備蓄義務
 石油精製業者(年間生産量10万kl以上)、石油元売(年間販売量250万kl以上)、石油輸入業者(免責数量なし)には、石油備蓄法により前年の扱い量の70日分の石油備蓄義務が課せられる。精製会社と元売が分離しているグループは精製55日、元売15日で義務日数を区分、精製・元売りは70日、輸入業者は月次輸入数量の70日分(1年間累積)が義務量になる。民間備蓄のほかに、石油公団が全国10カ所の基地で合計5千万klの国家備蓄を行っている。2001年度の民間石油備蓄目標は約3,965,6万kl、LPGは50日分、197.9万トンである。

「指定石油製品」とは(揮発油、ナフサ、ジェット燃料油、軽油、灯油、重油)およびプロパン、ブタンを主成分とする石油ガス(液化したものを含む)を指す。

2003年3月14日   読売新聞

石油備蓄 開戦時には 協調放出 不足穴埋め

◆IEA26か国で114日分/日本は「国家備蓄」取り崩し

 イラク情勢緊迫化を背景に、石油の不足や一段の価格上昇が懸念されている。経済産業省の村田成2次官は13日の記者会見で「有事の場合に国際エネルギー機関(IEA)と協調して対応する基礎が出来ており、(今回も)不測の事態が生じないようにする」と、緊急時には柔軟に石油備蓄の放出を進める考えを示した。日本などの各国が準備する石油備蓄の仕組みを探った。(岡田 章裕)

  世界の石油備蓄状況は。

  石油備蓄は、米欧日などの26の主要な石油消費国が加盟する国際エネルギー機関(IEA)が中心となって進めており、各加盟国に、輸入量から輸出量を引いた純輸入量ベースで90日分以上の備蓄を義務づけている。IEA全体では40億バレル程度、114日分の備蓄がある。政変などで輸入が滞った場合、備蓄分の石油を市場に放出、緊急時の対応を図る。

  日本の備蓄は。

  国家備蓄と民間備蓄の2種類がある。民間備蓄は1972年から始まった。石油会社などに70日分以上の備蓄を義務づけており、昨年12月末で78日分(4079万キロ・リットル)ある。国家備蓄は78年からで、石油公団傘下の第3セクター会社が、全国10か所の備蓄基地に同92日分(約4793万キロ・リットル)の石油を保有している。日本で「何日分の備蓄」と言う場合、過去1年間の消費量をベースに計算、官民で約170日分となる。官民で備蓄しているのは、中東依存度が高く、守りを厚くする必要があるためだ。

  他国の備蓄状況は日本より進んでいるのか。

  IEAでは、年末までの需要予測を含む年間消費量をベースに計算した各国の備蓄を公表しているが、日本の備蓄日数は官民計126日となり、日数ではスイス、オランダ、フィンランドに次いで世界4番目、量では6億3370万バレルでアメリカに次いで2番目だ。韓国も日本のように民間備蓄と国家備蓄の両方があるが、イタリアのように民間備蓄だけか、ドイツのように国家備蓄だけという国が大半だ。最大の消費国・アメリカは国家備蓄だけで6億バレル程度を保有、民間が自主的に行う「在庫」分を含めると16億1660万バレルで、備蓄量は世界で最も多い。アジアで備蓄制度がある国は少ないが、中国などが導入を検討している。

  緊急時に備蓄はどう活用されるか。

  日本はIEAと連携して国家備蓄を放出する方針だ。単独で備蓄分を放出しても、市場に与える影響は限定的なため、IEA加盟国と足並みをそろえる考えだ。IEAは91年の湾岸戦争時にも備蓄を協調して放出しており、その際、日本は民間の備蓄義務日数を4日分、引き下げた。だが、今回は国家備蓄を優先して放出、市場に確実に石油が出回るようにする。備蓄義務日数を引き下げても、先高観が強ければ、民間の石油会社が市場に石油を売却するとは限らないためだ。入札を使って、民間の石油会社などに売却(放出)する予定だ。

  放出の基準は。

  石油市場では投機的な取引も行われるので、IEAは「価格の高騰だけにとらわれて備蓄を放出することはしない」と需給状況を見極める方針だ。

 イラクの原油輸出量は日量200万バレル程度で、イラク攻撃があった場合、イラクに隣接するクウェート北部の油田も閉鎖される可能性が高いため、世界で日量270万バレル分の原油の不足が生じる見込みだ。産油国で作る石油輸出国機構(OPEC)は11日の総会で、イラクの原油輸出が停止した場合、需給安定に万全を期すことを決めたが、OPECの余剰生産力は日量約250万バレルで、不足の完全解消は難しい。このため、IEAは備蓄を早期に放出、石油不足を穴埋めすることになるだろう。

  放出したら、価格は安定するのか。

  すでに原油価格は1バレル=30ドル台後半まで上昇しており、イラク攻撃が始まれば、さらに高騰する可能性が高い。イラク攻撃の期間がどの程度になるかなど不確定な要素が多く、消費国側が備蓄の放出を決めても、価格の高騰が抑えられるかは不透明だ。攻撃が短期で終われば、急騰した価格は暴落する可能性が高いが、長期化した場合、備蓄をどのぐらいの間、どんなタイミングで放出し続けるかは難しい判断になりそうだ。


2005/9/3 日本経済新聞夕刊

備蓄放出 日量200万バレル即日実施 IEA発表
 原油よリ製品優先

 国際エネルギー機関(IEA)のマンディル事務局長は2日の記者会見で、加盟国の戦略石油備蓄を協調放出すると発表した。規模は日量200万バレル相当で即日実施する。米南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」による供給途絶が理由で「原油よりも石油製品の備蓄取り崩しを優先する」と表明した。日本は全体の約12%を分担、米国に次ぐ貢献となる。
 
日本は12%分担

 協調放出は1991年1月の湾岸戦争時以来14年ぶりで、74年のIEA創設以来2回目。ベネズエラのストやイラク戦争などの供給途絶時には取り崩しを見送ったが「今回はサウジアラビアなど石油輸出国機構(OPEC)の増産余力が乏しい」(マンディル氏)として踏み切った。
 IEAによると、世界の原油需要は日量約8400万バレル。今回の放出は2.4%に相当する。当面30日間実施する予定だが、15日後に継続するか打ち切るかも含めて規模などを再点検する。
 各国の分担は消費量に比例して決めた。被災国である米国が最大の約44%を負担する。米国に次ぐ約12%を担う日本は日量24万バレル相当を放出する。
 日本の場合、国家備蓄は原油。ガソリンなど石油製品の放出を優先するようIEAが求めていることに対応し、日本政府は石油製品を備蓄している国内の民間石油会社に協力を要請する。
 IEAは輸入量から輸出量を差し引いた「純輸入」の90日分を備蓄するよう加盟国に求めている。現在、加盟国全体で純輸入量の118日分に相当する40億バレルを備蓄。日量200万バレルの放出を30日間続けても計6千万バレルと全体の1.5%程度なので、「十分な備蓄水準を維持できる」とIEAは説明している。
 IEAは第一次石油危機の反省を踏まえて74年にキッシンジャー米国務長官(当時)がエネルギー安全保障の観点から設立を提唱。産油国のOPECに対抗する消費国側の国際機関で、近年はOPECとの意見交換にも力を入れている。

米の危機感決め手 産油国、増産余力乏しく

 国際エネルギー機関(IEA)の加盟26カ国が石油備蓄放出へ14年ぶりの協調行動をとる決め手になったのは、米国発の石油危機を何としても封じ込めたいという米ブッシュ政権の強い危機感だった。サウジアラビアをはじめとする主要産油国に増産余力がほとんどなくなっているという状況も、決断を強く後押しする形になった。
 備蓄放出に向けてパリのIEA本部とワシントンの米エネルギー省との間で大詰めの協議があったのは、米東部時間1日午後から深夜にかけてのことだった。
 ボドマン長官は2日、備蓄売却の記者会見で「われわれからIEAに(備蓄放出の協調行動を)頼んだわけではない」と語ったが、複数の関係者は米側の強い意欲が協調決定の決め手になったと明かす。市場への介入を嫌うブッシュ政権は発足以来、戦略石油備蓄の取り崩しに一貫して慎重だった。それだけに今回の決定の背景からは、米国内の石油供給、とりわけガソリンの供給途絶のリスクに対する米政権の強い危機感がうかがえる。
 ハリケーン被害を受けたメキシコ湾岸の石油関連施設の復旧にどれだけ時間がかかるのか不透明ななか、原油高騰の主役になっている投機筋の動きを封じ込める狙いがあったことも間違いない。
 IEA加盟国による石油備蓄の協調放出は、過去の石油危機を教訓に基づいて作られた供給途絶防止の最後の切り札。湾岸戦争が起きた1991年以来、IEAがこの伝家の宝刀を抜いたことはなかった。
 だが世界的に石油需要が増え続け、主要産油国の増産余力がわずかになるなかで、IEAの石油備蓄の取り崩しによる供給安定効果も過去に比べて弱まりつつある。過去最高値圏の1バレル70ドル前後まで上昇した原油価格を持続的に大きく押し下げる力は期待できない。

米、備蓄3000万バレル売却

 ボドマン米エネルギー長官は2日、米国内の石油供給途絶を防ぐため、戦略石油備蓄(SPR)を取り崩して原油3千万バレルを市場に売却すると発表した。国際エネルギー機関(IEA)加盟国による協調行動の一環で、米の戦略備蓄売却はクリントン政権時代の1997年以来、8年ぶり。
 エネルギー省は入札を実施して民間の石油会社に売却する。これに加えて910万バレル相当を石油会社に貸し付ける。米国は現在、約7億バレルの戦略石油備蓄を原油で保有しており、売却・貸し付けを合わせて約6%を取り崩すことになる。米国の石油需要の約1.9日分に相当する。
 米政府が石油の安定供給に全力を挙げるなか、ハリケーンで打撃を受けたメキシコ湾岸の製油所、パイプラインなどの復旧作業も進み始めた。



民間備蓄の義務緩和へ 政府

 日本政府は3日、IEAの決定を受け、石油元売り会社などと備蓄放出に向けた本格的な調整に入った。ガソリンなど石油製品を迅速に放出できるように、約半分が製品で貯蔵されている民間備蓄の放出を優先する。5日にも石油備蓄法で義務づけた備蓄日数の引き下げを決め、市場への放出を促す。
 日本の備蓄は6月末時点で国内消費量の約171日分ある。このうち国家備蓄は91日分、民間備蓄は79日分。概数のため合計は一致しない。今回は経済産業相が一定期間、備蓄義務日数の数日分の引き下げを決める予定だ。石油会社はその分を出荷できることになる。
 国家備蓄が原油なのに対し、民間備蓄は約半分がガソリンなどの製品。米国の石油製品不足も踏まえ、輸送手段が確保できれば米国にガソリンを輸出するよう石油会社に求める。



国内元売り輸出を検討 ガソリンなど

 新日本石油、出光興産など国内の石油元売り各社は経済産業省の要請を受け、ガソリンなど石油製品の備蓄放出準備と対米輸出の検討に入った。国際エネルギー機関(IEA)加盟国による協調放出に伴うもので、各社は週明けにも量や仕向け先など具体策を詰める。