SGKとの交渉経緯                                        


米国の特許制度は先発明主義である。このためある特許が認められ、長期間経過してから別の特許が先発明を理由に認められることがある。

PPの場合はまずフィリップスが先発明を理由に物質特許を認められた。
このため日本のPPメーカーは全社が米国向けPP製品(自動車、フィルム等)の輸出分に対してフィリップスに特許料を払うこととなった。(香川/小川チームで対応)

1986/11 ドイツのStudiengesellschaft Kohle (SGK)が日本の自動車メ−カ−に対し、米国向け輸出自動車に使用されるPPに対してライセンスフィの支払い要求があった。

SGKはドイツのMax Plancの特許管理会社で、代表の Dr.Heinz MartinはZiegler特許で有名なDr. Karl Zieglerの本特許の共同発明者の一人で、Dr. Ziegler の死後、未亡人から特許権を買い取っている。

 本特許(USP 4125,698)はPP製造用の触媒の特許で、以下の経緯があった。

米国では次のとおり触媒使用の特許が申請された。
  @1953 Ziegler    TiCl2/TEA
  A1954 Ziegler/Natta TiCl2/(TEA or DEAC)
  B1955 Ziegler    TiCl2/DEAC =本件

米国特許庁はBの審議に当たり、これがAの後願であるとして拒絶した。これに対しDr.Ziegler及びその死後その権利を受け継いだSGKがSprung Horn Kramer & Woods法律事務所の Arnold Sprungを使い、先発明を理由に再申請し、23年かけて争い、1978/11/4 に特許が認められた。

この結果、Aの特許が既にとっくの昔に期限切れになっているのに、BのTiCl2/DEAC (ソルベ−触媒、DX-1V その他)は1995/11/14まで米国で有効ということになった。

自動車工業会からはPP供給に当たりPPメーカーが特許保証をしていることから、PPメーカーが解決するよう要請した。

問題は当社はじめ日本のPPメ−カ−はモンテから日本でこの特許を受け、製品の米国への輸出についても immunity をもらっていることであった。発明者の Zieglerもこの契約を承認し、特許料の一部を受け取っている。

このため最初にモンテから技術導入した三井東圧、三菱油化、住友化学の3社がまず交渉することとした。

3社はまずモンテに対し、上記の確認を得たのち、1987/10にSGKのDr.Heinz Martinと弁護士のArnold Sprungを呼び、交渉した。
Sprungの説明は以下のとおりで、全て分かった上での要求であったことが判明した。

・ 3社が技術導入契約で製品の米国向け輸出でimmunityをもらっていた事情は知っている。
・ しかし、この技術導入契約(の最終部分)が1985年に期限が切れている。
・ このため輸出の immunityも期限切れとなっている。
・ 当初は先発明で別の特許が生き返るとは誰も思わなかったにせよ、「輸出のimmunityは期限切れ後も有効」との条項を入れておくべきであった。
・ 契約のimmunity条項がexpireしており、特許が生きている以上、米国の licensee への説明上も特許料を取らない訳にはいかない。

*当時の米国の特許法では物質特許違反は輸入を禁止できたが製法特許違反については輸入差止めはできなかった。(日本の特許法では両者とも輸入差止めは可能。なお米国でも 1988 年の法律改正で輸入差止めが可能となった)

このためSGKでは通商法に基づきITCへの輸入差止めの訴えをするとして自動車メ−カ−をおどかしたもの。本来これには被害の証明が必要で、生産をしていないSGKには難しいと思われるが、膨大な作業を要求されること、自動車メ−カ−にとってこのような理由で訴えられること自体が問題ということでレジンメ−カ−に対し解決の要請があった。

3社としては同じ特許で2度特許料を払うことになるが、制度上やむをえないため1991/10にライセンス契約を締結した。但し日本の全メ−カ−が同様の契約を結ぶことを発効条件とした。 
対象は米国向け輸出自動車に使用されるPPのみとし、(フィリップス向けロイヤリティ計算のために起用した)調査会社による1台当たり平均PP原単位と自動車工業会の米国向け輸出自動車総数により計算する仕組みとした。

その後ライセンスフィで何度もやり取りがあった。

SGK案 :12$/t(米国では1.5%だが日本では割り引き)
日本側対案: 6$/t(モンテからの導入時に輸出免責を条件に Max Planck にも技術料を払っていることを勘案) 

最終的に以下のSGK再提案を受け入れた。
計算が面倒なため日本全体で265千$/年とし、各社分担。
当社負担は年間6−7百万円程度(期間1988/6--1995/11 )

*当社としてはDX-1Vは対象となるが、新しいDX-Vは対象外と認識していた。三井石化の触媒も当然対象外になるものと考え、DX-1Vについて直接対象有無の議論を避け、三井石化の対応を待つこととした。 

1993/10 SGKから、「他社が締結しないため自動車メ−カ−と交渉する。住化が契約を発効させる気があれば自動車会社には住化品は対象外と通知する」との連絡が入った。

各社から聴取した結果下記のとおり。

1.三井石化触媒についてはSGKは対象外と考えている模様。
 ・1987/10 来日時に三石から無関係と伝えたが、それ以来三石にコンタクトなし。
三石は米国で三石・ハイモントとSGKが特許係争をしている関係で同社触媒は対象外と主張しているもの。
 ・三石は同社触媒使用会社に対し、三石が責任持つと連絡。
 ・三井東圧は浮島分は三石触媒使用のため、この分は支払いを保留したいと連絡したところSGKから了解の返事があった。
 ・徳曹は現在は全て三石触媒でありそれ以前の分についてだけ払うと伝えたところSGKも了解しその旨のサイドレタ−を送付してきた。

2.その他については当然契約が必要との認識はあるが、どちらのミスか不明だが契約に至っていない会社が多い。

  チッソ:1−2か月前に手紙を出した。
       内容はOK。三井石化がサインすればサインする。
  徳曹:上記交渉の結果サイドレタ−案の送付を受けたが放置。催促なし。
  東ソ−:理由不明。サインしていない。(前任者に聞くと)
  旭化成:契約案は受けとったが放置。コンタクトなし。
  宇部:放置。SGKからレタ−(態度をはっきりさせろと)
  昭電:ドラフト入手するもコンタクトなし。新プラントは三石触媒使用。
  東燃:不明。
   (宇部、昭電、東燃の3社はハイモントに交渉を委託している模様。)
  三菱油化:一部触媒は対象外と主張
  日石化学は契約を締結ずみで本レタ−受領。

協議の結果、住化名で下記の返事を送付した。

Oct.12付けレタ−をOct.18に受けとった。三井東圧、三菱油化には来ていないのでコピ−を送った。
我々は1991 に契約にサインしたがその後2年も経って他社との交渉が進んでいないのを聞き驚いている。我々としてはSGKとの問題を解決すべく懸命に努力したのにこんな状態であると聞き残念である。
本件は何度も連絡したとおり各社が個別に対応すべきものであり他社の動きについて関与する立場にもないが、問題を解決するべきだと考え状況を聴取した。その結果次のことが分かった。

1.三井石化はその触媒がSGKの特許に抵触しないと考えておりSGKからも東京会談以来コンタクトを受けていないとしている。その触媒を使用している他のメ−カ−の数社はSGKにその旨伝え、当該分を支払いから除外することでSGKの了解を得ている。仮にその触媒がSGK特許に抵触しないのであれば契約の§1.5 "Effective date"の規定の "Polymer" manufacturer に該当しないため、三井石化との契約がなくても我々との契約は発効する。
もしこれが事実であれば(又は pendingということで最終的に決った時点で適切な処理をとるということであれば)SGKからその旨の連絡があれば契約を発効させる。
2.他のメ−カ−については我々の感触では全てサインする用意はあるように思われる。両社のlack of communication が話しの進まない原因ではないかと思う。再度返事期限つきでコンタクトすれば簡単にまとまると思われる。

我々は契約の発効を理不尽に延ばす気は全くない。2年前にサインした時点で本件の早期解決を図るべく他の各社に対し契約の内容の説明をしている。
相互の lack of communicationで 1987 年の東京会談以来の努力が無に終わるのは残念である。法的行動を取られる以前に上記の努力を再度行われることを強く期待します。

1993/11三菱油化がSGKの弁護士 Mr.Sprungを訪問。その結果の報告があった。

弁護士の説明概要は以下のとおり。

・各社から契約締結に前向きの連絡がきている。
・但し、三井石化と三菱油化などの担持型触媒について問題となっている。
 これらについては裁判で決着がつくまで、ペンディングとしたい。
 ロイヤリティ計算式のファクタ−Eについては当面は担持型触媒分を含まないで計算することとしたい。
・これでよければ発効条件(全社契約)にかかわらず直ちに発効させたい。

1993/11 SGKから提案

「supported, high-yield catalysts が対象となるかどうかを米国の裁判の結果待ちとする。」

これではDX-Vがどうなのか不明確な為、住化から以下の確認書を送付したところ、先方の確認があった。
・catalyst consisting of titanium compound, tri-ethyl-aluminum (TEA) and a donor を使ったPPは米国裁判の結果待ちとする。
・上記分のロイヤリティは裁判の最終結果に基づきSGKと当社で合意して始めて支払われる。  

この結果、当社は、当社DX−Vが担持型であり、SGK提案に従い支払いから外す旨連絡し、契約を発効させ、DX-IV分のロイヤリティを払った。合わせて宇部、徳曹に対し千葉ポリプロ品を支払いから外すよう連絡した。

  PPSC(一部フィリップス)

フィリップスはこれまでソルベ−触媒を使用し、SGKに技術料を払ってきたが、DX−Vに切り替えたため技術料の支払いがゼロとなった。
1994/9にSGKからフィリップスに問い合わせがあり、触媒を切り替えたことを説明。SGKからは協議の要請があった。
これに対し当方から、日本の場合と同様なのでペンディングにしたいとのレタ−を出した。

1995/11/14 本特許が切れた。担持型触媒については結局、支払いなしとなった。