日本経済新聞 2004/3/5             ヤクルト発表

ヤクルト、仏ダノンと提携 確執封印し「休戦協定」 海外で乳酸菌事業

 ヤクルト本社は4日、仏食品大手のダノンと海外の乳酸菌事業で提携すると発表した。ヤクルト筆頭株主のダノンは今後5年間、現在の20%の出資比率を引き上げず、その後の5年間も実質的な支配権を及ぼす水準(33%程度)を超える買い増しはしない。ヤクルトは当面、経営の自主性を維持しながらダノンとの具体的な提携事業を模索していくことになる。

持ち株比率、5年凍緒
 ダノンは6月をメドにヤクルトに取締役2人(1人は非常勤)を派遣し、ヤクルトはダノンに非常勤役員1人を送る。東京に設置する提携推進室に両社から代表者を1人ずつ派遣し、共同事業の具体的な内容を詰める。
 機能性食品や飲料の技術開発、販売面で相乗効果を狙うとしている。発表では、ダノンはヤクルトの乳酸菌の基礎技術や販売力を、ヤクルトはダノンの世界的なブランドとマーケティングカをそれぞれ活用するとした。

独立経営維持へ妥協点
 今回の提携発表は2000年にダノンがヤクルト株を取得して以来、せめぎ合いを続けてきた両社がとりあえず“休戦協定”を結んだといえる。

■親密さ強調
 4日午後、東京・港のホテルオークラで開いた提携発表の記者会見。「ダノンとヤクルトの創業者はフランスの同じ研究者に触発されて事業を始めた。非常に深いところでルーツを共有している」。ダノンのフランク・リボー会長は冒頭、両社の歴史をひもとき、関係の深さを強調した。ヤクルト堀澄也社長も「私たちは兄弟の関係になった」とにこやかに応じた。
 会見でこそ親密ぶりをアピールした両社だが、この4年間、株取得をめぐり激しい応酬を繰り広げてきた。ダノンはヤクルト株を買い増しし、昨年4月に突如筆頭株主に浮上した。ヤクルトには「寝耳に水」(幹部)。ダノンの真意を図りかねたヤクルトは「従来通りの経営を推進する」という独自経営の継続を強調するしかなかった。
 せめぎ合いはこの1年間も続いた。ヤクルトは昨年6月まで国際担当専務だった平野博勝氏を退任後も国際部顧問に据え、交渉を続けた。両社のやり取りは不明だが、休戦協定に至る背景にはそれぞれ事情がある。
 ヤクルトには23カ国・地域に進出する「国際企業」、国内に136の独立した販売会社を持つ「本社」という2つの顔がある。家庭や職場を訪問販売する約5万人の「ヤクルトレディ」という他社にはない販売組織も抱える。

■3ヶ月で破談
 ダノンから最初の株取得時に持ちかけられた提携交渉がわずか3カ月で破談となった背景にもこの複雑さがある。
 今回の提携でも、日本国内の事業は当面対象から外れた。ダノンには日本で味の素など他社と提携している事情があるが、ヤクルトにとっては、売上高の約8割を占める国内事業でダノンの戦略に組み込まれれば、独立経営は維持できない。筆頭株主として4年前とは格段に違う交渉力を持ったダノンとの妥協点は、株式保有率を変えず、国内で自主路線を続ける代わりに海外で共同歩調をとる「戦略提携」だった。
 一方、ダノンはヤクルトの技術力が魅力的に映る。医薬やバイオテクノロジーの研究に長年取り組んできたヤクルトとの関係強化で研究力を高め、自社製品に対する信頼感と安心感を高めたいと考えているもよう。

■ダノン買収説
 さらにダノンは欧米の食品・飲料大手から敵対的買収を仕掛けられるのを防ぐため、先手を打ち他社との提携に積極的に動いたとの見方もある。既に米コカ・コーラやクラフト・フーズが動いているとのうわさも欧州では流れている。
 独自路線の旗を降ろしたくないヤクルト。敵対的買収を防ぐため、ヤクルトと組み自らの企業価値を高めたいダノン。ただ、ダノンの株式保有率が実質的な過半数という33%程度までに抑えられるのは今後10年間。その後については「問題がなければ自動延長する」(堀社長)が、急速に変化する国際市揚の10年後が読み切れるわけではない。
 休戦協定もヤクルトの「独立」がどこまで続くかも未知数だ。

仏ダノンとヤクルト本社

仏ダノン   ヤクルト本社
・ヨーグルトなど乳製品
・ミネラルウォーター、ビスケットなど
主力製品 ・「ヤクルト」など乳酸菌飲料
・医薬品・健康食品
131億ユー口
(約1兆7500億円。 2003年12月期)
売上高 2427億円
(2003年3月期)
9万2000人(2003年12月末) 従業員数 2867人(2003年4月末)

ヤクルトとダノンの歩み

1919年   アイザック・カラソーがヨーグルトの工業化に成功
1929年   アイザックの息子ダニエル・カラソーがダノンを設立
1930年   代田稔(元ヤクルト会長)が特殊乳酸桿(かん)菌の培養に成功
1935年   代田氏、ヤクルトの製造販売を開始
1955年   株式会社ヤクルト本社を設立
1973年   ダノンがBSNグループと今併し「BSNジェルベダノン」に
1992年   ダノン、カルピス味の素ダノン設立 http://www.danone.co.jp/
2000年 4月   ダノン、ヤクルト株5%を取得し提携協議を開始
     7月   販売手法などについて意見が食い違い提携協議を解消
2003年 4月   ダノンがヤクルト株を20%まで買い増したと発表

 


2004/3/4 ヤクルト

ヤクルト本社及びグループダノンの戦略提携について
http://www.yakult.co.jp/cgi-bin/news/news.cgi?page+0+27

 株式会社ヤクルト本社(社長 堀 澄也)とグループダノン(フランス、会長兼CEO フランク・リボー)は、相互の信頼に基づき、両社の独自の強み、社風及びビジネスモデルを活かした、互恵的かつ協力的な戦略提携を行うための契約を締結いたしました。
 今回のこの提携は、食品及び飲料の分野における弊社とグループダノンの世界的なリーダーシップを強化し、両社の成長をさらに加速することを目的としています。この目的を達成するために、両社は、当面は海外プロバイオティクス分野を中心に、弊社の技術力及び独創的な販売網と、グループダノンの世界的なプレゼンス及びマーケティング力を活用して、両社の相乗効果を十分に発揮できる様々な協力を行い、互恵的な提携関係を構築いたします。
 この提携を実行に移すために、弊社とグループダノンは、共同して、常設の「リエゾンオフィス(提携推進室)」及び「グローバル・プロバイオティクス委員会」を設立いたします。
 常設の「リエゾンオフィス」は、当面は海外におけるプロバイオティクス分野において両社にメリットのあるプロジェクトを推進し、提携関係を具体的に実行に移します。 「リエゾンオフィス」は東京に設置し、両社が1名ずつ派遣する共同代表者と常勤の従業員により運営します。
 また、「グローバル・プロバイオティクス委員会」は、教育機関等を通じた啓蒙活動や、消費者、行政当局及び学会等とのコミュニケーション、及びプロバイオティクス分野における研究開発活動の支援等を通じて、プロバイオティクスの理念を幅広く浸透させることを目指します。
 更に、両社の関係を確固たるものとし、提携の成果を最大限に実現するために、両社は相互に取締役を派遣することに合意いたしました。
 グループダノンは、2003年12月現在、弊社発行済み株式(自己株式を除く)の20%を保有する筆頭株主となっております。グループダノンは、弊社への出資を「弊社事業とマネジメントを信頼した長期的な投資である」としております。弊社は、グループダノンから、提携契約の規定に従い、弊社の独自の文化、ビジネスモデル並びに独立性を尊重し、実質的な支配権を追求しないとの確約を得ております。今後の持ち株比率に付きましては、契約後5年間は現在の持ち株比率を引き上げず、その後の5年間に付いても、仮に買い増しを行った場合でも、実質的に過半数となるような水準は超えないことにつき合意しております。
 本契約はこの発表の日をもって効力を生じ、その諸規定は可能な限り速やかに実行されます。
 尚、今回の提携は両社の既存のパートナーの提携関係に何ら影響を与えるものではなく、また、かかるパートナーとの関係を更に発展させて行くことを妨げるものではありません。

<参 考>
【株式会社ヤクルト本社の概要】
社長 : 堀 澄也
所在地 : 東京都港区東新橋1−1−19
従業員数 : 13,407名(平成15年3月末日現在)
連結売上高 : 242,740百万円(平成15年3月期)

【グループダノンの概要】
会長兼CEO : フランク・リボー
所在地 : 17 Boulevard Hausmann 75009 Paris France
従業員数 : 92,209名(2002年12月現在)
連結売上高 : 13,131百万ユーロ(2003年12月期)(1兆7,727億円)