ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

最新分は http://blog.knak.jp



2017/5/1 BP、
上海SECCO石油化工の持分をSinopecに売却 

BPは4月27日、上海赛科石油化工(上海SECCO石油化工)の持分(50%) を、上海SECCOのパートナーのSinopecの子会社上海高橋石化 に16.8億ドルで売却することで合意したと発表した。

BPではこの決定を、同社の技術を生かし、競争的有利にある分野でグローバルに活動するという方針に沿うものであるとした。また、中国は同社の化学事業の主たる活動地域であり、新しい活動の場を求め続けるとしている。

上海SECCOはBP 50%/SINOPEC 30%/SINOPEC上海石化 20%のJVで上海漕泾化工(Caojing)地区のShanghai Chemical Industrial Parkに立地する。

2005年3月にスタートした。原料はナフサで製品は以下の通りであった。

現在の能力:
 エチレン 109万トン、BTX 65万トン、SM 65万トン、PS 30万トン、PE 60万トン、PP 25万トン、ANM 52万トン。

2006/4/6 中国のエチレン合弁会社

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BPは当初、エチレン、アクリロニトリル、HDPE、PP、PTA、パラキシレン、酢酸の7つの事業を化学事業の中でのコア事業としていた。

2006/8/29 BPの石油化学のオリジン

このうち、エチレン、アクリロニトリル、HDPE、PPの事業をスコットランドとフランスの石油精製とともにInnoveneとして分離、その後、2005年末にIneos に売却した。

2006/6/14 事業買収で急成長した化学会社

SECCOの事業はいずれもInnoveneの担当事業であるが、Sinopecとの関係で、本JVはBPに残した経緯がある。
恐らく、Sinopec側もパートナーがBPからIneosに代わることを望まなかったと思われる。

現在ではBPが関与する意味はなくなったため、JV相手のSinopecに引き渡し、Sinopecの100%子会社とするもの。

 

中国でのBPの他の事業は次の通り。

  酢酸JV Yangtze River Acetyls Company:YARACO

1995年にBP 51%、Sinopec 44%、地元 5%のJVのYARACOを設立、重慶で酢酸 40万トン、エステル8万トンの生産を開始した。

2015年に1系列として世界最大の60万トンプラントをスタートし、合計能力は100万トン。

酢酸JV BP YPC Acetyls Company (Nanjing) :BYACO

BPとSinopecは江蘇省南京市に50/50JVのBP YPC Acetyls Company (Nanjing) Ltd. (BYACO) を設立し、2010年8月に50万トンの酢酸の商業生産を開始した。

PTA JV  BP Zhuhai Chemical

珠海に富華集団(その後 Zhuhai Port Coと改称)とのJVのBP 珠海ケミカル(BP 85%)を持つ。

2015年に第3期 125万トンの生産を開始、第1期 60万トン(当初 35万トン)、第2期110万トン(当初 90万トン)と合わせ、合計能力は295万トンとなった。

2011/2/22  BP、中国のPTA事業を拡大


2017/5/2 Dow Chemical、政府の有機リン殺虫剤のリスク研究報告の撤回を要求 

Dow Chemical と他の2社を代表する弁護士が4月13日に、農薬を管轄する3省庁のトップに対し、広く使われている殺虫剤が多数の絶滅危惧品種に有害であるという政府の報告書を、根本的に問題があるとの理由で、撤回することを求めるレターを出した。 研究結果は科学的ベースが信頼できないとしている。

http://interactives.ap.org/2017/dow-epa/

Dow Chemical のAndrew Liveris 会長兼CEOがTrump大統領の就任式典に100万ドルを寄付したことや、White Houseの製造業問題ワーキンググループのトップであること、Trump大統領が選んだEPA 長官が反EPA派であることなどと関連付け、各紙が大きく取り上げている。

問題の殺虫剤は下記の通り。

殺虫剤 メーカー
chlorpyrifos Dow Chemical
diazinon ADAMA Agricultural Solutions
malathion FMC Corp.

chlorpyrifosはダーズバンの商品名で販売されている。

ADAMAはイスラエルのジェネリック農薬メーカーで、旧称 Makhteshim Agan。
1997年にイスラエルのMakhteshim と Agan が合併した。
2011年に中国の中国化工集団(ChemChina)が株式の60%を買収した。(ChemChinaは2016年にスイスのSyngentaを買収している)
2014年にADAMAに改称。

提出した相手は、EPAのScott Pruitt長官、海洋漁業局を管轄する商務省のWilbur Ross 長官、魚類野生生物局を管轄する内務省のRyan Zinke長官。

種の保存法(Endangered Species Act)を管轄するこの 3省庁の科学者が過去4年にわたり、1万ページ以上の記録を積み上げ、3種の殺虫剤が、1800種の絶滅危惧種のほとんど、研究した種のほとんど全てにとってリスクとなることを示した。

EPAの調査では、chlorpyrifosが、絶滅危惧またはその危険がある蛙、魚、鳥、哺乳類の種を含む1835種の動植物のうち1778種に悪影響を与える恐れがあることが分かった。malathion と diazinonでも同じ結果が出ている。

政府の科学者の一人は、絶滅危惧種の多くは水生で、ヒトが飲み水として使う川や湖の長期の汚染の影響を最初に示すため、炭鉱でのカナリヤの役目をしていると述べている。

3省では間もなく、研究結果を発表し、これら殺虫剤の使用の制限を行う予定である。

これらの有機リン殺虫剤は古くから幅広く使用されている。

この結果、これら殺虫剤の成分が飲み水のなかで一般的に見つかっている。2012年のカリフォルニア大学の調査では、新生児の臍帯血のサンプルの87%からchlorpyrifosが見つかっている。

2005年にBush政権は、ヒト、特に子供の健康リスクを理由に、蟻やウジ虫などの駆除のための家庭用使用を禁止する命令を出した。しかし、農家用、特に果樹や野菜用の使用は認められている。

環境運動家はこれまで、ヒトや絶滅危惧種に対するリスクをもっと厳密に調べるよう、法廷でEPAと争ってきた。

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Trump政権は雇用問題を環境問題の上に置いている。

Trumpの公約、「アメリカを再び偉大にする」ための100日間のアクションプランには次のものがあるが、既に多くの大統領令を出している。

シェール、原油、天然ガス、クリーンな石炭など50兆ドルものエネルギーの開発への制限を取り除く。
  
Executive Order on January 24, 2017    インフラ計画への制限の排除
  
Presidential Memorandum on January 24, 2017  製造業への制限の排除

Obama-Clinton が停めた Keystone Pipelineなどのエネルギー関係のインフラ計画を進める。
  
Presidential Memorandum on January 24, 2017  Keystone Pipeline建設
  
Presidential Memorandum on January 24, 2017  Dakota Access Pipeline建設

国連の気候変動計画への数十億ドルの支払を取り止め、その資金を米国の水と環境のインフラの補強に使用する。
  
Executive Order on March 28, 2017    Obama 前政権の地球温暖化対策を全面的に見直す。

2017/2/2  「トランプの公約」の現状

Trump大統領は4月22日の「地球の日」に、次の通り呟いた。

Today on Earth Day, we celebrate our beautiful forests, lakes and land. We stand committed to preserving the natural beauty of our nation.
I am committed to keeping our air and water clean but always remember that economic growth enhances environmental protection. Jobs matter!
  自然の美を守る。空気や水を綺麗にすることを確約する。しかし、経済成長が環境保護を高めることを忘れてはいけない。雇用が大事だ!

大統領はまた、米国民の負担となる規制を緩和するための対策をとるよう指示する大統領令を出している。
     
Executive Order on February 24, 2017     規制改革の実施

 

大統領はEPA長官にScott Pruitt オクラホマ州司法長官を選んだ。連邦政府の規制を制限し、州政府の規制監督権限を取り戻すことを目指すなどEPAには批判的な立場で、気候変動に懐疑的であり、オバマ政権が気候変動対策の柱に据えたCO2排出規制「クリーン・パワー・プラン」にも反対している。

Pruitt氏のEPA長官への起用は、EPAの規模を縮小し、資源掘削・炭鉱採掘を許可するという大統領の方針に沿った動きである。


Pruitt長官は3月に早速、Dowのクロルピリホスの農薬利用禁止に関する嘆願書を退ける行政文書に署名した。

EPAは、オバマ政権時代の2015年10月、自然資源防衛協議会と北米農薬行動ネットワークから嘆願書を受け取り、農薬に使用されるクロルピリホス残留許容量基準の廃止、農薬使用の全面禁止を起案していた。

しかし、別の手法で計測したところ、EPAの根拠とは異なる結果が得られていた。

米農務省、全米州農業局協会、科学諮問委員会も同様にEPAの起案に対して懸念を表明していた。

Pruitt長官は、「人体や環境を保護しつつ、クロルピリホスに依存する米国農家数千人に対し規制の確定性を提供する必要がある」「世界で最も広く普及している農薬を禁止しようとした前政権の動きを巻き戻し、結果ありきの議論ではなく意思決定科学に基づく判断に我々は回帰する」と述べている。

Dowなどの今回の要求レターは、この決定の後に出された。

 


2017/5/3    日立、子会社の日立国際電気を売却

日立製作所は、中核事業に経営資源を集中する一方、非中核事業は売却し、収益率を高める選択と集中を徹底するため、黒字の連結子会社 日立国際電気の売却を決めた。

日立製作所は4月26日、KKR (Kohlberg Kravis Roberts) の所有するHKEホールディングス合同会社及び日本産業パートナーズが出資するHVJホールディングスとの間で、下記の契約を締結した。

 @HKEが日立国際電気を完全子会社とする(上場廃止)

HKEはTOBで日立以外の株主から株式を取得、その後、日立国際電気は日立所有の51.67%を907億円で買収する。

 

 Aそのうえで、日立国際電気を分割し、
   a.   成膜プロセスソリューション事業を独立させてHKEが吸収
   b.   映像・通信ソリューション事業が残る日立国際電気に、日立製作所とHVJが各 20%の出資を行う。(HKE 60%、日立 20%、HVJ 20%のJV)

日立国際電気は、日立グループ内で無線通信機器や放送・映像機器の製造販売を手がけていた、国際電気・日立電子・八木アンテナの3社が2000年10月1日に合併して誕生した。(八木アンテナはその後、同社の100%子会社として分社化し、現在、日立国際八木ソリューションズと改称している。)

2009年には日立グループの総合力強化と日立国際電気のグローバルな事業拡大をめざし、日立が公開買付により連結子会社とした。

現在の事業は下記の通り。

日立および日立国際電気は、下記の状況を鑑み、それぞれの事業ごとに経営の最適化を追求する方が各事業の企業価値の向上に資するとの認識に至った ため、 2016年9月下旬より複数の買手候補先に打診を開始し、入札手続を実施し、2017年4月上旬、KKRおよびJIPを最終買付候補者として選定した。

  映像・通信ソリューション 成膜プロセスソリューション
状況 顧客ニーズの焦点が、従来の製品・システムから、課題解決のためのソリューションへとシフト 主要顧客である韓国サムスン電子などアジア向けの販売拡大が続くが、技術革新が著しく、今後一層の競争激化が予想される
課題 コア技術を駆使したIoT高信頼無線や映像セキュリティなどの高成長ソリューションを中核とする事業モデルへの転換による、社会インフラソリューション事業の拡大 競合他社に先行する研究開発・設備投資の拡充
取引後 日立が少数株主として再出資

日立グループによる社会イノベーション事業との協業により業容を拡充する機会がますます増えることも期待される。

KKRの子会社

KKRのグローバルリソース・ネットワーク・ノウハウ・半導体関連分野における豊富な投資経験を活用

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日立はインフラやITへの事業シフトを急いでおり、最近、相次いで非中核事業の売却を進めている。


日立物流

2016年3月30日、日立物流の株式3234万9700株を875億円で SGホールディングスと譲渡契約を締結した。

譲渡により日立物流に対する日立の議決権所有割合は59.02%から30%となり、連結子会社から持分法適用会社となる。


日立キャピタル

2016年5月13日、所有する日立キャピタルの株式 60.6%のうち、27.2%の売却を決めた。

23.0%を三菱UFJフィナンシャルに、4.2%を三菱UFJリースに売却する。

売却により日立キャピタルに対する日立の議決権所有割合は60.6%から33.4%となり、連結子会社から持分法適用会社となる。

日立キャピタルと三菱UFJリースは経営統合を一つの選択肢とした関係強化に向け協議を開始する。

 


日立工機

2017年1月13日、子会社で電動工具大手の日立工機の株式 (51.24%)を米投資ファンドKKRに売却すると正式発表した。KKRが実施するTOBに応じるもので、売却金額は751億円。

KKR発表によると、日立工機の全株式取得の金額は1,471億円。

 

日立は売却で得る資金を成長投資に振り向け、中核事業に集中する。2019年3月期までの2年間で、総額 1兆円をM&Aに振り向ける。

 



2017/5/4 欧米の医薬業界で買収が続く 

ドイツの後発薬メーカーのFresenius Kabi は4月24日、米国の後発薬メーカー Acorn, Inc. を買収すると発表した。

買収額は約43億ドルで、さらに約4億5千万ドルの債務を引き継ぐ。

Acorn は処方薬、OTC医薬品のメーカーで、注射薬、塗り薬、軟膏、点眼液、液、点耳薬、スプレー式点鼻薬、喘息薬などを扱う。

 

Fresenius Kabi はまた、Merck KGaAのバイオシミラー(バイオ後発薬)事業を買収することで合意した。

買収額は最高 670百万ユーロで、買収完了時に170百万ユーロを支払い、約500百万ユーロは実績をもとにしたマイルストーン支払いである。

Merck KGaA はドイツの医薬品会社で、米国のMerck & Co., Inc. とは別会社である。

Merck & Co., Inc はドイツのメルク一族が米国につくった会社だが、第一次世界大戦で敵国企業の子会社として米国政府に接収され、1917年に独立した。接収後は両社は別会社である。

2006/3/23   2つのMerck社

バイオ後発薬は医薬品のなかでも高成長が見込まれている。

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ドイツの後発薬メーカーSTADA Arzneimittel に対しては、Bain Capital と Cinven Partnersの共同でのTOBが進行中で、6月8日に締め切られる。

STADA はPfizerの性機能改善薬「バイアグラ」などの後発薬と大衆薬が主力で、欧州の後発薬メーカーでは、Novartis傘下のSandozやドイツのFresenius Kabi などに次ぐ。

同社は2月12日、英投資会社Cinven Partners LLP から買収提案を受けたと発表した。買収総額は35億ユーロ。
これとは別に買収提案を受けているとしており、双方の提案を吟味して対応を決める方針。

同社は翌2月13日、米投資会社Advent International Corporation からも買収提案を受けたことを明らかにした。

2月16日には他の1社からのオファーがあったと発表した。(社名はあきらかにせず)

2月25日に、個別の交渉ではなく、入札によることを決めた。

同社は4月10日、入札の結果、Bain Capital と Cinven Partnersの共同でのTOBに決めた。

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米医療機器メーカーのBecton, Dickinson and Companyは4月23日、同業の米C. R. Bard, Inc.を240億ドルで買収すると発表した。注射器や輸血用機材、検査器具などを扱うBectonは、血管疾患や感染予防、外科手術などの専門分野に強みを持つBardの買収で事業領域を拡大する。
 


2017/5/4 米議会、9月末までの予算案で合意、政府機関の閉鎖回避 

共和党と民主党は4月30日夜、9月末までの資金を手当てする1.16兆ドルの暫定予算案について合意した。

これまでの予算は4月28日までのもので、2016年度の残り期間(9月30日まで)の予算が4月28日までに通らなければ、政府機関の閉鎖に追い込まれるが、米上下両院は4月28日、5月5日を期限とする1週間のつなぎ予算を可決、ひとまず政府閉鎖を回避した。

2017/4/26 米政府機関閉鎖の可能性

4月30日の合意に基づき、米下院は5月3日、309 対 118  で暫定予算案を可決した。その後上院に送られた。

付記 上院は5月4日、これを 賛成 79、反対 18、棄権 3 で可決した。

Trump大統領が執着したメキシコ国境の壁建設については見送られた。代わりに国境警備強化で支出を15億ドル増やすことで合意した。新技術や既存インフラの改修などが含まれるとしている。

大統領は国防費を300億ドル増額するよう求めていたが、半分以下の125億ドルが認められた。

Trump大統領は、予算を通すのに上院で60%の賛成が必要なことについて Twitter で不満を表明した。

2018年の中間選挙で共和党上院議員をもっと選ぶか、ルールを変更して51%にすべきだとし、9月に与野党が合意できず政府機関が閉鎖されても構わないと民主党に脅しをかけた。

The reason for the plan negotiated between the Republicans and Democrats is that we need 60 votes in the Senate which are not there!
We either elect more Republican Senators in 2018 or change the rules now to 51%. Our country needs a good "shutdown" in September to fix mess!

 


2017/5/5 Western Digital の歴史 

東芝の半導体事業の東芝メモリの売却先を巡り、動きが急である。

米半導体大手のBroadcom Ltd.、東芝の四日市工場で半導体事業に共同投資する米Western Digital Corp、シャープを傘下に持つ台湾の鴻海精密工業(Foxconn)、半導体大手の韓国SK Hynix の4陣営が有力とされたが、技術の海外への流出を恐れる日本政府が動いた。

官民ファンドの産業革新機構は4月28日、「産業革新委員会」で出資方針について確認し、米投資ファンドなどとの連携に動き出した。

Western Digital は、東芝の取締役会宛ての4月9日付の同社CEOのレターで、東芝メモリの分割がJV契約の重大な違反であるとしている。入札手続きは東芝の株主の利益にならないとし、独占交渉を求めている。

Western Digital は2016年5月にSanDisk の買収を完了したが、その SunDisk は1999年にNAND型フラッシュメモリ事業に関する提携で東芝と基本合意した。

当初、米国での共同生産を行ったが、その後、実質折半出資のJVが東芝の工場の建屋内に設備を所有し、生産を行い、製品を折半で引き取っている。これまで日本に90億ドルもの投資をしたという。

2017/4/14     東芝の半導体売却に新たな難問

 

付記 東芝社長とWestern DigitalのCEOが5月10日会談した。両社の見解の対立が続くが、打開策を模索する。

Western Digitalは、他社への売却に異議を唱え、売却に拒否権を持つと主張。

東芝は、Western Digital がSunDiskを買収した際に東芝の同意を得ていないため、他社への売却の拒否権はないと主張。
妨害行為をやめなければ、施設からWestern Digital の技術者らを締め出すとしている。

 

ーーー

Western Digial は2016年5月のSunDisk 買収まではハードディスクドライブ(HDD) 専業メーカーで、2011年に日立から事業を買収して大きくなった。

同社は1970年にGeneral Digitalとして設立され、当初は主にMOS半導体の試験装置の製造企業だったが、その後、特殊な半導体を製造する企業となった。
1971年7月、Western Digital に改称した。

1975年には、世界最大の独立系電卓チップメーカーとなり、1980年代前半にストレージ事業に参入 した。

その後、事業を多角化し、 グラフィックカード、チップセット、ネットワーキングなどに拡大していった。

1988年に Tandon Corporationのハードディスク生産工場を買い取り、ハードディスクに専念することを決め、他の部門を売却した。

1995年頃になると低迷期を迎え、 1998年にIBMに援助を求め、市場での地位を取り戻した。


日立は2002年6月にIBMのハードディスクドライブ(HDD) 事業の買収を決めた。IBMの知的所有権を含めたHDD関連資産の大半を、3年間の分割払いとして20億5千万ドルで買収するもの。

まず、日立70%、IBM 30% 出資の新会社 Hitachi Global Storage Technologies をカリフォルニア州に設立し、IBMの事業を移し、2003年1月に営業を開始、同年4月に日立のストレージ事業部を分割し、統合した。

日立から約6,800名、IBMから約14,700名の計約21,500名で、日米5カ所の開発拠点、7カ国8カ所の製造拠点などを持つ。

IBMへの支払い完了の2005年末に日立100%とした。

 

その後、日立にとってHDD事業は、薄型TVと並んで赤字 のもととなった。2010年第4四半期にようやく短期黒字に到達したが、市況により業績が大幅に上下することが問題であった。

日立は2011年3月7日、100%子会社である Hitachi Global Storage Technologies をWestern Digitalへ売却すると発表した。
(Western Digital は買収した Hitachi Global Storage Technologies
の社名を、この略号である HGST に改称した。)

売却額は約43億ドルで、35億ドルの現金とWestern Ditigalの株式2,500万株(7億5,000万ドル相当)で支払われる。
これにより、日立はWestern Digitalの株式10%を保有する筆頭株主となり、2名の役員を派遣した。

日立は2013年に取得した株式の半分を売却、2014年には残る 1250万株の半分を売却した。(残りについての現状は不明。)
Western Digitalの株は当時から上昇しており、大きな利益をあげた。

Western Digital の元の技術はTandonの技術だが、TandonはPC向けの小容量HDDを主力にしていたメーカーであった。
同社はHGSTの買収で、日立と(以前に支援を受けた)IBMのトップ技術を取得することとなった。

 

Western Digital は2015年10月21日、SunDisk を190億ドルで買収すると発表 、2016年5月12日、買収手続きを完了した。
再び、半導体事業に戻った。

東芝とSunDisk の提携関係は買収後も維持され、現在に至っている。



2017/5/6 米商務省、対日貿易赤字を問題視

商務省は5月4日、3月度の貿易統計を発表した。

それによると、全体では437億ドルの赤字で前月より1億ドル改善し、「財」だけでは655億ドルの赤字で前月比 3億ドル悪化した。

  輸出 輸入 貿易収支
サービス サービス サービス
1月 1,281 644 1,925 1,977 430 2,407 -695 214 -482
2月 1,283 643 1,927 1,935 429 2,364 -652 214 -438
3月 1,263 647 1,910 1,918 429 2,347 -655 218 -437
3,827 1,934 5,762 5,829 1,289 7,118 -2,002 646 -1,356

第1四半期では1,356億ドルの赤字で、前年同期比で94億ドル悪化したが、前期比では33億ドルの悪化である。

 

商務省は同日、メキシコと日本に対する貿易赤字が持続不可能な率で増えているとの異例の発表を行った。

メキシコとの貿易赤字は前月比で3.6億ドル増加し、日本との貿易赤字は16億ドルも増えたとする。

Ross商務長官は、「米国は最早、これら貿易相手との間の膨らんだ貿易赤字を続けられない。トランプ政権は不均衡な貿易関係から米国の労働者、企業を守るため、貿易関係を是正すると約束している」と述べ、日本との貿易不均衡の是正を急ぐ考えを改めて示した。

メキシコについてはNAFTA再交渉を控える。

米国の貿易赤字が大きい中国とドイツについては、3月は前月比で偶々、それぞれ3.3億ドル、3.5億ドルのプラスとなっており、やり玉にあがらなかった。

それどころか、中国については以下のように述べている。

中国は依然として米国の最大の貿易赤字の元であるが、「財+サービス」合計では2016年第4四半期は前年同期とくらべ2.5% 改善している。
(確かに803億ドルから783億ドルに2.5%改善している。)

今回の発表では、国別の貿易収支については、「財」については3月までを発表しているが、「財+サービス」は昨年12月までしか発表していない。

米国の貿易赤字が大きい4か国の状況は次の通り。

「財」 「財+サービス」
   

対日赤字を見ると、3月は2月と比べると「財」では確かに赤字は16億ドル増えているが、第1四半期合計でみると前年同期比で3億ドルしか増えておらず、前期比では14億ドルの減少である。また「財+サービス」では、2016年第4四半期は前年同期と同じである。

2月の減少で3月の赤字が増えたのであり、単月の増減を取り上げるのはおかしい。

米国の財政赤字が持続可能でないことは事実だが、「メキシコと日本に対する貿易赤字が持続不可能な率で増えている」との商務省の発表は妥当でない。

 


2017/5/8 中国商務部、DowとDuPontの合併を条件付きで承認 

中国商務部は4月29日、公告25号を出し、DowとDuPontの合併を条件付きで承認すると発表した。

3月27日の欧州委員会の承認に次ぐものだが、米、加、豪、ブラジルの承認はまだ得られていない。

付記

ブラジル当局は5月17日、ブラジルのコーン種子事業の一部の売却を条件に承認した。

豪州は6月8日 合併を承認した。

両社は現時点で、2017年8月1日〜9月1日の間に統合を行い、それから18カ月以内に会社分割を行う予定としている。

 

欧州委員会は、
@
既存農薬の多くの市場での著しい競争の減少
農薬でのイノベーション競争の著しい減少及び
A
特定の石油化学製品(アクリル酸コポリマー)で著しい競争の減少を懸念した。

これに対し、両社は、
@については、DuPontの農薬事業のかなりの部分をR&D組織を含めて売却するとし、
Aについては、Dow
はスペインと米国のアクリル酸コポリマー製造拠点の売却及び購入販売しているアイオノマーの購入契約の譲渡を約束し、承認を得た。

2017/2/15     Dow とDuPont、合併承認を求め、事業売却を提案 

2017/3/28 EU、条件付きでDow / DuPont 合併を承認 

Aについては、Dowは承認を受ける前の2月2日、グローバルのエチレンアクリル酸コポリマー事業(スペインと米国のアクリル酸コポリマー製造拠点)と購入販売しているアイオノマーの購入契約をSK Global Chemical に売却する契約を締結した。

@については、DuPontは3月31日、FMCとの間で、同社の農薬部門の一部を研究開発部門を含めて売却する契約を締結した。

2017/4/4  DuPont、FMCに農薬事業を売却、健康・栄養事業を買収

 

中国商務部の懸念も欧州委員会と同様で、このうち@の農薬についてはコメ用の除草剤、殺虫剤を問題にした。

承認条件は次の通り。

@について、
 ・DuPont のコメ用除草剤 
metsulfuron-methyl、tetrazosulfuronの原体、製剤関連の全て(R&Dを含む)の売却
 ・DuPontのコメ用殺虫剤 
Bromocriptine、chloramphenic benzamide、indoxacarb の原体、製剤関連の全て(R&Dを含む)の売却

 ・承認後5年間、下記製品を非独占でリーズナブルな価格(過去12カ月平均より高くない価格)で中国企業に供給
   DuPontの除草剤
bensulfuron-methyl、bensulfuron-methyl-oxazolone、pyrazosulfuron の原体、製剤
             Dow のコメウンカ防除剤 
fluoroacetaminonitrileの原体、製剤

 ・承認後5年間、DuPontの7製品、Dowの2製品について中国で独占販売権を与えない。

Aについては、欧州委員会と同様、アクリル酸コポリマー事業とアイオノマー事業の売却 (処理済)



2017/5/9  オバマケア代替法案 米下院が可決

米議会下院は5月4日の本会議で、共和党が提出した医療保険制度「オバマケア」の廃止と、これに替わる制度の創設を盛り込んだ法案(American Health Care Act)を賛成217、反対213の僅差で可決した。共和党からは20人が造反した。

  賛成 反対 棄権 合計
民主党   193   193
共和党 217 20 1 238
合計 217 213 1 431
欠員       4

 

Trump大統領はオバマケアの廃止を公約としていた。

米上院は1月12日、オバマケア撤廃に向けた法案の策定を各委員会に指示する決議案を可決した。翌13日に下院も賛成多数で決議した。

大統領は1月20日の就任当日に最初の大統領令を出し、オバマケアの撤廃に向け、各省庁に現行制度による経済的負担を軽減するよう指示した。

米下院の共和党議員らは3月6日、低所得者向け医療費補助制度の拡張などを含む医療保険制度改革法(オバマケア)を廃止する法案を発表した。

同法案によると、オバマケアで拡張した医療費補助制度への登録を2020年1月1日に凍結する。
同制度拡張を実施した州では、2019年末まで保険購入者の登録を認め、政府からの補助金を受け取ることができるが、法案通過後は補助金を制限する。

加入促進や保険料補助をやめ年齢に応じた税額控除に変える。高所得者層には上限を設ける。

オバマケアが課した税金のほとんどを2018年1月に廃止するほか、保険購入を強いられている個人や事業者に対するペナルティを即時撤廃する。

既往症がある人の加入を保険会社が拒否できない規定や、26歳までの子が親の保険に加入できる仕組みは残す。

これに対し、民主党は、税金廃止や税額控除で富裕層が恩恵を受け、数百万人の中低所得者層から保険を奪うとして反対を表明した。共和党保守派は代替案をオバマケアの「焼き直し」などと批判、オバマケアの完全な廃止を求めた。

米下院は3月23日、同日中に予定していた医療保険制度改革法(オバマケア)の代替法案の採決を延期した。野党・民主党に加え、共和党内の保守強硬派などの反対が強い。

共和党は3月24日の採決を予定したが、可決の見通しが立たず、トランプ米政権は同日、オバマケアを見直す代替法案の下院本会議での採決を見送り、法案を事実上撤回すると表明した。

2017/3/27   オバマケア代替法案撤回

今回、共和指導部は、病歴のある加入希望者に保険会社が割増保険料を請求することを認める一方、既往症のある人に保険料補助を出すなど、保守派、穏健派双方の議員に配慮して法案を修正した。 

大統領は採決後、下院共和党指導部をホワイトハウスに招いて記者発表を行い、「法案は上院も通るだろう。私にはとても自信がある」と強調。「オバマケアは死んだ」と述べ、法案成立に自信を示した。

Twitter

Insurance companies are fleeing ObamaCare - it is dead. Our healthcare plan will lower premiums & deductibles - and be great healthcare!

It was a GREAT day for the United States of America! This is a great plan that is a repeal & replace of ObamaCare. Make no mistake about it.

Big win in the House - very exciting!  But when everything comes together with the inclusion of Phase 2, we will have truly great healthcare!

同法が制定されれば数百万人が医療保険を失うとの報告が出ており、保険を失うのはトランプ氏を支持した労働者層が中心とみられている。

上院では同法案がこのままの形で通過する可能性はほとんどない。複数の共和党議員は、上院独自の代替案をまとめるとしている。

上院議員は現在、共和党52、民主党46、無所属(民主系)2 となっている。

 

現行のObamaCareと今回の共和党案との対比:

  ObamaCare
  
2010/3/23 米医療保険法案が成立へ
共和党案
個人の義務 全ての米国人が保険に入る義務
(入らない場合、罰金)
廃止
但し、前年に63日以上、入っていない場合、保険料に30%の賦課金を支払う。
雇用者の義務 50人以上雇用する企業は保険に入る義務
(入らない場合、罰金)

これらにより、2千万人以上が新たに保険を得た。

廃止
税金 富裕者のMedicare tax を増税
下記に新税
 医療機器、健康保険、製薬、投資所得、日焼けサロン、高所得者向け健康保険

 

ほとんどのObamacare taxを廃止
高所得者向け健康保険への課税を2026年に延期
扶養家族

 

26歳以下の子供には両親の保険 維持
必須の項目 全ての保険は下記をカバーすること
 救急ルーム、癌治療、年次健康診断、処方箋薬コスト、精神カンセリング
各州が決定
既往症 既往症について保険を拒否したり、保険料を追加することを禁止 保険料は自由。
これらの患者のため80億ドルを用意
Medicaid Medicaid保険を拡充し、低所得者をカバー。 Medicaid 保険拡充を順次減らし、10年で政府支出を8800億ドル減。
連邦政府の固定支出に代え、各州に弾力的運営をさせる。
女性 男女で保険料に差をつけるのを禁止。
女性の保険には出産看護、避妊などを含む。
原則は現行通り。
州は
出産看護、避妊の除外を認めることができる。
堕胎をカバーする保険の購入のために連邦税控除を利用することを
禁止
老人 老人の保険料は若者の保険料の3倍以内。 5倍までは認める。
各州が独自に決めることも可能。
補助金 低所得者が政府運営の保険取引所で保険に入る場合、税額控除が利用できる。
一部の支払い医療費に支援
税額控除の仕組みを変え、中所得者にも拡大。
 

 


2017/5/10 オリックス、米地熱発電大手に出資 

 
オリックスは5月4日、米国の地熱発電大手のOrmat Technologies, Inc. に出資することを決めた。第3四半期に発行済み株式の22.1%を627百万ドルで取得する。

両社が締結したCommercial Cooperation Agreement では、Ormat はオリックスの日本以外の全世界の地熱発電プロジェクトで開発・所有・操業・機器供給の独占権を持つ。また、オリックスの日本の地熱発電プロジェクトで技術パートナーや共同投資者となる権利を持つ。

またオリックスはアジアおよび全世界で関係を持つ再生可能エネルギーのファイナンス業者を通じ、Ormatが資金を取得するのを支援する。

 

Ormatは1965年創業で、地熱発電設備の設計・製造から販売・施工まで一貫して手がける唯一の企業。

同社の ORMAT® ENERGY CONVERTER は、Organic Rankine Cycle 技術を使用する。沸点が水よりも低い有機液体を利用、一定の圧力で地熱を液体に移し、これが沸騰してタービンを回すバイナリー方式である。(高温の地熱をそのまま使用するのがフラッシュ方式)

これまで世界中で合計2,200MWを供給した。
米国や中米、アフリカでは地熱発電事業も展開する。現在、713MWの地熱発電を所有・運営している。(米 515MW、カリブのGuadeloupe 15MW、Kenya 139MW)

 

オリックスはOrmatが持つ技術を活用し、アジアでの地熱発電事業への参入を目指す。

オリックスは、太陽光発電やバイオマス発電などの再生可能エネルギーを活用した発電事業を積極的に推進している。

地熱発電については、再生事業としてグループで運営している温泉旅館「杉乃井ホテル」(別府市)において自家用では国内最大規模となる最大出力1.9MWの地熱発電所を保有・運営している。

同社は2013年11月に、東芝が55%、オリックスが45%出資で岐阜県奥飛騨温泉郷中尾地区において地熱発電事業を行うJVを設立した。

2014年に、今後5年間で地熱発電所を最大15か所建設する計画を決めた。北海道、東北、九州を中心に全国から候補地を探す。発電能力は計3万キロワット、総投資額250億円程度を見込む。

第一弾として、2014年7月に函館市と青森・風間浦村で地熱発電の事業化に向けた調査を開始した。両地域では、出力2MW程度の小規模地熱発電所の建設を検討している。

2017年3月に、東京都八丈町と、八丈町内における地熱発電利用事業に関する協定を締結した。

ーーー

2017年3月18日、世界最大規模のインドネシア・Sarulla 地熱IPPプロジェクトの第1号機が商業運転を開始した。

本事業は北スマトラのSarulla鉱区で世界最大規模の地熱発電所の開発を行うもので、PT Pertamina Geothermal Energyが保有する地熱鉱区を合弁会社のSarulla Operations を通じて開発し、出力330MW(3系列合計)の地熱発電所を建設後、発電する電力をインドネシア国営電力公社PLNに30年間にわたって売電する。

効率を高めるため、地熱を利用するフラッシュ発電と、バイナリー発電を組み合わせている。
1号機の出力は約105.9MWで、引き続き、2017年に第2号機、2018年に第3号機の商業運転開始に向けて建設工事を行う。

出資者は次の通りで、2015年に国際石油開発帝石がMedco子会社に出資する形で参加した。

2015/6/13    国際石油帝石、インドネシアのサルーラ地熱IPP事業に参画   


Ormatはこれに12.75%出資するとともに、Geothermal Combined Cycle Unit の基礎設計、Ormat Energy Converterの供給を行っている。
フラッシュ発電のための発電機、タービンは東芝が供給している。


2017/5/11 米国とカナダの通商摩擦がエスカレート 

Trump大統領は、2月の米加首脳会談では、NAFTA再交渉の主な標的はメキシコであり、カナダとの交渉は「微調整」にとどまると述べた。

しかし、カナダが最近、米国産乳製品の輸入を一部制限する措置を実施、米国はカナダ産木材への最大24.12%の対抗関税実施を発表した。
これに対し、カナダ政府は米国産石炭の輸出に国内の港を使わせない措置を検討している。

Trump政権は国内業界の反発を背景に態度を硬化させ、これまで中国やメキシコ、日本に照準を合わせていた矛先をカナダにも向けた形となっている。

ーーー

Trump大統領は4月25日、米国の農業と農村の繁栄を推進するための大統領令を出した。

安定し、安全で、安い食料、繊維、木材の供給は米国の安保、安定、繁栄のために必須であり、米国の農業と地域社会の推進は国家の利益に係るとし、Agriculture and Rural Prosperityのための省庁間のタスクフォース設置を指示した。

大統領は同日、カナダの酪農保護政策が米国産乳製品の輸出を阻んでいると批判、さらに木材輸出に対するカナダの補助金支給が不公正だとして、最大24.12%の相殺関税を課す仮決定を発表した。
カナダを名指しし、「米国産の乳製品を売れにくくしている。もう我慢するつもりはない」と批判した。 「貿易戦争も恐れない」とも述べた。

ロス商務長官は、対象の木材は主に州政府保有地で伐採されており、「その料金は市場実勢より安く、政府補助金だ」と説明 した。乳製品に関しても、「是正するための措置を調査している」とした。

ーーー

カナダ政府は最近、酪農産業に関し、“supply management system” を設定している。
供給の管理、ミルク製品の価格の設定、割り当てを超える輸入品に関税を課すというものである。

米国の酪農家は数年前に出てきた ultra-filtered milkの需要に対応するため、工場建設に多額の投資をし、生産とカナダ向け輸出を増やした。
乳蛋白質は残すが、ラクトースや水分やミネラルを除去したもので、チーズやヨーグルトの生産に使用される。

カナダ最大の州であるオンタリオ州は昨年、ミルクの在庫の急増に対応して、ultra-filtered milkなどの価格を引き下げた。

この結果、カナダのメーカーはカナダ産の購入を増やし、米国品の需要が減少した。

本年初めには、カナダ政府は、このミルクの価格引き下げを長期的に続けること、オンタリオ州から全国に拡大することを明らかにした。

これを受け、カナダ国境に接する米国の酪農家(特にWisconsin 州とNew York州)は、最早、ミルク事業はやっていけないとしている。
米国で生産するミルクの15%が輸出されており、市場を失う農家にとっては大災厄となる。

カナダの酪農業界は逆に、問題は米国の酪農製品の過剰であり、カナダの政策変更はスケープゴートにされているとしている。

カナダとアメリカ全体での供給過剰のなかで価格引き下げは妥当であり、それにカナダの業者は対応したが、アメリカの業者は対応せず、売れなくなっただけではないだろうか。
価格を下げたのは州政府だが、経済原則に沿った行動であり、これにクレームをつけるのは、おかしい。

ーーー

米政府は4月24日、カナダからの輸入針葉樹製材(softwood lumber)に対し、暫定的に平均20%の反補助金課税を行うと発表した。

この問題は1982年から断続的に発生している。

カナダの針葉樹林はほとんどが州政府の所有であり、米国側は製材製品がカナダの連邦及び州政府の補助金を不正に受けていると批判している。価格は市場の競争で決まるのではなく、州政府が決めている。

2006年に両国は Softwood Lumber Agreement を締結した。価格が一定水準を超えている限り、反ダンピング、反補助金課税をしないというもの。2012年にこれを2年延長した。

2015年10月12日にこの協定が切れた。

今回の米側の措置に対し、カナダ側は対抗することを明らかにした。天然資源相は、WTO提訴やNAFTAでの協議を考えており、この課税で職を失う企業や従業員を支援すると述べた。
これまで独立のパネルが米国の主張が根拠がないことを示しているとしている。

Trudeau 首相はTrump大統領に電話し、カナダに対する根拠のない批判と反補助金課税という不当な決定を拒否すると伝えた。

米国のRoss商務長官は、カナダを親密な同盟国と呼ぶ一方、カナダが勝手にやっても良いということではないと述べた。直ちに次の手を打つ考えはないが、この紛争はNAFTAの再協議を急がせることとなるとした。


2017/5/12    PPGによるAkzoNobelの買収交渉 

米塗料・化学品大手のPPG Industries Inc.によるオランダの同業大手AkzoNobel の買収の交渉が難航している。

AkzoNobelは、PPGによる2度の提案を拒否したが、3度目の「最後の」提案については、取締役会で注意深く検討するとし た。

しかし同社は5月8日、PPGの提案を拒否した。4月19日発表の単独生き残り戦略(後記)の方がベターだとする。

PPGが敵対的買収を行う可能性が出てきた。

AkzoNobelの株主である「物言う株主(activist investor)」のElliott Advisorsは、これまでAkzoNobelに対して買収提案を受けるよう促してきたが、3度目の拒否を受け、オランダの裁判所で企業の紛争を扱うEnterprise Chamber of the Netherlandsに対して会長解任を求める臨時株主総会の招集を求める嘆願書を提出した。多額の買収提案を拒否するのは、株主への義務に著しく反するとしている。
最初のヒアリングは5月18日に開かれる。

付記 PPGは6月1日、慎重に検討した結果、買収を断念したと発表した。

ーーー

PPG Industries Inc.は3月9日、AkzoNobel に3月2日に買収提案を行い、拒否されたと発表した。

PPG は買収による両社の統合は強い戦略的意義があり、検討を続けると述べた。

統合により、塗料、ペンキ、特殊化学品で強力なグローバルプレイヤーになるとしている。

ーーー

PPGは3月20日に二度目の提案を行い、AkzoNobel は3月22日に再び拒否した。

買収価格は1株当たり 88.72 ユーロで、現金 56.22ユーロ とPPG株式0.331株で支払うというもの。負債引き受けや株式配当込みで約245億ユーロ となる。

AkzoNobel では、この提案がAkzoNobel の現在および将来価値を反映しておらず、独禁法問題を含む株主にとってのリスク、不確実性を含んでいるとして拒否した。

ーーー

PPG は4月24日、AkzoNobel への買収提示額の再度引き上げを発表した。

買収価格は1株当たり 96.75ユーロで、現金 61.50ユーロとPPG株式0.357 株に増やした。負債引き受けや株式配当込みで約  269億ユーロとなる。

PPGは
AkzoNobel に対し、今回が「最後の招待状」と通告した。

AkzoNobel は4月19日に単独生き残り戦略を発表しているが、その後同社の株価は下落しており、PPGは、今回の同社の提案はこれよりも遥かによいものだと自賛している。

AkzoNobel の単独生き残り戦略は、1年以内にSpecialty Chemicals 事業を分離して、上場するか売却し、残るPaints and Coatings 事業に専念するというもの。
事業の将来性への自信を示すため、配当の50%増と、11月に10億ユーロの特別配当を行うとしている。

PPGでは、AkzoNobel が目標を達成できていないのに、これを2社に分けた場合、小さくなった2社がやっていける保証はないとし、PPGとAkzoNobel を統合すれば、年間のシナジー効果 750百万ドルを含め、両社の株主にとっての長期的価値は遥かに大きいとしている。

AkzoNobelが懸念する独禁法問題については、いろいろな検討の結果、タイムリーに承認を得られると確信しており、条件が付いた場合には、相互に合意するレベルの分割を行う用意があるとしている。
また、承認に自信を持つため、仮に承認が得られない場合にはかなりのreverse break-up feeを支払う用意があるとする。

更に、買収後にも現在のAkzoNobelのオランダ、欧州との関係を維持する。

AkzoNobelの現在の欧州拠点はそのまま。統合後の建築・装飾用コーティング事業の本部はオランダに置き、船舶用コーティング事業は英国とオランダを拠点とする。
統合会社はNYSEとアムステルダムに上場する。
欧州のAkzoNobelの製造拠点は米国に移さない。
オランダと英国のAkzoNobelへのサプライヤーは、大きくなる新会社に販売する機会を与えられる。

従業員についても保護を約束した。

AkzoNobelのコアの戦略についても尊重するとしている。

ーーー

2016年のAkzoNobelの部門別実績は下記の通り。(100万ユーロ)
  Sales Operating Income
Decorative Paints 3,792 27% 366 21%
Performance Coatings 5,640 40% 735 42%
Specialty Chemicals (分離予定) 4,760 34% 629 36%
本社ほか 5 0% -211
Total 14,197 100% 1,519 100%
Profit for the period     1,052  

 

これに対するPPGの部門別実績は下記の通り。(100万ドル)

  Sales Segment Income
Performance Coatings 8,580 58% 1,314 55%
Industrial Coatings 5,690 39% 1,042 43%
Fiber Glass 481 3% 53 2%
Total 14,751 100% 2,409 100%
Net Income     877  
   同 (2015)     (1,406)  

 

AkzoNobelは2007年に ICIを買収した。

ICI は1982年にLDPEをBPに売却、1986年にPVC事業をEnichemのPVC事業と統合してEVCとし、その後 Ineosに売却した。
1993年には医薬・農薬事業を分離独立させ、Zenecaとした。(1999年、スエーデンのAstraと合併してAstraZenecaとなる)
また、同年、DuPontとの事業交換で、ナイロン事業をDuPontに渡し、DuPontのMMAを取得している。

ICIは1997年に、化学品のなかでも付加価値が高く、投下資本が少なく、景気変動の影響が少なく、研究開発により重点を置いた事業に急速に転換することを決めた。

1997年7月、ICIは英蘭系Unileverの特殊化学品4社を買収した。
 
National Starch社(工業用接着剤、レジン、産業用でんぷん)
 Quest社(香料、乳化剤、芳香剤)
 Uniqema社(脂肪酸、グリセリン)
 Crosfield社(シリ
カ、ケイ酸塩、ゼオライト)

同時に同社は既存事業を順次分離・売却していった。

その結果、ICIはスペシャリティ化学品を中心とした「新生ICI」に生まれ変わった。
4事業部門から成るが、塗料のほかの3事業は1997年にUnileverから購入した事業が中心となっている。

その後、Quest、Uniqema を売却し、売却代金を退職年金不足額の充当と負債の返済に充てた。

2006/3/7 ICIの抜本的構造改革

Akzoは2007年8月13日、ICI を約80億ポンド(約1兆9000億円)で買収することで合意したと発表した。

ICIの塗料部門取得が目的で、AkzoはICIの買収後、National Starch 部門のうち接着剤とエレクトロニック材料事業をHenkel に売却した。
(残り部門は2010年6月にCorn Products International に売却した。)

2007/8/13 Akzo が ICI を買収


2017/5/13 中国の「一帯一路」計画の現状 

中国政府は「一帯一路」計画をテーマにした初の国際会議「一帯一路フォーラム」を5月14日から2日間、北京で開催する。会議にはロシアのプーチン大統領ら28か国の首脳などが出席する。
北朝鮮の対外経済相も出席する。

日本からは自民党の二階俊博幹事長ほかが出席する。 中国から招待されていた世耕経済産業相は出席を見送ったが、会議出席による日米関係への影響を考慮したとされる。
しかし、その米国は
、米中「100日計画」合意により、White HouseのアドバイザーMatt Pottinger を代表とするチームを派遣することとなった。

「一帯一路構想」は、中国から中央アジアを経て欧州に至る「シルクロード経済帯」と、中国沿岸部からアラビア半島までを結ぶ海上交通路の「21世紀海上シルクロード」を中国が中心になって開発していくという構想である。

習近平主席は2014年11月4日、中央財経指導グループの第8回会議を招集し、 「シルクロード経済ベルト」と「21世紀の海のシルクロード」計画 (一帯一路構想:Belt and Road)、アジアインフラ投資銀行(AIIB)およびシルクロード基金の設立という「中国版マーシャルプラン戦略」(中国メディア)について検討を行った。

習主席は11月9日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の関連会議で基調講演し、「各国と協力して二つのシルクロード経済圏の建設を進める」と述べた。
アジアインフラ投資銀行(AIIB)などを通じ、中国自らの資金で地域経済の一体化を主導する意欲を示した。

2014/11/13 中国のシルクロード経済圏構想 

 

付記

習近平国家主席は5月14日、「一帯一路」国際協力サミットフォーラムの開幕式に出席し、基調演説を行った。

 シルクロード精神のコアを総括

平和協力、開放的包摂、相互学習・相互参考、互恵・ウィンウィン

 今後の建設目標

「一帯一路」は今後、平和の道、繁栄の道、開放の道、革新の道、文明の道を建設していく。

 中国が実施を約束する大事業

関連諸国の鉄道部門と国際定期貨物列車「中欧班列」の提携深化協定の調印。

シルクロード基金の資金を新たに1000億元(約1兆8千億円)増加。

中国国家開発銀行が2500億元(約4兆5千億円)と中国輸出入銀行が1300億元(約2兆3400億円)に相当する人民元特別融資をそれぞれ提供し、「一帯一路」のインフラ施設の建設や生産能力、金融提携のサポートに用いる。

今回の国際協力サミットフォーラム開催期間中に、30ヶ国以上との経済貿易提携協定に調印し、関連諸国と自由貿易協定を協議する。

2018年から中国国際輸入博覧会を開催。

この先5年間で、延べ2500人の青年科学者を中国に招き、短期間の科学研究業務に従事させ、延べ5000人の科学技術および管理スタッフを育成、共同実験室50ヶ所を設置、運用。

この先3年間で、「一帯一路」建設に参加する発展途上国家と国際組織に600億元(約1兆800億円)の援助を提供。

「一帯一路」沿線の発展途上国に20億元(約170億円)の緊急食糧援助を提供。

南南協力援助基金に10億ドル(約1194億円)の増資。

沿線国家に「幸福家園(幸せな家)」100ヶ所、「愛心助困(愛を込めた貧困扶助)」100ヶ所、「康復助医(リハビリと医療援助)」100ヶ所等のプロジェクトの実施。

 「一帯一路」の提携範囲

ユーラシア大陸とアフリカ大陸が重点エリアとなるが、同時に全ての国を歓迎する。アジアや欧州、アフリカ、アメリカ大陸などいずれの国も「一帯一路」建設の国際提携パートナーとする。

付記

アジアインフラ投資銀行(AIIB)は5月13日、バーレーン、キプロス、サモアの域内3ヶ国と、ボリビア、チリ、ギリシャ、ルーマニアの域外4ヶ国の加盟を発表した。合計で77か国となる。
(AIIBではトルコとキプロスは中東とみなし、域内扱いをしている。アジア開銀はトルコは域外扱い)

 

 

人民網日本語版(2017/5/5)は重大プロジェクトを総まとめしている。

インフラ建設から工業へ、さらに人的・文化的分野に至るまで、さまざまなプロジェクトが各地で花盛りとしている。

インフラ
プロジェクト
鉄道 中国ー欧州間
鉄道
全国27都市で欧州間鉄道路線51本が開通し、欧州11カ国28都市へとつながっている。
2011年に運航がスタートしてから、2017年4月までの間に、累計3千本余りの列車が運行し、国際陸上物流の基幹ルートとなった。

2017/1/21 初の中国・英国 直通貨物列車、ロンドン到着

インドネシア ジャカルターバンドン高速鉄道の建設
 中国の技術、基準、設備が採用された総合的システム型プロジェクト

建設用地収用が遅れていたが、ジョコ政権が強制収容に着手し、融資条件の土地収用完了の目途が立った。5月15日に融資契約を結ぶ見込みで、5月中にも建設工事が本格的に始まる見通し。

ロシア モスクワーカザン(タタルスタン共和国の首都)高速鉄道 (800km)
 完成すれば、現在の14時間から3.5時間に短縮される。
その他 ハンガリー - セルビア鉄道、中国ータイ鉄道、中国ーラオス鉄道、マレーシア南部鉄道、ケニアのモンバサーナイロビ鉄道、ナイジェリアのアブジャ - カドゥナ鉄道、アディスアベバ - ジブチ鉄道などの協力プロジェクト
港湾 パキスタン グワダル港
2016年11月、中国企業が建設と運営を手掛けるグワダル港で船舶が就航した。

2013/2/20 中国、パキスタンのグワダル港の運営権を取得 

ギリシャ ピレウス港
 2016年8月、中国企業が同港の港務局の大株主となり、経営を引き継いだ。

2016/4/12 ギリシャ、最大のピレウス港を中国に売却 
その他 ケニアの港、スリランカのハンバントタ港などの協力プロジェクトがある。
橋梁 セルビア ゼムン-ボルカ橋
 中国が欧州で建設した最初の大型橋梁で、設計と施工をすべて中国企業が主導した。2014年12月完成。
バングラデシュ バングラデシュ南西部と首都ダッカを結ぶパドマ橋
 2016年8月に着工。中国企業が請け負う協力プロジェクトとしては過去最大のもの。
その他 エクアドル 公共安全緊急指揮センター
 傘下に16の指揮センターが設立され、エクアドル全域をカバーする。中国企業が建設を担当、中国の設備と技術が100%採用された。
工業プロジェクト ミャンマー 中国・ミャンマー石油ガスパイプライン
 原油輸送でマラッカ海峡を航行する必要がなくなる。

2013/5/24  パイプライン万里長城が完成
英国 Hinkley Point C 原発プロジェクト
 中国・フランス両国企業が共同で投資・建設を行う。

2015/10/28   中国、英国の原発に出資、中国製原発も導入  

サウジアラビア ヤンブーの石油精製工場 (Sinopec初の海外石油精製プロジェクト)

Yanbu Aramco Sinopec Refining Co.(YASREF)
 
Saudi Aramco1 62.5% Sinopec 37.5% 
 
日量400千バレル

2012/1/18 Saudi AramcoとSinopec、サウジでの製油所建設の合弁契約締結

エジプト 送電線路プロジェクト EETC 500・1千ボルト級送電線路

 エジプト最大、最高電圧等級の送電線路プロジェクト

その他 セルビアのスメデレヴォ製鋼所、ベトナム・ビントァン省のビンタン発電所、キルギスのビシュケク発電所の改修プロジェクトなどの協力プロジェクト。
工業パークプロジェクト ベラルーシ 中国 - ベラルーシ工業パーク(Great Stone)

 総面積 91.5 km2 でシルクロード経済ベルトの新たなランドマーク。2014/6に基礎工事着工、総建設期間は30年で、3期に分けて建設。

マレーシア マレーシア - 中国 Kuantan 産業パーク

2013年に開園。
中国 - マレーシア欽州産業パークとともに、「2国2パーク」を構成

カンボジア シアヌークビル港経済特区

 中国初の海外経済貿易協力区の1つで、カンボジア政府認可の最大の経済特区。
 繊維、アパレル、金属機械、軽工業、家電などを基幹とする。

人的・文化的プロジェクト シルクロード書香プロジェクト

 2014年12月認可で、重点翻訳事業への資金援助、シルクロード各国の書籍の相互翻訳など

シルクロード生態文化万里行

 中国の優れた伝統文化を基礎プラットフォームとして、生態文化を称揚し、グリーンライフを提唱し、生態文明の共同建設を主旨とし、数千年の歴史を持つ中国民族の文化の精華を世界に広める。

国際国境協力プロジェクト 霍爾果斯(Khorgos)国際国境協力センター

 中国とカザフスタンの国境にまたがる越境経済自由貿易区で、上海協力機構の枠組における地域経済貿易協力のモデル区。

 


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