毎日新聞 2005/9/14

カネボウ粉飾 連結外し99年から指南 逮捕の会計士 数値示し

 カネボウの粉飾決算事件で、証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の共犯容疑で東京地検特捜部に逮捕された中央青山監査法人(東京都千代田区)の会計士4人が、連結決算の新会計基準が始まる直前の99年、ダミー会社に株を移して赤字子会社を連結対象から外す粉飾方法を、カネボウ側に具体的に指南していたことが分かった。特捜部は、4人が逮捕容疑の02〜03年3月期以前から行っていたこうした不正の発覚を恐れ、粉飾に加担したとみて追及している。
 逮捕された佐藤邦昭(63)▽徳見清一郎(58)▽神田和俊(55)▽宮村和哉(48)の各容疑者は調べに対し「連結外しは当時の経営者の判断で、自分たちは関係ない」などと容疑を全面否認しているという。特捜部は証券取引等監視委員会と合同で、中央青山の奥山章雄理事長宅も家宅捜索した。
 調べによると、カネボウ元社長の帆足隆(69)、元副社長の宮原卓(63)両被告=いずれも証取法違反で起訴=ら旧経営陣は98年11月、00年から導入予定で子会社を連結対象とする新会計基準への対応について、監査チームリーダーの佐藤容疑者らに相談。佐藤容疑者らは翌99年、子会社の毛布加工・販売会社「興洋染織」(大阪府和泉市、解散)と、食品会社「カネボウフーズ」(東京都港区)の販売子会社6社について、具体的な「連結外し」の方法を指南した。
 このうち興洋染織については、同社関連で休眠中だった毛布販売代理店「マーキュリ」(大阪市西区)に、ダミー会社として興洋染織の株式を持たせることで、カネボウとの資本関係を断ち切ることを宮村容疑者が助言。株式のパーセンテージを示しながら「これ以上持たせるとまずい」「これだと(連結から)外れませんよ」などと具体的にアドバイスしたという。
 会計士4人の逮捕を受け、中央青山の奥山理事長は「非常に驚き、深刻に受け止めている。捜査に協力しながら対応を決断したい」との談話を出した。

規制強化も効果なし

 企業監査への信頼が再び失墜した。13日、カネボウの粉飾決算事件で公認会計士の佐藤邦昭容疑者(63)ら4人が逮捕された。国内外で同種の事件が起こるたびに規制が強化されてきた裏で、4人は赤字の子会社を連結決算から外す手口を旧経営陣に指南するなど、不正な監査に手を染めていた。所属する中央青山監査法人は約2000人の会計士を抱える4大監査法人の一つで、事件は再発を防ぎ切れなかった業界全体に、重い課題を突きつけている。

 厳格検査「顧客に嫌われる」

 13日朝、千葉県流山市の自宅近くで報道陣に囲まれた業界の重鎮、奥山章雄・中央青山理事長(60)は、歯切れの悪い受け答えに終始した。
ー 会計士が粉飾に関与したのか。
  何とも分からない。事態を見極めないと。

ー 自身の責任は。
  改革を担うことが責任と思っているので…。

 公認会計士は、投資家や債権者に代わって監査を行う。決算書への.「適正」意見が財務内容へのお墨付きとなる一方、「不適正」意見は上場廃止基準にもなっており、企業の存続を左右する。「投資家がそのまま信用せざるを得ないだけに責任は重い」と専門家は指摘する。
 中央青山は03年に破たんした足利銀行の監査を巡り金融庁から戒告処分を受けた。それを機に今年4月、内部告発を受けつけるホットラインを開設し、粉飾を見逃していないかなどを調べる「内部監査部」も新設した。翌月には奥山氏が理事長に就任。日本公認会計士協会長時代、癒着を防ぐために公認会計士法改正(03年5月)の策定に携わり、業界では「法令順守の象徴」と呼ばれている。
 それにもかかわらず、再び不正が発覚した。ある会計土は「厳しい監査は顧客(企業)に嫌がられる」と明かす。弁護士なら弁護を担当した被告の不正を見つけても自らの手で暴く必要はないが、会計士は不正に気が付いたら指摘し是正させなければならない。「パブリック(公的)な立場を理解してくれない顧客もいる」と嘆く。
 内部調査を詳しく知るカネボウ幹部は「(会計士が)ある時期の粉飾を指摘すると、それ以前の監査の妥当性も追求される。それを恐れ、癒着が断ち切れない」と語った。


「エンロン」機に法改正
 市場から退場すべき企業を「延命」させ、負債を膨らませる違法な監査ーー。01年の米エネルギー大手「エンロン」の粉飾決算では、その点がクローズアップされ、5大会計事務所の一角「アーサー・アンダーセン」が02年8月、廃業に追い込まれた。会計監査への不信感は日本にも波及し、03年5月、37年ぶりに公認会計士法が改正された。
 会計士が顧客の企業と癒着して不正が行われてきたことへの反省から、改正法は会計士や監査法人の業務にさまざまな制限を設けた。それまで会計士が同じ企業を連続して監査できる期間に制限はなかったが、「7年まで」と変更。6年後の11年には、政令改正で5年に短縮される見通しだ。会計士が監査以外の業務で報酬を受けている企業の監査を行うことや、顧客企業への1年以内の再就職も禁じられた。
 改正法の規制対象は株取引にも及んだ。5,000株まで保有が許されていた担当企業の株式について、会計士とその配偶者は保有が禁じられた。公認会計士協会は独自の規定で、会計士の親族の一部の保有も禁じた。中央青山は内規で、同僚の会計士が監査を担当する全企業の株式についても売買を禁じている。

不正、後を絶たず
 改正法や協会の規定に違反すると、行政処分や懲戒処分を受けるが、より悪質なケースには刑事罰もある。三田工業の粉飾決算に絡み、株主への違法配当を見逃したうえ「適正」とした監査報告書を作成し、見返りに元社長から3000万円のわいろを受け取った会計士が98年、商法特例法違反(収賄)容疑で大阪地検特捜部に逮捕された。今回と同様に、粉飾決算に関与したり、未公表情報を利用して株を売買して、証券取引法違反(インサイダー取引)に問われたケースもあった。
 中央青山(前身の中央監査法人を含む)に限っても、足利銀行の監査を巡り法人が処分されたほか、97年に破たんしたヤオハンジャパンの担当会計士が業務停止処分を受けた。また、99年に破産した山一証券のケースでは、破産管財人から賠償訴訟を起こされ、和解金の支払いに応じた。
 会計土や監査法人を監督するのは昨年4月に新設された金融庁の「
公認会計士・監査審査会」。公認会計土協会が監査内容を点検していたが「身内に甘くなりがち」との指摘を受け、審査会が再点検することになった。審査会は、必要があれば監査法人や監査を受けた企業を立ち入り検査し、問題が見つかれば、金融庁長官に懲戒処分を勧告する。審査会の金子晃会長は「『会計士は監査のプロだから、すべて任せておけ』ではなく、これからは監査内容について説明責任が求められる」と話している。

カネボウ粉飾 落ちた会計の番人 
 「きまじめ」裏で禁断の株 癒着の実態解明へ

 会計の番人が不正経理に手を貸していたーー。佐藤邦昭容疑者(63)ら4人の公認会計士の逮捕に発展したカネボウの粉飾決算事件。中央青山監査法人で監査チームのリーダーだった佐藤容疑者は疑惑を否定し続けたが、東京地検特捜部はカネボウ元社長、帆足隆被告(69)=起訴=らへの聴取を積み上げ、主張を突き崩した。佐藤容疑者は「きまじめ」という評判の裏で、会計士としては「タブー」とされる株取引にのめり込んでいたことも分かった。癒着はなぜ生まれたのか。実態解明が始まった。
 「客に手心を加える人じゃない」。佐藤容疑者の所属する中央青山の元同僚は話す。約2000人の会計士を抱える中央青山で、佐藤容疑者はチームの指揮を任される約260人の「代表社員」の肩書を持つ。ホノルルマラソン出場経験があるスポーツマンでもあり、信頼は厚かった。
 しかし同僚さえ知らない裏の顔があった。03年10月、東京都台東区の不忍池のほとりに立つマンションの1室を購入し、ここを根城に株の売買を繰り返していた。「会計士は企業の秘密情報を扱う。インサイダー取引になりかねないから1株も持たないのが常識なのに」と元同僚は驚く。
 中央青山は75年、カネボウの監査を受託。佐藤容疑者は93年3月期からカネボウを担当し、立件された02〜03年3月期当時は、担当チームのリーダーだった。
 佐藤容疑者を巡っては以前から疑念が指摘されていた。97年、カネボウの子会社「興洋染織」(解散)の調査依頼を受けた佐藤容疑者は、同年8月末ごろの中間報告で、「約459億円の債務超過」とした。
 ところが翌年1月には、約386億円と減額した虚偽の数字を報告書に記載。これを根拠に興洋への支援拡大が決定された。
 「(佐藤容疑者は)旧経営陣にだまされた、と言っている。大掛かりな経理操作だったから見抜けなかった」。中央青山の広報担当者は6月、取材にこう答えた。
 しかし、7月には中央青山が家宅捜索を受け、佐藤容疑者ら4人の会計士が次々と事情聴取された。
 8月末、中央青山の奥山章雄理事長は言葉を選びながら答えた。「会計基準を逸脱しているかどうかは分からないが故意ではないはず」。しかし期待はもろくも崩れた。


毎日新聞 2005/9/17

カネボウ粉飾 実現不可能な再建策 佐藤容疑者 子会社支援資料に
 「過大在庫なし」→実は260億円分→親会社の負担増

 カネボウ粉飾決算事件で、中央青山監査法人の公認会計士、佐藤邦昭容疑者(63)=証券取引法違反容疑で逮捕=が、巨額の赤字を抱える子会社について、実現不可能な再建計画を作っていたことが分かった。販売不振で大量の不良在庫があったのに「今後は、生産量と販売量が一致して売れ残りがない」などとする内容で、カネボウが子会社の支援拡大を決める重要な資料になっていた。東京地検特捜部も同様の事実を把握している模様だ。
 子会社は毛布加工・販売会社「興洋染織」。カネボウにとってアクリル糸の大量売却先で、興洋の破たんは本体の経営危機につながるため、カネボウは興洋を支援し、そこで生じた巨額の損失を隠すなどの目的で、800億円を超える粉飾決算をしたとされる。
 関係者によると、佐藤容疑者が97年11月11日付で作成した「損益計画妥当性について」と題した再建計画は@過大在庫がないA生産計画数量が販売計画量と一致し、売れ残りが生じないB資金調達は商社との信用取引によらず、銀行などの借り入れによることなどが前提と記載。「年間9億5200万円の経常利益を計上できる」と結論付けていた。
 しかし、興洋は98年3月末時点で約260億円の在庫を抱え、約220億円に達していた信用取引を中止することは、カネボウの大幅な負担増を招くことから、内部調査を担当した関係者は「再建策は現実的ではなかった」と指摘していた。


2005/9/20 毎日新聞夕刊

カネボウ粉飾 不良在庫を「新品」評価 
 フーズ決算 佐藤会計士 02年、旧経営陣と協議

 カネボウの粉飾決算事件で、証券取引法違反容疑で逮捕された公認会計士、佐藤邦昭容疑者(63)が02年、子会社「カネボウフーズ」が抱えていた不良在庫の取り扱い方法について、元社長の帆足隆被告(69)ら旧経営陣と協議していたことが分かった。カネボウは、賞味期限切れ寸前の在庫を、新品同様の価値を持つよう資産を過大計上するなどして決算を粉飾しており、佐藤容疑者が、不良在庫を巡る経理操作を詳細に認識していた疑いが強まった。 
 東京地検特捜部も協議の内容を把握しており、巨額の赤字を抱えた子会社を連結決算から外す粉飾手法について旧経営陣と協議した98年11月の会合と併せ、佐藤容疑者の容疑を裏付ける重要な事実とみている模様だ。
 関係者によると、佐藤容疑者は02年4月、旧経営陣と会い、賞味期限が迫り二束三文でしか売れなくなった商品や、廃棄するしかない賞味期限切れの在庫を大量に抱えたカネボウフーズの決算について話し合った。
 その結果、旧経営陣は不良在庫について、新品同様の価値を持つように資産評価したり、フーズ傘下の販売会社7社との間で、実際には商品を売買していないのに売買したように装い、見かけ上の売上高を膨らませる粉飾決算を行った。
 カネボウは、フーズ販売7社のうち6社を連結対象外にしていたが、フーズは食品事業の中核部門として連結決算に含めていたため、旧経営陣はその決算を重要視し、佐藤容疑者に相談を持ち掛けたとされる。経理担当だった元常務(59)=証券取引法違反容疑で逮捕、処分保留で釈放=も特捜部に対し、こうした経緯を認めたという。
 カネボウ幹部は「賞味期限切れ直前の食品は、安売り店にしか卸せず、販売価格は通常の20%前後。それを100%の価値で評価して決算に計上していたことは、会計士も承知していたはずだ」と証言している。