毎日新聞 2005/9/2

“ガラクタDNA”が大量作成  RNA、遺伝子を起動  理研など解明

 マウスの全遺伝情報(ゲノム)を解析した結果、これまでは何の役にも立っていないと考えられていた部分から、遺伝子の発現を指令するなど重要な機能を持つ約2万3000種類ものRNA(リボ核酸)が作られていることを、理化学研究所など11カ国の国際研究チームが発見した。RNAはDNA(デオキシリボ核酸)の遺伝情報を読み取ってたんぱく質を合成する「脇役」と考えられてきたが、この考えを根底から覆す成果で、2日付の米科学誌サイエンスに掲載される。
 ヒトの遺伝子の数は、ショウジョウバエとほぼ同じ約2万2000個だが、こうしたRNAの機能の違いが、複雑な生命活動を生み出しているとみられる。
 DNAはたんぱく質を作る設計図で、DNAの持つ全遺伝情報をゲノムと呼ぷ。しかし実際にたんぱく質を作るのに必要なDNAはこくわずかで、ヒトの場合、必要なDNAは全体の約2%に過ぎず、残りは「ジャンク(がらくた)」とされてきた。
 理研ゲノム科学総合研究センターの林崎良英主任研究員らは、マウスのゲノムを詳しく分析し、計4万4147種類のRNAが作られていることを発見。このうちの53%に相当する2万3218種類は、たんぱく質合成に関与せず、
遺伝子をいつ、どこで発現させるかを指令するなどの重要な役割を担っていた。ゲノムの少なくとも約7割が、RNAに転写されていることも突き止めた。
 今後、ヒトのRNA解析が進めば、さまざまな病気の治療に役立つ可能性があるという。

中村義一・東京大医科学研究所教授(遺伝子動態分野)の話
 これまでのゲノム研究ではヒトとショウジョウバエ、ほ乳類と植物など、遺伝子の数がほとんど変わらない生物の違いが説明できなかった。陰に隠れていた複雑な生命活動のネットワークを浮き彫りにし、高等生物の精密な仕組みを明らかにする第一歩といえる。

DNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)

 生物の遺伝情報は、細胞核にある二重らせん構造のDNAによって記億されている。4種類の塩基が並び、このうち遺伝子と呼ばれる特定の部分の塩基配列を、特殊な酵素が写し取ってRNAを作り(転写)、さらにRNAの塩基配列に対応したアミノ酸が別種のRNAによって運ばれてきてたんばく質が合成される(翻訳)

生命解明へ新鉱脈
 遺伝子の発現指令 糠尿病など新薬に道

 理化学研究所などの国際研究チームが発見したマウスのDNAのがらくた部分から作成される大量のRNA(リボ核酸)には、病気に関連する遺伝子の発現を指令するものも含まれる。研究チームは、これらのRNAがゲノムのどこで作られるかという「地図」のデータベース化にも成功した。
 これまでの研究で、たんぽく質合成にかかわらないRNAは約100種類見つかっていたが、まれな存在と考えられていた。今回たんぱく質合成に関与しないRNAが数多く見つかり、研究チームは「ゲノム研究の新時代が始まった」と話す。
 医学的に注目されるのが、RNAがペアになった「二本鎖RNA」だ。このRNAは、同じ配列を持つRNAを分解してたんぱく質を作らせなくする機能や、病気を防ぐ抗体として働くなど、多彩な機能が確認され始めた。この機能を利用し、網膜の加齢黄斑(おうはん)変性症やC型肝炎の治療薬の研究も進んでいる。
 また、二本鎖RNAは互いに連動して増減する性質を持つため、働きをコントロールしやすい。マウスでは約7割が二本鎖RNAであることが判明した。ヒトもマウスも同じほ乳類のため、同様になっている可能性が高いという。
 今回完成したRNAのデータベースは広く公開される。このデータベースを基にすれぱ、アルツハイマー、糖尿病、動脈硬化など病気に関与するRNAを作り出す部分のDNAも直接操作できるため、画期的な新薬開発が期待できる。