(週刊現代 2002/4/6)                                     

田中真紀子 直撃インタビュー

イギリス人、ジャーナリスト、Jonathan Wattsが行った60分にわたる田中真紀子インタビューの全文(その内容の一部は3月18日付英紙『ガーディアン』に掲載された)

 

ー NGOの国際会議参加をめぐる問題のために、あなたは外務大臣のポストを失ったけれども、国民の支持は得た。ある意味で勝利したと思いますか。

真紀子 ビクトリーって(笑)いうほどのものでもないわ。

ー 何か達成したという気持ちがありますか。

真紀子 でも私は、いまは法律を、4本目の法律を作っていますが、NGOをもっとバックアップするための法律と言いますか、税制面が優遇されるように、そういうことを考えています。

ー あなたを更迭した時の小泉さんのやり方についてどう思っていますか。

真紀子 私はね、ほんとうにハッキリ申し上げて、小泉さんから私はすごいジェラシー…。彼が私に対して。たぶん he was not aware, or he may not realize. I don't know why, but ... Don't ask me why and how, but .  でも、それはいつもいつも私が感じていたことで、なんでジェラシーを感じるのかわからない。私を更迭したことによって、彼はほ−んとに、ホッとしたでしょうね。なんか非常にイリテートしているって感じがしましたから、私に対して。

真紀子 で、その政策の面から言いますとね、私、たとえば、去年の夏、このあいだの夏、サンフランシスコに行きました。サンフランシスコ講和条約の50周年記念と日米同盟の記念で参りました。で、行く前に、6月頃でしたけれども、彼のレジデンスのほうへ行って、時間を下さいって言ったの。そのときに、私、中谷防衛庁長官もいっしょに連れて行ったの。彼は外務省と防衛庁は関係が非常によくなくて、今回のときも防衛庁は呼ばれていないと外務省は言ったんですよ。でも中谷長官は行きたいって言うから、I asked him, "why don't you come along me?"
で、私が小泉さんに言ったことは、これは世間にいま初めて公表することですが、私は単に50周年のパーティに出席するために行くんじゃないんだと言いました。アメリカと日本の今後のありよう、とくに安全保障の問題で安保50周年でもあるから。サンフランシスコ講和条約もそうでしたが、第二次大戦後の。いまこそ本のぺージをめくる時だと。This is the timeだと。ピリオドだと。それが私の意思だと。 Benefits & burdenの意識を国民もしっかりもっていると。
一方、2年ほど前から憲法調査会が衆参両院でつくられている。私は最初からメンバーです。そして、8割以上のメンバー、メディアや学者や一般の人も8割以上がいまの憲法は矛盾していると、自衛隊が存在しているのをちゃんとすべきだと思っている。
だからそれをふまえて、私はたとえば有事法制、そのことで総理の意見を聞きたいと。そういうことを私はアメリカで high officialたちとコリン・パウエルと話したいのだと。それから、もしよければこういうことを、プロポーザルをスピーチに盛り込みたいと言ったのです。日本がもっと自立しないと日本人の意識も育たない。そうしないとおカネばっかり出ていっちゃって、あるいはコンプレインばかり言って何も解決しないと。そのことを50周年だからスピーチに盛り込みたいと。あなたは安全保障面でどういう見解をもっているんですかと。
そのときの総理の顔−ビックリした顔してましたよ。総理、どう考えますかって聞いたら「そんなこと急に言われたって困る」と。でも、もう30年政治家やってるんですから。He must have his own view on the US-Japan relationship ね。You know I have my own view on the US-Japan relationship, and Japan's self defence. でも彼はほんとーに困ってました。
そして、私は役人の書いたスピーチを何度も何度も書き直しました。最後にはワシントンにいるアメリカ人のスピーチライターに送って添削してもらいました。非常にわかりやすい、自分の意思がはっきり伝わってくると、非常にほめられました。種々のスピーチをやりましたが、いつも自分でぺーパーを書き直しました。
在京の外交官だとかメディアからは日本の報道関係も含め、そういう田中真紀子のメッセージは非常によくわかると、外務大臣としてメッセージを発信しているのが、非常によくわかると。そのことを私はとても嬉しく思うのですが、そういうことがリアクションとして小泉首相のもとにとても伝わってくるんですね。そうなると彼は非常に機嫌が悪くなる。
宿命的な問題として、最終的には大きな決断というものは首相なり大統領なりが決めるものであるけれども、けっこう国内問題にとらわれますから、けっこう外務省はいろんなインフォメーションが入ってきて、いろんなディスカッションをうかがってますから、けっこう先にいっちゃうんじゃないですかね。
首相がよほど哲学をもっている、もっと勉強している、心が広いとかでないと、そうでないとコンペティティブな関係になっちゃうのね。他の国の外務大臣の方も何人かそういうことおっしゃってましたよ(笑)。

− 小泉首相のジェラシーのために外遊を足止めされたと言いたいのですか?

真紀子 小泉さんだけじゃなくて、小泉さんもすごかったけど、男性社会の中で、male dominated societyね。特にLDPでしょうね。すごかったですよお。もうね、イヤミばっかり言われて。
たとえば、国連に行かせないときも、結局なんで宮沢さんが行って、なぜ、高野さんと行ったのか。誰も責任とらない。野党の人でもない。自民党でも、総理でも福田さんでもない。でもみんなが私が国連でスピーチするなんてチャンスあげたくないことはよく分かる。
その理由はあのとき安全セオリーで、特別予算のときだから、あなたは忙しい。
どうして。そういうときのために、ふたりもVice Ministerがいるんでしょうと。それから防衛庁長官がいるんでしょう。私が2日間いなくたってぜんぜん問題にならない。だけどもLDPの人たちはだめだと。委員会で答弁するのは真紀子さんで、いなければならないというのよ。副大臣は寝てばっかりだし。Really ridiculous.
それであのとき小泉さんがひとこと「真紀子が行くべきだ」と言えば。そんなこと、彼、ひとことも言わなかったわ。

− まったく妙なことでしたね。外務大臣が外遊できないなんて。「どうなっているのあの国は」と海外に思われたでしょう。

真紀子 I know.

− イジメられたというふうに感じましたか?

真紀子 イジメられたというか、私を嫌っているというか、でも私はそんなにセンシティブじゃないから。でもバカげてると思うわ。政治家が誰も自分の国のことを考えてなくて、エナジーとタイムとこれだけのマネーをかけてこの国をどこへもっていこうとしているの? 誰の責任で、と。
私は小泉さんのキャビネットのメンバーで、バックアップしようと、要は日本をいい国にしようとすごくエナジー使っているのに、どうしてそのことがダメなんですか。
それは私が女だからじゃないと思う。私が田中真紀子だからよ。私は女だから、イジメられているとは思わない。絶対違う。そうは思わない。ぜんぜん違う。

ー あなたが皆にとって脅威だから、ジェラシーが生まれるのでしょう。

真紀子 I don't know why he is jealous. 各国の外務大臣同士が個人的に親しくなるのはすごく楽しいじゃないですか。そのことが平和につながるのよ。もっとアウトスポークンにものが言えるのですよ。すっごく楽しかった。
なのに小泉さんは気持ちが固くなっていた。リラックスしてない。でも、私なんかまだ当選たった3回よ。 彼は何回? 10回でしょ。私、今年で9年目。彼は30年やってるんですよ。私にはものすごく先輩。ほんと、尊敬しているんです。
しかも私はtypical Japanese womanですから、男の人をたてるのよ。とにかくそういうふうには思っているんです。ですから小泉さんの前に出るとか引っ張り回すとか、引きずり回すとかそんなことはしません。そんなことカッコよくないと思ってるもの。そういう家庭教育受けてるから。そのほうがコンフォタブルだから。

− 小泉首相とは政治的に離婚したという感じでしょうか。

真紀子 どうでしょう? 彼はホッとしてるって感じでしょう。私は、そうですねえ、彼はナローマインド、そういう感じがしますね。

− いま小泉さんに失望していますか? 結婚したときのイメージと比べてどうですか。

真紀子 いいえ。I am not disappointed. I tell you this. もともとたいして期待していませんでしたから。私が小泉さんをかついだか。もう自民党に候補者はいない。自民党はこのあいだの総裁選挙でこれが最後になると思ったの。
そして私が小泉さんに立候補しろと言ったと、彼はいつも説明するけれど、ちがう。
小泉さんとこの伊藤公介さん、中川秀直さんとかが、しょっちゅうこの部屋へ来まして、「もう自民党の支持率相当下がっているから、ひとりの候補を立てられない。田中真紀子とうちの小泉さんが組めばスーパーパワーになるかもしれない。だからそのことを考えてくれないか」と。
だから私は言いました。それには条件が3つあります。
1)派閥を解消できますか。派閥が日本の政治をダメにしている。
2)これ以上とにかく国債を発行したりしないで、経済成長をとげられますか。
3)これはちょっと。
考えてもらって良いですか、と。そうしたら2ヵ月ほどして、小泉さんが分かったと言っていると。彼の部屋へ行くと、「僕はもう2回も総裁選に落ちているから3回負けたら僕は政治生命なくしちゃう。3つのコンディションをのむ」と。
だから私はあなたを勝たせるために大変な努力をしましょうと。それで私は庭からチユーリップを2本、白と赤を1本ずつ摘んでもってってあげたの。ほんとはもっといっぱい咲いているけど、頑張ってくださいって。もしあなたが勝ったら大きなブーケを贈ってあげると。それで彼のキャンペーンをやったんです。
選挙に勝った週末、新潟へ支持者に挨拶に来たけど、長岡で米百俵の話になって、それで彼に大きなカーネーションの花束を贈ったの。紅白の。
で、彼は勝ちました。でもそういう人が、一般国民が興奮状態になっているときに総理になったとたんに、派閥のお風呂に入っちゃった。そしていまのキャビネットの5人までが、数えたら分かるけれども森派。福田さん、安倍さん…。
福田さんと安部さんは、なんというか、福田さんのお父さんが派閥を始めて、ついで安倍さんのお父さん。ふたりとも外務官僚をよく見てきている。そういう中では小泉さんは異端者だったから、マーベリック。でも選挙のときになにも応援しなかった森さんがボス。彼らが日本の外務省と官邸の中のばかげたおカネの問題を・・・・・。

真紀子 小渕政権末期、北方四島問題が二島問題にすりかわった、外務大臣になって官僚から説明を受け、それはおかしいのではないかと言ったのよ。
この件では、官僚や小泉さんみな知っているんです。ロシアのイワノフ外相に会うはずが、彼らは私が四島返還を主張するのではないかと気をもんだ。でも先日の鈴木さんの証人喚問のとき、そういう話が出たら小泉さんのリアクションは「オー、ノー」だったでしょう。なに言ってんのよ。あの人私に歯舞、色丹だと言ったのよ。そして、あれも知ってるのよ。役人のみなさんも、知ってるのよ。だからイワノフさんが来たときに、みんな非常に不安だった。なぜかって。私が外務大臣だから、イワノフさんに二島じゃなくて四島と言うんじゃないかと。私が言いそうだから。
だから彼らは非常にイリテートしてますよ。だからずっとずっと森さんは田中真紀子を外務大臣にするのはダメー、ダメって言ってきたのよ。

ー それでは、あなたは小泉さんがあなたとの約束を破ったと思っていますか。

真紀子 Sure, sure. That's what it is. でもそういうタイプだと思ってましたよ。
なぜか。じゃ、そのあとの麻生太郎さんがよかったんですか、橋本さんがよかったんですか、ダメですよお。少しでもマシな小泉さんをこうやってわれわれがあおいで風をポンポンポンポンポンポンおこせば、ヒューって、飛び上がる。飛び上がったじゃないですか。そうすればわれわれも一生懸命やります。彼は一生懸命仕事ができると思ってやったんです。
われわれはLDPのラストチャンスだと思っていたんですよ。もうおしまい。

ー それはどういう意味ですか。おしまいって、誰の?

真紀子 自民党の最後よ。と私は思います。みんな認めたがらない。ノーバディっていうか、そのLDPのメンバー、議員達はね。それはみな心配なんです。みんな自民党という看板にのっとっているから議員なんです。日本人はブランドが好きなのよ。でも国民はそれだけじゃないんですよ。いい政治をしてほしいんでしょう? 納得のいく政治をしてほしいんですよ。タックスペイアーなんだから。
納得のいく改革をしろって言ってるんですよ。インフォメーションをもらえば、日本人はよくわかってるわ。理解も我慢もしているんだけど、いつもデシジョンメイキングがアンフェアで、どこにいくかわからない。
今度の経済危機にしても不良債権問題の処理もあるし。株は少しは上がったかもしれないけど、いろんな不安もあるし、老後の不安もあるし。だけれども、変わるって事が怖いんですよ。それは私、日本人のマインドセットだと思うの、メンタリティ。

ー 今後のあなたの計画は? 自民党の終焉というとどうなるのでしよう。

真紀子 自民党の終わりよ。誰もそれに気づきたくないんだけど。

ー 小泉さん不信任案が採決となったら、どちらに票を入れますか?

真紀子 これから考えるわ。

ー 鈴木さんの議員辞職問題についてはどう思いますか。

真紀子 鈴木宗男さんはすっごい影響力をもってるってことをみんなしゃべってたわ。外務省のキャリアもノンキャリアも。いろんな場所で言ってます。有名ですよ、そういう人を跋扈させているというか。私は何度も何度も総理にも福田さんにも言っているのに、彼らは鈴木さんのサイドなんですよ、やっぱり。私がスカートを踏んづけていると言ったのはそういうことですよ。アハハハハ。それもいっくら文句言ったって、外務省のオフィシャルたちどもも悪いと思っても、そういう習慣があるんですよ。野上さんとは11年付き合っているっていいますからね。
小泉さんは、僕にそんなこと言わないでくれ、外務省のことはあなたがやりなさいと。そういうことばっかりだもん。そのときのことは岡本行夫さんが証人です。

真紀子 福田さんなんてもっとひどいですよ。あなたは厄介ごとばっかりって。私は役人と戦っていますと言ったの。でも、事務次官になるとすべての情報を把握できる。野上さんが事務次官になる前はよかったのよ。だけども彼らは官邸の裏ガネと機密費の問題があったの。お互いの弱いところを知っている。でも私は、小泉さんのキャビネットのメンバーです。選挙のときからこの問題を解決すると公約したんです。小泉さんもそう言っている。
ところが、なったら困ると、公開することは。小泉さんは困ると。福田さんも。森さんが困るんですよ。それから、これは私は言ってみればいまの内閣は森さんの蜃気楼内閣ね。そう思いますね。森さんは鈴木さんのことがあるからおとなしくしているでしょうが。小泉さんは森さんにも鈴木さんにもノーと言えないんですよ。福田さんが王子様だから。

ー 今後再び大臣を務める意欲は?

真紀子 やっぱり、無駄なエネルギーを使わないで仕事が出来るような環境があればやる気はあります。できることなら、外務省の今のマネースキャンダルがなかったらずいぶん違っていたでしょうね。私というと、指輪をなくしたの、天皇の園遊会がどうの、職員をロックアウトしたの、くだらない。テレビをつければ私がいつも官僚とバトルしているみたいに思われていますけど、それがぜんぶリーク。秘書官から出ているの。それも、さも本当みたいに流される。それに野党が飛びついて。この記事いつ出るの。記事が出たら、敵対者はまた私を叩いてくるでしょうね。