2022年02月21日   

住友化学とマイクロ波化学、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて省エネルギーで高効率な水素製造プロセスの共同開発に着手

住友化学とマイクロ波化学は、このたび、メタンをマイクロ波により熱分解し、水素を製造するプロセスの共同開発に着手いたしました。商業生産の開始予定は2030年代前半、生産能力は年間数万トンを目指します。

マイクロ波化学について  2014/4/2 マイクロ波で化学品量産 

水素は、各種合成樹脂や有機化合物などの化学製品の原料として使用されるほか、燃焼しても二酸化炭素(CO2)を排出しないためカーボンニュートラル社会の実現に向けた次世代エネルギー源の一つとして注目されています。水素の製造方法のうち、温室効果ガス(GHG)の一種であるメタンの熱分解により得られる水素はターコイズ水素と呼ばれています。この製法の利点は、同時にカーボンブラックやカーボンナノチューブなど利用価値の高い固体炭素が得られることです。一方で、メタンの熱分解反応を進めるには膨大な熱を与える必要があることから、製造にかかるエネルギーをいかに低減するかが大きな課題となっています。

メタン(マイクロ波で熱分解)→水素+固体炭素(カーボンブラックなど)

電磁波の一種であるマイクロ波は、分子や原子の振動により反応器内の目的物を中から直接かつ選択的に加熱することができます。このような特性から、反応器の外から目的物を間接的に加熱する他のプロセスと比較して、水素の製造に必要なエネルギーおよびCO2排出量の低減、ならびに製造設備の大型化が可能です。

今回の共同開発では、住友化学が有する触媒および化学プロセスの設計技術と、マイクロ波化学が持つマイクロ波プラットフォーム技術を融合させ、26年度までに省エネルギーかつ高効率な水素製造プロセスの確立を目指しており、既にマイクロ波化学においてラボスケールでの実験を開始しています。

住友化学は、21年12月に公表した50年カーボンニュートラルに向けたグランドデザインに沿って、総合化学企業として培ってきた技術力と知見を生かし、グループのGHG排出量をゼロに近づける「責務」と、グループの製品・技術を通じて社会全体のカーボンニュートラルを推進していく「貢献」の取り組みを推進しています。アカデミアやスタートアップ企業との連携を通じて、外部の技術も積極的に取り入れながら、研究開発を加速させていきます。

マイクロ波化学は、カーボンニュートラルに向けた取り組みを「C NEUTRALTM 2050 design」として推進しています。再生可能エネルギーによる電化とマイクロ波プロセスを掛け合わせることにより、化石資源を利用する従来プロセスと比べて90%以上のCO2排出削減を実現する構想であり、従来の膨大なCO2排出・エネルギー消費を伴う石油化学プロセスを、マイクロ波プロセスに置き換えることをリードしています。

住友化学とマイクロ波化学は、革新的な水素製造プロセスの構築を通じて、カーボンニュートラル社会の実現に貢献してまいります。

 

※原料に化石資源であるメタンを用いるが、水の電気分解と同じくメタンの熱分解時にはCO2を排出しないため、グリーン水素とブルー水素の間に位置づけられる

水素の分類

特徴

Green 水素

再生可能エネルギーを利用して、水の電気分解で生成される水素

Turquoise(青緑色)水素

メタンの熱分解により生成される水素。固体炭素を副生する

Blue水素

CO2回収・貯蔵プロセス(CCS)を利用して生成される水素。主に下記グレー水素の製造時に発生するCO2の回収・貯蔵が想定される

Grey 水素

化石資源を原料として生成される水素。主に天然ガスの水蒸気改質により生成される。副生するCO2の大気放出を伴う

出典:ドイツ政府「国家水素戦略」

参考(下記記事 Monolith社の技術)

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 三菱重工業

メタン(CH4)から水素(H2)と固体炭素(C)を直接生成へ
プラズマ熱分解技術をリードする米国Monolith Materials, Inc.に出資

三菱重工業は、米国統括拠点である米国三菱重工(Mitsubishi Heavy Industries America, Inc.)を通じて、天然ガスなどに多く含まれるメタン(CH4)からプラズマ熱分解方式で水素(H2)と固体炭素(C)を取り出す革新的技術を持つ米国のモノリス社(Monolith Materials, Inc.)に出資しました。天然ガスの直接熱分解により、水素製造過程でCO2 を排出しない、いわゆる "ターコイズ水素" (注)およびカーボンブラックなど利用価値の高い固体炭素を製造できる技術を獲得することにより、当社グループが戦略的に取り組むエナジートランジション(低環境負荷エネルギーへの転換)事業における革新的代替技術の一つとして、水素バリューチェーンの強化・多様化につなげていくのが狙いです。

モノリス社は2012 年にカリフォルニア州で設立され、現在は天然ガス埋蔵量が豊富で肥料用途のアンモニア需要が高く、タイヤ産業地域にも近い、米国中部ネブラスカ州を本拠としています。タイヤなどの原料となるカーボンブラックをはじめとする固体炭素を、低質石油やコールタールなどを燃焼させて製造する従来のプロセスに代えて、再生可能エネルギー由来電力を利用した天然ガスのプラズマ熱分解により、CO2 排出を大幅に減らしクリーンに生成する技術を柱に成長。2014 年には、カリフォルニア州で建設した実証設備において、カーボンブラック700 トン/年の製造実証に成功しています。現在は、ネブラスカ州で同1 万4,000 トン/年の製造プラントを運転中で、カーボンブラック18 万トン/年の生産容量を持つ商用プラントの建設計画も進んでいます。

欧米や日本を中心に脱炭素社会の実現に向けた水素の重要性が議論されるなか、再生可能エネルギー由来電力を利用した水電解技術で製造されるグリーン水素、化石燃料の水蒸気改質プロセスにCCUS(CO2 回収・利用・貯留)を組み合わせることでCO2 を排出しないブルー水素などと並び、天然ガスに含まれるメタンの熱分解により製造されるターコイズ水素を含む多様なクリーン水素製造技術が求められることを踏まえ、当社もこうした需要に応えられる技術への積極アプローチを展開するものです。

米国三菱重工の白岩良浩CEO は、今回の出資について次のように述べています。「モノリス社は、メタン熱分解を商用レベルにスケールアップするという長年の課題を解決することで、CO2 フリー水素製造におけるリーダーに台頭しました。私たちは幅広く脱炭素技術を評価するなかでモノリス社の技術は非常に有望と見ており、出資者となれたことで今後の展開を期待しています」。

また、モノリス社のRob Hanson 共同創設者兼CEO は次のように述べています。「グローバル市場でモノリス社の技術を最適に展開していくためには三菱重工とのパートナーシップが必要です。今回のパートナーシップは、CO2 フリー水素を世界標準にするために今後投資機会を評価していく上でのモデルとなると考えています」。

今回のモノリス社への出資により、同社の再生可能エネルギー由来電力を熱源とするプラズマ熱分解技術による水素の製造・供給分野に進出するとともに、製造された水素を活用した発電システムや肥料製造設備、製鉄所など産業全体の脱炭素化に向けた技術革新を探求していきます。

三菱重工グループは、水素バリューチェーンの強化、多様化により、脱炭素社会の実現、社会の持続可能な発展に貢献していきます。