asahi 2008年8月27日

サリドマイド、最終承認手続きへ 安全対策を条件に

 深刻な薬害を引き起こした「サリドマイド」をめぐり、血液がんの一つ「多発性骨髄腫」の治療薬としての有効性と安全性を審議する厚労省の薬事・食品衛生審議会の部会が27日開かれ、安全対策の徹底などを条件に、「承認しても差し支えない」との結論をまとめた。

 今後、再発防止策を議論している検討会の結論なども踏まえ、上部組織である薬事分科会で最終的に承認するかどうかを決める。

 この日の部会では、分科会で審議する際に、承認の条件として(1)安全対策の適正な実施(2)文書での患者たちへの説明や同意の取り付け(3)全症例を 対象にした使用成績の調査や製造販売後の臨床試験によるデータ収集の3点を考慮すべきだとした。その上で、「サリドマイドは社会的関心の極めて高い医薬 品」として、審査報告書を公開し、一般からの意見募集を9月11日まで実施することを決めた。

 「日本骨髄腫患者の会」副代表の上甲恭子さんは「サリドマイドの使用を待ちわびながら、亡くなった方も多い。できるだけ早く承認していただきたい」と話した。

毎日

サリドマイド:再承認へ 血液がん治療薬に 厚労省部会

 胎児に重い障害を起こし販売中止となった催眠鎮静薬「サリドマイド」について、厚生労働省薬事・食品衛生審議会の医薬品部会は27日、血液がんの 一つ「多発性骨髄腫」治療薬として承認することを了承した。厚労省はこの結論を上部の同審議会薬事分科会に諮る一方、承認を前提に安全管理対策などを検討 する。承認されれば、1962年の販売中止以来四十数年ぶりの復活となる。

 藤本製薬(大阪府松原市)が06年8月、多発性骨髄腫治療薬として製造販売の承認を厚労省に申請していた。この日の部会では、医薬品医療機器総合 機構が2年間の審査の結果を報告。それを基に議論した結果(1)安全管理の適正な実施(2)患者への文書による説明と同意取得(3)全症例を対象にした使 用成績調査と販売後の安全性・有効性に関するデータ収集−−を条件に「承認は差し支えない」という結論で合意した。

 サリドマイドは副作用が判明して60年代に販売が中止された。90年代になって多発性骨髄腫への延命効果が報告され、これまでに米国など17カ国で承認されている。日本では未承認のまま医師が個人輸入で治療に使うケースが増えており、患者団体が承認を求めていた。

 藤本製薬は被害者団体などの要望に沿って再発防止のための「安全管理基準案」を作成。サリドマイドを使う患者や医師、薬剤師を登録制にして処方や 流通を厳格にし、患者に妊娠を回避するよう情報提供することを盛り込んだ。同省は承認に向けた手続きと並行して、この基準作りも進める。【下桐実雅子】

 ◇「やっとここまで」

 日本骨髄腫患者の会の上甲恭子副代表は「99年以来、国に要望を出し続けてきた。やっとここまで来たという思いだ。骨髄腫の患者にとってサリドマ イドは必要不可欠な薬。藤本製薬が作成した安全管理基準を基に、一日も早くサリドマイドの安全使用に関する管理システムを完成させ、運用を始めてほしい」 と話した。

 サリドマイド被害者団体「いしずえ」の佐藤嗣道理事長は「被害を受けた薬が承認されるのは、体が引き裂かれる思いだが、一方で健康を大事に思う身 として、患者さんの治療に役立ってほしい。安全管理基準に被害防止のための実効性を持たせることが重要だ」と語った。【奥野敦史、下桐実雅子】

注1)サリドマイド訴訟

サリドマイドは「安全な」睡眠薬として開発・販売されたが、妊娠初期の妊婦が用いた場合に催奇形性があり、四肢の全部あるいは一部が短いなどの独特の奇形をもつ新生児が多数生じた。
日本においては、諸外国が回収した後も販売が続けられ、この約半年の遅れの間に被害児の半分が出生したと推定されている。
大日本製薬と厚生省は、西ドイツでの警告や回収措置を無視してこの危険な薬を漫然と売り続けた。
1974年10月13日、全国サリドマイド訴訟統一原告団と国及び大日本製薬との間で和解の確認書を調印、続いて26日には東京地裁で和解が成立した。以後、11月12日までの間に、全国8地裁で順次和解が成立した。
(企業と国の負担比率は2:1)

確認書
  「厚生大臣及び大日本製薬は、前記製造から回収に至る一連の過程において、催奇形性の有無についての 安全性の確認、レンツ博士の警告後の処置等につき落ち度があったことに鑑み、右悲惨なサリドマイド禍を生ぜしめたことにつき、薬務行政所管庁として及び医 薬品製造業者としてそれぞれ責任を認める」
  「厚生大臣は、本確認書成立にともない、国民の健康を積極的に増進し、心身障害者の福祉の向上に努力 する基本的使命と任務をあらためて自覚し、今後、新規薬品承認の厳格化、副作用情報システム、医薬品の宣伝広告の監視など、医薬品安全性強化の実効をあげ るとともに国民の健康保持のため必要な場合、承認許可の取消、販売の中止、市場からの回収等の措置をすみやかに講じ、サリドマイド事件にみられる如き悲惨 な薬害が再び生じないよう最善の努力をすべきことを確約する」

サリドマイドは一般名であり、化合物名は3'-(N-フタルイミド)グルタルイミドである。水に溶けにくい針状結晶。無水フタル酸とアミノグルタルイミドの縮合反応により合成できる。分子の中に一箇所不斉炭素を持ち、R体とS体の鏡像異性体が存在する(R体はCAS番号2614-40-8、S体はCAS番号841-67-8)。

市販のサリドマイドは等量のR体とS体が混ざったラセミ体として合成される。開発された当時の技術では分離が難しく、ラセミ体のまま発売された。後に、R体は無害であるがS体は非常に高い催奇性をもっており、高い頻度で胎児に異常をひき起こすこと、さらに流産防止作用もあるとの報告があった。四肢の発育不全を引き起こし、手足が極端に未発達な状態で出産、発育する(アザラシ肢症)のが主な症状であるが、知覚や意識、知能に影響はほとんど見られない。

R体・S体を分離(光学分割)すること、及び不斉合成も可能だが、R体のみを使用しても比較的速やかに生体内でラセミ化することが解っている。このため、単純にR体が催眠作用のみを持ち、S体が催奇性だけを現すという当初の報告は疑問視されている

、1965年にイスラエルの医師がハンセン病患者に鎮痛剤としてサリドマイドを処方したところハンセン病特有の皮膚症状の改善がみられた。さらに、1989年にがん患者の体力消耗や食欲不振の原因である腫瘍壊死因子α(TNF−α)の阻害作用が発見された。また、サリドマイドには「血管新生阻害作用」があることがわかった。これは胎児に対しては手足の毛細血管の成長をさまたげ奇形を発生させる原因となっている可能性がある。一方、癌組織への毛細血管の成長を阻害し、結果、多発性骨髄腫などの癌への治療効果があることがわかってきた。特に鎮痛効果が期待されているようである。

その他サリドマイドはさまざまな疾患に効果があるとされている。以下それを列挙する。

こうした効果が報告されるにつれ、ハンセン病の患者が多いブラジルでは再びサリドマイドがハンセン病治療薬として認可された。また、1998年には米国FDAがハンセン病治療薬として承認している。

ブラジルでは貧困層でのハンセン病がひどく、無料でサリドマイドが配られている。薬のパッケージには妊婦の使用を禁止するマーク(ピクトグラム)がついているが、これが中絶する薬と誤解され、誤って服用した妊婦から奇形児が生まれるという悲劇が起きている(註:ブラジルの貧困層の識字率が高くない事が背景にある)。

 

日本国内ではメディアによる「癌に効果がある」という報道や海外での研究発表により、サリドマイドが外国から医師を通して個人輸入されている。しかし、個人輸入によりどれだけの量が輸入されたのか把握するのは難しく、患者に処方したサリドマイドの一部が未回収のまま自宅などに残されているという問題がある。これを放置しておけば再び被害が出ないとも限らない。

がん患者ら(特に末期の)は、自分たちの命をつなぎとめる薬として厚生労働省にサリドマイドを再承認するように求めている。一方、サリドマイド被害者団体は、承認する際に十分な審査と規制を設けるように要請をしている(承認に反対しているわけではない)。

厚生労働省薬事・食品衛生審議会は、2005年1月21日、藤本製薬(ピップフジモトとは別法人)による申請を受けて、サリドマイドを「希少疾病用医薬品」に指定した。今後、医薬品承認へ向け臨床試験が実施される見通しとなっている。過去におきた薬害と薬品としての有効性をめぐって、この問題については今後議論されていくだろう。

藤本製薬が2005年8月からサリドマイドを多発性骨髄腫の治療薬として、治験を開始すると明らかにした。同社は2006年8月8日厚生労働省に製造販売の「承認申請」を行ったことを明らかにしている。

藤本製薬

創     業 昭和8年8月
資 本 金 3億円
株     主 同族
取扱品目 医療用医薬品
            ・持続性癌疼痛治療剤   ・便秘治療剤   ・経口胆石溶解剤・疼痛性アレルギー性疾患治療剤  
            ・胃炎、消化性潰瘍治療剤   ・血管拡張剤  


 

日本経済新聞 2005/1/22

サリドマイド指定へ 厚労省 優先審査の希少疾病薬

 かつて深刻な薬害を引き起こしたサリドマイドについて、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会は21日、国が開発を支援する「希少疾病用医薬品(オー ファンドラッグ)」に指定することを了承した。申請した藤本製薬(大阪府松原市)は多発性骨髄腫の治療薬として製造承認を目指しており、実現すれば販売中 止から40年以上を経て再び表舞台に出ることになる。
 オーファンドラッグの指定は患者数が少ないために、医療上の必要性が高いにもかかわらず進まない医薬品の開発を国が後押しする制度。直ちに製造承認につ ながるわけではないが、助成金や優先的な承認審査などの優遇措置がある。同審議会は近くサリドマイドの指定を答申、厚労省が正式に指定する。
 藤本製薬は同日夕、厚労省で記者会見。山下治夫薬事法規部長は「薬害を二度と起こさないよう、厳重な使用と管理のシステムを構築する。速やかに臨床試験などに取り組み、承認を受けたい」と話した。ただ、臨床試験の計画などは未定としている。
 薬害サリドマイドの被害者団体、財団法人いしずえの間宮清事務局長(41)は「個人輸入のサリドマイドは何のルールもなく使われていたから、国が関与す る仕組みになることは前向きな一歩と言える。ただ、どんな形であれ二度と使ってほしくないという被害者がいるのも事実だ。臨床試験や承認審査の過程を公開 し、薬害被害者らも加わる場で管理や使用の厳格なルールをつくるべきだ」と話している。

2008年09月19日 薬事日報

【サリドマイド】安全管理策まとまる

厚生労働省の「サリドマイド被害の再発防止のための安全管理に関する検討会」は18日、多発性骨髄腫の適応で藤本製薬が承認申請しているサリドマイド製剤「サレドカプセル100」 の安全管理策をまとめた。近日中に開く予定の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会で了承されれば、再承認へと向かう。安全管理策は、過去の薬害を踏まえ、妊娠回避を徹底すると共に、使用できる医療機関や医師を限定、流通から調剤に至るまで、藤本製薬が情報を一元管理する。薬食審薬事分科会医薬品第二 部会では既に、適正な安全対策の実施などを条件として承認を認めている。

 まとまった安全管理策では、使用できる医療機関は、原則として日本血液学会研修施設に限り、使用する医師や薬剤師、患者は事前に登録し、診察や処方の都度、避妊や薬の管理などに関する情報を藤本製薬に報告し、確認を求める。妊娠可能性がある女性には、原則として処方しないこととした。

 卸は麻薬取り扱い免許を持つものとし、投薬され余剰となった薬剤は、患者に医療機関を通じ、藤本製薬へ返却させるなど、流通管理も麻薬 に準じて厳しくした。さらに、管理システムの適正な運用のため、医師や薬剤師、患者などによる第三者評価委員会を設けて実態調査や評価を行うことも決め た。

 検討過程では、患者や医師から、原案は「規定が厳しすぎて使いづらい」との意見も出た。今回は患者の意見を受けて妊娠可能性に関する規 定を見直し、閉経したと見なせる年齢の条件を「50歳以上」から、「45歳以上」に変更して服用可能な患者の範囲を広げた上、条件に当てはまらない例外に ついては、処方医の判断で処方可能とした。また、処方の4週間前に妊娠検査で陰性を確認することが必要とされていたが、一刻も早い処方が求められる場合も あるとして、性行為がなく妊娠を確実に否定できる場合、この検査は省略可能とした。

 安全管理の状況を藤本製薬とファクスでやりとりするなどの基本的なプロセスは、煩雑だとの指摘もあったがそのまま残され、安全性を優先して慎重を期した対策を採る結論となった。


2008/9/21 山陽新聞

サリドマイド 再販売へ重要な安全管理

 かつて赤ちゃんに深刻な薬害を引き起こして販売が中止された「サリドマイド」が、血液のがんの一種である多発性骨髄腫の治療薬として年内にも販売が再開される可能性が出てきた。サリドマイドのほかに治療法のない多発性骨髄腫患者にとっては朗報であろう。

  サリドマイドは睡眠薬や胃腸薬として使われたが、服用した妊婦から赤ちゃんの被害が多発し、国内では一九六二年に販売中止となった。近年、多発性骨髄腫な どへの治療効果が認められるようになり、米国などで承認されている。日本では八月末に厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会が、藤本製薬(大阪府)によ る製造販売承認申請に対し、薬害再発防止のための安全管理策の実施などを条件に「承認して差し支えない」との結論をまとめた。

 承認条件とされた安全管理策については、厚労省の有識者検討会が先ごろ妥当だと認めた。承認へ向け、大きく前進した。

  安全管理策は、サリドマイドを使用する医師、薬剤師、患者を登録制とするほか、不要になった薬はすべて回収するとしている。サリドマイドの厳格な管理シス テムの構築を目指す。さらに、安全管理策がきちんと運用されているかどうかをチェックするため、患者団体、被害者団体の代表者のほか国の担当者も加わる第 三者機関を設けるとした。運営費用の一部は国が負担する。

 再販売に当たっては、サリドマイドが薬害を招いたことを忘れるわけにはいかな い。妊婦や妊娠の可能性のある人が服用すれば再び悲劇を引き起こす可能性がある。何より重要なのは、安全管理システムによってサリドマイドと胎児の接触を 防止することだ。安全確保に漏れがないよう検討してもらいたい。


平成20年8月27日
(照会先)
厚生労働省医薬食品局審査管理課
課長 中垣(内線2733)
課長補佐 内田(内線4221)
(代表)03-5253-1111
サリドマイド製剤の医薬品第二部会における審議結果について
○ 本日、サリドマイド製剤(販売名:サレドカプセル100、申請者:藤本製薬株式会社)の製造販売承認の可否等について、薬事・食品衛生審議会 薬事分科会 医薬品第二部会において審議が行われたところである。その結果の概要については、以下のとおり。

@ 医薬品第二部会としては、サリドマイド製剤に関する安全管理の方策について「サリドマイド被害の再発防止のための安全管理に関する検討会」及び医薬品等安全対策部会において検討が行われ、それが適正に実施されることを前提に、本剤の「再発又は難治性の多発性骨髄腫」治療薬としての製造販売承認を可として差し支えない、薬事分科会で審議する。
なお、以下の3項目を承認条件にすべきとされた。
1. 安全管理方策の適正な実施
2. 文書による患者等への説明・同意の取得
3. 全症例を対象とした使用成績調査及び製造販売後臨床試験による安全性及び有効性に関するデータの収集

A 本剤は、「薬事分科会における確認事項」(平成13年1月23日薬事分科会確認)に基づき、「社会的関心の極めて高い医薬品」として、資料概要及び審査報告書を公開した上で、有効性、安全性に係る医薬品第二部会の審議結果について一般からの意見募集*を行う。(本日から9月11日まで)
* 意見募集については、平成10年12月経口避妊薬(ピル)の審議について実施したことがある。
* なお、安全管理方策については、別途、9月11日を期限として、意見募集を行っている。
○ 今後、安全管理方策について上記@の検討会及び医薬品等安全対策部会での結論が得られた段階で、薬事分科会において、製造販売承認の可否等について審議が行われる予定。


2008年10月3日 asahi

サリドマイド年内にも発売へ 厚労省の薬事分科会が承認

 深刻な薬害を引き起こした催眠鎮静薬「サリドマイド」をめぐり、厚生労働省の薬事分科会は3日、血液がんの一つ「多発性骨髄腫」の治療薬として、安全管理を徹底することを条件に製造販売することを承認した。手続きが整えば年内にも、46年ぶりに発売が再開される見通しだ。

 サリドマイドは国内では62年に販売停止になったが、90年代に入り、多発性骨髄腫やハンセン病などへの治療効果が注目され、海外で承認を受け、国内でも医師の個人輸入が急増。藤本製薬(大阪府松原市)が06年8月に承認を申請していた。

 この日の分科会では、(1)使用する医師や薬剤師、患者を登録するなどとした「サリドマイド製剤安全管理手順」の順守(2)妊婦の服用を避けるため、医師による患者やその家族への十分な説明(3)製造販売後、一定数のデータが集まるまで、全症例を対象にした使用成績調査とその結果の公表――など が、条件として示された。