2002/06/04 日立メディコ
日立メディコが再生医療分野に参入
─ティッシュエンジニアリングの手法を用いた歯胚再生に関する研究を
名古屋大学 上田実教授と共同で開始─
株式会社日立メディコ(本店所在地:東京都千代田区、資本金:138億8千4百万円、取締役社長:猪俣 博)は、このたび、新規事業として再生医療分野に参入いたします。
同ビジネスへの参入にあたっては、まず、名古屋大学大学院 医学研究科 頭頸部・感覚器外科学講座 上田実教授とティッシュエンジニアリングの手法を用いた歯胚再生に関する共同研究を行い、同大学には合わせて寄付講座を開設いたします。
歯胚再生の実用化にあたっては、より経済的で効率良い提供体制を確立するため、歯胚に最適な自動化技術も開発し、培養から生産・提供までを一貫して行います。
※ティッシュエンジニアリング:細胞を3次元的に培養してヒトの組織・臓器を人工的に再生する技術
※歯胚:歯の原基。
1.新規参入の背景とねらい
(1)新規参入にあたって
当社は日立グループで唯一の医療機器の専門メーカーとして、昭和48年に現社名となって以来、CTやMRIなどの画像診断機器の製造・販売・サービスを中心に事業を展開してきており、この間、MRイメージング装置におけるオープン型装置を始め、さまざまな特徴ある製品を世界の医療分野に提供してまいりました。
しかし、21世紀を迎え医療技術は大きく進化しようとしています。当社も従来の画像診断機器ビジネスに加え、生まれつつある新領域に参入することにより、21世紀のヘルスケアへの貢献と医療産業全体の活性化をめざします。
当社にとって再生医療は新分野ではありますが、名古屋大学の再生医療技術と、当社の画像診断技術・日立グループの有する自動化技術を始めとした基盤技術との結合によって新しい価値を提供いたします。
なお、医療機器分野では、この10年の間に輸出が伸び悩み輸入が増加し、国際競争力の低下が叫ばれています。そこで医療技術産業戦略コンソーシアム(略称:METIS、共同議長:金井務日立製作所会長、桜井靖久東京女子医大名誉教授)が昨年3月設立され、産・学・官協力のもとに、医療機器の国際競争力強化に取り組んでおります。
そのなかでは、21世紀の医療を変える新分野・新領域への注力、産学官の連携、ベンチャーの育成が重点施策として取り上げられています。
今回の当社の再生医療への進出はまさにこの施策を実現するものであり、特に輸入が過半数を占める医療材料の現況を見直し、ひいては今後の医療機器業界の活性化に結びつくことを期待しております。
※医療材料分野においては、例えば人工血管の90%、ペースメーカーに至ってはほぼ100%を海外メーカーに依存しています。
(2)再生医療が求められる背景
21世紀を迎えた日本は高齢化社会に突入し、種々の臓器不全や障害を持つ患者の増加が予想されます。このような患者の治療法として、従来は様々な人工材料が用いられてきましたが、いずれの方法も必ずしも満足な結果をもたらしているわけではありません。
また、同種移植はドナーの確保が困難なことや免疫拒絶などの問題により、十分な解決策とは言えないのが現状です。
このような状況においてティッシュエンジニアリングは、次世代の移植医療を担う分野として多くの期待が寄せられています。
1)上田実:再生医工学におけるベンチャー企業戦略.日本機械学会誌,104:728−732,2001.
(3)歯をめぐる現状
高齢者の多くは、何らかの理由で一部ないしは全部の歯牙を喪失しており、その結果、多くの人は可撤(かてつ)式義歯(いわゆる入れ歯)を使用しています。全ての歯牙を喪失した場合に総義歯を装着すると、その咀嚼能力は通常の天然歯牙のおよそ5分の1になると言われており、大きな楽しみの一つである食事が、多くの高齢者にとっては歯の喪失のために苦痛となる場合も少なくありません。
また、咀嚼能力の低下は痴呆や寝たきりを引き起こす要因ともなり、全ての歯牙を喪失した人については通常の3倍の割合で痴呆に、10倍の割合で寝たきりになりやすいと言われています。
このような状況に対しては、近年人工歯根が開発され臨床に応用されています。しかし、この方法は、歯の神経や歯根膜の再生には至らない、完全な機能回復が望めないなどの理由から理想的な方法とは言えません。
今回の歯胚再生は、これまで歯の生え変わりは乳歯から永久歯への1回きりとされていたものを覆す画期的なものです。再生歯は、言わば第3の歯と呼ぶことができます。
これにより、咀嚼能力の回復に極めて有効な治療法を提供できるとともに、高齢者のQOLの向上に大きく貢献し、痴呆や寝たきりによる社会的コストの軽減にも効果を発揮します。
<市場の状況>
現在、歯科関係の医療費は全体で約2.5兆円、このうちの約5,000億円が歯胚再生の対象になるものと考えています。
※QOL:Quality of Life
2)重冨俊雄:歯の喪失はAlzheimer病の危険因子か.医学のあゆみ,185:837−840,1998.
3)上田実:これからの歯科は幹細胞の時代.The Quintessence,21:47−54,2002.
2.共同研究の具体的内容
(1) 細胞の分離、分化誘導、培養の技術確立: | |
歯胚細胞をはじめ、歯髄、歯嚢細胞、歯根膜等を分離し、その基礎的培養技術を確立する。 | |
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(2) 歯胚細胞に最適な足場材料の開発: | |
歯根あるいは歯胚の形成に必要とされる時間を耐え、その後直ちに吸収される素材の研究。 | |
(3) 増殖転写因子の応用と最適条件の評価: | |
培養組織の移植時期および顎骨内への挿入後の細胞の生存率や分化の程度についての検討。 | |
(4) 臨床前動物実験データ解析: | |
治癒期間や経時的変化に関する検討。 | |
(5) 臨床評価と治験研究: | |
臨床前動物実験にてチェックしたものの臨床への応用、製品化のための治験研究。 | |
(6) 細胞培養装置の技術: | |
人手をできる限り減じるための装置開発。安全性の問題を含めて産業化を進めるうえでの重要なポイント。 | |
(7) 産業化のためのシステム化研究開発 | |
(8) 技術普及のためのシステムづくり:保存、デリバリー、歯科医へのトレーニング |
※足場: | 新しい歯の土台となるもので、担体とも言います。細胞を増殖させ、組織の形態を形成させるために用いられる合成又は天然の材料。生体吸収性の合成樹脂や天然のコラーゲンなどが用いられます。 |
3.今後の再生医療ビジネス計画
当社では、5年後の実用化に向け計画を推進してまいりますが、実用化にあたっては日立グループの有する自動化技術によるオートメーション化を実現し、2010年には年間100億円の売上をめざします。
再生医療分野は従来にない全く新しい事業であり、大きな市場が期待される一方でリスクも伴います。当社では、基盤技術の研究開発や新規市場の開拓を強力に推進する必要があることからも、当初は社内ベンチャーを組織し、将来的にはベンチャー企業や販売会社の設立を視野に入れた柔軟な体制で臨み、培養から生産・提供までを一貫して行うサービス組織を作ります。
さらに、歯胚再生で培った技術をもとに、再生医療の対象を拡大することも検討してまいります。
■当社の概要
1.会社名 | :株式会社日立メディコ |
2.本店所在地 | :東京都千代田区内神田一丁目1番14号 |
3.代表者 | :取締役社長 猪俣 博 |
4.資本金 | :13,884百万円 |
5.従業員数 | :3,094名(連結ベース:2002年3月末現在) |
6.売上高 | :123,791百万円(連結ベース:2002年3月期実績) |