2024年9月2日  日経

 iPSで糖尿病を治療 京大、膵臓の細胞を25年にも移植

京都大学病院はiPS細胞から作った膵臓の細胞のシートを糖尿病の患者に移植する臨床試験(治験)を2025年にも実施する。血糖値を下げるための注射を不要にしたり、回数を減らしたりして、患者の負担を軽減できる可能性がある。30年以降の実用化をめざす。



膵臓の細胞が正常に働かず血糖値が上昇し、様々な合併症を引き起こす重症の1型糖尿病の患者にiPS細胞から作った膵臓の細胞「膵島細胞」を移植する。

京大などはiPS細胞から膵島細胞を作ってシート状にする技術を開発し、この技術をもとに京大病院での治験計画を立てた。24年の8月下旬に京大の治験審査委員会で承認され、医薬品を承認審査する医薬品医療機器総合機構(PMDA)に計画書を送付した。

1型糖尿病は、血糖値を下げる働きがあるインスリンを出す膵島細胞が壊されてしまう病気だ。若い人がかかることが多く、生活習慣が影響する2型糖尿病とは異なる。口の渇きや体重減少のほか、腎臓の機能低下や神経障害を引き起こすこともある。

患者は、毎日数回にわたりインスリン製剤を自分で注射する必要があり、国内には10万〜14万人の患者が存在するとされる。重症になるとインスリン注射でも血糖値の制御が難しくなる。治験ではこうした患者を対象として想定する。20歳以上65歳未満の患者3人を予定する。

健康な人の細胞から作ったiPS細胞から膵島細胞の塊をつくり、複数集めて数センチメートル四方のシート状にする。手術でシート複数枚を患者の腹部の皮下に移植する。

日本移植学会

膵臓は、アミラーゼやリパーゼなどの消化酵素を分泌する外分泌細胞と、インスリンやグルカゴンを分泌して血糖調節を行う内分泌細胞との2種類の異なる細胞群(組織)からできています。

この血糖調節を行う内分泌組織を「膵島」といって直径が約 0.1〜0.3 mm の球状の塊で、膵外分泌組織の中に点々と散らばっています。

膵臓の中には 成人1人あたり約 100 万個の膵島があり、膵臓を構成する組織の約1%程度といわれています。
膵島のうち、血糖を上昇させる働きがあるグルカゴンを分泌するのがα細胞、血糖を低下させるホルモンであるインスリンを分泌するのがβ細胞です。

移植の適応となる1型糖尿病はこの膵島が自己免疫疾患によって破壊され、血糖を調整する細胞が十分な働きができず、血糖が不安定になる病気です。

移植したシートが患者本来の膵島細胞の代わりにインスリンを放出し、血糖値を下げることで、患者の体の負担や合併症のリスクを減らせる。

シートは京大と武田薬品工業が中心となって立ち上げ、iPS細胞の事業化を手掛けるオリヅルセラピューティクス(神奈川県藤沢市)が製造する。同社は実用化に向けて今回の治験の後、海外の研究機関や企業などと協力し、規模を拡大した国際共同治験によって有効性を確かめる方針だ。

称 オリヅルセラピューティクス株式会社
 
事業内容
 
1.細胞移植による再生医療等製品の開発。
2. iPS細胞関連技術を利活用した、創薬研究支援および再生医療研究基盤整備

創業日 2021年4月9日
 
株主
京都大学イノベーションキャピタル
武田薬品工業
SMBCベンチャーキャピタル
三菱UFJ銀行
メディパルホールディングス
三井住友ファイナンス&リース
三井住友信託銀行
日本ベンチャーキャピタル
日本グロースキャピタル投資法人
JDRF T1D Fund, LLC.

健康な人の膵島細胞を移植する既存の治療法はドナー(提供者)が不足しており、免疫抑制剤による副作用もある。iPS細胞から作った膵島細胞を使う治療法について、主に1型糖尿病の患者支援や治療法の開発支援に力を入れるNPO法人「日本IDDMネットワーク」の井上龍夫理事長は「新しい治療法が従来の課題を解決し、根治に向けた選択肢になると期待したい」と話す。

読売新聞

1型糖尿病の患者は通常、インスリン製剤を毎日数回、腹部に自分で注射する必要がある。

国内では、亡くなった人の膵臓からインスリンを出す膵島細胞を取り出し、重症患者に移植する「膵島移植」が20年から公的医療保険の対象になっているが、日本膵・膵島移植学会によると、提供者(ドナー)不足などから、保険適用後に実施されたのは10人以下にとどまっている。


世界でも1型糖尿病の治療技術の開発が進む。米バイオ企業のバーテックスファーマシューティカルズは6月、1型糖尿病の患者12人にヒトの幹細胞からつくった膵島細胞を移植し、インスリンが作られることを確認したと発表した。うち11人は注射などによるインスリンの投与量が減ったり、投与が不要になったりした。

国立国際医療研究センターはヒトではなくブタの膵島細胞を使う手法の研究を進めており、今後1型糖尿病患者向けに臨床試験の実施を目指す。ヒトの免疫がブタの細胞を攻撃するのを防ぐため、細胞を微小な穴の開いたカプセルに入れて投与する。

ブタの細胞がつくるインスリンはヒトのものとの違いが少なく代用できる。過去にはブタのインスリンを糖尿病の治療に活用していた時代もある。

日本発のiPS細胞を用いた治療の研究は進展している。大阪大学の研究チームはiPS細胞から作った心筋シートによる心臓病の治療法を開発し、既に臨床試験を終えた。同大発スタートアップのクオリプスが厚生労働省への承認申請を目指している。京都大学のチームはiPS細胞から作った神経細胞でパーキンソン病を治療する臨床試験を完了し、24年にも結果を公表する見通しだ。