ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

最新分は http://blog.knak.jp


 

2023/4/17 韓国最高裁、Qualcommへの1050億円の課徴金を確定

韓国最高裁は4月13日、米国半導体大手のQualcommが韓国公取委を相手取って起こした是正命令などの取消請求訴訟で上告を棄却し、公取委の処分が正当だという判決を確定した。
独占禁止法違反での課徴金1兆311億ウォン(約1050億円)が最終確定した。

韓国での同法違反の課徴金としては過去最大額となる。

ーーー

問題となったのは、第3世代(3G)の携帯電話ネットワークが使うCDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多元接続)技術に関するものである。

QualcommのCDMAライセンスは高額で一方的な条件だと評判が悪い。

QualcommはCDMA技術で半導体と携帯電話の両方にロイヤリティを要求している。QualcommはCDMAに関する広範な特許を抑えており、半導体の回路設計の特許も取得している。

その結果、携帯電話メーカーはCDMA技術に対するロイヤリティを部品と完成品で2度支払う羽目になる。

QualcommのCDMAライセンス契約ではライセンシーが圧倒的に不利なクロスライセンス契約を強要されている。

https://obakasanyo.net/qualcomm-license-agreement/

ChatGPTに「QualcommのCDMAライセンスの問題点」を質問すると、下記の回答があった。

QualcommのCDMAライセンスに関する問題点の1つは、競争の欠如です。Qualcommは、CDMA技術に関する特許を保有しており、ライセンス料を取ることができます。この状況により、競合他社が市場に参入することが困難になり、消費者にとっても選択肢が制限されることになります。

さらに、Qualcommは、CDMA技術を使用する携帯電話やスマートフォンの製造業者に対して、高額なライセンス料を要求することがあります。これにより、製造業者のコストが上がり、製品価格が高くなる可能性があります。この問題は、競争がないためにQualcommがライセンス料を自由に設定できることに起因しています。

また、Qualcommは、自社製品に対する競合他社の技術のアクセスを制限することで、市場の競争を阻害しているとの批判があります。このような行動は、消費者にとっても不利益をもたらす可能性があります。

 

ーーー

20091230日、韓国公取委は、Qualcommによる韓国内での違反行為の調査 (第1調査)の結果として、Qualcommに対し課徴金 2,732億ウォンを課し、是正命令を発した。

是正命令は、@差別的なロイヤルティ条件、Aモデムチップに対する条件付きリベート(販売奨励金)の提供、BRadio Frequencyチップに対する条件付きリベート(販売奨励金)の提供、C特許権消滅後のロイヤルティの支払の禁止である。

20102月、Qualcommは、課徴金に対する取消しと是正命令に対する停止を求めて、ソウル 高裁提訴した。

20136月、 高裁は、公取委の判断の大部分を維持する判決を下した。

20137月、Qualcommは、判決を不服として 最高裁へ上訴した

最高裁は20191月、高裁の下した公取委の1調査結果による判断の大部分を維持する判決について、課徴金を2,600億ウォン(約230億円)と判断し、是正命令を発した。

韓国では、公正取引関連の訴訟は公取委の処分が適法かどうかを迅速に判断するため、ソウル高裁が1審、最高裁が2審をする二審制で行われる。

 

韓国公取委は20152月、Qualcommによる国際的な違反行為があったかについての調査(第2調査)を開始した。

@チップセットメーカーへのライセンス拒絶・制限、AQualcomm のライセンシーのみにチップセットを供給、B無償のクロスライセンス、などの拘束条件付きライセンス契約に焦点を当てて違法性を調査した。

20161221日、公取委は2調査によって 、モデムチップセット(携帯電話のグラフィックカードなどを制御する装置)のオリジナル技術を保有しているQualcommが、該当技術を必要とするチップセットメーカーに対し特許提供を断ったり制限したりして市場支配的地位を乱用したと判断した。また、チップセットを買おうとする携帯電話メーカーに対し、不要な特許使用権を載せて販売し、損害を与えたと判断した。

公取委は、Qualcommによる国際的な違反行為があったと判断し、Qualcommに対し課徴金1300億ウォンを課し、是正命令を発した。

是正命令1  下記の禁止

@競合チップセットメーカーに対して標準必須特許(SEP)に関するライセンス契約の締結を拒絶 すること、
A携帯電話
メーカーに対してモデムチップ供給をうけるには事前にライセンス契約の締結を要求 すること(ノーライセンス・ノーチップポリシー)
B携帯電話メーカーとのライセンス契約の締結の際に不当な条件の提示(無償
のグラントバック) をすること

是正命令2.  チップセットメーカーのライセンス要望から60日以内に、チップセットメーカーに特許ライセンス契約案を送付すること。
同契約案には、ライセンス対象特許のリスト、請求項、主要請求項の分析資料及び標準規格
との関連性、実施料の算定方法などが具体的に記載されなければならない。

是正命令3.  特許ライセンス契約条件について合意に至ることができなかった場合にはチップセットメーカーが同意する国際商業会議所(ICC)、世界知的所有権機関(WIPO)、裁判所などの独立した第三者機関に判断を求めること

Qualcomm20172月、公取委の2調査結果によって課された課徴金に対する取消し・是正命令に対する停止を求めて、高裁へ提訴した

ソウル高裁は2019年12月、公取委の是正命令10件のうち8件は適法で課徴金も正当だという判断を出した。

高裁は、Qualcomm が「市場支配的地位を濫用した」とし、また、チップセット市場内で競争を制限する不当な取引をしたと認定した。

高裁は、公取委による是正命令は10件のうち8件は適法あり、公取委が算定した課徴金は適法であると判断し、Qualcomm からの請求を棄却した。

携帯電話メーカーに対する包括的ライセンス契約と携帯電話の価格を基準として算定した実施料及びクロスグラント(特許保有企業が無償で特許を共有する慣行)に関しては「不利益な取引や不当な取引行為とはみられない」として、それらに関する公取委の是正命令は違法と判断した。


Qualcommは判決に不服して上告したが、最高裁も今回、原審の判断に誤りがないとした。

携帯電話メーカーに不当な契約を強要したとして公取委が科した課徴金は妥当だとする判決を言い渡し、これにより、2016年に公取委が科した過去最大規模となる約1兆311億ウォンの課徴金が確定した。

最高裁の関係者は今回の判決について、公正取引法において妥当性のない条件提示や不利益の強制行為などが市場支配的な地位の乱用行為に当たるかに関する判断基準を再確認し、具体化したものだと説明した。

公取委は、同日の判決に対して、「市場支配的事業者が、独占的地位を維持、拡張するために反競争的事業構造を構築し、競争を制限するのは違法だという点を明確にしたという点で重要な意味がある」という立場を明らかにした。

ーーー

Qualcomm の一連の行為について、各国の法的判断は必ずしも一様ではない。

日本の公取委審決(2019/3/15)  排除措置命令を取り消す。公正競争阻害性を有すると認めるに足りる証拠なし。

   https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/mar/190315.html

競争政策研究センター 異業種間の標準必須特許ライセンスに関する独占禁止法上の考察  P.25〜 Qualcomm 事件の検討

上記ペーパーでは欧州委は997439000 ユーロ(約 1308 億円)の制裁金を課したとあるが、その後、EU司法裁判所は2022年8月に支払い命令を無効とした。
 


2023/4/18   米Merck、バイオ企業を1.4兆円で買収 

米製薬大手Merckは4月16日、潰瘍性大腸炎やクローン病(炎症性腸疾患)向けの治療薬を開発している米バイオ企業Prometheus Biosciencesを買収すると発表した。買収総額は108億ドル(約1兆4400億円)。1株当たりの買収提示額は200ドルで、14日終値に75%のプレミアムを乗せた水準 である。

ドイツのMerckとは元は同じだが、現在は別で、これと区別するため、米加以外での社名はMSD(Merck Sharp and Dohme)である。

Prometheus Biosciencesは旧社名Precision IBD, Inc.で、2019年10月に社名変更した。

Prometheusの主力製品であるヒト化IgG1モノクローナル抗体(mAb)PRA023は潰瘍性大腸炎、クローン病、全身性硬化症に伴う間質性肺疾患の治療薬として第IIa相臨床試験段階にあり 、最近、期待の持てる結果が公表された。

Prometheusはまた、炎症性腸疾患の抗腫瘍壊死因子mAbであるPR600、Gタンパク質共役受容体モジュレーター低分子であるPR300、 炎症性腸疾患およびその他の免疫介在性疾患の抗サイトカイン受容体mAbであるPR1100、炎症性腸疾患の抗ケモカインmAbであるPR1800、炎症性腸疾患の抗炎症サイトカインmAbであるPR2100の開発も行ってい る。

MerckのCEOは「これによってわれわれは免疫治療事業に力強く足を踏み入れることができ、特許期間の長さを踏まえれば、2030年代のかなりの期間まで持続的な成長が可能になると思う」と語った。

Merckにとって大きな課題の1つが、2030年の前にも特許切れによって減収が予想される主力製品、がん免疫治療薬「キイトルーダ」の穴埋めを見つけること である。CEOは、Prometheus買収に伴う増収効果が、キイトルーダの特許切れのタイミングにちょうど表れる可能性があるとの見方を示した。


世界の医薬品メーカーは、新規製品の自社開発が困難なため、有望な候補を持つ企業の買収を図っており、買収価格は高騰している。資金のある大企業しか対応できない。

ーーー

キイトルーダ®(一般名:ペムブロリズマブ、MK-3475)は「抗PD-1抗体」とよばれる免疫チェックポイント阻害薬で、T細胞のPD-1に結合することにより、がん細胞からT細胞に送られているブレーキをかける信号を遮断する。その結果、T細胞が活性化され、抗がん作用が発揮されると考えられている。

癌細胞には、免疫細胞攻撃を防止する「免疫チェックポイント」という仕組みがある。

 癌細胞は、免疫細胞からの攻撃を逃れるために、PD-L1 というタンパク質を出し、これが免疫細胞のPD-1 に結合すると、免疫細胞の働きが抑制される。

抗PD-1抗体免疫細胞のPD-1に結合し、PD-1と癌細胞のPD-L1の結合を防止 、免疫細胞ががん細胞を攻撃する。

     

本庶佑博士はPD-1(プログラム細胞死1)を発見し、PD-1阻害が癌治療に寄与することを実証した。これを受けて小野薬品工業とBristol Myers Squibbが販売しているのがオプジーボで、キイトルーダはこれと同じである。

小野薬品とBristol Myers Squibbは、小野薬品と本庶博士の共有に係る抗PD-1抗体の用途特許および小野薬品工業とBristol Myers Squibbの共有の抗PD-1抗体の物質特許を保有しており、Merckの「キイトルーダ®」の販売等の特許侵害に対し、日本、米国、欧州等において特許侵害訴訟を提起するなど係争していたが、2017年1月にMerckと和解した。Merckは技術料を支払った。

2016/11/30 オプジーボと競合する米メルクの癌免疫薬承認へ                            


2023/4/19 米国の電気自動車税額控除の新しい対象発表 

米政府は4月17日、Inflation Reduction Actにより、消費者が電気自動車(EV)を購入する際に税優遇の対象となる車種の新たなリストを明らかにした。

米政府は自国市場のEVについて、消費者が最大7500ドルの税額控除を得られる販売支援策を採っている。4月18日からInflation Reduction Actに含まれた電池材料についての新たな要件を適用するのにあわせ、対象車種を更新した。

低・中所得者がエコカーなどの新車を購入する際に、下記の条件を満たした場合、1台当たり3,750ドルか、7,500ドルのいずれかの税控除を受けられる。

主な要件(控除額は個人の場合)  
税額控除額
価格が5.5万ドル(バンやSUV、ピックアップトラックは8万ドル)未満であること 必須 -
車両の最終組み立てが北米(米国、カナダ、メキシコ)で行われていること 必須 -
電池材料の重要鉱物のうち、調達価格の40%(2027年から80%)が自由貿易協定を結ぶ国で採掘あるいは精製されるか、北米でリサイクルされていること どちらか
必須
3,750ドル
電池用部品の50% (2029年から100%) が北米で製造されていること 3,750ドル

2023年3月28日に「重要鉱物のサプライチェーンの強化に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」(日米重要鉱物サプライチェーン強化協定:日米CMA)が署名され、即日発効となった。米国は、同協定をインフレ抑制法(IRA)上のFTAとみなす。

発表された対象車種は下記の通り。全て米国メーカーのものである。(Stellantisは多国籍企業だが、対象は元々米国車である。)

最大の控除額7500ドルが適用されるEVとPlug-in Hybridは合計でわずか10車種にとどまる。バッテリーの構成部品や重要鉱物の調達先に関する要件が厳格化され、Plug-in Hybridの車種は大半が対象外となった。

Stellantis、Ford、Teslaが生産する別の計7車種には、最大額の半分となる3750ドルの控除が適用される。

Maker Model

Tax Credit

 
Stellantis North America
(PSA/ Fiat Chrysler
Chrysler Pacifica $7,500   Plug-in Hybrid
Jeep Wrangler PHEV 4xe   $3,750 Plug-in Hybrid
Jeep Grand Cherokee PHEV 4xe   $3,750 Plug-in Hybrid
Ford Ford F-150 Lightning $7,500   EV
Ford e-Transit   $3,750 EV
Ford Mustang Mach-E   $3,750 EV
Ford Escape Plug-in Hybrid   $3,750 Plug-in Hybrid
Lincoln Corsair Grand Touring   $3,750 Plug-in Hybrid
Lincoln Aviator Grand Touring $7,500   Plug-in Hybrid
GM Chevrolet Bolt $7,500   EV
Cadillac LYRIQ $7,500   EV
Chevrolet Silverado $7,500   EV
Chevrolet Blazer $7,500   EV
Chevrolet Equinox $7,500   EV
Tesla Tesla Model 3 Performance $7,500   EV
Standard Range   $3,750
Tesla Model Y $7,500   EV

日欧韓メーカーの車はすべて対象外となった。

各社はそれぞれ、今年初めの時点では少なくとも税額控除の一部が適用される車種を有していたが、18日からは適用外となる。

現代自動車がアラバマ工場でことし3月から生産している「GV70」モデルは、北アメリカでの生産という条件は満たすが、バッテリーが中国製だという理由で除外された。

日産リーフも米国で生産されているが、車載電池に関する二つの要件をどちらも満たせなかった。日産は声明で「サプライヤーと緊密に連携し、将来的には、少なくとも一部の優遇策が適用されると期待している」と強調した。

BMW BMW 330e
BMW X5 xDrive45e
現代自動車 Genesis Electrified GV70
日産自動車 Nissan Leaf
Rivian (USA) Rivian R1S
Rivian R1T
Volkswagen ID.4
Audi Q5 TFSI e Quattro(plug-in hybrid)
Volvo S60(plug-in hybrid)

  * Volvoは資本金の82%を中国の浙江吉利が出資

米国では4万〜5万ドルがEVの売れ筋になっており、最大7500ドルの税控除は価格競争力を維持するうえで無視できない。各社は税優遇を受けるため、北米生産を加速したり、調達網を見直したり体制整備を急ぐことになる。


2023/4/20 フィンランドで欧州最大級の原発が稼働 

フィンランド南西部のオルキルオト(Olkiluoto)原子力発電所で4月16日、欧州最大級となる3号機(出力160万キロワット)が本格稼働した。

Olkiluoto 

 

 

No.1 1979/10  890 MW 沸騰水型(BWR)
No.2 1982/7 890 MW 沸騰水型(BWR)
No.3 2023/4

1,600 MW

欧州加圧水型炉(EPR)
Loviisa   No.1 1977 488 MW ソ連型加圧水型原子炉VVER-440/213e
No.2 1981 488 MW

フィンランドで新たに原発が本格稼働するのは40年以上ぶり。約18年前に着工。当初予定から14年遅れての通常運転開始となった。

フィンランド産業電力はユニット3の許可申請を2000年12月にフィンランド政府に行い、建設は2005年に始まったが、技術に関する問題が遅延を引き起こした。原子炉の基礎コンクリートの凹凸の発生、下請け工場が規格の水準に達していなかった重い鍛造品を提供などがあり、EPRの特徴である二重封じ込め構造の構築にも時間を要した。

独立した4つの緊急冷却装置や溶け落ちた核燃料を冷却する「コアキャッチャー」と呼ばれる設備など、最新の安全対策を備えている。

ウクライナ侵攻後、ロシアは昨年5月にフィンランドへの電力供給を停止した。フィンランドはスウェーデンやノルウェーから電力を輸入している。3号機はフィンランドの電力需要の約14%を担う見通し。

 

オルキルオト島では世界で唯一の高レベル放射性廃棄物の最終処分場「オンカロ」が建設中である。

地下およそ520メートルの深さまでトンネルを掘り、そこから横穴を広げ放射性廃棄物を処分する。2024年下半期には運用を開始し、その後2120年頃までの100年間にわたり埋設処分に利用、100年後に施設が満杯になった後は、道を埋めて完全に封鎖する。

プルトニウムの半減期は2万4000年で、生物にとって安全なレベルまで放射能が下がるにはおよそ10万年の月日を要するため、10万年にわたって封鎖され続ける。

ーーー

数時間前には、ドイツ最後の原発3基が稼働を停止したばかりだった。

4月15日にドイツで稼働中の最後の原子力発電所3基が停止した。

  2022/8/3 ドイツ政府、年末までに停止予定の最後の3基の原発の稼働延長を検討 付記


2023/4/21 バングラデシュとロシア、原発プロジェクトの人民元建て決済で合意  

バングラデシュがロシアの支援を得て建設している原子力発電所について、人民元で代金を支払うことで両国政府が合意した。

バングラデシュでは126億5000万ドルを投じて2基の原発を建設する計画で、現在はロシア国営原子力企業ロスアトムと共同で1基目を建設中。

建設費の90%はロシアからの融資で、10年の猶予期間が設けられ28年以内に返済する。

今回は、原発建設の準備作業のためにロシアが払い込んだ融資5億ドルの返済に関係するものである。

バングラデシュ政府高官は「ロシアは当初ルーブルでの支払いを要求してきたが、われわれには不可能だ。従って人民元で支払うことで合意した」と説明した。

ーーー

バングラデシュでは1961年に原子力発電計画が浮上、1963年にRooppur(ルプール)を建設地に選定した。

2010年にロシアと原子力協力協定を締結、ルプール発電所計画を国会承認した。

2015年にロシア国営原子力企業ロスアトムと建設契約に調印、総額126.5億ドルで、ロシアが90%を融資する。

2017年11月に1号機着工、2018年7月に2号機が着工した。いずれもVVER-1200 (AES-2006)で各120万kW。

フル稼働すれば、2400メガワットの電力を発電でき、電力不足に苦しむ国内の1500万世帯に十分な電力を供給できる計算となる。

 

建設費用の90%をロシアからの融資でまかなっており、借入期間は28年、猶予期間は10年となっている。この返済は2027年まで始まらない。

しかし、原発建設の準備作業のためにロシアが払い込んだ融資5億ドルの返済は既に始まっているが、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以来、バングラデシュは合わせて1億1000万ドルに上る3回の債務返済を履行できなかった。 これを含め、318百万ドルが未払いとなっている。

トラブルは2022年3月にロシアの大手銀行数行が国際的な資金決済の大半を扱う「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から締め出されたことで発生した。ルプール原発プロジェクト向けの手続きを扱うロシア政府系金融機関、国営開発対外経済銀行(VEB)も追放された銀行である。

ロシアはバングラデシュ銀行に対し、国内の市中銀行にSWIFTのロシア版といえる「SPFS」への参加を促すよう求めていた。だが、バングラデシュの金融機関は米国の制裁を恐れてSPFSの利用に興味を示さなかった。

2022/3/4    EU、ロシア7銀行をSWIFTから排除

貸付金をルーブルで返済する案に対しても、バングラデシュ政府は複雑な手続きや為替リスクを理由に難色を示していた。

今回、人民元での支払いで合意したもの。


2023/4/24      米半導体メーカー、ラピダスへの技術共有でIBMを提訴

米半導体受託製造大手のGlobalFoundries は4月19日、知的財産と企業秘密を不正に利用したとしてIBMを提訴したと発表した。

GlobalFoundriesは米国の半導体製造企業で、ファウンドリとしてはTSMC、Samsungに次いで世界第3位グループ。

半導体受託製造シェア(2022/10〜12、台湾トレンドフォース情報)

TSMC 台湾 58.5%
サムスン電子 韓国 15.8%
UMC (聯華電子) 台湾 6.3%
GlobalFoundries 米国 6.2%
その他   13.2%

2008年にAdvanced Micro Devices(AMD)が半導体製造部門を分社化し、The Foundry Companyが発足した。

2009年3月にアブダビ政府傘下の投資会社 Advanced Technology Investment Co. (ATIC)が65.8%、AMDが34.2%出資して、これをGlobalFoundries とした。

直後に半導体製造を手がけるシンガポールのChartered Semiconductorを39億米ドルで買収した。

 

訴状によると、今回の訴訟内容は下記の通り。

GlobalFoundries(及びその前身)とIBMはニューヨーク州で数十年にわたり共同で技術を開発してきたが、2015年にその技術のライセンスと開示の独占権がGlobalFoundriesに売却された。

しかしIBMは今回、トヨタ自動車やソニーグループなど日本企業8社が出資して設立した半導体メーカー のRapidusと知的所有権および営業秘密を不法に共有した。 IBMとRapidusは2022年12月に提携を発表し、2ナノメートルの半導体製造で協力している。

2022/11/14    次世代半導体の設計・製造基盤確立に向けた取組、先端半導体の国産化へ新会社

また、IBMが2021年にIntelと次世代半導体技術で協業すると発表し、Intelに知的所有権を不法に開示し悪用した。「IBMは、潜在的に数億ドルのライセンス収入やその他の利益を不当に受け取っている」とした。

GlobalFoundriesはIBMに対し、補償的損害賠償および懲罰的損害賠償のほか、営業秘密の使用を禁止する差し止め命令を求めている。またIBMがGlobalFoundriesのエンジニアを採用する動きがRapidusとの提携発表から加速しているとし、こうしたリクルート活動の停止を命じるよう裁判所に求めた。

 

IBMは「申し立てには全く根拠がない」と反論している。

ーーー

過去の報道などから、事態は下記のとおりではないかと推測される。

GlobalFoundriesとIBMは数十年にわたり共同で技術を開発してきた。

2014年10月にIBMはGlobalFoundriesに半導体製造工場(NY州East Fishkill工場とバーモント州Burlington工場)を譲渡すると発表した。しかも売り手のIBMが買い手に15億ドルを支払うというものである。

  • IBMは今後、3年間にわたりGlobalFoundriesに15億米ドルの現金を支払う 。
  • IBMは、半導体製造工場の譲渡費用として、上記現金の支払いを含め、税引き前費用として2014年第3四半期に47億米ドルを計上する。
  • 譲渡される2工場は、過去1年間で7億米ドルの損失を出している 。
     
  • GlobalFoundriesは、5000人以上に上るIBMの工場の従業員およびASIC設計者に、雇用のオファーを出す予定
  • GlobalFoundriesは、IBMの半導体関連の特許も数千件取得する 。
  • 両社とも、従業員の解雇は行わない方針である。
     
  • GlobalFoundriesは今後10年間、IBMに対し、22nm/14nm/10nmプロセスのサーバ用プロセッサを独占的に提供する 。

すなわち、IBMはGlobalFoundriesと共同で半導体の開発を進めてきたが、うまくいかず、大赤字 となった。世代遅れの老朽化した製造施設の買い手を探していたが、条件の合う相手が見つからなかった。このため、特許と2工場を、人員整理しないという条件で、GlobalFoundriesに15億ドルをつけて引き渡した。

East Fishkill工場は、45nm/32nmプロセスのSOI(Silicon on Insulator)を中心に、1万5000ウエハー/月を生産していた。
Burlington工場は、4万5000枚(200mmウエハー換算)/月を生産していた。同工場では、携帯電話機向けRFフロントエンドやスイッチ用の130nm/180nm SOIプロセスや、電源IC向けの90nmシリコンゲルマニウムプロセスなど、さまざまなプロセスを導入している。

条件としてGlobalFoundriesはIBMに22nm/14nm/10nm半導体を10年間、独占的に供給するとした。

IBMは、「半導体製造の肝となるプロセス技術は保有しておきたい」としたのに対し、GlobalFoundriesが14nmプロセスノードの製品を製造提供し、その後の10nmも視野に入れたプロセス技術開発を進めると約束した。

GlobalFoundriesは2014年4月に、14nm FinFETプロセスの開発でSamsung Electronicsと提携すると発表した。

IBMは、半導体の微細化加工技術などの研究開発は継続する。

 

しかし、2018年ころにはプロセス技術開発ではTSMCやSamsungが大きく躍進し、時代は7nmプロセスノードに驀進していた。AMDがZenコアの次世代CPUのファウンドリをGlobalFoundriesからTSMCに切り替えた 。

GlobalFoundriesは2019年8月、7nm FinFETプロセスの開発を無期限に停止すると発表した。量産の微細化レースに残るのは、台湾TSMC、韓国Samsung Electronics、米Intelの3社になった。

GlobalFoundriesは、IBMがそれまで開発に取り組んでいた14nmの製造プロセスを完了させることで合意したが、14nmでは、IBM由来のプロセスではなく、Samsungのプロセスを使って生産し、IBMに供給した。

「次のノード」には10nmが想定されていたが、半導体製造事業での競争状況を踏まえ、GlobalFoundriesは10nmを飛び越えてすぐに7nmに進んだ。GlobalFoundriesは、IBMがこの決定にも賛同したと主張している。 しかし、GlobalFoundriesは2019年8月にこれをギブアップした。

10nm以前のプロセス世代によるロジックデバイスの製造にフォーカスを当てて、周辺チップの供給にリソースを集中させるGlobalFoundriesの決断は正しかった 。GlobalFoundriesは念願の黒字化を果たした。

 

GlobalFoundriesに15億米ドルの現金付きで技術と工場を渡し、最先端のプロセス技術開発を期待したIBMにとっては「契約不履行」という判断になった。結局IBMは7nmプロセス製品をSamsungに生産委託することになった。

IBMはGlobalFoundriesに対し、契約不履行で訴え、25億米ドルの損害賠償を求めた。

NY州最高裁判事は2021年9月、GlobalFoundriesの詐欺行為については却下したが、契約違反については認め、GlobalFoundriesからの反訴については却下した。IBMにとっては有利な判決である。

2022年7月、この裁判の控訴審でGlobalFoundriesの詐欺行為が認められた。 最終決着はまだと思われる。

もしかすると、今回の提訴はIBMからの訴訟の解決のための交渉材料であるかも分からない。

ーーーーー

  • IBMの新しい2nmチップ・テクノロジーは、 現在最も先進的な7 nmのノード・チップに比べて、45%高いパフォーマンスまたは、75%少ないエネルギー消費量を達成すると予測されている。

    先進的な2nmチップの期待されるメリットは次の通り 。

      携帯電話のバッテリー寿命が4倍
      データセンターの二酸化炭素排出量を削減
      ラップトップの機能を大幅に高速化
       物体の発見の高速化に貢献

    IBMがRapidusやIntel と共同開発しているのはこの技術である。10nmまでの半導体製造の技術とは全く異なる。

    IBMは当時、10nmまでの半導体の供給を求め、GlobalFoundriesに工場と特許、ノーハウなどを渡した。その時点でも半導体の微細化加工技術などの研究開発は継続するとしていた。

    22nm/14nm/10nm半導体の供給を受けるために技術を出したもので、今後の研究開発に支障が出るようなものではなく、恐らく、技術範囲を絞った供与であったと思われる。

    今回のGlobalFoundriesの訴訟は、知的財産に関しては無理筋ではないかと思われる。

    しかし、IBMがGlobalFoundriesのエンジニアを採用する動きがRapidusとの提携発表から加速しているとし、こうしたリクルート活動の停止を命じるよう裁判所に求め ている点については、問題になるかも分からない。

    Rapidusの研究者と技術者は、世界最先端の半導体研究拠点の1つであるニューヨーク州のAlbany NanoTech Complexで、IBMおよび日本IBMの研究者と協働する。Rapidusは、IBM、Applied Materials、サムスン電子、東京エレクトロン、SCREEN、JSR、ニューヨーク州立大学(SUNY)を含むAlbany NanoTech Complexのエコシステムに参画する最新企業とな る。

    IBM側もRapidusとの共同開発に備えて人材確保に奔走しており、技術者採用にブレーキがかかれば、共同開発に遅れが生じる可能性がある。

     


  • 2023/4/25  チリ大統領、リチウム国有化を表明 

    チリのボリッチ大統領は4月20日、国内のリチウム産業を国有化すると表明した。チリのリチウム生産量はアルゼンチンに次ぐ世界2位で、シェアは30%にのぼる。 埋蔵量は世界一である。

    大統領が主導するチリ左派政権は、クリーンエネルギー移行で重要なリチウムの生産で政府の役割拡大を目指しており、新たな枠組みは民間資本をさらに呼び込む狙いもある。

    リチウムはEV向け電池の製造に不可欠で、メキシコも2022年に国有化した。

    メキシコで2022年4月19日、国内にあるリチウム資源を国有化するための鉱業法の改正が成立した。今後は原則、民間企業の採掘を認めず、国営企業が独占する見通し。リチウムの需要が高まるなか、重要資源として権益を囲い込む。

    資源保有国の保護主義がEV供給網のリスクになってきた。

    テスラ幹部は本年2月20日にチリを訪問し、同国のリチウム産業発展への貢献に関心を示し、チリのリチウム政策や、国内でリチウムを生産している米国アルベマールとテスラとの協力機会の可能性、再生可能エネルギーとゼロエミッション輸送への移行を加速するための展望などについて話し合った。

    チリ政府はリチウム生産を担う国有企業を設立する。2023年後半に国有企業を設立するための法案を議会に提出する。今後は国有企業がリチウム生産を主導するが、大統領は民間企業の投資も部分的に認める方針を示した。その場合も政府が支配権を握り、過半数の権益を取得する。

    現在のメーカーは、チリの特殊植物栄養素・化学製品メーカーのSQM(Sociedad Química y Minera de Chile)と、米国のAlbemarleの2社のみである。SQMとAlbemarleが操業するアタカマ塩湖が現在、チリで採掘されている唯一の塩湖である。

    SQMには中国の天斉リチウム(Tianqi Lithium Corporation)が出資している。

    2018年12月に中国の天斉リチウム(Tianqi Lithium Corporation)がカナダのカリウム大手Potash Corporationが所有するSQMの発行済み株式の23.77%を40億6,600万ドルで取得完了した。現在は25.86%を所有し、第二位の株主である。

    カリウム大手Potash Corporation社とAgrium社が2017年末に合併してNutrien Ltd.となったが、この合併の承認の条件としてインド競争当局と中国商務部がPotashCorp所有のSQM株式の売却を求めたもの。その結果、中国企業が取得できた。

    Albemarle Corporation は、ノースカロライナ州に本拠を置くアメリカの特殊化学品製造会社で、リチウム、臭素、触媒の 3 つの部門で運営されている。
    Albemarleは
    オーストラリアにある世界最大級のグリーンブッシュ鉱山で天斉リチウムと提携している。

    1980年に産業開発公社(CORFO)が45%、米国のFoote Minerals Co.が55%出資で Chilean lithium society Ltdaが設立された。1989年にCORFOが持株をFoote Minerals Co.に売却し、完全民営化した。このFoote Minerals の持株が現在、Albemarle Corporation に移っている。

    ロイター通信によると、SQMは2030年まで、Albemarleは2043年までチリでのリチウム生産が認められている。

    大統領は「チリ政府は既存の契約を尊重する」と説明して おり、 両社は契約が切れるまでは従来通りリチウム生産を続けられる見通しだが、契約切れを待たずに企業側が権益譲渡を選択する可能性も想定する。 

    ーーー

    チリ は法律でリチウムを戦略的資源と指定し、その生産には国家による非常に厳格な統制が敷かれている。基本法制はピノチェット軍政時代(1973〜90年)に出来上がったものである。

    ・1979年大統領令2886号はリチウムを「戦略的資源」と位置づけ、コンセッションの設定を不可(non-concessible)とした。

    在チリでリチウムの生産を行っているSQMと米Albemarleの2社は1979年の法令施行前に産業開発公社(CORFO)と特別操業契約を締結しており、既得権を認められている。

    ・1980年憲法は、すべての鉱物に関して、地表の土地所有権とは独立に、国家の絶対的・排他的所有権を定める 。探鉱・採掘に関して(操業年数、総生産量の上限設定など厳しい条件付で)、民間に行わせる余地も残した。

    ・1982年の鉱業権に関する憲法基本法(法18.097)は、炭化水素(ガス・石油など)とリチウムを鉱業権(コンセッション)の対象から外し、その開発は@国家ないし国営企業(CODELCOなど)によって直接、またはA行政上のコンセッションもしくは政府との特別操業契約によってのみ行えることとした。リチウムについては将来あり得べき軍事および核融合炉への利用を念頭に置いたものといわれる。

    この結果、既得権を認められたSQMと、Albemarleの2社のみが操業している。

    ーーー

    米国地質研究所(USGS)が2023年1月に発表した資料「Mineral Commodity Summaries 2023」によると、チリの現在のリチウム可採埋蔵量は世界シェア35.8%の930万トンで、世界1位を誇る。
    2022年の生産量は米国を除く世界シェア30%の3万9,000トンで、オーストラリアの6万1,000トン(同46.9%)に次ぐ第2位となっている。


      米国の生産量のWは、
    非公開(Withheld)

    https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2023/mcs2023.pdf

    南米ではチリ北部、ボリビア南西部、アルゼンチン北西部で形成するアンデス山脈沿いの高地(標高4000m級)に「リチウム三角地帯(LithiumTriangle)」と呼ばれる塩湖地帯が広がっている。ボリビアは世界最大のウユニ塩湖、チリは世界第2位のアタカマ塩湖 を擁し、アルゼンチンはオンブレ・ムエルト塩湖をはじめとしていくつもの塩湖が点在する。

    埋蔵量はチリが930万トンと圧倒的に多い。


    2023/4/26 政府、ラピダスに2600億円の追加補助 

    次世代半導体の国産化をめざす共同出資会社「Rapidus」が北海道に建設する新工場に対し、政府は新たに2600億円を補助する 。千歳市に建設を予定している工場の試作ラインの基礎工事や、米研究所への職員派遣などに拠出する。

    政府は2022年11月に次世代半導体の将来の製造基盤の確立に向けた研究開発プロジェクト(ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業)の採択先をRapidus とすることに決定し 、研究開発拠点の整備費用などに700億円を補助することを決めており、合計3300億円の国費を投じることになる。

    経済産業相は「(3300億円とは別に)今後も何年間かにわたりかなりの投資になると思う。必要な支援を行っていきたい」と述べた。

    ーーー

    経産省は2022年11月11日に2020年代後半の次世代半導体の設計・製造基盤確立に向けた取組について公表した。

    次世代半導体は量子・AIなど大きなイノベーションをもたらす中核技術で、海外の研究機関や産業界とも連携しながら、国内のアカデミアと産業界が一体となって取り組むことで、我が国全体の半導体関連産業の競争力強化を目指す とした。

    トヨタなど国内8社は同日、先端半導体の国産化に向けた新会社Rapidusを共同で設立したことを発表した。

    資本金73億4,600万円で、トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア(半導体大手) が各10億円、三菱UFJ銀行が3億円を出資する。

    自動運転やAI、スマートシティーなど大量のデータを瞬時に処理する分野に欠かせない先端半導体の技術開発を行い、5年後の2027年をめどに回路幅が2ナノメートル以下の先端半導体の量産化を目指す。

    2022/11/14    次世代半導体の設計・製造基盤確立に向けた取組、先端半導体の国産化へ新会社   

    (IBMとの提携)

    新会社Rapidusと米国のIBMは2022年12月13日、日本が半導体の研究開発・製造におけるグローバルリーダーを目指す取り組みの一環として、ロジック・スケーリング技術の発展に向けた共同開発パートナーシップを締結したことを発表した。

    IBMは2021年に世界初の2nmノードのチップ開発技術を発表した。このチップは、現在最も先進的な7nmチップに比べて45%の性能向上、または75%のエネルギー効率向上の達成が見込まれる。

    2023/4/24  米半導体メーカー、ラピダスへの技術共有でIBMを提訴

    米国IBM社他と連携して2nm世代のロジック半導体の技術開発を行い、国内短TAT(Turn Around Time:製品を完全に仕上げるまでに要する時間)パイロットラインの構築と、テストチップによる実証を行っていく 」としている。 本パートナーシップの一環として、RapidusとIBMは、IBMの画期的な2ナノメートル(nm)ノード技術の開発を推進し、Rapidusの日本国内の製造拠点に導入する。

    (工場建設)

    Rapidusの小池淳義社長は2023年2月28日、北海道庁を訪問し、千歳市に工場を建設することを伝えた。

    半導体の生産に欠かせない水が豊富であることを説明。「北海道大学などを中心に先端技術、世界中の技術者を集められる環境もある」と述べた。再生可能エネルギーや産業用地が豊富であることも挙げた。

    工場は鹿島が受注、9月に着工し、2025年に試作ラインを建設する。2020年代後半に量産ラインを立ち上げることを目標としている。

    小池社長は「パイロットラインで2兆円、量産ラインで3兆円かかるとみる」としており、今後の資金調達が問題となる。

    ーーー

    Rapidusの計画には問題が多い。

    ロジック半導体については、台湾のTSMC、韓国のサムスン、米国のIntel、中国のSMICが争っているが、TSMCとサムスンは2022年に3ナノを立ち上げた。IntelとSMICは7ナノの段階である。

    各社は技術の積み重ねで順次、微細化を進めてきた。TSMCは微細化のため、極端紫外線(EUV)を使ったオランダASML社製のEUV露光装置を使うが、1年間に約100万回の練習の結果、量産に成功したとされる。

    それに対し、日本は現状では40ナノの段階でとどまっており、Intelさえ躓いている微細化がたった5年でできるとは思えない。必要な人員が集まるかという問題もある。

    湯之上隆著の「半導体有事」(文春新書)では、ラピダスは「ミッション・インポシブル」としている。

     

    資金計画がまったくできていないのが大問題である。メーカー7社が出資するが、各10億円の横並びで、どこかが責任を持ってやるという体制ではない。

    他社は既存の製品で稼ぎながら微細化のための投資を行っているが、Rapidusの場合はすくなくとも5年間は無収入である。それまでにはTSMCやサムスンが2ナノを完成させ、市場を握っている可能性が強い。
    銀行が融資するとは思えず、どこから5兆円(でやれるとは思えないが)を調達するのだろうか。

    経済産業相は「今後も何年間かにわたりかなりの投資になると思う。必要な支援を行っていきたい」と述べているが、結局、政府が資金を出す(そして失敗する)ということにならないだろうか。

     

    付記

    5月3日の共同通信によると、「ラピダス」の東会長が共同通信のインタビューに応じ、技術開発関連に2兆円規模の資金が必要との試算を示し、国に中長期的な支援を要請する考えを明らかにした。
    量産化に向け工場建設などに3兆円ほどが別途かかるとし、株式上場による資金調達も検討。将来は技術者を中心に千人程度を採用する計画という。

    東会長は2兆円規模の資金について、民間からの追加調達は容易でなく「国の支援を中心に考えないといけない」と語った。具体的には毎年度、3千億円規模の国費支援に期待を示す。

    当初から、この予定であったと思われる。

    ーーー

     

    欧州連合(EU)は4月18日、域内での半導体生産の拡大に向けた新法案で合意した。官民で430億ユーロ(約6.3兆円)を投じ、有力メーカーの欧州への誘致をめざす。 (EU予算からの支出は33億ユーロ)

    EUは原則として民間企業への補助金を禁じてきたが、例外的に半導体分野では認める。EUだけでなく、加盟国も補助金を出せるようにする。

     

    米国では、バイデン大統領は2022年8月9日、国内半導体産業支援法「CHIPSプラス法」案に署名し、同法が成立した。

    CHIPSに関する527億ドルの予算の内訳は次のとおり。

    1. 商務省製造インセンティブ(390億ドル):半導体の設計、組み立て、試験、先端パッケージング、研究開発のための国内施設・装置の建設、拡張または現代化に対する資金援助。
                        うち、60億ドルは直接融資または融資保証に使用可能。
    2. 商務省研究開発(110億ドル):商務省管轄の半導体関連の研究開発プログラムへの予算充当。
    3. その他(27億ドル):労働力開発や国際的な半導体サプライチェーン強化の取り組みへの予算充当。

    また、上記のほか、半導体製造に関する投資に対して25%の税額控除を導入するとしている。

    2023/3/13   米商務省、CHIPSプラス法による第1弾の資金援助申請の受け付け開始

     

    韓国産業通商資源部と国土交通部は2023年3月15日、尹錫悦大統領主宰で開かれた非常経済民生会議で、国家先端産業育成戦略、国家先端産業ベルト造成計画などを発表した。

    最先端設備を備えた「韓国型 IMEC」を構築し先端技術開発空間に世界の人材を誘致することにした。半導体IMEC を先に作り、二次電池・バイオなどに拡張する。

    これを通じて半導体、未来自動車、二次電池、ディスプレー、バイオ、ロボットの6大産業で2026年までに民間主導で550兆ウォンの投資を引き出す。

    半導体 340兆ウォン 約34.6兆円 電力・車両など次世代半導体技術を育て、優秀人材を育成  
    うち、サムスン電池の投資は300兆ウォン

    2023/3/20 韓国の国家先端産業育成戦略、サムスンが30兆円の大投資


    2023/4/27 Samsung SDIとGM、バッテリー生産のJV設立

    Samsung SDI とGMは2023年4月25日、EV用電池の製造JVを米国に設立することで合意したと発表した。尹錫悦大統領の米韓首脳会談のための訪米に合わせて発表した。

    年産能力は30GWh以上で、30億ドルを投資し、2026年に大量生産を開始する。立地は米国内で選定中。

    GMは、これにより北米でのEV能力を年間100万台以上にできるとしている。

     Samsung SDI にとって米国で2番目の電池工場となる。

    Stellantis N.V.は2021年10月18日にLG Energy Solutionと合弁会社を設立し、北米で電動車用の電池を生産すると発表したが、10月22日にSamsung SDIとも米国で合弁会社を設立し、電気自動車用の電池工場を建設する覚書を締結したと発表した。

    Stellantisは両社との同時契約で、Samsung SDIの得意な、安定性が高いとされる「角形電池」と、LGの軽量で高出力な「パウチ型電池」の2種類を安定調達する狙いがあるとみられる。

    Stellantis はこれまでもSamsungから「Fiat 500e」や「Jeep Wrangler 4xe」向けに電池供給を受けてきた。今回のJV設立で、両社の協力関係はさらに堅固になる。

    Samsung SDIは現在、韓国と中国、ハンガリーで電池工場を持つが、米市場のEVシフトの潮流に乗り遅れないように米国進出を検討してきた経緯がある。(同社はミシガン州にバッテリーパックの組み立て工場は持っている。)

    Samsung SDIは2017年5月にハンガリーのグドゥ(Goed)市に、蔚山と中国西安に次ぐ3つ目の工場を新設した。

      稼働
    韓国(蔚山 5万台
    中国(西安 4万台
    ハンガリー(Goed 5万台
    合計 14万台

    2021/10/25 Stellantis、米国でSamsung SDI とも合弁でEV電池生産

     

    GMは韓国LG Energy Solutionと米国内で3カ所の電池工場を稼働・建設中で、Samsung が2社目の合弁相手。両社とも調達・供給先を多角化してリスクを抑える狙いがある。

    GMは2020年5月1日、LG ChemとのJVの"Ultium Cells LLC"が当局の承認を受け、23億ドルを投資するオハイオ州Lordstown の近辺のEV用バッテリー工場がスタートしたと発表した。

    Ultium Cells LLCは2021年4月16日、テネシー州スプリングヒルに約23億ドルを投資し、新型電池Ultiumバッテリーの工場を建設すると発表した。

    GMは2022年1月25日、EVの生産能力の強化に向けて、米国で3つ目となる新たな電池工場の建設を発表した。Ultium Cells LLCが26億ドルを投じ、ミシガン州 Lansing に第3工場を建設する。電池生産の開始は2024年後半となる。

    2022/1/28 GM、米国で3つ目の電池工場を建設、電気自動車生産投資も

     

    LG Energy Solutionはこれ以外に、米フォード・モーターやステランティスとも電池合弁を組んでいる。

    LG Energy Solutionは2023年3月24日、アリゾナ州Queen Creek の電池工場建設について、投資規模を7兆2000億ウォン(55億ドル、約7200億円)と大幅に増やし、計画を進めると発表した。

    LG Energy Solutionの北米での電池工場は下記のとおりとなる。

    単独:Michigan、Arizona(Queen Creek )
    GMとのJV:Tennessee、Ohio、Michigan
    StellantisとのJV:カナダOntario   2021/10/21 Stellantis N.V.、米国でLGと合弁で電池生産
    ホンダとのJV:Ohio   2023/3/7 ホンダとLGの米バッテリー工場 起工式 

    2023/3/28 LG Energy Solution、米国に大型電池工場 

     

    (Ford の状況)

    Fordは米国では韓国のSK om (SK Innovation)とのJV Blue Oval SKを持つ。

    2021/10/1   Ford Motor、114億ドルを投じ、電動ピックアップトラックと3つの電池工場を建設

    LG Energy Solutionは2023年2月22日、Ford Motorと合弁でトルコに電池工場を建設すると発表した。Fordは当初、SK On とのJVを検討していた。

    2023/2/24 Ford、トルコでの電池JVの相手をSKからLGに変更

    Ford は2023年2月13日、ミシガン州Marshall近郊に35億ドルを投じて電気自動車(EV)用のリン酸鉄リチウムイオン(LFP) 電池製造工場 BlueOval Battery Park Michigan を建設する計画を発表した。

    韓国のSK InnovationとのJVではなく、Fordの単独事業で、中国の大手電池メーカー、寧徳時代新能源科技(CATL)から技術のライセンス供与や技術支援を受ける。CATLは出資はしない。

    フォード、ミシガンにEV用電池工場建設 中国CATLが技術支援

    なお、SK On は現代自動車グループと米ジョージア州Bartow Countyに電気自動車用バッテリーの生産設備を建設する。詳細が4月25日に発表された。

    http://www.knak.jp/blog/2022-12-2.htm#hyundai-sk


    2023/4/28  日本の将来推計人口

    国立社会保障・人口問題研究所は4月26日、長期的な日本の人口を予測した「将来推計人口」を公表した。2056年に人口(外国人を含む)が1億人を下回り、2070年には8700万人となる。

    平均寿命は、2020 年の男性 81.58 年、女性 87.72 年が、2070 年には男性 85.89 年、女性 91.94 年に伸びる

    2070年には65歳以上の割合が40%近くまでアップする一方、生産年齢人口は2020年の59.5%が52.1%に下がる(3000万人の減)。14歳以下は1割以下が続く。

    単位:万人 2020年 2045年 2065年 2070年 合計特殊
    出生率
    中位仮定 65歳以上  3,603 28.6%  3,945 36.3% 3,513 38.4% 3,367 38.7% 1.36
    15〜64歳 7,509 59.5% 5,832 53.6%  4,809 52.5% 4,535 52.1%
    0〜14歳 1,503 11.9%  1,103 10.1% 836 9.1% 797 9.2%

    合計

    12,615 10,880 9,158 8,700
    高位仮定 12,615 11,203 9,885 9,549 1.64
    低位仮定 12,615 10,600 8,570 8,024 1.13

    合計特殊出生率は一人の女性が一生に産む子供の平均数

    欧米では低迷していた出生率がプラスに転じているが、韓国、中国、日本のアジア3国が下降を続けている。人口の減少は経済停滞につながる。

    2023/2/23 韓国の2022年の合計特殊出生率、過去最低の0.78 

    今回、2070年の出生率が現状の1.30から1.36へと若干増えているが、日本人女性に限ると上がらず、微増は外国人女性の出産による影響とされる。

    出生実数は2021年の831千人が2070年には500千人に減る。

    日本人の出生数は
    1973年の209万人から2020年の81万人まで減少した。その結果、0〜14 歳人口も1980年代初めの2,700万人規模から2020年国勢調査の1,503万人まで減少した。

    http://www.mhlw.go.jp/english/database/db-hw/dl/81-1a2en.pdf

     


       目次   次へ