2003/5/12 インシリコサイエンス社

新型肺炎のワクチンや治療薬開発に弾み
 北里大学と日本SGIがSARSウイルスのタンパク質立体構造を予測
 世界に先駆けて構造データの無償提供サービスを開始

 北里大学薬学部(東京都港区)の梅山秀明教授を中心とした研究者と、日本SGI 株式会社(社長:和泉 法夫、本社:渋谷区恵比寿)は共同で、アジア各国を中心に被害が拡大している新型肺炎、重症急性呼吸器症候群(SARS)のタンパク質立体構造を世界で初めて予測し、その構造データをワクチンや治療薬の開発に役立つように、無償提供サービスを開始しました。

 梅山教授の技術は、世界的に定評のあるホモロジーモデリング法に基づく技術であり、高性能コンピュータを駆使してタンパク質の立体構造を予測することが可能です。このたび、北里大学と日本SGI の共同研究グループは、梅山教授が開発した立体構造予測ソフトウェア「PDFAMS Pro(ピーディ・ファムス・プロ)」および「PDFAMS Ligand(ピーディ・ファムス・リガンド)」を用いてその立体構造を予測したもので、この情報の公開によって、SARSワクチンや治療薬の開発が大幅に加速されることが期待されます。

 SARSは中国を中心に急激な広がりを見せ、それによる死者は世界保健機構(WHO)の統計や各国の発表によると5月8日現在で500人を突破しているといわれています。そのため、各国の政府、行政機関はその感染拡大を防ぐためにさまざまな対策を講じている一方、民間の製薬メーカーなどをはじめSARSウイルスに対するワクチンや治療薬の開発が急ピッチで進められています。
 しかしそのためには、SARSウイルスの増殖に関するタンパク質の立体構造を明らかにする必要がありました。

 今回、北里大学と日本SGIの共同研究グループは米国疾病対策センター(CDC=The Centers for Disease Control and Prevention)などにより公表されたSARSウイルスのゲノム配列を元に、ウイルスの自己増殖性に関係する酵素タンパク質である「Proteinase(プロテアーゼ)」及び「RNA Polymerase(アールエヌエー・ポリメラーゼ)」の立体構造を予測しました。
    RNA Polymerase

Proteinase及びRNA Polymeraseはウイルスの増殖に必要な酵素ですが、こうした阻害剤を開発するためのターゲットとなるタンパク質は少なく、世界中の研究者が今回の立体構造の 3次元座標を集中的に研究・利用することで、SARSウイルスに対するワクチンや治療薬の開発が加速されることになります。
 北里大学と日本SGIの共同研究グループは、引き続き予測精度をさらに向上させた立体構造モデルも整備していく方針です。

 なお、今回予測した立体構造データについては、SARSウイルス治療薬の早期開発に貢献するために、
インシリコサイエンス社のホームページ(http://www.pd-fams.com)にて、無償提供されています。同社は、梅山教授を中心とした研究成果を事業化することを目的として設立されたベンチャー企業です。

●北里大学薬学部 梅山秀明教授のコメント
 「インシリコの立場からこの20年間ホモロジーモデリング法を全自動で行えるように進歩させ、この方法を全生物種遺伝子蛋白質3次元座標の決定に利用をしております。今回、米国CDCからSARS遺伝子蛋白質情報が発表されたのを受けて、上記の方法を使って、SARSウイルスの自己増殖に必要な酵素の立体構造を算出し、http://www.pd-fams.com/のサイトにおいて、無償提供実施を行います。これらの情報を使って、産学官の知恵を動員し、一刻も早いSARS疾患に対する医薬品が創られることを期待します」

 


有限会社インシリコサイエンス (In-Silico Sciences Inc.)

社長: 海野万里奈
設立: 2002年11月26日
資本金: 300万円

会社方針: 北里大学薬学部梅山秀明教授を中心として20年以上に亘り蓄積されてきた研究成果である蛋白3次元構造予測技術、ソフトウェアおよび蛋白構造データベースを国内外のアカデミック機関、企業に広く活用いただき、大学の知の還元と社会貢献を果たす。あわせて、ポストゲノムシーケンス時代のリード役として新たな学問体系と産業の創出を目指す。

主要ビジネス:

1. 蛋白構造予測のための計算ソフトFAMSのライセンス供与
2. FAMSを用いて計算された、100万種以上の蛋白構造データのライセンス供与
3. 2年毎に開催される蛋白構造予測オリンピックCAFASPへ参戦し、優秀な成果を収めたsuperFAMSを用いて、蛋白構造の決定が決め手となる創薬、創農薬、創産業用酵素、等の分野における知的資産の創出。主に企業、アカデミック機関との共同研究

今後の戦略:
・タンパク質構造予測受託サービス
・タンパク質構造予測ツール
・タンパク質構造データベースシステム
現在既に多数の特許を取得しており、今後はより強力な特許を出願・取得の予定