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2019/7/1 Huawei、知的財産権に関するホワイトペーパーを公表

Huawei(華為技術)は6月27日、同社のイノベーションと知的財産権に関するホワイトペーパーを発行し、知的財産権に関する紛争を「政治問題化」することへの懸念を表明した。

Huawei White Paper on Innovation and Intellectual Property : Respecting and Protecting Intellectual Property: The Foundation of Innovation 

記者会見した同社の上級副社長兼最高法務責任者は、知的財産権はイノベーションの基礎であり、それを「政治問題化」することは世界各国における進展を脅かすことになると警告した。

 「政治家が知的財産権を政治の道具として使えば、特許保護制度の信頼を破壊することになる。一部の国の政府が選択的にある企業をその国の知的財産権保護制度から排除すれば、世界のイノベーションの基礎を壊すことになる」と述べた。

イノベーションと知的財産権の保護こそがHuaweiの過去30年間の成功の土台であることを示した。

知的財産権に係る紛争は司法プロセスを通じて解決されるべきだとし、Huaweiは過去30年間において、悪意ある知的財産権の盗用・剽窃に関与したとの裁決を受けたことはなく、そのためこうした行為に対する損害賠償を求められたこともないと強調した。

また、Huaweiが知的財産権を尊重したうえで協調的なアプローチを採用してきたことは、同社の成果が、3G、4Gそして5Gなどの携帯電話の通信技術に関する標準規格にオープンに組み込まれているという事実からも明らかだと指摘し、Huaweiの製品を直接購入していない国であっても、Huaweiの発明に依拠する必須特許を利用しており、Huaweiが創造した技術がもたらす価値を共有していると述べた。

さらにHuaweiの特許の使用に関するスタンスについて、特許ポートフォリオを今後も「武器」として使用することはないと述べた。オープンかつ協調的なスタンスで、産業界での特許ライセンスにあたってはFRAND(Fair, Reasonable, and Non-discriminatory:公平、合理的、かつ非差別的)原則を堅持するとした。

「Huaweiはこれまでと同様に、当社の技術を世界と常に共有する準備があり、またしていきたいと考えている。これには5Gも含まれ、米国の企業や消費者も含まれる。私たちは協力して産業の発展を進め、人類に価値をもたらす技術を進化させることができるのです」

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トランプ大統領と習近平国家主席は6月29日、大阪市内で会談した。

会談終了後、トランプ大統領は「素晴らしい会談だった。期待以上といえるだろう。協議は再開する」と記者団に語った。

トランプ大統領はHuaweiへの事実上の禁輸措置に関連し「アメリカ製品をこれからも売ることを認めていきたい」と述べ、米企業によるHuaweiへの部品販売などを認める考えを示した。
「大量の米国製品がHuaweiのさまざまな製品に使われており、取引を続けてもかまわないと思っている」と述べた。「安全保障上問題がないところは、装備・設備などを売ってもいい」とし、この問題については「今後どうなるのか見極めたい」と語った。

米国家経済会議(NEC)のクドロー委員長は6月30日、Huaweiに対する制裁緩和について、禁輸対象リストに同社を残し続けると明らかにした。

「一般的な恩赦ではない」と説明した。米商務省は「Entity List」に引き続き掲載する。米国製品などを輸出する企業に対しては、汎用品の取引にのみ輸出許可を出す。

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Executive Summary 概要:

過去30年以上にわたり、情報通信技術に焦点を置き、世界の30億人以上をネットワークで結び付けた。世界のあらゆる環境でのネットワークをサポートするよう全力を尽くす。

このビジョンの実現のため、イノベーションと研究開発を重視する。毎年、売り上げの少なくとも10%をR&Dに投資する。2018年には売上の15%、1000億人民元以上をR&Dに使った。EUの統計でR&D投資で世界5位になっている。その結果、革新的製品、効率的なサービスを需要家に供給できた。

過去20年以上、R&Dに重点投資し、ICTセクターで主要な4G特許保有者となり、5Gでのリーダーの地位を固めた。(5G開発に5年で20億ドルの投資)
IPの尊重、保護がイノベーションの基礎と信じる。

イノベーションの実用化を推進するため、ライセンスやクロスライセンスで我々のIPを他社とシェアしている。研究結果の発表もしている。毎年、多くの情報を専門誌に発表し、産業の進展に努めている。

> 基礎研究を重視し、投資を続けるのがHuaweiの現在の成功のキイである。

2018年末時点で、8万7,805件の特許を保有し、そのうち1万1,152件は米国で登録されたもの。

> 現在、毎年100〜200の報告を専門誌に行っている。

> Huawei のイノベーションは同社の需要家、消費者、業界、投資家に膨大な利益を与えている。

> Huawei は第三者のIP、商業秘密を尊重する。IPの管理、コンプライアンスのシステムを構築し、全ての従業員がこれをも守るよう全力を尽くしている。

> Huawei は世界の主要企業(Nokia, Ericsson, Qualcomm, Nortel, Siemens, Alcatel, BT, NTT DOCOMO, AT&T, Apple, Samsung など)と友好的な交渉を通じ、100件以上のライセンス契約(クロスライセンスを含む)を結んできた。

> Huawei は2015年以降、米欧アジアの幅広い企業から14億ドル以上のライセンス料を受け取っている。

> Huawei は国際ルールを尊重し、過去20年で第三者のIP利用のため累積で60億ドル以上を支払っている。

> Huawei はIP保護の法制度改革のため提案を行っている。


 


 

 

2019/7/3  政府、半導体材料の対韓輸出規制を発表 

政府は7月1日、韓国への半導体材料の輸出規制を厳しくすると発表した。有機ELに使うフッ化ポリイミドなど3品目について、個別に審査・許可する方式に切り替える。安全保障上の友好国である「ホワイト国」の指定も削除する。

経済産業省は規制の理由に「不適切な事案の発生」などを挙げるが、元徴用工訴訟をめぐる韓国への事実上の対抗措置である。

付記 韓国政府、日本の規制強化受け半導体素材開発に5500億円投資へ

付記

韓国政府は2019年9月18日、日本を「ホワイト国(輸出管理の優遇対象国)」から除外する措置を盛り込んだ「戦略物資輸出入告示」の改正案を施行した。日本が輸出管理上の優遇対象国から韓国を除外した措置とは根本的に異なり、日本が輸出管理制度の原則に反して制度を運用したため、国際協力が難しいと判断して取った措置であることを強調した。

付記

経済産業省は2023年3月16日、日本が2019年7月に導入した韓国への半導体材料3品目の輸出管理の厳格化措置を解除すると発表した。

韓国政府は同日、厳格化措置を受けて進めてきた世界貿易機関(WTO)の紛争解決手続きを取り下げると発表した。

日本政府は軍事転用の恐れが低いとされる製品を自由に輸出できる「グループA(旧ホワイト国)」の対象からも韓国を除外していたが、この措置は継続し、対話を続ける。

韓国の尹錫悦大統領は同日、日本に到着、首相官邸で岸田文雄首相と会談した。韓国大統領が単独で来日するのは12年ぶり、日本で日韓首脳が会談をするのも5年ぶりとなる。

2023/3/9 韓国、元徴用工解決策を発表 

付記

韓国政府 は2023年4月24日、輸出手続きを簡素化する「ホワイト国」に日本を再指定することなどを盛り込んだ戦略物資輸出入告示改正案を確定し公布した。 同日午前0時から発効した。

日本は米国、英国、フランスなどと共にホワイト国に含まれた。これにより、ホワイト国は29カ国となった。韓国企業が日本に戦略物資を輸出する際の許可審査期間は15日から5日に短縮される。提出書類も5点から3点に減る。

 

付記

経済産業省は2023年4月28日、安全保障上問題がない国として輸出手続きを簡略化する「グループA(ホワイト国)」に韓国を再指定する方針を示した。日韓の輸出管理に関する局長級の「政策対話」を通して韓国の管理体制の改善が確認できたことを理由としている。

政府は6月27日の閣議で、輸出手続きを簡素化する「グループA(旧ホワイト国)」に韓国を復帰させる政令改正を決定した。7月21日に施行した。

 

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発表概要:

経済産業省は、「外為法」に基づく輸出管理を適切に実施する観点から、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行う。

輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されているが、関係省庁で検討を行った結果、日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況である。
こうした中で、大韓民国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生したこともあり、輸出管理を適切に実施する観点から、下記のとおり、厳格な制度の運用を行うこととする。

1.大韓民国に関する輸出管理上のカテゴリーの見直し

7月1日より、外為法輸出貿易管理令別表第3の国(いわゆる「ホワイト国」)から大韓民国を削除するための政令改正について意見募集手続きを開始する。

付記

政府は8月2日、安全保障に関連する物品の輸出管理で手続きを優遇する「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正を閣議決定した。政令は8月7日に公布され、28日に施行される。
ホワイト国からの除外は初めて。

経産省は同日、「ホワイト国」等、輸出管理上の国別カテゴリーの実務上の名称を変更した。

グループA
(旧ホワイト国)
輸出令別表第3 アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国、大韓民国(Bへ)
グループB 輸出管理レジームに参加、一定要件を満たす。 エストニア、ラトビア、リトアニア、トルコ、南ア、大韓民国など
グループC   その他の国
グループD 別表第三の二 アフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、イラク、レバノン、リビア、北朝鮮、ソマリア、スーダン
別表第四 イラン、イラク、北朝鮮

 

 

2.特定品目の包括輸出許可から個別輸出許可への切り替え

7月4日より、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の大韓民国向け輸出及びこれらに関連する製造技術の移転について、包括輸出許可制度の対象から外し、個別に輸出許可申請を求め、輸出審査を行う 。

 

注1 ホワイト国 

貨物や技術を輸出する場合、「リスト規制」と「キャッチオール規制」に該当しないことを確認する必要がある。

軍事転用の可能性が特に高い機微な貨物に該当するものは、輸出貿易管理令・別表第1の1〜15項で指定されている。これが「リスト規制」

輸出しようとする貨物や提供しようとする技術が、大量破壊兵器等の開発、製造、使用又は貯蔵もしくは通常兵器の開発、製造又は使用に用いられるおそれがあることを輸出者が知った場合、又は経済産業大臣から、許可申請をすべき旨の通知を受けた場合には、輸出又は提供に当たって経済産業大臣の許可が必要となる制度が補完的輸出規制( 「キャッチオール規制」)と呼ばれる。

大量破壊兵器等に関する条約に加盟し、輸出管理レジームに全て参加し、キャッチオール制度を導入している国については、これらの国から大量破壊兵器の拡散が行われるおそれがないことが明白であり、俗称で 「ホワイト国」と呼んでおり、これらの国への輸出はキャッチオール規制の対象外となる。

具体的には、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、 大韓民国、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、アメリカの合計27ヶ国。

今回、韓国を外す。その場合、軍事転用の恐れがある先端技術や電子部品などを日本から輸出する際に許可が必要となる。

注2 包括輸出許可制度

許可申請は原則個別申請で契約案件ごとに対応する。日本の輸出審査にかかる時間は約3か月が標準である。

包括許可制度は一括して許可を受けることができる手続きで、いちいち個別許可申請の必要がなくなり、業務効率化を図ることができる。

韓国のこれら製品の在庫は通常、1〜2か月とされており、個別申請に切り替わると、原料切れで生産に影響を及ぼす可能性がある。

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韓国最高裁が日本企業に賠償を命じた元徴用工訴訟で、原告側は日本企業の韓国内の資産売却の手続きを進めている。実際に現金化されれば、企業に実害が及ぶ。

韓国政府は三権分立を盾に実効的な対策を打っておらず、日本政府は韓国側の姿勢を不当とする立場を明確に示す必要があると判断した。

経産省は今回、フッ化ポリイミド、半導体製造で使うレジスト(感光材)、エッチングガス(フッ化水素)の3品目を対象に、輸出ごとに許可・審査を求めるよう改める。

レジストは日本メーカーの世界シェアが9 割にのぼり、エッチングガスも9 割前後とされる。3品目の対韓輸出では、企業が輸出手続きに時間がかかり、韓国の生産に影響が出るおそれもある。

また、韓国をホワイト国から外した。その場合、軍事転用の恐れがある先端技術や電子部品などを日本から輸出する際に許可が必要となる。

 

韓国の半導体製造用精密化学原料は、日本からの輸入割合が41.9%になる。精密化学原料の中でもフッ化水素は半導体洗浄に必須のもので90%以上を日本から輸入している。

韓国業界のある関係者は「フッ化水素をまともに作れる国は日本以外にほとんどない。サムスン電子、SKハイニックスなども日本製を使っている」と伝えた。

韓国では、数カ月前からこれを予測する報道が流れていた。

 4月8日の韓国 中央日報の記事

日本が強制徴用賠償判決などに対する抗議として経済報復措置を取る場合、半導体業界の打撃が大きいという懸念が出ている。
時事通信は先月、日本政府が韓国に対し報復関税、一部日本製品の供給停止、ビザ発給制限など100種類余りの報復措置を用意したと報道した。供給停止製品にはフッ化水素が含まれるだろうとの観測も流れている。
フッ化水素輸入が途絶えれば韓国の半導体生産がまひする。そうでなくても輸出に困難を経験する半導体業界に致命打になりかねない。

もちろん経済報復が現実化すれば日本も大きな影響を受けることになる。産業研究院のキム・ヤンペン研究員は「先月日本政府が対韓輸出制限を示唆した時に日本の経済団体が懸念を示した」と伝えた。日本の半導体製造装備輸出で韓国の割合は23.1%に達しており対韓輸出の道が閉ざされれば日本企業も莫大な売り上げ減少は避けられない構造だ。

 

今回の韓国への措置は、貿易上の必要性からではなく、別件での報復で、トランプ政権の中国からの輸入品への追加関税やHuaweiに対する制裁 、以前に起こった中国の日本向けレアメタル輸出規制と同じことである。

自由貿易を掲げてきた日本の方向転換と受け止められかねない懸念がある。

韓国政府は7月1日、 「日本の輸出規制措置はWTOの協定上禁止されている措置であり、遺憾に思う」とし、「政府は国際法と国内法にのっとって断固対応する」と述べた。

日本国内にはWTOルールに抵触しないという意見と、協定違反の疑いもあるグレーなものとする意見がある。

元徴用工訴訟にからむ問題での日本政府の今回の措置は、韓国国民の反発を呼ぶのは必至である。韓国では半導体産業だけが好調で、現在の韓国経済はこれでもっている。この生産に支障がでて、韓国経済が更に悪化した場合、韓国国民の対日感情は更に悪化すると思われる。

脅されて方針を変更すれば、政権はもたない。この措置で韓国政府が動き、元徴用工訴訟の問題が解決に向かう可能性はほとんどない。

単に韓国との関係を更に悪化させるものとなる。

 

長期的には、韓国は重要原料については自製を図るだろう。その場合、日本企業は需要を失うこととなる。

日本は禁じ手を使ってしまった。日本はフッ化物の原料の蛍石を中国からの輸入に頼っていることも勘案しておく必要がある。

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3品目のうち、フッ化水素は半導体洗浄、エッチングに使用される。ステラケミファや森田化学工業が生産し、日本が9割程度の高いシェアを握る。

工業的に使用されるフッ素(フッ化物)は、CaF2を主成分とする蛍石を出発原料としている.

少し古いが、2012年の世界の生産量は純分換算(48.7%)で3,440千トンで、うち、中国が62%、以下、メキシコ17%、モンゴル7%となっている。

日本ではフッ素原料として、蛍石及びフッ化水素を輸入している。
蛍石の輸入は高純度品の場合は中国が82%を占める。低純度でセラミック等の用途はメキシコが80%、中国が12%。

フッ化水素の輸入は中国が98%を占める。但し、高純度フッ化水素は中国では生産していない。

国内でフッ化水素の製造を行っているのは、セントラル硝子、AGC(旭硝子)、三菱マテリアル電子化成の3社である。

エッチング用の高純度フッ化水素はテラケミファや森田化学工業が生産する。

 

石油天然ガス・金属鉱物資源機構 レポート http://mric.jogmec.go.jp/public/report/2014-06/28.20140601_F.pdf

 

以前に韓国でも高純度フッ化水素を生産したが、2012年にガス漏れによる死亡事故を起こしている。高純度フッ化水素はごく少量でも致死量に達する猛毒で、また分解スピードが遅いため土壌と植物に長期間にわたり悪影響を与えたとされる。

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フッ化ポリイミドは、高耐熱性・高絶縁性・高強度プラスチックであるポリイミドに新たな機能を付加したもので、下記の特徴・用途を持つ。

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レジストは、半導体や液晶パネルの製造工程で、回路パターンを形成する材料として使用されている。

フォトレジストは光を照射すると物理的・化学的変化を生じるが、この原理を利用して回路パターンを形成する。パターン露光された部分が現像でなくなるポジレジストと露光部分が残るネガレジストの二種類がある。

JSR、東京応化、信越化学、富士フィルム等が生産している。

 


2019/7/3 EU トップ人事決定 

欧州連合(EU)は6月30日から7月2日まで3日続いた臨時首脳会議で、トップ人事を決定した。

  現在 任期 後任
  国籍 現職
欧州委員長 Jean-Claude Juncker 2019/10/末 Ursula von der Leyen ドイツ ドイツ国防相
ECB総裁 Mario Draghi Christine Lagarde フランス IMF専務理事
EU大統領 Donald Tusk 2019/11/末 Charles Michel ベルギー ベルギー首相
外交安全保障上級代表
(「EU外相」)
Federica Mogherini   Josep Borrell スペイン スペイン外相

  青字は女性

 

付記 

欧州委員会の新体制が、予定された11月1日に始動できない見通しになった。閣僚に相当する欧州委員の人事案について、欧州議会の承認を得られていないため。10月末に任期を終えるユンケル氏率いる現委員会が、新体制発足まで暫定的に継続する。

付記

EUは11月27日、欧州委員会の次期委員長として von der Leyen氏を承認、欧州委員候補らも併せて承認した。12月1日に新体制が発足する。

ーーー

これまでは欧州委員長は欧州議会の第一会派が擁立する「筆頭候補」が選任されたが、今回は従来方法を見直し、筆頭候補が自動的に選ばれる方式を採らないことを確認した。
 

今回の選挙では、親EUの二大会派が議席を減らす一方で、右勢力や「緑の党」が伸長し、多極化が進んだ。

EUの意思決定がより困難になることを懸念し、欧州委員長には、首脳らと欧州議会の双方から幅広い支持を得られる人選が必要との認識で一致した。

今回は特に、フランスのマクロン大統領とドイツのメルケル首相が対抗している。

欧州委員長の候補には、下記の名が挙がっていた。

  出身 現職 会派   推薦
Manfred Weber ドイツ 欧州議員 欧州人民党
(中道右派)
組織トップの経験なし メルケル首相

Frans Timmermans

オランダ 欧州委
第一副委員長
欧州社会・進歩連盟
(中道左派)
ユンケル委員長右腕 マクロン大統領
Margrethe Vestager デンマーク  欧州委員
(競争政策) 
欧州自由民主同盟
(リベラル)
米のIT大手と対決
初の女性委員長狙う
Michel Barnie フランス Brexit
主席交渉官
欧州人民党
(中道右派)
 

メルケル首相は最大会派欧州人民党のWeber欧州議員を推すが、マクロン大統領は、「カリスマ性と経験ある人物がふさわしい」と主張、それを満たす候補として他の3人を挙げた。

 2019/6/4 欧州議会選挙の結果と新体制の選出

ーーー

仏独の妥協の結果、欧州委員長には中道左派グループが推すTimmermans 元オランダ外相を軸に検討したが、ハンガリーやポーランドと激しく対立してきた経緯があり、イタリアや東欧などの反対で立ち消えになった。

議論が行き詰まるなか、2人の女性トップという大胆な提案で事態を打開したのが、マクロン仏大統領だった。

欧州委員長には中道右派の有力女性政治家で、ポスト・メルケルにも名前が挙がったUrsula von der Leyen 独国防相を選んだ。

ECB総裁に指名されたChristine LagardeはIMF専務理事として欧州債務危機に対応し、債務危機をともに乗り越えたメルケル独首相との関係も良好とされる。

付記  EUは10月18日の首脳会議でECB総裁を正式決定した。


欧州議会の第2会派、中道左派グループは von der Leyen 氏の委員長起用に猛反発している。

これまでの、欧州委員長は欧州議会の第一会派が擁立する「筆頭候補」から起用するというルールを無視したことへの反発で、中道左派グループが反対すれば議会の過半数の確保は難しく、各国首脳が議会を説得する。 (欧州委員長のみ、7月中旬の欧州議会で承認されることが必要)


付記

欧州議会は7月16日、Ursula von der Leyen 欧州委員長の承認をめぐる採決を実施し、過半数の賛成で承認した。
賛成は383票で、欠員を除いて承認に必要な総議席の過半数374票をぎりぎり上回った。

11月1日に就任する。

 


2019/7/4 EUと南米南部共同市場(Mercosur)、FTAで 基本合意 

EUと南米南部共同市場(Mercosur:アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ4か国) は6月28日、自由貿易協定(FTA)について基本合意に達した。足掛け約20年の交渉がようやく実を結んだ。

なお、Mercosur加盟4か国は欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国(アイスランド、スイス、ノルウェー、リヒテンシュタイン)との間でもFTA交渉を行っており、ほぼ合意に達しているとされる。
 

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Mercosur(Mercado Común del Sur)は英語では Common Market of the South で、1995年1月1日にアルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの南米南部諸国の関税同盟として発足した。域内の関税撤廃等を目的とする。

2012年7月31日にベネズエラ が正式加盟したが、創設4ヵ国の外相は2016年12月2日、ベネズエラに対して加盟国資格を一時停止すると通知した。2012年の正式加盟から4年以内にメルコスール規則を国内で制度化するという約束を履行できていないというのが理由 である。(ベネズエラのマドゥロ大統領は、思想の異なる国を排除しようとするクーデター行為だと非難した。)

2012年12月にボリビアが加盟議定書に署名し たが、各国議会の批准待ちで、正式にはまだメンバーではない。

準加盟国は、チリ、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、ペルー、スリナムの6か国。

Mercosur (アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)とEUは2000年にFTA交渉を開始したが、EUが牛肉の輸入急増 を懸念、Mercosurが自動車市場など一部工業製品の市場開放に消極的なことから交渉は難航していた。

2003年にブラジルとアルゼンチンに左派政権が成立したことも影響し、交渉を中断し、その後、再開と中断を繰り返した。

2015年にアルゼンチン、2016年にブラジルで政権交代があり、交渉を再開、今回政治合意に達した。EUと米国との間の貿易交渉が凍結状態になったことを受け、EUが交渉を加速化させた。

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Mercosurの人口は260百万人で、EUとMercosurを合わせた人口は780百万人に達する。

現在の双方の貿易額はモノが880億ユーロ、サービスが340億ユーロとなっている。EUのモノの輸出は450億ユーロ、輸入が430億ユーロでほぼ均衡している。サービスでは230億ユーロの輸出、110億ユーロの輸入で約2倍である。

協定で、最終的にEUのMercosur向けのモノの輸出の91%がなくなる。EU企業にとり、最終的に年間40億ユーロの関税がなくなる。

産業品の場合、自動車 (関税 35%)、自動車部品 (14-18%)、機械 (14-20%)、化学品 (up to 18%)、医薬品 (up to 14%)、衣料、履物 (35%)、織物 (26%) など。

農産物では、チョコレート・菓子 (20%)、ワイン (27%)、酒類 (20 to 35%)、ソフトドリンク (20 to 35%)

チーズなどの酪農品についても、輸入割り当てはあるが、現在28%の関税が無税になる。

逆に、最終的にEU向けのMercosurのモノの輸出の92%の関税がなくなる。

食品衛生や動植物の衛生植物検疫措置 (SPS)はEUの最高水準が適用される。食品衛生についてはEU産も輸入品も変わらない。

欧州委員会発表 http://europa.eu/rapid/press-release_IP-19-3396_en.htm

EUは自動車など工業品の市場アクセスに期待している。MercosurとのFTAが発効すれば、EUが受けられる関税削減の恩恵は日本との貿易協定の4倍にもなるとされ、EUがこれまでに締結したどの貿易協定よりも大きくなる可能性がある。

参考 EUの対カナダ、対日本、対Mercosur のFTAの対比:EUにとって関税削減の恩恵は大きい。(Wall Street Journal)

Mercosur側は牛肉や砂糖などの農産品の輸出を拡大させたい考え。ブラジルはオレンジジュース、インスタントコーヒー、果物などの一部農産品の輸入関税が撤廃され、肉類、砂糖、エタノールなどの市場アクセスが改善されるとし、向こう15年間にわたりブラジル経済の押し上げ要因となるとの見方を表明 している。

なお、双方とも関税がなくなるまでには時間がかかる。

EUとMercosurのFTAは暫定合意に至ったが、FTAの発効にはEU加盟国のほか欧州議会の支持を得る必要があり、簡単ではない。

EU内ではフランスなどが牛肉輸入の急増による影響を懸念しているほか、欧州議会選挙 で勢力を強めた環境団体がMercosurとのFTA締結で森林破壊が一段と進む恐れがあると主張し反対している。

 



2019/7/4  米国、EU航空機補助金巡る報復関税対象追加 
 
米通商代表部(USTR)は7月1日、EUによる欧州の航空機大手エアバスへの補助金を巡り報復関税を課す可能性のある40億ドル相当の追加品目リストを公表した。前回と合わせると総額250億ドル相当となる。

EUは7月2日、航空機への補助金を巡る米国との対立が関税合戦に発展する可能性が高まるなか、米国との協議に前向きとの考えを示した。

この問題が世界貿易機関(WTO)によって裁定されるべきとし、米国が自ら可能性のある損害額を算定し、報復措置の規模を測ることはできないと主張した。

「前提条件なしで公正な結果を目的としたものであれば」米国との交渉に前向きだとし、ただ、WTOの仲裁で米国の関税が認められれば、EUは直ちに報復措置を取るとも述べた。

 

欧州エアバスと米ボーイングが絡む通商紛争で、世界貿易機関(WTO)の紛争処理手続きの最終審に当たる上級委員会は2018年5月15日、EUによるエアバスへの補助金がボーイングに損害を与えたとの判断を下した。

WTO上級委員会は2019年3月28日、米国政府による米航空機大手ボーイングへの補助金提供はWTO協定に違反するとのEUの主張をおおむね認める判断を下した。

航空機産業への支援をめぐって10年以上続いた米欧間の通商紛争は事実上、痛み分けの形で決着した。


WTOの判断をもとに、米国とEUは報復関税の応酬を行っている。

米国:

2019/4/8  USTR

EUによるエアバスへの補助金を不当とし、EUに対する追加関税措置の暫定リストを公表 (210億ドル相当)、大型商用機やその部品のほか、乳製品やワインを含む。

USTRは、EUの補助金により米国が毎年110億ドルの損害を被っていると試算しており、最終的な追加関税の対象額は2019年夏の発表が見込まれるWTOの裁定に従い決定するとしている。

Trump 大統領 

「WTOはEUによるエアバスへの補助金で米国が損害を被っていることを認めており、EU製品110億ドルに対して関税を課す。EUは長年、貿易で米国につけ込んできたが、間もなく終わる」と発言している。

7/1 USTR

追加で40億ドル相当の品目リスト
オリーブやイタリア産チーズ、スコッチウイスキーなどさまざまな食品や酒類

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EU:

4/17 欧州委員会

米国に対する追加関税措置の200億ドル相当の暫定リスト公表
品目は500を超え、航空機に限らず、化学品から農水産・食品(冷凍食品、かんきつ類、ケチャップなどを含む)まで広範にわたる。

 


2019/7/5 日本が協力するロシアのメタノール生産計画が始動 

ロシアの政府出資ファンドのRussian Direct Investment Fund (RDIF)は6月29日、Russia-Japan Investment Fund を共同で運営するRDIFと日本のJBIC IG Partners(下記参照)が、ロシアのインフラ投資・運営大手AEON Infrastructure Corporation とともに、RDIFがロシアのVolgogradで計画しているメタノール工場建設計画に協力することで合意した。

調印はG20出席のため大阪に来ているプーチン大統領、安倍首相の出席のもとに行われた。

併せて、AEONの子会社のGTM ONEは丸紅との間で、生産されるメタノールの供給契約に調印した。工場の設計業務は、GTM ONEと三菱重工の間で結ばれた契約に基づき行われる。

メタノールの能力は年産100万トンを超える。

以上がRDIFによる発表で、出資比率等については触れていない。丸紅もこの事業に参加しているが、日本側の発表はまだない。

この計画は、日ロ経済協力の一環である。

2016年5月、ロシア南部のソチで開催された日露首脳会談において、安倍 首相からプーチン大統領に対して、日露経済交流の促進に向け、8つの項目からなる協力プラン提示し、以降、日露でプロジェクトが進められている。

 

計画は、年産100万トン以上のメタノールをVolgogradにあるKhimprom の工場跡地に建設するもので、総投資額は8億ドル以上となっており、2020年初めに建設を開始し、2022年後半の完成を目指す。
 

Khimpromの工場跡地には必要なインフラ設備は整っており、生産に必要な天然ガスが十分に供給されるようになっている。

Volgogradにはロシアと中央アジアの天然ガスが東ルートパイプラインで運ばれる。

製品は生産全量を輸出する。この立地からは、最低のコストで製品を市場に輸出できる。

ーーー

メタノール工場を建設する立地は、Khimpromの工場であった。

Khimpromは1931年に建設された化学会社で、化学兵器の神経ガスを生産していた。1959年にサリンガスを、1967年にソマンガスを生産開始した。これらは1987年に公式に生産停止した。

しかし、1991年にソ連の第4世代化学兵器計画("Foliant"計画)の一環として、5〜10トンのバイナリー神経ガスを生産したといわれている。

毒性物質の前駆体となる二種類の化学物質が容器内に物理的に隔離された状態で同梱された二種混合型兵器。使用されたとき、容器の中の二種の化学物質が混ざり化学反応を起こすことによって毒性物質を生成する。

ソ連崩壊後は、同社はオキシ塩化リンやリン化合物、フッ素化合物を生産していた。

2000年代に入り、同社の財政状態は悪化し、2012年に破産宣告した。

工場の生産は2014年に完全に停止し、2015年1月に清算され、従業員は解雇された。同時に、数十年の稼働で汚染された環境被害の回復が開始された。

 


2019/7/6 メキシコの壁建設、控訴裁も国防費流用を認めず 

 
連邦第9区巡回控訴裁判所(サンフランシスコ)は7月3日、トランプ政権が国防予算を転用してメキシコ国境に壁を建設する計画の一部を差し止める地裁の仮命令を支持した。地裁に続いて高裁も、議会の承認を得ずに予算の使い道を変えるのは違法だと判断した。

政権側は上告した。しかし、これらの司法判断が覆るまで、対象となった部分の壁建設を止める必要がある。

ーーー

米カリフォルニア州の連邦地裁のHaywood Gilliam Jr. 判事は5月24日、大統領権限で国防予算をメキシコ国境沿いの壁建設に振り向ける計画について、一部を暫定的に差し止める判断を下した。

政権が壁建設に使用しようとしている67億ドルのうちの、アリゾナ州とテキサス州の2つの地域で51マイルの壁を建設するための10億ドルについてである。

壁建設に反対する Sierra Club と南部国境コミュニティ連合を代表してAmerican Civil Liberties Union が行った訴訟に対するもの。5月25日にも壁の建設作業が開始される予定であった。

壁建設のために防衛予算から流用する資金は議会から使用を認められたものではないと理由で、資金使用を一時的に停止することを命じた。

2019/5/27 メキシコとの国境の壁建設、連邦地裁が一部を暫定差止 

 

Gilliam Jr. 判事は6月28日、カリフォルニア州とアリゾナ州の間の79マイルの壁についても15億ドルの予算転用を禁止した。

今回、控訴審はこの合計25億ドルの計画を差し止めた。

3人の判事の意見が分かれた。うち 2人が、政権は議会の承認なしに予算を流用する権限を持たないとする地裁の判断を支持した。

Obama 大統領が指名したMichelle Friedland判事と、George W. Bush 大統領が指名したRichard Clifton判事が、「議会に歳出の権限を与えた憲法を尊重し、壁建設への資金支出を何度も拒否したことにみられる議会の公共の利益の理解に任せることが、最善であるということで一致した」としている。

同じくGeorge W. Bush 大統領指名のN. Randy Smith判事は、この結論を「未知の、リスキーなアプローチだ」とした。「法的判断の最も基本の概念に矛盾する。これまで無かった憲法の問題を生んだ」としている。

 


2019/7/8 豪州のLynas、米国でレアアースの生産JV 

豪州のLynas Corpは5月20日、テキサスのBlue Line  Corporation との間で、Blue Lineのテキサス州の工場内にレアアースを分離・精製する工場を建設する覚書を締結した。

Lynasがマジョリティを持つJVを設立し、来年にかけて処理工場を建設すべく協力する。

Lynasは豪州のMt.Weld レアアース鉱床からレアアース鉱物(モナザイト等)を採掘、西オーストラリア州南部のEsperance 港からマレーシアへ海上輸送し、Lynas Advanced Materials Plant で分離・精製し、更に最終消費者の要求にあったレアアース製品とした後、米国・欧州・日本などへ販売している。(詳細下記)

Blue Line Corporationはテキサス州San Antonioに本社、同州Hondo に工場を持ち、レアアース、ジルコン化合物、ゾル-ゲル法などを扱っている。

 

レアアースは下図の黄色の部分である。

Lynasは現在、マレーシアで軽希土のPr、Nd を主に生産している。テキサスでは当初は重希土を生産し、その後は軽希土も生産する予定。

中国以外で重希土、中希土を大規模に生産する唯一の工場となる。

Lynas では、これまで米国の需要家に遠く離れたマレーシアから製品を供給してきたが、現地で供給できるようになるとしている。

 

米国での生産の理由の一つには、マレーシア工場の問題がある。

Lynasは豪州でレアアース鉱物を採掘しているが、希土類鉱石には、トリウム 232 やウラン同位体等の放射性物質が含まれている。

放射性廃棄物の環境基準が厳しく,国民の環境意識が高いオーストラリアでは製錬工場の稼働は困難で、当初は中国に設置する計画が立てられたが,中国政府が環境規制を突然厳しくしたため,マレーシアに変更された。

マレーシアでは、以前に三菱化成のレアアース工場の問題があり2011/7/7 豪州レアアース開発会社Lynas Corp. と三菱の2)、当初から反対運動があった。

2018年5月にMahathir Mohamad 元首相(92)率いる野党連合が予想外の歴史的勝利を収めた。Lynasの工場に反対してきた野党連合が政権を取り、非常に厳しくなった。

現在、ライセンスの更新(2019/9/2) のために、何年にもわたって工場に蓄積している廃棄物を処分することを求められており、今後、生産に支障が出る恐れもある。これが米国進出の理由の一つである.


Lynasは本年5月、マレーシアでの能力増強と廃棄物処理に5億豪ドル(347百万ドル)を投ずる計画を発表した。

Mahathir 首相は5月30日、ライセンスの更新を行うことを明らかにした。しかし、今後、いろいろと問題が生じる恐れはある。

 

付記 

オーストラリアの複合企業Wesfarmers は3月26日、豪レアアース大手のLynas Corporationに買収を提案したと発表した。

2019/3/29  豪複合企業Wesfarmers、レアアースのLynasに買収提案

Wesfarmersはマレーシアのライセンス更新を買収条件の一つとしていたが、8月16日のLynasの発表では、排水浄化残渣の永久保管設備の場所の承認を得られるのが確実になったというだけであった。

Wesfarmersとしては、これだけでは話を続けられないとし、交渉を中止した。

ーーー

Lynas は1983年にYilgangi Gold NLとして設立され、1985年にLynas Gold NLに改称し、西オーストラリア州Pilbara地域で金探鉱を行っていた。

2001年6月に金プロジェクトを売却し、社名をLynas Corporation に変更、2002年5月にレアアースのMt.Weld 鉱床の権益100%を取得し、同鉱床の探鉱開発に集中していった。

Mt.Weld 鉱の鉱物資源量は、770万t、酸化レアアース品位12%となっている。
(精測鉱物資源量120万t :品位15.7%、概測鉱物資源量500万t :品位11.8%、予測鉱物資源量150万t :品位9.9%)

第1 フェーズは、投資総額5 億4 千万米ドル、生産能力11,000 トン/年で、2011 年第3 四半期より操業を開始。
第2 フェーズは、投資総額2 億5 千万米ドルで鉱山、および製錬所を拡張(追加生産能力11,000 トン/年)するもので、2012 年第4 四半期より操業を開始。

Mt.Weld レアアース鉱床からレアアース鉱物(モナザイト等)を採掘、西オーストラリア州南部のEsperance 港からマレーシアへ海上輸送、Lynas Advanced Materials Plant で分離・精製し、更に最終消費者の要求にあったレアアース製品とした後、米国・欧州・日本などへ販売する。

2010/10/5 レアアース、米・豪・カザフなど生産拡大 

Lynas Advanced Materials Plant はKuantan港の近くのGebeng Industrial Estateにある。2012年末に生産を開始した。

日本政府はJOGMEC を通じ、第二フェーズの建設資金として約225 億円の融資を実施し,約25 億円を出資している。双日と JOGMEC、Lynasとの間で,年間 8500 トンのレアアース供給を 10 年間行なうという契約が成立している。

2010/11/25 双日、レアアースの供給・拡張プロジェクトで豪州Lynasと戦略的提携の基本合意 

 

マレーシアの環境問題については下記が詳しい。

http://www.kohara.ac/syllabus/2017a/5ddbf9d7995ea6b7528dfc13432d4d33e275dd82.pdf

Lynasの事業についてのプレゼンテーション:
 https://www.lynascorp.com/wp-content/uploads/2019/05/190521-Investor-Day-Presentation-Lynas-2025-1931391.pdf

 


2019/7/9  石油化学事業統合会社の決算 

各社の決算が官報で報告されている。(サンアロマーのみ12月決算)

概要をまとめた。設立以降、ほとんどの会社が株主構成が変わっている。

テクノポリマーは2018年4月にUMG ABSと統合し、テクノUMGとなった。

各社の詳細は下記参照
  http://www.knak.jp/kessan/

 

単位:百万円

  主製品 現在の株主   売上高 営業損益 当期損益
日本ポリエチレン PE 日本ポリケム(三菱化学)58%
日本ポリオレフィン   42%
 (昭電 65%/JX 35%)
2018/3月期 126,798 7,141 4,943
2019/3月期 136,107 2,739 1,814
日本ポリプロ PP 日本ポリケム(三菱化学) 65%
チッソ 35%
2018/3月期 122,677 6,520 5,217
2019/3月期 144,567 3,028 5,296
サンアロマー PP 昭和電工 65%
JXエネルギー 35%
2017/12月期 54,773 3,229 2,467
2018/12月期 61,466 2,817 1,938
プライムポリマー PE/PP 三井化学 65%
出光興産 35%
2018/3月期 234,778 13,225 10,603
2019/3月期 259,904 13,280 5,496
大洋塩ビ PVC 東ソ− 68%
三井化学 16%
デンカ  16% 
2018/3月期 45,959 295 268
2019/3月期 45,940 -996 -1,148
新第一塩ビ PVC トクヤマ 85.5
住友化学 14.5%
2018/3月期 15,972 1,231 1,055
2019/3月期 17,542 894 723
日本A&L ABS 住友化学 67% 
三井化学 33%
2018/3月期 42,628 1,623 1,579
2019/3月期 44,385 1,388 1,422
  テクノポリマー ABS JSR 100 2018/3月期 44,774 4,939 3,634
テクノUMG JSR 51%
UMG ABS 49%
(三菱化学50%/宇部興産50%)
2019/3月期 90,053 8,109 5,477
PSジャパン PS 旭化成ケミカルズ 62.07%
出光興産 37.93
2018/3月期 54,727 2,725 1,883
2019/3月期 57,537 4,252 2,936
東洋スチレン PS デンカ 50%
日鉄ケミカル&マテリアル 35%
ダイセル 15%
2018/3月期 42,805 2,398 1,676
2019/3月期 45,329 2,899 2,037

 

 


2019/7/10 英国の駐米大使、トランプ政権を酷評 

英大衆紙Daily Mailは7月7日、駐米大使のSir Kim Darrochから英外務省への報告の機密公電の内容を明らかにした。

https://www.dailymail.co.uk/news/article-7220335/Britains-man-says-Trump-inept-Cables-ambassador-say-dysfunctional.html

2017年から現在に至るまでのもので、その中でトランプ政権について「今後、より正常な状態に近づくことや、機能不全、予見不可能性、派閥ごとの分断、外交的なまずさ、無能さが改善されるとはまず考えられない」などと報告している。

As seen from here, we really don7t believe that this Administration is going to become substantially more normal; less dysfunctional, less unpredictable, less faction-riven, less diplomatically clumsy and inept.

次の報告もある。

Trump政権は無能。
 I don't think this Administration will ever look competent.

White House 内部に争い('knife fights')がある。
  bitter conflicts within Trump's White House – verified by his own sources – as 'knife fights'

Trump大統領は怪しいロシア人に借りがある模様。
   Trump could have been indebted to 'dodgy Russians'

Trump大統領の経済政策は世界の貿易システムを破壊する。
  the President's economic policies could wreck the world trade system

スキャンダルにまみれた大統領は破滅するかも。屈辱と没落に至る下方スパイラルの始まりか。
  the scandal-hit Presidency could 'crash and burn' and that 'we could be at the beginning of a downward spiral... that leads to disgrace and downfall'

ーーー

付記

Daily Mailは7月14日、トランプ政権のイランの核合意からの離脱についての大使の公電を再び暴露した。内容は次の通り。

「トランプ氏が核合意を破棄するのは、オバマ前大統領が承認したものだという『個人的な理由』からだ」

「トランプ氏の側近の間でも意見は分かれており、どう核合意の離脱を進めるか戦略を持っていなかった」

「トランプ政権は外交的な破壊行為を進めている」、「欧州や他の地域の友好国に相談する計画もない」
 

ーーー

これを知り、Trump大統領は7月8日、ツイッターで呟いた。

英国とメイ首相のBrexit の扱いはひどい。ひどいことになっている。首相にはこうしたらと言ったのに、逆のことをしている。

I have been very critical about the way the U.K. and Prime Minister Theresa May handled Brexit.
What a mess she and her representatives have created. I told her how it should be done, but she decided to go another way.

大使は知らないが、米国では好まれておらず、よく思われていない。もう相手にしない。

I do not know the Ambassador, but he is not liked or well thought of within the U.S.
We will no longer deal with him.

英国にとってよいことは、間もなく新しい首相が生まれることだ。先月国賓として訪英したが、私が最も感銘を受けたのは女王だ。

The good news for the wonderful United Kingdom is that they will soon have a new Prime Minister.
While I thoroughly enjoyed the magnificent State Visit last month, it was the Queen who I was most impressed with! 


Trump 大統領のツイートから数時間後に、メイ首相の報道官はメモ流出は遺憾だとの英国の見解を改めて表明し、その上で「大使は引き続き首相の完全な支持を得ている」と述べた。

次期英首相候補のハント外相は「私は米政権についてや米政権との関係に関する大使の評価に同意しないことを明確にしている。ただ彼が率直な評価を下す権利は擁護する」と述べた。その上で、メモを漏えいした人物は「重大な結果」に直面するとした。

一方、ブレグジット党のナイジェル・ファラージ党首はツイッターで、大使は「この職務にまったく不適任で、辞任が早ければ早い方が良い」と書いた。

Trump 大統領は翌日、再び呟いた。

英国が米国に押し付けた頭のおかしい大使を我々はよく思っていない。とてもばかなやつだ

The wacky Ambassador that the U.K. foisted upon the United States is not someone we are thrilled with, a very stupid guy.

失敗したBrexit交渉についての私の批判に動揺せず、本国に伝えろ。私の言った通りにせず、うまくいかなかったのだ。災難だ!

He should speak to his country, and Prime Minister May, about their failed Brexit negotiation, and not be upset with my criticism of how badly it was handled. I told Theresa May how to do that deal, but she went her own foolish way - was unable to get it done. A disaster!

大使については知らないが、思いあがったバカ者だとのことだ。彼に言ってやれ、米国は今、世界でベストの経済と軍隊をもち、さらに大きく、よく、強くなっていく。Thank you, Mr. President!

I don’t know the Ambassador but have been told he is a pompous fool. Tell him the USA now has the best Economy & Military anywhere in the World, by far and they are both only getting bigger, better and stronger.....Thank you, Mr. President!

 

大使は1954年生まれで、キャリア外交官として42年間の経歴を持つ。2016年1月に駐米大使として着任した。

 

付記

Darroch大使は7月10日、辞任した。 大使は書簡で「公電文書が大使館から漏えいして以来、自身の立場、および大使としての在任期間を巡る憶測が飛び交っている。こうした憶測に終止符を打ちたい。現状では自分自身の役割を自分が望むように果たすことは不可能になっている」とした。

大使の任期は年末までだった。

 


2019/7/11 ギリシャで新首相誕生 

ギリシャで6月7日に総選挙の投開票が行われ、圧勝した保守派の新民主主義党(ND)のKyriakos Mitsotakis党首(51)が新首相に就任した。6月8日に就任宣誓式が行われた。

ギリシャの選挙制度では250議席を比例代表制で争い、第1党には50議席のボーナスのほか、得票率が3%に届かなかった少数政党の議席が与えられる。
新民主主義党(ND)は158議席を獲得、全300議席の過半数を獲得し、
金融危機後初めて、単独政党の政権が成立した。

新民主主義党(ND)は2012年6月に129議席(50議席加算後)を獲得、民主的左翼(DIMAR)及び全ギリシャ社会主義運動(PASOK)と連立政権を樹立したが、2015年1月及び9月に急進左派連合(SYRIZA)に敗れた。

今回、単独で政権を獲得した。

なお、2009年に全ギリシャ社会主義運動が当時の政権党の新民主主義党を破り、パパンドレウが首相となったが、パパンドレウ首相が前政権・新民主主義党の粉飾を明らかにしたのが、ギリシャ危機のきっかけとなった。

Mitsotakis党首は、1990年〜93年に首相を務めたKonstantinos Mitsotaki の息子で、Harvard University卒、McKinsey & Companyの元コンサルタント。親ビジネスを掲げ、雇用創出と法人税の引き下げや規制改革などを公約に掲げてきた。

 

これまで与党の急進左派連合(SYRIZA)を率いるAlexis Tsipras前首相は、欧州債務危機に陥った同国で国際債権団による救済後のかじ取りの続投に懸けていたが、実現には至らなかった。

前首相は、ギリシャが金融危機下にあった2015年、反緊縮財政を訴えて熱狂的な支持を集め、政権を奪取した。しかし結局、EUなどからの金融支援の継続と引き換えに、年金カットや増税などの緊縮実行を受け入れた。

このため、与党内で造反の動きが続出し、8月14日の財政改革法案(EU側からの金融支援の条件)では与党から多数の反対が出た。

チプラス首相は8月20日夜にテレビを通じて演説し、辞任して、総選挙を行うと表明した。改めて信任を問うもの。

9月20日に投票、開票が行われ、チプラス首相は信任された。急進左派連合の造反派のうち 25名が離党し結成した新党「民主統一」は全員が落選した。
この時点では、ギリシャ国民はEUの求める緊縮策を受入れ、EU残留を望んだこととなる。

2015/9/24 ギリシャ総選挙でチプラス首相信任

ギリシャは2018年8月に金融支援から脱却し、自主的な再建を進めている。一方で国内総生産(GDP)は危機前の4分の3に縮小し、失業率も依然18%の高水準にある。

このため、国民の不満が高まった。

更に、ギリシャは長年にわたり、隣国マケドニアの国名を巡り争ってきたが、2018年6月12日、両国政府は欧米の仲介で マケドニアの国名を「北マケドニア共和国」に変更することで合意した。ギリシャがEUなどへの加盟反対を取り下げることでも合意した。

これも国民の不満を生んだ。

2019/2/5  「北マケドニア」、NATO加盟へ

新民主主義党(ND)の Mitsotakis党首は、「チプラス政権はマケドニアの国名変更合意を含め、ギリシャに何ももたらさなかった」と批判し、国民の支持を獲得した。

 

2018年のギリシャのGDP比の公的債務残高は181.1%と高水準で、60%以内に抑えるよう定めたEUの規律からは遠い。

新民主主義党(ND)は法人税減税などの景気刺激策を掲げて勝利したが、財政支出が拡大すれば欧州委と対立する可能性がある。

これは、イタリアなど南欧各国に共通するもので、単一通貨をとりながら財政は別々というEUの制度の欠陥による。どの党が政権をとっても難しい。

 

ーーー

総選挙の推移:

  2012/5
選挙前
2012/5
選挙
2012/6
再選挙 
2015/1
選挙
2015/8
造反
2015/9
選挙
  2019/7 増減
民主的左翼(DIMAR) 0 19 17 0 0 17

緊縮推進
EUとの合意支持

-17
全ギリシャ社会主義運動(PASOK) 160
(110+50)
41 33 13 13
新民主主義党(ND) 82 108
(58+50)
129
(79+50)
76 76 75 158
(108+50)
+83
(連立与党) (242) (149)
組閣失敗
           
(連立与党)     (179)            
民衆統一(新党) 25 0

SYRIZA離党 反緊縮

急進左派連合(SYRIZA) 13 52 71 149
(99+50)
124 145
(95+50)
反緊縮財政 方針変換

EU緊縮策受入
86 -59
独立ギリシャ人 (ANEL) 0 33 20 13 13 10 反緊縮財政
(
中道右派
2012年NDから分離
-10
(連立与党)       (162) (137) (155)      
ギリシャ共産党 (KKE) 21 26 12 15 15 15 EU、NATOからの脱退主張 15 0
新党 Movement for Change
(Kinima allagis)
  22 22
Greek Solution (Elliniki Lyse)   10 10
MeRA 25   9 9
Course of  Freedom   0 0
黄金の夜明け(ΧΑ) 0 21 18 17 17 18 極右政党 0 -18
正教民衆集会 15 0 0 0 0 0   0 0
河 (Potami) 0 0 0 17 17 11 (新党) 親欧州派、反汚職 -11
中道連合 (Enosi Kentroon) 0 0 0 0 0 9   0 -9
合計 291 300 300 300 300 300   300 ±0

ギリシャでは議席300人のうち250人が比例代表制で選ばれ、最多議席をとった政党に50議席が追加で与えられる。

 


2019/7/12  アフリカ自由貿易圏が発足 

アフリカ連合(AU)は7月7日、ニジェールの首都ニアメーで首脳会議を開き、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が正式に発足したと発表した。

準備期間を置き、AfCFTAの下での貿易は来年7月1日に始まる。

2018年3月

21日の
AU閣僚会議において、AU45か国のうち、44か国がアフリカ大陸自由貿易圏への参加に署名した。交渉開始から3年足らずである。
但し、この時点では、アフリカ最大の経済規模を持つナイジェリアは、国内経済界の強い反対を受けて参加を拒否した。

22か国が批准書を寄託した後30日で効力を生ずる。2019年5月30日に発効した。

物品・サービスの単一市場創設,資本と自然人の移動への貢献等を目標としている。さらには域内移動の自由と域内統一通貨もその先の目標としている。

アフリカ諸国の多くは域外に資源を輸出する経済構造を持ち、アフリカ域内貿易の規模は小さい。アフリカの域内貿易の割合は全体の20%に満たない。

各国は関税などを撤廃し、域内貿易を活性化し、人口約12億人の巨大市場を形成することを狙う。

大陸内貿易の障壁を減らすため、今後5年以内に、参加国の大多数が関税を90%カットする。

国連の後発開発途上国(LDC)リストに入っている国には10年、ニジェールやマラウなど6か国には少なくとも15年の関税引き下げの猶予期間を設ける。

但し、大陸を横断、縦断する物流インフラが不足しているほか、一部の国や地域で頻発する紛争も交易の妨げとなっている。
 

今回、これまで参加を見送ってきたアフリカの経済大国のナイジェリアが同日に署名し発足を後押しした。

AU委員会は、参加国が共通の「原産地規則、非関税障壁の監視と撤廃、統一デジタル決済システム、そしてアフリカの貿易を監視するダッシュボード」に関して合意したと説明した。

ナイジェリアを含め、AU加盟55か国(モロッコからの独立を宣言している西サハラを含む)のうち54か国が協定に合意した。残る1か国であるエリトリアは、協定参加を検討すると発表している。

AUでは、この貿易協定によって2022年までに域内の貿易が60%増加すると推計している。

 



2019/7/12 対韓輸出規制のWTO問題 

韓国への輸出規制を厳しくする日本の措置について韓国政府は7月10日、世界貿易機関(WTO)の理事会で発言し、日本の措置は貿易ルールに反していると批判し撤回を求めた。これに対し日本は「国際ルール上全く問題ない」と反論した。

韓国の白芝娥大使が、日本政府が半導体の原材料などの韓国向けの輸出規制を厳しくしたことについて、「対象になっているのは韓国だけで、WTOの規定に反している。G20大阪サミットで自由貿易の重要性を主張したことに反している」と批判、「日本の措置は、韓国だけでなく世界全体の産業に悪影響を与える」と訴えて、撤回を求めた。

これに対して日本の伊原純一大使は「安全保障上の懸念に基づく貿易管理の見直しで、WTOのルール上、全く問題ない」と反論し、ほかの加盟国に理解を求めた。

取材に対し「禁輸の措置ではなく安全保障に関する貿易管理上の見直しであり、韓国を簡素化手続きの対象から通常に戻す措置だ。したがってWTOのルール上全く問題ないと説明した」と述べた。


韓国の康京和外相は7月10日、ポンペオ米国務長官と電話協議し、日本による輸出規制の強化を巡る懸念を伝えた。「韓国企業に被害をもたらすだけでなくグローバルな供給体制を混乱させ、米企業や世界の貿易秩序にも否定的な影響を及ぼしうる」などと述べた。

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政府は7月1日、韓国への半導体材料の輸出規制を厳しくすると発表した。有機ELに使うフッ化ポリイミドなど3品目について、個別に審査・許可する方式に切り替える。安全保障上の友好国である「ホワイト国」の指定も削除する。

付記

政府は8月2日、安全保障に関連する物品の輸出管理で手続きを優遇する「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正を閣議決定した。政令は8月7日に公布され、28日に施行される。
ホワイト国からの除外は初めて。

経産省は同日、「ホワイト国」等、輸出管理上の国別カテゴリーの実務上の名称を変更した。

グループA
(旧ホワイト国)
輸出令別表第3 アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国、大韓民国(Bへ)
グループB 輸出管理レジームに参加、一定要件を満たす。 エストニア、ラトビア、リトアニア、トルコ、南ア、大韓民国など
グループC   その他の国
グループD 別表第三の二 アフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、イラク、レバノン、リビア、北朝鮮、ソマリア、スーダン
別表第四 イラン、イラク、北朝鮮

 

 

経済産業省は以下の通り発表した。

輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されているが、関係省庁で検討を行った結果、日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況である。
こうした中で、大韓民国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生したこともあり、輸出管理を適切に実施する観点から、下記のとおり、厳格な制度の運用を行うこととする。

 2019/7/3  政府、半導体材料の対韓輸出規制を発表


世耕経産相は7月3日にツイッターで説明した。

韓国への輸出管理上の措置について、なぜこの時期に?等の疑問がまだ寄せられているし、マスコミもまだ完全に理解できていないようなので、今回の措置に至る経緯を改めて説明します。

経緯@

従来から韓国側の輸出管理(キャッチオール規制)に不十分な点があり、不適切事案も複数発生していたが、日韓の意見交換を通して韓国が制度の改善に取り組み制度を適切に運用していくとの信頼があったが、近年は日本からの申し入れにもかかわらず、十分な意見交換の機会がなくなっていた。

経緯A

また近時、今回輸出許可を求めることにした製品分野で韓国に関連する輸出管理を巡り不適切な事案が発生している。

経緯B

さらに今年に入ってこれまで両国間で積み重ねてきた友好協力関係に反する韓国側の否定的な動きが相次ぎ、その上で、旧朝鮮半島出身労働者問題については、G20までに満足する解決策が示されず、関係省庁で相談した結果、信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない。

経緯C

輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されているものであり、経緯@〜Bを勘案した結果、韓国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていると判断し、厳格な制度の運用を行い、万全を期すこととした 。

その前に次の説明をしている。

ホワイト国=友好国ではない。相手国内で輸出管理が厳格に行われているかがポイント。日本にとって重要な友好国であるインドもホワイト国ではない。

さらに重要な事実を指摘しておくと、EUは現在でも韓国を非ホワイト国としています。

軍用品転用可能な技術輸出に関して実効性ある管理を求める国際合意が7つある。合意遵守に必要な見直しを不断に行うことは国際社会の一員として義務。 WTOの自由貿易体制下でも各国にその義務の着実な履行が求められており、各国は履行。今回措置はこの義務履行の一環。 WTO違反には全く当たらない。

参考までに7つの国際合意を列挙します。()内は参加国数。核兵器不拡散条約(191)、化学兵器禁止条約(192)、生物兵器禁止条約(182)、原子力供給国グループ(48)、オーストラリアグループ【生物化学兵器】(42) 、ミサイル技術管理レジーム(35) 、ワッセナーアレンジメント【通常兵器】(42)

 

発言のなかの経緯@、Aからみれば、軍用品転用可能な製品が他国に再輸出された例があるとみられる。

実際に、韓国の産業通商資源省は7月10日、2015年から19年3月までに戦略物資の東南アジアや中国、中東諸国などへの違法輸出が156件に上ったと明らかにした。対象には、生物・化学兵器を含む大量破壊兵器製造にも転用できるフッ化水素などの輸出も含まれていた。

2018年5月にはウラン濃縮に使われる遠心分離機がロシアなどに輸出された。
2017年12月にフッ化ナトリウムなどがイランへ輸出されていた。
日本政府が今回規制したフッ化水素酸も2017年12月にベトナム、2019年1月にアラブ首長国連邦(UAE)へ不正輸出されていた。

フッ化水素酸は核兵器の製造や猛毒サリなどの化学兵器の合成材料にも使われるが、韓国は日本製ではないとし、「サリンに転用されるのは低純度のフッ化水素で、日本から輸入している高純度のフッ化水素が転用されることはありえない」と強調している。

同省は10日発表したリストについて「輸出管理が効果的にされている証左」と主張。「日本は違法輸出の摘発件数さえ公開していない。一部の事例を選んで公開しているだけだ」としている。

これが理由であれば、今回の輸出規制は大使の言う通り、「安全保障上の懸念に基づく貿易管理の見直しで、WTOのルール上、全く問題ない」。

 

問題は、経産省発表の「日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況である」と、世耕 経産相の経緯Bである。「両国間で積み重ねてきた友好協力関係に反する韓国側の否定的な動きが相次ぎ、その上で、旧朝鮮半島出身労働者問題については、G20までに満足する解決策が示されず」としている。

政府や自民党では、「元徴用工」訴訟での判決や、韓国駆逐艦による海上自衛隊哨戒機へのレーダー照射問題などで、韓国制裁が議論されてきたとされる。

夕刊フジのzakzakは1月19日付で「韓国制裁、官邸決断か…23日に日韓外相会談 半導体原材料 フッ化水素 禁輸の声も」という記事を載せている。

聞く耳を持たない隣国に対し、日本では「国際司法裁判所(ICJ)への提訴」や「韓国人の入国ビザ差し止め」といった、対抗措置が本格検討されており=別表=、国内世論も怒りの声で満ちあふれている。

予想される日本政府による韓国への対抗策

@ 国際司法裁判所(ICJ)への提訴
A 韓国人の入国ビザの差し止めを含めた厳格化
B 韓国製品の関税上乗せ
C 貿易保険の適用から韓国を外すなどの輸出規制
D 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への韓国の参加申請拒絶
E 日本国内の韓国企業の資産差し押さえ
F 日本からの部品・素材提供の停止(フッ化水素など)
G 長嶺安政駐韓日本大使の帰国

今回、対抗策の第一弾としてFが発動された。

長嶺安政駐韓日本大使は7月8日、韓国の国会で国会外交統一委員長と1時間ほど会談した。 日本の輸出規制措置の背景に関連し「単に強制徴用者問題のためだけではない。両国間の信頼関係が崩れたため」と述べた。

以上からは、本当の理由は「安全保障上の懸念に基づく貿易管理の見直し」ではなく、韓国の姿勢への制裁と見られる可能性があり、WTOのルール上、全く問題ないとは言えない。

 


2019/7/13 EU、競争法違反でサンリオに制裁金 

欧州委員会は7月9日、サンリオに対し、ハローキティ、マイメロディ、リトルツインスターズ、けろっぴなどのキャラクター付きの製品の販売制限で 6,220千ユーロの制裁金を課した。

欧州委員会は、サンリオが2008年1月から2018年12月までの11年間にわたり、1国のライセンシーが 他の国に販売することを禁止し、Single Market であるEUを分断し、欧州の消費者に損害を与えたと判断した。

欧州委員会は2017年6月に、サンリオとNike、Universal Studiosの3社が、EU Single Marketのなかで国境を越えて販売すること、オンラインで販売することを違法に制限していないか、個別に調査を開始した。

2019年3月にNikeに対し1,250万ユーロの制裁金を課した。Universal Studios については調査続行中。

サンリオは調査に対して法律で決められた以上の協力をし、競争法違反を認めた。このため、欧州委員会は制裁金の40%減を認めた。

 


2019/7/15 英国の Reckitt Benckiser オピオイド中毒治療薬問題で米司法省に14億ドル支払い

米司法省は7月11日、英国の日用品メーカー Reckitt Benckiser Groupが、元の子会社のオピオイド中毒治療薬Suboxone にからむ問題の解決のため、14億ドルを支払うことで合意したと発表した。

Suboxoneの売上高の没収で647百万ドル、連邦政府と州政府との民事の和解で700百万ドル、FTCとの和解で50百万ドルとなっている。

同社は、同社としては常に法律を守っており、違法なことをしたということを明確に否定するが、訴訟継続のコストや不確実性等を勘案し、和解することが会社と株主にとってベストであると判断したとしている。
犯罪の解決策ではなく、法律違反や、会社と従業員の違法行為を認めるものではないとしている。

Reckitt Benckiserは、英国バークシャーに本社を置く、トイレタリー分野を中心とした日用品・医薬品・食品メーカー。1999年12月に、イギリスを拠点とするReckitt & Colman plc と、オランダを拠点とするBenckiser NV.が合併して発足した。2010年6月にコンドームのメーカー SSL Internationalを買収した。現在、世界約60ヵ国に事業所を置き、200か国以上で製品を販売している。

売上高の60%がHealth分野、残り40%がHygiene Homeとなっている。

日本で販売されている製品は次の通り。

女性用脱毛剤 Veet、ニキビ治療薬 Clearasil、薬用石鹸 ミューズ、自動食洗器専用洗剤 フィニッシュ、芳香消臭剤 Air Wick、フットケア用品 Dr. Scholl's 、コンドーム Durex など。

付記 

Dr.Scholl ブランドは北米とラテンアメリカではBayerが所有(Merck & Co. から買収)。Bayerは2019年7月、米の投資会社Yellow Wood Partnersに売却した。

その他の地域はReckitt Benckiserが所有していたが、2014年7月にドイツのprivate equity会社のAureliusが買収した。但し、RBジャパンの販売製品には今もDr.Schollが含まれている。

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オピオイド (Opioid) は、ケシから採取されるアルカロイドや、そこから合成された化合物、また体内に存在する内因性の化合物を指し、鎮痛、陶酔作用がある。

骨折や慢性疼痛、歯科治療で最もよく処方される「ヒドロコドン/アセトアミノフェン配合剤」「オキシコドン/アセトアミノフェン配合剤」「サボキソン」などのオピオイド鎮痛薬は、疼痛管理には非常に効果的だが、常習性があり、また薬剤の高用量の摂取では昏睡、呼吸抑制を引き起こす。

米疾病管理予防センター(CDC)によると、過量服薬による死亡の多くにオピオイドが関与しており、処方箋薬のオピオイドによる死亡は1999年から4倍に増加している。

過去20年で20万人の米国人が死んだオピオイド危機について、トランプ大統領は2017年に public health emergency と呼んだ。

保健福祉省は、2017年4月にオピオイドの包括的対策である「5つの重点戦略」を定め、これに基づき諸政策を進めている。
同戦略は、1)よりよい予防、治療および回復サービスの推進、2)オピオイド乱用に関するデータの作成、分析、3)より的確、無駄のない疼痛管理、4)摂取過剰に拮抗する薬剤開発の推進、5)疼痛とオピオイド依存症の研究促進である。

問題となった治療薬Suboxoneは オピオイドによる陶酔感を減少させ、オピオイドの継続使用を魅力的でないものにさせるもので、4) に関するものである。Suboxone とその原体の buprenorphine は強力な、常習性のあるオピオイドである。

今回の事件は、Reckitt Benckiser Groupの子会社が、米国が全力で取り組んでいるオピオイド危機を悪用して、利益を得たとされる。 販売手法が問題とされたもので、製品そのものが問題ではない。

FDAは2018年6月にSuboxone舌下フィルム剤のジェネリック品を承認した。米Mylan Technologies Inc. とインドのDr.Reddy’s Laboratories SAの2社が承認取得した。

「FDAは、オピオイド使用障害治療法改善への進歩にまた新たな歩みを刻み、薬剤を必要とする患者にアクセスしやすいものにした」としている。

司法省では、同省はオピオイド危機への対応で全力を尽くしており、今回の決定は関係各省庁の継続した協力の果実であるとしている。

 

Reckitt Benckiser Groupの処方箋薬の100%子会社 Reckitt Benckiser Pharmaceuticals Inc.(その後 Indivior Inc.は米国でオピオイド中毒の治療薬Suboxone を販売していた。中毒患者が治療を受ける際に、離脱症状を避けるために投与する承認を受けている。オピオイドによる陶酔感を減少させ、オピオイドの継続使用を魅力的でないものにさせる効果がある。

2014年4月にバージニア州の陪審員は、Indivior が違法にSuboxoneの処方を増やすべく全国的な計画を実行したとして起訴した。

Reckitt Benckiser Groupは、この起訴後の2014年12月に Indivior Inc.をスピンオフした。現在は無関係となっている。

この司法裁判は2020年5月に開始される。

訴状によると、同社は 舌下フィルム剤のSuboxone (Suboxone Film) を全国の医師、薬剤師、Medicaid 担当官に、実際には実証されていないのに、他の薬剤と比べて乱用性が少なく、より安全であると称して販売促進を行った。

また、患者に対してインターネットや電話で “Here to Help” と宣伝し、Indivior を売りつけた。法で認められている以上の多くの患者に、高濃度で、認められていないやり方でSuboxoneを処方することが分かっている医師を紹介していた。

また、小児科分野で懸念があるとして、Suboxoneの錠剤をやめると発表した。実際はFDAが錠剤のジェネリック品を承認するのを遅らせるのが目的であった。

この作戦は大成功で、数千人の中毒患者がSuboxone Filmを使用し、その結果、Medicaid programsのコストが増大した。

Reckitt Benckiser Groupは、当時の親会社として、この司法裁判に被告とされるのを避けるため、Indivior 販売収入の647百万ドルの没収に応じた。更に米国で3年間、製造・販売を行わないことを約束するとともに、捜査に全面的に協力することで、不起訴合意(Non Prosecution Agreement)を結んだ。

このSuboxone のマーケティングの結果、政府のヘルスケアに偽りの請求が殺到したことについての民事訴訟の解決のためReckitt Benckiser Groupは700百万ドル(連邦政府に500百万ドル、和解に参加する各州に200百万ドル)を支払う。
 

別途、Suboxoneのジェネリック品の販売を阻害したことで、Federal Trade Commission Actに反し、競争面で不公正なやり方で事業を行った問題の解決のため、50百万ドルを支払う。同グループは現在、医薬品を製造販売していないが、米国で販売を開始する場合はFTCに連絡する。

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起訴されているIndivior Inc.は、今回のReckitt Benckiser Groupの和解については情報はないとしている。

同社はこれまで、徹底的に戦うとしている。 万一に備え、438百万ドルを引当て天いるが、弁護士からはこれで十分であるとの報告を受けているとしている。


 

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