毎日新聞 2006/12/12

「生物化学コンビナート」構想
 合成樹脂原料 石油→植物に 石化業界・大学など 7年後実現を目指す

 石油の代わりにサトウキビなどの植物を原料にしてプラスチック(合成樹脂)を作る計画を、石油化学業界が中心になって進めている。「石油化学から生物化学コンビナートヘ」と銘打ち、温室効果ガスの排出を大幅に抑制するのが狙い。2年後の国家プロジェクト採用、その5年後の構想実現を目指す。

◆280万トンC02削減
 石油化学企業など101社で作る
財団法人・化学技術戦略推進機構が昨年、「バイオマスコンビナート構想」として提起。民間19社と5大学などが今秋から共同で技術開発に着手した。
 サトウキビの搾り汁を発酵させてアルコールを作り、これを化学反応でプラスチックの主要原料のエチレン、プロピレンに変える。構想では、ブラジルや東南アジアなどに約41万ヘクタール(ほぼ徳島県の面積)のサトウキビ畑を作り、日本の国内消費量の約1割にあたる100万トンのエチレンなどを製造。原油由来の原料に置き換える。
 環境面の試算では、サトウキビ畑を開発・生産する過程で、石油を採掘、運搬し精製する場合に比べて二酸化炭素(CO2)の排出量が約30万トン多くなる。しかし、廃棄・焼却時には、石油使用の場合は約315万トンのCO2が発生するのに対し、生物由来の製品はCO2の排出量がゼロ扱い。差し引き285万トンの温室効果ガス削減が見込めるという。これは、京都議定書が定める日本の削減目標の約4%にあたる大きな量だ。

◆南北格差是正も
 一方で、サトウキビからエタノールを作り、ガソリンに代える「バイオ燃料」が注目され、国際的に"奪い合い"になる可能性がある。折り合いは付けられるのだろうか。
 同機構は、現地に化学プラントを併設して南北格差の是正にもつなげるなど、国際協調で奪い台いの解消を目指す。さらに、高収量サトウキビの開発など他のバイオ研究の成果を生かして、熱帯雨林開拓の問題も回避したいと説明している。
 同機構の磯貝宰・部長研究員は「作ってすぐ燃やすよりも、プラスチックの材料に使えば製品の寿命分だけ長く炭素を固定しておける」と利点を強調。国内のすべての自動車燃料に3%のエタノールを混入する計画とほぼ同量のエタノールで、エチレン100万トンが作れる。さらに、2020年には年産600万トンに普及させたいという。

◆「日本がリード」期待
 エチレン、プロピレンは「石油化学の出発点です」と堀内等希夫・部長研究員は語る。ここから台成されるポリエチレン、ポリプロピレンは家電の外装や電線の被覆材、レジ袋まで、さまざまな工業製品に使われている。例えば自動車では、部品に占める合成樹脂比率が80年代以降急増しており、バンパーや燃料タンクなど全部品の約8%が合成樹脂製。その50%以上がポリエチレン、ポリプロピレンだ。
 課題は、アルコールをプロピレンなどに変える化学技術の開発だ。東京工業大資源化学研究所の岩本正和副所長(触媒化学)は、セラミックスを触媒に使い、エタノールをプロピレンに変換する基礎技術の開発に成功。工業化のための研究を近く始める。これがバイオマスコンビナートの中核技術になると見込まれている。
 石油化学は欧米の特許に押さえられてきたが、「うまく進めれば日本が世界をリードできる日が来る」と岩本副所長は話している。


化学技術戦略推進機構  http://www.jcii.or.jp/
Japan Chemical Innovation Institute

戦略推進部 産学官連携して化学技術革新を先導し、社会の持続可能な発展と産業の競争力の強化をはかります。

社会の持続可能な発展と日本の産業競争力強化」を可能ならしめる技術革新を先導する新たな化学技術体系を創出するために、次の事業を行っています。
・ 戦略部門: 将来ビジョンに基づく総合的かつ体系的な科学技術戦略の策定
・ 交流部門: 化学技術分野の産学官および関連する産業間の交流と連携
・ 研究部門: 戦略的に研究・開発すべき化学技術のプログラム/プロジェクトの企画

研究開発事業部 産学官共同研究事業体を組織して、産業技術研究開発関連事業の研究開発を推進しています。
高分子試験・評価センター 公的機関として蓄積された確かな技術と充実した設備で、高分子材料および製品全般にわたる試験・評価を行っています。

 

JCII News 76号  http://www.jcii.or.jp/jcii/data/no76.pdf

ST(サステイナブルテクノロジー)戦略
−持続可能な発展をめざす科学技術−

 平成1 5年度化学技術戦略推進会議の諮問事項として「重要領域における中長期的技術戦略の策定」が出されたことを受けて、戦略策定委員会の下に村橋俊一岡山理科大学教授を座長とする
GSC ( Green & Sustainable Chemistry) 戦略部会を設置し、GSCを骨格とするST (サステイナブルテクノロジー)戦略を提言した。
中長期的視野から産学官が連携して取上げるべきGSC重要課題をまとめたものであり、環境負荷を削減する桁上がりの革新的な化学技術であるGSCは、持続可能な発展をめざす科学技術( ST;サステイナブルテクノロジー)の基盤的な技術のひとつであると主張し、ST戦略を第三期科学技術基本計画に反映させることを目指した。

 科学技術基本計画は、平成8年度より策定されている国家としての科学技術に関する5年間毎の基本計画であり、平成1 3年度に策定された第二期科学技術基本計画では8つの重点分野(@ライフサイエンス分野、A情報通信分野、B環境分野、Cナノテクノロジー・材料分野、Dエネルギー分野、E製造技術分野、F社会基盤分野、Gフロンティア分野)が設定された。重点分野のうち
国家的総合戦略としてライフサイエンス分野がバイオテクノロジー( BT )戦略、情報通信分野がインフォメーションテクノロジー( IT )戦略、ナノテクノロジー・材料分野がナノテクノロジー( NT )として強力に推進されており、今回第4の柱として環境分野、製造技術分野、エネルギー分野を融合した、持続可能な発展をめざす科学技術戦略としてST戦略の推進を提言している。
 環境分野においては問題を未然に防ぎ予防的対策となる研究開発を推進すること、製造技術分野はものづくりの大切さを再認識して基礎的な研究も推進すること、エネルギー分野はクリーンエネルギーや再生可能エネルギーの拡大を推進することなどを主体に、それぞれの境界領域の技術を含めた開発により持続可能な社会の実現に貢献することを目標としたものである。平成1 8年に策定される予定の第三期科学技術基本計画に反映させることを目指し、平成1 6年3月に提言書を作成した。
 中長期戦略を策定するに当たり、産業の国際競争力強化、アジア・オセアニアとの連携等を意識したGSC の中長期戦略を検討する事とし、中長期としては10年〜 20 年、あるいは未だ産業界では競争領域に至っていないような新しい技術を対象として検討した。
 各委員から提案された課題や、JCII や
GSCN ( GSCネットワーク)にて今まで検討してきた調査報告書、ロードマップやイニシアティブG SC - 21などより抽出した課題は、300 件程あげられた。これらの課題を分類し、まとめることにより中長期GSC戦略を策定したが、第三期科学技術基本計画に反映させるには、化学分野の研究技術開発戦略だけに特化することなく、より高位の概念である持続可能な発展をめざす科学技術としてST戦略を提言し、GSCがその基盤技術のひとつであると主張した。
 地球の限りある資源を消費してエネルギーと有用な製品を生産している現状において、持続可能な社会とは、資源とエネルギーとを最も効率的に使用した循環型社会ということもできる。これらのエネルギー変換や物質変換はいずれも化学的変化によりなされており、その改善には化学・GSC技術に因るところが大きいからである。
 抽出した課題は、表1に示すような4つの分野の技術開発構想とGSC関連高機能材料開発技術とに分けてまとめた。それぞれの技術分野について、重要課題とロードマップなどを作成した。また、最重要課題を選定して、分野毎に何のためにやるのか、何をどこまでやるのか、その実現によって何が期待できるのかなども考察した。

クリーンエネルギー技術開発構想
 枯渇性資源問題や排出される炭酸ガスなどの地球温暖化問題などへの対応から、エネルギー・ソースは現実的な「多様性」が求められ、クリーンエネルギーへの期待は大きい。
 水素をエネルギーとして利用することは、環境負荷が低いことより注目されているが、水素の貯蔵、放出、白金に代わる燃料電池触媒はもとより、水素生産も化石資源からカーボンニュートラルなバイオマスからの生産、水の分解からの生産、究極の目標である太陽光を直接利用することによる生産などの技術開発テーマがあり、化学的なアプローチに因るところが大きい。
 水素社会に加えて、太陽光利用エネルギー、地熱や自然エネルギーの利用に関しても最適材料の開発などに化学的対応が重要である。

機能創製技術開発構想
 物質を変換して新しい機能を創製する際の省資源、省エネルギー、安全対策などはGSCとしての対応が重要な領域である。
 物質変換プロセス技術は、触媒、反応場(溶剤と反応駆動力)、分離・精製・濃縮が中核であり、製品の収得は投入原料量に近い量が得られる(Eファクターが小さい)こと、工程を減らしてエネルギーも余りかけない条件で生産されること、有害物を用いないことなどがGSCの目的であり、革新的な化学・化学技術により追求されている。
 大量生産・大量消費・大量廃棄の時代から脱却して循環型社会に移行させるには、高性能な材料が求められている。例えば、ポリプロピレンのような汎用樹脂で種々の性能を発現するスーパーポリマーの開発、液体と固体の界面摩擦抵抗を減らすことのできる材料により移動や輸送時のエネルギーを大幅に削減する技術などが挙げられる。

再生可能資源総合利用技術開発構想
 化石資源に代わってバイオマスからの変換は鋭意進められているが、
バイオマスコンビナート構想として大型の総合プラントと地方における分散型高効率小規模プラント及びマリンバイオファーム構想を提案している。
 マリンバイオファームは、海洋資源の総合的な活用を目的としており、海洋分解性プラスチックのネットを海洋に浮かべて微小藻を着生させ、分解されてプランクトンを繁茂させるなどの手法にて魚類や海洋植物を増殖させるものである。
 生分解性プラスチックでは、生分解される環境や時間により調整できる機能を付与した高機能・高性能な生分解性を有する材料の開発などにより飛躍的に用途が拡大される。

安全・安心を支える技術開発構想
 人と環境の健康・安全・安心は、持続可能な社会の基本であり、その目的でもある。
 食物、水、空気などに対する心配要因を取り去る事は難しいことではあるが、これらの課題に対して解決策を提供できるのは化学技術のみであり、21世紀の最大の課題であって、従来の後追いの科学から脱却して、予防的措置、予知、評価を充実させていくことが重要である。

GSC関連高機能材料開発技術
 ナノテクを中心とした高機能材料と医用材料関連技術課題が挙げられたが、これらの分野はJCIIのブラットホームを活用して第19期日本学術会議物質創製研連の有機材料委員会にて検討されることとなったことより付記するに留めた。
 ST戦略の目標とGSCの推進により達成される期待効果を検討したが、個々の要因の定義を明確にすることは難しく、現状のデータも余り無い上に2 0年先を予測することは難しいことではあるが、再生可能エネルギーの増加、再生可能資源の増加、製品・副生成物の最終処分量の削減、製造プロセス・製品から環境負荷を削減する事などを謳った。

 戦略策定にあたり、GSCに関する欧米の国策や大手化学企業の戦略を認識しておくことは不可欠であり、アジア・オセアニアとの連携や資源の利活用したり、更に中国など世界の工場となりつつある現状において利便性や生産性の追及型社会から循環型社会への転換を求めたりする戦略も必要なことより、株式会社三菱総合研究所に委託して海外のGSC動向の調査を行いこの提言に反映させた。
 GSCは、米国ではアカデミアを中心にしたグリーンケミストリー(GC)、欧州では産業界を中心にしたサステイナブルケミストリー(SC)として積極的に推進されている。中でも本年1月にはドイツ環境省がOECD と共催でSC ワークショップを開催し、「REACHのような法規制をてことしたSC の推進」を提案している。更に3月にはアメリカで、「GC R&D 促進法案」が共和党と民主党員の連名で提出され、4月に下院を通過し、現在上院で審議中であり、「GC R&D Program」としてGCに関する公的研究機関への投資を一本化して強化するとともに、教育やテロ対策を盛り込んだGC推進策が出されている。
 欧米で政策としてGSC を推進していることを鑑み、開発途上国において今までの消費型社会の二の舞を踏まないような主導的役割をはたすためにも、今ここで日本からS T戦略を推進し、アジア・オセアニア圏における持続可能な発展に貢献することを提言している。
 国策を作成し、審議されておられる方々への紹介することが重要と判断して、内閣府や関係省庁を始目、総合科学技術会議の先生方、その専門委員会の委員の方々、理化学研究所などの公立研究所、科学技術振興機構などの機構、学術会議や学界、大学、企業の有識者にご説明を行い、国策に反映していただく努力を続けている。
 これらの紹介において、ST 戦略は概ね賛成していただいたが、GSC以外の科学分野における戦略や社会的なしくみや制度などの戦略まで問われることもあった。
 JCIIでは、専門部会を設けて提示している技術の深堀を行いナショプロ提案も含めた具体化を検討している。学術会議や科学技術振興機構( JST )にて、同様な検討が進められているとの話もあり、今後とも行政を中心にして持続可能な発展に資するあらゆる科学技術の推進が検討され、GSCの推進などが次々に具体化していくことを期待している。

表1 中長期GSC課題 
(1)クリーンエネルギー技術開発構想 <エネルギー供給源の多様化>
  @水素に代表されるクリーンエネルギー
  A太陽電池、バイオマス発電、地熱発電、風力発電の利活用
  B燃料電池の利活用技術システム
  C太陽光利用技術

(2)新機能創製技術開発構想 <物質変換技術と超高性能材料技術>
  @新規触媒、新規反応場などによる物質変換効率の大幅に向上
  Aエネルギーの究極的な利活用技術
  B物質変換技術分野における抜本的省エネルギー・省資源化技術
  C超高強度軽量材料・超長寿命材料・低摩耗/低摩擦材料などの物質や材料の有する限界性能の発現追求"
  D高精度先端分析機器及び解析ソフトの開発

(3)再生可能資源総合利用技術開発構想 <再生可能資源の利活用の拡大と新規開発>
  @バイオマスの総合的利用技術
  Aバイオプロセスを利用した高機能材料の開発
  B海洋資源を含む再生可能資源の効率的な増産技術システム

(4)安全・安心を支える技術開発構想 <食物、水、空気などの安全・安心、予知・評価技術>
  @有害化学物質などを使用・排出しない製造技術、製品設計技術開発
  A 安全性・環境影響予知・評価システムの開発
  B安価で迅速な環境モニタリング技術の開発
  C 生態系代謝機能シミュレーターの開発

(5)GSC関連高機能材料開発技術
  @ナノテク・電子材料関連技術
  A医用材料技術
  <学術会議高機能材料部会物質研究連絡会に委託>

 


グリーン・サステイナブル ケミストリー ネットワークとは
  英文名称:Green & Sustainable Chemistry Network, Japan
  略称:GSCネットワーク(GSCN)

GSCネットワークは、日本における グリーン・サステイナブル ケミストリー の活動を効果的かつ強力に推進するために、化学系の学会・団体および国立研究所により、2000年3月に設立された任意団体です。

GSCN News Letter No.16 http://www.gscn.net/letter/newsletter/newsletter-No16.pdf

ST / GSC 技術開発プログラム構想

 平成16 年3 月にGSC の中長期戦略としてST(サステイナブル・テクノロジー)戦略を策定したが、そのST 戦略を具体化するためのプロジェクトや課題を束ねた提案としてST/GSC 技術開発プログラム構想を平成17 年3 月に策定した。省資源・省エネルギー、枯渇性資源のセーブ、リスク削減、安全性などを志向する桁違いで革新的な技術課題を提案している。

 ST 戦略は、GSC の中長期戦略を中核とする技術として、IT、BT、NT に次ぐ第4の重点施策とすることを提案し、第三期科学技術基本計画に反映させることを目的として昨年3 月に策定された。関係省庁を初め、総合科学技術会議、多くの有識者の方々にご提案し、(社)日本経済団体連合会による『第三期科学技術基本計画への提案』にもST の重要性が謳われている。昨年度は、このST 戦略の具体化に向けた技術課題を検討し、本年3月ST/GSC 技術開発プログラム構想を作成した。

ST/GSC 技術開発プログラム構想技術課題
@革新的物質変換プロセス技術(水・炭酸ガスと太陽光の科学技術を目指した物質変換技術の開発)
  ハイドロジェンテクノロジー、オキシジェンテクノロジー、新規融合反応場技術、触媒技術
A革新的物質変換プロセス技術(革新的省資源・省エネルギー技術を実現する極限性能材料の創製技術の開発)
  有機・無機ハイブリッド材料の創製、グリーントライボ材料の創製
B再生可能資源活用技術(カーボンニュートラルな原料資源活用技術の開発)
  バイオマスコンビナートシステム、ソーラーマリンファームシステム、生体機能活用プロセス技術、マイクロバイオリアクター技術
C健康・安全・安心を支える科学技術
  高圧流体−マイクロリアクター技術による危険物の安全な製造技術、GSC評価手法の開発

 検討した課題は、GSC の中長期戦略で、かつ企業の競争領域ではない新規技術とし、4分野に分類し、ロードマップを作成した。
 提案している技術課題をいくつか例示する。

「光触媒を用いた水の分解による水素製造」;
  燃料電池用などに注目されている水素を、炭酸ガスを発生するような石油系の原料からではなく、水を原料として可視光により効率よく分解して製造する技術。
「三相界面電解法による過酸化水素の合成」;
  燃料電池型の三相界面電解反応法により過酸化水素を生産する際、活性を異にする活性酸素が再現性良く得られることより、副生成物を発生させない精密酸化を可能にする技術。
「バイオマスコンビナート技術システム」;
  エチレンやプロピレンを、年間100 万トンレベルでカーボンニュートラルなバイオマスから製造することを目的として、最適植物の選択と育種、代謝制御工学により可能とする技術。
「GSC 評価手法」;
  GSC により改善されたプロセスや製品の改善程度を、環境負荷、有害性や安全性、経済性や社会性に関して比較評価する手法。