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2012/3/1 三星電子、液晶パネル事業を分社 

三星電子は2月20日、取締役会を開き、ディスプレー事業の競争力を高めるため、 液晶表示装置(LCD)事業部を分社する案件を承認したことを明らかにした。

新法人の名前は「三星ディスプレー(仮称)」で、3月の定期株主総会で分社の承認を得て、4月1日 にスタートする予定。

LCD事業部の分離により、三星電子の事業は携帯電話、テレビ、半導体の3部門となる。

三星電子のLCD事業部は、2011年の売上高が22兆7000億ウォン(約1兆6100億円)で、世界の液晶パネル市場ではシェア首位だが、1兆6000億ウォン(約1140億円)の営業損失を出すなど、業績は不振にあえいでいる。

そのなかで、2011年12月にソニーとの液晶パネルJVを解消し、三星電子の100%にすることを明らかにした。
ソニーに支払う 株式の
代金は1.08兆ウォン(約730億円)で、三星は合弁の解消で急拡大した設備を、タブレット端末やスマートフォンに振り向ける。

2004年に、ソニーとの間で韓国にアモルファスTFT液晶パネルの製造合弁会社S-LCDを設立した。
三星が発行済み株式の5割と1株を持ち、ソニーが残りを出資した。
2005年4月に第7世代工場が稼動、2007年秋に第8世代工場が稼動、ソニーはほぼ半分を引き取ってきた。

三星電子のLCD事業部は現在、社内の他部門と外部の顧客企業との両方に製品を供給している。
分社により、このような曖昧な状況を終えるとともに、「経営のスピード化が図られ、取引メーカー各社からの様々なニーズに速やかに対応できるようになる」としている。

実際には液晶パネルは中国メーカーの参入で価格の回復は難しいと判断し、有機EL事業への移行を促す狙いがある。
今後、液晶ディスプレイ(LCD)から有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイに移していく。

三星電子は今回のスピンオフに関する声明の中で、「現在、ディスプレイ市場は急激な変化を遂げており、OLEDパネルが急速に LCDパネルに代わる主流となりつつある。ディスプレイ業界でこのような構造的変化が起こる中、当社のディスプレイ事業の競争力を高めるためには、事業の再構築など変化と革新に向けた方策を採ることが不可欠だ」と述べている。

三星ディスプレーは発足後、中小型有機発光ダイオード(OLED)パネルを重点的に生産する三星モバイルディスプレー(SMD)との合併を行うと見られている。

付記

三星ディスプレイは4月27日、三星ディスプレイが7月1日付で三星モバイルディスプレイ(SMD) 及びソニーとの合弁を解消した上記のS-LCDを統合すると発表した。

この合併が実現すると、世界のOLED市場の96%を占めるSMDとの合併で、年間売り上げ30兆ウォン(2.1兆円)規模の巨大なディスプレーメーカーが生まれる。

三星モバイルディスプレーは、2008年9月に三星SDIの中小型ディスプレイ(能動型有機発光ダイオード:AMOLED)部門が独立して設立され、2009年1月には三星電子の中小型TFT-LCD部門と合併した。
現在、三星電子の持株比率は64.4%まで拡大している。

三星SDIは旧称三星電管でブラウン管から出発したが、現在の主要事業は太陽電池、燃料電池、電気自動車等輸送用バッテリー、電力貯蔵用大容量ストレージなどとなっている。
(社名のSDIの由来は、S= Samsung、D= Display and Digital、I= Interface and Internet component)


2012/3/2  三井化学、ウレタン事業でSABICとの提携を検討、ウレタン事業を再構築

三井化学は2月28日、SABICとの間で、ポリウレタン原料のTDIとMDIの製造技術ライセンス供与契約を締結するとともに、将来の事業提携の検討を行うことに合意した と発表した。
これらを含めたウレタン事業の再構築を行う。

1. ライセンス契約

  ライセンス対象技術:TDI及びMDI製造技術
  契約締結日:2012年2月26日
  プラント運転開始時期:2016年(予定)
  立地:Al-Jubail地区
 範囲:TDI トルエンからの中間体(DNT,TDA,ホスゲン)を含む全ての製造技術
    MDI  ベンゼンからの中間体(ニトロベンゼン,アニリン、MDA、ホスゲン)を含む全ての製造技術

 SABICはTDIとMDIの能力や建設費、ポリウレタン計画の概要について、明らかにしていない。

2. SABIC社との事業提携検討

 三井化学とSABICはウレタン事業における提携を検討することに合意した。

    SABICは、今後 三井技術により世界で最も競争力のあるTDI及びMDIプラントの建設に向けた基本設計を開始する。
 三井化学はSABICとの事業提携の検討を行い、2013年度を目途に合弁事業への参画を含めた提携を決定する。

 日本経済新聞(2月28日付)は、以下の通り述べている。

新設プラントの年産能力は30万〜50万トンで世界最大規模になるとみられる。総事業費は1000億円を大きく超える見通し。

3.三井化学のウレタン事業再構築

 三井化学は自社の事業と武田薬品の事業を統合し、三井武田ケミカルとした後、三井化学ポリウレタンと改称、
 2009年4月1日に吸収合併した。

 PPG(ポリプロピレングリコール)は中長期的には国内需要が漸減するものと見込まれる。
   このため、千葉ポリオールでのPPG生産を2012年6月をもって停止する。

   TDI及びMDIは、既存の拠点とサウジの新プラントで最適生産体制を取り、
   将来的には海外拠点からの供給をメインにする。

三井化学グループのポリウレタン材料生産能力(2012年2月現在 単位:t /年)

    TDI MDI PPG
大牟田工場 旧 三井 120,000 60,000 -
鹿島工場 旧 武田 117,000 - -
錦湖三井化学
(韓国)
錦湖石油化学50% - 155,000 -
名古屋工場 旧 三井 - - 57,000
徳山分工場 旧 武田 - - 50,000
千葉ポリオール 日本曹達10% - - 28,000

(注)錦湖三井化学は2013年1月に200,000t/年

ーーー

SABICは2010年11月に機能性化学品への進出の一部としてポリウレタン事業への進出計画を明らかにした。
既にFSを実施しており、技術導入に関して数社と協議を行っているとしていた。

サウジアラビアは最終的にはサウジでの自動車生産を考えており、SABICはその際には原料を供給できる体制を作っておくというもの。

ポリウレタン事業への進出はこの一環。

PCについてはSABICが出資する
Saudi Kayan Petrochemical がAl-Jubailで生産を開始している。
     2006/7/5 新しいサウジ石化計画スタートへ

SABICは2011年5月には、天津のSinopecとの50/50JVSinopec SABIC Tianjin Petrochemical PCを生産すると発表した。
  2011/5/26 
SABICSinopec、天津でポリカーボネート生産

SABICはまた、ポリアミドへの進出にも関心があるとしていた。但し、既にサウジで下記のポリアミド計画が進行中で、2つは要らないとし ている。

Saudi Industrial Investment Group (SIIG) とArabian Chevron Phillips Petrochemical Company Limited (ACP)は2010年6月、Polyamide 6,6プラント建設と、多くのポリマー加工計画を発表した。

ポリマー加工計画には、高機能ポリエチレンパイプ、灌漑用製品、使い捨て医療用品、ポリアミドコンパウンド、電気器具、自動車部品などが含まれる。

Jacobs Engineering Groupは、2010年12月に本計画の設計・購買・建設管理契約を締結した。

SIIGとChevron Phillips はサウジにSaudi Chevron Phillips Petrochemical、Jubail Chevron Phillips、Saudi Polymers 3つのJVを持っている。
  
2008/1/25 Chevron Phillips のサウジ石化事業


2012/3/3  大日本住友製薬、米国医薬品会社Boston Biomedical を買収 

大日本住友製薬は2月29日、米国のBoston Biomedical Inc.を買収することで合意したと発表した。

大日本住友製薬は4月25日、Boston Biomedical Incの買収を完了し、完全子会社としたと発表した。

同社の会長のDr. Chiang Li等がつくっている 1Globe Health LLCが過半数を所有しており、株主数は合計6 名。
三井物産のベンチャー投資子会社の三井物産グローバルインベストメント(旧称 エム・ヴィー・シー)も株主の1社で、設立直後から出資し、取締役を派遣している。同社も大日本住友製薬への売却に同意した。

買収の対価は以下の通り。 

 買収完了時   200 百万米ドル  
   開発マイルストン
     開発中の化合物 BBI608、BBI503
  最大 540 百万米ドル  
  販売マイルストン   最大 1,890 百万米ドル 年間売上高が4,000 百万米ドルの場合)

 BBI608 及びBBI503 について、2015 年以降の発売を目指している。

Boston Biomedical は癌領域を専門とするバイオベンチャー企業で、癌幹細胞への抗腫瘍効果を目指して創製された低分子経口剤であるBBI608 及びBBI503 の2 つの有力な開発パイプラインを有している。
(BBI608 及びBBI503 の日本、北米における独占的な権利を保有している。)

がん幹細胞に特異的な標的分子の同定が困難で、現在までのところ、がん幹細胞に対する抗がん剤が成功した事例はなく、BBI608 及びBBI503 は世界初のがん幹細胞に対する抗がん剤となる可能性を有している。

BBI608は現在、北米において大腸がんに対する第3 相臨床試験実施の準備段階にあり、また各種固形がんに対する第Ib/II 相臨床試験の段階にある。
BBI503は、北米において進行性の各種固形がんに対する第1 相臨床試験の段階にある。

大日本住友製薬はBBI608 について2011 年3 月に、全ての 癌種を対象に日本をテリトリーとした開発・販売権に関する独占的なオプション契約をBBI 社と締結した。契約一時金および開発費用の一部として15 百万ドルを支払った。

北米での臨床試験の結果に基づき、オプション権を行使したときには、日本における独占的開発・販売権を取得する。
米国およびカナダについては独占交渉権を保有。

オプション契約締結後、開発パイプラインの革新性及び高い創薬・開発能力を評価し、本買収を決断した。

今後、大日本住友製薬の100%子会社として、ボストン地区で事業を継続する。

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大日本住友製薬は第二期中期経営計画で新薬継続創出に向けたパイプラインの拡充を掲げており、癌や免疫疾患などのスペシャリティ領域をチャレンジ領域とし、ファースト ・イン・クラスの革新的な医薬品の創製を目指している。

ファースト・イン・クラス(画期的医薬品)は特に新規性・有用性が高く、化学構造も従来の医薬品と基本骨格から異なり、従来の治療体系を大幅に変えるような独創的医薬品をいう。

癌領域はアンメット・メディカル・ニーズが極めて高い領域であり、同社では、癌治療薬への挑戦を研究開発型製薬企業の重要な使命であると考えて おり、大きな事業チャンスとも見ている。

今回の買収で、 癌領域における革新的な開発パイプラインを獲得するのみならず、卓越した創薬・開発能力の取得により、今後の継続的な開発化合物候補の創出が期待できる優れた創薬プラットフォーム及び開発能力を獲得することとな る。これにより、米国での研究開発体制を構築し、グローバルにおける癌事業での当社のプレゼンスを高め、癌領域を精神神経領域に次ぐ当社の将来の重点事業領域の一つとすることを目指 す」としている。

ーーー

Boston Biomedical Inc.の会長のDr. Chiang J. Li は米国のバイオテクノロジー会社 ArQule Inc のChief Strategic Officeer & Executive VP であった。同社のR&D部門を立上げ、同社を化学品サービス会社からR&Dに焦点を当てた企業に変身させた。

2002年にArQule のR&D部門のメンバーがCyclis Pharmaceuticalsを設立し、癌治療薬の開発を行ったが、2003年7月にArQuleがこれを買収した。

2007年に開発がうまくいかず、ArQule はこれを分離してBoston Biomedical とし、500万ドルの研究補助金付きでDr. Chiang J. Li に与えた。現在もArQule 出身者が26名働いている。癌幹細胞領域の研究開発に特化。

ArQuleは開発業務をBoston Biomedical に移したことで、臨床試験中の製品に重点を移した。
ArQule はBoston Biomedical には出資していない。

Dr. Chiang J. Liは現在も ArQuleのScientific Advisory Boardの会長をしている。

第一三共は2008年11月に、ArQuleとの間で癌治療領域での研究・開発・販売の提携で合意した。


2012/3/5 BP、メキシコ湾岸原油流出事故で漁業関係者などと和解 

BPは3月3日、New Orleansでの個人や企業を原告とする訴訟の併合審理手続き(Multi-District Litigation)で、原告側の運営委員会との間で和解に達したと発表した。
ニューオーリンズ連邦地裁の判事は、今月5日に予定されていた審理の延期を命じた。提案された和解条件は承認のため裁判所に提出される。

付記

BPは4月18日、和解が最終決定したと発表した。

基金からの賠償額に不満を持つ個人や企業が訴訟を起こしたもので、漁業関係者、清掃業者、ホテル、不動産会社など10万以上に及ぶ。弁護士は340人。

和解は2つの部分に分かれる。
一つは経済的損失で、これには
メキシコ湾の海産物業界への経済的損害(補償額 23億ドル)やメキシコ湾岸の観光促進のための宣伝費支援などが含まれる。

もう一つは医療費で、現実の健康被害の補償や、21年間の健康相談、今後の健康被害への対応 など。
更に地域の(原告以外の人も含めた)ヘルスケアの幅、質の向上のための資金(105百万ドル)が含まれる。

BPの推定では和解で払われる総額は約78億ドルで、全額が被害補償のための200億ドルの基金(Gulf Coast Claims Facility)から払われる。

今回の和解以前に、BPでは事故関係で220億ドル以上を支出している。
81億ドル以上が個人、企業、政府機関への支払いで、これに加え、BPは作業関係で約140億ドルを支出した。

今回の和解による78億ドルの支払いは、既に損失として処理している200億ドルの基金から払われるため、同社の損益には関係しない。

損益計算上の特別損失は2年合計で371億ドル(2010年409億ドル、2011年 38億ドルの戻入)

他社からの和解金合計は54億ドル(戻入)のため、直接支出225億ドル、基金への支出200億ドルとなる。
   22,448 + 20,000−5,390=37,058百万ドル

200億ドルの基金からは既に、個人と企業からの22万件以上のクレームの解決に61億ドルが払われている。
今回の和解分を入れると、139億ドルで、残りは61億ドルとなる。

今回の和解には、米国政府などからの請求(Clean Water Act による罰金やOil Pollution Actによる自然資源損害によるもの)や州や地方自治体からの請求、別の併合審理手続きによるもの、その他が含まれていない。

Clean Water Act による罰金はバレル当たり1,100ドル だが、重大な過失の場合は4,300ドルとなる。
政府は410万バレルが流出したと見ており、重大な過失であれば、罰金は176億ドルにもなる。
BPでは流出量を320万バレルとし、バレル1100ドルを適用し、35億ドルを引き当てており、現在政府と交渉中。

不足すれば、残りはBPが直接支払うこととなる。


2012/3/6 第一三共とグラクソ・スミスクライン、ワクチン事業で戦略的提携

GSK Biologicals(ベルギー)、GSK Japan、第一三共は3月2日、ワクチン事業における戦略的提携として、折半出資による合弁会社ジャパンワクチンの設立の契約を締結したと発表した。

近年、科学の進歩による予防医療の進展により、ワクチンに対する関心が非常に高まっているなか、日本においては、先進国で感染症予防に効果を上げているワクチンの多くが未導入・未普及 となっていた。
このため、ワクチン産業ビジョン(厚生労働省:2007年3月)でワクチン・ラグを解消すべく産業強化のための方策が示され、新規ワクチンの承認・発売など、ワクチンを取り巻く環境に大きな変化と前進が見え始めて いる。

このような状況下、日本の医療ニーズに合致したワクチンの迅速な供給を実現するべく、GSKと第一三共が、ワクチンの後期臨床開発、マーケティング、営業機能を担う新会社を設立することとした。

付記

ジャパンワクチンは7月2日に事業活動を開始した。

GSK BiologicalsはGSKグループのワクチン事業を推進する世界有数のワクチン会社で 、予防ワクチンと治療ワクチンの分野で30以上のワクチンを開発した実績と、20品目以上からなる開発パイプラインを有している。
2010年には先進国から途上国に至る179カ国において14億接種以上のワクチンを供給した。
2011年のワクチン売上高は4,196億円。

GSK Japanは2009年12月に子宮頸がん予防ワクチン「サーバリックス」で日本でのワクチン事業を開始、2011年11月からは、乳幼児のロタウイルス胃腸炎予防ワクチン「ロタリックス」も発売している。

新会社ジャパンワクチンは、GSK Japanと第一三共が折半出資で設立、両社が保有する予防ワクチン製品に関する開発権ならびに販売権を継承し、日本国内で臨床開発、マーケティング、ならびに営業活動を行 う。

事業開始当初は、子宮頸がん、インフルエンザ、風疹、ロタウイルス胃腸炎ワクチンなど両社が既に販売しているワクチン計12種類を販売する。
新薬開発はGSKが海外で開発販売する50種類以上の中から開発品を検討していく。

ワクチン  製品名 対象
Human Papillomavirus (HPV) vaccine Cervarix 子宮頸がん
Rotavirus vaccine Rotarix ロタ胃腸炎
Seasonal flu vaccine   インフルエンザ
Mumps vaccine   おたふくかぜ
Diphtheria Pertussis (DTP) vaccine   ジフテリア・百日咳・破傷風/三種混合
Measles Rubella (MR) vaccine   麻疹・風疹

第一三共の2010年度のワクチン売上高は178億円、12品目を販売している。

北里研究所と第一三共との合弁、北里第一三共ワクチンは存続する。

第一三共は、1961年に北里研究所と提携し、ワクチン販売を開始した。
両社は2011年4月に、第一三共51%、北里研究所49%出資でワクチン専門の開発・製造発売会社
北里第一三共ワクチンを設立した。

参考 2011/8/26  新型インフルエンザワクチン開発・生産体制整備臨時特例交付金

また、Sanofiと提携して「ヒブワクチン」を扱っているが、この提携は「今後も継続する」。

ヒブ(インフルエンザ菌b型)は咳、くしゃみなどにより、鼻、のどを通して体内に入り込み、髄膜炎、敗血症, 喉頭蓋炎や他の重篤な感染症を引き起こすことがある。

第一三共は、これを予防する小児用ワクチンであるアクトヒ(製造元:
Sanofi Pasteur)を2008年12月に発売した。


2012/3/6 番外編 福島原発行動隊の本 

復旧作業が難航している東京電力の福島第一原発をめぐり、東京都内の元技術者が独自に「暴発阻止行動隊」として高齢者に作業への参加を呼びかけている。

 2011/5/24 「福島原発 暴発阻止行動 プロジェクト」 

隊員は約700人、資格は60歳以上で現場作業に耐える体力と経験があること。

 

これに志願している高齢の元エンジニアらが自らの思いや提言を本にした。

山田恭暉 編著 「福島原発行動隊 今、この国に必要なこと」(批評社)

 


2012/3/7 欧州金融危機への今後の対応 

EU首脳会議は2012年3月2日、財政規律の強化に向けた新条約に各国が署名し、閉幕した。

欧州債務危機対策の一環としての金融安全網の再強化については、ドイツの慎重論に配慮し、3月末までに結論を出すことで合意した。

会議ではセルビアをEU加盟候補国にすることを承認した。

セルビアはコソボとの関係正常化交渉を再三中断してきたことなどから、ドイツが反対していた。
コソボとの間で国境管理措置などで合意したのを受け、承認した。

他のEU加盟候補は、トルコ、マケドニア、アイスランド、モンテネグロの4カ国。
正式加盟には、それぞれ問題を抱える。

なお、クロアチアが2013年7月にEUに加盟し、加盟国は28か国となる。

ーーー

(財政規律の強化に向けた新条約)

新条約は、各国に対し、景気の変動などの要因を除く財政赤字の大きさについて、GDP比で0.5%以下に抑えることを憲法や基本法などで定めるよう求める内容で、EU27か国のうち、英国とチェコを除く25か国が署名した。

英国は2011年12月のEU首脳会議で署名に拒否権を行使し、同条約に署名しない方針を示した。

チェコのネチャス首相は2012年1月のEU首脳会議で、財政統合を目指す新条約の調印に参加しない意向を明らかにした。(チェコの連立政権内にはこれに反対する意見があり、連立維持が危うくなっている。)

各国は今後、批准手続きに入り、2013年1月の新条約発効を目指す。ユーロ圏17か国のうち12か国の批准が発効の条件となる。

加盟国が新条約を批准しない場合、7月に欧州金融安定基金(EFSF)から引き継いで新設する欧州安定メカニズム(ESM)から支援を受けられない。

アイルランドでは、憲法を改正する必要があるため、国民投票を実施する。

付記

アイルランドの国民投票が6月1日開票され、賛成60.29%で批准が決まった。投票率は50.6%だった。

アイルランドは「財政再建の優等生」とされてきたものの、国民には増税や福祉手当のカットへの不満が強く、「反緊縮」ムードも漂っていた。

付記

独議会は6月29日、欧州の新たな財政ルールを定めた財政協定と共にESMを圧倒的多数で承認した。
ただ、その直後に反対する学者や議員、一般国民が憲法裁判所に不服を申し立てた。

ドイツの憲法裁判所は7月10日、この問題で、審理に応じることを決めた。しかし、判断を下す日程については明らかにしていない。
ガウク大統領は、憲法裁判所が承認するまで署名しない方針を示しており、批准が遅れている。

スペイン首相はこの日、EUの財政規律に反発する形で2012年の財政赤字目標を緩和し、先にEUと合意したGDP比4.4%ではなく、5.8%に設定したことを明らかにした。

ファンロンパイEU大統領は「信頼性の観点から財政目標は堅持されねばならない。そうでないなら、金融市場による懲罰が待っている」と指摘した。

ーーー

(金融安全網の再強化)

2011年7月の恒久的支援組織の欧州金融安定化メカニズム (ESM)発足を前に、金融安全網の再強化を行うもの。

基本構想は以下の通りで、IMF資金枠を合わせ、1兆9000億ドルを準備する。
本来、この会議で決定する予定であったが、ドイツの慎重論に配慮し、決定を3月末まで延ばした。

  2012年7月ESM発足以降
当初案 目標
欧州基金 ESM   5000億ユーロ 統合、上限撤廃
    7500億ユーロ
     (約1兆ドル)
EFSF残 打ち切り 
    (2500億ユーロ)
IMF資金枠 現行   約 4000億ドル     +5000億ドル
 (うちEU 2600億ドル)
合計       1兆9000億ドル

これまでの経緯は以下の通り。

1)欧州基金

ユーロ圏16カ国は2010年5月、緊急支援の基金で3年間の時限措置の欧州金融安定ファシリティー(EFSF)の設立と、これを引き継ぐ恒久的支援組織の欧州金融安定化メカニズム (ESM)の2013年7月設立を決めた。

EFSFは各国政府による保証を基に市場から資金を調達し、支援を必要とする国に融資を行う。

2011年6月にEFSFの拡充を決定(2011年10月に最後のスロバキアが一旦反対した後、賛成し、成立)

ユーロ圏各国の政府保証を受けて債券発行を行うが、最上級の格付けを維持するためには、そのうち格付けが最上級(AAA)の6か国の2550億ユーロしか貸し出すことができないため、拡充した。

各国が負担する保証負担額は以下のとおり。(百万ユーロ)

  保証負担額 拡大後
オーストリア 12,241    21,639
フィンランド 7,905 13,974
フランス 89,657 158,488
ドイツ 119,390 211,046
ルクセンブルグ 1,101 1,947
オランダ 25,144 44,446
AAA格付 6か国
  合計
255,439 451,540
その他 184,561 328,243
合計 440,000 779,783

その後1月13日に、S&Pはフランスとオーストリアの国債を格下げした。
Moody'sは据え置いたが、両国について、見通しを格下げの可能性を示唆する「ネガティブ」とした。

2011年12月のEU首脳会議はESMを1年前倒しで2012年7月に設立することを決めた。

資金力の上限を5,000億ユーロに制限する。

EFSFが各国の政府保証を受けて債券発行を行うのに対し、ESMは800億ユーロの払込資本と6200億ユーロの請求払資本を保有し、銀行により近い形態を持つ 。
但し、銀行免許は付与しない。

2012年2月2日に欧州安定メカニズム(ESM)を創設する条約が署名された。2012年7月発効を目指す。

上記の財政協約を批准することを条件に金融支援を行う。

当初の最大融資能力は、7,000億ユーロの応募資本(800億ユーロの資本金と6,200億ユーロの請求払資本)によって得られる5,000億ユーロとする。

  出資比率
     %
Germany 27.1464
France 20.3859
Italy 17.9137
Spain 11.9037
Netherlands 5.7170
Belgium 3.4771
Greece 2.8167
Austria 2.7834
Portugal 2.5092
Finland 1.7974
Ireland 1.5922
Slovakia 0.8240
Slovenia 0.4276
Luxembourg 0.2504
Cyprus 0.1962
Estonia 0.1860
Malta 0.0731

当初の草案は「当初の融資能力規模は、最大5000億ユーロに設定される。これには現在のEFSFによる安定化支援も含まれる」としてい た。この場合、EFSFの残高は引き継がないこととなり、EFSFの拡充も意味がなくなる。

条約締結時には「欧州金融安定基金(EFSF)とESMの融資能力が十分か否か、2012年3月1日に再度検証する」とし ていた。

合わせて行うIMF資金枠増加に関し、 他の諸国から「まずEUが自らの安全網を強化すべきだ」と欧州の自助努力が強く求められた。

このため、ESMの融資能力5000億ユーロにEFSFの残り2500億ユーロを加え、7500億ユーロとする予定であった。
しかし、ドイツの反対意向を受け、今回の決定を延ばした。

ドイツではギリシャなどの放漫財政のつけを、ドイツ国民が事実上肩代わりすることに拒否反応が強く、メルケル首相らが「ギリシャの債務削減計画の状況を見極めるべきだ」などと主張した。

なお、800億ユーロの資本金は5回に分けて払い込まれる。当初は5年に分けて払い込む計画だったが、EU首脳はこれの加速方針でも合意した。
2回分は年内に行うことが決まっているが、残り3回をいつ行うかはEFSFの残高を繰り入れるかどうかと合わせ、3月中に決定する予定。

EUのユーロ圏17カ国は2月21日の財務相会合で、ギリシャへの総額1300億ユーロの第2次支援を決めた。

2012/2/23 ギリシャ第二次支援決定 

2)IMF

2011年11月のG20首脳会合で、IMFが十分な資金を持つ必要で一致した。
IMFは欧州への支援を念頭に最大5000億ドルの財源調達を目指している。
   このうちEUが2600億ドル規模を拠出する方針。

G20では、国際的な支援増強の前に「欧州の自助努力が必要」との条件が出され ており、EUの対応待ちとなる。


2012年3月8日 伊藤忠、米国の第2世代バイオエタノール事業に出資 

伊藤忠商事は3月5日、米国の第2世代バイオエタノール事業のベンチャー企業 ZeaChem Inc. の株式を取得したと発表した。
出資比率は数%とみられる。

伊藤忠商事とZeaChemは第2世代のバイオエタノール事業分野(将来的にはバイオマスから生産するグリーンケミカル事業分野)に、地域ごとのパートナーを得ながら世界各地への展開を検討 する。

ZeaChemは米国で独自に事業展開するが、伊藤忠は中国や東南アジア、南米やオーストラリアなどで需要を開拓する。まずアジアに生産拠点を設ける計画で、現地の化学メーカーなどとの合弁を想定し、年産40万キロリットル程度の製造工場を2014年をメドに稼働させる方針。
10年後に約1千億円の売上高を目指す。

既存のエタノールの製造はトウモロコシやサトウキビなどを主な原料としているが、これらは食料と競合 する。

このため、大量調達が可能で非食用のバイオマスを原料としたバイオエタノール生産に世界中が着目しており、第2世代バイオエタノール (or セルロース系エタノール)と呼ばれている。

これらは従来のエタノール生産と比べると、エタノール変換効率が極めて低く、安価に生産できないことが課題で あった。
ZeaChemは、炭酸ガスの発生をなくしたことや、バイオマスの残渣もうまく活用したことで、エタノールへの変換効率を大幅に上げることに成功した。

ZeaChemのプロセスは使用するバイオマスの種類を選ばないため、収穫の季節に大量に出る農業残渣も利用でき世界中への展開が可能 。

更に、ZeaChemのプロセスを利用するとプロピレンなどの化学品も作ることが可能となる。

ーーー

ZeaChemのシステムはシロアリの腸内細菌(Termite-Gut Bugs)から取れる酵素を利用する。

プロセスは以下の通りで、CO2の副生がないこと、残渣から水素を取ってエタノール生産に使うとともに、シンガスを蒸気と電力用に使用するという非常に効率的なものとなっている。

同社はオレゴン州Boardmanに年産25万ガロンのバイオリファイナリーを持っている。
 (建設費のうち25百万ドルは、2009年の
アメリカ復興・再投資法によるエネルギー省からの補助金

同社のプロセスでは下記の通り、C2〜C6までの製品の生産が可能となる。

C2系 C3系 C4系 C6系
酢酸
 ↓
氷酢酸
 ↓
酢酸エチル
 ↓
エタノール
 ↓
エチレン
 ↓
エチレングリコール
 
乳酸
 ↓
プロピレングリコール
アクリル酸、エステル
ブタノール ヘキサノール
ヘキセン
プロピオン酸
 ↓
プロパン
 ↓
プロピレン
 ↓
メタクリル酸、エステル

他の技術は単一製品しか生産できないが、同社の製法は製品を切り替えることが出来、状況の変化に応じて最も採算の良い製品を生産することが出来る。

同社はまず、C2系の生産に成功、次いで同じ設備、同じプロセスでC3系の生産に成功した。


2012/3/9  韓国、アブダビの油田開発権取得 

韓国知識経済部は3月5日、UAEのアブダビで韓国コンソーシアム(韓国石油公社/GS Energy)とアブダビ石油公社(ADNOC)が、3カ所の未開発鉱区油田開発に関する本契約を締結したと発表した。
韓国の中東での初の油田開発となる。

2011年3月に韓国石油公社とアブダビ石油公社間の石油ガス分野開発協力のMOUと、油田3鉱区の主要条件契約書を締結している。署名式にはUAEを公式訪問した李明博大統領がアブダビ皇太子とともに参加した。
今回、本契約を締結した。

ムハンマド皇太子は、この契約はUAEと韓国の戦略的パートナーシップに基づくもので、今後さらに協力関係を進めたいと述べた。

アブダビ首長国のアブダビ国営原子力エネルギー会社は2009年12月に、アラブ諸国初となる原子力発電所の建設を韓国電力公社を中心とする韓国企業連合に発注することを決め、合意文書に調印した。

2010/1/5 アラブ諸国で初のアブダビ原発、韓国電力連合が受注 

アブダビ首長国のムハンマド皇太子は本年1月、中東歴訪中の金滉植首相がイランの核問題などで不透明になっている原油市場について言及し、UAEに協力を要請したのに対し、「必要があれば韓国に原油を優先的に供給する」と述べた。

韓国コンソーシアムは全体の40%を出資し、陸上鉱区2カ所と海上鉱区1カ所を30年間にわたり開発・運営する。
契約対象鉱区は開発開始直前の油田で、賦存量は5億7000万バレルと評価されている。
 

知識経済部は「3月から事業に着手し、早ければ2014年から一部で生産を開始できると見込んでいる」とし「生産期間中は3カ所の油田で一日最大4万3000バレルの生産が可能」と予想している。

非常時には、生産した原油の100%を韓国に輸入できるとする条項も契約に盛り込まれた。

投資額は50億ドルで、韓国コンソーシアムは20億ドルを負担する。


なお、韓国コンソーシアムの権益40%のうち、GS Energyは6%を持つ。

ーーー

李明博大統領は本年2月にアブダビを訪問し、原発建設および油田開発事業の進捗状況を点検している。

また、これに先立ちカタールでシェイク・ハマド国王と首脳会談を行い、韓国・カタール高官級戦略会議の設置に合意した。

これは、原油購買、都市インフラの建設などや、長期的な未来ビジョンを話し合うもので、「両首脳が3ヵ月、6ヵ月ごとに進め具合の報告を受け、直接点検する」。
李大統領は「必要なら、夜遅くでも国王に電話をかける」という意志を示し、ハマド国王も「そうしてもらいたい。砂漠の国を未来の産業先進国に作っていく過程を韓国と共にする」と答えた。

ーーー

アブダビではExxonMobil、BP、Total と、日本の各社が開発を行っている。

2008/1/8 アブダビの石油権益は延長か

このうち、アブダビ石油(コスモ石油63%、JX日鉱日石開発31.5%)は2012年に45年間の期限を迎えるが、2011年2月に30年更新の新利権協定を締結した。

既存のムバラスなど3油田の24千バレルに加え、同程度の生産量が見込めるヘイル油田の権益も取得する。
ヘイル油田は2017〜18年の生産開始を目指す。

2009/1/23 アブダビ石油の油田権益 20年延長へ


2012/3/10   ギリシャ、債務削減に成功 

ギリシャ政府は3月8日夜、同国政府が提案した債務削減に対する民間投資家からの回答を締め切った。

ギリシャ政府は9日、債務交換に総額1,720億ユーロの応募があったと発表した。
国内法に準拠した国債(1,770億ユーロ)のうち、85.9%の1,520億ユーロが応募した。
これに加え、外国法の下のギリシャ債(290億ユーロ)のうち、200億ユーロを保有する投資家も交換に応じた。

これは全体の債務の85.8%となる。目標の90%には届かなかった。

ギリシャ政府は国際機関に対し、ギリシャ法準拠国債について、集団行動条項(CAC:collective-action clauses)を発動する意向を伝えたことを明らかにした。

集団行動条項を適用すれば、国内法準拠の全て1,770億ユーロと外国法下のギリシャ債の応募分200億ユーロを加え、全体の参加率は95.7%に達する。

この結果、EUとIMFがまとめたギリシャ向け第2次支援策(1300億ユーロ)の実行に道が開かれ、市場が恐れていた「無秩序なデフォルト」に陥る事態はひとまず回避された。

IMFのラガルド専務理事は9日、EUとIMFによる1,300億ユーロの追加支援のうちIMFの負担分の280億ユーロのギリシャへの融資を来週の理事会に融資を提案すると発表した。

付記
ユーロ圏
財務相会合は3月12日、ギリシャに対する第2次支援策を最終的に承認した。

外国法準拠国債については、債務交換の受付期限を3月23日まで延長した。

ギリシャが集団行動条項を発動できるのは国内法に準拠する国債(合計1,770億ユーロのうち不賛同の250億ユーロ)のみで、英国など外国の法律に準拠する 国債(合計290億ユーロのうち不賛同の90億ユーロ)に対しては適用できない。

ギリシャ政府は外国法に基づくギリシャ債で参加を拒む投資家には、一切カネを払わない戦略を取り、参加しなければ、債券の元利払いを止めると脅している。
外国法に基づくギリシャ債の多くはヘッジファンドが保有しており、一部のファンドは法的措置を検討している。

金融派生商品(デリバティブ)の取引慣行などを決める国際スワップデリバティブズ協会(ISDA)は3月9日、ギリシャ政府の集団行動条項適用が「クレジット・イベント(清算事由)」に該当すると発表した。

この結果、実質デフォルトとみなされ、デフォルトのリスクに備えた保険商品である「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」の支払いが発動される 。

リシャ国債については、米格付け会社S&Pが2月27日に一部の債務が履行されない「SD(選択的債務不履行)」と認定、Moodysも3月2日にデフォルトに相当する「シングルC」に格下げしていた。
しかし、ISDAではこれまで、ギリシャの債務再編が投資家自身の判断を前提とした「自発的」なものとして、デフォルト認定を見合わせていた。
集団行動条項適用により、デフォルトと認定した。

CDSの残高は2月末現在で3,250百万ドルで、CDSの売り手の金融機関は引当金を積んでいるため、直接の影響は少ない 。
焦げ付く債務が元本で5割程度なので、保険金の支払いも一部にとどまる見通し。

しかし、今回のCDS発動で 「他国がいずれ強制発動に踏み切る」との思惑からポルトガルなど周辺国に危機が飛び火するとの懸念がある。

ーーー

経緯は以下の通り。

EUのユーロ圏17カ国は2月21日の財務相会合で、ギリシャへの総額1,300億ユーロの第2次支援を決めた。

2012/2/23 ギリシャ第二次支援決定

重要なポイントは民間債権者が保有するギリシャ国債の元本を53.5%削減することである。既発行のギリシャ国債2,060億ユーロ のうち1,102億ユーロをカットし、残り958億ユーロを最長30年の新発国債などと交換するが、金利減を含めると実質74%もの債務削減となる。

銀行等保有の国債
 2060億ユーロ
1102億ユーロ(53.5%) 削減
 958億ユーロ(46.5%) 31.5%  最長30年の複数の新規国債 利率2.0〜4.3%
15.0% 短期の欧州金融安定化基金債

民間側の代表である国際金融協会(IIF)とは合意したが、債権者とは個別に文書にサインする必要があった。

EUとIMFは、民間債権者との債務交換成立を1,300億ユーロの第2次支援最終承認の条件としており、賛成が少なければ債務削減を実施できず、支援策そのものが白紙に戻る。
3月20日に145億ユーロの返済期限を
迎えるため、それまでに新たな支援策がまとまらなければ、無秩序なデフォルトに陥る。

このため、ギリシャ政府は、対象投資家の3分の2以上の賛同で全ての国債交換を進められるようにする集団行動条項(CAC:collective-action clauses)を盛り込んだ法案を成立させた。逆に3分の2以上の賛成がなければ、集団行動条項も発動できないこととなる。


なお、ギリシャが日本で発行した円建て外国債券(サムライ債)は、元本削減の対象外となった。国内のサムライ債保有者は、これまで通り、元本と利息の支払いを受けられる。

ーーー

過去のデフォルトで大きいのは1998年のロシアが727億ドル、2001年のアルゼンチンが823億ドルで、今回のギリシャの1,102億ユーロはこれらを超え、過去最大となる。

ロシアの場合は石油と天然ガスの価格アップで、アルゼンチンの場合は穀物の価格アップで回復したが、ギリシャの場合は今後も困難が続くと思われる。


2012/3/12  Dow、ワールドスケールのプロピレン建設を決定 

Dowは3月7日、同社がテキサスに建設するワールドスケールのプロピレンプラントについて、取締役会が詳細設計と工期のかかる機器発注のための資金支出を承認したと発表した。

これは、米国のシェールガスからの低コストの原料を利用してエチレンとプロピレンの能力を増強するという同社の戦略の一環である。

Dowは2011年4月に、エチレンとプロピレンの能力増強を発表した。

米国北東部のMarcellusや南テキサスのEagle Ford などのシェールガスから価格面で競争力のあるエタンとプロパンを確保する目処がついたとしており、これらのシェールガスから長期契約でエタンとプロパンの供給を受けることにより、同社のPerformance Plastics、Performance Products、Advanced Materials などの事業の競争力を強化する。

エチレン能力の増加を230万トン、プロピレン能力の増加を90万トンとした。

エチレン
 ・停止していたルイジアナ州St. Charles のエチレンクラッカーを2012年末までに再開
 ・ルイジアナ州Plaquemineのエチレンクラッカーのエタン原料のフレキシビリティの改善(2014年)
 ・テキサス州のエチレンクラッカーのエタン原料のフレキシビリティの改善(2016年)
 ・メキシコ湾岸に新しいワールドスケールのエチレン設備の建設(2017年)

プロピレン
 ・テキサス州に新しいワールドスケールのプロピレン製造設備の建設(2015年スタート)
 ・自社の新技術を使って、プロパンからプロピレンを製造する計画の検討(2018年製造開始)

 2011/4/26 ダウ、エチレンとプロピレンの拡張計画を発表 

今回の決定はテキサス州Freeportにプロパン脱水素により新しいプロピレンプラントを建設するもので、2015年の生産開始の予定。

付記
Dowは4月19日、エチレンプラントを
Dow Texas Operations in Freeport, TXに建設すると発表した。
2017年のスタートを予定。

2011年12月に UOP LLCとの間で技術供与契約を締結した。
UOP C3 Oleflexプロセスを導入して、プロパンからプロピレンを生産するもので、UOPとは触媒購入契約と性能保証契約も締結した。

なお、2017年稼働を目指す新しいワールドスケールのエチレンプラントについては、2011年10月にFSを開始しており、4月に立地を発表する。Liveris CEOが3月8日に明らかにした。

ーーー

DowのAndrew Liveris CEOは3月8日、エネルギー関連の調査機関が主催する年次会合CERAweek でスピーチし、シェールガスからのLNGの輸出を制限するよう求めた。

概要は以下の通り。

Dowはこれまで安いエネルギーを求めてサウジなど海外で石化事業を拡大してきた。
しかし、米国
の豊富で安いシェールガスの出現で、Dowは再び米国での投資を始めた。
10年ぶりに新しいエタンクラッカーを建設するとともに、米国の施設をリフレッシュする。

安い原料による圧倒的な競争力の維持は、米国経済にとって絶好の機会となる。
しかし、アメリカのこの安く豊富なガスの産業での有利性は、首尾一貫した国のエネルギー政策をつくらなければ消えてしまう。これを失ってはならない。

天然ガスを輸出する代わりに、液体形態ではなく、これを加工した固体形態で輸出するべきだ。
天然ガスからプラスチック、肥料、その他化学製品に加工して輸出すれば、LNGで輸出するよりも8倍もの価値を生む。

参考 2012/2/24 米国からのLNG輸入問題 


2012/3/13 米資源会社のMolycorp、カナダのレアアース加工大手を買収

カリフォルニア州のマウンテン・パス鉱山でレアアースの採掘・生産を行っているMolycorp, Inc. は3月8日、カナダのレアアース加工大手のNeo Material Technologies Inc.を買収すると発表した。買収金額は13億カナダドル。

Neo Material はレアアース鉱石を高純度に加工する技術を持つ。
買収によりMolycorpは世界最高のレアアース資源と世界最高のレアアース加工技術を統合、川上から川下までを垂直統合したレアアース会社となる。

ーーー

Mountain Pass鉱山は1949年に発見され、Molybdenum Corporation of Americaが1952年に小規模の生産を開始した。
1962年にカラーTVに使うユウロピウムの需要拡大に対応し、生産を拡大した。
1965年から1995年まで、大規模生産を続け、世界のレアアースの需要の大部分を賄った。

1977年にUnocal が同社を買収、2005年にChevron子会社となった。

1998年に排水問題で分離工程を停止、2002年に環境規制と中国品の低価格攻勢により採鉱を停止した。
2008年にこの鉱山の再開のためMolycorp Minerals LLCが設立され、Chevronから鉱山を買収した。2011年から生産を再開した。

2010/10/5 レアアース、米・豪・カザフなど生産拡大

Molycorpは同鉱山の拡張・近代化計画(Project Phoenix)をたてた。

2012年末の第一期完成時にはMountain Pass設備は世界初の統合レアアースサプライチェーンとなる。
新精製設備で年20,000トンのレアアース酸化物を生産、これに加え、レアアースメタルや
サマリウム・コバルト合金ネオジム・鉄・ホウ素(NdFeB) 合金と永久磁石などを供給、'Mine-to-Magnets' 計画を達成するというもの。

このための資金781百万ドルの一部として、住友商事が出資する予定であったが、これは製品の引取価格で折り合わず、中止となった。
同社は増資と転換社債の発行で資金を賄った。

同社は又、日立金属との間でネオジム・鉄・ホウ素(NdFeB)合金や永久磁石を製造するJVの設立交渉をしていたが、これも取り止めとなった。

Molycorpは別途、2011年4月にエストニアのレアアース加工会社 Silmet の経営権を約89百万ドルで取得するとともに、日本の希土類合金大手、三徳の米国アリゾナ州の子会社Santoku America, Incを現金1750万ドルで買収した。

Silmet はレアアースを年最大で3000トン、レアメタルを同700トン加工している。
Santoku Americaは、高純度レアアース金属・合金を生産しており、買収によりMol.ycorpは原料鉱石から希土類合金まで一貫生産できる体制を整えた。

2011/9/22  住友商事の米国レアアース企業への出資取り止め、日立金属のJVも中止

ーーー

今回買収するNeo Material Technologies は、Performance Material部門ではレアアース類、ジルコニウム、レアメタル(ガリウム、インジウム、レニウム)を、子会社のMagnequench ではネオジム・鉄・ボロン希土類ボンド磁石用Nd粉末を生産している。

各製品の製造立地は以下の通りで、レアアースについては最大の生産国の中国2か所に子会社を持つ。
また、R&Dセンターを天津、江陰、淄博(Zibo)、シンガポール、英国
Abingdon、カナダPeterboroughの6か所に持っている。

レアアース &
ジルコニウム
江蘇省江陰 市:Jiangyin Jiahua Advanced Material Resources
        江陰市加華新材料資源
山東省淄博 市:Zibo Jiahua Advanced Material Resources
        博加華新材料資源
レアメタル ドイツ Stade 
ドイツ Sagard 
カナダ Napanee 
カナダ Peterborough
米国 Quapaw 
米国 Blanding 
Nd粉末 天津市:Magnequench (Tianjin)
タイ Korat:Magnequench (Korat)

レアアースとジルコニウムは、触媒コンバータ、コンピューター、テレビのディスプレイ・パネル、光学レンズ、携帯電話、電子部品などに使われている。
レアメタル製品は、主にワイヤレス、発光ダイオード (LED)、フラット・パネル、タービン、太陽熱、触媒分野で利用されている。
MagnequenchのNd粉末から製造されたボンド磁石は、マイクロ・モーター、精密モーター、センサー、その他、高いレベルの磁力、汎用性、小型化、軽量化が求められる磁気応用製品に幅広く用いられてい る。

江陰市加華新材料資源では,重希土類から磁石,蛍光体,光学ガラス,電子部品といったハイテク製品の原料を製造。
博加華新材料資源では軽希土類の精鉱から自動車排ガス触媒や磁石を製造,北米で販売。
(加華の加はカナダ、華は中国)

同社の2010年の売上高は338百万米ドルで、うち51%が中国、17%が日本となっている。

また、中国子会社2社からのレアアースの輸出量は、全体の輸出枠の1割前後を占めている。

単位:トン
  輸出枠 子会社
2011 30,184 2,596
2010 30,259 2,733
2009 50,145 6,290
2008 47,448 5,181
2007 59,643 6,479

なお、Neo Materialは中国以外にレアアースを確保する努力をしている。

2009年7月、三菱商事との間で、中国以外でのレアアース事業での戦略的パートナーシップをつくる覚書を締結した。
まず、三菱商事が最大250万ドルの調査費を負担し、ブラジルでMineracao Taboca社のPitingaスズ鉱山の残渣
に含まれるゼノタイムからディスプロシウムなどの重希土類を回収するプロジェクトを開始した。


MolycorpはNeo Material 買収の意義を以下の通り述べている。

MolycorpのProject Phoenixによる世界クラスのレアアース資源と低価格での生産体制に加え、世界市場をリードしている最高品質のレアアース製品を製造する能力を得る。
   
世界最大(世界の70%前後のレアアースを消費)かつ急成長を続けるレアアース消費国、中国への参入を果たす。
   
Neo Material の既存インフラ活用で、Project Phoenixの第二期工事(生産能力 10,000トン増)をより早く着手することが可能に。
   
Magnequenchの特許の磁性粉商品群を手に入れることによりネオジム・鉄・ボロン希土類ボンド磁石を製造することが可能に。
   
ガリウム、レニウム、インジウムなどの新規のレアメタルの製造販売が可能に

 

MolycorpはNeo Material買収により、米国と中国に拠点を持ち、加工技術を確保、磁石製造により'Mine-to-Magnets' を実現し、レアメタル事業にも参入することになり、Project Phoenix 第一期、第二期と合わせ、巨大レアアース企業となる。


2012/3/14 韓国でも原発トラブル

韓国の原子力安全委員会は3月13日、プサン市にある古里(コリ)原発1号機ですべての外部電源が12分間、喪失する事故が起きたことを明らかにした。
1号機の電源関連機器のテストを行っていたところ、外部電源の供給が止まり、非常用のディーゼル発電機も作動しなかった。
定期点検に合わせ運転停止中だったが、炉心の温度は高く、使用済み核燃料の貯蔵プールとともに冷却が必要な状態だった。

しかも事故は2月9日に発生したが、事業者の韓国水力原子力はこれを1カ月以上報告していなかった。
韓国メディアは「(事故の)隠蔽を図ろうとした」と報じた。
韓国の原子力安全法は、原発施設の故障などの事実は遅滞なく同委に報告するよう定めており、同法違反の可能性もある。

安全委員会は事態を重視して3月4日から定期検査が終わり再稼働していた同機の停止を緊急指示するとともに、原因究明のため、調査団を急きょ派遣した。

付記

韓国の原子力安全委員会は7月4日、停止中の古里1号機の再稼働を承認した。

周辺自治体から廃炉要求が相次いだため、運営会社の韓国水力原子力が、IAEAに同機の安全点検を依頼、IAEAは「設備の状態は良好」との結果を明らかにしていた。

古里原発1号機は韓国最初の商業用原発として1978年に運転を開始した。加圧水型軽水炉(PWR)で、出力は587千kw。
1号機から4号機までが稼働中で、このほかに新古里1基が稼働、3基が建設中。いずれもPWR。

1号機は2007年に30年の設計寿命を終え、翌年から10年の運転延長に入っていた。

周辺住民などから安全性を懸念する声が強まっている。
釜山では、福島第一原発事故の発生から1年に合わせ、古里1号機の危険性を訴え、廃炉を求める集会やデモも開かれた。

ーーー

2011年6月21日、古里2号機(出力605千kw、1983年発電開始)の稼働が中断した

古里原発と新蔚山発電所の間の送電線3線のうち1線に農作業用ビニルがくっついて0.05秒ほど電気の供給が中断し、2号機の保護継電器が作動して2号機の稼働が中断した。

継電器は5−10秒程度の電気供給中断や20%以上の過負荷がかかれば作動するよう設計されているが、今回の場合、許容範囲内であるにもかかわらず作動した。
この原因は継電器の設計ミスのためであることが分かった。

ーーー

2011年12月14日には古里原発3号機(出力895千kw、1985年発電開始)が突然停止した。タービン発電機に過電圧がかかり、発電機を保護するための保護リレーが作動した。

この前日には、蔚珍1号機(出力950千kw)も稼動を停止した。蒸気を冷却して水に変換させる復水器の異常によるもの。

ーーー

韓国水力原子力関係者は2011年11月、古里第2発電所にタービンバルブ作動機を納品する業者と原子力発電所職員が互いに組んで中古部品を納品し、この内の一部が使われたことを明らかにした。

付記

古里原発の幹部職員が、原発の中古部品を無断で持ち出して業者に組み立て直させ、新品機器として同原発に納入させたとして、3月20日、詐欺罪で懲役3年の実刑判決を受けた。

同原発を運営する公営企業「韓国水力原子力」でタービン部品の購入を担当する課長が2008〜10年、受注業者と共謀し、保管中の中古部品を無断で持ち出した。そのうえで、さびを塗装するなどして組み立て直させ、新品として同原発に納入させて、総額約32億ウォンをだまし取ったとされる。裁判長は「国民の安全に直結する原発の安全性に深刻な疑いを持たせる重大犯罪だ」と指摘し、実刑が相当とした。

付記

古里原発1号機で全電源喪失事故が起き、1カ月以上も国や本社に報告されなかった問題で、所長ら現場幹部が発生直後に組織的隠蔽を決めていたと複数の韓国メディアが報じた。

「福島事故から1年が近づく時期で、老朽化した1号機の事故事実が伝われば、波紋が大きく、負担になると考えた」という。

たまたま噂を聞いた市会議員が会社に問い合わせ、発覚した。

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停電事故当時、作動しなかった非常ディーゼル発電機が現在も作動不能状態であることが3月16日に確認された。
性能試験を行った結果、非常ディーゼル発電機を動かすために空気を供給するバルブのソレノイドバルブの故障で作動しなかった。

調査チームは古里原発の稼動を中断させたあと、報告隠ぺいの経緯と非常ディーゼル発電機を含む電力供給系統の問題点などを調査しており、今後、残り一台の非常ディーゼル発電機に対する性能確認などを行う。
 

参考 2012/5現在

    運転開始 原子炉形式 容量(kW)  
蔚珍 蔚珍1号機 1988年9月10日 加圧軽水炉 (PWR) 95万  
   2号機 1989年9月30日 加圧軽水炉 (PWR)  95万  
   3号機 1998年8月11日 加圧軽水炉 (PWR)  100万  
   4号機 1999年12月31日 加圧軽水炉 (PWR)  100万  
   5号機 2004年7月29日 加圧軽水炉 (PWR) 100万  
   6号機 2005年4月22日 加圧軽水炉 (PWR) 100万  
新蔚珍1号機   KSNP (APR-1400) 140万 2012/5 着工
      2号機   KSNP (APR-1400) 140万 2012/5 着工
  (3号機)   KSNP (APR-1400) 140万 計画
  (4号機)   KSNP (APR-1400) 140万 計画
霊光 霊光1号機 1986年8月25日 加圧軽水炉(PWR) 95万  
  2号機 1987年6月10日 加圧軽水炉(PWR) 95万  
  3号機 1995年3月31日 加圧軽水炉(SYSTEM80)  100万  
  4号機 1996年1月1日 加圧軽水炉(SYSTEM80)  100万  
  5号機 2002年5月21日 KSNP(OPR-1000)  100万  
  6号機 2002年12月24日 KSNP(OPR-1000) 100万  
月城 月城1号機 1983年 4月 22日 CANDU  67.8万  
  2号機 1997年 7月 1日 CANDU 70万  
  3号機 1998年 7月 1日 CANDU 70万  
  4号機 1999年10月 1日 CANDU 70万  
新月城1号機   KSNP(OPR-1000) 100万 試運転中
      2号機   KSNP(OPR-1000) 100万 建設中
古里 古里1号機 1978年4月 加圧水型(PWR) 55.6万  
  2号機 1983年7月 加圧水型(PWR) 60.5万  
  3号機 1985年9月 加圧水型(PWR) 89.5万  
  4号機 1986年4月 加圧水型(PWR) 89.5万  
新古里1号機 2011年2月 加圧水型(PWR) 96万  
     (2号機)   加圧水型(PWR) 96万 計画
           (3号機)   加圧水型(PWR) 134万 計画
           (4号機)   加圧水型(PWR) 134万 計画

KSNP:韓国標準型原子炉(韓国電力公社設計、加圧水型原子炉)。
 

 


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