日本経済新聞2008/9/6
新興国で稼ぐ
第一三共 インド、戦略の主軸に
買収で成長市場へ橋頭堡
第一三共によるインド製薬最大手ランバクシー・ラボラトリーズヘのTOB(株式公開買い付け)が4日終了した。ランバクシー株の同日終値が493ルピーとTOB価格の737ルピーを大きく下回ったこともあり、「買い付け上限の20%は問題なく集まるだろう」(野村証券の漆原良一アナリスト)との見方が広がっている。
米ファイザーや英グラクソ・スミスクラインなども狙っていたといわれるランバクシー。第一三共や世界のメガファーマがいま欲しいのは、新興国への橋頭堡だ。
ランバクシーは49カ国に営業拠点を持ち、その中にはアフリカや中東欧、南米などの新興国が多く含まれる。先進国を中心に21カ国・地域にしか進出していない第一三共にとってその意味は大きい。「例えばアフリカの営業網は大手で最大になる」と庄田隆社長は期待を込める。
医薬品市場の規模は経済発展と比例するため、大手は欧米や日本などを主戦場にしてきた。民間調査会社の米IMSヘルスによると、2007年の世界医薬品市場は6635億ドル。そのうち日米欧が8割以上を占めるのに対して、ブラジル、ロシア、インド、中国(BRICs)の合計は6%弱にとどまる。
ただ成長率をみると様相は一変する。日米欧市場の全体で見た年平均成長率は1ケタだが、主要新興国平均では同15%に達する。30年にはBRICs市場が最大で07年比10倍近い3600億ドル程度まで拡大すると第一三共は予想する。
08年3月期の売上高8800億円のうち日米欧向けが97%を占める第一三共にとって、ランバクシーの買収は成長の可能性を一気に膨らませる「奥の手」だった。
ランバクシーの07年の連結売上高は約1900億円、純利益は約200億円。08年は売上高で18-20%増、純利益で20-25%増を見込む。マルビンダー・モハン・シン社長兼最高経営責任者(CEO)は「12年に売上高50億ドル企業になる」と強気だ。
ランバクシーの強みは販売網だけではない。新興国では特許切れ成分を使う安価なジェネリック医薬品(後発薬)が幅をきかせる。新薬メーカーの第一三共には未知の世界だが、新興国攻略に後発薬は避けては通れない課題だ。
新薬・後発薬メーカーは本来犬猿の仲だが、その点でも今回の買収は驚きを呼んだ。第一三共は後発薬を敵に回すどころか、内部に取り込み「両刀使い」を目指す。シンCEOは「第一三共はランバクシーの世界中の販売網を活用できる。当社は特許が切れた第一三共製品を扱いたい」と共存を強調する。
後発薬は先進国でも存在感を増す。米国では既に半分以上(数量)を占め、日本でも医療費抑制のため国が普及を後押しする。新興国での後発薬の低コスト生産方式を導入すれば新薬の製造費も低減できる。その意味でも今回の買収は「理にかなった戦略」(クレディ・スイス証券の酒井文義アナリスト)といえる。
あとは最大5千億円の買収資金の半分を外部調達することで発生する金利負担や、のれん償却費用に見合う買収効果を具現化させるだけだ。
庄田社長は昨年、グローバル企業の仲間入りを狙い15年に連結売上高1兆5千億円、営業利益率25%を目指す「2015年ビジョン」を掲げた。目標を達成できるかどうかは、ランバクシーを主軸とする新興国戦略にかかっている。
主な新興国の医薬品市場
国名 | 年平均 成長率 (%) |
07年の 市場規模 (億ドル) |
ルーマニア |
30.3 |
24 |
ロシア |
28.8 |
55 |
トルコ |
22.7 |
94 |
中国 |
18.4 |
142 |
南アフリカ |
18.3 |
22 |
ハンガリー |
17.3 |
27 |
べネズエラ |
17.1 |
33 |
ブラジル |
15.4 |
103 |
アルゼンチン※ |
15.3 |
27 |
ポーランド |
14.3 |
58 |
インドネシア※ |
11.1 |
23 |
インド |
10.1 |
74 |
メキシコ |
1.7 |
87 |
米国 |
7.7 |
2,869 |
日本 |
4.3 |
657 |
(注)年平均成長率は02-07年が対象、青字は第一三共の未進出国。
※はランバクシーも未進出。
第一三共調べ