2002/8/8 三洋電機
量産レベルで世界最高※1のセル変換効率18.5%の
190W HIT太陽電池モジュールを採用した「太陽光発電システム」を発売
ー わずか16枚(19m2)で3kWシステムを実現 −
三洋電機株式会社は、従来の17.3%を大幅に上回る18.5%(103.5mm角)という量産レベルでは世界最高※1変換効率となるHIT太陽電池セルを用いた「190W HIT太陽電池モジュール(世界最高※1モジュール変換効率16.1%)」、及び本モジュールを採用した「太陽光発電システム」を10月1日より発売します。
主な特長
1. 世界最高※1の変換効率「HIT太陽電池」
セル変換効率18.5%、モジュール出力190W(モジュール変換効率16.1%)
2. 業界最小面積※116枚(19m2)で3kWシステムを実現
従来比20%以上の省スペースと軽量化により狭い屋根への3kWシステム設置可能比率が増加。
設置工事費用も軽減。(当社単結晶150Wモジュール及び他社カタログ値と比較)
3.
業界最高レベルの温度特性により、さらに年間発電量が増加
温度特性向上により同面積モジュール(16枚)に比べて年間予測発電量が36%アップし、
20年間では電力料金換算で499,000円多く発電。
(当社単結晶150Wモジュールと比較、大阪市・真南・傾斜角度30度・関西電力時間帯別契約時で試算)
190Wモジュール20枚で、日本の一般家庭の平均年間消費電力をほぼ賄う事が可能。
4.
当社独自の差別化商品で、多彩な太陽光発電システム
最小3直列構成が可能な高効率パワーコンディショナ(SSI-TL40A2)、薄型新架台を採用。
※1 2002年7月現在
I. 概要
三洋電機株式会社は、1997年より薄膜アモルファスシリコンと単結晶シリコンをハイブリッド化した当社独自の高性能太陽電池、HIT(Heterojunciton
with Intrinsic Thin-layer)太陽電池の生産を開始し、日本の住宅用太陽光発電システムに適した商品作りを行ってきました。
今回、HIT太陽電池の新たな高出力技術の導入により、従来の17.3%を大幅に上回る18.5%という量産レベルで世界最高※1のセル変換効率をもつ「190W HIT太陽電池モジュール」を採用した太陽光発電システムを本年10月1日より販売を開始し、太陽光発電システム市場に投入します。世界最高※1の190W太陽電池モジュールを採用することによる顧客のメリット(小さな面積でも発電量が多い、今まであきらめていた場所にも希望のシステム容量が設置可能になる)とともに、業界初の最小3直列接続が可能な高効率パワーコンディショナと薄型新架台の組み合わせで、さらなる多彩な設置レイアウトを可能にし、デザイン性も向上した太陽光発電システムを訴求します。また、高出力モジュールの特長を活かし、少ない面積を利用した新規分野(ベランダ設置や小容量システム)への展開も検討してまいります。
さらに、研究所レベルでは昨年6月にセル変換効率21.0%(210W以上のモジュールに相当)を達成しています。今後も、太陽電池モジュールのさらなる高出力化によって、年間発電量で大きく差別化を行い、少ない面積でも高出力が得られる「HIT太陽電池」の販売を促進し、自然エネルギーの普及に努めていきます。
なお、HIT太陽電池の開発成果の一部は、ニューサンシャイン計画に基づくNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託研究成果によるものです。但し、今回の高効率化については、当社の独自技術により実現しました。
II. 主な特長
(1) 世界最高※1の変換効率「HIT太陽電池」
(1) | 量産レベルで世界最高※1のセル変換効率18.5% | |
: | HIT太陽電池は、薄膜アモルファスシリコンと単結晶シリコンをハイブリッド化した当社独自の高性能太陽電池です。当社は、昨年6月、研究所レベルでセル変換効率21.0%のHIT太陽電池の開発に成功しました。今回、その研究開発成果の中から、よりパッシベーション効果の高いノンドープ層の形成技術、及び、薄膜でも内部電界を維持できるp層の形成技術を量産技術に投入することにより、特性が向上し、18.5%という高いセル変換効率の太陽電池セルの量産が可能となりました。 | |
(2) | 190Wの高出力モジュール(世界最高※1モジュール変換効率16.1%) | |
品番:HIP-190B1 販売開始:10月1日 メーカー希望小売価格:127,000円(税別) 量産モジュールにおける世界最高※1の変換効率16.1%の190Wモジュールを実現し、省スペース化が可能となりました。また、3直列接続の可能な高効率パワーコンディショナにより、面積の小さい屋根や複雑な形状の屋根などにも、さらに設置しやすくなっています。 |
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(2) 業界最小面積※116枚(19m2)で3kWシステムを実現 | ||
(1) | 20%以上の省スペースと軽量化、狭い屋根への3kWシステム設置可能比率が増加。 | |
国内住宅では南面一面への3kWシステムの設置可能数が15〜20%増加し、都市部を中心に新たな市場に対応します。また、当社単結晶150Wモジュールの3kWシステムと比較し、20%以上の省スペースと約60kgの軽量化が図られます。 | ||
(2) | 3kWシステムの設置工事費用が10〜20%軽減。 | |
一般的にシステム価格の15〜20%が設置工事費用となっていますが、高出力モジュールのため設置するモジュールの枚数が少なくてすみ、この費用の10〜20%を削減することができます。 | ||
(3) | わずか16枚のモジュールで、住宅金融公庫の割増融資(環境共生住宅割増省エネルギー型設備設置工事)の対象である3kW以上のシステム構築が可能。 | |
今まで、屋根面積の関係で、3kW以上のシステムを設置することができず、割増融資を受けることができなかった住宅が、190Wモジュールを使用した際に、割増融資を受けられる可能性が高くなります(当社単結晶150Wモジュールでは、3kW以上を得るために20枚が必要)。例えば寄せ棟屋根の場合でも、東西面にモジュールを4枚ずつ、南面に8枚設置すると、3kWを実現できることになります。 | ||
(3) 業界最高レベルの温度特性により、さらに年間発電量が増加 | ||
(1) | 温度上昇に伴う出力低下が少ない(温度特性が当社単結晶モジュール比で40%向上)ため、夏場の高温時でも高い出力が得られます。同じ面積の16枚(18.9m2)の太陽電池モジュールを設置する場合、従来の当社単結晶150Wモジュールと比較し190Wモジュールでは年間予測発電量が36%もアップし、20年では電力料金換算で499,000円も多く発電できます。 (当社単結晶150Wモジュールと比較、大阪市・真南・傾斜角度30度・関西電力時間帯別契約時で試算) |
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また、日本の一般家庭の平均年間消費電力量(約4,482kWh)は、190Wモジュール20枚(23.6m2)でほぼ賄うことが出来ることになります。 (日本の一般家庭の平均年間消費電力量:住環境計画研究所「家庭エネルギー統計年報」1996年度版より) |
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(2) | 当社独自の高品位出力管理による出力アップ | |
JIS規格に加え、更なる高品位基準を当社独自で設定し、出荷する商品全数の厳正な管理運用を行っています。 | ||
(4) 当社独自の差別化商品で、多彩な太陽光発電システム | ||
(1) | 最小3直列接続の可能な高効率パワーコンディショナ(SSI-TL40A2) | |
1) | 業界トップクラスの高効率パワーコンディショナ 電力変換効率94.5% (JISC8961に基づく) |
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2) | 太陽電池モジュールの高電圧化と低電圧入力が可能なパワーコンディショナの組み合わせにより業界最小※1の3直列接続を実現、これにより、狭い屋根や、設置可能面積が限られている寄棟や多面設置にも昇圧ユニットなしで、モジュール3枚単位での設置が可能(効率の低下を防ぐ)になります。 | |
3) | 設置レイアウトの自由度拡大(34種類のバリエーションが選択可能) | |
(2) | 薄型新架台の組み合わせで多彩なレイアウトとデザイン性能が向上 太陽電池架台の支持方法の変更により屋根面と段差が少なくなり、屋根との一体感が増し、外観のスマート感とスッキリ感が向上。従来の架台より、モジュール1枚分(35mm)薄型化しました。また、信頼性の高いガラスラミネートモジュールでありながら、単位出力当り質量が業界最軽量※1の78.9g/W(当社150W単結晶モジュールでは100g/W)。住宅屋根への負担をさらに軽減しました。 |
HIT太陽電池モジュールを北米で生産開始
米国市場での占有率拡大へ
三洋電機株式会社は、メキシコのモンテレーにある生産拠点の三洋エナジー(メキシコ)株式会社のモンテレー工場で、2003年夏より HIT太陽電池モジュールの生産を開始します。
現在、国内の太陽光発電システム市場は、住宅用太陽光発電システムに対する政府の補助金の効果により、順調に伸びてきています。
一方、北米や欧州など海外の市場も大きく伸びており、今後も順調な拡大が見込まれています。当社は、これまで国内市場で販売数量を増加するだけでなく、海外市場にも積極展開を進めてきました。
今回、太陽電池モジュールの北米市場への拡販を推進するにあたり、三洋エナジー(メキシコ)で生産し、三洋エナジー(USA)で販売するという体制にします。これにより、北米市場でのカスタマーと販売拠点の連携を強化でき、迅速な対応を行うことができるようになります。
三洋エナジー(USA)では、以前より2次電池の生産・販売を行っており、太陽電池モジュールの販売においてもその販売機能を活用できます。また、米国西海岸、東海岸両方への物流・輸送メリットや部材現地調達でのコストメリット、人件費等の関係で米国内での生産よりコストメリットがあることなどから、三洋エナジー(メキシコ)のモンテレー工場で生産を開始することにいたしました。
北米で生産を開始することにより、三洋電機は北米市場をはじめとする海外市場へ拡販を推進し、更なる太陽電池事業の拡大を目指しています。
■北米市場での販売状況
北米市場については、2002年3月にUL規格(*1)を取得し、2002年4月より既に米国への販売を開始しました。
その中で当社は米国市場参入の最後発でありながら、世界最高セル変換効率18.5%を有するHIT太陽電池モジュールは、同じ面積で高い発電量が得られることから、ハイエンド商品として市場に認められ市場占有率の拡大を進めています。
米国サンフランシスコ市Moscone Center(*2)に設置される675kWの太陽光発電システムのうち、482kW分に当社製のHIT太陽電池モジュールが使用されることに決定しました。
この太陽光発電システムは、サンフランシスコ市が決定した再生可能エネルギー導入プロジェクトの最初の案件です。
■太陽電池モジュール生産の概要
1)業務内容 | HIT太陽電池セルを日本より輸送、北米でモジュール化を行います。 | |
2)生産規模 | 北米市場に連携したダウンサイジングシステムラインで、生産能力は約10MW/年。 | |
3)投資額 | 約2.5億円 | |
4)生産予定機種 | 190Wタイプ、180Wタイプ、167Wタイプモジュールを中心に生産。 | |
*1 UL規格 | 米国の認証・試験機関UL(Underwriters Laboratories Inc.)が定めた電気製品に関する規格。 | |
*2 Moscone Center | ||
: | サンフランシスコ市が市の中心街に建設した大型展示・会議場。 日本の「幕張メッセ」のような施設で、「Mac World」をはじめ大きな展示会などが頻繁に開催されています。 サンフランシスコ市は、2003年春の完成を目標に、「Moscone Center」の施設の屋根に675kW(年間予想発電量 825,000kWh)の太陽光発電システムを設置することにしています。 |
■ご参考
【モンテレー工場の概要】
1)所在地 | メキシコ合衆国 ヌエボ・レオン州 エスコベド市 | ||
2)設立 | 2001年3月 | ||
3)面積 | 敷地面積93,000m2 工場面積16,000m2 | ||
4)従業員数 | 約880人 (2002年10月現在) | ||
5)事業内容 | 2次電池(リチウムイオン、ニッケル水素電池)の製造 | ||
【三洋エナジー(メキシコ)の概要】 | |||
1)会社名 | 三洋エナジー(メキシコ)株式会社 SANYO Energy,S.A. de C.V. |
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2)所在地 | メキシコ合衆国 バハカリフォルニア州 ティファナ市 Tijuana B.C., Baja California, Mexico |
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3)設立 | 2002年1月 | ||
4)資本金 | 50,000 Mex$ | ||
5)代表者 | 社長:中谷吉信 (なかたに よしのぶ) | ||
6)事業内容 | 2次電池(リチウムイオン、ニッケル水素電池)の製造 |
【サンフランシスコ市再生可能エネルギー導入プロジェクトの概要】
サンフランシスコ市議会は、電力価格の上昇、世界的な異常気象を受け、2001年11月に、クリーン・再生可能エネルギー(太陽・風力等)促進の為に必要な資金1億ドルを調達すべく市債権を発行することを承認しました。
これらのクリーン・再生可能エネルギーは市・郡が所有する建物に導入される予定です。Moscone Centerへの太陽光発電システムの設置は、サンフランシスコ市にとって本プロジェクトの最初の案件です。
【UL(Underwriters Laboratories Inc.)について】
ULは、約100年前に保険会社の試験機関として設立され、現在も民間の認証・試験機関です。ULは、米国規格作成機関(ANSI)から認定を受けており、ULが定めた規格が、製品の安全性確保や消費者保護に重要な役割を果たしています
(米国では電気安全規則が中央政府機関では制定されていない)。
現在、米国における電気製品のほとんどがUL認定製品であり、ULマークが事実上電気製品の安全性を象徴しています。
よって大部分の州、郡、市町村の法律ではUL承認の取得が必須とされています。一般の消費者の多くに、ULマークは安全を意味するということが浸透しており、製品の購入に際してはULマークが重要となります。太陽電池モジュールに関する規格は、UL1703に規定されています。
京セラ http://www.kc-solar.co.jp/frames/menu3.html
1975 | ●京セラが中心となり、JSEC(ジャパン・ソーラーエナジー)を設立。太陽電池の研究を開始。 |
1976 | ●シリコンリボン結晶太陽電池を開発、生産開始 |
1980 | ●滋賀八日市工場を設立し、本格的に太陽電池とその応用商品および太陽熱利用システムの研究・開発、製造を開始 ●太陽エネルギー灯(街灯)を開発、販売開始(業界初) |
1982 | ●多結晶シリコン太陽電池の量産を開始 |
1985 | ●サンシャイン計画に基づく委託研究開始 |
1989 | ●多結晶シリコン太陽電池素子(15cm角)で世界最高の変換効率である14.5%を達成(15cm角では研究レベルにおいて1996年に17.1%が達成されるまで、常に世界最高の変換効率を維持。17.1%は現在も世界最高値) |
1991 | ●太陽電池年生産規模6MW体制確立(国内最大) |
1993 | ●単結晶シリコン太陽電池(10cm角)で世界最高の変換効率である19.5%を達成 ●『住宅用ソーラー発電システム』を発売(業界初) |
1995 | ●多結晶シリコン太陽電池素子の大面積化(10cm角→15cm角)の量産技術を確立 |
1996 | ●ソーラーエネルギー利用機器の販売・施工・サービス会社として株式会社京セラソーラーコーポレーションを設立 |
1997 | ●太陽電池年生産規模36MW体制確立 |
1998 | ●太陽電池の生産量世界No.1 ※「PV NEWS VOL.18 NO2 1999.2」データ |
日本経済新聞 2002/9/17
京セラ 太陽電池7割増産
京セラは太陽電池パネルの年間生産量を2003年度に、現在の約7割増の100メガ(メガは100万)ワットに引き上げる。年内に生産能力を72メガワットに拡大するとした八日市工場(滋賀県八日市市)の増産計画を上方修正した。中国や欧米などに発電システムの組み立て拠点新設も検討している。
太陽電池パネル製造の主力拠点である八日市工場に2003年夏までに製造ラインを新設する。投資額は数億円程度の見込み。同工場は年産60メガワット強の太陽電池パネルを生産している。国内の家庭向け需要拡大と欧米向け輸出の増加を見込み、増産を決めた。
太陽電池パネルを発電システムとして完成させるための組み立て工程は、伊勢工場(三重県伊勢市)で手掛けている。海外での需要増をにらんで、中国などでの組み立て拠点新設も検討する。太陽電池パネルの売上高に占める輸出比率は全体の約3割で、数年をメドに5割に増やす。
2002/09/10 産業技術総合研究所
■有機色素増感太陽電池で変換効率7.5%の世界最高性能を達成
−安価で高性能な有機色素太陽電池の実現に一歩近づく−
● ポイント
・ | 色素増感太陽電池は安価で高性能な次世代型太陽電池として注目されているが、高性能化には、高価なRu(ルテニウム)を使用する錯体色素の使用が必須であった |
・ | Ru錯体色素に代わる、安価で資源的制約のない有機色素の開発が切望されていた |
・ | 可視光から赤外光領域に吸収を有する新規のクマリン系色素増感酸化物半導体光電極を開発し、Ru錯体色素代替を実現 |
・ | 新規クマリン色素を用いた色素増感酸化チタン太陽電池で、7.45%の太陽エネルギー変換効率を達成 |
・ | この変換効率はRu錯体色素並であり、アモルファスシリコン太陽電池とほぼ同等の性能を示しており、有機色素を用いた色素増感太陽電池で世界最高性能である |
<概要>
独立行政法人産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)光反応制御研究センター【センター長 荒川 裕則】の太陽光エネルギー変換チームと、株式会社 林原生物化学研究所【代表取締役 林原 健】(以下「林原生化研」という)の感光色素研究所【担当専務取締役 速水 正明】は共同で、可視光から赤外光領域までの広範囲に光を吸収をするクマリン系色素増感酸化物半導体光電極を開発し(特許出願中)、それを用いた色素増感酸化チタン太陽電池で、AM 1.5条件下で7.45%の太陽エネルギー変換効率を達成した。この変換効率はRu(ルテニウム)錯体色素並の性能であり、有機色素を用いた太陽電池ではこれまでの世界最高値である。これにより安価で高性能な有機色素太陽電池の実現が一歩近づくものと期待される。今後は、さらなる変換効率の向上をめざしつつ、実用化への技術的課題を探る予定である。
本研究成果は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)太陽光発電技術研究開発・革新的次世代太陽光発電システム技術研究開発の受託研究「高性能色素増感太陽電池技術の研究開発」の成果である。
なお、本研究成果は、2002年9月12日に、東京工芸大学厚木キャンパス(厚木市飯山1583)で開催される 2002年電気化学秋季大会 で発表する予定。
<研究の背景>
Ru錯体色素および酸化チタンナノ粒子から形成される多孔質薄膜光電極を用いた色素増感太陽電池(グレッツェル・セルと呼称される)は、安価に製造でき高性能を示すため、次世代型の太陽電池の一つとして注目を集めている。近年、国内外の研究機関において活発に研究開発がおこなわれており、最近では実験室レベルで7〜8%程度の太陽エネルギー変換効率が再現性よく得られるようになってきた。ただ、高性能化のために高価なRu金属を含む錯体色素が光増感剤として用いられてきているため、将来、光増感剤に大量のRu錯体色素を用いた場合、資源的な制約が問題となってくる。そこで、光増感剤にRuなどの貴金属を含まず、安価で資源的な制約のない有機色素を用いた高性能色素増感太陽電池の開発が望まれていた。さらに、有機色素は容易に交換できるため太陽電池光電極のリサイクル性が向上することや、様々な色を持つ有機色素を用いることにより、透明でカラフルなファッション性のある太陽電池を作製でき、窓板や室内用等多方面での使用が期待されている。
<研究の経緯>
産総研・光反応制御研究センターと林原生化研・感光色素研究所は、これまでの共同研究で、色素増感太陽電池に使用するメロシアニンやシアニン色素などの有機色素光増感剤を開発し、それらを用いた高性能有機色素増感太陽電池を開発してきた。昨年、変換効率5.6%の比較的性能の高い色素を開発しているが、それらの太陽エネルギー変換効率は、従来のRu錯体色素を用いた太陽電池に比べて低いものであった。そこで、平成13年度からは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の太陽光発電技術研究開発・革新的次世代太陽光発電システム技術研究開発の受託研究「高性能色素増感太陽電池技術の研究開発」の一環として、高性能有機色素増感剤の開発を進め、高効率有機色素増感太陽電池の実現を目指してきた。その結果、400nmの可視光から820nmまでの赤外光領域の光を広く吸収し、光電変換できる新規クマリン系色素を用いた高性能光電極を設計・開発し、それらを用いることにより有機色素増感太陽電池の光電変換効率を大きく向上させることに成功した。
<研究の内容>
今回、新たに開発した新規クマリン色素は、従来型のクマリン色素の骨格から、チオフェン環を含む共役二重結合系を拡張し、末端にシアノ基とカルボキシル基を有する。共役二重結合系の拡張や電子吸引基であるシアノ基とカルボキシル基の導入が色素の吸収波長の長波長化につながった。色素はカルボキシル基により酸化チタン半導体光電極の表面に化学固定されており、酸化チタン光電極との直接的な相互作用により、高効率な光誘起電子注入が可能となった。
【図1】には、この色素を用いた酸化チタン太陽電池の外部量子収率の波長依存性を示した。図から明らかなように、この太陽電池は、紫外・可視・赤外領域である350nmから820nmの広い範囲の光を電流に変換できることがわかる。このうち、450nmから600nmの範囲での外部量子収率は、70%を越えており、基板に用いている透明導電性ガラスによる光吸収および散乱によるロスを考慮すると、この波長領域では、照射した光の約90%を電流に変換していることになり、この太陽電池の効率の高さを示している。
また、【図2】に示したように、この太陽電池のAM1.5条件下での太陽エネルギー変換効率は、7.45%であった。この効率は、有機色素を用いた太陽電池で世界最高の値であり、従来のRu錯体色素を用いた太陽電池に匹敵するものである。さらに、既に実用化されているアモルファスシリコン太陽電池に近い効率となっている。この新規クマリン系色素増感酸化物半導体光電極の開発により、これまで低効率で実現性の乏しかった有機太陽電池の世界で、安価で高性能な有機色素太陽電池の実現に一歩近づくこととなった。
<今後の予定>
色素構造の詳細な制御と酸化物半導体光電極や電解質の最適化により、さらに高性能化高効率化が期待できるため、引き続き研究開発を進める予定。また、実用化へ向けた耐久性、安定性等の課題についても着手する予定である。
<用語の説明>
◆ | クマリン系色素 |
上図の構造を骨格とする色素の一群。用途として、色素レーザー材料等として用いられる。 | |
◆ | AM1.5 |
エアマス1.5 平均的な晴れた日に地球上に届く光量を規格化したもの。約1000 W/m2 | |
◆ | 色素増感太陽電池 |
色素増感作用は、写真フィルムと同じ原理。可視光を吸収しない銀塩や酸化物半導体表面上に、色素を吸着させることにより可視光応答性をもたせる。この色素増感作用を太陽電池に応用したのが色素増感太陽電池である。 | |
◆ | 共役二重結合 |
一つおきに二重結合でつながった炭素鎖。 | |
◆ | 外部量子収率 |
太陽電池の場合、ある波長の光を太陽電池に照射したときに、その光を有効に電流に変換した効率。 |
日本経済新聞 2003/1/13
太陽電池各社 海外で発電装置生産 京セラは中国 需要拡大にらむ
国内の太陽電池メーカーが太陽光発電システムを海外で相次ぎ生産する。京セラは6月にも中国で生産を開始し、三洋電機とシャープは米国などで生産を始める。二酸化炭素(CO2)を排出しない発電システムとして、海外で需要が拡大しているのに対応する。
京セラは天津市に現地企業と合弁会社を設立、八日市工場(滋賀県八日市市)で生産した太陽電池を輸出して現地でフレームや配線を取り付けてシステムとして組み立てる。同社初の海外生産で、規模は年間10メガ(メガは百万)ワット程度とみられる。投資額は2億−3億円。中国の内陸部などで太陽光発電システムの需要が拡大すると判断した。
三洋電機は8月からメキシコで年間10メガワットの規模で装置の組み立てを開始し、北米市場で販売する。投資額は約2億5千万円。シヤープも5月から米テネシー州で年間20メガワットの規模で発電システムの生産に乗り出す。
2003/1/20 第一工業製薬 参考 産業技術総合研究所 有機色素増感太陽電池
色素増感太陽電池の実用化について
第一工業製薬鰍ニ三井物産鰍ヘ、太陽電池などの研究開発を行う合弁会社「エレクセル株式会社」(代表取締役 大谷隆允、本社京都)を設立し、このたび、先端技術を保有する国内外の大学・研究機関と連携し、次世代型の色素増感太陽電池の実用化に向けての開発に着手いたしました。
太陽光発電は二酸化炭素を発生しないクリーンエネルギー源として注目されており一般住宅用に需要が急増しています。既存のシリコン系太陽電池では供給面、コスト面に課題があり、大量普及を実現するために製造プロセスが簡単で材料費も安く低コスト型である有機太陽電池の早期実用化が期待されています。
有機太陽電池のうち、現在最も有望なものは、色素増感太陽電池です。太陽光を色素で増感し、太陽光発電を行う原理自体は古くから知られており、この原理を利用して現在変換効率最高10%程度のものが得られています。
色素増感太陽電池は、製造コストが大幅に削減でき、透明なものやフレキシブルなものができるなど大きな特徴を有しています。しかしながら、電解質に揮発性の液体を使用することから、耐久性などに問題があり実用化はこれからの課題となっています。
第一工業製薬鰍ヘ10年余りにわたりリチウム電池、コンデンサー、太陽電池などの材料である高分子固体電解質の研究・生産・販売を進めてまいりました。一方、三井物産鰍ヘ長年にわたって電子・電池材料ビジネスに携わっています。
このような背景から、両社はこのたび「有機太陽電池に関して個々に得意とする要素技術(ナノ材料、有機材料、ポリマー電解質など)において卓越した成果をあげてきている国内外の大学・研究機関を、エレクセル鰍軸に結集し、水平分業することにより短期間に高性能キーデバイスの実用化技術を確立する」という新しいビジネスモデルを提唱し、各大学・研究機関の合意を得ました。国内では滑ヨ西新技術研究所、東北大学、横浜国立大学、関西大学、海外ではモントリオール大学、ケベック大学などです。
エレクセル鰍ヘ、安全性、製品サイズ・デバイスの自由度が高いことから注目されているリチウムポリマー電池の開発も同時に行います。また、この技術を応用して、太陽電池とリチウムポリマー電池を結合した画期的な高機能デバイスの開発も実施いたします。
また、エレクセル鰍ヘ、いずれも数千億円規模の市場性が見込まれる有機太陽電池及び中型〜大型の動カ用リチウムポリマー電池の実用化技術をいち早く確立し、国内外の電池・部品メーカーならびに完成品メーカーなどに技術ライセンスし、製品の早期普及を促す計画です。
新会社概要
1.社名 | エレクセル株式会社 | |
2. 事業内容 | 太陽電池及びポリマー電池、またそれらの原材料の開発を行う。開発したデバイスの普及・供給のために、他社へのライセンス供与や共同事業会社を設立し事業展開を行う。 | |
3.所在地 | 京都市下京区西七条東久保町55 第一工業製薬褐、究所内 | |
4.設立 | 2002年11月7日 | |
5.資本金 | 2億円 | |
6.株主 | 第一工業製薬鰍U5%、三井物産鰍R5% | |
7,社長 | 大谷隆允(おおたにたかみつ) | |
8.社員数 | 11名 | |
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ご参考
シリコン型太陽電池 | |
大きく分けて、単結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池があり、p型半導体とn型半導体の接合型太陽電池である。光電変換効率は単結晶で最高25%前後、アモルファスで12%と報告されている。理論限界太陽エネルギー変換効率は29%である。現在普及している太陽電池は全てこのシリコン型太陽電池である。 | |
色素増感太陽電池 | |
チタニア(酸化チタン)、色素、ヨウ泰などを含む電解質から構成される太陽電池である。太陽光を色素が吸収しチタニア層に電子が注入され、外部に取り出される。現在のところ最高変換劾率は10%と報告されているが、これは電解質に揮発性の高い有機溶媒を使用した場合である。理論変換劾率は33%と、シリコン系太陽電池よりも高い。製造コストは単結晶シリコン太陽電池の1/5〜1/10とも試算されている。セルを構成する材料はシリコン太陽電池に比べ、資源的な制約が少なく、製造プロセスも簡単である。また、リサイクル製造も容易である。 | |
日刊工業新聞 2003/1/24
昭和シェル、CIS太陽光発電の変換効率13.4%に−世界最高
昭和シェル石油は薄膜の化合物半導体(CIS)太陽光発電で今年中に電気変換効率13.4%とCISで世界最高効率を塗り替えるめどがついたことを明らかにした。同時に人工衛星に搭載しての実証により、宇宙空間での使用で劣化がほとんど生じないことを確認した。中央研究所(厚木)に2月末に出力10キロワット規模の実証設備を完成、シェルの太陽光発電事業会社のシェルソーラーと共同で大型実用設備立地へ詰めの検討に入った。
昭シェルが開発するのはカドミウムを使わない化合物半導体。これまで30センチメートル角のピースでCISでは世界トップの13%の電気変換効率を実現しているが、さらに今年中には13.4%までアップするめどをつけた。変換効率14%も「実現は射程距離」(杉本完蔵新エネルギー部太陽電池事業部門副部長)とみている。
日本経済新聞 2003/7/25 関連
薄くて曲がる太陽電池 昭和電工が開発 服などに装着 携帯に充電も
昭和電工は軽くて折り曲げられ、様々な揚所に取り付けられる太陽電池を開発した。発電材料を薄い樹脂板に塗って作る。シート状の太陽電池を服に縫い付けて携帯電話に充電するなど、用途が大きく広がる。来月にも発電材料をサンプル出荷する。
開発した太陽電池は柔らかい樹脂の表面にペンキ状の発電材料をブラシで塗ったりスプレーで吹き付けたりした後、表面を薄い樹脂で密封し両端に電極を付けて作る。屋根や電卓に使われているシリコン製太陽電池とは材料が異なる「色素増感型」と呼ばれるタイプ。
カバンや上着などに縫い込んで携帯電話を充電したり、テントに張って照明用電源にする使い方が考えられる。ノートパソコンの表面全体を太陽電池に加工したり、窓のブラインドそのものに発電機能を持たせたりすることもできる。
発電効率は約4%でシリコン製の約5分の1だが、A4判の大きさで3〜4ワットの発電ができ、携帯機器の充電などには十分な性能。通常の吹き付け技術で量産ができ、シリコン製太陽電池の約10分の1の価格で供給できるという。
太陽電池の材料は製造時に高温処理する必要があるため、柔らかい樹脂状に作るのは難しいとされていた。昭和電工は材料の成分を工夫して低温処理で済むようにし実用化にめどをつけた。 昭和電工は発電材料を光電機メーカーなどに出荷し、様々な分野での太陽電池の開発を促す。来年早々にも製品が登場する見通しだ。今回の開発成果は26日から奈良市で開く国際光化学会議で発表する。