かゆみ改善薬「レミッチ」に関する特許を侵害したとして、東レが後発薬メーカーを提訴した訴訟で、知財高裁は5月、沢井製薬と扶桑薬品工業に計217億円の支払いを命じた。特許侵害訴訟で過去最高額とみられ、後発薬メーカーの高額賠償リスクが顕在化した。後発薬を巡る特許訴訟は後を絶たず、厚生労働省による承認過程の抜本的な見直しが求められる。

経口そう痒症改善剤「レミッチ®」用途特許に関する特許権侵害訴訟の知的財産高等裁判所判決について
 

 東レは、経口そう痒症改善剤「レミッチ® OD錠」に関する用途特許(特許第3531170号、延長登録:特願2017-700154号、特願2017-700310号、2022年11月存続期間満了)に基づき、沢井製薬、扶桑薬品工業に対し、後発品である「ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5µg 『サワイ』」および「ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5µg 『フソ−』」に関する本件特許権侵害行為による損害賠償を裁判所に求めていましたが(令和3年(ネ)第10037号)、本日、知的財産高等裁判所にて判決が言い渡されましたので、ご報告します。

 判決では、沢井製薬、扶桑薬品による沢井製品、扶桑製品の本件特許権存続期間中の製造販売行為が本件特許権の侵害にあたると認定され、東レの損害賠償請求を認め、沢井製薬に対して142億9093万9291円扶桑薬品に対して74億7287万8838円の賠償金、および遅延損害金を支払うことが命じられました。

 また同日、本件特許権に係る特許延長登録(特願2017-700154号)の維持審決に対して、沢井製薬が提起していました審決取消訴訟(令和6年(行ケ)第10033号)につきましても、沢井製薬の請求を棄却し、前記特許延長登録を維持する判決が言い渡されました。なお、本件特許権に係る延長登録(特願2015-700061号、特願2017-700309号、特願2017-700310号)につきましては、沢井製薬から延長登録無効審判請求を受けていましたが、延長登録を維持する旨の判決が既に確定しています。

 東レは、「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」の企業理念を掲げ、お客様の期待に応える革新的な製品を開発するために、継続的な研究開発投資を行い、多数の知的財産権を所有しています。東レは今後とも、必要に応じて、自社の有する知的財産を侵害から守るため、東レの知的財産に関する基本方針である「自己の権利の正当な行使」に従い適切な対応を取り続けていく所存です。

※レミッチ®は、鳥居薬品株式会社の登録商標です。

(補足)延長登録とは:
 医薬品の開発において製造販売承認を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的として、その期間について、20年の特許期間満了後に5年を上限として、存続期間の延長を認める制度です。なお、延長登録の出願中は特許期間が延長されたものとみなされています。

 

知的財産高裁が2025年5月27日に出したレミッチ®(ナルフラフィン塩酸塩OD錠)の用途特許侵害訴訟における逆転判決の問題点を整理すると、以下の通りです。


1. 「有効成分」の広い解釈

知財高裁は、特許クレーム中の「ナルフラフィン」は、塩酸塩(HCl塩)として実際に使用される後発品にも及ぶ、と解釈しました。
つまり、成分がフリー体と塩として異なる形式でも、体内で等価に作用する以上、「同一の成分」と評価されるという判断です tokkyoteki.com+11patentblog.kluweriplaw.com+11tokkyoteki.com+11mixonline.jp+2tokkyoteki.com+2note.com+2

これは従来の東京地裁や特許庁の狭い解釈(成分の形態を区別)を覆すもので、クレーム解釈の基準が一気に拡大されました。


2. 延長特許制度の適用範囲の拡張

通常、医薬品は承認取得前の特許失効を取り戻すために最長5年間の特許期間延長制度(PTE)を使用します。東レの標準20年から、承認を受けた成分に基づき22年11月まで延長されていました。
今回の知財高裁判決は「塩酸塩で実質同一なら、延長特許の効力は当該塩製剤にも及ぶ」と判断し、PTEの保護範囲が予想以上に広いことを明確化しました tokkyoteki.com+2note.com+2mixonline.jp+2tokkyoteki.com


3. 多額の損害賠償 ●●●億円命令

知財高裁は、沢井製薬に対して約142.9億円、扶桑薬品に対して74.7億円という、日本の医薬特許訴訟で過去最高額クラスの賠償金を命じました tokkyoteki.com+2note.com+2mixonline.jp+2
過去は数億〜十数億規模が一般的だった中で、この“異例の高額”判決は、後発医薬品メーカーにとって多大なリスクとなります。


4. 「At-risk launch(リスク承知の仮発売)」戦略への警鐘

2018年に沢井・扶桑は、PTE申し立て中の段階でOD錠を発売。“高い市場シェアへのアクセス”を優先しましたが、今回の判決により「仮発売は成功しないどころか重大な賠償リスクを伴う」と明示された形となりました note.com+1note.com+1


5. 医薬品業界と知財訴訟戦略への影響


🔍 まとめ

問題点 内容
成分の解釈拡大 フリー体と塩の形式を同一視する解釈が確立
PTE範囲の拡大 塩製剤にも特許保護が及ぶと明示
高額賠償命令 歴史的判決、後発品メーカーへの強い抑止力に
At‑risk発売のリスク可視化 法的予防策を取らない参入の危険性が明確に
知財戦略の深化 製薬各社の経営策として知財への対処が必須に

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東レが沢井製薬と扶桑薬品を相手に提起していた経口そう痒症改善薬・レミッチOD錠(一般名ナルフラフィン塩酸塩)の用途特許侵害訴訟で、知的財産高等裁判所は5月27日、東レ側の主張を認め、沢井製薬と扶桑薬品に賠償金などの支払いを命じた。知財高裁は賠償金として沢井製薬に対して142億9093万9291円、扶桑薬品に対して74億7287万8838円、及び遅延損害金の支払いを命じた。沢井製薬の親会社のサワイグループホールディングス(GHD)と扶桑薬品はこの日、判決は到底容認できないと反発。サワイGHDは「速やかに上告を含むあらゆる法的手段を講じる方針」、扶桑薬品は「最高裁へ上告する準備を進める」とのコメントを発表した。

東レは、レミッチに係る20年間の特許期間が満了する2017年に、用途特許の5年間の延長登録を申請した。延長登録は、医薬品の開発において製造販売承認を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的として、その期間について、20年の特許期間満了後に5年を上限として、存続期間の延長を認める制度のこと。延長登録の出願中は特許期間が延長されたものとみなされる。

一方、18年6月に10社11品目のレミッチ後発品が薬価収載・発売された。このうち同後発品のOD錠は沢井製薬と扶桑薬品の2社が取り扱ったが、東レは18年にこの2社を相手に特許侵害訴訟を提起した。この2社にしぼって提訴した理由について、東レは本誌取材に、「(レミッチのカプセル剤とOD錠のうち)OD錠の販売割合が高く、その後もOD錠に集約されると考え、(沢井製薬と扶桑薬品の)2社を提訴した」と説明した。

そして、21年に東京地裁が東レの請求を棄却する判決を出したが、東レはこれを不服とし、知財高裁に控訴していた。東レによると、知財高裁は「沢井製薬、扶桑薬品による沢井製品、扶桑製品の本件特許権(=レミッチOD錠に関する用途特許)存続期間中の製造販売行為が本件特許権の侵害にあたると認定され、東レの損害賠償請求を認め」たとした。

また、「血液透析患者、慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」に係る用途特許の延長(特願2017-700154号)の維持審決に対し、沢井製薬が審決取消訴訟を提起していたが、知財高裁はこの日、沢井製薬の請求を棄却し、特許延長を維持する判決も言い渡した。

なお、延長された用途特許は22年11月に満了しているため、現在は同後発品OD錠を製造販売することの問題はない。

◎サワイGHD 「当社の主張を著しく無視したもので、到底容認できるものではない」 あらゆる法的手段講じる

サワイGHDは知財高裁の判決を受け、「当社としては、本判決の内容は当社の主張を著しく無視したものであり、到底容認できるものではない。このため、判決内容を精査のうえ、速やかに上告を含むあらゆる法的手段を講じる方針」とのコメントを発表した。業績に与える影響は「精査中」だが、5月14日に発表した24年度業績を修正する予定だとしている。

◎扶桑薬品 「到底承服できかねる」 最高裁への上告を準備

扶桑薬品もコメントを発表。「控訴審における請求金額の大半を認容する判断がなされたことは誠に遺憾であり、当社のこれまでの主張に照らしあわせると到底承服できかねる」とし、「本判決の内容を早急に精査し、最高裁判所へ上告する準備を進める」とした。また、訴訟関連損失引当金繰入額74億7287万8838円及びこれに対する遅延損害金を25年3月期の特別損失として計上する予定であることも明らかにした。
 
 

2026年3⽉5⽇ 東レ

パーキンソン病ジスキネジア治療薬のライセンス契約締結と⽶国FDAへの臨床試験開始申請について

 東レは、このたび、東レが開発した「TRK-820※1」について、Immunis, Inc.(本社:米国カリフォルニア州アーバイン、Chairman:Hans S. Keirstead、以下「Immunis」)との間で、パーキンソン病(以下「PD」)のジスキネジア治療薬における独占的ライセンス契約を締結しました。今後はImmunisが開発コード「IMM02-KORA」として開発を継続します。

 本契約に基づき、Immunisは、「IMM02-KORA」の米国、カナダ、欧州連合および欧州自由貿易連合における開発・販売に関する独占的権利を取得します。また、東レに対して契約一時金および開発進捗に応じたマイルストンを支払い、製品上市後には、売上高に応じたマイルストンおよびロイヤルティを支払います。

 世界保健機関(WHO)が2022年に公表したデータによると、PDの有病率は過去 25 年間で約2倍に増加しており、2019年時点で世界全体において 850 万人以上がPDと共存していると推計されています。PDは脳内の神経伝達物質ドーパミンが減少して起こり、手足の震え、筋肉のこわばり、動作緩慢、姿勢保持障害(転びやすいこと)が主な症状として現れます。PD治療には、ドーパミンを補うL-ドパが広く用いられています。病気の進行に伴い、L-ドパの長期投与により不随意運動(ジスキネジア)が生じることがあります。

       ジスキネジアについて   https://www.nanbyou.or.jp/entry/169

 Immunisは、PDに伴うL-ドパ誘発性不随意運動(ジスキネジア)を対象とした治療薬として、「IMM02-KORA」の開発を進め、本年2月に米国食品医薬品局(FDA)に対し、第I相臨床試験開始に向けたIND(臨床試験開始申請)を提出しました。
 
   東レは、自社の強みである創薬要素技術が生かせる領域に研究資源を集中するとともに、外部との連携を積極的に進めるオープンイノベーション戦略を推進しており、ベンチャー企業や製薬企業とのオープンイノベーションを通じて革新的な新薬の創出を加速していきます。

 東レは、「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」という企業理念のもと、今後も革新的な新薬の創出を通じて、医療の発展に貢献してまいります。


<用語説明>

※1 「TRK-820」は、東レが創製した世界初の選択的オピオイドκ(カッパ)受容体作動薬です。

選択的オピオイドκ(カッパ)受容体作動薬は、
主に「ナルフラフィン塩酸塩」(製品名:レミッチ) を指します。透析や慢性肝疾患に伴う、抗ヒスタミン薬が効きにくい難治性のかゆみに対し、中枢神経系のκ受容体に作用して鎮痒効果を発揮する薬です。