佐賀大学理工学部付属海洋温度差エネルギー実験施設
http://www.se.saga-u.ac.jp/rigaku/kaiyou/kaiyou2.html


佐賀大学では、エネルギーや環境問題に関心のある学生とともに新しいエネルギーシステムの実現にむけて、積極的な取り組みをおこなっています。
現在、附属海洋温度差エネルギー実験施設において、海水の表層と深層との温度差による海洋熱エネルギーを電気エネルギーに変換するシステム、海洋温度差発電( Ocean Thermal Energy Conversion, 通称 OTEC)に関する研究をおこなっており、この研究は、世界が注目しています。

日本の経済水域での海洋温度差エネルギーの総量は、試算によると1年間に1014kWhになります。これは石油に換算すると約86億トンに相当し、2000年に日本が必要とするエネルギーの約15倍に相当します。仮に、日本経済水域内の温度差エネルギーの1%を利用するとすると、年間8600万トンの石油を節約できることになります。

海洋の表層部の温海水と深層部の冷海水との間には約10〜25℃の温度差がある。この海洋に蓄えられた海洋温度差エネルギーである熱エネルギーを、電気エネルギーに変換する発電システムが海洋温度差発電です。図3に基本的な海洋温度差発電システムを示します。主な構成機器は、蒸発器、凝縮器、タービン、発電機、ポンプであります。これらの構成機器はパイプで連結され、作動流体としてアンモニアが封入されています。作動流体は、液体の状態でポンプによって蒸発器に送られます。そこで、表層の温海水によって加熱され、蒸発し、蒸気となります。蒸気は、タービンを通過することによって、タービンと発電機を回転させて発電します。タービンを出た蒸気は、凝縮器で約600〜1000mの深層より汲み上げられた冷海水によって冷却され、再び液体になります。この繰り返しを行うことで、化石燃料やウランを使用することなく海水で発電することができます。

佐賀大学では、新しいサイクル(50kW温度差発電実験装置)を佐賀大学方式として考案しました。このサイクルは、1994年海洋温度差発電国際会議(IOA‘94)で発表以来「ウエハラサイクル」と呼ばれています。この新しいサイクルを用いた海洋温度差発電が実用化されれば、海洋温度差発電の経済性は飛躍的に向上することが期待されています。また、これらを温泉水発電にも応用しています。

 

2003年 佐賀大学海洋エネルギー研究センター完成
2001年 NIOTのインド洋上1MW実証プラント完成、運転開始予定
2000年 (株)ゼネシス、佐賀大学が保有するOTECに関する国有特許の専用実施権を取得
1999年 伊万里で国際海洋温度差発電会議開催
1997年 インド国立海洋技術研究所(NIOT)と佐賀大学がインドにおける1MWのOTEC実証プラントに関する技術提携を締結し、プラントの建設に着手
1995年 佐賀大学の新サイクルプラント実験開始(4.5kW)

ウエハラサイクルについて
http://www.xenesys.com/japanese/uehara-cycle/index.html

潟[ネシス(Xenesys Inc.)は、世界トップのOTECの研究が行なわれている佐賀大学上原研究室の研究に参加し、佐賀大学が保有する海洋温度差発電技術の国有特許の専用実施権を取得しています。
佐賀大学で開発されたウエハラサイクルは、従来のサイクルより高効率化を実現、これにより経済的な発電が可能になりました。

1989年
里見公直が里見産業(株)を創立、伝統技術と最新のFA化技術を融合させた新酒造システム「姫飯(ひめいい)造り」を岡山県工業技術センター、愛知県食品工業技術センターのご指導のもとに開発、製造販売を開始。資本金1,200万円。

1995年
佐賀大学 理工学部 学部長 上原春男教授主宰の「成長の原理」入塾。電撃的ショックを受け「目からウロコ」。世界観が変わる。

2000年
佐賀大学と国有特許実施契約調印(専用実施権):海洋温度差発電装置及び温度差発電装置6件(国内、アメリカ、EPC)。

海洋温度差発電は発電以外にさらに新たな産業を創出します 海洋温度差発電では、取水した多量の海洋深層水を発電だけでなく、以下のように多目的に利用できます。
   ・海水の淡水化による飲料水の生産
   ・深層ミネラル水の製造
   ・深層水氷製造
   ・魚や貝、海藻などの養殖と生産
   ・リチウム回収
   ・水素製造
   ・家やビルの冷房
   ・化粧水、薬用水など海洋深層水関連商品の製造

スプレーフラッシュ蒸発式海水淡水化装置

スプレーフラッシュ蒸発式海水淡水化装置の概要
温海水を減圧した容器内に注水すると、温海水の一部は瞬時に蒸発します。この蒸発した蒸気を低温の深層海水で冷却・凝縮させて淡水(真水)を得ることができます。
スプレーフラッシュ方式による海水の蒸発と、凝縮器に特殊な高性能プレート式熱交換器を使用することで、いままで不可能とさえいわれていた"5℃の温度差"でも淡水化が可能になりました。
この海水淡水化装置は、水道水の基準を十分満足し蒸留水と同等の純度の高い水質の真水が得られます。

膨大な量の真水が低コストで生産できます
10MWの海洋温度差発電で使用した後の海水を利用するだけで、1日当たり12,000m
3もの大量の真水を生産することができます。
真水は他の方法よりも比較的低コストで生産でき、飲料水や生活水として広く利用できます。さらには将来の燃料電池や水素自動車などの燃料として期待されている水素製造用の原料水としても利用が可能です。

ウエハラサイクル 1970年代のOTECプラントではランキンサイクルと呼ばれる、媒体に純アンモニアを用いた発電方式で行なわれていました。しかし当時は熱交換器の性能が悪く、当時の技術では経済性を満足するまでには至りませんでした。
近年になり佐賀大学上原グループがアンモニア/水の混合媒体を冷媒に用いた「ウエハラサイクル」を発明、それによってランキンサイクルに比べて50〜70%サイクル熱効率が上がり、かつ熱交換器の性能の飛躍的な向上とあいまって、実用的なレベルの効率を持つ発電プラントが実現可能となりました。

ウエハラサイクルとランキンサイクルの比較表

名称 ウエハラサイクル(新サイクル) ランキンサイクル(従来の方式)
歴史 1994年 1850年代
発明者 上原春男(日本) 元 佐賀大学学長 Rankine(英国)William John Macquorn Rankine
作動流体 アンモニア/水の混合物質 アンモニア純物質
サイクル
熱効率
約5〜6%(ランキンサイクルの1.5〜2倍)
備考:温海水温度28℃、冷海水温度4℃の場合
約3%
効率上昇
要因
  • 沸騰および凝縮過程で混合液の温度が変化するため、タービンで仕事に変換できる温度差エネルギーが大きくなる。
  • タービンから出たアンモニア/水の混合蒸気を、吸収器でアンモニア/水の飽和液に吸収されることにより、タービン出口温度を凝縮器入口温度より低くできる。その結果、タービンで仕事に変換できる温度差エネルギーが大きくなる。
  • タービンの途中から蒸気を抽気して、その蒸気でタンクを出た後の作動流体を加熱することで凝縮器の負荷を低減する。

その結果、
@凝縮器の小型化
A冷海水の低減による取水管の小口径化
が可能。

正味出力

*正味出力は、発電端出力から海水ポンプと作動流体ポンプの動力を除いた利用可能な電力を示す。
約80〜85% 約55%
必要海水流量 ランキンサイクルの場合の50%程度
設備費 ランキンサイクルの場合の60〜70%程度
ウエハラサイクルフロー解説
  1. アンモニア/水の混合物質の液体が作動流体ポンプ2によって、再生器を通って蒸発器に送られる。
  2. 蒸発器には温海水ポンプによって、海洋の表層の温海水が送り込まれる。すると、アンモニア/水の液体は蒸発し、アンモニア/水の気液混相状態になる。この気液混相状態のアンモニア/水を、気液分離器でアンモニア水とアンモニア/水の蒸気に分離する。アンモニア/水の混合蒸気はタービン1に入って、そこでタービンを回転させて発電する。タービンを出た混合蒸気は一部が抽気され、加熱器に入り、残りはタービン2に入り、発電機を回して発電する。
  3. 一方、分離器で分離されたアンモニア水は、再生器を通った後、減圧弁を通って吸収器に入り、そこでタービン2より排出された混合蒸気を吸収する。そこで吸収しえない混合蒸気は凝縮器に入り、深層よりくみ上げられた冷海水によって冷却・凝縮され、液体に戻る。そして、作動流体ポンプによって加熱器を通り、再生器を通って再び蒸発器に送られる。
  4. この繰り返しを行うことで、海水のみで発電し続ける。

西日本新聞 2007年5月8日

海水淡水化 印が新技術 水不足の途上国に期待 佐賀大、温度差発電で協力

 佐賀大の技術協力でインドの沿岸に建設していた海洋温度差発電(OTEC)の実証プラントを利用し、1日千トンの淡水を製造する海水淡水化装置の稼働実験に、インド国立海洋技術研究所が8日までに成功した。

 大量のエネルギーを使わず、海水の質なども問わない新たな海水淡水化技術で、インドをはじめとする多くの発展途上国で深刻化している水資源問題の解決に貢献する新技術として注目される。

海洋温度差発電(OTEC)

 海の温かい表層水と冷たい深層水の温度差を利用して、アンモニアなどの蒸発と凝縮を繰り返し、蒸気タービンを回し電気をつくるシステム。表層水の温度が高い海域で効率が良い。運転中に温室効果ガスを排出しないほか、深層水を、飲料水や人工漁場に使うことも可能。佐賀大はインドのほかスリランカ、パラオなどと協力して実用化に取り組んでいる。

 インド南東部チェンナイ沿岸の海上プラントで直径1メートルの取水管を海中に設置し、深さ約500メートルの海から温度の低い深層水をくみ上げ。OTECの熱交換器を利用して、低圧下で蒸発させた温かい表層水を、約15度の温度差を利用して冷却し、淡水化する仕組み。同研究所によると、4月13ー16日に連続運転試験を行い、計4000トンの淡水化に成功した。

 現在、海水のくみ上げなどにはディーゼル発電を使っているが、将来的にはOTECによる発電で賄うよう改良し、自然エネルギーのみでの淡水製造を検討。佐賀大に技術協力を要請している。

 同研究所は「同タイプで10倍の処理能力を持つ新しいプラントを1年以内に建設したい」としている。

 OTECは、温かい表層海水と、冷たい深層海水の温度差を利用した発電装置。佐賀大と同研究所が、千キロワットの実証施設を建設し、発電実験開始を目指していた。今回、発電実験の前に施設を改造し、淡水化実験に成功した。


 ●電力賄えるよう協力
 ▼佐賀大海洋エネルギー研究センターの門出政則センター長(熱工学)の話

 インドの千キロワット級の発電実証施設の実験は、取水管トラブルなどがあって難航していた。ただ、淡水化だけならば、水温差やポンプの動力が小さくても可能で、深層水をくみ上げる取水管も短くて済む。今後は、淡水化を海洋温度差発電で賄えるよう技術協力していきたい。


  「世界初の海洋深層水温度差発電、インド洋上で発電実験を開始」
   
http://unit.aist.go.jp/shikoku/kaiyou/kaiyou-jimu39.html

 兵庫県明石市の環境関連ベンチャー「ゼネシス」と佐賀大学がインド政府と共同開発した世界初の海洋温度差発電の実証施設が完成、2003年2月上旬にインド南端の洋上で発電実験を始める。出力1000キロ・ワットで、2000人分の電気を賄う能力があり、火力発電よりコストは安く、汚染物質や温暖化ガスも出ない。その結果は、3月に京都市などで開かれる世界水フォーラムの関連行事で発表する。

 同施設は、長さ70メートル、幅16メートルのプラント船で、上原春男・佐賀大学長が開発した「ウエハラ方式」と呼ばれる熱交換器を積んでいる。インド近海の海面付近は水温約30度で、この暖かい海水で、高圧を加えて液化したアンモニアを蒸気に変え、タービンを回して発電、水深1000メートルからくみ上げた水温6度ほどの深層水で冷やして液体に戻す。

 海洋温度差発電は、100年以上前に考案されたが、温度差が小さいため効率が悪く、実用化は難しいといわれていた。しかし、94年に上原学長らが、アンモニアに少量の水を混ぜ、タービンを2つ使うことで効率を向上させた。

 研究グループは、10万キロ・ワット級の発電装置を作れば、火力発電の1キロ・ワット当たり約10円より2―3円安くなると試算。低コストの電力を求めていたインド政府が約8億円の建設費を提供することで合意した。

 2月初め、インド南部のトゥーティコリンを出航。35キロ沖合で発電を開始。4月ごろまで実験を続ける予定で、上原学長は「パラオなどの島国や中東諸国との共同計画も進んでいる」と話している。