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2012/5/15   ギリシャ、再び混迷

ギリシャ議会の総選挙は5月6日に投票が実施された。

最大与党の全ギリシャ社会主義運動(PASOK)のベニゼロス党首(前財務相)は総選挙の前の最後の演説で、選挙の結果次第ではギリシャがユーロ圏離脱を余儀なくされる恐れがあると訴え、有権者の支持を仰いだ。
「ギリシャ国民は6日、運命の岐路に立つ。ギリシャが欧州、かつユーロ圏にとどまるのか、もしくは国家を破たんさせ、国民を深刻な貧困に陥れるかは、6日に決定される」と述べた。

しかし、EU/IMFの支援を受けるために数々の緊縮策を打ち出してきた連立与党の新民主主義党(ND)と全ギリシャ社会主義運動(PASOK)の2党が300議席中149議席で、過半数を獲得できなかった。

逆に、緊縮策のゼロからの見直しを求める急進左派連合(SYRIZA)が反緊縮世論の支持を追い風に第二党に躍り出た。

SYRIZAは共産党から分裂した左派小集団が2004年に選挙対策で寄り集まったもの。チプラス党首は行政・外交・経済の実務経験は皆無。「債務を検査し直し、EUと合意を結び直す」とするが、具体的な修正点は不明。
「無責任で大衆迎合的」と批判されている。

選挙結果は以下の通り。
ギリシャの総選挙では第一党には50議席のボーナス議席が与えられる。

  選挙前 今回 増減   
全ギリシャ社会主義運動(PASOK) 160
(50+110)
41  -119
(-69)
緊縮推進

EUとの合意支持

新民主主義党(ND) 82 108
(50+58)
28
(-30)
(連立与党) (242) (149) (93)
急進左翼連合(SYRIZA) 13 52 39 反緊縮

EUとの合意反対

 

独立ギリシャ人 0 33 33
ギリシャ共産党 21 26 5
黄金の夜明け 0 21 21
民主的左翼 0 19 19
正教民衆集会 15 0 -15
合計 291 300 9  

独立ギリシャ人:新民主主義党(ND)の議員が『反緊縮財政策』を掲げて2012年2月に立ち上げた。

ーーー

2011年秋、ギリシャではユーロ圏各国がまとめた支援策の前提条件の改革案に反発、ストが相次いだ。

この時の全ギリシャ社会主義運動内閣のパパンドレウ首相(PASOK)は当初、国民投票を行う意向を表明した。
最終的にはEUとの協議の後、11月3日に緊急閣議を開き、国民投票を撤回する意向を明らかにした。

しかし、ギリシャの政治的、社会的、経済的混乱は続き、パパンドレウ首相は新たな連立内閣が1300億ユーロの支援策を議会通過させ、財政破綻を避けるよう呼び掛け、自身は首相を辞任する可能性を示唆した。

これを受け、議会は11月5日、内閣に対する信任案を賛成多数で可決した。首相の退陣示唆を受け、与党内で内閣信任に反対していた議員らも賛成に回った。

2009年に全ギリシャ社会主義運動が政権党の新民主主義党を破り、パパンドレウが首相となった。
パパンドレウ首相が前政権の粉飾を明らかにしたのが、ギリシャ危機のきっかけとなった。

11月6日に首相辞任と引き換えに、中道右派の最大野党・新民主主義党(ND)が連立政権発足に協力することで与野党が基本合意、11月9日に大連立内閣が誕生し、欧州中央銀行のパパデモス前副総裁が新首相に指名された。

EUは第二次支援を1300億ユーロとするとともに、民間銀行のギリシャ国債元本削減幅を従来の50%から更に拡大することとし、ギリシャにそのため 、「財政緊縮関連法案の議会承認」、「財政緊縮策実行の誓約書」、「歳出削減策の具体化」の3条件を科した。    
第二の条件の「緊縮策実行の誓約書」は連立内閣の与党の全ギリシャ社会主義運動のパパンドレウ党首と、新民主主義党のサマラス党首がサインした。

2012/2/23 ギリシャ第二次支援決定 

連立内閣は当初、2012年2月に総選挙を予定していたが、国債の交換完了を優先させるため、5月に延ばした。

−−−

選挙結果を受け、パプリアス大統領は5月6日、第1党になった与党の新民主主義党(ND)に組閣を要請した。(第二党、第三党に順に要請する)

新民主主義党(ND)は極右政党「黄金の夜明け」を除く全党と連立協議を行ったが、5月7日、組閣を断念した。

全ギリシャ社会主義運動(PASOK)は連立入りに前向きな姿勢を示したが、左派政党の政権参加を条件にした。

急進左派連合(SYRIZA)や民主左派党は連立入りを拒否し、右派新党の「独立ギリシャ人」や共産党は協議自体を拒否した 。

次いで、第2党へと躍り出た急進左派連合(SYRIZA)のアレクシス・チプラス党首も9日、各党との連立協議を断念すると発表した。

共産党と民主左派党との協議が決裂した。

第3党の全ギリシャ社会主義運動(PASOK)のベニゼロス党首も11日、連立交渉が失敗したことを明らかにした。

ベニゼロス氏は
@EUとユー口圏に残留する
AEU・IMFと合意した財政緊縮策を段階的に解消することを目標に、2014年までの財政再建を目指す
とした「挙国一致政権」構想を急進左派連合(SYRIZA)に持ちかけ、参加を求めた。

だが、SYRIZAのチブラス氏は「民意に反して緊縮策を継続するための政権であり、参加できない」と拒否した。
「緊縮策の廃止という自分たちの選挙公約は変わらない。新民主主義党や全ギリシャ社会主義運動のように緊縮策を推進しておきながら選挙で負けたら『修正に応じる』と態度を変えるようなことはできない」と述べている。

これを受け、パプリアス大統領は13日夜、連立政権発足の成否の鍵を握る穏健派政党、民主的左派のクベリス党首と会談したが、調停は不調に終わった。

パプリアス大統領は14日に議会第1〜3党の党首とクベリス氏を大統領官邸に招いて、連立政権発足に向けた最後の調停を試みる。
調停が成立しない場合、6月10日か17日に再選挙が実施される。

最新の世論調査では、緊縮策のゼロからの見直しを求めるSYRIZAが第1党に躍進する一方、旧2大政党は現議会勢力をさらに減らすとの予想が出ている。

ギリシャは6月末に追加歳出削減策の策定期限を迎えるが、SYRIZAは緊縮策反対の左派連立政権樹立を目指しており、政権を取れば、緊縮策の廃止、銀行の国有化、賃金・年金カットの取り消しなどの政策を実施する方針 。

付記

その後、大統領による調整は失敗、再選挙を6月17日に行うこととなり、ピクラメノス憲法裁判所長官が16日に選挙管理内閣の首相に就任した。

 

EUのファンロンパイ大統領と欧州委員会のバローゾ委員長はギリシャの各政党の党首に対し、ギリシャがユーロ圏にとどまりたい場合、EUなどから受けた支援の条件を遵守する必要があると電話で伝え た。
ドイツのメルケル首相、およびショイブレ財務相、欧州中央銀行のアスムセン専務理事らも同様のメッセージを公の場で発している。

EUは「財政緊縮関連法案の議会承認」、「財政緊縮策実行の誓約書」、「歳出削減策の具体化」の3つを条件として、第二次支援を1,300億ユーロとするとともに、民間銀行のギリシャ国債元本削減幅を従来の50%から更に拡大することとし た。(1,300億ユーロの追加支援のうちIMFの負担分が280億ユーロ)

1,300億ユーロの融資は2012-14年に実施される。
このうち、ギリシャが既に融資を受けたのは、3月の75億ユーロ(ユーロ圏から59億ユーロ、IMFから16億ユーロ)など、少額。

ギリシャが3つの条件を満たさない場合、この融資が受けられない可能性がある。

急進左翼連合(SYRIZA)はユーロ圏残留を主張しているが、緊縮策を廃止して融資を受けられなくなった場合どうするかの方策は持っていない。

ーーー

フランス大統領選では、「欧州には雇用と繁栄こそが必要」と成長重視の財政再建策を提唱するオランド氏が勝利した。
単年度財政赤字をGDPの0.5%以内に抑えることを義務付けた新財政協定について、再交渉を主張している。

これに対し、メルケル独首相は、成長戦略の必要性を認めつつ、「これ以上の財政悪化は容認できない」と言明、新財政協定の再交渉を拒絶した。

ドイツのウェスターウェレ外相は5月11日、ドイツも成長に軸足を置きたいが、歳出拡大を意味するのであれば、そうではないと述べた。ギリシャは、追加支援を受け、ユーロ圏にとどまることを望むのであれば、合意した改革を実施する必要があると指摘した。
また、ユーロ圏の結束を維持したいが、それはギリシャがユーロ圏にとどまることを望むかどうかに左右されると指摘した。

一旦はギリシャ問題に目処がついたように思われたが、ユーロ圏の政治的混迷懸念が高まった。
ギリシャのユーロ圏離脱の可能性も出てきた。


2012/5/15 夏の電力対策

政府は5月14日、関係閣僚による「エネルギー・環境会議」などの合同会議を開き、原発再稼働がない場合の節電目標の原案をまとめた。

各電力会社の予備率を元に、安全を見て(火力トラブルを懸念)、北海道 7%、関電 20%、四国 5%、九州 12%の節電目標を決めた。

なお、中部、北陸に5%、四国に元の5%に+α の節電を要請し、関電、九州に融通することを検討する。
これにより融通が増えれば、関電を15%、九州を10%に目標を圧縮する。

電力不足の恐れのある関電、九州、北海道、四国の4電力会社で、計画停電の準備に入る。

関電管内では、大口需要家に罰則付きで節電を強制する「電力使用制限令」の発動も検討する。

政府は週内に目標を正式決定する。

付記 政府は5月18日に節電目標を正式に決めた。
   関電の使用制限令は回避。
   北海道、関西、四国、九州では計画停電の準備を要請。

電力会社

予備率          %

2010年
実績比

節電目標 5/18 決定
予備率
%
安全を
見て
(+3%)
実施 検討

使用
制限令
検討

計画
停電
準備
検討
節電
目標
北海道 -1.9 -4.3 -7.3 7% 7%   7%以上
東北 3.8              
東京 4.5              
中部 5.2       5%     5%以上
関西 -14.9 -18.4 -21.4 20% 15% 15%以上
北陸 3.6             5%以上
中国 4.5       5%     5%以上
四国 0.3 -1.7 -4.7 5% 5%+α   7%以上
九州 -2.2 -12.1 -15.1 12% 10%   10%以上
合計 0.1              

関電の場合、20%の節電をすれば、揚水供給力が増加するため、不足を生じない。九電も同じ。

需給検証委員会電力9社の8月の原発稼働ゼロの需給見通し(万キロワット

電力会社 供給力 最大需要 需給
過不足
予備率  %
最大 随時
調整
差引
北海道 485 500 -6 494 -9 -1.9
東北 1,475 1,434 -12 1,422 53 3.8
東京 5,771 5,520   5,520 251 4.5
中部 2,785 2,648   2,648 137 5.2
関西 2,542 3,015 -28 2,987 -445 -14.9
北陸 578 558   558 20 3.6
中国 1,235 1,182   1,182 53 4.5
四国 587 585   585 2 0.3
九州 1,574 1,634 -24 1,610 -36 -2.2
合計 17,032 17,076 -70 17,006 25 0.1
 
最大需要は2010年夏並みの猛暑を想定。

 2012/5/12 電力の需給検証委員会 


2012/5/16 東京電力決算 

東京電力は5月14日、2012年3月期決算を発表した。
原子力発電の減少、燃料価格の上昇により燃料費が2兆2869億円と前期比5割強増えた。

                     単位:百万円、配当 円

  売上高 営業損益 経常損益 特別損益 法人税等 当期損益 配当
中間 期末
2010/3  5,016,257 284,443 204,340 0   -86,741   133,775 30 30
2011/3 5,368,536 399,624 317,696  -1,077,685 -478,445 -1,247,348 30 0
2012/3 5,349,445 -272,513 -400,405 2,516,891
-2,867,864
-22,839 -781,641 0 0
増減 -19,091 -672,137 -718,101     465,707    
2012/3 6,025,000 -235,000 -355,000     -100,000 0 0
     2011/3の法人税等には、繰延税金資産取り崩しを含む。(2010年12月末時点で約4800億円)
 
株主資本                             単位:百万円
  2011/3月末 2012/3月末
資本金 900,975 900,975
資本剰余金 243,653 243,653
利益剰余金  前期末残高  1,831,487 494,054
 配当支出 -81,002 0
 当期純損益 -1,247,348 -781,641
 その他 5 90
 当期末残高 494,054 -287,497
純資産合計 1,602,478 812,476
   
   
特別損益内訳                                                                                                                   単位:百万円  
  2011/3 2012/3
原子力損害賠償支援機構資金交付金   2,426,271
固定資産・有価証券・関係会社株式 売却益   90,619
特別利益合計   2,516,891
     
原子炉等の冷却、放射性物質飛散防止等の安全性確保等 426,298  
福島第一原発14号機廃止   原発 減損損失 101,692  
原発 解体費用 45,842  
核燃料損失 44,855  
核燃料処理費用 14,627  
合計 207,017  
福島第一原発56号機、福島第二原発の冷温停止状態維持費用 211,825  
福島第一原発 78号機 増設中止損失 39,360  
火力発電所復旧等の費用 49,724  
事故の収束及び廃止措置等に向けた費用・損失    287,111
その他 86,270 10,691
(災害特別損失合計) (1,020,496) (297,802)
原子力損害賠償金 賠償見積額     2,644,930
原子力損害賠償補償契約 補償金   -120,000
(差引 合計)   (2,524,930)
資産除去債務会計基準の適用 57,189  
その他   45,131
特別損失合計 1,077,685 2,867,864

賠償見積額と支援機構資金交付金(億円)

    損害賠償
見積額
賠償補償 差引損失 支援機構
資金交付金
2012/2/13
特別事業計画の変更
第3四半期 17,003 1,200 15,803 15,803
2012/3/29
賠償見積額見直し
  25,463 1,200 24,263 24,263
本決算 26,449 1,200 25,249 24,263

本決算では損害賠償見積額は増加しているが、交付金の申請額は変更していない。

賠償補償:
通常の原子力損害の場合の賠償に対しては、民間の損害保険会社による保険である責任保険により、賠償措置額(発電用原子炉の場合は通常1200億円)まで保険金が支払われる。
地震、噴火、津波の自然災害による原子力損害等の場合は政府補償により、賠償措置額まで補償金が支払われる

上記の支援機構資金は承認済の交付枠で、現在のところ、以下の額が交付されている。

 2011年11月  5,587億円  
 2012年3月 1,049億円
 2012年4月 2,186億円  
 合計  8,822億円

付記 5月22日に466億円を交付。→9288億円

付記 6/29  809億円 累計 10,097億円
   7/26  1,071                        11,168
             8/21  1,551                        12,719
             9/24     547                        13,266
            10/24    497                        13,763
            11/27    932                        14,695

参考 2011/5/16 福島原発損害賠償の政府支援の枠組み 

 


2012/5/17 Shell、三菱商事等の「LNG Canada」計画 

三菱商事は5月16日、シェルカナダ、韓国ガス公社(Kogas)、中国石油天然気(PetroChina)とのLNG輸出計画 、「LNG Canada」構想を発表した。

4社でカナダのブリティッシュ・コロンビア州 Kitimat港周辺においてLNG輸出基地を共同開発する。
(当初の案では立地は Prince Rupert とされていた。)

権益比率   シェル   40%→50%
三菱商事 20%→15%
Kogas  20%→15%
PetroChina 20%
液化設備   600万トン/年x2=1,200万トン
将来的な数量拡張の可能性
生産開始   2010年代末

4社は、今後共同でプロジェクトの検討を進めると共に、先住民及び地域住民との協議を開始する。

付記
カナダのNational Energy Board は2013年2月4日、この計画に輸出ライセンスを与えた。
25年間で670百万トンまでの輸出を承認。

Kitimat LNG(Apache Corp and Chevron Corp)とBC LNG Export Cooperative に次ぐもの。

PNG   Pacific Northern Gas
PTP    Pacific Trail Pipelines

付記

TransCanadaは6月5日、ShellとパートナーからCoastal GasLink projectの設計、建設、所有、運営担当として選ばれたと発表した。

40億ドルと予想されるパイプラインは、Dawson Creekの近辺のガス生産地域とKitimat近辺に建設するLNG輸出基地を結ぶ。

付記

千代田化工建設は2014年5月、千代田カナダならびに英国Foster Wheeler、イタリアSaipem、豪州WorleyParsonsの各カナダ子会社間で設立したJVが、LNG Canada Development より天然ガス液化設備の基本設計(FEED)業務及びプロジェクト遂行(詳細設計、調達、建設)業務を受注したと発表した。

ーーー

日本は現在、LNGの大部分を東南アジア及び中東から輸入しているが、カナダからもLNGを輸入することで、調達先の多様化に繋がり、エネルギー資源の安定供給に貢献 する。

三菱商事はカナダの2つのシェールガス計画に参加している。
同社はカナダで生産した天然ガスを北米市場で販売するが、これを原料にLNGとして輸出する可能性についても検討を進めてきた。

三菱商事は2010年8月、カナダの大手エネルギー会社Penn West Energy Trustが所有するブリティッシュ・コロンビア州のCordova堆積盆地のシェールガスを中心とした天然ガス開発プロジェクトに参画する契約を締結した。
同社は今後50年以上の期間に亘り当該鉱区のシェールガス開発および生産を推進し、持分ガスを
CIMA Energyなどを通じて、北米市場で販売する。

   2010/8/26 三菱商事、カナダのシェールガス開発プロジェクトに参画

三菱商事とカナダの天然ガス最大手のEncana Corporationは2012年2月、British ColumbiaのCutbank Ridgeの未開発の土地でのシェールガス開発で提携したと発表した。

   2012/2/21  三菱商事がカナダのシェールガス開発に参加

三菱商事は、これとは別に、Cameron LNGとの間で、米国産天然ガスの液化を委託する交渉を行っていることを明らかにした。

   2012/4/20 三菱商事と三井物産、米国産LNGを輸入へ

但し、米国からのLNG輸出については米国の国策ともからんでおり、エネルギー多消費型の産業界(発電業界、化学、アルミ、米国ガス協会等)からの反対もあり、簡単ではない。

野田首相は4月30日のオバマ米大統領との首脳会談で、LNGの対日輸出拡大などエネルギー面での協力を求めた。

オバマ大統領は首相の輸出要請に対し、「日本のエネルギー安全保障は米国にとっても重要」と理解を示す一方、「(対日輸出は)政策決定プロセスにある」として、明言は避けた。日本政府内には「少なくとも11月の大統領選までは、オバマ大統領が輸出認可に動く可能性は低い」との見方が強い。

ーーー

カナダの西海岸のKitimat港からのLNG輸出については、本計画のほかに2つの計画が既に政府申請を行っている。

詳細は JOGMEC 「カナダ西海岸からのアジア向けLNG輸出計画」
http://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/4/4362/1104_out_f_canada_lng_export_upstream_kitimat.pdf

事業計画者 規模と計画 Feedガス
@
Apache 40%
EOG Resources 30%
EnCana 30%
 
第1フェーズ 500万トン(2015年−)
 
第2フェーズ 500万トン(2017−2018)
 
主に
Horn River及びMontneyシェールガス他
A Douglas Channel
Energy Partnership

 
第1フェーズ 90万トン 2013年末

第2フェーズ 90万トン

上流事業者からガス購入

     


2012/5/17 東電の豪州LNG計画 

東京電力はChevronとの間で、豪州 Wheatstone LNG プロジェクト からのLNG購入と計画への参画についての基本合意書を締結しているが、これに三菱商事、日本郵船、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、国際協力銀行(JBIC)が参加することが分かった。各紙が報じた。

東電は2009年12月に基本合意書を締結し、単独取得を目指していたが、福島第一原発事故による経営難で余裕がなくなり、交渉が停滞していた。

東電は政府の認定を受けた総合特別事業計画で「燃料の調達力の強化に向け、上流の共同投資プロジェクトへの参画も行う」と明記している。

各社は下記の特別目的会社をつくり、これが計画に参加する。
JBICは優先株で特別目的会社に参加するとともに、民間銀行との協調融資を行う。

特別目的会社   融資
東電 8% 0.7億ドル
JOGMEC 42% 3.5億ドル
三菱商事 40% 3.3億ドル
日本郵船 10% 0.9億ドル
合計 100% 8.4億ドル
JBIC 優先株 2.8億ドル
再計   11.2億ドル
 
JBIC 19.6億ドル
民間銀行 13.1億ドル
合計 32.7億ドル

 

当初、計画全体への11.25%(Chevron鉱区の15%)の参加としていたが、計画全体への8%(Chevron鉱区の10%)に変更する。

ーーー

東京電力は2009年12月5日、豪州 Wheatstone LNG プロジェクトからのLNG購入と計画への参画についての基本合意書を締結したと発表した。

Chevronが中心となって開発中で、同国北西部沖合の海底ガス田で天然ガスを産出、同国内で精製・液化する。
2016年度から18年度に操業を開始、年間最大860万トンを生産する計画。

沖合鉱区とLNG計画にはChevron (Chevron Australia  / Chevron TAPL) が75%、Apache Corporation  / Kuwait Foreign Petroleum Exploration Company (KUFPEC) が25%を出資する。→ その後、Chevron 80%となった。

東電はChevronの持分から15%分を購入する。
この結果、全体の計画には11.25%の参加(持分としては年間約100万トン)となる。

LNG購入に関しては、2016年度〜2018年度以降の引渡開始で、最長20年間にわたり、年間約310万トンを購入する。
自社権益と合わせると、年間410万トンとなる。

今回の案ではChevron 持分の購入は10%で、全体では8%(持分として年間約70万トン)となる。
なお、東電のほかに、Shellと九州電力が参加を決めている。(下記)

付記 2017年10月生産開始した。最終の権益比率は下記の通り。

  ガス田鉱区 LNGプラント
Chevron 80.17% 64.136%
PE Wheatstone
(下図)
10% 8%
KUFPEC
(Kuwait Petroleum)
8% 13.4%
九州電力 1.83% 1.464%
Woodside 13%
合計 100% 100%

 

 

Wheatstone ガス田は2004年8月にChevron が発見した。
その後、同社はガス田開発とAshburton North でのLNG設備建設の準備を開始した。

2009年10月に、Apache Corporation とKuwait Foreign Petroleum Exploration Company (KUFPEC) に権益の25%を譲渡した。
その後、20%に変更となった。

東京電力のほかに、下記の契約が締結されている。

    権益 購入
Shell 2011/4 Chevron枠の8%
全体の6.4%
 
九州電力 2011/9 Chevron枠の1.83%
全体の1.464%
Chevron、Apache、KUFPECから年間70万トン
自社枠を含め、83万トン
中部電力 2012/4
 覚書
  年間100万トン(20年間)
東北電力 2012/5
基本合意
  最大年間100万トン(20年間)

ーーー

2010年代後半までに予定される主なアジア向け新規LNGプロジェクトは以下の通り。

  プロジェクト 能力
万トン/年
操業主体
豪州 Gorgon 1,500 Chevron
Wheatstone 860 Chevron
Queensland Curtis  850 英BG Group
Ichthys 840 INPEX
Australia Pacific 700 ConocoPhillips
Pluto 430 豪 Woodside
Browse 1,200   Woodside
インドネシア Tangguh 380 BP
Abadi 250 INPEX
Donggi-Senoro 200 三菱商事
パプアニューギニア PNG 660 ExxonMobil

三菱商事は三井物産と共同で、豪州のWoodside Petroleumが推進するBrowse LNG Projectに参画する。

2012/5/8  三井物産と三菱商事、豪ブラウズLNGプロジェクトに参画 

 


2012/5/18 2012/3月期決算−総合化学-1(三菱ケミカル、住友化学)

三菱ケミカルホールディングス 

営業損益は震災の影響(-193億円)を含め、959億円の大幅減益となった。

昨年度に営業損益が2,265億円となり、信越化学を追い抜いたが、本年度は信越化学(1,496億円)に抜かれた。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2010/3 25,151 663  590 128 4 4
2011/3 31,668 2,265 2,239 836 5 5
2012/3 32,082 1,306 1,336 355 5 5
前年比 414 -959 -903 -481    
2013/3 34,500 1,600 1,480 500 6 6

2011/3月期には特別損失に災害損失 -225億円を計上している。
(12/3月期には -23億円

機能商品分野、素材分野(ケミカルズ、ポリマーズ)では、震災の影響に加え、円高継続と中国など海外市場での急激な需要減少で、厳しい状況となった。 素材分野の損益の振れが非常に大きい。

ヘルスケア分野では堅調な需要に支えられ、ほぼ良好に推移した。

営業損益対比(億円)           
  2010/3 2011/3 2012/3 増減 うち
価格差  数量差  震災
影響
ケミカルズ 69 530 149 -381    -225  -116  -40
ポリマーズ -225 550 254 -296 -112  -131  -59
エレクトロニクス
アプリケーションズ
-14 10 -53 -63 -20  -32  -16
デザインド
マテリアルズ
133 365 240 -125 -46  -90  -11
ヘルスケア 710 851 764 -87 9  43  -65
その他 62 45 61 16 -  18  -2
全社 -73 -86 -108 -23      
合計 663 2,265 1,306 -959 -394  -308  -193
注 エレクトロニクス・アプリケーションズ:記録材料、電子関連製品、情報機材
   デザインド・マテリアルズ:食品機能材、電池材料、精密化学品、樹脂加工品、
               複合材、無機化学品、化学製品

 

上記営業損益のうち、ケミカルズとポリマーズの内訳は以下の通り。
2011/3月期から三菱レイヨン(MMAほか)が連結子会社となった。

  2010/3 2011/3  2012/3  増減
ケミカルズ
 (基礎化学品)
 (炭素)
69
(-20)
(89)
530
(313)
(217)
149
(13)
(135)
   -381
(-300)
(-82)
ポリマーズ
 (ポリオレフィンほか)
 (MMA、アクリル樹脂)
-225
(-225)

(  -  )
550
(182)
(368)
254
(-3)
(257)
-296
(-185)
(-111)

ヘルスケアのうち、田辺三菱製薬の業績は以下の通り。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2011/3 4,095 766 767 377 14 14
2012/3 4,072 690 688 390 15 20
前年比 -24 -75 -79 13 1 6
2013/3 4,290 700 700 405 20 20


住友化学

基礎化学品・石油化学と情報電子化学の減益が響いた。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2008/3 18,965 1,024 928 631 6 6
2011/3 19,824 880 841 244 3 6
2012/3 19,479 607 507 56 6 3
前年比 -346 -273 -334 -188    
2013/3 22,300 900 950 400 6 3

特別損失に多額の持分法投資損失を計上するとともに、繰延税金資産も計上した。

特別損失に持分法投資損失 -260億円

23%出資する豪州農薬メーカー Nufarmの時価が大きく下落したため、のれん相当額を一時償却。
2011/3月期中間決算でも特別損失287億円を計上したが、その後株価が回復したため、評価損を取り消している。

繰延税金資産 115億円(当期利益増)

営業損益対比(億円)   本年度から精密化学を廃止
  2010/3 2011/3 2011/3 2012/3 増減  
基礎化学 13       213   206 93 -113   交易条件悪化
販売数量減
石油化学 -2 111   111 62 -50 販売数量減
精密化学 36 1  

・・・・・

・・・・・

・・・・・

 
情報電子化学 63 261   261 110 -152 液晶部材価格低下
健康・農業関連 293 224   233 265 32 販売数量増
医薬品 299 269   287 209 -77 下記
その他 67 58   41 77 36 売電量増加
全社 -254 -258   -260 -209 51  
合計 515 880   880 607 -273  

情報電子化学は、偏光フィルム、カラーフィルターの値下がり、円高による在外子会社の邦貨換算の影響が大きい。

 

大日本住友製薬の業績は以下の通り。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
特許権等
償却費
同左
算入前
算入後 中間 期末
2010/3 2,963 -105 461 356 338 210 9 9
2011/3 3,795 -347 657 310 286 168 9 9
2012/3 3,504 -277 481 204 189 86 9 9
前年比 -291 70 -176 -105 -97 -82    
2013/3 3,480 -272 492 220 210 105 9 9

2009年10月に米Sepracor を買収した。(その後 Sunovion Pharmaceuticals と改称)
買収に伴い、特許権(1,197百万ドル)は品目ごとに償却、ノレン(914百万ドル)は20年償却とした。

2011/3月期には武田薬品との間で締結した非定型抗精神病薬の欧州での開発・販売提携に関する契約に基づく契約一時金100億円を売上高、利益に計上している。 当期はその分が減益となった。

営業損益の内訳は以下の通り。

  2011/3 2012/3 増減
日本 682 664 -18
北米 416 274 -142
同 特許権等償却 -347 -277 70
中国 12 10 -2
海外その他 101 70 -31
契約一時金 100   -100
医薬品以外 28 32 4
研究開発費 -682 -569 113
合計 310 204 -106

北米の減益は円高の影響と、2011/2発売の非定型抗精神病薬「ラツーダ」の販売費用増加による。
 


 

 


2012/5/19 2012/3月期決算−総合化学-2(三井化学、旭化成、東ソー)

三井化学

営業損益は、ウレタン事業や(年度後半の)基礎化学品事業の市況価格下落により減益となった。
2008年3月期と比較すると大幅な減益となる。

4月22日に岩国大竹工場で爆発・火災事故が発生した。
原因究明調査中で、一部を除き操業を停止している。

事故関係の費用や販売を含めた事業への影響の見積もりが困難として、次期予想は不明とした。

付記

6月14日、次期予想を発表。

このうち、事故の業績への影響見通しは以下の通り。

営業利益

 -30億円

生産・販売の減少及び代替品の調達による損失等
特別損益  -30億円 補償、撤去及び復旧等に係わる費用
事故に起因するプラント停止に伴う固定費及び保険収入等
税引前損益  -60億円  
単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2008/3 17,867 772 661 248 6 6
2011/3 13,917 405 389 249 3 3
2012/3 14,540 216 229 -10 3 3
前年比 623 -190 -160 -259    
(2008/3比) (-3,327) (-556) (-433) (-258)    
2013/3 15,100 320 290 80 3 3

特別損益に下記を含む。
 2011/3月期 制度改正による退職給付引当金戻入 146億円
 2012/3月期 ポリウレタン材料事業減損 -117億円

営業損益対比(億円)  
  2010/3 2011/3 2012/3 増減  内訳      
数量差 交易条件 固定費他
石化 -34 128 93 -35 -38 -8 11
基礎化学品 -48 204 89 -115 -22 -84 -9
ウレタン -21 -90 -144 -54 -29 -65 40
機能樹脂 -44 72 90 18 0 6 12
加工品 8 14 3 -11 -22 -14 25
機能化学品 74 100 104 4 11 -20 13
その他 11 1 -4 -5 0 0 -5
全社 -41 -25 -15 10 - - 10
合計 -95 405 216 -189 -100 -185 96
ポリウレタン事業は各社とも赤字が続いている。            
  三井化学は2009/4に三井化学ポリウレタンを吸収合併。
三井化学ポリウレタンの2008年度(2009/3月)決算は公表されていない。

日本ポリウレタンは東ソー子会社。
(2012/3決算はまだ公表されていない) 付記 2012/7更新

東ソーでは、中国市場の成長率が鈍化する一方で、中国の自製量が増加するなどにより、アジアの需給バランスが軟化した、としている。

住化バイエルウレタン(住友化学 40%、Bayer 60%)は12月決算。

 


旭化成

ケミカルズが大幅減益となった。住宅は好調。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2008/3 16,968 1,277 1,205 699 6 7
2011/3 15,984 1,229 1,182 603 5 6
2012/3 15,732 1,043 1,076 558 7 7
前年比 -252 -187 -107 -45    
2013/3 17,810 1,120 1,150 665 7 7

 

営業損益対比(億円)
  08/3 11/3 12/3 増減 差異内訳
数量差 売値差 コスト差等
ケミカルズ 652 644 445 -199 -35 196 -360
住宅 214 365 463 99 150 -4 -47
医薬・医療 127 70 88 18 43 -23 -3
繊維 72 42 31 -11 0 7 -18
エレクトロニクス 222 143 64 -78 46 -149 24
建材 28 21 18 -3 -5 1 1
その他 52 17 30 13 10 0 2
全社 -90 -72 -97 -25 - - -25
合計 1,277 1,229 1,043 -187 210 27 -424
    売値差のうち、為替要因が -182億円、其の他が+209億円
ケミカルズでコスト差等で -360億円となっているが、中味は不明。

 
2012年度より「クリティカルケア」セグメントを新設(買収したZOLL Medical 等)

東ソー  

2011年11月13日に南陽事業所のVCMプラントで爆発・火災事故が発生した。

期央以降の世界的景気減速に伴う需要減退、海外市況の軟化と上記事故が業績の下押し要因となった。

事故を受け、当初3円と発表していた中間配当を無配に変更したが、期末に6円とし、年間では変えず。

単位:億円 (配当:円)
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益   配当
中間 期末
2008/3 8,274 591 525 252 4 4
2011/3 6,844 335 298 100 3 3
2012/3 6,871 237 248 94 0 6
前年比 27 -98 -50 -6    
(2008/3比) (-1,403) (-354) (-277) (-158)    
2013/3 7,200 290 310 140 3 3

事故による売上高の減少は195億円。
事故に係わる損失として特別損失 24億円を計上

営業損益対比(億円)    

  2010/3 2011/3 2012/3 差異

内訳

数量差 交易条件 固定費他
石油化学 79 104 125 21 -15 38 -2
クロルアルカリ -143 -35 -100 -65 -122 -18 75
機能商品 148 203 131 -73 5 -65 -13
エンジニアリング 20 36 57 21 27 0 -5
その他 26 27 24 -3 -4 0 1
合計 130 335 237 -98 -109 -44 55
クロル・アルカリ   苛性ソーダ、VCM、PVC、無機・有機化学品、セメント、ウレタン原料
機能商品   無機・有機ファイン製品、計測・診断商品、電子材料(石英ガラス、スパッタリングターゲット)、機能材料等


2012/5/21  伊藤忠、マレーシアの石油精製・石化計画(RAPID)に参加

マレーシアの国営石油会社Petronasは5月18日、伊藤忠商事およびタイのPTT Global Chemicalとの間で、Petronasがマレーシア南部ジョホール州で計画している石油精製・石油化学プロジェクト(RAPID:Refinery and Petrochemical Integrated Development )の一環として、一部石油化学事業の事業化調査に関する覚書を締結したと発表した。

伊藤忠も、Petronasとの2者間覚書と、PTT Global Chemical を含めた3社間覚書の締結を発表した。
一部事業案件について3社でFSを実施する。

Project RAPIDは総事業費600億リンギ(約200億ドル)を見込む石油精製から石油化学までの一貫生産プロジェクトで、2013年央に建設を開始し、2016年末までの商業運転を目指している。

2011年5月に首相が建設を発表した。

既存の同国の石油、ガス、石化設備と合わせ、マレーシアを地域の石油産業のハブにするという政府の方針に基づく。

概要は以下の通りで、規模と範囲で、Petronasの既存のMelakaの製油所とKertihとGebengの石化コンプレックスを合わせたものよりも 大きいものとなる。

 立地:マレーシア南部ジョホール州 Pengerang

 事業内容

   石油精製:日量30万バレル(輸入原油の精製)
     石油化学計画に原料を供給するとともに、ガソリン、ディーゼルを含む石油精製品を製造する。

   石油化学:ナフサクラッカー(エチレン、プロピレン、C4、C5 合計300万トン)
          ケミカルズ、ポリマーズ

  LNGターミナル:LNGの受入・再ガス化(石化原料の多様化、マレーシアの将来のガス不足対策)
  コジェネレーション

付記 採用技術決定

2012/11/29 LLDPE/HDPE  350千トン INEOS Technologies Innovene G技術

2012/12  PP  2系列合計 900千トン     Lyondellbasell 技術

ーーー

Petronas はMelakaに2つ、Kertih に1つの製油所を持ち、Kertih とGebengに石化コンプレックスを持っている。



 


2012/5/21  浜 矩子同志社大学教授のユーロ解体論 

浜 矩子教授が5月21日付の毎日新聞に「さらばユーロの煉獄と地獄」でユーロ解体論を書いている。

彼女は2年前にギリシャ債務問題について、「救うも地獄、見捨てるも地獄」と書いた。

ギリシャ救援を続ければ共倒れの一連托生をもたらす。
いずれ、救う方はカネが尽きる。救われる方は、そのために払うべき犠牲が大きすぎて力が尽きる。

見捨てれば、ギリシャは突如として命綱を断ち切られる。
ユーロ圏は、仲間を救うことのできない非力さが露呈、存続の危機が訪れる。

しかし今は、「救うは地獄。見捨てるは、実は煉獄」と書き改めるとしている。

煉獄とは、天国と地獄の中間地点で、ここでしばらく火に焼かれていると、魂は清められたたき直されて、罪のくびきから解放される。

「ギリシャがユーロ圏に勘当された場合、あるいは、ギリシャ側が癇癪を起こして親子の縁を切った場合、ひとまずは、それこそ地獄の辛酸をなめることになるだろう。何しろ、債権者たちは押し寄せて来る。支援者は誰もいない。追い詰められることは間違いない。 」

「だが、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。ひとまず何とか踏ん張れば、自由の身だ。自国の経済運営を、自分で取り仕切ることができる。金融政策も、財政政策も、そして為替政策も。ほかの誰かが決めたルールに振り回されることはなくなる。身を切るようにつらくても、自分で決めて自分でやっていることならば、文句はいえない。文句をいう相手もいない。存外に爽快な痛みであるかもしれない。 」

ーーー

ユーロ誕生前の1979年〜1999年に欧州通貨制度(EMS:European Monetary System) があり、英国も加盟した。

欧州経済共同体の加盟国による地域的半固定為替相場制のシステムで、 通貨変動を年±2.25%以内に抑えることを原則とした。

1990年の東西ドイツ統一で、旧西独による東独への投資が増大し、欧州の金利がアップ、この結果、欧州通貨が上がり、英ポンドもこれに連動して過大評価されていった。

1992年にGeorge Sorosがポンド相場は実勢に合わないほど高止まりしていると考え、100億ドル相当のポンドの売り浴びせを行った。

この結果、1992年9月15日にはポンドは変動制限ラインを超え、イングランド銀行はポンド買いを行うとともに、公定歩合を10%から12%、更に15%へと1日に2度上げたが、売りは止まらなかった。

9月17日に英国は公定歩合を10%に戻し、EMSから離脱した。ポンドは変動相場制に移行した。

Sorosはイングランド銀行との勝負で約20億ドルの利益を得たとされる

ーーー

「(EMS離脱後の)英国は、為替レートを特定水準に固定する義務から解放されたため、実に伸び伸びと成長路線を突っ走った。」  

「ことここにいたった以上は、ユーロ圏全体として煉獄行きを目指してはどうか。要はユーロ圏解体である。誰もがみな、自由度が増して責任感も強まる。責任のなすりつけ合いができなくなる分、誠実な付き合いができるようになるだろう。元来、無理のある欧州通貨統合だった。無理な家族化よりも、無理なきご近所付き合いの方が、むしろ、絆は強まるかもしれない。」

 

2012/5/15   ギリシャ、再び混迷


2012/5/22 米国で3件目のiPS特許成立、iPS研究の現状 

京都大学iPS細胞研究所(CiRA:The Center for iPS Cell Research and Application)は5月14日、山中伸弥教授らのグループによるiPS細胞の製造方法と分化誘導方法に関する特許が、3月6日に米国で成立した と発表した。これは京都大学が米国で保有する3件目のiPS細胞関連特許となる。

今回成立した特許(8,129,187)は、4つの遺伝子(Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc)または3つの遺伝子(Oct3/4, Klf4, Sox2)を、レトロウイルスベクターで皮膚細胞などの体細胞に導入し、iPS細胞を作製し分化誘導をする、分化細胞の作製方法に関するもので、上記の方法で作製された分化細胞を使用し、販売する行為にも特許権利範囲に含まれ る。特許の有効期限は2026年12月。

新しい薬を開発するために研究開発を上記の方法を用いて行う企業は、この特許のライセンス許諾を受けることが必要にな る。

ーーー

京大は2011年8月11日、山中伸弥教授らが開発した新型万能細胞(iPS細胞)の作製技術に関する特許(特許番号8,048,999)が米国で成立したと発表した。

権利範囲は、@ Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子を含む初期化因子、A Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子及びサイトカインを含む初期化因子、となっている。
該当する初期化因子の組み合わせを使ってiPS細胞を作製する行為にまで及ぶ。
体細胞に遺伝子を導入するためのベクターの種類は問わない。
遺伝子の「ファミリー」という範囲をカバーしているので、例えば、「Myc」ファミリーであれば、c-MycもL-Mycも含まれる。(CiRA iPS細胞基本情報から)

2011/8/15  京大のiPS細胞特許、米で成立

京大は2011年11月24日、iPS細胞に関する特許について、4つの遺伝子を用いてiPS細胞を作製する方法に関する米国特許(特許番号8,058,065)が11月15日に成立したと発表した。

体細胞(例えば皮膚細胞)に、レトロウイルスベクターで4つの遺伝子を導入する工程によりiPS細胞を製造する方法に関するもので、特許法の規定により、この方法で製造されたiPS細胞の使用(iPS細胞の販売やiPS細胞を用いた分化誘導)にもその権利が及ぶ。(CiRA iPS細胞基本情報から)

京大は2011年2月1日、米国のiPierian Inc.から同社保有のiPS細胞特許「バイエル特許」(米国などの特許出願を含む)を譲り受けたと発表した。
世界各国に出願された特許(全部で30件程度)が譲渡の対象となり、この中には、2010年2月10日に英国で成立した「3遺伝子とbFGFによるiPS細胞の作製方法」に関する特許も含まれる。

バイエル薬品神戸リサーチセンターの研究チーム(桜田一洋センター長ほか)が山中教授らが2006年8月にマウスiPS細胞の作成を発表した直後から、ヒトでの研究を始め、山中教授らのチームより早く、ヒトの「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を作成し、バイエルは2007年6月15日付けで国内で特許を出願した。

独Bayerは2008年にこの特許を iPierianの前身であるiZumi Bioに譲渡した。

2011/2/3  京都大学、米社からiPS細胞関連特許を譲り受け

山中伸弥教授は5月17日、日本経済新聞の電子版2周年フォーラムで講演した。

その中で、最近の研究における特許対策や規制対応の重要性を強調、米国特許取得について、CiRAでは8人の特許専門家が研究会議にも出席して研究内容をフォローし、米国の特許弁護士とも常時連絡をとった結果であると述べた。

CiRAの運営費の大半は競争的資金を始めとする数年間の期間の研究資金で、多くの研究員、研究支援員が有期契約での採用であり、特許専門家も全員が有期契約となっている。

今後、新しい資金の確保で出来なければ、これらの人の雇用を続けられないという状況にある。

CiRAでは「iPS細胞研究基金」への支援のお願いをしている。

ーーー

山中教授はフォーラムで、iPS細胞による再生医療について「2020年まで全力疾走で研究を進め、新しい医学を確立させたい」と語った。iPS細胞をタイプ別に準備する「iPS細胞ストック」の構築事業に今年から取り組む方針も明らかにした。

2010年4月1日のCiRA設立時に4つの「達成目標」をつくった。内容と現状は以下の通り。

@基盤技術確立、知財確保(現時点での達成は60%)

24か国で特許成立

A再生用ストックの構築(同 30%)

iPS作成には1人当たり1千万円程度がかかり、作製に半年が必要で急場の間に合わない。

このため、厳重に品質管理されたiPS細胞ストックを構築する。

拒絶反応対策のため、HLAホモドナーのiPSを抹消血、臍帯血から作成し、ストックする。

HLA型は父母ごとに何百種(合わせて何万)もあり、全てのストックは無理だが、HLAホモドナー(父母が同型)のものは、片方が同じなら使用できる。
日本では1名のドナーで全体の20%75名のドナーで80%をカバーできる。

付記 2012/7/26 「iPS細胞ストック構築」で赤十字と提携

B再生医療臨床試験(同 20%)

神経細胞(パーキンソン病)、網膜・角膜(眼病)、心筋(心臓病)、神経幹(脊髄損傷)、血小板(血液病)など。下線はCiRAで実施。

C治療薬開発(同 20%)

病気モデル、治療薬開発
毒性、副作用の評価


2012/5/23    2012年3月期決算対比

2012年3月期の決算がほぼ出揃った。

一般的に2008年3月期が大好調であったが、Lehmanショックによる世界的な不況で2009年3月期には一転、大幅な下落をみた。
2011年3月期には回復が見られたが、2012年3月期では石油化学と液晶関係を中心とする情報電子化学が悪化し、減益となっている。

これらの事業の問題点については下記を参照。

石油化学    2010/12/29  2010年 回顧と展望

情報電子化学 2011/12/26   2011年 回顧と展望

各社の好調時の2008年3月期(青)と、2011年3月期(黄)・2012年3月期(赤)の営業損益を対比する。

 

ほとんどの会社が2008/3>2011/3>2012/3となっている。

例外は下記の通りで、他社に差をつけたものを持っている企業が強い。

 三菱ケミカル:2011/3月期から三菱レイヨン(MMAほか)が連結子会社となった。
                                       
2012/5/18 2012/3月期決算−総合化学-1(三菱ケミカル、住友化学)     

 東レ:繊維(衣料用、産業用)が好調

 2008/3の繊維の利益は(現在と区分が若干異なるが)214億円

 クラレ:ポバールフィルム等
        
2012/5/7 クラレの2012年3月決算と樹脂事業概況 

 積水化学:住宅が好調

 日本ゼオン:エラストマー素材が好調

 日本触媒:基礎化学品(アクリル酸、酸化エチレン等)、機能性化学品(吸水性樹脂等)が好調。

参考  2012/5/3 2012/3月期決算−信越化学


2012/5/24    2012年3月期 医薬品会社の決算 

医薬品業界では2010年前後に大型医薬品の特許が一斉に切れる。(「2010年問題」)
アメリカ市場では後発品上市から半年間で先発薬売上高の約7割が消えるとされ、既に影響が出ている。

各社とも、対策として買収を行っており、企業結合会計による費用負担も大きい。

各社の営業損益増減の主たる理由は以下の通り。

武田 薬品

 

前年 米国で特許切れのプレバシドの大幅減収、円高影響(-607億円)など
本年  Nycomed買収の会計処理(-770億円)、
研究費以外の販売費・一般管理費増(
-630億円

    2012/5/14 2012年3月期決算−武田薬品工業 
アステラス

 

前年 円高影響(-473億円)、OSI買収による無形資産償却(-200億円
本年 導入一時金の減による研究費減(274億円)、販売管理費増(-79億円)
第一三共 前年  ランバクシーの営業損益 63億円→277億円
本年 ランバクシーの 減益(-73億円、第一三共グループ の減益(-161億円)
エーザイ

 

前年  前期発生のAkaRx買収に伴うインプロセス研究開発費、
ファイザーに対する提携費用の減少
本年  アルツハイマー型認知症治療剤が米特許切れで約1500億円(49%)の減収
田辺三菱

 

前年 研究開発費減(172億円):前期にライセンス契約変更での一時金100億円あり。
本年 研究開発費増(-44億円)、販売管理費増(-35億円
 2012/5/18 2012/3月期決算−総合化学-1(三菱ケミカル、住友化学 )
中外製薬  前年 タミフル出荷大幅減
本年  同上
塩野義 前年 米子会社の15か月決算の影響で販間費増
本年 同上により販間費が前年より減、米子会社の売上控除計上等で売上総利益減
大正製薬

 

前年 売上総利益増 83億円、研究費減44億円
本年 販売管理費の増(-57億円、うち研究開発費 -6億円
大日本住友 前年 Sunovion Pharmaceuticalsの特許権等償却増(-242億円105億円→347億円)、
武田からの一時金
100億円
本年 前期の一時金100億円の差
 2012/5/18 2012/3月期決算−総合化学-1(三菱ケミカル、住友化学)

 

各社の配当は以下の通り。

大正製薬は2011年10月に単独株式移転により「大正製薬ホールディングス」を設立した。
これに伴い、大正製薬の配当12円、15円をホールディングスベースで40円、50円に換算した。

 


2012/5/24  電力料金

経産省は日本の10電力の2006〜2010年度の販売電力量、電気事業による売上高と利益を発表した。

5年間の平均では、全国平均の販売電力量は家庭向けが38%(3362億kwh)、工場など企業向けが62%(5564億kwh)で、売上高はそれぞれ49%(7兆2006億円)、51%(7兆5589億円)だったが、利益は家庭向けが69%(4329億円)、企業向けが31%(1962億円)と逆転した。

企業向け電力の少ない沖縄電力のみ、電力量と収益は見合っているが、他の電力会社は全て逆転している。

東京電力については、電力供給量と利益の逆転現象は劇的である。

家庭向けは電力量で38%、事業収入で49%であるのに対し、収益では91%も占める。

東京電力は5月23日、電気料金審査専門委員会で、企業向けの電気料金を公表した。
家庭向けと企業向けとの価格差は2倍程度ある。

企業向け上位10社平均  11円80銭/kwh
家庭向け平均   23円34銭/kwh

東電によると、大口顧客10社は夜間電力の使用が中心で、昼間の電力は自家発電で賄っているため、割安になっているという。

東京電力の場合、2007年7月の新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の停止が影響している。
この結果、天然ガス使用増によりコストがアップした。

家庭用は総括原価主義によりコストが上がれば電気代が上がるが、企業向けは他社との競合がありコストアップを転嫁しにくいとしている。
東電管内は、ガス会社や石油元売りなどが特定規模電気事業者(PPS)として電力小売りを手掛けており、大口向け市場は比較的、競争が激しい。

東電ではまた、家庭向けの送電設備の投資を節約した(家庭用のコストダウン→利益増)ともしている。

電力会社は企業との間で、電力が足りなくなりそうな場合に節電に協力することを条件に料金を割り引く契約需給調整契約も結んでいる。

付記

電気料金審査専門委員会の資料が公表され、2007年7月の新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の停止の影響が明らかになった。

事業収益の年度別推移は以下の通り。
この間、家庭向け販売電力量は37〜39%で変わらないが、利益は地震前の53%が2009-10年度は63%に上がっている。
(2007-2008年度は大口向けの利益がゼロ〜マイナス)

地震前の2006年度でも、家庭向けは電力量が37%に対し、収入は48%、利益は53%と逆転していることには変わりはない。

ーーー

東京電力は7月1日からの家庭向け電気料金の値上げを申請したが、枝野経済産業相は5月11日の閣議後会見で、この日に設置した専門家による「電気料金審査専門委員会」で値上げの妥当性を厳しく検証すると表明した。

値上げの根拠の妥当性を客観的に判断するのが目的で、東電が十分にコスト削減努力をしているかなどを精査する。

上記の数値はこの委員会に出された。


2012/5/25  東京電力、1兆円の優先株発行、公的管理下に 

東京電力は5月21日、2種類の優先株を合計19億4000万株、金額換算で1兆円を発行すると発表した。

同社は原子力損害賠償支援機構から賠償に必要な資金の交付(3月末時点で、枠として2兆4,263億円)を受けているが、賠償費用以外の費用・損失が増大し、財務基盤は大きく毀損している。

債務超過リスクや資金繰り面でのリスクを回避し、事業の継続性を確実なものにするとともに、公募債市場への復帰等自律的な資金調達力の早期回復を図るためにも、資本を増強し、財務基盤を強化する。

6月27日の株主総会で承認を受ける。
政府の原子力損害賠償支援機構が全株引き受け、7月25日までに全額を払い込む。

これにより、東電の経営は実質公的管理下に置かれることになる。

東電は公的管理が終結した後、「経営改革及び株式市場に悪影響を与えない範囲で、適切な時期に当社による機構所有株式の取得、普通株式への転換による株式市場への売却等によって出資金の回収を目指す」としている。

今回の決定の概要は以下の通り。

1.発行可能株式総数の増加

現在   18億株
改正後 141億株

2.2種類の優先株の発行

  A種優先株(議決権付種類株式)    1株   200円   16億株    合計 3,200億円
  B種優先株(転換権付無議決権種類株式)    1株2,000円     3億4千万株              6,800億円
 合計             10,000億円

A種、B種合わせて資本金が5,000億円、資本準備金が5,000億円それぞれ増加し、諸費用を除くと東電の手取り調達額は9,963億円となる。

調達した資金は、素早く適切に損害賠償を進めるほか電力の安定供給に使い、「2015年3月末をめどに随時使用する」。

なお、優先株は他の株主に優先して配当を受け取れるが、賠償資金を返済することを優先することから、配当は考え難い。

3.  A種は議決権付きのため、出資により原子力損害賠償支援機構は50.11%の議決権を取得する。

東電の現在の発行済株式総数   1,607,017,531株 (資本金  9009億75百万円)
うち、議決権付き株式   1,593,149,800株  
A種優先株   1,600,000,000株  50.11%
議決権付き株式合計   3,193,149,800株  

4. 機構は「改革が不十分」と判断した場合はB種優先株を議決権のあるA種優先株に転換

株主総会で合併や定款の変更など、すべての議案を単独で可決できる3分の2以上に議決権を拡大 、
経営を完全に掌握する。

B種優先株が全てA種優先株に転換された場合、議決権は75.84%となる。

B種優先株がA種に転換   3,400,000,000株  発行価格10倍のため、B種1株がA種10株
転換後のA種合計   5,000,000,000株  75.84%
議決権付き株式合計   6,593,149,800株  

5. A種株からB種株への転換も可能
   東電の再建が順調に進めば、関与を弱める。

6. A種、B種優先株の普通株式への転換も可能
   普通株への転換価格は30円〜300円への範囲で、東電の時価に連動。(5月21日終値は162円)

  優先株全てが普通株式に転換された場合の議決権は下記の通り。

1)発行可能株式総数141億株限度一杯(発行済 1,607,017,531株を控除)

  転換株式数   12,492,982,469株  88.69%
  議決権付き株式合計     14,086,132,269株  

2)下限取得価額30円で転換(発行可能株式総数の引き上げが必要)

  転換株式数    33,333,333,333株   95.44%
  議決権付き株式合計   34,926,483,133株  

現実にはこれらケースは、機構が出資金を回収する段階で一時的に行うケースなど。

 

付記

   河野太郎公式ブログ ごまめの歯ぎしり 2012/5/26 「国民負担を増やす東電救済は駄目だ」
 

ーーー

なお、3月31日現在の株主は、
@東京都 出資比率は2.68%、A従業員持株会 2.41%、B三井住友銀行 2.26%、C第一生命 2.23%、D日本生命 2.21%。
A種優先株の発行で、東京都の出資比率は1.34%となる。

昨年9月末時点では、
@第一生命 3.42%、A日本生命 3.29%、B東京都 2.66%、C三井住友銀行 2.24%、D持株会 1.87%であった。
第一生命、日本生命は配当を期待できないため、一部を売却した。


2012/5/25     Dow、石化JV中止問題での調停で勝利、21.6億ドルを獲得

国際商工会議所の国際仲裁裁判所は5月24日、Dow とKuwait国営のPetrochemical Industries Company (PIC) との間のK-Dow Petrochemical に関する調停結果を発表した。

PICがK-Dow Petrochemical 設立の契約を破棄したため、Dowが損害を被ったとして訴訟を行い、最終的に調停を求めることとしたもの。

仲裁裁判所はPIC側に責めがあると認定し、PICに対しDowへの21.6億ドルの損害賠償支払いを命じた。金利と費用はこれに追加される。

ダウとPICは調停結果に従うことを決めており、これが最終となる。

付記

国際仲裁裁判所は2013年3月4日、最終金額を発表した。
金利と費用は318百万ドルで、これを加えると合計24.8億ドルとなる。(これに支払いまでの金利が加わる)

付記

Dowは2013年5月7日、PICから22億ドルを受け取ったと発表した。これは仲裁裁判所の決めた21.6億ドルにDowのコストを加えたもの。
金利は入っていないが、KuwaitにおけるDowの事業についての罰則措置に関し好意的な合意を取り付けたとしている。

ーーー

Dowは2007年12月13日、Kuwait国営石化会社 PIC との間で50/50のグローバルな石化JV K-Dow Petrochemical を設立すると発表した。

DowのPE、PP、PC、エチレンアミン、エタノールアミン などの事業を移管するもので、Dowは事業売却額マイナス出資で75億ドル、配当15億ドルで、合計90億ドル(税引後では70億ドル)を受け取ることとなっていた。

2007/12/14 速報 ダウとクウェートのPIC、グローバル石化JVを設立  

一方、ダウ は2008年7月10日、188億ドルでRohm and Haas (R&H)を買収する契約を締結したと発表した。
現金153億ドルで全株式を買収し、R&Hの35億ドルの借入金を引き継ぐ。

2008/7/11 速報 Dow Chemical、Rohm and Haas を買収

Dow はR&H 買収資金の188億ドルを、つなぎ融資 130億ドル、Warren Buffett のBerkshire Hathaway Inc. からの投資 30億ドル、Kuwait Investment authorirty からの投資10億ドルで賄うことにしており、PICへの売却資金でつなぎ融資の一部を返済する予定であった。

これにより、ダウの変身戦略が成功し、価格変動の影響を受ける石油化学をAsset-light 方式で全てJV化するとともに、R&H 買収でスペシャルティ分野の強化が出来る筈であった。

しかし、2009年1月1日のスタートを目前にして、2008年12月28日、K-Dow Petrochemicals が破談となり、この金が入らなくなった。

2008/12/29 ダウとクウェートの石油化学合弁、一転破談に

2009年1月23日、ダウはR&H との統合でFTCの承認を得たと発表した。

2009/1/26 FTC、Dow と Rohm and Haas の統合を条件付で承認

契約ではすべての条件が満たされた2日後に買収を実行することとなっており、1月27日が期限となる。

しかし、つなぎ融資は1年間の契約のため、 Dowとしては資金繰りの目処をつけるまでは買収を行えない状況に陥り、R&Hに訴えられた。

その後、Dowはこれまでと異なる条件で4月1日までに買収を行うことで合意した。
つなぎ融資の額を減らすとともに、融資期限の延長により、その間に有利な事業売却を検討できることとなった。

2009/3/10  ダウ、Rohm & Haas 買収で合意 

また、Dowは史上初の減配を行い、年間10億ドルの資金を節約した。
   2009/2/23 
Dow Chemical、史上初の減配

Dowは2009年4月1日、Rohm & Haas(R&H)の買収を完了したと発表した。

2009/4/3 ダウ、Rohm & Haas の買収を完了

Dowはその後、つなぎ融資返済のため、多くの手を打ってきた。

  • 60億ドルの新規長期ローン
  • 22.5億ドルの増資
  • 30億ドルの永久優先株の回収
  • R&H子会社のMorton Salt 売却(17億ドル )
  • 塩化カルシウム事業のOccidental Petroleumへの売却(210百万ドル)
  • Total とのJVのTotal Raffinaderij Nederland N.V. のTotal への売却(725百万ドル)
  • マレーシアのOptimal 売却(660百万ドル )
  • Powder Coatings 事業のAkzo Nobel への売却
  • 投資会社Bain Capital Partnersへのスタイロン事業売却(16.3億ドル )

Dowは上記の措置により資金問題を解決、現在では配当も増やしている。 (四半期配当)


2012/5/26  サムスン電子、「グラフェン半導体」の開発に成功 

サムスン電子が「夢の新素材」と呼ばれる炭素素材グラフェンを活用した新しいトランジスタ構造を開発した。
グラフェンを活用したトランジスタが完成すれば、従来の100倍以上のデータ処理能力が可能になるとされる。

5月17日付のScience誌(電子版)に掲載された。
  Graphene Barristor, a Triode Device with a Gate-Controlled Schottky Barrier

半導体にはシリコン素材のトランジスタが数十億個含まれているが、半導体の性能を高めるためにはトランジスタを小さくすることで移動距離を縮めたり、電子の移動速度を高められる素材が必要。

優れた移動速度を持つグラフェンはシリコンにとってかわる物質として脚光を浴びているが、グラフェンが金属に近い特性を持っていることから、電流を遮断できないという問題点がある。

グラフェンをシリコンの代わりに商用化するためには半導体化のプロセスを変える必要があり、この過程でグラフェンの移動速度が急落するため、トランジスタとして使うことには否定的な意見が多かった。

グラフェン (graphene) は炭素原子とその結合からできた蜂の巣のような六角形格子構造をとっている。

参考  グラフェンの高速トランジスタ応用への注目と課題  
    (科学技術政策研究所  科学技術動向 2010年5月号)
 

パク・ソンジュン専門研究員(41)が率いるサムスン電子綜合技術院の研究陣は、2009年から3年にわたる研究で、グラフェンの長所を損なうことなく電流を遮断することのできる素材を開発した。

グラフェンとシリコンを接合して Schottky Barrier というエネルギーの壁をつくり、壁の高さを調節することで電流を発生させたり、消したりできる。
Barrierを自在に調節することから、サムスン電子は新素材を「Barristor」と命名した。

サムスン電子総合技術院はグラフェンを用いたトランジスタの動作方式に関する中核技術を9つ確保している。

パク・ソンジュン専門研究委員は、 「グラフェンの素子研究の難題を解決したという点で大きな意味を持つ。グラフェン半導体の商用化は約10年後になるだろうが、関連分野でリードするための基礎を築いた。商用化に尽力して、半導体強国としての位置を維持するのに貢献したい」と述べている。


2012/5/26    ナフサ価格急落

ナフサ価格が急落している。

東京オープンスペックナフサ価格は5月1日は1008ドル/トンであったが、その後急落し、5月25日終値は832ドルとなった。

原油価格も下がっているが、ナフサ価格の下落はそれ以上である。

現在行われている石化製品の値上げ交渉にも影響が出ると思われる。


2012/5/28 住友化学、サウジ・アラムコとの「ラービグ第2期計画」実施へ 

住友化学は5月25日、Saudi Aramcoと共同で設立したRabigh Refining and Petrochemical (PetroRabigh) の「ラービグ第2期計画」について、FSで事業性を確認し、EPC(エンジニアリング・調達・建設)契約をはじめとする各種プロジェクト契約の締結や、プロジェクト・ファイナンスの確保などの作業を進めていくこととしたと発表した。

住友化学とAramcoは2009年4月に「ラービグ第2期計画」のFS実施の基本的な枠組みを定めた覚書を締結し、FSを続けてきた。

2009/4/21  住友化学とアラムコ、「ラービグ第2期計画」の共同FS実施

「ラービグ第2期計画」の内容は以下の通りで、エタンクラッカーの増設や芳香族プラントの新設を通して、付加価値の高いさまざまな石油化学製品を生産する。
エチレンの生産能力は30万トン増の160万トンになる。

総投資額は約70億ドルを想定、2016年前半から順次稼動させていくことを目標としている。

アクリル酸、SAP(高吸水性樹脂)、カプロラクタム、ナイロン6樹脂、ポリオールについては、第三者との協業も含めて、引き続き最適な実施の形態について検討する。

なお、ラービグ1期計画は安定稼働まで時間がかかり、投資回収が想定より遅れている。

住友化学では、「現地の運転員も技術が向上した。今回は設備が前回より小さいため、早期に稼働率を高められる」としている。

ーーー

ラービグ計画のプロジェクト・ファイナンス契約の完工保証は4月17日付で終了した。

完工保証はプロジェクトが安定的な操業を通じて債務返済を可能とするキャッシュフローを継続的に稼ぎ出すことが確認されるまでの一定期間につき、出資企業が借入先に対する融資金全額の返済を保証する仕組み。

PetroRabighは、2006年3月、国際協力銀行やサウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンドを始めとする銀行団と、総事業費 約100億米ドルの6割にあたる約58億米ドルの融資を受けるプロジェクト・ファイナンス契約を締結した。
この契約に関し、住友化学とSaudi Aramcoは、融資額の2分の1ずつについて完工保証を行ってきた。

PetroRabighは今後、出資企業の信用力に頼ることなく、自社で生み出すキャッシュフローを原資に、借入金の返済を行う。


2012/5/29 宇部興産、タイでPTT子会社と資本提携 

宇部興産は5月23日、同社のタイの子会社UBE Chemicals(Asia)の株式の一部をPTTの子会社IRPC Public Companyに譲渡する契約を締結したと発表した。

IRPCは約53億バーツを出資し、UBE Chemicals(Asia)の増資引受及び宇部からの購入で25%の株主となる。
これに伴い、出資比率は以下の通りとなる。

宇部興産   68.99%(←92.67%)
IRPC      25.00%
丸紅        4.78%
その他      1.23%

IRPC は、天然ガス・石油関連を主なビジネスとするタイ最大の上場企業であるPTT Public Company Limited グループの中核会社の一社。旧称 TPI (Thai Petrochemical Industry)で、経営危機に陥り、PTTが38.51%を出資した。

生産能力:エチレン360 千t、プロピレン312 千t、SM 200 千t、HDPE 152 千t、PP 475 千t、ABS 116 千t

UBE Chemicals(Asia)の工場はIRPC の石油化学コンプレックスに近接し、IRPC から硫黄などの原料やユーティリティの供給、港湾設備・貯蔵タンクなどのサービスを受けている。

今回の資本提携により、宇部興産は、IRPC からのより競争力のあるコストでのサービス提供が期待でき、また、今後タイで新たに展開する宇部のプロジェクトにPTT グループが参画することで、原料・土地・ユーティリティの確保、PTT グループの既存設備の有効活用などのメリットも期待している。

ーーー

UBE Chemicals(Asia)は、2010年2月1日に下記の2社を吸収して設立された。
ナイロン樹脂、ナイロンコンパウンド、カプロラクタム、硫安、その他製品の製造・販売を行っている。

1.Thai Caprolactam Public Company  

業務:カプロラクタムおよび硫安の製造販売  
出資:宇部興産     44.45%
53.63%91%
      
   TPI Polene   31.79%
26.50%  0%
             丸紅   14.62%
12.20% 7%
             Bangkok Bank   0  
 →  2.57%2%
能力:
カプロラクタム 110千トン(
13万トン)、硫安 460千トン   

2.UBE Nylon (Thailand) Ltd.   

務:ナイロンの製造販売 
出資:宇部興産 51%
91%100%
   TPI               40%
→ 0
            日商岩井      9%
9%→ 0
能力:
ナイロン6 74,500トン
   
ガラス強化コンパウンド  6千トン

ーーー

宇部興産は2008年12月、PTT Public Company Limitedと、カプロラクタム、合成ゴムなど化学事業についてタイ国における共同事業化を検討することを決定し、覚書を締結したと発表した。

豊富な化学原料を持つPTTは、川下製品への進出によりチェーンの強化を図っており、化学製品をグローバルに生産販売している宇部興産との提携は、原料の確実な確保とタイでのさらなる事業拡大を行いたい宇部興産のニーズと一致し、検討を進めることになった。

宇部興産が既にタイに生産拠点を持つカプロラクタム・ナイロン・合成ゴムに限らず、幅広い化学事業を対象としてタイでの事業化の検討を両社で行うとした。

2008/12/23 宇部興産、タイでの化学事業のPTTとの共同事業化を検討

ーーー

宇部興産はタイに他に下記の子会社を持つ。

Thai Synthetic Rubbers Co.,Ltd. (ブタジェンゴムの製造販売) 

出資:宇部興産 73.1%、丸紅 13.0%、TSRC(台湾) 13.0%ほか
能力:72千トン(当初 50千トン)

UBE Fine Chemicals (Asia) Co., Ltd. (ファインケミカル製品の製造、販売)

出資:宇部興産 100%
能力:
1,6へキサンジオール、併産1,5ペンタンジオールを含め年産能力 6,000t


2012/5/30   ブリヂストン、再生可能原料のみを使った理想のタイヤ技術を目指す

ブリヂストンは「持続可能な」社会の実現に向け、再生可能原料のみを 使った理想のタイヤ技術を目指すことを明らかにした。
同社の
会長がWorld Rubber Summit 2012 で「100%サステナブルマテリアル化」に向けた取り組みについて講演した。

ブリヂストンの環境長期目標は以下の通り。

ブリヂストンの環境長期目標

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「100%サステナブルマテリアル化」に向けた具体的なアクションは以下の通りで、
@原材料使用量の削減
A資源循環、効率的活用
B再生可能資源の拡充・多様化による非再生資源ゼロを目指す技術
により、何もしなければ増加する資源使用量を地球の自浄能力・扶養力ライン以下に抑える。

「100%サステナブルマテリアル化」に向けた具体的なアクション

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「再生可能資源の多様化・拡充」の取り組みは以下の通り。

1)新しい再生可能資源に『拡げる』取り組み

 @天然ゴム生産地域の多様化

熱帯での天然ゴム資源に加えて、乾燥帯や温帯で育つ天然ゴム資源となる植物を栽培し活用する。

例 グアユール(guayule)
     米国南西部からメキシコ北部の乾燥地帯が原産の低木
     幹部などに天然ゴムを含む。


   ロシアタンポポ(
Russian Dandelion)
            カザフスタンおよびウズベキスタン原産の多年草
      根部に天然ゴムを含む。

 Aタイヤ用補強繊維で植物由来繊維の多様化・拡充

現在は、ポリエステルやナイロンなどの原油由来と、レーヨンのような植物由来の繊維を使用。
「新セルロース繊維」の実用化に向けた取り組みをスタート、植物由来繊維の供給性を大幅に向上させる。

2)化石資源を再生可能資源に『換える』取り組み

 @バイオマス由来合成ゴムの開発

バイオエタノール由来のブタジエンを用いた合成ゴムなど

 Aバイオマス由来カーボンブラックの開発

植物油脂類を原料油として用いたカーボンブラックなど

 Bバイオマス由来新規ゴム配合剤の開発等

糖質からのバイオエタノール、植物油脂類からの脂肪酸、木材からのセルロース・リグニンなど、バイオマスから得られる基本化合物から新規に高性能ゴム材料を開発

付記

ブリヂストンは5月31日、味の素からバイオマスから生成したイソプレンの提供を受け、合成ゴムの重合に成功したと発表した。

両社は2011年6月に新しいゴム原料及びそれを用いた合成ゴムの共同開発についての共同研究契約を締結し、研究を行ってきた。

今回、材料にバイオマスを使用、味の素が発酵技術を活用してイソプレンを生成、これをブリヂストンが同社の重合触媒技術を使って、合成ゴム〔高シスポリイソプレン〕の重合に成功した。


2012/5/31    イレッサ、大阪高裁でも原告全面敗訴 

肺がん治療薬「イレッサ」服用後に副作用の間質性肺炎で死亡した患者の遺族ら11人が、国と輸入販売元の製薬会社アストラゼネカに計約1億円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は5月25日、アストラゼネカのみに賠償を命じた1審・大阪地裁判決を取り消し、原告側の請求を全面的に退けた。

先行する東京訴訟でも、一審東京地裁判決が国とア社双方の責任を認めたのに対し、二審東京高裁判決は一転して請求を退け、司法判断が分かれた。

イレッサ(一般名はGefitinib)は英国のAstraZenecaが開発した肺がん治療薬

厚生労働省は2002年7月、世界に先駆けて、申請から半年で輸入承認した。
2002年8月に発売され、2カ月の間に、1万人以上の患者に投与された。

がんの増殖、転移に関係する分子を狙い撃ちにする「分子標的治療薬」で、正常細胞を傷つける抗がん剤より副作用が軽いと期待されたが、市販開始直後から間質性肺炎などによる副作用死が相次いだ。

販売を始めた2002年7月には添付文書の「重大な副作用」の4番目に致死性の肺炎が記されていたが、副作用死が相次いだ。

厚労省は同年10月、全国の医療機関に緊急安全性情報を出し、肺炎の副作用を「警告欄」に記載するよう改めた。

致死性の肺炎の可能性の記載を「重大な副作用」の4番目から「警告欄」に移すまでの期間が問題となった。

これまでの多くの研究・調査の結果から、以下のことが明らかになっている。
・ゲフィチニブは上皮成長因子受容体に特定の遺伝子異常を有する人に対して高い有効性を示す。
・日本人肺癌患者の約30〜40%程度にこの遺伝子異常が認められる。

2011年3月末時点での死亡者数は,報告されているだけでも825人にも上っている。

ーーー

大阪地裁と東京地裁で裁判が行われ、両地裁は和解勧告を行った。

原告側は和解による早期決着を求め、政府も和解を検討していた。

ところが、関係医学会から和解勧告を批判する見解が相次いで出され、結局は国もア社も和解を拒否した。

日本肺癌学会、日本臨床腫瘍学会、日本医学会が和解を批判した。「科学的に合理性を欠いた対策を取ることは避けるべき」とした。

この見解発表の前に、厚生労働省が、「日本医学会として懸念の声明を発します」との声明文案を渡していたことが判明した。東京・大阪両地裁が「非公開」を要請した和解勧告全文も渡していた。

厚生労働省は、「文案提供は過剰なサービス」として局長ら4人を訓告とした。
声明を出す働きかけそのものは、メディア対策として「通常の職務執行の範囲内」とした。

2011/1/31 政府、イレッサ訴訟で和解勧告拒否

和解拒否の結果、両地裁は判決を下した。

地裁判決と、その後の高裁判決の概要は以下の通り。

東京 東京地裁 判決 国とア社に1760万円の支払いを命じる
ア社 イレッサは特定の患者に高い効能、効果があり、製造上の欠陥はない
当初の添付文書の記載では医師らへの情報提供が不十分で、指示・警告上の欠陥
(PL法上で規定する「通常の安全性を欠いた状態」)
添付文書に致死的となる可能性を記載していれば、間質性肺炎で死亡することはなかった
国は承認前の時点で副作用による間質性肺炎で死に至る可能性があると認識
安全性確保のための必要な記載がない場合、国は記載するよう行政指導する責務がある。
間質性肺炎の危険性を目立つように記載するよう指導しなかった国の対応は違法
東京高裁 判決 地裁判決取り消し、遺族側主張を全面的に退ける
ア社 イレッサには有用性があり、製造における設計上の欠陥はない
イレッサの初版添付文書に警告欄がなく、副作用が致死的になり得るとの記載がなくても、指示・警告上の欠陥ではない

専門医が処方する薬剤
専門医であれば間質性肺炎による死亡の可能性を認識
国内の治験で死亡例はなく、海外の死亡例も因果関係があるとまでは言えない

欠陥があるとの前提事実がない以上、規制権限の不行使が違法かどうか論じるまでもない
大阪 大阪地裁 判決 ア社原告9人に計6050万円の支払いを命じる
ア社 警告欄に記載するなどして注意喚起を図るべきだった。
緊急安全性情報配布(2002/10)前は製造物責任法上の欠陥があり、賠償責任あり。
添付文書に関する行政指導は必ずしも十分ではないが、当時の知見のもとでは一定の合理性がある。
国家賠償法上の違法はない。
大阪高裁 判決 大阪地裁判決を取り消し、原告側の全面敗訴
ア社 担当医は肺がん治療を手掛ける医師であり、添付文書の重大な副作用欄を読めば、間質性肺炎の危険性を認識できた
副作用欄の4番目だからといって、担当医が致死的でないと理解するとは考えにくい
治験や海外症例などを含め、副作用の間質性肺炎による死亡は11例あったが、因果関係が明確と言えるのは1例で、「一般的な副作用を超える副作用を予測することは困難だった」
イレッサ自体に問題がない以上、責任はない

東京、大阪ともに、地裁が当初の添付文書の記載では医師らへの情報提供が不十分であるとし、東京地裁は国に指導の責任があるとした。

これに対し、高裁はいずれも、専門医であれば記載の個所に関係なく危険性を認識できるとした。

 

大阪の原告側は上告する方針。東京も原告の一部が上告中で、審理は最高裁に持ち越された。

ーーー

5月27日付毎日新聞社説は以下の通り述べている。

2審になると東京高裁も大阪高裁も一転して原告の訴えを退けた。イレッサは難治性の肺がんにも有効性があり、承認当時の添付文書の副作用欄に間質性肺炎が明記されていた。だから認可した国にも販売元の会社にも責任はない、というのが大阪高裁の判断だ。

では、販売後わずか半年で間質性肺炎によって180人が死亡、2年半で死者557人に上ったのはなぜか。
「(添付文書を読めば医師は)副作用発症の危険性を認識できた」と大阪高裁判決は断定する。医師たちは危険を分かりながら副作用死を出してきたというのだろうか。

イレッサは副作用の少ない「夢の新薬」と大々的に宣伝され、難治性の肺炎患者や家族の期待はいやが上にも高まった。間質性肺炎はたしかに添付文書に載ってはいたが、重大な副作用欄の後ろの方の目立たないところにあった。臨床試験では間質性肺炎とみられる死亡例がいくつも報告されていたが、それらは添付文書のどこにも載っていない。

やはり情報の伝え方に問題があったと見るのが自然ではないだろうか。実際、目立つように添付文書が書き換えられてから副作用死は急減した。ただ書いてあればいいということではないはずだ。


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