韓国経済の現状と韓国ベンチャー(その1)
富山国際大学地域学部地域システム学科 助教授 高橋 哲郎
http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/ecm/back/2001jul/tokushu/
韓国企業の構造調整
金融危機発生の発端は財閥企業の経営破綻にあっただけに、構造改革においては、借入依存度の高い財務構造やグループ企業間の相互債務保証などに代表される不透明な経営体質に対しても徹底的にメスが入れられることになった。
まず、1998年2月に財閥の構造改革に関する5大課題が発表され、5大財閥(注)およびその取引先銀行はこの方針に沿って構造改革を進める方向で合意している。具体的には企業透明性の増大、相互支払い保証の解消、財務構造の改善、業種専門化、経営陣の責任強化である。こうした方針を確定した上で、金融機関と同様、企業についても存続の可否を政府が選別することとなった。
(注)5大財閥とは現代、三星、大宇、LG、SKを指す。このうち大宇は99年8月にグループは倒産・解体した。
特に注目すべきは基幹産業における過剰設備・重複投資を解消し、効率化を図る観点から、5大財閥における事業の再編成(通称ビッグディール)である。財閥間で重複している事業を交換・集約し、過剰設備投資の解消を図っている。1998年9月には設備過剰等が著しい7業種(半導体、石油化学、自動車、航空機、鉄道車両、発電設備・船舶エンジン、石油精製)の事業再編成の第1次案が発表、同12月には5大財閥傘下の系列264社を2000年末までに約130社へ半減させると発表した。
ビッグディール現状は以下のとおりである。
(1) | 半導体では、現代電子がLG半導体を予定通り吸収合併した。新会社の名称は現代半導体となり、1999年10月14日に発足した。→ハイニックス半導体 経営難 |
(2) | 石油化学は、現代石油化学と三星総合化学を統合し、外資を誘致する予定であった。外資企業としては三井物産が期待されていたが、焦点の出資額で調整がつかず、実現の可能性が遠のいた。 |
(3) | 航空機では、現代、三星、大宇の3社を統合して韓国航空宇宙産業という新会社を設立したが、外資の誘致が遅れ、運転資金に問題があり、系列企業の整理統合が未解決である。 |
(4) | 鉄道車両では、現代精工、大宇重工業、韓進重工業の3社が統合、1999年7月12日に新法人の韓国鉄道車両が発足した。しかし、負債の圧縮が遅れている。 |
(5) | 発電設備と船舶エンジンでは、現代重工業と三星重工業が、同部門を韓国重工業に譲渡し、韓国重工業は新会社設立後に民営化される予定である。 |
(6) | 石油精製は、現代がハンファの同部門を予定通り吸収したので同業界は、SK、LG、現代、双龍の4社体制になった。 |
(7) | 最も注目された自動車産業は三星自動車が大宇グループの家電事業部門である大宇電子との事業交換を撤回し、1999年6月30日に日本の会社更生法にあたる法定管理を釜山地裁に申請して倒産したため白紙となった。 |
現代石油化学と三星総合化学の統合計画 経緯
化学工業日報 1999/1/13
現代石油化学/サムスン総合化学 韓国トップ財閥の石化統合
今年第2・四半期にも実現 カギ握る外資導入
韓国の現代石油化学とサムスン(三星)総合化学の統合計画が98年9月に発表されてからほぼ半年が経過した。現在は両社の統合に向けた企業価値の評価などが進行している。「今年第2・四半期中には統合法人が実現する可能性が高い」(関係筋)といわれるが、そのためには統合法人への外資導入がカギを握る。ただ両社の抱える負債が膨大なことなどから外資導入は難航が予想され、一部事業の切り売りなどが行われる可能性も出ている。
外資比率50%超に
現代石油化学とサムスン総合化学はともに大山工業団地に石油化学コンビナートを持つ。ナフサクラッカーのエチレン年産能力は現代が100万トン、サムスンが50万トンで、両社の合計能力は国内全体の31%に相当する。また合成樹脂のポリオレフィンの合計能力は155万トンで国内能力シェアは27%に達する。
両社の統合計画は昨年夏に韓国・全国経済人連合会が主管して進めた五大財閥の構造調整案策定のなかで決まった。当初計画では統合新会社に現代石化とサムスン総合化学がそれぞれ30%を出資し、残り40%の枠に外国企業の出資を導入する予定だったが、両社による昨年末の実務者協議で、外資の出資比率を50%以上に引き上げる方針などが固まった。
統合法人への参画外資企業としては三井物産の可能性がたびたび報じられてきた。三井物産は現代石化とサムスン総合化学との間で単一法人設立に向けた外資誘致に協力するという内容の覚書を結んでいる。ただ三井物産では、統合法人への出資に関して「依頼があったので検討はしているが、決まってはいない。全く白紙だ」としている。
膨大な負債ネック
現地報道などによると、統合法人への導入が予定されている外資の規模は15億ドル以上とされる。両社が抱える負債合計額は5千億−6千億円といわれ、合計売上高の2倍以上で負債比率は700%を超える。外資導入は経営権を外国企業に譲ってでも生き残るための苦肉の策ともいえるが、15億ドル以上を日本企業1社だけで出資するのは難しく、関係筋でも三井物産の出資の可能性は低いとの見方も出ている。
一部事業の売却も
統合法人実現のためには、外資による資本参加に道筋をつけると同時に、金融機関からの借入金をどれだけ出資に転換できるかにかかっている。ただ債務の出資転換に関しては、大財閥優遇との批判も多いため、韓国政府は現代石化とサムスン総合化学に対してまず負債比率を下げることを要請している。そこで浮上しているのが一部事業などの売却だ。現代石化の塩ビモノマーおよびポリマー事業については、ハンファ総合化学が買収に関心を示している。(最終的にLGが買収した)
米国の経営コンサルタント会社のADLと、国内のセドン会計法人による両社の企業価値の評価作業は近く終了する予定だ。統合法人設立に向けた具体的な作業はこれからが本番といえるが、トップ財閥同士の石化事業統合という、かってない歴史的作業になるだけに、その成り行きが注目されている。
化学工業日報 1999/8/18
韓サムスンー現代 石化統合計画遅れる
難航する外資導入 政府も支援に難色示す
韓国のサムスン総合化学と現代石油化学の統合計画が難航している。統合会社への参画候補になっている三井物産との交渉が長引いているうえ、韓国政府が両社の統合に対する支援に難色を示しているためだ。両社の統合推進事務局は、今年9月にも単一法人を発足させることを目指していたが、遅れは避けられない見通し。実現のカギを握る外資導入問題が暗礁に乗り上げれば、計画自体が頓挫する可能性もある。
サムスンと現代は約1年前に石油化学部門を統合して単一法人を設立する計画を発表。両社の石化会社は大山の工業団地で隣接してコンビナートを構えており、統合会社はエチレン年産能力で155万トンの巨大石化メーカーになる。ただ、両社合わせた負債は邦貨ベースで5千億円以上もあるため、外国企業からの資本を導入して財務を改善することが決まっている。
三井物産は両社の統合計画発表後に、外資導入に協力する内容の覚書を交わし、自らの出資可能性なども検討。両社が外部の経営会計機関を使って実施した企業価値評価とは別に独自の調査も行い、8月初頭に投資提案書を出した。ただ、三井物産側の企業価値評価結果や投資規模が両社の期待に沿わなかったため、新たな投資提案を待って再交渉することとなっている。
関係筋によると、三井物産が米国の経営コンサルティング会社KPMGに委託した調査結果では、サムスン総合化学と現代石油化学を合わせた企業価値は約1兆ウオン(1ウオンは約0.1円)で、サムスンと現代側が先に実施した外部調査結果の約半分という。また、サムスンと現代は1兆ウオン以上の出資を期待していたが、三井物産の提案した出資規模は5千億ウオン以下だった。
サムスンと現代はまた、韓国政府の支援による債務の出資転換にも期待していたが、これも難しい状況という。ハンファ総合化学と大林産業がナフサ分解事業の統合やポリオレフィンの事業交換を自主的に進めるなか、政府がサムスンと現代だけに特恵的な処遇を与えると不公平が生じ、大財閥優遇との批判が起こるのは必至だからだ。
両社は当面、三井物産との交渉の成功に期待をかけているが三井物産のスタンスは両社がまず財務内容を改善することを求めているようだ。仮に三井物産との交渉がうまくいかなかった場合、新たな外資企業を探して事業統合計画を継続推進するか、計画を白紙に戻して単独での生き残り策などを模索するかーといった複数のシナリオが考えられる。
9月中の統合が難しくなるなか、最近では年内実現に時期が修正されたとも伝えられている。今後の成り行きについては関係者の間でも不透明なようだが、韓国2社サイドでは「三井物産が参画してくれるのがベスト」としている。
Chemnet Tokyo 1999/12/22
現代とサムスンのビッグディール、日韓4者で基本合意書に調印
年内めどにパイロットカンパニーを設立
韓国の現代石油化学とサムスン綜合化学の石油化学事業統合、いわゆるビッグ・ディールについて、このほど現代石油化学、サムスン綜合化学、三井物産、住友商事の4者が基本合意した。年内をめどにパイロットカンパニーを設立する見通しで、この結果、事業統合計画の枠組みがようやく固まった。
12月20日付けで報じた、日本側と韓国側(債権団)の意見が分かれていた(1)統合新会社の輸出権および(2)韓国産業銀行を経由したローンの実施の2点については、(1)は日本側が今後の協議で検討していく、また(2)では韓国側がスムースな形でローンを実施できる方法を考えると提案、日韓双方が歩み寄った格好となった。
なお統合推進本部は、今回の基本合意に沿った形で来年3月をめどに統合新会社を設立する計画。石油化学は1年以上かかる難産となったものの、韓国の財閥間のビッグディールは他の業種を含め、それぞれが決着したことになる。
2000/12/21 朝鮮日報
ビッグディールは失敗作
1998年、激しい議論の末に誕生した、いわゆる「ビッグディール企業」の多くが、赤字累積と統合の後遺症で経営に困難をきたしている。そのため、結局、政府主導の‘強引なビッグディール(大規模事業交換)は失敗作’という批判を免れられなくなった。
大山(デサン)団地内の現代とサムスンの石油化学工場統合と外資誘致は全て失敗、石油化学ビッグディールは原点に戻った。