この採決は1日延期され、トランプ大統領と共和党の議会指導部は、セーフティーネットプログラムのさらなる削減を強く求める財政タカ派の強硬派グループを説得することができた。
大統領は電話やホワイトハウスでの会議を通じて反対派に働きかけた。ジョンソン下院議長は記者会見を開き、少なくとも1兆5000億ドルの歳出削減を「確約する」と宣言した。
上院と下院で予算決議案が承認されたことで、今後は歳出削減40億ドルと引き換えに、今後10年間で最大5兆3000億ドルの減税と5兆ドルの債務上限引き上げを行う追加パッケージに道が開かれる。
共和党は今後、民主党との交渉を回避し、過半数での可決のため、共和党の票だけでトランプ大統領の減税案を可決することができる。
(今回は財政調整措置を採用したため、債務上限や歳出に関する法案は、フィリバスターを回避して過半数で可決することが可能となる。1歳出年度に1度しか利用できない、上下院で同一の法案を審議しなければならないなど、幾つかの制約がある。)
共和党は、第1次トランプ政権の減税措置を個人および非上場企業のオーナーを対象に復活させ、州および地方税控除の拡大やチップ収入への課税撤廃を含む新たな減税措置を導入する計画。
下院の保守強硬派は、今後10年間で2兆ドルの歳出削減を最終パッケージに盛り込みたい意向を示している。これは、上院が5日に可決した予算決議案での40億ドルの削減を大幅に上回る額。削減を実現するには、何千万人もの受益者がいるメディケイド(低所得者向け医療保険制度)やフードスタンプ(低所得者向け食料支援)などの社会プログラムを縮小する必要がある。
予算決議案は減税交渉の後に決着をつけるために、多くの難しい決断を先送りしている。そのため、最終段階で上院との対立が生じる可能性がある。
民主党下院トップのジェフリーズ院内総務は「共和党は生活費の高騰を抑えるための対策を何も講じていない」と批判。「実際、メディケイドのような米国民にとって重要な給付金や制度を標的にすることで、生活費の高騰という危機を悪化させている」と論じた。
この後、各委員会がこれに基づき財政調整法案を策定し、予算委員会でまとめられ、一つの包括的な法案として議会で審議され、両院で可決することが必要である。
財政調整措置により、債務上限や歳出に関する法案は、フィリバスターを回避して過半数で可決することが可能となる。
ジョンソン議長は5月末までに税制法案を成立させる目標を掲げているが、上院の共和党議員は8月までに手続きを完了できると話している。
超党派の米議会予算局は、議会が連邦債務上限の引き上げや適用停止を行わない場合、政府は早ければ8月にも全ての支払いを期限通りに履行するための資金が不足する可能性があると警告しているが、税収が低ければ、その期限は5月下旬にも訪れる可能性があるとしている。
2025会計年度(2024/10〜2025/9)の予算案と並行して、債務上限問題に取り組む必要がある。
2024年12月時点で、トランプ次期大統領は「債務上限の撤廃」を強く求めていた。
2025/4/15 トランプ大統領の「相互関税」と議会の権限
トランプ大統領が「相互関税」を発表した。(直後に中国を除き90日間の停止を発表したが)
従来の特定国向けや、多数の国の場合も余り大きくない追加・変更とは異なり、全世界に多額の関税を課すものである。実現すれば多額の歳入になる。
「今こそ私たちが繁栄し、(米国民が支払う)税金を減らす時だ。本日の行動で我々は米国を再び偉大にできる」。トランプ大統領は4月2日、大規模関税の導入を誇らしげに語った。
合衆国憲法第1条第8節では、「連邦議会は、つぎの権限を有する。合衆国の債務を弁済し、共同の防衛および一般の福祉に備えるために、租税、関税、輸入税および消費税を賦課し、徴収する権限」と定められている。
大統領による(議会決定を経ない)相互関税の導入は憲法との関係でどうなのか? Chat GPTに聞いた。答えは次の通り。
結論から言うと:
トランプ大統領が相互関税を発表したとしても、それ自体が憲法違反とは言い切れません。なぜなら、大統領は議会から通商政策の一部権限を委任されているからです。
背景:米国憲法における税と歳入の権限
アメリカ合衆国憲法第1条第8節では、**「関税を含む税の賦課および歳出の決定権限は議会(主に下院)にある」**と定められています。
つまり、原則として大統領が勝手に関税を操作することはできません。
しかし、現実はどうなっているか?
実際には、議会はさまざまな法律を通じて、大統領に「通商政策」の一部権限を委任しています。
たとえば:
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通商拡大法(Trade Expansion Act of 1962)
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セクション232では、「国家安全保障上の理由」で輸入制限(関税含む)を大統領が発動できるとしています。
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通商法(Trade Act of 1974)
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セクション301では、不公正な貿易慣行に対する制裁措置として関税を課す権限を大統領に認めています。
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これらの法律に基づき、トランプ政権は鉄鋼・アルミニウム・中国製品などに関税をかけてきました。
「相互関税(reciprocal tariffs)」はどうなのか?
トランプ大統領が打ち出した「相互関税」というアイデアは、「他国が米国製品に高い関税をかけるなら、米国も同等の関税をかけるべきだ」という考え方です。
これを実現するには:
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既存の法律の範囲内で関税を操作する(セクション232や301の利用)
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新たな立法措置(議会の承認)を得る
という2通りのアプローチがあります。
憲法違反になる可能性は?
もし大統領が議会の承認や法的根拠なしに大幅な関税を課したり、それによって歳入を大きく左右するような政策を勝手に実施した場合、それは憲法違反となる可能性があります。
ただし、現在のところは、トランプ氏の行動は既存の法律に基づくものであったため、違憲とまでは判断されていません。
補足:このような権限委譲は問題では?
実はこれを問題視する声もあります。いわゆる「非授権委任(nondelegation doctrine)」という憲法理論に基づいて、大統領への過剰な権限移譲は違憲だとする議論も存在します。最高裁でも最近この点が議論されるようになってきています。
2025/4/6 韓国経済団体が徴用工問題解決のための韓国政府傘下の財団に寄付
元徴用工問題で、韓国の裁判所が日本企業に支払いを命じた賠償金の肩代わりを行う韓国政府傘下の財団に、大韓商工会議所と韓国経済人協会が、それぞれ15億ウオン(約1億5千万円)を寄付した。
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2023年初めの時点で、新日鉄住金(現・日本製鉄)と三菱重工業とを相手取った3件が韓国最高裁で判決が確定していた。
韓国大法院(最高裁判所)は2018年10月、日本製鉄強制徴用の被害者が出した損害賠償訴訟で被害者の勝訴を確定した。日本製鉄(旧新日鉄住金)に対し、戦時中に日本の工場に動員された4人の韓国の元労働者に1人あたり約1000万円の賠償を命じた。
大法院判決(11対2の決定)は、戦時中に行われた日本統治下の朝鮮半島から日本本土の工場などへの動員は「日本政府の不法な植民地支配や、侵略戦争の遂行と結びついた日本企業の反人道的な不法行為」と認定していた。
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韓国大法院は2018年11月29日、三菱重工業に対し、第2次世界大戦中に同社の軍需工場で労働を強制された韓国人の元徴用工らに対する賠償支払いを命じる判決を下した。大法院は、損害賠償訴訟2件について、三菱重工業の上告を棄却し、2件の訴訟の原告に対し、1人あたり最大で1億5000万ウォン(約1500万円)の支払いを命じた。
しかし、日本政府は、元徴用工問題は日韓請求権協定によって「請求権問題は完全かつ最終的に解決された」という立場で一貫している。
日韓請求権協定。
第一条 日本が韓国に対して無償3億ドル(生産物、役務を10年にわたり供給)、有償2億ドル(長期低利の貸付)を供与する。
第二条
1 両締約国は,両締約国及びその国民(法人を含む) の財産,権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて,完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。 (中略)3 2の規定に従うことを条件として,一方の締約国及びその国民の財産,権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては,いかなる主張もすることができないものとする。
このため、日本製鉄と三菱重工業は、日本政府の見解をもとに、支払いに応じていない。
大邱地裁浦項支部は2021年12月30日、日本製鉄が韓国内に所有する資産、POSCOとの合弁会社「PNR」の株式の売却命令を出した。
日本側は現金化されれば国交正常化の前提が崩れ、関係修復が困難になると警鐘を鳴らしてきたが、韓国の司法は司法の立場を推し進めた。
最後の段階で、韓国の朴振外相は2023年3月6日、元徴用工問題の解決策を正式に発表した。
日本側の主張を受け入れ、かつ、韓国の司法の決定を尊重し、韓国最高裁が日本企業に命じた賠償金の支払いを韓国の財団が肩代わりする。
2023/3/9 韓国、元徴用工解決策を発表
1965年の日韓請求権協定を通じ日本から経済支援を受けた韓国鉄鋼大手ポスコは2023年3月15日、元徴用工を支援する韓国政府傘下の財団に40億ウォンを拠出すると表明した。
その後、同社は2024年9月19日にさらに20億ウォンを追加拠出し、合計で60億ウォンとなった。ポスコは、被害者の高齢化を考慮し、迅速な支援が必要と判断したため、追加拠出を決定したと説明している。
元徴用工への賠償を命じる判決は相次いで確定している。日本企業からの賠償を求めて財団からの支払いを頑固に拒否してきた原告(およびその遺族)も次々に財団からの支払いを受け入れており、財団の資金も残り少なくなっている。
このため今回、大韓商工会議所と韓国経済人協会が、それぞれ15億ウオン(約1億5千万円)を寄付したもの。
財団関係者は「今回の寄付で新たに15人前後の被害者に賠償金を支払える見通しだ」と話した。
財団は日本企業からの寄付にも期待を寄せているが、現時点で日本企業からの資金提供は確認されていない。
2025/4/18 iPS細胞を用いたパーキンソン病治療の治験で"安全性"と"有効性" : 住友ファーマが製造・販売の申請へ
京都大学医学部附属病院は4月17日、iPS細胞を用いたパーキンソン病治療の治験で"安全性"と"有効性" が示唆されたと発表した。
京大医学部附属病院は京都大学iPS細胞研究所と連携し、「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」を実施した。
2018年6月4日付で医薬品医療機器総合機構(PMDA)に医師主導治験として治験計画届を提出し、2018年8月1日より治験を開始した。
7名のパーキンソン病患者を対象に、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を脳内の被殻に両側移植した。主要評価項目は安全性および有害事象の発生で、副次評価項目として運動症状の変化およびドパミン産生を24カ月間にわたり観察した。
その結果、重篤な有害事象は発生しなかった。
iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞は生着し、ドパミンを産生し、腫瘍形成を引き起こさなかったことが示された。
これにより、パーキンソン病に対する安全性と臨床的有益性が示唆された。
パーキンソン病モデル動物を用いた研究から、ドパミン神経前駆細胞(ドパミン神経細胞に分化する前の細胞)を移植することによって脳内に成熟ドパミン神経細胞が効率的に生着することが明らかになっている。
iPS細胞研究所の橋淳教授らの研究グループはこれまでに、ヒトiPS細胞からドパミン神経細胞を誘導する方法を開発し、サルのパーキンソン病モデルの脳内でドパミンを産生し、運動症状を改善することを確認した。
高橋淳教授らは2018年11月9日、iPS細胞から育てた神経細胞をパーキンソン病患者の脳に移植したと発表した。医師主導による臨床試験(治験)の1例目。
10月に50代の男性患者で実施した。患者は手術前と同じように過ごしているという。国内でiPS細胞の移植は目の網膜の難病に続いて2番目、保険適用をにらんだ治験は初めてとなる。
2018/7/30 京大がiPS細胞でパーキンソン病治療臨床試験へ
本治験は、日本医療研究開発機構(AMED)と住友ファーマ(当時は大日本住友製薬)より支援を受けて実施され、治験が成功すれば住友ファーマが開発を引き継ぎ、実用化を目指す。
2021/3/16 大日本住友製薬の再生医療事業
今回の「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」のデータをもとに、治験に協力した住友ファーマは国に製造・販売の申請を行う。
住友ファーマの木村徹社長は2月4日、大阪市内で開いた説明会で、パーキンソン病を対象としたiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞「DSP-1083」について「2025年度中の申請と承認取得を目指す」と表明した。再生・細胞医薬事業を移管した住友化学との合弁会社「RACTHERA(ラクセラ)」が中心となって事業を進める。早ければ2026年度中に販売を開始する見通し。
「DSP-1083」については当初2024年度内の申請、承認を計画していたが、医薬品医療機器総合機構(PMDA)との協議の進捗を踏まえ、先送りしていた。このほど京都大学による医師主導治験の結果発表のメドが立ち、準備が整ったことから条件・期限付き承認申請に向けた活動を再開した。
治験に参加した人数が少ないため、条件付きの「仮承認」となる可能性がある。
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パーキンソン病は、「ドパミン」という神経の伝達物質を作り出す脳の細胞が失われることで手足が震えたり体が動かなくなったりする難病で、国内にはおよそ25万人の患者がいるとされてい る。
主に薬の投与や電極を脳に埋め込むなどの治療が行われているが、現在、根本的に治療する方法はない。
ドパミンは神経伝達物質の一つで、ドパミン神経細胞の中で作られる。
パーキンソン病では脳の中脳黒質の神経細胞が減少し、脳の被殻へのドパミン供給が減るため、神経伝達に障害が生じ、手足が動きにくくなったり、ふるえたりする症状があらわれる。
今回、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を脳内の被殻 という部位に両側移植した。
iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞は生着し、ドパミンを産生し、腫瘍形成を引き起こさなかったことが示された。重篤な有害事象は発生しなかった。
これにより、パーキンソン病に対する安全性と臨床的有益性が示唆された。
今回の治験は7人の患者に対して行われたが、1人については安全性のみの確認で、治療の効果が調べられたのは6人。
患者の運動機能がどのくらい改善したかを確かめるために、パーキンソン病患者の症状の程度を評価する国際的な指標の一つ、「国際パーキンソン病・運動障害学会統一パーキンソン病評価尺度パートIII」が使われた。
この指標は、しゃべるときのことばがはっきりしているかどうかや、いすから立ち上がるときに支えが必要かどうかなどの項目についてそれぞれ0から4までの5段階で評価するもので、症状が重いほど数字が大きくなる。
パーキンソン病の治療薬の効果が切れた状態で運動機能の検査を行った結果、2年が経過した時点で6人中4人の数値が改善し、中には32ポイント改善したという大きな効果が見られた人もいた。
4人のうち2人は症状の程度の区分が「中等症」から「軽症」に、1人は「重症」から「中等症」に改善した。
一方、2人は数値が数ポイント悪化したがこれは同じ期間、薬で治療を受けていた人と同じ程度の悪化だった。
大幅な改善が見られた患者は年齢が比較的若く、症状の程度が軽かったということで、研究チームはこの治療について「若くて重症度の低い患者に適していると考えられる」としてい
る。
2025/4/20 米国の「貿易政策不確実性指数」
トランプ米政権が発足して20日で3カ月。トランプ大統領は世界各国からの輸入品に対して「相互関税」を課した。高関税を武器に対米貿易黒字の解消や防衛費拡大を求め、各国は対抗か譲歩かの決断を迫られる。不確実性は前例のない水準に高まった。
米ノースウェスタン大のスコット・ベーカー准教授らが新聞記事などから算出する「貿易政策不確実性指数」は3月に5735に跳ね上がった。大統領選直前だった2024年10月の29倍、第1次政権で過去最高を更新した2019年8月の3倍である。
トランプ政権の猫の目の関税政策が経済の先行きを極めて不透明にしていることを映す。
TPU指数は、企業や投資家が貿易政策の今後の方向性にどれだけ不透明感を持っているかを測るもので、たとえば、関税の変更、自由貿易協定の破棄・締結、輸出入制限などのニュースが増えると、「不確実性」が高まるとされている。
TPU指数は、以下のようなステップで計算される。
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新聞記事の収集
一般的には、主要新聞(たとえばアメリカなら Wall Street Journal, New York Times など)の記事を対象とする。
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キーワード検索
「不確実性(uncertainty)」に関連する語と、「貿易(trade)」や「関税(tariff)」「輸出入(exports/imports)」などの貿易関連語が含まれる記事を抽出する。
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割合の計算
特定の月や四半期において、全記事のうち上記の条件を満たす記事の割合を計算する。
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指数化
得られた割合を基準年などに合わせてスケーリングし、指数化する(たとえば基準年=100とするなど)。
これは、「経済政策不確実性指数(EPU: Economic Policy
Uncertainty Index)」の貿易政策版である。
『経済政策不確実性指数』とは、政策の影響による経済の先行きの不確実性を示す指標で、米スタンフォード大学の教授らによって開発され、経済政策の不確実性に関する新聞報道の定量化、先行きに控える税制変更の数、エコノミストによる経済予想の不一致度合いの3要素で構成されている。
2025/4/21 Eli Lillyの2型糖尿病治療薬のOrforglipron、第III 相試験で安全性と有効性
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Eli Lillyは4 月17日、食事療法および運動療法のみでは血糖管理が不十分な2 型糖尿病の成人患者を対象に、経口GLP-1
受容体作動薬 Orforglipron の安全性と有効性を評価する第 III 相 ACHIEVE-1 試験で肯定的なトップライン結果を発表した。
Orforglipron は、時間を問わず、飲食および飲水の制限なく服用することが可能な初めての飲み薬である。(1 日1 回服用)
Orforglipronは初めての経口低分子 GLP-1 受容体作動薬として第 III相試験で統計学的に有意な有効性を示し、各群の平均 HbA1cを 1.3〜1.6%低下させた。
Orforglipronを 1日 1回経口投与し、主な副次評価項目の 1つとして検討した体重減少量は、最高用量群で平均 16.0ポンド(7.3 kg)(7.9%) だった。
ACHIEVE-1における Orforglipron の全般的な安全性と忍容性のプロファイルは、注射剤のGLP-1受容体作動薬と同様であった。
Eli Lillyのミッションは、成人患者数が 2050 年までに 7 億6千万人に達すると予測される2 型糖尿病をはじめとした慢性疾患を減らすことで、今回の結果は、そのミッションに向けた大きな歩みとなる。本剤が承認されれば、供給に制約なく全世界で Orforglipron を上市できる見込みとしている。
2型糖尿病とは:
最も多いタイプの糖尿病で、一般的に"糖尿病"と表現した場合2型糖尿病を示すことが多い。
遺伝的素因によるインスリン分泌能の低下に、環境的素因としての生活習慣の悪化に伴うインスリン抵抗性が加わり、インスリンの相対的不足に陥った場合に発症する。一般的に生活習慣病と称されるタイプの糖尿病が2型糖尿病で、インスリン分泌能の低下が不可欠で、生活習慣の乱れだけではなく、大なり小なり糖尿病になりやすい遺伝的素因を持っている。
肥満は、遺伝的な原因に関係なく、2型糖尿病の重大な危険因子となる。
血糖の濃度(血糖値)が何年間も高いままで放置されると、血管が傷つき、将来的に心臓病や、失明、腎不全、足の切断といった、より重い病気につながる。また、著しく高い血糖は、それだけで昏睡などをおこすことがある。
糖分を含む食べ物は消化酵素などでブドウ糖に分解され、小腸から血液中に吸収される。
食事によって血液中のブドウ糖が増えると、すい臓からインスリンが分泌され、その働きによりブドウ糖は筋肉などへ送り込まれ、エネルギーとして利用される。
インスリンの相対的不足に陥った場合に2型糖尿病を発症する。
食事をとると小腸から分泌され、インスリンの分泌を促進する働きをもつホルモンをインクレチンといい、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド )とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)がある。
2型糖尿病に対する治療薬として注目されるのがGLP-1である。
GLP-1は、食事をとって血糖値が上がると、小腸にあるL細胞から分泌され、すい臓のβ 細胞表面にあるGLP-1の鍵穴 (受容体) にくっつき、β 細胞内からインスリンを分泌させる。GLP-1は、血糖値が高い場合にのみインスリンを分泌させる特徴がある。摂取した食物の胃からの排出を遅らせる作用や食欲を抑える作用などもある。
GIPも食欲を抑制するだけでなく、体内での糖分や脂肪の分解を改善する可能性がある。
GLP-1もGIPも肥満症治療薬として使われる。(2型糖尿病治療薬として使われるのはGLP-1)
Orforglipron
(OWL833)
は中外製薬が初期段階前まで開発した後、2018年に全世界での開発・販売の権利をEli Lillyに譲渡した。
Eli LillyはOWL833に関する全世界の開発権および販売権を取得する。
中外製薬は5,000万米ドルの契約一時金を受け取り、今後の開発の進捗度合いに応じて追加の支払いを受け取る。
また、上市成功後には、中外製薬はさらに売上額に応じたロイヤルティを受け取る。Eli Lillyによると、実用化できれば売上高の1桁台半ばから10%台前半までの段階的なロイヤルティーを中外製薬に支払う。仮に6兆円の売り上げで12%の料率なら、約7000億円が中外製薬に入る計算である。
中外製薬にとって、糖尿病・肥満症領域は主力分野ではない。そのため、Eli Lillyにライセンスした。
同社がこれをタイミング良く開発できたのは、同社の開発体制にある。まず創薬技術を開発してそれを医薬品開発に適用する「技術ドリブン創薬」を掲げる。他社のようにターゲットとする疾患領域を定めてから開発に取り組むのと発想が異なる。
研究開発に集中できるのは、スイスの親会社ロシュとの役割分担がうまくいっているためである。
ーーー
肥満は2型糖尿病の重大な危険因子となるが、他にもいろいろな病気の原因となる。
新タイプの肥満症治療薬の利用者が、米国を中心に世界で急増している。GLP-1、GIP を使うものである。
先駆けとなったのが、デンマーク製薬大手Novo Nordisk のWegovy(ウゴービ )で、2021年に米国で承認された。もともと糖尿病(内臓脂肪の蓄積が主な原因)のために開発した薬(GLP-1受容体作動薬)を肥満症治療に応用したもので、食欲を抑制することでやせる効果があるとされる。日本では「セマグルチド(遺伝子組換え)」として2023年3月に承認された。
米Eli Lillyは2023年12月、同様の働きを持つ肥満症治療薬Zepboundを米市場に投入した。
CNBCによると、各社の開発状況は下記の通り。これまでの治療薬はすべて注射である。
製品名 |
メーカー | 用法 | 米承認 | |
Wegovy | Novo Nordisk | 週1回の注射 | 2021 承認 | GLP-1を活性化 |
Zepbound | Eli Lilly | 週1回の注射 | 2023 承認 | GLP-1とGIPを活性化 |
Saxenda | Novo Nordisk | 週1回の注射 | 2020 承認 | GLP-1を活性化 |
MariTide | Amgen | 月1回の注射 | Experimental | GLP-1を活性化し、GIPをブロック |
Danuglipron | Pfizer | 1日1回の錠剤 | Experimental | GLP-1を活性化 |
VK2735 | Viking Therapeutics | 週1回の注射 | Experimental | GLP-1とGIPを活性化 |
Pemvidutide | Altimmune | 週1回の注射 | Experimental | GLP-1を活性化 |
GSBR-1290 | Structure Therapeutics | 週1回の錠剤 | Experimental | GLP-1を活性化 |
Survodutide |
Zealand Pharma, Boehringer Ingelheim |
週1回の注射 | Experimental | GLP-1とグルカゴンを活性化 |
2024/4/15 新タイプの肥満症治療薬が急増
参考
京都大学病院はiPS細胞から作った膵臓の細胞のシートを糖尿病の患者に移植する臨床試験を2025年にも実施する。
2024年9月3日 京大、iPSで糖尿病を治療