ち上がり、他社が生き残りをかけた提携交渉を本格化させるのは間違いない。  
 最も注目されるのが最大手の座を奪われる三菱化学の動向だ。同社は石化製品の基礎原料であるエチレンで年産155万トンのプラントを持つが、「住化−三井化連合」が実現すれば生産能力は173万トンに達し大きく水をあけられる。取りざたされているのが水島地区(岡山県倉敷市)にある石化コンビナートの強化策。同地区には旭化成工業のコンビナートが隣接しており、両社による一体運営の観測が絶えない。  

提携強化の動き  
 ただ、旭化成側は今のところ慎重な姿勢。これが実現しない場合は、三菱化学の子会社が数多く参画している神奈川県川崎地区の東燃化学・日本石油化学のコンビナートを取り込む動きに乗り出す可能性もある。実際、三菱化学の幹部は「うちも色々なところに梯子をかけているつもりだ」と提携強化の動きを否定しない。  
 三菱化学は子会社に有力な汎用樹脂メーカーを多数抱える。東燃化学との共同出資会社でポリエチレンやポリプロピレンを生産する国内最大の合成樹脂メーカー、日本ポリケム(東京・千代田、牧野新社長)もその1つ。「住化−三井化連合」はポリプロピレンの生産能力が年産94万トン。一方のポリケムは年産78万トン で、差が開くため、てこ入れ策を模索すると見られている。  

2004年問題と外資の攻勢
 関税で保護されていた石化業界が本格的な国際競争にさらされるまでタムリミットはあと数年しかない。「住化−三井化連合」を契機に、国内石化メーカーの再編交渉は時間との戦いの色彩が一段と濃くなる。 石化の2004年問題 ウルグアイ.ラウンド合意で、石油化学製品の日本の輸入関税が最終年度の2004年までに段階的に引き下げられること。主力合成樹脂のポリエチレンとポリプロピレンの下げ幅が大きく、2004年には欧米と同水準の6.5%まで下がる。1999年平均のアジア市況と円レートで比較すると、2004年時点では99年に比べてポリエチレンで1キロ当たり約10円、ポリプロピレンで約14円の引き下げとなるとの試算がある。国産品の1−2割は輸入品に切り替わるとの見方もあり、国内の過剰設備問題を抱える石油化学会社には死活問題となっている。


日本経済新聞 2000/11/18

住化・三井化学 統合発表会見
汎用樹脂統合前倒し 住友化学・三井化学 医農薬でM&A戦略  

 2003年10月の経営統合を決めた住友化学工業と三井化学は17日午後、都内で記者会見し、主力の汎 用樹脂事業は統合を前倒しし、2001年10月までに共同出資会社を設け両社の設備や営業部門を移管することを明らかにした。統合後は2005年をめどにシンガポールに1千億円以上を投じて石油化学プラントを増強、外資系化学会社との国内外での本格競争に備える。医農薬などでも企業の合併・買収(M&A)を進め一段の拡張戦略をとる。  
 両社は近く事業統合委員会を設立して持ち株会社の形態などを詰める。持ち株会社への出資比率は統合時の株価などを考慮して決める。共同持ち株会社の傘下に事業別の統合子会社を置く方式をとるが、将来は合併により単一会社にすることも検討する。  
 持ち株会社の設立時までに汎用樹脂(ポリオレフィン)事業をはじめ、重複する事業やグループ会社を順次、統合・再編して経営効率を高める。研究開発拠点や工場集約にも取り組むが合理化に伴う余剰人員は配置転換などで吸収する。  
 国内では両社はともに千葉・市原に大型の石油化学コンビナートを持っており、共同運営などで設備の効率化に取り組む。海外では住友化学のシンガポールにある石化コンビナートの増強する。

巨大外資に対抗 石化の強化急ぐ  アジアに大型拠点 拡張戦略を推進  
 住友化学工業と三井化学が経営統合を正式に決めた。まず、2001年10月に石化事業の主力の汎用樹脂(ポリオレフィン)事業を統合し、2003年10月に共同持ち株会社方式で経営全体を統合する「二段階方式」となる。外資の攻勢にさらされる石化事業を国内で真り先にチコ入れしながら、需要の見込めるアジアで大型拠点を築く。また、統合で潤沢になる資金力を背景に医薬、農薬、特殊化学品など成長分野の強化を急ぐ。  
 経営統合について、両社長は「欧米化学会社は合併で競争力を強化し、アジアで積極投資を次々行っている」(米倉弘昌・住友化学社長)、「我が社は汎用樹脂の海外展開が遅れた。世界大手と戦うにも競争力不足」(中西宏幸・三井化学社長)と、いずれも規模拡大による競争力強化が狙い、と口をそろえた。  
 経営統合に先行して汎用樹脂事業を統合するのは、原油高による原料価格高騰で収益が悪化しているうえ、2004年に輸入関税が下がり、外資の攻勢が目前に迫っているためだ。両社は日用品などに使うポリエチレンと、自動車部品などに使うポリプロピレンをそれぞれ分離し、2001年10月に折半出資の新会社に統合する。ただ、三井化学はポリプロピレン事業を、宇部興産との事業統合会社グランドポリマーで手掛けており、統合には今後、宇部興産との協議が必要となる。  
 両社とも国内の汎用樹脂事業では老朽設備を廃棄し、共同で大型設備を建設するなど生産体制の見直しを進める。アジアでは住化が石化基地を持つシンガポールで英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなどと共同で2005年をめどに年産100万トン規模のエチレン設備を建設するほか、年産20万−30万トンのポリエチレン設備の建設を進める見通し。  
 統合を二段階に分けたのは、3年間かけて互いに残る課題を整理し体質を強化する目的。「2003年10月にすぐ統合効果が表れるように、経営・情報システムや人事制度を前もって統一しておく」(中西社長)。2003年に向け、相乗効果が見込める分野から順次統合していくという。  
 住化の米倉社長は「シンガポールの石化基地の増強で、年2千億円は稼げる」と見る。また住化が強い医薬、農薬事業では「世界的に積極的に企業買収を進めたい」と語り、2007年3月期で3兆円の連結売上高を目指す。

社長一問一答  中西氏短期間で効果/米倉氏世界の5指に  

 米倉弘昌・住友化学社長と中西宏幸.三井化学社長が17日開いた会見での一問一答は次の通り。

ー 経営統合の進め方は。
米倉氏「2003年10月が遅いという意見もあるかもしれないが、一つのメドだ。企業の経営統合や合併には用意周到な準備が必要。ただ、早くできるなら早いに越したことはない」

ー 統合会社のイメージは。みずほフィナンシャルグループのような形か。
米倉氏「そのようなスタイルはほとんど頭の中に浮かんでいない」
中西氏「今の両社が統合会社にそのままぶら下がっては統合の意味がない。どの事業をどのように組み合わせるのかを事前に検討し、2003年10月の経営統合から、ごく短期間で統合効果を出す」

ー 将来は合併を目指すのか。
米倉氏「最終的に合併して単一会社で運営するのが一番よい姿だと、中西社長と意見が一致した。ただ、いろんな事業分野を順次統合して行くには持ち株会社方式がやりやすい」

ー 統合で人員削減を進めるのか。
中西氏「できるだけ雇用を確保する。事業の整理を進めながら新しい事業を拡大する。統合の目的は人員削減ではない」

ー どのような化学会社を目指すのか。
米倉氏「基礎化学品と機能化学品でバランスのとれた会社にする。化学会社の成長力の原動力は技術開発力で、基礎化学品と機能化学品の技術開発のシナジー効果は大きい。どちらかに特化することはない。基礎化学品でキャッシュフローを稼ぎ、機能化学品は高い収益を生む」
中西氏「社名は未定だが、三井と住友の名前は世界的に通っており、残していきたい」

ー メーンバンクから統合へ助言はあったか。
米倉氏「一切ない。経営統合を機関決定した後に連絡しただけだ」

ー 世界何位を目指すのか。
米倉氏「新しい統合会社は3兆円を目指しているが、デュポンなども成長するだろう。五指に入れば存在感のある化学会社となる」

 

大胆な再構築軟迎 平沼赴夫通産相  
 国内の化学業界を取り巻く環境は、欧米の石油化学企業の巨大再編の展開などで急激に変化している。日本の化学工業が国際競争力を維持するには大胆な事業の再構築が喫緊の課題になっており、両社が思い切った事業の統合・再構築を決断したことを歓迎する。

 


日本経済新聞 2000/11/18-19,21

大連合の衝撃   三井の悲願結実 危機感、財閥の枠崩す  

 日本最大の化学会社誕生の背景には、毎年のように提携強化の秋波を送り続けた三井化学の執念と、本格的な国際競争時代に突入する石化事業の将来を見据えた住友化学の決断がある。歴代経営陣の危機感と意識の変化ー−。産業界で初めて財閥の枠組みを乗り越えた巨大統合が、ついに実現する。  

住友は一度拒否  
 1998年の秋。住友化学の香西昭夫社長(現会長)は、三井化学のある幹部からこう持ちかけられた。「もっと協力関係を強化しませんか」  
 両社の石化事業を、特殊化学品の事業会社と汎用石化製品中心の事業会社に分離・統合したうえで、共同持ち株会社の傘下に置く。汎用石化品は三井化学主導で運営し、特殊化学品は住友化学が経営権を握る、という構想だ。  
 「うちはファイン(特殊化学品)だけでも単独でやっていける」。香西氏はこの時、申し入れをあっさりとけ飛ばした。当時は連結納税制度の議論が緒についたばかり。持ち株会社の効果が不透明なうえ、97年に合併で三井化学が誕生してから日が浅く、三井側の合併効果も見極めにくい状況にあった。  旧三井石油化学と旧三井東圧化学が合併した三井化学に、住友化学は売上高こそ一時抜かれたとはいえ、堅実経営で知られ収益水準は業界トップクラス。住友のプライドの壁を前に三井側は一度は引き下がるしかなかった。  
 しかし、三井化学は簡単にはあきらめない。「住友ー三井大連合」は三井化学の竹林省吾相談役が旧三井石化の経営に携わっていたころからの悲願と言われる。竹林氏は会長だった96年11月、住友化学との次世代ポリエチレンの共同生産を決定。両社の事業協力の基礎をつくった。  
 99年初めにも両社が急接近する場面があった。三井化学の幸田重教社長(現会長)が住友化学に、子会社である三井製薬の売却話を持ちかけたのだ。結局、三井製薬の売却先は独シェーリング社に変わったが、ある三井化学の幹部は「売却話を真っ先に住友化学に打診する経営陣の姿を見て、社内では住友に対する親近感が一段と強まった」と振り返る。    

金融提携も機に  
 99年秋には両社のメーンバンクである住友銀行とさくら銀行が合併で合意。さらに海外では同年夏、米ダウ・ケミカルが米ユニオン・カーバイドの買収を表明。世界最大の合成樹脂メーカー、オランダの旧モンテルが日本にも営業拠点を立ち上げるなど、巨大外資の対日攻勢も急速に高まる。「規模のメリットを追求しないとじり貧になる」。  
 住友化学の幹部は危機感を強め始める。
 「巨大化する外資への対抗策を協議しましょう」。今年春には、住友化学の香西会長と米倉弘昌社長、三井化学の幸田会長と中西宏幸社長が数回にわたり4人で会食し、経営統合の構想を語り始めた。  
 機は熟した。対等な立場で経営を統合し、発表時期は連結決算の役員会を開く11月中旬をメドにするーー。6月には両社長が経営統合で大筋合意。事務レベルでの協議に入った。
 「私の目の黒いうちにさらなる再編を実現してもらいたい」と常々語っていた三井化学の竹林相談役。「日本にも強力な化学会社を」という悲願は、急速に高まる化学業界の国際化に刺激された住友化学の決断を促し、世界第5位という企業の誕生として結実しようとしている。  

開発費、世界と互角に 財務体質強化が課題  
 「これで企業買収ができなくなったわけではない」ーー。住友化学工業の幹部はこうつぶやいた。
 2000年3月に独BASFは米国企業の農薬部門を38億ドルで買収、推計30億ドルを提示していた住友化学が敗れた時のことだ。営業キャッシュフロー(現金収支)がBASFの3分の1と資金力に劣った住友化学は米国で農薬事業を大規模に展開するチャンスを逃した。  

重複を解消  
 住友化学と三井化学の統合新会社の目標は2007年3月期に連結売上高3兆円、営業利益3千億円。この目標を達成すれば営業キャッシュフローはおよそ5千億円となり、現時点でトップの米デュポンに肩を並べる水準となる。規模の拡大は巨額の資金を要する医薬品、バイオなど研究開発分野への思い切った投資を可能とする。デュポン、独バイエルなど世界の化学大手の研究開発費は14億ドルから23億ドルと三菱化学や住友化学などに比べて2倍から4倍。現状の利益水準で欧米大手並みに研究開発費を投じれば赤字に陥るだけに、巨大化は不可欠となっている。  
 石油化学分野を中心とした研究開発のシナジー効果も大きい。東京湾岸には両社の工場だけではなく研究所まで仲良く並ぶ。樹脂開発センターなどは素人どころか「玄人が見ても全く同じ施設」(三井化学の幸田重教会長)。重複する分野が少ないと言われるファイン(特殊化学品)部門も「接着剤、有機薬品など研究開発のシナジー効果が表れる事業は少なくない」(みずほ証券の横尾尚昭アナリスト)という。  

格付けの差歴然  
 経営統合で規模は文句無しに膨らむが、資本効率の向上や財務体質改善など中身が課題となる。住友化学は年金債務の処理を終了するなど財務体質が良好なイメージがあるものの、9月中間期の連結株主資本比率は有価証券評価益1231億円を株主資本に算入し、やっと30%に達したばかり。三井化学も旧三井石化と旧三井東圧化学合併の際に評価替えなどで土地の簿価が膨らみ、総資産回転率(売上高を総資産で割った比率)は0.7回と化学会社の中でも下位に属する。  
 こうした実情から有利子負債残高に対する営業キャッシュフローの割合は両社とも10%台前半にとどまり、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の債券格付けはトリプルB格と、ダブルA格のバイエルやBASFに比べて差は歴然としている。経営統合が実現してもシナジー効果による財務体質改善が見込めなければ格上げはおぼつかない。  
 合併比率が未定なだけに両社に対する株式市場での評価も統合に影響を与えそうだ。11月17日時点の時価総額は住友化学が8200億円に対して、三井化学がほぼ半分の4300億円。  

合理化一段と  
 一方、2001年3月期の予想連結PER(株価収益率)は住友化学が約27倍、三井化学が約19倍と格差が大きい。住友化学株は17日に統合の正式発表に関する情報が流れた午後1時過ぎから一時、前日比15円安まで急落した。市場は三井化学に比べて住友化学の株価か割高と読んだともいえる。  
 欧米化学大手のさらなる合併や、アジアで続々と立ち上がる石油化学コンビナートからの供給圧力など事業環境の厳しさが増すのは確実だ。2003年10月の統合の効果を最大限発揮するためにも、従来の選択と集中、合理化路線を一段と進めなければならない。             -----------------------------

            内外の主要化学メーカーの財務指標                    

    売上高
(百万ドル)
  営業現
金収支
(百万ドル)
  研究
開発費
(百万ドル)
  株主資本   長期債
格付け
比率
(%)
  利益率
(%)
BASF(独)    33,417    3,473    1,422   47.1     9.0   AA
バイエル(独)    29,150    3,471    2,284   48.5    14.3   AA
デュポン(米)    26,198    4,840    1,617   31.6    57.3   AA
ダウ・ケミカル(米)    18,929    2,992     845   32.6    16.8  
三菱化学(日)    15,754    1,124     627   19.7   ▲5.9    BBBPi
住友化学工業(日)     8,953    1,133     559   26.1     5.5   BBBPi
三井化学(日)     8,326     630     359   28.7     4.7   BBBPi

(注)決算期は日本企業が2000年3月期、欧米企業は1999年12月期。    
格付けはS&Pにより、Piが付いた格付けは公開情報のみに基づいたもの。▲はマイナス

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汎用樹脂再編が急務 危機感強める大手・中堅  
 「あの構想を検証し直す必要があるかもしれない」。住友化学工業と三井化学の経営統合を目の当たりにした旭化成工業の幹部は、こうつぶやいた。旭化成は岡山県水島地区に石化コンビナートを持つ。川一つ隔てた対岸には、三菱化学のコンビナートがある。同幹部が再検証の必要性を感じたのは、三菱化学との「水島コンビナート 一体運営」構想である。  

水島地区の構想再び  
 水島地区のエチレンの生産能力はいずれも年50万トン足らず。両社は数年前から設備の共有化など思い切った一体運営策を検討してきたが、主導権をめぐる思惑もあり実現できずにいた。だが、住化−三井化の経営統合で、千葉県市原地区には国内最強の石化コンビナート群が誕生する」(百嶋徹・ニッセイ基礎研究所主任研究員)。新連合への危機感が、三菱化学−旭化成の距離をにわかに近づけている。  
 業界再編のカギを握るのは、新連合にアジア首位の座を奪われる三菱化学の動向だ。「一段の再編で国際競争力をつける必要が高まった」(正野寛治社長)と再編に意欲を見せる。三菱化学は東燃化学が神奈川県川崎地区に持つ石化コンビナート内に多数の関連子会社を抱えており、同社と地域連合などを模索する可能性がある。さらに住化と三井化は来年10月に汎用樹脂のポリオレフィン事業を統合、アジアで最大の合成樹脂メーカーが誕生する。三菱化学の有力子会社で、トップの座を譲り渡す日本ポリケムが他勢力の取り込みに出るのはほぼ確実だ。   
 三菱化学や旭化成以上に危機感が強いのが、規模や収益力で劣る他の化学会社。昭和電工、宇部興産、東ソーは総合化学大手に属するが、「住化−三井化連合からすれば中堅クラスにしか見えないかもしれない」(みずほ証券の横尾尚昭アナリスト)。  

国産品の魅力薄れる  
 特に再編などテコ入れが急務なのが、競争力が低下している汎用樹脂事業。「輸入品に比べ1キロ5円高なら技術やサービスの良い国産品。約1割に当たる10円以上高ければ輸入品を選ぶ」−−。大口顧客の購買担当者は証言する。2004年までに汎用樹脂の輸入関税は価格比で6.5%にまで下がり、輸入単価は1キロ10円程度下がる見通し。関税に守られ輸入品より優位にある国産品の競争力は急速になくなる。