これらの「免疫チェックポイント」を阻害して、免疫細胞に癌細胞を攻撃させるのが、免疫チェックポイント阻害薬である。
免疫老化のメカニズムを解明しました
2009年9月8日
湊長博 医学研究科教授らの研究グループは、加齢に伴って確実に増加する全く新しいT細胞集団の同定に成功し、この研究成果が、米国科学アカデミー紀要のオンライン版に掲載されることになりました。
研究成果の概要
加齢に伴い個体の免疫機能は、外来病原体に対する獲得免疫応答の低下(たとえばワクチン効率の低下)や過剰な炎症反応傾向などの特徴的な変化を示し、一般に「免疫老化」と呼ばれている。免疫老化は、加齢に伴うガンの増加への関与も示唆されている。免疫老化は免疫細胞(とくにTリンパ球)の全体的な機能劣化によるものと従来考えられてきているが、そのメカニズムはわかっていない。
今回の研究で本研究グループは、PD-1というマーカーによって若齢時には存在しないが加齢に伴って増加する全く新しいTリンパ球集団の同定に成功した。
通常Tリンパ球は病原体などの外来抗原に反応して増殖し、リンフォカインと呼ばれる多様な生理活性因子を産生して、抗体産生、キラー細胞誘導、炎症反応などの免疫反応を起こす。
しかしこのPD-1陽性Tリンパ球集団はそのような獲得免疫応答能を完全に欠質し、かわりにマクロファージなどの自然免疫系の細胞が作るオステオポンチンという強力な炎症性サイトカインを大量に産生することがわかった。このような機能的変化は、主にC/EBPαという遺伝子の発現に起因している。C/EBPαはマクロファージなどの骨髄球(白血球)の分化と機能を司るマスター遺伝子であり、通常のTリンパ球には発現されない。従って、PD-1陽性Tリンパ球は骨髄球(白血球)へあたかも「先祖返り」した細胞のように見える。
獲得免疫の最も重要な特性は免疫記憶であり、特定の病原体に反応したTリンパ球の一部は記憶T細胞として体内に長い間保持され免疫記憶を維持する。PD-1陽性Tリンパ球はこの記憶T細胞からユニークな遺伝子プログラミングによって派生し、加齢に伴って蓄積されることがわかった(下図)。重要な点は、加齢個体においてもこれ以外のTリンパ球は若齢個体のTリンパ球と同等の機能を十分に保持していることである。つまり免疫老化は、これまで考えられてきたようなTリンパ球集団の全体的な機能劣化によるものではなく、PD-1陽性Tリンパ球の割合の増加によってもたらされると考えられる。
もう一つの発見は、PD-1陽性Tリンパ球が、白血病の自然発症にともなって急速に促進されることである。担がん個体はしばしば免疫抑制状態にあり易感染性を示すことはよく知られており、さらにこれががんの免疫療法(とくにがんワクチンなどの能動的免疫療法)の大きな障害となっていると考えられている。今回私達は白血病のモデルマウスを用いて、若い個体でも白血病の発症にともなって急速にPD-1陽性Tリンパ球が増加し、強い免疫抑制状態に陥ることを見出した。つまり、がんは宿主の「免疫老化」を急速に促進すると言えるかもしれない。さらに近年オステオポンチンなどの炎症因子ががんの増殖や転移を促進することがわかってきており、PD-1陽性Tリンパ球は免疫抑制のみならずがんの進展に積極的に関与することも考えられる。
今回の結果は免疫老化やガン化にともなう免疫抑制の新しいコンセプトを提示するものである。従来これらは免疫系全体の機能劣化によるものであり非可逆的現象と考えられてきた。しかし今回の結果は、この特定のTリンパ球集団をたとえば抗PD-1抗体などにより選択的に排除することによって、老化やがんにともなう免疫系の機能低下を回復させうる可能性を示唆するものである。免疫系の「若返り」が可能になれば、高齢者の感染症予防や有効ながん免疫療法の推進に新しい展望が開かれるだろう。
機能 承認 開発中 抗PD-1抗体 免疫細胞のPD-1に結合し、PD-1と癌細胞のPD-L1の結合を防止 オプジーボ(小野薬品/BMS)
キイトルーダ(米Merck)抗PD-L1抗体 癌細胞のPD-L1に結合し、PD-1とPD-L1の結合を防止 Roche/中外製薬
AstraZeneca
独Merck/Pfyzer抗CTLA-4抗体 免疫細胞のCTLA-4に結合し、CTLA-4と樹状細胞のB7の結合を防止 ヤーボイ(BMS/小野薬品)
AstraZeneca