日本経済新聞 2003/5/2

三共の主力薬品、特許切れ 中堅医薬、一斉に後発品
 高脂血症薬メバロチン 同成分で2割安く

 中堅医薬品メーカー各社が三共の高脂血症治療剤「メバロチン」と同じ成分を使った後発医薬品を相次ぎ発売する。メバロチンは国内販売が千億円を超え、単一の医薬品としては最大。昨年10月に成分に関する基本特許が切れたため、後発品各社が約2割安い製品を7月から発売する見通し。国内で後発品の普及を促し、医療費全体の抑制につながる可能性もある。
 医薬品は発売後一定期間を経て特許が切れると、同一成分を使った後発品の発売が認められる。メバロチンは1986年に国内の物質特許を取得し、89年に発売した。特許切れを受け25社が厚生労働省から後発品の製造承認を受けた。
 薬価(薬の公定価格)の決定を受け、製法など成分以外で三共の特許の侵害がないと確認できた製品が7月に一斉発売される見通し。後発品は研究開発費が少なく済むため価格が安い。 東和薬品は「マイバスタン錠」を発売する。同社の取引先は開業医が中心だが、同製品の発売を機に高脂皿症の患者が多い大手病院の販路を開拓する。新製品は年商10億円以上と同社で売り上げトップを見込む。
 沢井製薬は「プラバチン錠」を売り出す。現在約200人いるMR(医薬情報担当者)の増員を検討。長期間飲み続ける高脂血症治療では、価格が安い後発品のメリットが大きいことを医療機関に訴える。
 スズケン子会社の三和化学研究所(名古屋市)やエ−ザイ子会社のサンノーバ(群馬県尾島町)など後発品専業以外の企業も製造承認を得た。
 欧米では特許切れ後すぐに後発品がシェアを奪うのが一般的で、医薬品全体に占める割合が5割近い日本では1割程度だが、厚労省は優遇制度を用意して医師の後発品利用を促進。今後、低価格の後発品の需要が高まる可能性は高い。
 ただ、後発品各社は新薬メーカーに比べMR数などで見劣りするため、医師側が情報不足を懸念し、採用に慎重な例も多いとみられる。

高脂血症
 血液中のコレステロール値が高くなりすぎる病気で、脂っこい食事や運動不足によって悪化する代表的な生活習慣病。特に悪玉コレステロールと呼ばれるタイプの血中濃度が上がると血管が詰まりやすくなり、脳梗塞や心筋梗塞の引き金となる。国内の患者は2千万人を超え、糖尿病や高血圧症にもかかっている場合が多い。
 治療には食物繊維の多い野菜や豆を摂取するなど食事の改善や十分な運動が有効だが、治療剤の使用も増えている。肝臓でコレステロール合成に必要な酵素の働きを妨げる「スタチン系」というタイプが主流。三共のメバロチンのほかに山之内製薬が販売しているリピトール、万有製薬のリポバスなどがあり、治療剤の国内市場規模は3千億円近い。                                

メバロチン後発品の製造承認を得た主な企業

社名 製品名
東和薬品 マイバスタン錠
沢井製薬 プラバチン錠
日本医薬品工業 メバン錠
大洋薬品工業 アルセチン錠
共和薬品工業 プラバスタチンNa錠
全星薬品工業 メバプラチン錠
辰巳化学 タツプラミン錠
長生堂製薬 メバラチオン錠
東菱薬品工業 メバレクト錠
東洋ファルマー メバロカット錠
サンノーバ リダックM錠
三和化学研究所 メバラス錠

三共 販売急減回避へ全力 精製特許掲げ法的手段も

 メバロチンの国内売上高は三共の医薬品売上高(単独べース)の3割強を占めるだけに、後発品に市場を奪われれば業績への打撃が大きい。期限切れしていない製法特許などが侵害されれば訴訟も辞さない構えで、売り上げ減をくい止めることに全力をあげる。
 メバロチンの基本特許は昨年10月に切れたが、もとになる物質を作り出す新規微生物の特許、変質しにくい安定した医薬成分の特許と、精製法の特許は継続中。メバロチンと同成分の医薬品を商業的に量産するにはこれらの特許使用が不可欠だとしており、後発品メーカーによる特許侵害には「あらゆる法的手段で対抗する」方針。不純物の濃度をさらに下げる新しい特許も出願中だ。
 全国の病院など757施設、1135人が参加する大規模な市販後臨床試験を実施、メバロチンが心筋梗塞や脳梗塞の予防に役立つとのデータも得られているという。将来、高脂血症以外の症状の改善に適応を広げられないかも検討する。
 後発品の発売後は病院などの協力も得て品質を確認し、問題が見つかれば公表して医師らに使用しないよう呼び掛ける。一連の対策で「メバロチンの売り上げ減を10%以内に抑えたい」(池上康弘専務)考えだ。
 大手製薬会社の国内特許は山之内製薬の排尿障害治療剤「ハルナール」が2005年、第一製薬の抗菌剤「クラビット」が2006年に切れる。特許切れ後にどう業績悪化を避けるかは大きな懸念材料で、各社は三共の対応を注視している。