古河電工 光ファイバー

 

1999/1/29 「JDSファイテル社」が米国の光発光部品製造販売会社「ユニフェイズ社」と対等合併することを承認

1999/2/9  古河電、米社株を売却  含み益なお1兆5000億円 放出は保有分の6%

2000/10/17 会社研究 古河電工 次世代光通信軸に急成長

2001/7/24  米国ルーセント・テクノロジーの光ファイバ・ケーブル部門を27.5億ドルで買収

2001/11/16 米国ルーセント社光ファイバ部門買収契約の修正と買収後の運営形態について

2006/2/24  古河電工 さらば「光の巨人」

 


1999年1月29日 古河電工

カナダの光受動部品製造販売子会社「JDSファイテル社」が米国の光発光部品製造販売会社「ユニフェイズ社」と対等合併することを承認http://www.furukawa.co.jp/what/juc.htm

 古河電工は、
52%の株式を保有するカナダの光受動部品製造販売子会社「JDSファイテル社」(JDS Fitel Inc.、本社:カナダオンタリオ州オタワ、最高経営責任者:ジョセフ・ストラウス氏、資本金:1億6,800万カナダドル、売上高2億2,720万カナダドル、経常利益7,560万カナダドル)が、米国の光発光部品製造販売会社「ユニフェイズ社」(Uniphase Corporation、本社:米国カリフォルニア州サンノゼ、最高経営責任者:ケビン・カルコーベン氏、資本金:3億740万米ドル、売上高1億7,580万米ドル、経常利益2,980万米ドル)と対等合併することを承認した。

 合併は諸手続きを経たのちの今春を予定しており、合併後の社名は
JDS ユニフェイズ社(JDS Uniphase Corporation)となる。最高経営責任者にはケビン・カルコーベン氏、社長にはジョセフ・ストラウス氏が就任し、JDSファイテル社(トロント証券市場上場)1株に対してユニフェイズ社(NASDAQ公開)0.50855株が割り当てられる。新会社は資本金約481億円、売上高約481億円、従業員数3,600人の規模となる。

 JDSファイテル社は、
光通信システム、特にWDMシステム(光多重伝送システム)を構築するのに重要な光受動部品の製造販売会社で、システムの最も重要な部品である光増幅器も手がける世界トップクラスのメーカーである。

 ユニフェイズ社は、CATV機器および通信システムに使用される光発光部品の製造販売会社で、特に980ナノメーターLDチップおよび光変調器では、世界市場において圧倒的なシェアを誇る大手メーカーである。

 今回の合併により、新会社JDS ユニフェイズ社は、光ファイバケーブルを除き、光通信システムを構築するのに必要なほとんどの部品を供給できることとなり、品揃えにおいては他に類を見ない世界屈指の光部品メーカーとなる。従って、光通信システムメーカーと通信ネットワークメーカーに対して、より幅広い製品で迅速な対応が可能となる。

 古河電工は、受動・発光部品、光ファイバケーブルから光通信システムに至るまで、さまざまな分野の製品を製造販売しているが、さらなる事業拡大を目指すために、インターネットを主とするデータ通信の増大により、北米を中心に世界各国で急激に成長している光通信、特にWDM市場において、筆頭株主として新会社と協力、協調していく。

 なお今回の合併により、古河電工は新会社
JDS ユニフェイズ社の26%の株式を保有する筆頭株主となるが、持株比率50%超の子会社JDSファイテル社が、持株比率50%以下の関連会社JDS ユニフェイズ社となるこの機会に、JDSファイテル社の株式を一部売却し、投資の回収を行う予定である。今回の株式売却後も、古河電工は新会社JDS ユニフェイズ社の20%以上の株式を保有する筆頭株主として、影響力を保持する。


日本経済新聞  99/2/9

古河電、米社株を売却 
 含み益なお1兆5000億円 放出は保有分の6%

 古河電気工業は8日、カナダの100%子会社が保有する米国企業株を先物取引契約で今年8月に売却するのに伴い、2001年3月期に約千億円の売却益が発生する見通しだと発表した。急成長を続ける光通信関連部品大手JDSユニフェイズ(JDSU:JDS Uniphase Corporation)の株式で、手放すのは保有株の6%分のみ。古河電には
売却後も約1兆5千億円の巨額の含み益が残ることになる。
 保有するJDSU株式約7240万株のうち、445万株を売却する。売却益は税金などを引いたうえで古河電本体へ配当、古河電は2001年3月期に連結で700億円程度の特別利益を計上する見込み。有利子負債の返済や退職給付債務の積み立て不足の一括償却などに充てるほか、新規投資などの事業展開にも活用する。(2/8夕刊記事:古河電の退職給付債務の積み立て不足は単体で約500億円にのぼり、うち約180億円は昨年12月のJDSU株売却益を使い2000年3月期に前倒し償却する方針を明らかにしていた。)
 JDSU株の含み益は7日現在で約1兆5700億円。JDSUは昨夏にカナダと米国企業が合併し設立したが、古河電はこのカナダのベンチャー企業に90年に約11億円を出資、50%株式を取得していた。光通信関連のユニークな技術に着目したこの投資が、その後の10年間で1400倍余りに膨らんだ格好だ。
 JDSU株の持ち株比率は現在18.33%で、売却後は
17.20%程度に低下するが、引き続き筆頭株主となる見込み。


JDS Uniphase, a world leader in optical technology, was formed in 1999 with the merger of JDS Fitel (known for its passive optical components) and Uniphase Corporation (known for its active components and lasers). The company grew rapidly to meet the high market demand for fiber optic technology, leading the fiber optics component industry by offering the broadest portfolio of products and achieving revenues at the height of the telecommunications boom of over $1B per quarter. Although its innovative technology provided solutions in laser, optics and display, decorative, and brand authentication markets, the JDS Uniphase brand became best known for fiber optic communications components.


日本経済新聞 2000/10/17

会社研究 古河電工 次世代光通信軸に急成長
 WDMに集中投資継続 巨額の含み益 効率活用課題

 古河電気工業が光通信関連をテコに収益を急速に伸ばしている。原動力はインターネット普及の基盤となる次世代光通信システムのWDM(波長多重伝送)。主要部品で世界トップシェアを握り、国際的な勝ち残り競争で優位に立ちそうだ。ただし、資産の効率的な活用を迫る時価会計の導入で、膨大な株式含み益が経営の重荷になる懸念も指摘されており、低収益事業の見直しなど課題も残る。

 株価、住友電の1.5倍
 古河電の株価はバブル崩壊後は長く500円前後に低迷したが、昨年11月に電線トップの住友電気工業株を約40年ぶりに逆転。現在では3千円前後と住友電の約1.5倍で、時価総額も1兆8千億円と住友電を約4千億円上回る。
 買いの材料となったのがWDM事業。
WDMは1本の光ファイバーに複数の波長を伝えるシステムで、情報伝達量が数十倍に増える。市場規模は8千億円前後と見られ、年率40−50%の成長が続く可能性が高い。 古河電はWDMの効率化に欠かせない主要部品で主導権を握った。ファイバー内で減衰する光信号を増幅する「1480ナノメートル帯励起レーザー」で、世界の約70%のシェアを確保した模様。他社に先駆けて10年前に開発に着手、世界最高出力を達成するなど技術面で先行している。
 古河潤之助社長は「
WDMに経営資源のほとんどを集中する」と強調、2001年3月期も100億円以上を投じて生産設備の増強を続ける。WDM分野では国内トップの座を確保、世界でも最大手の米JDSユニフェイズ(JDSU)などを追撃している。
 単体で見ると、今期のWDM関連売上高は前期の2.5倍の700億円程度に膨らみそうだ。連結売上高の1割程度に過ぎないが、今期は250億円前後の営業利益を稼ぐ見通し。全体の連結営業利益も約520億円と前期の2.5倍になりそう。古河社長は「WDMの成長は今後10−20年続くと見る。ただ主役になるかどうかはここ2,3年が勝負」と意気込む。
 WDMは思わぬ形で巨額の含み益をもたらした。10年前に光通信技術に着目して約10億円を投資したカナダのベンチャー子会社が、WDMの伸びと合併でJDSUに“化けた”からだ。連結対象から外れたが、古河電の出資比率は約14%で、保有するJDSU株には今も1兆3千億円の含み益がある。

 今期連結純利益4.3倍
 古河電は16日、今期の予想連結純利益を前期比4.3倍の1510億円に上方修正した。WDMの伸びやアルミなどの収益改善に加え、JDSU株売却益2200億円が大きい。「様々な米の規制を避ける意味でも持ち株比率は10%以下にする」(古河社長)方針。そこで得られる売却益は、連結で約4千億円に上る有利子負債の削減や、光関連の米ベンチャー企業への投資などに充てる。
 今後は巨額の含み益が資産効率を悪化させる側面も無視できない。今9月中間期から時価会計を早期に適用する方針で、含み益の過半が株主資本に組み込まれるからだ。前期連結決算で試算すると、株主資本は約2200億円から約1兆3千億円に急増。16%あった株主資本利益率(ROE)が、時価会計導入で分母が増え3%に低下する。

 一層の合理化必要
 収益構造の偏りも間題点の1つ。電力用電線は電力会社の投資抑制で赤字のまま。光ファイバーも高い伸びは期待できない。アルミ、伸銅品もWDMに比べ低収益が続く。古河社長は「雇用の問題もある」として事業の抜本的な整理には消趣的なだけに、一層の合理化努力が問われる。
 連結総資産回転率も前期までの5年間で0.72ー0.83回にとどまり、住友電を0.1ポイント前後下回る。投資家が豊富な資産の有効活用による、さらなる収益向上を求めるのは間違いない。期待がはげ落ちたときの備えを含め、経営陣が打つべき手は少なくない。

 


2001/7/24 古河電工

米国ルーセント・テクノロジーの光ファイバ・ケーブル部門を27.5億ドルで買収
―米国コーニングに次ぎ世界シェア2位に、全世界規模の特許権を継承―
http://www.furukawa.co.jp/what/lucent010724.htm

 古河電工は、日本時間2001年7月24日、ルーセント・テクノロジー社(以下ルーセント)から光ファイバ・ケーブル部門(以下OFS)を買収することについて、ルーセントと合意に達し、買収契約書にサインを行った。買収価格は27.5億ドル。当社は光ファイバ・ケーブル分野で世界規模の特許使用権を継承し、世界シェア2位となる。

 ルーセントOFSは、1996年に米国AT&Tから分離・独立したルーセントの一事業部門で、各種光ファイバ・ケーブル、DWDM用光部品に使われるスペシャルティファイバ、その他光コネクタ・部品を世界的規模で製造・販売しており、2000年度(9月決算)の売上高は19.25億ドルで推定世界シェア2位。同4位の古河電工は、1992年から米国でルーセントと光ファイバ・ケーブル製造の合弁会社を共同運営するなど、良好な関係を維持してきた。
OFSを買収後、光ファイバ・ケーブル事業は米国コムスコープ社と合弁会社を設立して運営、DWDM用スペシャルティファイバ事業については、自主運営していく予定である。新会社の商号、代表者、資本比率、日程、見通し等は未定。

 光ファイバ・光コンポーネンツ市場は、北米では2001年に入り需要の一時的飽和を迎えているが、世界的に見るとIT需要は拡大を続けており、中長期的にも高い成長率が見込まれている。OFSは、コーニングと並び、世界トップの高い技術と幅広い知的財産を有し、全世界に優良顧客を抱えている。古河電工の光ファイバ事業とは多くの部分で補完関係にあり、その両社の事業を合わせることにより、今後とも一層の収益の拡大が可能である。
 具体的なターゲット分野として、今後伸びが期待されるメトロWDM伝送用のオールウェーブ(AW)ファイバ、長距離DWDM伝送用のプレミアムファイバ(トゥルーウェーブRSTrueWaveRS)、10ギガ以上のWDM伝送には不可欠な分散補償光ファイバモジュール等が挙げられる。AWファイバは、OFSの設計力と、古河電工の生産プロセス開発力を合わせて、より高機能で低コストの生産が可能になる。また、DWDM用分散補償光ファイバモジュールの分野では、OFSが世界シェア1位であり、これに同じく世界シェア1位の古河電工の励起用レーザを始めとする、アクティブ光部品技術を組み合わせることにより、光ファイバアンプ、ラマンアンプ等、光サブシステム分野での総合力が大きく向上すると期待している。
 今回の買収で特筆すべきは知的財産権の獲得である。光ファイバの主要な特許はこの分野で先行したルーセント(旧ベル研究所を含む)とコーニングが独占していたが、OFSの買収によりルーセント特許の所有権とコーニング特許の世界的規模の使用権が古河電工に継承されることになる。

 光ファイバ・ケーブル事業については、ケーブルテレビ用同軸ケーブル事業等において急成長を遂げている米国コムスコープ社と合弁会社を設立し、事業を共同運営していく予定。コムスコープ社の世界的な営業力、北米での工場運営ノウハウに期待している。
 DWDM用スペシャルティファイバ事業は別会社化し、100%自主運営していく予定。 従業員のインセンティブを高めるため、将来的には株式公開も念頭に入れ先進的な経営を進めていく。

<ルーセント・テクノロジー社OFS部門の概要>
Optical Fiber Solution of Lucent Technologies

・ 本部機能 Headquarter  ルーセント・ジョージア州アトランタ工場内 Atlanta(GA)
・ 部門長 President Denys Gounot
・ 売上高 Sales 19.25億ドル $1.925B(2000年9月期実績)
・ 従業員数 Employees 6,300
・ 設立年  Incorporated in 1996(founded in 1869)
・ 拠点 Locations Norcross(GA),Sturbridge(MA),Denmark,Germany,Brazil,Russia等11ヶ所
・ ホームページ Website http://www.lucent.com

<コムスコープ社の概要>
Commscope,Inc.

・ 所在地 Headoffice 1375 Lenoir Rhyne Boulevard,SE Hickory,NC 28603-0339
・ 会長兼最高経営責任者 Chairman&CEO Frank M. Drendel
・ 社長兼最高業務執行担当責任者 President&COO Brian D. Garrett
・ 事業 Business ケーブルテレビ用同軸ケーブル等の設計製造・販売
      designing and manufacturing of coaxial cables for cable television
・ 売上高 Sales 9.5億ドル $950M(2000年12月期)
・ 総資産 Total Assets 7.2億ドル $720M(同)
・ 従業員数 Employees 4,000
・ 設立年 Incorporated in1997
・ ニューヨーク証券取引所上場 NYSE Symbol:CTV
・ ホームページ Website http://www.commscope.com

<古河電気工業の概要>
Furukawa Electric Co.,Ltd.

・ 所在地 Headoffice 東京都千代田区丸の内2-6-1 6-1,2-chome,chiyoda-ku,Tokyo
・ 社長 President Junnosuke Furukawa
・ 売上高 Sales 8270億円 \827B(2001年3月期連結)
・ 従業員数 Employees 23000
・ 設立年 Incorporated in 1920 (founded in 1884)
・ 光関連拠点 Locations  千葉、三重 Chiba, Mie
・ 光関連売上 2190億円 \219B(2001年3月期グループ合計)

<買収後の運営形態> 

<世界主要光ファイバー・ケーブルメーカーのシェア(当社推定)>


2001年11月16日 古河電工

米国ルーセント社光ファイバ部門買収契約の修正と買収後の運営形態について
http://www.furukawa.co.jp/what/lucent011116.htm

 古河電工は本日、去る7月24日に合意した米国ルーセント・テクノロジーズ社(以下ルーセント社)の光ファイバ部門(以下OFS)買収契約の買取り価格減額その他の修正に関する修正契約書およびコムスコープ社との新たな提携関係に関する契約書にサインしました。なお、買収を完了させるクロージング手続きは米国時間11月16日に行われる予定です。9月11日の同時多発テロの影響等により、当初予定より約1ヶ月半の延長となりました。
 この間、誠意を持ってルーセント社と交渉した結果、買収総額は23億ドル(除、中国J/V)に決定しました。このうち、古河電工は20億9700万ドルを現金で、コムスコープ社は残りの2億300万ドルを同社株式1020万株で、それぞれルーセント社に支払います。なお、コムスコープ社の支払額2億300万ドルのうち、3000万ドルは出資金にではなく、出資会社の運転資金に充当します。それに伴ない、古河電工が支払額20億9700万ドルに加えて3000万ドルを出資するため、最終的な出資額は古河電工21億2700万ドル、コムスコープ社1億7300万ドルとなります。
 基本的な事業内容については、7月24日の発表から大きな変更はありませんが、事業会社の形態は光ファイバと光ファイバケーブルの2つの事業会社に集約し、この2社を統括する持ち株会社を設立します。
 当社連結決算に与える影響につきましては、現時点では明らかではございませんが、わかり次第お知らせします。当社グループは今後、光ファイバー及び関連製品の分野において、その生産能力、知的財産、研究開発力をフルに発揮し、世界のナンバーワンをめざしていきます。

出資金額の変更

    当初合意   最終出資金額
古河電工   18.75億ドル 21.27億ドル
コムスコープ    6.50億ドル  1.73億ドル
  25.25億ドル 23.00億ドル
(ルーセント中国分は除く)
         

今後の運営形態



各新会社の概要
Fitel USA Corporation
 President : 佐藤 修(古河電工取締役米国光事業推進室長)
 資本金:10億6千万米ドル 所在地:Norcross, Georgia, U.S.A.

OFS Fitel, LLC
 Chairman : 大久保 勝彦(非常勤、古河電工専務取締役)
 President& CEO : Marvin S. Edwards,Jr.
 資本金:13億6千万米ドル 所在地:Norcross, Georgia, U.S.A.

OFS BrightWave, LLC
 Chairman : 大久保 勝彦(同上)
 President& CEO : Marvin S. Edwards,Jr.
 資本金:9億4千万米ドル 所在地:Norcross, Georgia, U.S.A.


日本経済新聞 2006/2/24

古河電工 さらば「光の巨人」
  バランス経営に軸足移行

 かつて「光(ファイバー)の巨人」と呼ばれた古河電気工業が、同分野を最優先した一本足経営に別れを告げようとしている。浮沈の激しいIT(情報技術)分野で一発長打を狙うのではなく、軽金属など素材関連を軸に主力5部門で着実に利益を稼ぐ企業へ変貌しつつある。

■確実性の高い買収案件発掘
 古河電は2005年12月、ドイツで自動車のプラスチック内装材を手掛ける
化学品加工会社トロセレンを買収した。「労働争議の不安はないか」「他社との長期契約の残りは」。経営幹部らは休日返上で投資の回収可能性を検証した。
 01年に米ルーセント・テクノロジーズから光ファイバー・ケーブル部門(現在のOFS社)を2800億円で買収し、光ファイバー事業で世界のトップを狙った同社にとって、買収総額30億円規模のトロセレンは小粒案件。しかし、桜日出雄CFOは「売上高100億円を安定して生み出す優良企業を買えた」と満足そうに話す。
 光ファイバーを中心にした情報通信部門の一点豪華主義から、小規模でも確実性の高い買収案件を発掘し、主力5部門に経営資源を分散投資するバランス型経営へーー。トロセレンの買収は同社の路線転換を象徴する。
 変身のきっかけは、命運を賭けた光ファイバー事業の失敗だ。

■情報通信部門で巨額赤字
 00年前後には、光通信バブルに沸いた情報通信部門に経営資源を集中。03年までの3年間で設備投資総額の6割に当たる900億円をつぎ込んだ。当時、同部門は1カ月で経常利益40億円を稼いだ。だが、北米通信不況の直撃で事態は一変。
巨額赤字を計上した02年3月期を境に生産規模を縮小、リストラに追い込まれた。

連結当期損益
 2001/3 +167,392百万円
 2002/3  - 3,384
 2003/3 -114,026

 同部門の屋台骨を支えるはずだったOFS社は、買収後05年12月期まで4期連続で営業赤字を計上し、債務超過が続く。回収が滞っている貸付金700億円については債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)を軸に検討しているが、財務が改善しても収益力回復の道筋は不透明だ。
 情報通信部門は今期、米国の不振を国内が補い、4期ぶり営業黒字に転じそう。が、かつての看板部門の面影はない。
 同部門に偏重した設備投資は他部門の収益力低下も招いた。金属、軽金属など素材関連は投資資金を回収するまで平均約5年と長くかかるが、こうした部門への投資を後回しにしたツケは重い。銅加工品を扱う金属部門は「需要は旺盛なのに既存設備では顧客が求める品質に対応できなくなった」(石原広司社長)。その他の部門でも量産対応が遅れるなど、細かな利益機会の逸失が積み重なっている。
 今期の営業利益は前期比43%増の340億円だが、主力部門のうち増益は情報通信とエネルギー・産業機材のみ。金属、軽金属が減益で、電装・エレクトロニクスは横ばいとなりそうだ。売上高営業利益率は4%と電線大手では住友電気工業の7%、フジクラの5%に見劣りする。

■分散投資で「素材力強化」
 「来期こそ投資家が納得する成長シナリオを示す」。石原社長は情報通信を安定収益源とする一方、「素材力強化」をキーワードに分散投資を強調。高機能プラスチック製品を手掛けるエネルギー・産業機材、アルミ加工の軽金属、自動車部品などの電装・エレクトロニクスを三本柱に育てる。昨年3月に劣後株の発行で調達した200億円を活用し、3部門にきめ細かく投資する。現在も水面下でめっきや自動車部品など複数の買収案件を交渉中で、来期前半にも実を結びそうだ。
 株価は23日終値で901円と、02年11月の直近安値178円の約5倍に上昇した。ただ、動意付くのは「家庭向け光ファイバー需要回復」など情報通信に絡んだニュースばかり。持ち株比率が2割を超えた海外投資家も「光ファイバーはいつ成長軌道に戻るか」とせっつく。
 しかし、同部門だけに着目し続けると構造転換の本質を見誤る。収益構造は主力部門がこつこつ利益を稼ぐバランス型に変わりつつあるからだ。総合力を発揮して新たな成長路線を提示できた際に、同社の株価は新たな投資尺度で評価されるに違いない。