PVC News 2002年6月
 高濃度塩ビ廃棄物の再利用で住友金属工業(株)と共同実験(VEC)

 ガス化溶融システムで安全処理。生成ガスやスラグ、塩素の再利用も

   塩ビ100%までの高濃度塩ビ廃棄物を安全に処理して、生成ガスやスラグ、塩素に至るまで再利用するリサイクル・システムの開発で、塩ビ工業・環境協会(VEC)と住友金属工業(株)が現在共同実験中。同社のガス化溶融システムを利用した新たなリサイクル技術の確立へ、業界の期待が集まっています。  
生成ガスを高効率発電に利用  
 ガス化溶融システムとは、廃棄物を高温で熱分解(ガス化)、溶融することにより、焼却残渣(スラグ)の量を大幅に減らす一方、生成ガスを回収して発電などに再利用するもので、次世代のごみ処理システムとして、今最も注目を集めている新技術のひとつです。
 住友金属のガス化溶融システムは、生成ガスを高エネルギーガスとして回収し、高効率発電に利用したり、ガスの成分を調整して化学合成原料としてケミカルリサイクルしたりできるのが大きな特徴で、生成ガスのカロリーを高めるため、ガス化溶融には90%の高濃度酸素が用いられます。
 また、上吹きランスと呼ばれる同社独自の技術も、生成ガスの均質化に大きな効果を発揮します。これは、炉の真上から突き出た槍状(ランス)の供給口から、廃棄物に向けて直接酸素を吹きつけるやり方で、炉の側面からだけ酸素を供給する一般のシステムに比べて、廃棄物の集中的かつ安定的なガス化溶融を可能にしています。コークスなどの助燃材の必要がなく、1炉で廃棄物をガス化溶融するコンパクトなシステムです。
 ガス中のダイオキシンについては、1,150℃〜1,200℃程度に高温制御された炉の上部において分解、無害化されるほか、次の減温塔でガスの温度を一気に170℃程度まで冷却し、ダイオキシンの再合成を防止する仕組みになっています。
塩ビ100%でも安定操業を確認  
 住友金属のガス化溶融システムは、一般廃棄物、産業廃棄物いずれにも対応可能で、既に一部の自治体や産廃処理業者に設備の納入が決定しています。
 このように、廃棄物の種類を問わず、高温で安全に処理できる同社のシステムは、プラスチックや塩ビの処理に極めて適したシステムです。今回のVECとの共同実験も、こうした同社の優れた技術を塩ビ廃棄物、特に今後発生量の増加が見込まれる建築解体系塩ビの処理とリサイクルに利用する狙いから、環境事業団の次世代廃棄物処理技術基盤整備事業の助成(平成13年度)を受けて取り組まれているものです。
 実験は、同社の総合技術研究所(茨城県波崎町)において、まず昨年度、処理量2トン/日の小型設備で開発試験を行った後、今後は2トン/日の小型設備と併行して20トン/日の設備で実証試験が続けられます。
 試験の主なテーマは、(1)炉の安定操業技術(供給原料のサイズ、投入方法など)の確立、(2)ダイオキシン、重金属類の無害化技術の確立、(3)クリーンな高エネルギーガスや塩素、溶融スラグなどの回収技術の確立、の3点。
 試験サンプルには塩ビパイプ、農業用ビニル、塩ビ電線被覆材などの使用済み塩ビ製品のほか、塩ビ濃度を5段階に調整したRPF(廃紙とプラスチックの混合燃料)、さらに都市ごみの廃プラスチック(塩ビ約6%)などが用いられ、それぞれについて各種のデータ収集が行われました。
 設備のフローは図に示すとおり。まず、投入しやすい大きさに破砕、成形した原料を、1,000℃〜1,200℃で熱分解する一方、1,150℃〜1,200℃で生成ガスを無害化します。スラグの溶融温度は約1,500℃となっています。これまでの実験で確認された主なポイントは次のとおりです。
・塩ビ100%でも安定操業できること。
・ダイオキシンはガス中および固体生成物中でも国の規制値以下であること。特にガス中のダイオキシンは規制値0.1ngーTEQ/Nm3に対して0.01ng未満の低いレベル。
・スラグも無害化され、重金属をほとんど含まない高品質スラグを回収できること(スラグは路盤材としてリサイクル可能な品質)。
・エネルギーガスの熱量は2,000kcal/Nm3を大きく上回っており、高効率発電や化学原料への利用が十分可能であること。
・塩素回収の基礎試験では、いずれのサンプルでも90%以上の塩素がガス中に移行しており、塩酸として回収、再利用できる見込みであること。
 なお、最後の塩素の回収技術については、平成13年度は基礎実験のみが行われており、今年度から実際の設備を用いて回収試験が実施される計画となっています。
 塩ビ廃棄物のガス化溶融から塩素の再利用まで一連の技術をコンパクトに一体化したシステム開発の試みが完成すれば、塩ビのリサイクルはさらに大きく加速することとなります。

 


Chemnet Tokyo 2003年10月09日

住友金属、含塩ビ廃材のガス化溶融技術開発の仕上げに
HCL装置を設置して塩素の回収試験に着手へ

 住友金属工業は16日から同社の波崎研究センター内で、含塩ビ廃材のガス化溶融技術の開発の最終的な仕上げの実験活動をスタートすることになった。
 
 これは、土砂などの異物が付着するなどで汚れがひどく既存の技術ではリサイクルが容易でない使用済み塩ビパイプなどの塩ビ廃材を高温で熱分解ガス化し、クリーンな高カロリーガスや塩素を回収して有効利用していくという世界でも例のない高効率の新プロセスを確立するためのもの。
 高カロリーガスは、ガスエンジン等の高効率発電あるいはメタノールやジメチルエーテル等の合成原料としての再利用が、また一方の塩素は、工業用塩酸や塩ビモノマー原料としての有効利用がそれぞれ大きく期待されている。
 
 同社は独自の研究で基礎技術を確立、昨年春以降はそれを工業化レベルに引き上げるための技術のブラッシュアップに取り組んできた。ダイオキシン類の発生は基準値以下にきちんと抑えていける点が確認されており、また、塩ビ廃材に含まれる不燃物は全て高品質スラグに再生される設計にもなっている。このため、環境省が同技術の持つ総合的な有意性を評価して平成14年度に「次世代廃棄物処理技術基盤整備事業補助金」を交付、加えて、今回の最終的な仕上げに必要な実験(確認試験)に対しても引き続き同補助金を交付することにしている。

 16日からスタートする実験は、これまでの技術改良によって(1)回収する塩素中の不純物の低減(2)塩素によるバグフィルターの腐食の防止(3)塩素からHCLの100%回収--の3点が確実に実現できるようになったかどうかを確認するためのもの。
 同社では、来年1月末までに合計10回の実験を実施する計画。実験は、既存の1日当たり2規模の処理処理能力を持つガス化溶融プラントにHCL精製装置を設置して進めていく。
 狙い通りの技術が確立されると、多くが埋め立て処理されるにとどまっている含塩ビ廃材が効率よく経済的に高カロリーガスや化学原料として再生・活用されていく道が開けるだけに実験結果が注目される。