-眼科領域の最先端に立つバイオ医薬品企業-
-米国で承認申請中のリードプログラムAvacincaptad Pegolの
審査終了目標日は8月19日-
-Primary Focus「再生と視力の維持・回復」を加速-
-買収価格は、一株当たり40.00米ドル、総額約59億米ドル-

 アステラス製薬株式会社(本社:東京、以下「アステラス製薬」)は、米国のバイオ医薬品企業 IVERIC bio, Inc.(NASDAQ:ISEE、本社:米国ニュージャージー州、CEO:Glenn P. Sblendorio、)との間で、アステラス製薬の米国持株子会社アステラス US ホールディング Inc.(本社:米国イリノイ州)の100%子会社であるBerry Merger Sub, Inc.を通じて、一株当たり40.00米ドル、総額約59億米ドルの現金を対価としてIVERIC社を買収(以下「本買収」)することで合意し、4月29日(日本時間)に契約を締結しました。本買収において、IVERIC社はアステラス製薬が間接的に保有する100%子会社となる予定です。合意した取得価格はIveric Bio社の潜在株式を含む発行済み普通株式数約148.2百万株との前提に基づいており、Iveric Bio社株式の2023年3月31日の終値(24.33米ドル/株)に対して64%、同日から過去30日間の売買高加重平均価格に対しては75%のプレミアムを加えた価格となります。アステラス製薬とIveric Bio社の取締役会は、全会一致で本買収へ賛同しています。

 アステラス製薬の代表取締役社長CEOである岡村 直樹は、「このたび、眼科領域における革新的な治療薬の研究開発について卓越した専門性を有するIveric Bio社と買収契約の合意ができたことを大変うれしく思います。Iveric Bio社は地図状萎縮(Geographic Atrophy: GA)を伴う加齢黄斑変性(Age-related Macular Degeneration: AMD)を対象とするリードプログラムAvacincaptad Pegol(ACP)をはじめとした有望なプログラム、および眼科領域におけるバリューチェーン全体に渡るケイパビリティを有しています。この買収により、失明リスクの高い眼科疾患に罹患している患者さんへより大きな『価値』を届けることができると確信しています」と述べています。

 Iveric Bio社のCEOであるGlenn P. Sblendorioは、「世界的に有名なアステラス製薬と買収契約を締結できたことは、Iveric Bio社が株主のために築いてきた大きな価値を示しており、Iveric Bio社員によるこれまでの多大な功績を評価するものです。Iveric Bio社の眼科領域における専門性とケイパビリティ、アステラス製薬のグローバルビジネスにおけるケイパビリティを掛け合わせることで、GAを伴うAMDを含む、失明性の網膜疾患に苦しむ世界中の患者さんへ貢献していきます」と述べています。

1.    本買収の目的

 アステラス製薬は、VISION「変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの『価値』に変える」の実現に向け、最先端の「価値」駆動型ライフサイエンス・イノベーターを目指しています。研究開発戦略であるFocus Areaアプローチとして、多面的な視点でバイオロジーとモダリティ/テクノロジーの独自の組み合わせを見出し、アンメットメディカルニーズの高い疾患に対する革新的な医薬品の創出に取り組んでいます。現在、「再生と視力の維持・回復」を含む5つのPrimary Focusを特定し、優先的に経営資源を投下しています。本買収は、アステラス製薬が掲げる重点領域における製品ポートフォリオ構築のための重要なステップとなります。

 Iveric Bio社は、眼科領域において新規治療薬の研究開発に注力しています。ACPは、 GAを伴うAMDを対象とし、米国で承認申請中であり、米国食品医薬品局(FDA)から優先審査指定を受け、FDAによる審査終了目標日(PDUFA date)は2023年8月19日です。

 補体因子C5阻害剤であるACPは、GAを伴うAMDの治療薬候補であり、十分な治療を受けていない多くの患者さんに価値を提供できる可能性があります。ACPは、これまでに2つのピボタル試験(GATHER1,2試験)において、主要評価項目(GAの進行抑制)を統計学的に有意に達成し、この適応症についてFDAからブレークスルーセラピー指定 (Breakthrough Therapy Designation)*1を受けています。

 Iveric Bio社のリードプログラムであるACPを獲得することが、アステラス製薬の経営計画2021で定める2025年度までの売上目標に貢献するだけでなく、ACPは、fezolinetantやPADCEVとともに収益を生み出す柱として、2020年代後半に控えるXTANDIの独占期間満了による売上減少を補うことが期待されています。
 また、Iveric Bio社の買収により、アステラス製薬は、コマーシャルチームや、専門家との広範なネットワーク、医療機関とのパートナーシップを含む、眼科領域における基盤ケイパビリティを獲得します。このようなケイパビリティ獲得を通じて、アステラス製薬は、Primary Focus「再生と視力の維持・回復」における目標達成に向け、臨床開発・市場アクセスを加速させていきます。

 なお、本買収には、手元資金に加えて、銀行借入れとコマーシャル・ペーパーの発行による計約8,000億円の新規調達資金を充当する予定です。今後、5-7年以内に返済可能とみています。なお、資金調達は本買収が成立するための条件とはなっていません。また、アステラス製薬のキャピタルアロケーションの方針に変更はありません。

 本買収の完了は、Iveric Bio社の既存株主や独占禁止法関連の当局の承認、およびその他のクロージング条件の充足を前提としています。両社は、2023年度第2四半期中の買収完了を見込んでいます。

 本買収にかかる買収契約書(写し)については、米国証券取引委員会(SEC)のウェブサイトに掲載される予定です。

2.    対象会社の概要

@    名称 IVERIC bio, Inc.
A    所在地 8 Sylvan Way Parsippany, NJ 07054, US
B    代表者の役職・氏名 CEO, Glenn P. Sblendorio
C    事業内容 医薬品の研究開発
D    資本金 137千米ドル(2022年12月31日時点)
E    連結純資産 534,657千米ドル(2022年12月31日時点)
F    設立年 2007年
@    発行済株式総数 137,616,082株 (2023年4月27日時点)
H    大株主および持分比率
(*)
Vanguard Group, Inc.: 7.4%
BlackRock, Inc.: 7.1%
Deep Track Capital, LP: 5.7%
I    上場会社と対象会社の関係
    資本関係: 当社と対象会社の間には、記載すべき資本関係はありません。
人的関係: 当社と対象会社の間には、記載すべき人的関係はありません。
取引関係: 当社と対象会社の間には、記載すべき取引関係はありません。
関連当事者への
該当状況
対象会社は当社の関連当事者には該当しません。
J    対象会社の最近3年間の連結経営成績および連結財政状態(**)
決算期 2020年12月期 2021年12月期 2022年12月期
連結純資産(千米ドル) 191,563 360,528 534,657
連結総資産(千米ドル) 216,754 389,358 666,823
1株当たり純資産(米ドル) 2.58 3.54 4.42
連結売上高(千米ドル)(***) - - -
営業損失(千米ドル) (88,736) (114,757) (189,906)
税引前損失(千米ドル) (88,242) (114,522) (185,211)
当期純損失(千米ドル) (84,547) (114,522) (185,211)
1株当たり当期純損失(米ドル) (1.14) (1.12) (1.53)
1株当たり配当金(米ドル) - - -

(*) Iveric Bio社が2023年4月5日に米国証券取引委員会 (SEC)に提出した 2023年の株主総会向け招集通知から引用。子会社および関連会社の保有持分を含みます。
(**)Iveric Bio社が2023年3月1日に米国証券取引委員会 (SEC)に提出したIveric Bio社の年次報告書である Form 10-K Iveric Bio社から引用。
(***)製品上市前のため、売上高はありません。
 

3.    取得株式数、取得価額および取得前後の所有株式の状況

@    取得前の所有株式数 0株
(議決権の数:0個)
(議決権所有割合:0%)
A    取得株式数 137,616,082株
B    取得価額(****) 一株当たり40米ドル、約59億米ドル
C    取得後の所有株式数 137,616,082株
(議決権の数:137,616,082個)
(議決権所有割合:100%)

(****)取得価額は、オプション、Restricted Stock Unit等その他証券取得に関する支払いを行うために要する金額を含んでいます。

4.    日程

@    契約締結日 2023年4月29日(日本時間)
A    Iveric Bio社の株主総会開催日 2023年度第2四半期中(見込み)
B    クロージング日(*****) 2023年度第2四半期中(見込み)

(*****)適用される独占禁止法関連の当局の承認等を前提としています。

5.    今後の見通し

 本買収によるアステラス製薬の業績への影響は、4月27日に公表した通期(2024年3月期)連結業績予想に織り込んでおらず、現在精査中です。今後報告すべき事由が発生した場合は速やかに公表いたします。

6.    財務および法務アドバイザーについて

 アステラス製薬の財務アドバイザーはJPモルガン証券株式会社/J.P. Morgan Securities LLC、法務アドバイザーは Jones Dayです。

 Iveric Bio社の財務アドバイザーはBofA Securities, Inc. およびCenterview Partners LLC、法務アドバイザーは Skadden, Arps, Slate, Meagher & Flom LLP および企業法務一般、ライセンス関連について助言したWilmer Cutler Pickering Hale and Dorr LLPです。

以上


 

アステラス製薬、再び迫る特許の崖 大型買収で負債5倍

アステラス製薬の株価がさえない。日経平均株価が最高値圏にあるなか、2023年末に比べて横ばいで推移する。27年に特許切れする主力薬を穴埋めし再成長が見込める新薬候補が少ないうえ、24年3月期に4度も業績予想を下方修正したことから投資家が警戒心を解けずにいる。

17日の株価は1688.0円と4月に付けた年初来安値(1426.0円)から戻したものの、なお23年5月の上場来高値(2360.5円)を3割下回る。上値は重く、4%台の配当利回りがかろうじて支えている。時価総額は約3兆500億円と、会社が26年3月期の目標に掲げる「7兆円以上」からはるか遠い。

懸念されているのが、前立腺がんなどの治療薬「イクスタンジ」の特許の崖だ。アステラスの売上高の5割弱に当たる約7500億円を稼ぐ大黒柱で、足元でも販売好調が続く。27年に特許が切れて後発薬への切り替えが進めば、売上高が急減するリスクがある。

アステラスもこれに備えて新薬開発を急いできたが、難航している。21年には次世代薬と期待した遺伝子治療薬の臨床試験(治験)で死亡例が発生し、開発をストップした。23年にも難聴の治療薬候補の治験で思うような結果を得られなかった。新薬候補の開発中止などが重なり、24年3月期は業績予想を4回下方修正した。

足元のパイプライン(新薬候補)は心もとない。24年3月末時点で30件ほどと製薬大手4社の中で最も少ない。70件前後を抱える第一三共や中外製薬の半分だ。

開発が初期段階の案件も多い。約半数が治験の第1段階にあり、第2、第3段階を経て承認申請に至るまでには数年かかると見込まれる。開発が後期段階に至ったとしても途中で脱落するリスクはつきまとう。

窮余の一策が大型M&A(合併・買収)だ。23年7月に59億ドル(約8000億円)を投じて米アイベリック・バイオ社を買収した。市場投入が間近だった目の疾患治療薬「アイザーヴェイ」を手に入れることができた。

中山ブログ 2023/8/7 アステラスの眼疾治療薬、米で承認 IVERIC bio を総額約59ドルで買収 
                          前立腺がん治療剤 XTANDI ®の独占期間満了対策
                          癌などの治療薬を得るのは難しいため、ニッチである眼科に進出、多額を投資

岡村直樹社長は4月の決算説明会で「(尿路上皮がん治療薬の)パドセブ、アイザーヴェイなどが主な成長ドライバーとなる」と強調した。26年3月期にはこれら戦略製品で5000億円を稼ぐ目標を掲げる。

大型M&Aを断行した結果、財務は弱体化した。社債を約2000億円発行したことなどで有利子負債は24年3月末で約1兆円と1年前の5倍になった。利払い負担も増え、利益が金融費用の何倍かを示すインタレストカバレッジレシオは4.6倍と1年前の43倍から低下した。

無形固定資産も急増した。アイベリック・バイオの研究開発に関する支出が加わったことで約1兆8700億円と倍増し、自己資本(約1兆6000億円)を上回る規模になった。総資産に占める無形固定資産の比率は5割を超える。開発が失敗した場合の減損リスクは大きい。

今後はアイベリック・バイオ規模の買収は難しいというのが市場の見方だ。岡村社長も「ここ数年は大型の製品獲得や買収は難しい。だからこそ研究開発には頑張ってもらわないといけない」と語る。胃がんやリンパ腫など優先度の高い治療薬候補を中心に開発する方針だ。

買収で手に入れたアイザーヴェイの売り上げは急増しており、25年3月期は464億円と前期比3.8倍を見込む。だが売り上げが約7500億円のイクスタンジをすぐに穴埋めするのは簡単ではない。

大和証券の橋口和明シニアアナリストは「長期的な利益回復には、初期段階にある開発品を育成するか、販売中の品目が上振れして第三者から開発品を手に入れられるだけの資金を捻出できるかが重要になる」と指摘する。

株価を下支えしているのが株主還元の拡充だ。25年3月期の配当は前期比4円増の74円と連続増配を予定する。だが利益水準が落ち込んでおり、配当性向は23年3月期から100%を超え、24年3月期には736%に達した。橋口氏は「利益が改善しなければ、今の規模の配当を維持するのは徐々に難しくなる」と話す。

アステラスは19年以降、相次いで特許の崖を迎えたことがあった。当時はイクスタンジの付加価値を高めるのに成功し乗り切ったが、今回はそのとき以上の苦境にある。再び崖を乗り越えられるかどうか、市場は見極めようとしている。