日経ビジネス 2000/6/19

深層 衝撃映像 FBIが隠し撮り、「カルテルの現場」を米司法省が公開
     暴かれた
味の素、協和発酵らの謀議

 「(1ポンド当たり)1ドル16セントでいいか?」「米国とカナダは同じ価格で」「明日から実施だ」
 今年4月6日、米ワシントンのホテルで衝撃のビデオが公開された。味の素、協和発酵が加わっていた国際カルテルの現場を米連邦捜査局(FBI)が隠し撮りし、米司法省が編集したものだ。その生々しい映像は、ビジネスが国際化した今日、企業にとってカルテルがいかに危険な行為であるかを訴えてくる。
 問題のビデオは、米法曹協会の定期会合の場で流された。当日になって突如、「カルテル行為の内情」と題した講義が追加され、テキストも配られた。そして、弁護士や大学教授など300人以上の法律専門家が約25分間、前代未聞の映像を目にした。
 1993〜95年の撮影で、
日米韓の5社飼料添加物「リジン」を巡り、販売価格や販売量を不当に取り決めていた様子を映し出している。各社は既に有罪を認め、罰金支払いにも合意したが、このビデオが立証の決定となったことが分かる。
 字幕まで付いており、どの社の誰が何を喋ったのか、すべて分かってしまう。米国では起訴状や判決文と同様の公開情報だからだ。しかし、本誌は既に刑を受けた幹部もいることを考慮し、顔や名前の特定を避けた。 
 印象的な場面と司法省の解説を紹介しよう。「カルテルメンバーが示した顧客と取り締まり機関に対する侮蔑」と題された95年のシーンでは、米アトランタのホテルの一室で幹部たちが談笑している。部屋には空席があり、これはカルテルが発覚しないよう、共謀者の到着時間をずらすためだという。登場人物たちは食事をしながら、空席には誰が来るのか冗談を飛ばし合って笑う。「この席はFBI?」「ここはFTC(米連邦取引委員会)?」
 この場面をFBIが撮影していたのだから、まるで犯罪捜査映画のパロディーだ。会場では失笑が広がった。

 「競合企業は友、顧客企業は敵」
 共謀者たちは顧客企業をも侮っていた。司法省によると、主犯格である
米アーチャー・ダニエズ・ミッドランド(ADM)社の社長がライバル企業の幹部に、「競合企業は友であり、顧客企業は敵だ」と言い放ったという。
 冒頭の会話は、販売価格を決めた核心場面から引用したもの。94年にハワイのホテルに集まった幹部たちは、市場での競りのような気軽さで数字を提示し合う。「米国、カナダではトラックに満載した場合で1ポンド当たり1ドル16セント」という細かい販売条件があっという間に決まってしまう。
 司法省は、価格や販売量の取り決めを摘発しただけではない。カルテルを隠蔽したり、抜け駆けを防ぐやり口をも暴き出している。例えば、共謀者たちは同業者組合をカルテル会合の“隠れ蓑”として、いかに利用するかを話し合っていた。米法曹協会で配られたテキストには、偽の議事日程のコピーも添えられていた。
 仲間の裏切りを防ぐ方法としては“脅迫”と“補償金制度”がある。画面は、ADM幹部が脅しをかけつつ、他の会社に販売割当量を合意させようとしている。また、取り決めより安く販売し、売り上げを伸ばした企業に対する罰則も話し合われた。話し合いで決めた販売量を上回った企業は、下回った企業に対して、“補償金”として、その不足分のリジンを買い取るという。ビデオには次のような会話が出てくる。
 ADM幹部「貴社が予算割れしたら、当社で買い上げよう」
 味の素幹部「それはありがたい(笑)」
 隠し撮り、盗聴、内部告発者を利用したおとり捜査、「刑罰を軽くしてほしければ、罪を認めて他社の情報を話せ」という司法取引…。米国では、麻薬シンジケートの摘発と見まがうほどカルテルも執拗に捜査し、違法行為を丸裸にする。さらに今回は、法廷資料としてのビデオまで公開されたのだ。
 ビデオを解説したテキストは、以下の言葉で締めくくられている。「(法律家である)あなた方にこのビデオとテキストを役立ててほしい。まず顧客止茉がカルテルに関わるのを思いとどまらせるために、そして、防止できなかった場合は違法行為を発見するために」。企業経営者に恐怖心を植え付け、カルテルを未然に防止するという狙いがあるようだ。
 
 E∪の罰金額は売上高の10%にも
 国際カルテルの代償が大きくなるのは、米国での取り締まりが厳しいからだけではない。米司法省がつかんだ証拠や情報は、他国の独占禁止当局にも流れ、捜査の参考資料となる。
 欧州連合(EU)の行政機関である欧州委員会は6月7日、同じリジンカルテルの5社に対し、総額1億1000万ユーロ(約110億円)の罰金支払いを命じた。
味の素は2830万ユーロ(約28億円)、協和発酵は1320万ユーロ(約13億円)だった。
 各国の独禁当局は企業活動のグローバル化への対応を急いでいる。元公正取引委員会委員の伊従寛・三菱総合研究所顧問は、「経済協力開発機構(OECD)で加盟国同士の情報交換が決議されているし、米、EU間には独禁協定がある。日米間でも独禁協定が結ばれるなど、当局の連携は世界的な流れだ」と指摘する。米司法省がビデオなどの証拠を欧州委に提供していたことは間違いない。
 欧米からリジンカルテルで厳しく追及された協和発酵は、「欧州委の決定については法的に納得がいかない面もあり、欧州裁判所に判断を仰ぐことも選択肢として考えている」(コーポレートコミュニケーション室)と話す。ただ、カルテル行為自体を否定するのではなく、「カルテル行為の期間が90〜95年なのに、その後に強化した罰金規定をさかのぼって適用するのはおかしい」(顧問弁護上の中藤力氏)という理由だ。なお、企業に対するEUの罰金上限額は全売上高の10%。1兆円企業なら1000億円を科せられる可能性があるということだ。米司法省が公開したビデオについては、「顧問弁護士を通じ、取り寄せる予定」(協和発酵)という。
 一方、味の素は、「欧州委の調査に全面的に協力してきた。同委の決定については詳細を検討したうえで対応を決める。95年以後は全社的に法令順守に努めている」と話す。ビデオ公開については知らなかった、と言う。
 日本ではカルテルに対する摘発や刑罰が欧米に比べはるかに甘い。談合に寛容さを残す日本的感覚のまま、国際ビジネスに臨むとどうなるか。司法省のビデオはその恐ろしさを示す。
 独禁法に詳しい川越憲治弁護士は、「ビデオの公開は行き過ぎという気もするが、独禁政策については米国がスタンダードになりつつある。国際ビジネスに英語が必要なのと同じように、米独禁法に関する知識が不可欠だ」と話す。違法行為は、「旧ソ運で活動した米外交官並みに監視されていると考えた方がいい」(伊従氏)ようだ。

 


三井物産 2003/11/4

米国における塩化コリンに関する民事集団訴訟について
  
 http://www.mitsui.co.jp/tkabz/news/2003/031104.html

当社及び当社100%連結子会社である米国三井物産は、本年6月13日に、米国ワシントンD.C.連邦地方裁判所において、飼料用添加剤である塩化コリンに関し他社と共に独占禁止法違反に荷担したとして、陪審員により有責との評決を受けました。当社及び米国三井物産は訴訟にて一貫して違反事実はない旨を主張しており、引続き法廷において原告側と争うことを検討いたしました。しかしながら、原告側と和解を図ることが当社並びに全てのステークホルダーにとって最善であると判断し、その後調停を重ねてまいりました。その結果、今般原告側と最終合意に至りました。

和解内容は、当社、米国三井物産、及び個別に民事集団訴訟を提起されている当社100% 連結子会社であるBioproducts Inc.3社が、和解金として53百万米ドル(約58億円)を支払うことにより、免責を得るというものです。今後裁判所の承認を経て、本和解は正式発効となります。

尚、この合意に伴い、当社は和解金を2004年3月期の連結決算業績に反映させますが、本件に基づく期首業績見通しの変更はありません。

* Choline chloride is a well-known and globally accepted additive for feed.
  Within the European Union legislation, choline chloride is classified as a vitamin.


Jun 27, 2003

Pending lawsuits in the United States regarding choline chloride
   http://www.mitsui.co.jp/tkabz/english/news/2003/030627.html

The Company's wholly-owned US subsidiary Bioproducts Inc., which produces choline chloride, an ingredient used in animal feed and pet foods, was named as defendant in currently pending lawsuits in the United States, together with other third-party choline chloride manufacturers. In these cases, manufacturers of choline chloride allegedly violated US antitrust laws.

Although the Company and its wholly-owned US subsidiary Mitsui & Co. (U.S.A.), Inc. are neither a manufacturer nor a seller of choline chloride in the US market, they were also named as defendant together with the manufacturers in a class action lawsuit, based on the plaintiff's allegation that the Company and Mitsui & Co. (U.S.A.), Inc. were involved in the violation of the antitrust laws. During the course of legal proceedings, the Company and Mitsui & Co. (U.S.A.), Inc. have consistently denied any wrongdoing. However, on June 13, 2003 in the trial before the Federal District Court of the District of Columbia, the jury rendered a verdict stating that the defendants participated in the violation of the antitrust laws and that the damages suffered by the plaintiff are US$49.5million, subject to trebling pursuant to the US antitrust laws. So far, judgment has not yet been issued.

The Company and Mitsui & Co. (U.S.A.), Inc. continue to argue that the allegations in this case are completely without merit and have been in process of preparation for asking the Court to overrule the verdict. There can be no assurance of the outcome, but the management believes at this moment that this litigation will not materially affect the consolidated financial position, results of operations, or cash flows of the Company.

All other related lawsuits, where the Company, Mitsui & Co. (U.S.A.), Inc., and Bioproducts Inc. are named as defendants, are pending.


裁判

Cohen Milstein Hausfeld & Toll Obtains $150 Million Verdict in Choline Chloride Price-Fixing Class Action
  http://www.cmht.com/casewatch/cases/cwcholine.html

On June 13, 2003, a federal jury in Washington unanimously found four manufacturers and sellers of Vitamin B4 (choline chloride) liable for participating in a ten year global price-fixing and market allocation conspiracy. The jury ordered Japan's second largest trading company, Mitsui & Co., Ltd., its wholly owned U.S. subsidiary Mitsui & Co. (U.S.A.), Inc., DuCoa, LP, a choline chloride manufacturer based in Highland, Illinois, and DuCoa's general partner, DCV, Inc. to pay $49,539,234 in damages. This amount that the class would have paid absent the conspiracy is automatically trebled under the federal antitrust laws. Thus, the value of the verdict to members of the certified Choline Chloride Class is $148,617,702. The Mitsui Defendants, DuCoa, LP, and DCV, Inc. are joinly and severally liable for the damages.

The jury rejected the Mitsui Defendants' claims that it did not know of or participate in the choline chloride conspiracy through its wholly owned subsidiary Bioproducts, Inc. Mitsui is Bioproducts' international choline exporter. Bioproducts had previously been granted immunity from the Department of Justice in return for its cooperation in the DOJ's investigation into price-fixing in the bulk vitamins industry. Bioproducts has admitted that it conspired with North American (including DuCoa) and European manufacturers of choline chloride for ten years to fix, raise, stabilize, and maintain the prices for choline chloride worldwide.

The Choline Chloride Class is made up of direct purchasers of choline chloride from January 1, 1988 to September 30, 1998 and has been represented since 1999 by three Co-Lead firms: (1) Cohen, Milstein, Hausfeld, & Toll; (2) Boies, Schiller & Flexner; and (3) Susman Godfrey. Michael Hausfeld, lead counsel for the Class, gave the closing argument at trial that convinced the jury to find an international trader (Mitsui) liable under the U.S. antitrust laws for the first time. After the verdict, Mr. Hausfeld spoke about the huge victory, stating that "this case signals international traders in commodities affecting prices in U.S. markets can and will be held responsible under U.S. antitrust laws."

The trial before Chief U.S. District Judge Thomas F. Hogan (D.D.C.) was the first arising from a criminal investigation of price-fixing in the vitamins industry that became public in 1998. The criminal investigation has led to numerous corporate guilty pleas, jail time being served by the individual conspirators, and the collection of hundreds of millions of dollars in fines -- the most ever issued by the DOJ. Mitsui is one of the last holdouts from a settlement of class action suits that has yielded over $1 billion in payments to customers who bought vitamins. Specifically, Chief Judge Hogan has previously approved four major settlements between certain vitamin defendants and Class Plaintiffs.

Choline chloride is a B-vitamin required for the production of meat, eggs, and milk. Typical feed rations for swine and poultry require daily supplementation of choline chloride.

Click here to see the attached Special Verdict Form, filled out by the jury.

The CMHT Choline Trial Team included: Michael D. Hausfeld, Stewart M. Weltman, Brian A. Ratner, Brent W. Landau, Besrat Gebrewold, Peter Vitelli, Karie Annaccone, Zerai Araya, Jacquelyn Slade, Susan Bollen.


日本経済新聞 2004/2/3

78億円支払いで和解 三井物産

 子会社の米バイオプロダクツ社(オハイオ州)の塩化コリンをめぐるカルテル問題で、米カーギル社などに7350万ドル(約78億円)を支払うことで和解合意したと発表した。昨年10月には
集団訴訟を提起した原告との間で5300万ドルを支払うことで合意しており、三井物産の和解金負担は1億2650万ドルに達する。塩化コリンは家畜飼料への添加剤で、バイオ社は同業他社と価格カルテルを結んだとして、損害賠償請求を起こされていた。


2004/2/2 三井物産

米国における塩化コリンに関する民事集団訴訟離脱者との和解について
http://www.mitsui.co.jp/tkabz/news/2004/040202.html

当社、米国三井物産及び当社100%連結子会社であるBioproducts, Inc.(本社:米国オハイオ州、以下「Bioproducts」)は、飼料添加物である塩化コリンの販売に就いて、米国独占禁止法違反の行為があったとして塩化コリン購入者より米国ワシントンD.C.連邦地方裁判所に提訴されておりました。この内集団訴訟分につきましては、既に昨年10月和解契約の締結に至り、裁判所の承認を求めて手続中ですが、今般同訴訟より離脱した原告の大部分と和解合意に至りました。

和解内容は、Bioproductsが和解金として総額73.5百万米ドル(約78億円)を支払うというものです。

尚、この合意に伴い、当社は当該和解金を2004年3月期の連結決算業績に反映させますが、中間決算公表時の年間業績予想に変更はありません。