日本経済新聞 2007/1/14
「水づくり」世界で拡大 環境技術生かす
旭化成 米中で浄化膜受注
東レ 地中海圏で淡水化
日本企業が海外で飲料・工業用水をつくり出す水資源事業を拡大する。旭化成は中国や米国で、東レは地中海沿岸地域で浄水場や海水の淡水化に使う水処理膜を相次ぎ受注。三菱商事などは水道事業への投資や運営を進める。人口増や工業化を背景に世界の水不足は深刻さが増しつつある。環境技術で蓄積がある日本企業には海外から引き合いが急増しており、水資源分野を成長市場と位置づけて開拓する。
世界では11億人が水を十分に利用できていないとされ、中国や中東では工業用水不足が経済成長の阻害要因となっている。民間調査会社の富士経済はプラントや超純水製造装置も含めた世界の水資源関連市場は、2010年には05年より約1千億円増えて約5700億円になるとしている。
旭化成は中国で2件の大型施設向けで水処理に使う精密ろ過膜を受注した。北京市郊外で日量3万5千トンの汚水処理施設用に、浙江省では発電所向けに日量5万トンを淡水化する前処理施設用に納入する。中国での06年の受注額は前年比5割増で推移し、昨夏に水処理膜の現地生産を始めた杭州工場はフル稼働中だ。
旭化成は米国でもミネソタ州で日量36万トンの浄水場向けに水処理膜を受注。100万人分の水を賄う施設でシステムを含む納入額は20億ー30億円。同社の水処理膜事業の売上高は06年で約100億円だが、10年には500億円に引き上げる。
東レは地中海に面するアルジェリアとイスラエル、マルタで海水の淡水化に使う逆浸透膜を受注した。アルジェリアの設備はアフリカ最大の淡水化プラントで日量20万トンを造水する。イスラエルやマルタも同5万−9万トン規模になる。東レは逆浸透膜では世界3位で、水処理関連事業の売上高は今後10年以内に3倍の1千億円を目指す。
逆浸透膜で米ダウ・ケミカルに次ぐ世界2位の日東電工も、中国浙江省などで発電所の淡水化設備向けに3件の受注に成功した。10年度には売上高を現在の2倍の280億円に増やす。
大手商社は中東などで海水淡水化や上下水道整備など大型施設の運営に乗り出している。三菱商事はサウジアラビアで地元企業などと組み、発電と淡水化を組み合わせ総事業費で2300億円前後とされるプラント建設の優先交渉権を得た。三井物産や丸紅、住友商事なども受注活動や水道会社への投資を強化する。
水資源事業のうち上下水道の建設・運営は欧州企業がノウハウを持ち、仏スエズなどが中国市場で先行する。日本勢は超微細技術を武器に水処理膜の高機能化などで攻勢をかけ、インフラ整備を通じて産油国などとの関係強化も狙う。
水資源事業と主な日本企業
事業内容 | 企業 |
水処理膜 | |
上下水、工業用水処理用精密ろ過膜 | 旭化成、東レ、三菱レイヨン |
海水淡水化用逆浸透膜 | 日東電工、東レ、東洋紡、三菱レイヨン |
プラント・装置 | |
蒸留式海水淡水化 | 日立造船、ササクラ |
超純水製造装置 | 栗田工業、オルガノ、日本ガイシ |
設備の建設・運営 | |
中東やアジアで海水淡水化設備や排水処理設備 | 三菱商事、三井物産、丸紅、伊藤忠商事、住友商事 |
東レの逆浸透膜、地中海沿岸の海水淡水化プラントで相次いで受注
東レ株式会社は海水淡水化用の逆浸透(RO)膜事業で、地中海沿岸の3箇所での海水淡水化プラントに、相次いでRO膜の受注をいたしました。
いずれも2007年稼働開始予定で、トリニダードトバゴ海水淡水化プラント(2001年納入、造水量13.6万m3/日)や、シンガポールのチュアス海水淡水化プラント(2005年納入、造水量13.6万m3/日)などに引き続いての海水淡水化大型案件の受注となります。
今回受注した場所は、下記3箇所です。
(1)ハンマ海水淡水化プラント
(アルジェリア、造水量20万m3/日)
(2)パルマシム海水淡水化プラント
(イスラエル、造水量9.3万m3/日)
(3)マルタ海水淡水化プラント
(マルタ、造水量5.4万m3/日)
(1)ハンマはアルジェリアの地中海沿岸、首都アルジェの郊外にあり、プラント建設はGE アイオニクス(Ionics)社が受注し現在建設中で、完成するとアフリカ最大の海水淡水化プラントとなります。
(2)またパルマシムはイスラエルの地中海沿岸にあり同国第2の都市テルアビブの南に位置します。同国のヴィア・マリス・コンソーシアムが建設・運転・維持管理を受注しました。本案件は、東レにとって同国プラントへの初納入となります。
(3)マルタは地中海に浮かぶ島国で、現在、島内3カ所で海水淡水化を行っています。これらは全て1980〜1990年代に建設されたもので、この度、同プラントのRO膜の交換をすることとなり、東レ製が初めて採用されることに決定いたしました。
これら三国は共に地中海沿岸地域であり、内陸部に水は殆どありません。国連レポートによればこの地域はアラビア湾岸地域等と並び2025年の水欠乏地域(*注1)となっており、このまま手をこまねいていると国家の存亡にかかわる事態となる恐れがあります。
このような背景もあり、この地域での2015年までの淡水化施設容量増加予想は179%となっており、これは湾岸地域の2倍近い伸びが期待されています(*注2)。その中でも特にアルジェリア、イスラエル、それに東レが多くの実績を持つスペインが、海水淡水化プラント、特にRO膜法によるプラント建設に力を入れており、現在続々と巨大ROプラント建設を計画中です。
東レは、今後も引き続きこの地域の他、中東、中国など積極的に受注拡大を図って行く所存です。
*注1:水需要が供給を大きく上回る地域(水不足率40%超) 水不足率=(1−水供給量/水必要量)×100
*注2:Global Water Intelligence誌予測
アメリカ最大級規模の浄水場設備に中空糸ろ過膜「マイクローザ」受注
旭化成ケミカルズ株式会社(社長:藤原
健嗣、本社:東京都千代田区)はこのたび、アメリカミネソタ州ミネアポリス市の浄水場で、弊社の中空糸ろ過膜「マイクローザ」の採用が決定いたしましたので、お知らせいたします。
1. 内容
アメリカでは、動物に感染する寄生性原虫クリプトスポリジウムからの汚染防止の規制が強化されました。これにより、従来の凝集・沈殿、砂ろ過法から膜によるろ過方式が進展することが見込まれております。
今回受注したのは、水量36 万m3/日の超大型設備で、アメリカでも過去最大級の規模です。これは、日本国内の膜処理能力総水量62
万m3/日(2005 年度)の58%に相当します。
ミネアポリス市では、26 万 m3/日の第1
期に続く2
期設備ですが、弊社が開発してきた高機能中空糸ろ過膜「マイクローザ」が高く評価され今回の受注となりました。
従来膜処理法は、中小型設備向きといわれておりましたが、今回の超大型設備に膜処理が採用されたことで、今後、大型設備への受注拡大を図る所存です。
【受注内容】
<ミネアポリス市
Fridley(フリドリー)浄水場>
(1)場 所 アメリカ ミネソタ州ミネアポリス市
Fridley浄水場
(2)処理能力 360,000m3/日 処理水量
(3)稼動時期 2009 年7 月膜システム納入、2011
年1月フル稼動
2. アメリカでの実績
中空糸ろ過膜「マイクローザ」は1997
年以来アメリカの浄水場で採用されすでに建設中のものも含め200
箇所以上の実績があります。従来のろ過方法と比べ水質に優れた水が安定的に得られます。またマイクローザは高い機械的強度と耐薬品性を持ちその寿命に定評が
あります。