2008年9月5日 朝日新聞

埋設農薬、未処理2千トン 補助金切られ10道県難航

 70年代に国の指導で地下に埋められた有害農薬の最終処理が頓挫している。国は国際条約を批准して来春までに処理を終える計画だったが、財政難から
10道県で2083トンが地下に眠ったまま。地震で地中に漏れ出る危険もある。国は「税源は移譲した」との立場で、解決のめどが立っていない。

 有害農薬が地下に埋設されることになったのは1971年、旧農林省が農作物に残留して体内に蓄積して健康被害を引き起こすとして、
アルドリン、エンドリン、ディルドリン、BHC、DDTの5種類の有機塩素系農薬の使用を禁止。最終的には無害化処理が必要だが、当時は高温焼却などの技術はなかったため、地下に埋めるよう都道府県に指導した。30道県が計約4660トンを、プラスチックのコンテナに入れた上で、県有地や農薬メーカーの敷地などの地下にコンクリートの箱に密閉するなどして埋めた。

 政府は02年、有害化学物質を規制する「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」を批准したことから、地中に埋めた農薬の最終処理を検討。条約に期限はないが、国は04年度から5年で処理する計画をたて、04、05両年度は国が費用の半分を負担する補助事業(各約4億円)を組んだ。しかし、国から地方に税源を移譲する三位一体改革で、06年に補助金は廃止になった。

ストックホルム条約

各国が講ずべき対策
@製造、使用の原則禁止(アルドリン、クロルデン、ディルドリン、エンドリン、ヘプタクロル、ヘキサクロロベンゼン、マイレックス、トキサフェン、PCB)及び原則制限(DDT)
A非意図的生成物質の排出の削減(ダイオキシン、ジベンゾフラン、ヘキサクロロベンゼン、PCB)
BPOPs(
Persistent Organic Pollutants、残留性有機汚染物質)を含むストックパイル・廃棄物の適正管理及び処理
Cこれらの対策に関する国内実施計画の策定
Dその他の措置
  ・新規POPsの製造・使用を予防するための措置
  ・POPsに関する調査研究、モニタリング、情報公開、教育等
  ・途上国に対する技術・資金援助の実施

 農林水産省の4月時点の調査を基に朝日新聞社が調べた結果、30道県のうち20県で最終処理が完了していたが、10道県の120カ所で未処理だった。同省は犯罪予防や安全維持を理由に埋設場所は非公表としている。

 05年の朝日新聞社の都道府県への調査で12道府県で周辺土壌や地下水への汚染が確認された。うち5府県では環境基準を上回っていた。その後、土壌の除去などが進められている。専門家からは地震などの災害時に地盤がゆるんで農薬が地中に漏れ出る危険性も指摘されている。

 94カ所と埋設場所が最多だった新潟県は、05年度から計約6億円を投じて処理を進めたが、88カ所が未処理で、うち74カ所は計画すらない。埋設場所を集約せずに自治体単位で埋めたことが障害となっている。県の担当者は「予備調査に1年、掘削作業に1年はかかる。予算にも限りがあり、やれる所からやっていくしかない」と嘆く。

 北海道、滋賀、鳥取、岡山の4道県はまったく処理計画がない。北海道は最も数量が多く、農薬メーカーの敷地2カ所に計566トンが眠る。担当者は「元々は国の指導で地下に埋めた。本来、条約への対応や農薬の管理は国の責務。財源を含めて国が最終処分まで対応すべきだ」と不満を隠さない。

 処理したくても物理的にできないケースもある。鳥取県は国が補助金を出す前から独自に処理に取り組み、45カ所を18カ所まで減らした。しかし、残りの大半は建物や道路ができて、掘り返せないのが実態だという。

 10カ所中8カ所で処理を終えた長野県。上田市のゴルフ場敷地内は今年度中に処理できる予定だが、最後の1カ所は富士見町の農協の貯蔵庫の地下。何とか建物を撤去せずに周りから取り除く方法はないか調査中だ。

 農水省農薬対策室は「国から地方に税源が移譲された中で、最終処理の費用分も上乗せされている。最終処理を優先するか否かは各道県の判断次第」とし、新たな予算措置の予定はないとしている。

     ◇

 東京農工大・細見正明教授の話 

 埋設された農薬が放置されれば、雨水などで周辺の土壌や地下水が汚染される可能性があり、地震でコンクリートの覆いが壊れるおそれもある。国と地方の双方に責任はあり、責任の押しつけ合いで処理が進まないのでは、国際的には通用しない。未処理の場所は処理できない事情や監視の状況をきちんと説明し、処理が済んだ場所も汚染の有無や処理の方法を公表して安全性を客観的に示していく必要がある。

 

2008/08/19

藤沢、平塚の埋設農薬を最終処理へ/県が方針

 神奈川県は2008年8月18日、藤沢、平塚市内の計2カ所に埋設されている計73トンの残留性有機塩素系農薬を掘り起こし、来8月までに焼却や溶融などの最終処理を行う と発表した。いずれも国が1971年に販売・使用を禁止したジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)などの成分を含んだ殺虫剤など。国の指導で未使用農薬が全国各地で回収されたが、当時は無害化処理技術がなかったため、すべて埋設処理されていたという。

 農林水産省によると、残留性有機汚染物質の使用などを禁止する「ストックホルム条約」が2001年に制定され、農薬の分解処理技術の開発も進んだことか ら、国は04年から最終処理の推進に着手している。全国では71〜73年にかけて24道県の168カ所で埋設された約4400トンの使用禁止農薬のう ち、すでに13県の2230トンの処理が終わっているという。

 県内の埋設場所は、藤沢市用田の民間駐車場内(約250平方メートル)と、平塚市天沼の倉庫敷地内(約12平方メートル)の2カ所。これまでの地下水、土壌調査では、農薬の漏えいなどは確認されていないという。

 藤沢では、農協などが設立した県農薬安全処理組合が73年に、瓶などの容器に入ったDDT、アルドリンなどを含んだ計72トンを、コンクリート製の土管28本に詰めて地下約10メートルに埋設。平塚では農薬卸業者が71年、約1トンをドラム缶5本に密閉し、コンクリートを流して埋設していた。

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平成20年8月18日 神奈川県

埋設農薬の最終処理について

過去に国の指導により、県内2箇所に埋設された残留性有機塩素系農薬(BHC、DDT、アルドリン、ディルドリン及びエンドリン)について、当時の埋設者が事業主体となり、9月から最終処理する事業が開始されます。

神奈川県としては、埋設農薬が安全かつ適正に最終処理されるよう、事業主体に対して技術的支援を行うとともに事業費を補助します。

1 経緯について

BHC等の有機塩素系農薬は、残留性が高いなどの問題があり、昭和46年に販売と使用が禁止され、回収された未使用農薬は、当時は無害化処理技術がなかったため、昭和46年から47年にかけての国(当時の 農林省)の指導により、漏えいしないよう密閉のうえ地中へ埋設処理された。

全国24道県、168箇所に総数量約4,400トンが埋設処理され、そのうち神奈川県内では、2箇所約73トンが埋設処理された。

平成13年5月に、これらの農薬を含む残留性の高い有機化合物の適切な管理及び処分等を進めるため、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条 約」が制定(日本は平成14年に批准)され、各加盟国は、その適切な管理が義務付けられた。国は、埋設農薬の分解処理技術を開発し、平成16年度から埋設 保管された農薬の最終処理を推進している。

県は、平成14年度から埋設箇所付近の地下水、土壌について環境調査を実施しており、これまで埋設農薬の漏えいは確認されていない。

2 埋設状況と事業概要について

(1) 藤沢地区

(2) 平塚地区

5 事業スケジュール(予定)について

時 期 藤沢地区 平塚地区
平成20年9月 住民説明会(概要・調査)の開催
位置確定調査の開始
住民説明会の開催
掘出し工事の開始
      10月   無害化処理の開始
      11月 位置確定調査の終了 現地工事の終了
無害化処理の終了
      12月 住民説明会(堀出し工事)の開催  
平成21年1月
      
       
      8月
準備・堀出し工事、運搬の開始
無害化処理の開始
現地工事の終了
無害化処理の終了
 

2006/12/25 北興化学工業

埋設農薬の無害化処理に伴う特別損失の計上について(お知らせ)

当社は、昭和46年に農薬取締法により販売が禁止された農薬について、国が定めた「農薬安全処理対策事業実施要領」に従い、昭和47年から48年にかけてコンクリートピット内に埋設処理し、これまで適切に管理してまいりました。
その後、国は残留性有機汚染物質の廃絶、削減などを目的とした「ストックホルム条約」を平成14年に批准し、同条約は平成16年5月に発効しました。国はこれを受けて、埋設農薬処理事業を開始し、無害化処理技術を確立するなど安全に無害化処理が出来る体制を整えてまいりました。
このたび、当社は国の方針に基づいて、埋設農薬の無害化処理を実施することとしました。
完了までの期間は、概ね平成18年度から平成22年度までの5年間を見込んでいます。また、事業費総額は、各自治体の補助を想定のうえ、当社負担分を10億2千万円と見積り、今般、この費用を一括して引当金に計上し、特別損失で処理するものです。