日本経済新聞 2006/3/31

2006年度業績を聞く 住友化学 米倉弘昌社長
 経常益2割増は堅く 農業化学・情報電子けん引

ー 2006年3月期は第3四半期までの9ヶ月間で連結経常利益が千億円を超えました。その後も良好な収益環境が続いていますが。
 「昨年10月に旧・大日本製薬を傘下に入れた
医薬品部門の利益が予想以上に伸びている石油化学関連も過去にない好成績。原料ナフサの価格上昇に合わせ、04年から6回にわたった製品値上げが浸透した。中国需要のおかげで海外の石化子会社も好調だ」

ー 来期も経常増益なら3期連続で過去最高益を更新します。
 「経常利益は堅く見積っても(今年2月に公表した)今期の予想(1250億円)から2割程度は増えるだろう。
年金運用の成果に当たる運用超過額が100億円近くあり、これが利益に上乗せされることもある」

ー 収益をけん引する事業はどれですか。
 「農業化学と情報電子化学だ。農業化学は
農薬の新製品が寄与する。殺虫剤は中国の後発品との競争が激しいが、中国製に比べ40倍の効力がある製品を投入する。適用範囲を広げた除草剤も米国で猛烈に伸びており増産も検討中だ」
 「情報電子は液晶パネルの主要部材である
偏光フィルムの数量増を見込む。生産能力は今秋までに75%増やす。薄型テレビ向け需要が強くフル生産でも追いつかない。価格は相当の下落を予算に織り込んだが、需給逼迫で実際あまり下がらないだろう」

ー 基幹事業の石油化学関連の見通しは。
 「基礎化学、石化の両部門とも若干の営業増益となりそう。基礎化はナイロン繊維原料の好調が続く。昨年後半に相場が一時急落したが、足元では回復傾向にある。石化は昨秋実施した一部プラントの定期修理がなくなるうえ、ポリプロピレンの国内製造ライン集約による固定費圧縮も増益に貢献する」
 「石化製品の需要は中国次第だが、経済成長が続くうちは全然心配していない。今期も欧米資本の大型プラントが中国で稼働したが、供給が増えた分はすぐ吸収された。来期はアジアの石化メーカーの多くが定期修理に入るため、供給不足になる可能性もある」

ー 石化原料のナフサの想定価格は。
 「現在の1キロリットル4万6千円程度の高値で推移するだろう。アジア勢の相次ぐ定期修理でナフサ需要が緩むとみられ、昨年のような急騰はない。ただ、現在の石化製品価格の水準がナフサ価格に見合ったものではなく、ナフサ価格の動き次第では合成樹脂などは7回目の値上げを検討する」

ー サウジアラビアの石化・石油精製の合弁事業「ラービグ計画」が動き出しました。
 「当社の運命を懸けた事業だ。19日に起工式を実施し、08年後半に稼働予定で、エチレンなど石化製品やガソリンを製造する。石化はナフサよりはるかに安いエタンガスを原料に使い、価格競争力が高い。地理的にも近い欧州市場への進出も視野に入れている」

ー 総事業費が当初予定の2倍強の約1兆1500億円になりました。
 「事業費の拡大は鋼材やプラント工事の費用増加もあるが、海水の淡水化工場など合弁会社と切り離す予定だった設備を取り込んだのが主因だ。投資額の6割をプロジェクトファイナンスで調達し、各種の保険契約で投資リスクはかなりカバーしている。
事業が万一うまく行かなくても当社は損害を受けない

ー 来期までの中期経営計画で利益目標は1年前倒しでほぼ達成されます。次期中計の展望は。
 「次の中計は年後半に作成するが、07−09年度中に売上高2兆円、営業利益は2千億円近くを狙うべきだろう。収益のけん引役は情報電子、農業化学、医薬品だ。ラービグ計画を計算に入れなくても達成できる」

(聞き手は松本清一郎)


日本経済新聞 2006/6/24

対決 グローバル企業 化学

 住友化学 成長性への評価で軍配
 ダウ   規模で圧倒、アジアに照準

 「今後10年間は電子材料(情報電子化学)と医薬品・農薬に戦略投資の約7割を充てる」。住友化学の米倉弘昌社長は成長分野への集中投資を掲げる。2007年3月期の連結営業利益は前期比20%増の1450億円と、3期連続の最高益更新を狙う。このうち液昌パネル部材など電子材料と医薬品・農薬の3部門で7割強を稼ぐ計画。
 国内需要の頭打ちやアジア勢の台頭などで、長期低迷にあえいだ日本の総合化学企業。市況変動が激しい汎用石油化学製品で事業再編を進める一方、高機能素材など得意分野に磨きをかけ、安定成長企業への転換を目指してきた。住友化はその代表格といえる。
 規模で見れば住友化は世界の巨大化学企業に遠く及ばない。独BASFと売上高で首位を争う米ダウ・ケミカル。05年の売上高は円換算で約5兆3千億円と住友化の3.4倍、時価総額は約4兆2千億円で2.7倍だ。大が小を食う図式なら勝ち目はない。
 だが株式市場の評価は異なる。UBS証券の06年度の利益予想を基にすると、ダウの予想PER(株価収益率)は7倍前後。一方、住友化は約19倍と3倍近い。市場が違うので単純比較はできないが、成長性への評価では電子材料に強い住友化に軍配が上がる。「ダウは汎用品の比重が大きく収益が市況に左右されやすい」(外国証券)との見方が背景にある。
 ダウのアンドリュー・リバリス最高経営責任者(CEO)は「株価は我々の最近の業績や真の可能性を反映していない」と反論する。汎用品が低迷した01−02年には最終赤字に転落したが、その後は自動車部品や高機能樹脂などを強化。05年のEBIT(利払い前、税引き前利益)では汎用品と高機能品の比率がほぼ半々になった。
 高機能品の定義はまちまちだが、化学大手が成長を持続するには付加価値の高い先端素材をどこまで伸ばせるかがカギとなる。巨額の研究開発費など先行投資リスクも大きい分野だけに「国際競争力があり、キャッシュフローを安定的に生み出せる汎用品事業の存在も同時に欠かせない」(野村証券の西村修一アナリスト)。
 その点で住友化は実効性の高い手を打っている数少ない日本企業といえる。08年後半をメドに、サウジアラビアでエチレンなど石化基礎原料の巨大プラントを稼働させる「ラービグ計画」だ。原料にはナフサに比べ価格がはるかに安いエタンガスを使い、価格競争力は世界大手に劣らない。
 一方、ダウも原料が安い中東で複数の石化合弁プラントを建設・計画中。住友化と同様に中国などアジア地域での事業拡大をもくろむ。電子材料など高機能品で独自の地位を固めつつある住友化だが、汎用品事業では世界的な大競争時代に直面することになる。(松本清一郎)

住友化とダウ・ケミカルの比較
    住友化 ダウ



売上高

  15,566

  53,253

時価総額

15,512

41,849







純利益

907

5,192

売上高純利益率

5.8

9.7

株主資本利益率

14.1

32.7

海外売上高比率

39.2

57.1

高機能品の売
上高構成比率

46.7

48.5






株主資本比率

33.0

33.4

純現金収支

▲579

3,885

格付け

BBB+

A-

(注)住友化は2006年3月期、ダウは2005年12月期。単位億円、▲は赤字。率は%。
  1ドル=115円で円換算。
  高機能品は住友化は情報電子化学、精密化学、」農業化学、医薬品の各部門の合計、
  ダウは機能製品部門。
  格付けはスタンダード&プアーズ。
  時価総額は22日終値べ一ス

 


日本経済新聞 2006/10/4

住友化学、9月中間経常益660億円 減益幅縮小 医薬・農薬が好調

 住友化学の2006年9月中間期の連結経常利益は、前年同期比8%減の660億円程度になったもようだ。従来予想を40億円上回る。主力製品の販売が好調だった医薬品、農薬などの利益が予想以上に拡大したため、想定に比べ減益幅が縮小した。ただ石油化学関連は原料価格高が響いて減益となったほか、液晶部材も価格下落で収益は伸び悩んでいる。
 営業利益は9%増の620億円と、従来予想より40億円増えたようだ。しかしシンガポールの石化関連会社の収益伸び悩みで持ち分法投資利益が減少し、経常利益段階では減益となった。 
 中間期では医薬品、農薬、精密化学が想定以上に好調だった。医薬品は昨年秋に旧・大日本製薬を傘下に入れたことで業容が拡大。高血圧症・狭心症治療薬「アムロジン」など主力製品の販売も伸び、部門利益は予想を上回った。
 農薬は米国向けの除草剤、中国を中心に飼料添加物の販売が伸びて収益を押し上げた。精密化学は医薬原体・中間体の受注が好調に推移した。
 一方、主力の石化関連(基礎化学と石油化学の二部門の合計)は、前年同期で小幅減益となったもよう。汎用樹脂は需給が逼迫しているが、原料価格の上昇に製品値上げが追い付かない。ナイロン繊維原料も原料高が響いた。
 情報電子化学は2割を超える営業減益となったようだ。川下の液晶テレビの価格下落のあおりで、主力の液晶用偏光フィルムの価格が予想以上に低下、数量増では補いきれなかった。
 下期は情報電子化学の収益に不安が残る。偏光フィルムは増産で数量は一段と増えるが、価格下落ぺースが減速しなければ、部門営業利益は大きく下振れしかねない。
 他部門が計画通りの利益を上げても、07年3月期通期の経常利益は期初予想(前期比6%増の1500億円)を下回る可能性がある。


日本経済新聞 2006/12/8

企業浮沈 9月中間決算から 
 住友化学/三菱ケミHD  非石化の伸びで首位交代

 上場企業の2006年9月中間決算は好業績を発表する企業が増える中で、ライバル間で収益格差が広がるケースも目立った。何が明暗を分けたのか。格差は構造的か一時的か。化学、半導体、海運など主要企業の決算を深掘りする。

 総合化学大手で07年3月期、連結営業利益の首位が5年ぶりに交代する。首位は住友化学。前期比20%増の1450億円を見込み、5%減の1270億円となる三菱ケミカルホールディングスを逆転する。住友化は3期連続で最高益を更新する一方、三菱ケミHDは2期連続減益となる。好調と低迷。その差は非石油化学部門の伸びに表れる。
 同部門の営業増益率は住友化が23%なのに対し、三菱ケミHDは2%にとどまる。化学大手の石化関連は頭打ち感が強い。アジアで石化プラントの新増設が相次いでいるうえ、原料高の一服で製品への価格転嫁も思うように進まない。医薬品、電子材料など非石化をどう伸ばすかが収益向上のカギを握る。
 両社とも営業利益の3分の1前後を占める稼ぎ頭は医薬品部門。住友化は05年10月に旧・大日本製薬を合併して業容を
拡大、同部門の営業利益は510億円と33%増える。米倉弘昌社長は「2社の融合は予想以上にスムーズ。販売面で相乗効果が高まってきた」と顔をほころばせる。
 三菱ケミHDの今期の医薬品部門の営業増益率は13%。冨澤龍一社長も医薬品のM&A(企業の合併・買収)を経営課題に掲げるが、実現は遅れている。M&Aの原資として時価で約3千億円の自社株を抱えたまま。株式市場では売り出しへの警戒感から、株価の上値が抑えられている。
 他の非石化でも住友化に好調な事業が目立つ。飼料添加物の販売が伸びる農業化学、医薬中間体がけん引する精密化学はともに40%強の部門増益となりそう。液晶部材の不振で20%強の減益となる情報電子化学を補う。三菱ケミHDは石化の大幅減益を非石化で吸収できない。
 総合化学企業として事業バランスの良い住友化がリードする構図だ。将来を見ても住友化の成長性を評価する声が多い。その最大の目玉がサウジアラビアで08年後半に稼働する石化・石油精製事業の「ラービグ計画」。サウジの国営企業と合弁で約1兆1千億円の巨費を投じる。石化はナフサよりはるかに安いエタンガスを原料に使い、価格競争力が高い。米倉社長も「当社の運命を賭けた事業」と意気込む。
 野村証券の西村修一アナリストの試算では、ラービグ計画がフルに寄与する10年3月期の純利益押し上げ効果は488億円。同期の純利益総額は1341億円に膨らみ、三菱ケミHDに400億円近い差を付けると予想する。
 三菱ケミHDも08年にかけ合成繊維原料、ポリプロピレンなど、石化関連製品の増産計画が目白押し。だがアジア、欧米勢との競合も避けられない。アナリストらからは「中長期の成長ドライバーに欠ける」との指摘も聞かれる。
 同社は1990年代半ばから合理化や事業再編を進め、かつてのように利益が急減するリスクは減った。「総合化学の盟主」の座を取り戻すには石化関連の収益の安定感を一段と高める一方で、M&Aを含めた非石化での成長戦略の実行が欠かせない。(松本清一郎)


2007/6/25 日本経済新聞

欧州の化学物質規制対応 住化系が支援事業

 住友化学子会社で分析大手の住化分析センターは国内の化学メーカーなどを対象に、欧州連合(EU)で今月施行された化学物質規制「REACH(リーチ)規則」への対応を支援する事業を始めた。化学大手では新規制に対応するために数十億円の負担が必要とされ、費用抑制の助言をし、煩雑な手続きも代行する。
 EUでは支援ビジネスが増えつつあるが、日本企業が総合的な支援事業に参入するのは珍しい。国内の中小零細の化学メーカーなどのニーズは大きいとみており、2010年度に30億円の売り上げを目指す。
 住化分析センターは顧客の登録用の書類や試験データを精査し、足りないデータを効率的に補う助言をする。


日本経済新聞 2008/11/25

共創ジャパン 〜これからの成長を考える〜
グローバル化と技術革新

 環境や資源、食糧問題などさまざまな要素が複雑に絡み合い、人類全体に影響を及ぼすグローバル化時代。化学産業のテクノロジーはどのような貢献を果たすことができるのか。「創造的ハイブリッド・ケミストリー」により、新たな化学の可能性を追求する住友化学の米倉弘昌社長と、東京大学大学院の伊藤元重教授が話し合った。

 
融合から生まれる技術革新を武器に変化の時代を切り開く
 グローバル化の中でこそ総合化学の強みを活かす

住友化学社長 米倉弘昌氏     環境の激変にも耐えうる強固なビジネスモデル
東京大学大学院教授 伊藤元重氏 異なる土壌での競争が重要な技術革新を生む

伊藤 御社はいわゆる総合化学メーカーだ。一般論で言えば、グローバルマーケットを見据えた場合、市場規模も大きく、競争もより厳しくなるため、技術的に強い分野に特化した方が得策と思えるが。

米倉 確かに、私が社長に就任した当時は総合化学であることがよく批判された。投資家向け広報(IR)のため、アメリカに行くと、必ず「事業の幅が広すぎる、選択と集中をしろ」といわれた。そのたびに、「いや、そうではない、あらゆる技術が応用可能であり、総合化学は確かな成長力を秘めたビジネスモデルなのだ」と説明した。
 なぜなら、取り巻く環境の変化が激しさを増す中、事業の幅が広ければリスクの分散が可能になる上、異なる分野の技術を融合し、より高い付加価値製品や技術を創造できると考えたからだ。そのために、あらゆる事業部門、研究所の垣根を取り払って自由なやり取りを促し、シナジーを生み出すことを目指した。

伊藤 それが、御社の強みである「創造的ハイブリッド・ケミストリー」であるということか。

米倉 まさにおっしゃるとおりで、例えば、現在事業化に向け開発を加速している高分子有機ELが挙げられる。高分子型の有機ELは、インクジェット方式で製造できるため、大型化が容易で、設備投資が抑えられるという大きなメリットがある。これには当社が得意とする高分子の合成技術と色素合成技術など複数の要素技術が生かされている。
 技術革新のスピードアップが求められる今日では、社内の既存技術だけでなく、化学以外の分野の手法、知見との組み合わせや、外部の企業、大学、顧客などとの連携、融合も重要だ。

世界の活力を取り込み新たな技術革新を目指す
 
伊藤 企業にとって技術的な拠点を海外に置くことにためらいもあると思うが、研究開発の場もグローバルに展開すべきとお考えだろうか。

米倉 日本国内では少子高齢化が進行し、人口が減少している。一方、世界的には資源が高騰し、食糧や環境問題も、より深刻化していくだろう。多くの問題が複雑に絡み合う中、企業として成長していくためには事業の多角化やグルーバル化は避けては通れない道だ。
 そのために、日本国内にとどまらず、世界各地の活力や頭脳を取り込むことが必要だと思う。例えば、当社では情報技術(IT)関連の一部の研究組織を韓国の関係会社に移したが、日本の組織の枠組みとは異なる環境で、早速新しい発想による研究成果が出てきた。また有機EL関連では、昨年子会社化したイギリスの会社の研究者と一体となった研究を進めているが、日本人とは違う進め方や考え方を学び、シナジーが生まれている。

伊藤 御社にとって、グローバル化は単に海外にモノを売る、販売チャネルを拡大していくだけではないということだ。

米倉 そのとおりで、日本、海外といった場所にこだわらず、それぞれの事業に最適な地域で製造・研究開発・販売を行っている。
 現在、「ラービグ計画」という大規模なプロジェクトを進めている。これは、サウジアラビアのラービグで、石油精製から石油化学製品製造まで一貫して行う統合コンビナートをサウジ・アラムコ社と共同で建設するというもの。ラービグはアラビア半島の紅海側に位置しているのでスエズに近く、運河を抜ければすぐ欧州だ。
 当社は最近、農薬事業の活動拠点をハンガリーにつくり、ポーランドにIT部門の生産拠点を築いたが、「ラービグ計画」の完成で、欧州市場がより身近な存在になる。そして、ラービグで製造した石油化学製品を欧州に出荷するだけではなく、他の部門の欧州進出をさらに進めるよう検討している。これらにより、グローバル化が一段と進むと考えている。

伊藤 中国に進出した、ある家電メーカーのトップはこんな話をしていた。以前、その企業は中国を非常にパワフルな輸出基地だと考えいたそうだ。そのうち、非常に有望なマーケットだと感じるようになった。しかし今では、中国というのは最も厳しく重要な競争の場なのだと考えるようになったという。
 つまり中国でシェアを取れない企業はグローバルでも取れない。海外を、モノを売る場所、つくるだけの場所ととらえていては駄目。さまざまな土壌で競争することにより、重要な技術革新も可能になり、初めてグローバルな実力がつくということだ。

米倉 おっしゃるとおりと思う。25年前、当社が石油化学コンビナート建設プロジェクトでシンガポールヘ進出した時は、二度のオイルショックで大変な思いをしたが、中国を中心とするアジア市場から品質が評価され、今はトップブランドに成長した。この経験がサウジアラビアの「ラービグ計画」につながったと思う。

伊藤 一方、グローバル化が進むに従って、スマイルカーブといわれるものが顕著になっているようだ。
 上流と下流には高いリターンを見つけることができるが、中流の部分ではなかなかそれができない。上流ではオンリーワンのもの、特異性のあるものを開発した場合高い利益が上げられる。下流の場合は、マーケットに近いところで付加価値を与える技術を追求できれば強い。御社の場合は素材メーカーなので、上流型へのシフトを目指していると思うのだが。

米倉 「ラービグ計画」のように、産油国において安価原料を用いたコスト競争力のある、石油化学事業を追求するのはまさに川上型へのシフトだが、その一方で、材料の高付加価値化を目指した川下展開を進める事業もある。有機EL分野では材料を提供するだけでなく、デバイス開発も手がけていくつもりだ。
 川下化は付加価値の向上に加えて、最終製品のニーズを把握しやすいというメリットもある。例えば、肥料や農薬などはこれまで原体だけ供給していたが、製剤メーカーを子会社化して、最終製品の販売を手がけるようになった。すると消費者のインフォメーション、つまり農家が何を要求しているか、どんな支援をしていけばいいのかがどんどん入ってくるようになった。
 そこでどのような方向に技術革新していくべきかがわかる。例えば、日本の農家では高齢化が進行しているため省力化が求められている。そこで散布回数を減らすため、効力が持続する農薬や肥料の開発・供給を強化している。同時に、消費者の安全意識の高まりに応えるため、最先端の評価技術を用いた、より安全で品質の高い製品開発に取り組んでいる。市場ニーズを的確につかんで、製品開発に生かすことが競争力強化につながると思う。

日本独自の技術で世界の食糧問題へ貢献
 
伊藤 これからは世界規模で食糧問題がクローズアップされてくると思うが、そうなると肥料や農薬などへの取り組みは非常に大きな意味を持ってくるだろう。

米倉 そのとおりで、当社は、農薬、肥料、飼料添加物、農業資材など幅広い製品を扱っているが、単にこれらを販売するだけでなく、ITを活用した農業支援システムを含めたトータルソリューションの提供を目指している。農業支援システムを使うと、栽培計画や実績の管理、コスト管理が容易になる。当社からは、病害虫情報をはじめ、いつ、どんな薬剤や肥料をまくのかといったアドバイスや農業経営に役立つ情報を提供させていただく。これらにより、安全・安心で効率的な農作物の生産と、競争力のある農業経営を支援しようというものだ。
 当社は農業関連事業に関しては、以前からM&A(合併・買収)なども通じて欧米地域など農業先進国を中心に積極的に拠点を設けてきた。昨今、新興国の経済発展と人口増加により世界各地での食糧不足が懸念されている。特にアフリカの貧困は現代社会が抱える大きな問題だ。今後はこれまでのグローバルな生産・販売網を活用し、中国やアフリカなどにもトータルソリューションを提供し、農業支援に貢献したい。

伊藤 農業のように、日本の技術の中には、まだグローバルな舞台でその真価を発揮していないものがあると思う。今までは国内的産業と思われていた医療や教育、都市開発など、もっとその技術を世界で役立てていくべきだろう。