フルボ酸 植物などが微生物により分解される最終生成物である腐植物質のうち、酸によって沈殿しない無定形高分子有機酸。土壌や天然水中に広く分布している。
https://keitwo.co.jp/what-is-humic-acid-and-fulvic-acid/フルボ酸とフミン酸はともに腐植物質といわれ、有機物質、特に植物の分解で作り出されます。どちらもキレート力(つかむ力)がありますが、その能力には雲泥の差があり、フルボ酸がキレート能力でミネラルやアミノ酸を運び、さらに過剰なミネラルを排出する働きがあることに比べ、フミン酸には一過性の単発能力しかありません。
2021年12月2日 朝日新聞
フルボ酸で野菜すくすく、果物は甘く 九産大などが製造技術を開発
九州産業大の研究グループが、自然界に広く存在するとされる「フルボ酸 fulvic
acid」という有機物を畑や水田にまくと、野菜や稲がよく育ったり害虫の被害が減ったりすることを見つけた。環境負荷が小さい農法につながる可能性があるという。来春にも製品化に乗り出す。
同大の佐野洋一講師が近藤隆一郎・九州大名誉教授らと「フルボ酸研究会」をつくり、10年ほど前から本格的に研究してきた。フルボ酸は、クエン酸や酢酸などと同じ有機酸の仲間で、高分子で複雑な構造が特徴。土中の動物の死骸や枯れ木が分解されてできる。鉄と結びついて川に流れ出し、海の生物に鉄分を供給する重要な役割を果たしているとも考えられている。
陸上の植物にも有用と考えられるが、自然の土壌中では含有率が低く、抽出が難しかった。そこで佐野講師らはキノコ栽培に用いる菌床に注目。古い菌床は微生物に分解され水分が多くなるが、その水の中にフルボ酸が多く含まれていることが分かった。
研究会の設立メンバー山下隆三さんが勤務する大野城市の破砕機メーカー「西邦機工」のもみすり機を使い、クヌギや竹などを砕いた粉からフルボ酸を製造する技術を開発。畑や水田で効果試験を進めた。
抽出したフルボ酸を水で薄めてまくと、小松菜やホウレン草、ダイコンが大きく育ったり、イチジクの糖度や重さが増したりした。水田では、ジャンボタニシの食害が減ったという。
佐野講師らは「フルボ酸によって鉄分などが農作物に効率よく供給されているのでは」と見る。タニシの食害が減ったのは、稲の茎や葉が堅く丈夫になるためだと推測している。
フルボ酸の製造には、建築廃材を利用できる可能性もあり、「焼却するより二酸化炭素を抑えられる」という。製品化に取り組むのは、九産大発の大学ベンチャー「フルボ産業」。武本右京代表がこの春、同大の修士課程を修了して起業した。武本代表は「農薬などより環境への負荷が小さく、農業の持続可能性が高まる」と期待している。
2025/1/15 日経
九州産業大学発のバイオベンチャー、フルボ産業(福岡市)などは植物の成長を促進する有機物「フルボ酸」を半人工的に短期間で生成する技術を確立した。自然界では100年以上かかる反応を2カ月で完了する。フルボ酸を与えたキャベツは重量が25%増えたという。化学肥料や農薬に続く「第3の農薬」として量産を目指す。
フルボ酸は高気温や日照不足など環境ストレスに対する抵抗力を高め、植物の成長を助ける物質「バイオスティミュラント(Bio stimulants:BS)」の一つとして注目されている。
生成技術は九州産業大学の佐野洋一講師らが開発。2021年に特許を取得した。フルボ酸は通常、落葉や倒木などを微生物が長い時間をかけて分解することで作られる。佐野氏らは粉末化したクヌギに白色腐朽菌というカビの一種を混ぜ入れることで自然界の600倍早く分解させることに成功した。
分解後は滅菌し、水で抽出するとフルボ酸を含んだ原液ができる。使い方は、主に肥料をまいた後にやる水や農薬に混ぜるか、単体でまくことを想定する。例えばフルボ酸に鉄イオンを結びつけると作物の光合成が活発になり、えぐみの軽減や味の改善につながる。
複数種の農作物で実験したところ、いずれも収量増や糖度の向上が確認できた。福岡県産イチゴブランド「あまおう」の栽培実験では収量が12%増えたという。佐野氏は「半人工的に作られているため、品質が一定で、与えたい栄養素の種類を要望に応じて調節できる」と説明する。
自然界から採掘されたフルボ酸は、化学構造が産出地や地層の深さにより異なり、品質にばらつきが生じる。既に不特定多数のミネラルと結びつき、新たに引き寄せることのできるミネラルの種類や数量にも限界があるという。
一方、製造したものでは産出土壌の特徴が影響しないため、引き寄せられるミネラルの自由度が高い。佐野氏は「植物が効率よくミネラルを吸収するのを助け、化学農薬や肥料の使用量を減らせる可能性がある」と語る。原材料が手に入りやすく、強い薬品なども使わないことから、製造の安定・安全性も高いという。
フルボ産業は21年に佐野氏の教え子である武本右京代表取締役が特許技術の事業化に向けて設立した。フルボ酸の販売は共同研究先で破砕機を手掛ける西邦機工(福岡県大野城市)が担い、肥料メーカーなどに販路開拓を進めている。
課題は量産による価格の引き下げだ。現状ではイネなど作物の種類によっては割安となるが、高い場合は農薬や肥料価格の10倍ほどになるという。佐野氏は「展示会でメーカー担当者が関心を持ってくれても、生産能力が原因で破談となることが度々あった」と打ち明ける。
フルボ酸を含むBio stimulants市場は欧米を中心に海外で拡大が先行している。インドの調査会社マーケッツ・アンド・マーケッツによると、BSの市場規模は29年に76億ドル(約1兆2000億円)と、24年比で約1.8倍に膨らむ見通しだ。
欧州委員会は20年、化学肥料の使用量を30年までに20%削減する目標を打ち出した。日本でも輸入依存度が高く供給リスクが大きいことから、50年までに化学農薬を50%、化学肥料を30%減量する目標を掲げている。農業の分野でも環境配慮の意識が高まっていることを背景に、BSは今後の需要増が見込まれる。
ただ、国内では生産者にBio stimulantsの効能が浸透しておらず、中小メーカーにとっては参入ハードルが高い。フルボ産業などは農業法人とライセンス契約を結ぶなどして安定需要を確保し、量産体制を整えたい考えだ。