イラン制裁法案
毎日新聞夕刊 2011年12月16日
イラン核問題:米の制裁、成立へ 原油取引制限、日本は特例求め交渉
米上院は15日の本会議で、核開発を加速するイランへの資金流入防止を目的に、イラン中央銀行と取引関係のある外国金融機関に事実上の制裁を科す条項を盛り込んだ国防権限法案を86対13の賛成多数で可決した。下院は14日に可決しており、同法はオバマ大統領の署名を経て近く成立する。
原油輸入量の1割をイランから輸入する日本は、イラン中銀を介して代金決済しており、同法成立で原油輸入が停止する可能性もある。
ただ、同法の発効は6カ月後となるため、日本政府は輸入停止回避に向け、特例措置の適用を求めて米政府と交渉を進める。
米国内法の同法は、外国企業のイランとの取引を直接制約することはできないが、イラン中銀と取引する企業に対し、米銀とのドル決済を禁じる。日本や欧州の企業は米銀との決済を禁止されると大きな損害を被るため、イランとの原油取引を事実上中断せざるを得なくなる仕組みだ。
同法の圧倒的多数での可決を受け、大統領は署名する方針だが、オバマ政権は日本など同盟国からの不満や原油価格高騰を懸念している。
同法は、イランからの原油輸入を大幅削減した国への制裁発動を回避する権限を大統領に与えており、米国務省のヌーランド報道官は15日の記者会見で「同盟国の混乱を最小限に抑えながら、どうイランに最大の圧力をかけるか」を検討する考えを示した。
米国は80年にイランと断交後、独自の対イラン制裁を段階的に導入。オバマ政権は今年、イランの企業や個人、特定のイラン企業と取引した外国企業などに個別制裁を段階的に発動してきた。
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2011/12/15
米議会、対イラン強硬 日本に原油決済特例どこまで
米議会で月内にもイラン追加制裁が決まる見通しが強まってきた。制裁に伴う原油高など世界経済への悪影響を警戒する米政府は慎重な対応を求めるが、米議会のイランへの姿勢は強硬。日本政府は制裁に伴う原油輸入停止回避へ特例措置を求めているものの、理解が広がるかは未知数だ。
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制裁案はイラン中央銀行と決済取引のある外国銀行について、米銀とのドル取引を禁じるというもの。ほとんどの民間銀が欧米の制裁対象であるイランでは、日本などは同中銀を通じ原油購入代金を集中決済している。この最大の資金ルートをふさぎ、経済的に同国を追い込む狙いだ。
「米国の措置に従わなければ、米での営業上、不利益を被る懸念がある」(日本のメガバンク)ため、米市場から実質的に締め出す罰則となり、各国に原油禁輸圧力がかかる。かつて北朝鮮の有力な資金ルートだったマカオの中堅銀行に、米財務省が制裁を加えたのと似た構図といえる。
11月に国際原子力機関(IAEA)が核兵器開発疑惑を認定したことを受け、米議会は制裁へ一気にかじを切った。日本の原油輸入量の1割弱を占めるイランとの取引が事実上禁じられると打撃が大きいため、日本政府は米議会や政府関係者に配慮を求めている。米議会内でも外交上の影響を懸念し、激変緩和策を模索する動きが出ている。
妥協案の一つが、制裁条項が発効しても、原油高が進んでいることなどを理由に、大統領に発動を一時延期または停止する権限を与えること。免責条項として、たとえば「米の中東政策に協力的な国・企業を除外」などとして、日本や韓国などの金融機関への適用を見送る方法もある。
ただ上院では賛成100、反対0という異例の大差で可決されたことが示すように、米議会ではイラン制裁強化は超党派の総意といっても過言ではない。規制が尻抜けになる事態を議会が受け入れず、制裁が発動される展開は十分あり得る。
経済産業省はイランからの輸入が止まっても、サウジアラビアなど代替調達先は確保できるとみている。ただイランから原油を輸入する国が一斉に代替調達に動けば、原油価格が上がる公算が大きい。藤村修官房長官は14日の会見で「今後の議会での審議、米国政府の判断を見つつ、適切に対応したい」と語った。
米エネルギー省の2010年のデータによれば、イランの原油は日本のほか、中国やイタリア、韓国などに輸出されている。国際石油開発帝石がイランのアザデガン油田で権益を持っていたが、昨年10月に撤退した。
日本の国別原油輸入 2011/1〜9月
日量 355万バレル
サウジ 30.7%
UAE 23.4
カタール 10.3
イラン 9.2
クウェート 6.4
ロシア 4.1
インドネシア 3.1
イラク 3.1
その他 9.7