日本経済新聞 2002/12/2                          

創業最新事情 シリコンバレー
 バイオ企業破たん相次ぐ 収入源見えずVC慎重に

 インターネットと通信の米二大バブルが破裂した後も投資が活発だったバイオ分野で、資金の流れに異変が起きている。上場バイオ企業が事業モデルを確立できずに相次ぎ経営破たん。総額では堅調なベンチャーキャピタル(VC)投資も投資条件が厳しくなった。業界に緊張が走っている。
 人の胚性幹細胞(ES細胞=万能細胞)の生産技術で有名なシリコンバレーの
ジェロン社。米ナスダックに上場して7年目だが、収入が研究開発費を大きく下回り赤字が続く。収入の大半は大企業からの研究費で、キヤッシュフローを生むには至っていない。
 活動が続いたのは同社の将来性に賭ける投資家が資本市揚を通じ資金供給してきたため。だが「バイオバブルは昨年から収縮過程に入り、資本市場はしばらくあてにできない」と、デビッド・グリーンウッド最高財務責任者の表情は厳しい。
 危機感を抱いた同社は研究開発の重点を早期に収益化できるがん治療薬の臨床開発にシフトした。年々膨らむ研究開発費などを削るため、6月には人員を3分の2の100人に減らした。臨床試験の第一段階にある、がん細胞の増殖を止める免疫療法薬(一種の抗原)を早急に製品化する考えで、それまでは製薬会社との共同創薬プロジェクトなどで資金を確保する。
 近い将来の具体的な製品像があるジェロンはむしろ「勝ち組」といえるのが、昨今のバイオ業界の状況だ。
 米カリフォルニア州最南端のサンディエゴ郊外のリゾート地、ラ・ホーヤに本社を置く
アドバンスト・ティッシュー・サイエンシズもナスダック上場企業だった。だが、10月に米破産法第11条の適用を申請。11月に清算することを決めた。
 同社はヒトの皮膚や内臓などの組織を体外で「生育」する技術を開発。心臓内部の血管再生やけがの治療への応用が期待され、再生医療の「早期実用化組」とされた。同時テロなどで株式市場が冷え込んでいた2001年11月までは第三者割当増資を軸に資本市場から資金調達できていた。
 ところが年が明けると、同社の事実上のエンジェル役だったウィスコンシン州政府投資委員会も増資に応じなくなった。6月には新たな普通株式発行枠を登録し増資に備えたが、その枠を使うことなく倒産した。ほかにも今春以降、ナスダック上場の再生医療ベンチャー数社が破産法を申請している。
 シリコンバレーの有カバイオ・医薬VC、スカイライン・ベンチャーズの共同創業者である金子恭規氏は「通用しない事業モデルの会社を次々と上場させたツケが回ってきた」と指摘。「今後は巨大製薬企業からベンチャーまで再編が加速する」と予言する。
 全米VC協会などの調べではバイオ向けのVC投資額は今年1−9月の合計で22億7200万ドルと、前年同期の21億4900万ドルを上回る。ただ、個別案件を見ると株価評価が大きく下がっている模様。「夢だけで資金は集まらない。近い将来の収入源と大きな目標の両方が必要」(金子氏)という。
 日本が「産官学」挙げての「バイオ振興」を唱えている時に、本場の起業環境は急速に厳しくなっている。

 


日本経済新聞 2003/1/25

バイオVB発掘・投資 三菱商事など国際育成組織に加盟 開発・販売連携探る

 三菱商事、オリンパス光学工業、JSR、信越化学工業がバイオベンチャー育成を目的とする米国の国際交流組織に加盟した。有力ベンチャー企業への投資や、技術開発や販売面での提携戦略に活用する狙い。この国際組織は米国の医療やバイオ産業に詳しい専門家をそろえており、日本の4社は組織に加わることで先端バイオ技術の事業化につなげていく。


 国際交流組織は
コスモス・アライアンス(本部ワシントン)で、フランク・ヤング米食品医薬品局(FDA)元長官らの呼びかけで発足した。大企業とベンチャー企業の両方が数万ドルの会費を払って会員になり、相互に交流する。専門家が大手企業からベンチャー企業への投資の仲立ちもする。
 ベンチャー企業はゲノム(全遺伝情報)に基づく診断技術開発のパナシア・ファーマシューティカルズ、抗体医薬開発のエルシス・セラビューティクスなど11社がすでに参加している。会員は紹介制でアライアンスの専門委員会の審査を経て入会する。
 日本の4社はこれまでに会員のベンチャー企業4社に対し計650万ドルを出資した。三菱商事の出資額は計300万ドル。同社はアジア地域における同組織の窓口となり、日本や韓国、中国などの企業に組織の仕組みなどを紹介、新会員候補を探す役割も担う。
 三菱商事は今回の組織参加に合わせ、2月に全社的なバイオ戦略統括部門を設立、バイオ関連事業の拡大をめざす。オリンパスは光学関連の技術をゲノムやたんぱく質解析に生かしたいとしている。JSRは診断などの医療分野を次世代事業と位置づけており、信越化学もバイオを情報技術(IT)に続く有力分野として重視している。
 同組織は投資利益を主目的とするベンチャーキャピタルとは異なり、会員間の遵携を通して世界のバイオ産業を発展させるのが狙いだという。会社組織として発足したが、非営利組織(NPO)に近い運営形態をとるとしている。大企業の会員は現在は日本の4社にとどまるものの、韓国などで4,5社の入会を審査中。ベンチャー企業は毎年10−20社のぺースで増やす計画だ。

欧米 先端技術選別 「目利き」活躍
 バイオ分野の先端技術は変化が激しく、高度の専門知識が必要なうえにすぐには製品に結びつかないものが多い。大企業が自社ですべてを手掛けるのはリスクが大きく、ベンチャー企業との提携で必要な技術を取り込むのが.一般的だ。
 しかし、有望なベンチャー企業の選別は難しい。欧米ではバイオ分野の研究開発や事業に携わった経験がある「目利き」が、産官学に広がる豊富な人脈を生かして提携を仲立ちしている。日本ではそうした人材が不足しており、ベンチャーとの提携も成功確率が低くなりがちだとされる。
 米国に発足したコスモス・アライアンスはフランク・ヤング米食品医薬品局(FDA)元長官をはじめとする「目利き」がいるのが特徴。会員企業の事業戦略作りを支援するため国際ビジネスに精通した専門家もそろえた。
 各社が個別に相手を探すよりも、効率的に有カベンチャーと交流できる利点がある。
 日本国内でもバイオベンチャー企業は増えているが、大手が提携や投資に乗り気なのはアンジェスエムジーやトランスジェニック、オンコセラピー・サイエンスなど一部に限られる。日本バイオ産業人会議など産官学が加盟する横断的な組織も活動を本格化しているが、政策提言や海外視察が中心で提携仲介や事業支援の機能を持つところまではいっていない。