2007年02月19日 asahi.com

マウスで細胞から歯再生 東京理科大のグループ

 マウスの胎児から歯のもとになる細胞を取り出して培養し、おとなの歯を再生させることに、東京理科大の辻孝・助教授(再生医工学)らの研究グループが成功した。作製の成功率は100%で、歯の中に血管や神経などもできていた。臓器を人工的に再生させる技術につながると期待される。18日付の米科学誌ネイチャーメソッズ電子版で発表する。

 胎児期にはさまざまな臓器や組織が、上皮細胞と間葉細胞という2種の細胞の相互作用でつくられる。辻さんらはこれに着目。マウス胎児のあごの歯胚(はい)から取り出した両細胞を酵素でばらばらにし、どちらも高密度の細胞塊にしたうえで、区分けしてコラーゲンのゲルに入れると、培養に成功することを突き止めた。

 さらに、この細胞塊を50匹のマウスの腎皮膜下に注射。14日後に、すべてで歯の形成を確認できた。歯の再生研究は他にもあるが、作製率は20〜25%にとどまっていた。

 また、生体内で育てた歯や、生体の外で人工培養を続けた細胞塊を、おとなのマウスの歯を抜いた跡に移植すると、歯が高い頻度で生着した。この歯の内部には血管や神経のほか、クッションなどの役割を果たす歯根膜も再生できていた。

 グループは今回、同様の手法で毛の再生にも成功した。今後、肝臓や腎臓などの臓器づくりも目指すという。


2007年02月19日 asahi.com

血1滴・30分で遺伝子を診断 理研チームが手法開発

 一滴の血液があれば30分で遺伝子レベルの微妙な個人差を診断する手法の開発に、理化学研究所の林崎良英プロジェクトディレクターらの研究グループが成功した。18日付の米科学誌ネイチャーメソッズ電子版に掲載される。横浜市立大と共同で、肺がん用抗がん剤イレッサ(一般名=ゲフィチニブ)の効果を予測する診断キットも開発しており、3月から臨床研究を始める。

 DNAの配列にはわずかな個人差(SNP)がある。最近の研究で、薬の効き方や副作用、病気のかかりやすさに関係していることがわかりつつある。SNPを診断する従来の方法は、DNAを精製、増幅させて、特定のSNPを検出するのに1時間半〜数日かかっていた。

 林崎さんらは、増幅能力の高い酵素を見つけるなどして、こうした作業を大幅に短縮した。増幅時の間違いを防ぐ工夫も加え、精度を高めることもできた。診断装置の小型化もしやすいという。

 診断時間が30分と短くなったことで、手術中に個人差によるがんの特性を分析し、対応を検討することも可能になる。  


平成18年2月19日 理化学研究所/ダナフォーム/横浜市立大学

血液一滴から30分で薬の効き目を診断:新規遺伝子診断技術「SMAP法」を開発
- 肺がん組織を用いて抗がん剤の診断試薬の臨床試験も開始 -

◇ポイント◇
国産のSNP検出型超高速等温増幅法の開発成功により、血液一滴から(検体採取後)30分で薬の効き目を、安価、簡便、迅速、正確に診断が可能。
省エネ型技術でもあるSMAP法は、個人診断用の携帯電話接続型マイクロカードにも適用可能
横浜市大先端医科学研究センターとの共同研究で臨床試験を開始

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)ゲノム科学総合研究センター遺伝子構造・機能研究グループ(林ア良英プロジェクトディレクター)と理研ベンチャーの株式会社ダナフォーム(宇治田日侶史代表取締役社長)を中心とする共同研究グループは、薬効や副作用の度合いなどを、血液一滴から30分以内に診断する「SMAP法※1」を開発しました。米国の科学雑誌『Nature Methods』オンライン版に2月18日付け掲載されます。この成果は、個別化医療(オーダーメイド医療)の実用化に革命をもたらす技術として期待されます。SMAP法は、血液一滴以下(数μL程度)を前処理試薬と混合し加熱処理後、そのまま増幅試薬に添加し、60℃で反応させるという簡便で迅速な国産のSNP※2の診断技術です。この独自開発した技術は、(1)DNA増幅そのものがSNPのシグナルであるというSNP特異的DNA増幅反応が等温(60℃)で進行、(2)独自で開発したきわめて合成能力の高い酵素により増幅反応が30分以内に終了、(3)DNAの抽出・精製工程が不要で操作が簡単、(4)高感度定量的で、がん細胞と正常細胞の比を手術中に診断可能という特徴があります。また、既存のリアルタイムPCR装置※3をそのまま利用でき、なおかつPCR法のような温度上下のコントロールが不必要なため、増幅時間の短縮及びエネルギー消費量の削減が可能であり、将来携帯電話の電池で動く携帯電話接続型マイクロカードにも適用できる地球環境にもやさしい技術です。そのため、個人による検査結果を携帯電話で医療センターに送信し適切な医療指導を受ける高度化された個人別地域医療の実現に道が開かれました。さらに、本法は、尿検査テステープ感覚で簡便に外来SNP診断ができ、初診で個別化医療を目指した薬の処方が可能となります。
 また、この技術を用い、独立行政法人理化学研究所、公立大学法人横浜市立大学(宝田良一理事長)と株式会社ダナフォームが、平成16年10月から共同研究をおこない、この度、肺がんの術中診断を可能にする抗がん剤感受性診断試薬の開発にも成功しました。平成19年3月より横浜市立大学先端医科学研究センターにて臨床試験を開始し、個人別地域医療の実現を目指します。
 今後、SMAP法のすべての商業権をダナフォームが独占実施いたします。

1. 背 景
 人間の遺伝情報は、約30億個の塩基対で構成されており、個人ごとにその配列は異なります。この配列の違いを「遺伝子多型(いでんしたけい)」と呼び、特に、一塩基の違いを「SNP」(Single Nucleotide Polymorphism、一塩基多型:スニップ)と言います。この違いによって体内の酵素の働きなどが異なり、病気のかかりやすさや薬の効き方に個人差があらわれます。SNPを簡便、迅速に臨床現場で調べることができると患者個人の体質に合った治療を行う「オーダーメイド医療※4」が実現でき、副作用の回避が可能になるとともに、数兆円といわれる副作用によって発生する医療費が軽減され、年々増大する医療費を抑制する効果が見込まれます。
 通常、SNPを調べるためには、血液からDNAを精製して増幅し、その増幅したDNAを様々な方法で解析することが必要でした。そのため、作業が煩雑で、それぞれの試薬や特別に設計した高価で特殊な装置が必要となり、診断結果を出すまでに1時間半から数日程度かかっていました。そこで研究グループは、術中診断、外来初診診断を可能とする診断時間の短縮(検体採取後30分以内)、操作の簡便化、将来個人別地域医療の実現を視野に入れた携帯電話接続可能マイクロカードを目指した、新規遺伝子診断システムの開発に取り組んできました。

2. 研究手法と成果
 研究グループは、血液一滴以下(数μL程度)を前処理試薬と混合し加熱処理後、そのまま増幅試薬に添加し、60℃で反応させて簡便・迅速にSNPを診断する新規技術「SMAP法」を開発し、特許を取得しました。
 SMAP法は、標的SNPをゲノム配列上で挟み込む特徴的DNAの配列を持ったプライマーセットと、理研の林ア研究グループが新規開発した極めて強いDNA合成能力を持ち、かつ細胞懸濁液成分による増幅反応阻害を非常に受けにくいDNA合成酵素を用いることにより、DNA精製処理もいらず、検体懸濁液から直接増幅を可能とする特徴を持ちます。さらに一塩基の違いを正確に認識する酵素の存在下で増幅反応を行うことにより、非特異的な増幅を抑制し、SNP診断の精度を完璧なまで向上させることに成功しました。SMAP法は、SNP特異的DNA増幅法の致命的な欠点であるバックグラウンド増幅を完全抑制したことにより、血液からDNAを抽出・精製することが不要で、血液採取後30分以内に診断結果を出すことができる世界でも例のない最速の国産の診断法です。
 またSMAP法は、PCR装置のような既存の装置で実施可能であり、さらに、等温増幅法であることから、エネルギーを消費する冷却装置が要らない省エネ型技術です。そのため、SMAP法は、将来的には個人診断用の携帯電話接続型マイクロカード作成も可能となると考えられます。
 さらに、理化学研究所と株式会社ダナフォームと横浜市立大学医学部の3者はSMAP法を用い、がん抑制効果の切れ味のよさとともに、間質性肺炎という副作用が社会問題となった抗がん剤(ゲフィチニブ※5)について、効果及び副作用の出現を診断するために上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子内の変異の検出キット開発を試みました。特に、手術検体の直接迅速診断による検出試薬を開発することに成功したので、その薬効評価検討を横浜市立大学先端医科学研究センターが中心となり、3月1日から開始する予定です。このEGFR微量変異検出試薬は、抗がん剤(ゲフィチニブ)の効果予測診断に有望です。さらに、がん特異的DNA変異をマーカーにして、リンパ節転移の有無のみならず、正常細胞中のがん細胞の含有比率まで計測するポテンシャルを有しています。個数組織をすりつぶして前処理試薬に加え、加熱処理した検体を用いた場合、30分程度で正常細胞:がん細胞比が、99:1程度(がん細胞率1%)の検出が可能です。
 なお、本研究成果には、理化学研究所「産業界連携プロジェクト」の一環から得られたものが一部含まれています。
 SMAP法は理化学研究所と株式会社ダナフォームと湧永製薬株式会社(草井由博代表取締役社長)の3者で、平成14年9月から共同研究を開始しましたが、SMAP法のすべての商業権をダナフォームが独占実施することになり、製品販売を開始します。

◇SMAP試薬の特徴◇
1) 短時間で診断
 SNP増幅型直接DNA増幅法の致命的な欠点であるバックグラウンド増幅を完全抑制したことによりDNA増幅そのものがSNPのシグナルであるという基本原理の採用が可能となりました。このため、世界最高速のDNA診断が実現。しかも、独自で開発した新型酵素が細胞懸濁液に阻害効果を受けないため、DNAを精製する必要も無く、さらに、極めてDNA合成能力が高いため、採血後30分以内という短時間で診断結果が出ます。従来は血液からDNAを精製して増幅後、DNAを検出するような複数の作業工程を経る必要があり、診断時間として半日以上必要でした。

2) さまざまな遺伝子診断にも応用可能
 プライマーを変えるだけで、ゲノムDNA上のすべてのSNPの検出が可能。

3) 省エネ型技術
 等温増幅法であることから、エネルギーを消費する冷却装置が要らない省エネ型技術です。そのため、SMAP法は、将来的には個人診断用の携帯電話接続型マイクロカード作成も可能となると考えられます。

4) 操作が簡便
 血液からDNAを精製することなく、直接2種類の試薬を混ぜるだけの簡便な操作です。

5) 精度が高い
 複数の酵素を利用し、一塩基の違いを正確に判定しています。

6) サンプルは微量
 診断に必要な血液の量は一滴以下(数μL程度)と微量です。

7) 研究支援
 プライマー設計ソフトを無料公開していますので、研究目的のために、自由に利用することが可能です。

8) 将来性
 きわめて少量の反応液で結果が出るため、将来は携帯電話もしくは携帯電話サイズの超小型で安価な装置で診断が可能になります。

3. 今後の期待
 SMAP法検査は、PCRサーマルサイクラーのようなエネルギーを消費する冷却装置が要らない等温増幅法であることから、省エネ型技術です。極めて少量の検体で結果がでることから、将来的には個人診断用の携帯電話接続型マイクロカード作成などによる超小型化、さらに、検査結果データの通信をかねて携帯電話接続型も可能となると考えられます。したがって、専門的な大病院のみならず、小さな診療所などでも手軽に行うことができます。また、診断時間が短いため、がん手術中にがんの転移の有無や抗がん剤(ゲフィチニブ)の感受性などの診断結果の提供、外来患者の短い診察時間においても薬の効き目や副作用の可能性を迅速に判定できるなど、幅広い利用が期待されます。また、病院だけでなく、遺伝子組み換え食物、食品水質安全検査、個人同定・法医学・科学捜査用途、個人による体質診断、さらにはSNP診断のみならず、バクテリアやウイルスなどの感染症診断などさまざまな用途が考えられます。
 今後は、SMAP法の実用化を目的とし、株式会社ダナフォームが研究用試薬を大学病院や診療所などに提供し、臨床現場で使用できる試薬の開発及び事業化を行います。そしてこの日本独自の迅速遺伝子診断技術が世界に広まることにより、オーダーメイド医療の実現に寄与することが出来ると考えられます。

<補足説明>

1 SMAP法(SMart Amplification Process)
理化学研究所で開発された等温DNA増幅法であり、新規な国産技術。複数の酵素を組み合わせて、一塩基の違い(SNP)を正確に識別しながらDNA増幅させる。血液などの臨床検体からでもDNAを精製することなく、30分以内と短時間で正確に増幅させることができる。
 
2 SNP(Single Nucleotide Polymorphism、一塩基多型):スニップ
約1000塩基に1か所の頻度でゲノム全体に分布しているDNA配列の違い。その違いはタンパク質の機能や遺伝子発現に変化をもたらすと考えられ、疾患に対する感受性や薬剤に対する反応に違いが生じると推測されている。
 
3 リアルタイムPCR装置
短時間でDNAを増幅する「PCR法」を応用した技術。 増幅反応の過程で増幅量をリアルタイムで計測することができるため、標的DNAを即時に定量することが可能。
 
4 オーダーメイド医療
同じ薬でも、体質によって、効く人、効かない人、副作用が出てしまう人など、いろいろ効き方が異なることがある。その個々人の体質差に合わせて、最も効果的な治療・投薬を目指した医療のこと。
 
5 ゲフィチニブとEGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)
2004年に抗がん剤の一種のゲフィチニブの有効性とEGFR(上皮成長因子受容体)の遺伝子の変異が関連しているという論文が報告された。