2024年07月08日
レゾナック・ホールディングス
現在、急拡大している生成AIや自動運転向けなどの次世代半導体では、後工程のパッケージ技術がキーテクノロジーのひとつとなっており、2.5Dや3Dなど※のパッケージ技術が急速に進化しています。
2.5Dパッケージは複数のチップを一つの基板(インターポーザー)上に配置し、それらを相互接続する技術。
3Dパッケージは複数のチップを垂直方向に積層して配置する技術。チップの相互接続はTSV(シリコン貫通ビア)と呼ばれる垂直方向の配線技術が使用される
近年では、シリコンバレーに集積する大手半導体メーカーやGAFAMなどのファブレス、大手IT企業が自社で半導体を設計しています。さらに、後工程のパッケージも自ら研究開発を行い、新しいコンセプトが次々に生み出されています。
GAFAMとはアルファベット(ティッカーシンボル:GOOG)、アップル(ティッカーシンボル:AAPL)、メタ・プラットフォームズ(ティッカーシンボル:META)、アマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)、マイクロソフト(ティッカーシンボル:MSFT)の略です。
US-JOINTの設立について、ラーム・エマニュエル駐日米国大使は次のようにコメントしています。
“With nearly every area of our daily lives now dependent on semiconductors, it is critical that we strengthen supply chains through cooperation with trusted partners in the sector. This new consortium of leading American and Japanese companies in the semiconductor industry is the latest example of our two nations joining forces to accelerate the development of advanced technologies of global importance.”
「私たちの日常生活のほぼすべての分野が半導体に依存している現在、信頼できるパートナーとの協力を通じてサプライチェーンを強化することが重要です。半導体業界におけるアメリカと日本の主要企業によるこの新しい コンソーシアムは、世界的に重要な先端技術の開発を加速するために両国が力を合わせる最新の事例です。」
また、半導体パッケージの技術調査会社として世界的に知られている米国TechSearch International, Inc.のE. Jan Vardaman社長は、「US-JOINTは米国企業にとって、材料、及び設備に蓄積された専門技術を先端パッケージの開発に活用する絶好の機会です。」と述べ、US-JOINTに期待しています。
US-JOINT概要
アクシオム・スペースとレゾナック、宇宙での半導体製造技術革新に向けた覚書を締結
商業用宇宙インフラ分野をリードする米国の Axiom Space(アクシオム・スペース)と、株式会社レゾナックは、宇宙空間での高機能半導体材料の研究・開発・製造に関する覚書(MOU)を締結しました。本合意により、微小重力環境を活用した次世代半導体関連技術の進化、宇宙での半導体製造の市場創出の可能性が広がります。
本合意の下、両社は、微小重力および低軌道の真空条件下で、半導体や半導体パッケージング向けの次世代半導体材料製造の可能性を探ります。微小重力環境下では対流や沈殿が発生しないため、欠陥のない半導体バルク結晶*1 や樹脂、2 次元材料*2 の生成が可能となります。本プロジェクトでは、国際宇宙ステーション(ISS)やアクシオム・スペースの軌道プラットフォーム、将来設計される予定のアクシオム・ステーションを活用し、概念実証から商業規模での製造へと段階的に進める予定です。
本合意の一環として、レゾナックは、現在アクシオム・スペースと取り組んでいるプロジェクト
も拡大する計画です。本プロジェクトでは、宇宙放射線により半導体デバイスに発生するソフトエラーを低減させる封止材の開発を進めています。ソフトエラーは、宇宙線がトランジスタに入り電子を散乱させることで、ビット*4
が反転して生じる現象です。この課題に対応するため、レゾナックは、国際宇宙ステーション内外で封止材の試作品を評価します。
アクシオム・スペースの宇宙飛行士兼 CTO
である若田光一は、「レゾナックとの協業は、アクシオム・スペースがいかに世界中の企業と連携し、宇宙を活用して半導体のような重要な技術分野でイノベーションを推進しているかを示しています。」と述べています。
さらに、アクシオム・スペースの宇宙空間における半導体商業化グローバルリーダーである
Divya Panchanathan
は、「宇宙では、地上では再現できない純粋な条件が整っており、レゾナックの卓越した半導体材料技術とともに、宇宙でのイノベーションを促進し、低軌道での産業化を推進する新しい技術の実現を目指します。」と付け加えます。
レゾナック CTO
の福島正人は、「宇宙という極限環境の活用により、半導体材料は結晶成長などの領域で飛躍的な進化を遂げる可能性があります。アクシオム・スペースと共に実証実験を加速し、新材料創出を通じて、産業界の成長と社会の発展に貢献していきます。」と述べています。
本合意を通じて、アクシオム・スペースとレゾナックは、宇宙を活用した製造の未来を切り開き、地球上やその先の産業に貢献する、低軌道上生産および最先端半導体の技術基盤を構築します。
*1 単結晶構造を持つ大きな塊状の半導体材料
*2 原子層が 1 層または数層の厚さで構成される極薄の結晶材料で、特有の電子的、光学的および機械的特性を持つ。
*3 2025 年 6 月 19 日「国際宇宙ステーションで、開発中の宇宙向け半導体材料の評価を実施」
*4 情報の最小単位であり、0 または 1 で表される。
以上
【Resonac(レゾナック)について】
レゾナックは、2023 年 1 月に昭和電工と旧日立化成が統合して発足した機能性化学メーカーです。
2024 年度の半導体・電子材料の売上高は、約 4,500
億円に上り、特に半導体の「後工程」材料では世界トップクラスの企業です。2社統合により、材料の機能設計はもちろん、自社内で原料にまでさかのぼって開発を進めています。社名の「Resonac」は、英語の「RESONATE:共鳴する・響き渡る」と、Chemistry
の「C」の組み合せです。今後さらに共創プラットフォームを生かし、国内外の半導体メーカー、材料・装置メーカーとともに技術革新を加速させていきます。
【Axiom Space( アクシオム・スペース )について】
アクシオム・スペースは、世界初の商業宇宙ステーション「アクシオム・ステーション」を構築しています。宇宙での人類の持続的な存在を支える基盤として、この次世代の軌道プラットフォームは、微小重力環境での革新的な研究開発を促進し、未来の活気あるグローバルな宇宙経済を育成します。現在、アクシオム・スペースは、人類を地球外へ導くというビジョンに基づき、国際宇宙ステーションへの商業有人宇宙飛行サービスの主要な提供者となっています。また、月や低軌道で使用される高度な宇宙服の開発も行っています。アクシオム・スペースは、すべての人々の利益のために、私たちの文明が地球を超えて進化することを可能にする、時代を象徴する宇宙インフラを構築しています。
レゾナックは、現在開発している、宇宙線※1に起因する電子機器の誤動作(ソフトエラー)を低減する半導体封止材の評価実験を、2025年秋をめどに国際宇宙ステーション(ISS)で開始します。
本実験は、米民間宇宙企業Axiom Space※2に委託しており、レゾナックは、2025年4月に、評価用半導体チップを搭載した動作評価装置を材料暴露実験装置(MISSE)に設置しました。本装置は、2025年秋に打ち上げられ、ISSでの評価が開始される予定です。本封止材によるソフトエラー低減効果が確認されれば、既存の宇宙向け半導体の性能向上や、地上で使われている半導体の宇宙向けへの適用などが期待されます。人工衛星の打ち上げは過去10年で約11倍に増加し※3、今後も拡大する見込みです。人工衛星には、地球観測や通信など、大量のデータ処理を行うため半導体(プロセッサ)が搭載されていますが、宇宙向けプロセッサは、安定性を重視し、地上で使われるプロセッサよりも演算能力が低い傾向があります。
一方で、画像処理で着陸地点を自ら探索した小型月着陸実証機「SLIM」のように、人工衛星が自律的に判断できるようにする動きや、「スターリンク」のように、通信遅延最小化のために低軌道衛星間をリンクさせる取り組み、衛星上にデータセンター機能を付与するなどの流れがあり、プロセッサの演算能力向上のニーズが高まっています。
こういった中、宇宙向けプロセッサの演算能力向上においては、宇宙線に起因するソフトエラーが課題の一つとなっています。この課題に対しレゾナックは、宇宙線に含まれ、ソフトエラーを引き起す中性子※4を吸収する材料を配合した半導体封止材を試作しました※5。地上での評価実験では、最も基本的な回路(フリップフロップ回路)において、ソフトエラー率を約20%低減できました。そして、さらに実験を進めるため、レゾナックは、本封止材を使用した半導体チップをISSへ輸送し、船内外のMISSEにて半導体を動作させた状態でソフトエラー低減効果を評価することにしました。打ち上げや実験は、レゾナックからの委託により、Axiom Spaceが支援し、実施します。地上試験では再現できない宇宙空間の放射線スペクトルの影響を検証し、宇宙向け半導体材料に求められる特性を特定するとともに、高性能な半導体材料開発において重要なデータを取得することを目指します。
本実験において、本封止材のソフトエラー低減効果が確認されれば、地上で使われている半導体チップをほぼそのまま宇宙向けとして適用でき、宇宙向け半導体の製造コスト削減、機能向上に寄与できると想定しております。ソフトエラーを低減する手法は他にもありますが、封止材でその効果を得られれば、非常にシンプルであり、周辺設計のコスト削減にも寄与できます。
レゾナックでは、パーパスである「化学の力で社会を変える」を実践するために従業員が手上げ制で活動するコミュニティ「REBLUC(Resonac Blue Creators)」を2022年に設立しました。本実験は、REBLUCの中で、宇宙関連材料を通じた社会貢献を志すメンバーが集まり、推進しています。
今後は、人工衛星、宇宙データセンター、月面基地、月面ローバー向けの半導体材料への展開を目指します。