日本経済新聞 2008/3/10
携帯電話 ソニー、ドコモ向け撤退 開発・生産中止 国内事業を縮小
市場淘汰 大手に波及
ソニーはNTTドコモ向けの携帯電話機事業から事実上撤退する。年内に開発・生産を打ち切り、国内の携帯事業を大幅に縮小して主力の海外事業に注力する。飽和傾向を強める日本の携帯電話機市場には約10社のメーカーがひしめき、収益環境が悪化している。すでに中下位の三洋電機と三菱電機は撤退を決めており、市場淘汰の流れが大手にまで波及してきた。
ソニーは折半出資会社である英ソニー・エリクソンを通じ、世界で携帯電話を「ソニー・エリクソン」ブランドで製造・販売している。国内ではドコモとKDDI(au)に製品を供給。春商戦向けの新型機はドコモに3機種、KDDIに2機種を納入している。
このうちドコモ向けについて、今年夏に発売する製品を最後に開発・生産を打ち切る。国内の携帯メーカーから製品を調達して「ソニー・エリクソン」ブランドでドコモに供給し続ける考えだが、自社での開発・生産を中止してドコモ向けから事実上撤退する。
ソニー・エリクソンは音楽再生機能付きの機種が人気を集め、2007年に世界で前年比4割増の約1億300万台の携帯電話を販売した。世界シェアは9%で4位に食い込んでいる。しかし国内販売は07年度で360万台程度と世界出荷の3%程度にすぎず、シェアも6位どまりだった。
国内携帯市場は普及率が約8割に達して出荷が年5千万台程度で頭打ちになり、今後は縮小が見込まれる。一方で通信事業者から先端機能を盛り込むよう求められるため、メーカーの開発費は1機種あたり100億円に達し、投資の回収が難しい状況になっていた。
ソニー・エリクソンの07年の売上高は日本円換算で約2兆300億円、純利益は約1700億円。うち日本事業の売上高は2千億円弱とみられる。ソニーは日本からの全面撤退も検討したが、KDDIとは音楽配信事業で提携していることなどから、KDDI向けの開発・生産は当面続けることにした。しかし日本事業のほぼ半分を占めるとみられるドコモ向けを中止。事業の軸足を欧米や中国など海外に完全に移して収益力を高め、世界首位のノキアなどとの競争を勝ち抜く考えだ。
携帯業界では再編・淘汰が加速、国内7位以下の三洋電機が京セラに携帯事業を売却し、三菱電機も撤退を決めた。世界大手の一角のソニーまで国内事業の大幅縮小という異例の策に出ることで、今後再編・淘汰が一段と広がるとみられる。
携帯電話出荷台数シェア | |||||||||||||||||||||||||||
世界 2007年 約11億4000万台 IDC調べ
|
日本 06年度 約5000万台 MM総研調べ
|
携帯メーカー 縮む国内、選択迫られる 海外再挑戦も厳しく
ソニーが国内事業縮小に動くことで、日本の携帯電話機市場は淘汰の時代を迎える。世界の携帯市場は2ケタ成長を続けているが、国内は今後縮小する見込み。日本勢で唯一、世界大手と互角に戦うソニーには国内縮小という選択肢があるが、国内向けにほぼ特化している他の携帯メーカーは、今のやり方を続けるのか、海外市場に再挑戦するのか厳しい選択を追られsぴだ。
携帯電話の市場は世界が約11億4千万台、国内が約5千万台。世界の5%に満たない「小さな市場」に日本勢だけで約10社がひしめいている。今月撤退を発表した三菱電機の携帯部門は売上高1千億円を計上しながら、2008年3月期は営業赤字の見込み。国内4位であるNECの携帯部門も前期まで3期連続の営業赤字で、大手でも収益確保に苦労している。
昨秋にはNTTドコモやKDDIが端末価格を上げて通信料を下げる新料金体系を導入。今後消費者の買い替えサイクルが延び、国内携帯需要はさらに2割程度減るともいわれる。ドコモはシヤープやNECなど複数メーカーから製品を調達しており、ソニーも開発・生産を打ち切りやすい環境にあった。国内向け携帯を製造するソニー子会社の美濃加茂工場(岐阜県美濃加茂市)はビデオカメラなども生産しており、人員削減にはつながらない見込みだ。
ソニーは01年にスウェーデンの通信機器メーカーであるエリクソンと携帯事業を統合。欧米で販売を伸ばし「世界5強」に名を連ねた。しかしNECなど他の国内勢は海外事業に失敗、04-06年に相次ぎ海外から撤退した。海外メーカーと渡り合うのは難しく、厳しい選択を迫られる。
事業再編に関するお知らせ
携帯電話端末事業の終息と経営資源の戦略的シフトによる成長戦略の加速
<当社携帯電話端末事業の概要>
(1) | 出荷台数:07年度 約210万台(見込み) |
(2) | 売上高:07年度 約1,000億円(見込み) |
(3) | 従業員数:約600名(開発・製造部門、及び営業部門を含む) |
※ | 上記従業員につきましては、原則として当社内で戦略的事業を中心に再配置を行う予定です 。 |
経営資源の戦略的シフト
当社は、携帯電話端末事業の経営資源を、当該事業で培った技術・ノウハウの特長・優位性が最大限に活用可能で、かつさらなる成長・発展が期待できる分野に対して、今後
戦略的にシフトいたします。
具体的には、携帯電話端末事業の技術・ノウハウを、NGN※1関連機器や携帯電話基地局をはじめとする通信インフラ事業、CCTV※2を含むトータルセキュリティ事業、カーマルチメディア事業、FA(ファクトリーオートメーション)システム事業、鉄道車両情報通信システム事業等に活用することにより、これら事業のさらなる強化・拡大を図っていきます。
これにより、当社は、引き続き通信システム事業本部を中心に、今後技術的にさらに発展すると考えられる通信関連事業を強化・拡大していくとともに、当該事業で蓄積した技術的付加価値を当社の得意分野に展開することで、成長戦略を一段と加速してまいります。
※1: | Next Generation Network(次世代ネットワーク) IPネットワークの利便性・経済性を 活かしつつ、信頼性・安定性を確保した次世代の情報通信ネットワーク |
※2: | Closed Circuit Television(閉回路テレビジョン) 映像監視用カメラに用いられる方式 |