日本経済新聞 2004/3/6
カネボウ支援 化粧品新社に86%出資 再生機構、本体と実質分離
産業再生機構は5日、政策決定機関である再生委員会を開き、カネボウ再建の具体策を協議した。機構事務局は本体から分離する化粧品新会社を出資と債権買い取りで計3800億円支援、出資比率を86%とする案を示した。今後、取引銀行などとの最終調整を進める。繊維事業など本体も5日、カネボウから支援要請を受けた。10日にも改めて再生委を開き、化粧品事業の支援策と本体支援を決定する。
機構事務局が示した化粧品事業支援案によると、新会社の資本金は1千億円規模とし、機構が86%、カネボウが14%出資する。カネボウの比率を15%未満にするのは、同社の経営関与を避けるとともに、連結対象から外すのが狙いだ。新会社はカネボウに出資に見合う配当を払うが、経営面などでは本体とは実質的に分離される。
機構の支援額はこの出資金と債務の肩代わりで計3800億円とする。カネボウと主力取引銀の三井住友銀行が当初見込んだ最大5千億円と比べて大幅に圧縮される。
再生委はこの案をたたき台と位置づけ、関係者との調整を進め、10日にも具体策を決める。 機構の債権購入額は3千億円程度にとどまるため、本体には適正とされる1千億円を上回る2千億円規模の負債が残る。カネボウは「本体の円滑な再建に支障を来す」と判断、本体の再生も要請することにした。
再生機構は10日予定の再生委で、本体支援の検討開始も決める。今後、本体の企業価値を評価する資産査定を実施し、支援策を決める。同時に、取引銀に債権放棄を要請し、カネボウに追加リストラを求める。早ければ5月にもカネボウ全体の再生計画を打ち出す。
カネボウ再生スタート台に 本体に「単独再建」迫る 化粧品に依存できず
化粧品支援3800億円
迷走を続けたカネボウの再生シナリオは、産業再生機構が化粧品事業と繊維・医薬品などを営む本体を実質的に分離して支援に乗り出すことで、ようやくスタート台にたどりついた。花王に化粧品事業を譲渡する計画が破談となってから3週間。化粧品事業に的を絞った再生機構による支援案も修正を余儀なくされた。本体の経営の厳しさが浮き彫りになった格好で、化粧品事業の収益をあてにできない“単独再建”の道筋は極めて厳しい。
「なぜ再生機構は化粧品という健全な事業を支援するのか」
「収益力のある化粧品部分を切り離したら、残る本体はどうなるのか」
借入金なお巨大
カネボウが化粧品事業に絞った支援を産業再生機構に要請した2月16日から、株式市場に疑問の声が広がった。
カネボウや主カ銀行の三井住友銀行も本体の再生を考えなかったわけではない。事業価値のある化粧品事業を花王に売却、その資金を本体の借入金圧縮やリストラの原資にあてる計画だった。
花王は化粧品事業に4400億円の値をつけていたとされる。実現すれぼ本体の借入金は5500億円から1千億円規模に減らせる計算だった。
花王との交渉が破談になり、カネボウは再生機構に駆け込んだ。営利を重視しない再生機構なら機構がはじいた価値は3800億円。花王のように事業の相乗効果は期待できず、評価はその分低くなった。これではカネボウ本体に2千億円規模の借入金が残ってしまう。本体再生に赤信号が点減し始めた。
“新旧分離”狙う
再生機構が5日の産業再生委員会に示した計画は、収益力のある化粧品事業をカネボウの連結経営から分離する点に特徴がある。優良部門と不採算部門を切り分ける新旧分離と同じような効黒を狙ったものだ。
不採算事業を抱えた本体の再生に向けて、再生機構は今後、資産査定に入る。これを受けて、取引銀行などに金融支援を求めつつ、カネボウ自身に、徹底したリストラや部門売却などを迫っていくことになる。
それぞれの責任
2月にカネボウが再生機構に支援を要請した際は「公的な資金を投入されるのに、経営陣、銀行、株主とも責任をとらないのはおかしい」という批判が相次いだ。
カネボウ経営陣は化粧品事業への支援を産業再生機構に要請した時点では経営責任を明確にしなかった。しかし批判に耐えきれず、2月26日には帆足隆会長兼社長ら取締役8人全員が辞任すると表明した。
化粧品分社後のカネボウ本体の新社長には「過去のしがらみのない社外の人材を」(労組関係者)との声が多い。リストラなど後ろ向きの仕事が多くなるだけに人選は難航している。臨時株主総会は3月末なので、中旬までに新役員を内定する必要がある。
再生機構は本体支援にあたり、銀行に債権放棄という形で責任を求めるとみられる。その規模は現段階では確定していないが、総額で数百億円規模にのぼると見込まれる。株主責任も焦点。三井鉱山など再生機構がこれまで手がけた案件では、機構が出資する際に減資など一定の株主責任を求めている。
大幅リストラは必至
カネボウでは収益の低迷する事業が目立つ。2003年3月期の連結営業利益を事業別にみると、化粧品は321億円を確保したが、本体に残る事業全体では赤字だった。ホームプロダクツ(シャンプーなど日用品)は53億円、食品は35億円の黒字だったものの、繊維の109億円の赤字が響いた。過剰在庫の処分などに踏み切った2003年9月中間期にはホームプロダクツや食品も赤字に陥った。
再生機構の支援実施後は利払い負担が大幅に減る。ただ、個々の事業が高いシェアと競争力を持っているわけではなく、売上高の成長が望みにくい状況は変わらない。
カネボウは再生機構が化粧品事業に当初の見込み通りの金額を提示しても「本体が再建できるかどうかの水準」(同社取締役)としていた。連結対象外となる化粧品会社からは配当以外の貢献を朗待しにくい。
本体は売却・撤退を含む事業の選別や、人件費などの大幅削減といった大掛かりなリストラを迫られる。
日本経済新聞 2004/11/2
カネボウ化粧品 中国で三九と販社設立
来春、現地向けブランド
産業再生機構の支援を受けカネボウから分離したカネボウ化粧品は、中国の製薬最大手、三九企業集団(深セン市)グループと販売提携する。近く中国に合弁会社を設立。カネボウブランドの製品を日本から輸出し、来年4月から三九の販路で販売する。不良在庫削減や新たな社内組織づくりを進めてきたカネボウ化粧品は三九との提携を機に積極路線を鮮明にし、資生堂などに比べ出遅れている中国市場の開拓を加速する。
新会社は「カネボウ化粧品有限公司」(仮称)。資本金は650万元(約8400万円)でカネボウ化粧品が67%、三九の日本法人、三九本草坊医薬(東京・新宿)が33%出資する。
三九は中国全土で、日本のドラッグストアや薬局にあたる店舗約1万店を抱える。新会社は大都市部の三九系列店舗に加え、独立系チェーンなど計120店舗向けにカネボウブランド製品を供給。3年後に取扱店舗を500まで広げ、売上高70億円を見込む。
カネボウ化粧品は中国向けのブランド開発などを担当。三九本草坊がドラッグストア向けのカネボウ製品の独占代理店として中国に製品を輸出する。三九側が現地での売掛金回収業務も請け負い、カネボウ化粧品は事業リスクを軽減する。
中国の化粧品市場は約6500億円で、年7−10%の伸びを続けており、日本や欧米勢の進出が相次ぐ。資生堂は現地販路の開拓で先行し、2003年度の中国事業の売上高は約200億円。カネボウ化粧品は現在上海に合弁拠点を持ち、百貨店向けに独自ブランド品を販売しているが売上高は20億円程度。今回の提携でドラッグストアの顧客向けに別の専用ブランドを投入する。
2004/11/02 カネボウ化粧品
三九企業集団日本法人との中国における新会社設立について
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=85411
当社は、この度、中国最大の医薬品グループである三九企業集団の日本法人・株式会社三九本草坊医薬(東京都新宿区・西村一郎社長)と共同出資にて独資会社(※)「カネボウ化粧品(北京)有限公司(仮)」を中華人民共和国(中国)に設立することで基本合意しました。
「カネボウ化粧品(北京)有限公司(仮)」は、カネボウ化粧品の商品開発・マーケティング力と、三九企業集団の中国における絶大なる営業力を融合させた新たなビジネスモデルとして、成長著しいドラッグストア流通へ進出します。化粧品に、「健康志向」「敏感肌対応」「肌悩みに対応」といった側面を求める消費者の意向に対応し、専用ブランドを展開していきます。2005年4月より、北京・上海・広州のドラッグストアを中心に展開を図り、3年後には、取扱店500店・店頭売上70億円を目指します。
<※独資会社:中国において外国企業の100%出資により設立される有限会社。>
◆カネボウ化粧品の中国での事業展開
当社の中国事業の歴史は、1987年に中国の化粧品トップメーカーと技術協力契約を締結したのが始まりです。以降、1992年に中国専用ブランドを現地で製造・販売、1995年に、「上海カネボウ化粧品有限公司」を設立、更に、2000年には上海に化粧品工場を設立し、中国専用ブランド「AQUA」を百貨店流通約200店にて展開しています。
◆中国の化粧品事情
中国の化粧品市場規模は、2003年で約6,500億円にまで成長し、世界でも類を見ないほどの急成長を遂げており、近く日本の市場規模1兆4,377億円(2003年・経済産業省出荷統計)に肩を並べると予想しています。流通チャネルは、当社も参入している百貨店流通が全体の約7割を占めていますが、外資参入障壁の緩和、中国女性の化粧への関心の高まりなどにより、流通の広がりが進みつつあります。特にドラッグストアについては、健康イメージや肌悩みに関する具体的効果を求める消費者から高く評価されていることや、百貨店よりも幅広い顧客層をカバーしていることから、化粧品を販売する環境が今後より整備されることによって、化粧品購入チャネルとして選択される可能性は、益々高まると考えられています。
「カネボウ化粧品(北京)有限公司(仮)」の概要
1.社名カネボウ化粧品(北京)有限公司(仮)
2.所在地今後協議し決定
3.資本金650 万元
4.出資比率株式会社カネボウ化粧品67%、株式会社三九本草坊医薬33%
5.役員董事6名(潟Jネボウ化粧品より4名、且O九本草坊医薬より2名)
6.販売計画3年目:70
億円<店頭売上ベース>
7.取扱店3年目:500 店
「株式会社三九本草坊医薬」について
1.社名株式会社三九本草坊医薬
2.所在地東京都新宿区高田馬場2丁目14
番2号
3.資本金651 百万250 円
4.代表者代表取締役社長・CEO 西村一郎
5.設立平成7年12 月19 日
6.従業員数16 名
7.事業内容1)漢方医薬品・サプリメントの製造及び輸入・卸・販売
2)漢方生薬エキスの輸入・卸・販売
3)医薬品・ビューティ&ヘルスケア関連商品の輸出販売
日本経済新聞 2005/7/30
カネボウ元社長ら逮捕 証取法違反容疑 連結粉飾、初の摘発
産業再生機構の支援下で経営再建中のカネボウを巡る粉飾決算事件で、東京地検特捜部は29日、2003年3月期まで2年間の連結決算で総額約750億円の粉飾をしたとして、元社長、帆足隆容疑者(69)ら元役員3人を証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕した。3人はいずれも大筋で容疑を認めているもようだ。
名門企業の経営破綻に至った巨額不正経理は、当時の経営トップの逮捕へ発展した。連結べースの粉飾決算の刑事責任が問われるのは初めて。
他に逮捕されたのは元副社長、宮原卓(63)、財務・経理担当の元常務、嶋田賢二郎(59)の両容疑者。特捜部は同日、証券取引等監視委員会と合同で3容疑者の自宅のほか、関連先として会計監査を担当した中央青山監査法人などを家宅捜索した。
調べによると、帆足容疑者らは、02年3月期の連結決算が約744億円の債務超過や約57億円の最終赤字だったにもかかわらず、「資産超過・黒字」と偽った有価証券報告書を提出したほか、03年3月期も虚偽の報告書を提出した疑いが持たれている。
二人三脚で不正経理
帆足容疑者 粉飾、背後で支え
宮原容疑者 経理に精通、暴走
創業110年以上の歴史を持つ老舗企業、カネボウを舞台にした粉飾決算事件は29日、経営トップの刑事責任が問われる異例の事態に発展した。再建を担ったはずの旧経営陣はトップダウンで不正な経理操作を進めた結果、上場廃止を招く結果に。経営のつまずきが決定的となってから約1年4カ月。明治以来、築き上げてきた老舗ブランドのイメージは、さらに傷ついた。
「頭脳明晰で、経理には精通していた。誰も口をはさめない雰囲気だった」。元副社長、宮原卓容疑者(63)に対する社内のほぼ一致した見方だ。
宮原容疑者はさくら銀行(現・三井住友銀行)出身。カネボウの再建を託され96年、同社の常務に就いた。98年には副社長に就任、同容疑者の「暴走」が始まったのは2001年ごろとされる。決算内容を報告した際、怒鳴られたという経理担当者は、その影響力の大きさに、不正経理を断りきれなかったという。ある幹部社員は「自らの経営責任に発展するのを恐れたのではないか」と指摘する。
社内評は「はっきりモノを言うタイプ」。社員のミスや交渉方法などを責め立てるケースも少なくなく、社内では「ピンポイント爆弾」と呼ばれていたという。
「おれはこんな経営状態の悪い会社に送り込まれたんだ」。社内では宮原容疑者の口からこんな言葉をよく耳にした。同社元幹部には「カネボウヘの愛着を感じなかった」ように映ったという。
元副社長が自在に粉飾を指示できたのは、元社長、帆足隆容疑者(69)が背後で支えになっていたからだった。松山商科大学卒業後、1961年、関連会社のカネボウ化粧品大阪販売に入社。販社時代は猛烈な営業マンとして知られ、「優秀な営業マン」だった。年1回の全国の化粧品販売会社の集会では、1500人の営業マンの顔と名前がほぼ一致したというエピソードも持ち、売り上げトップに輝いた。
81年、カネボウ本社に。94年には本社の化粧品本部長に抜てきされ、98年にはついに社長就任。歴代社長が慶応大卒・繊維事業出身者が登用される中、「帆足容疑者の経歴は異色」(同社社員)だ。社長時代も「とにかく化粧品を売れ」などと激を飛ばしていたというが、元役員らは「経営への長期的視点に欠けていた」と口をそろえる。
帆足、宮原両容疑者の「蜜月ぶり」は社内では有名だったった。飲食やゴルフをよく共にしたという。別の幹部社員は「何でも二人で決め、社内では二人の言う通りにやっていればいいという雰囲気だった。粉飾で傷口を広げてしまった」とため息をつく。
産業再生機構の支援決定は昨年3月。旧経営陣への捜査が始まった今春、同社元役員の一人は吐き捨てるように言った。「何十年も死ぬ気で働いてきたのに、退職金も払われなかった。もうカネボウのことなんて思い出したくもない」
担当会計士を参考人聴取
カネボウの粉飾決算事件で、東京地検特捜部は29日までに、同社の会計監査を当時、担当していた中央青山監査法人の公認会計士から参考人として任意で事情聴取したもようだ。中央青山は、立件対象となった2002、03年3月期決算を適正と認める意見を出しており、当時の経緯などについて説明を求めたとみられる。
中央青山は、今年5月にカネボウが訂正した2000−04年3月期の有価証券報告書については「カネボウの内部統制システムの不備や連結決算子会社の確認不能」を理由に意見表明しなかった。
中央青山は29日、カネボウの関係先として特捜部などの家宅捜索を受けたことについては「カネボウ現経営陣と協力して事態の解明を行ってきており、今回の捜査にも全面的に協力する」とコメントした。
2005/7/29 日本経済新聞夕刊
名門、暴かれる虚像 「会社つぶす気か」トップ主導で工作
カネボウの旧経営陣による粉飾決算疑惑で、東京地検特捜部は29日午後、経営トップだった帆足隆元社長(69)、宮原卓元副社長(63)ら3人について、証券取引法違反容疑での逮捕に踏み切る方針を固めた。110年以上の歴史を持つ名門企業がグループを挙げてつくった“復活”の虚像。なりふり構わぬ粉飾に走った社内で何が起きたのか、特捜部は実態の解明を進める。
◆黒字・資産超過
「会社をつぶす気か。粉飾してでも事業計画を達成しろ」
2002年2月、東京都港区のカネボウ本社ビル12階の副社長室。宮原副社長は、財務・経理担当の取締役だった嶋中賢三郎元常務(59)から、02年3月期の連結決算が赤字・債務超過となる見通しであることを告げられると、怒鳴り声をあげたという。
あくまでも「黒字・資産超過」の数字を求める帆足元社長と宮原元副社長の指示を受け、嶋田元常務以下の経理担当者は、化粧品や日用品、繊維など各事業部門に粉飾額を指定。各部門は実態の伴わない経理操作によって売り上げの水増しなど「数字作り」を進めた。
元社員の一人は「現場が実情を伝えても上は数字を求めるだけ。『やれと言うんだから粉飾も仕方ない』と、社内にはしらけた空気が漂っていた」と振り返る。
◆各部門に“ノルマ”
実現不可能な数字を要求された各事業部門は、売り上げを過大計上したり、経費の支払いを翌期に繰り延べ計上するなど、様々な手口でノルマを達成していった。
翌期に返品として買い戻す約束をしたうえで、取引先に形だけ商品を売却する「押し込み」と呼ばれる手口も、化粧品部門を中心に頻繁に使われていたとされる。
子会社の毛布メーカー「興洋染織」(解散)から買い取った毛布も、いったん商社などに販売して買い戻す仮装取引を繰り返した結果、倉庫に大量の毛布が山積みに。こうした不良在庫も損失処理を先送りしたまま、資産計上していたという。
◆融資引き揚げ回避
「その場しのぎの仮装取引は帆足・宮原体制以前から慣行になっていた」と元役員の一人は証言。「多角経営の失敗が明らかなのに、問題を先送りし続けてきた昔の経営陣の責任も大きい」と指摘する。
帆足元社長が社長に就任して3年目の01年3月期。一部の銀行に融資引き揚げの動きがあり、カネボウは「会社存亡の危機」と業績向上に取り組んだ末に「6期ぶりに連結債務超過を解消」と決算発表した。02年3月期には、帆足元社長は黒字決算による株主への配当再開を目標に掲げていたという。
しかし、同社が今年4月に発表した社内調査結果によれば、実態は04年3月期まで9期連続の連結債務超過だった。同社関係者は「帆足元社長や宮原元副社長が経営再建の努力をしたことは否定しない」としつつも、「結局は先送りを続け、現場の状況を知りながら無理に無理を重ねさせた」と批判している。