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目次
これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
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2023/6/1 GX脱炭素電源法が成立、原発運転「60年超」可能に
原子力発電所の運転期間の60年超への延長を盛り込んだGX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法は5月31日の参院本会議で可決、成立した。既存の原発を可能な限り活用し、電力の安定供給と温暖化ガスの排出削減を目指す。
60年超の場合は、予見しがたい休止期間の範囲で操業を認める。(運転期間累計は60年が限度)
ーーー
原子力規制委員会は2022年12月21日、原子力発電所の運転開始から30年以降 、10年以内ごとに繰り返し運転を認可する新ルール 案を了承した。現行ルールを上回る「60年超」運転が可能になる。
現行ルールでは、運転開始から40年を迎える原発は、規制委の運転延長の審査に合格した場合に限り1回のみ最長20年の延長が認可される。また、これとは別に、運転開始から30年以降の原発は、10年ごとに「高経年化対策」も実施されている。
新ルールはこれらを一本化する内容で、規制委は電力会社に対し、施設の劣化を管理する長期計画の作成を義務づけ、安全性を確認すれば運転延長を繰り返し認可する。福島原発事故以前の規制に戻すこととなる。
2023/1/4
原発運転期間延長
2023年2月10日、「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定された。
気候変動問題への対応に加え、ロシア連邦によるウクライナ侵略を受け、国民生活及び経済活動の基盤となるエネルギー安定供給を確保するとともに、経済成長を同時に実現するため、主に以下二点の取組を進める。
@エネルギー安定供給の確保に向け、徹底した省エネに加え、再エネや原子力などのエネルギー自給率の向上に資する脱炭素電源への転換などGXに向けた脱炭素の取組を進めること。
AGXの実現に向け、「GX経済移行債」等を活用した大胆な先行投資支援、カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ、新たな金融手法の活用などを含む「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行を行うこと。
政府は2月28日、エネルギー関連の5つの法改正案を閣議決定。これらをまとめた束ね法案「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」(GX脱炭素電源法)として、通常国会に提出された。
GX脱炭素電源法のうち、原子力に関しては、
原子力発電の利用に係る原則の明確化(原子力基本法)
高経年化した原子炉に対する規制の厳格化(原子炉等規制法)
原子力発電の運転期間に関する規律の整備(電気事業法)
円滑かつ着実な廃炉の推進(再処理等拠出金法)
――が柱となっている。
原子力基本法の改正では、従前の条文に対し、目的、基本方針の中に、それぞれ「地球温暖化の防止」、「福島第一原子力発電所事故を防止できなかったことを真摯に反省」との文言が追加され、安全最優先、原子力利用の価値を明確化。さらに、廃炉・最終処分などのバックエンドプロセスの加速化、自主的安全性向上・防災対策に係る「国・事業者の責務」について、新たに条文立てされている。
高経年化炉の規制については、関連法案の成立を前提として既に原子力規制委員会で技術的検討が開始されているが、事業者に対し、@運転開始から30年を超えて運転しようとする場合、10年以内ごとに設備の劣化に関する技術的評価を行う、Aその結果に基づき長期施設管理計画を作成し、規制委員会の認可を受ける――ことを義務付ける。
運転期間については、原子炉等規制法から経済産業省が所管する電気事業法に移され、これまで通り「運転期間は40年」、「延長期間は20年」の原則を維持 。安定供給確保、GX(グリーントランスフォーメーション)への貢献、自主的安全性向上や防災対策の不断の改善につき、経済産業相の認可を受けた場合に限り延長を認め、「延長しようとする期間が20年を超える」場合は、事業者が予見しがたい事由(東日本大震災以降の安全規制に係る制度・運用の変更、司法判断など)に限定して運転期間のカウントから除外 することで、実質的に60年超運転を可能とする。
(原子炉等規制法)規制委員会は10年ごとに検査(60年超も)
(電気事業法) 原則は「運転期間は40年、延長期間は20年」 経産省は、60年超の場合、予見しがたい休止期間の範囲で操業を認める。
また、再処理等拠出金法では、経済産業省の認可法人「使用済燃料再処理機構」の業務に、「各地の廃炉作業の統括」を追加している。
原子力規制委員会は2023年2月13日夜に臨時の委員会を開き、運転開始から60年を超える原子力発電所の安全規制の新たな制度案と原子炉等規制法の改正条文案を多数決で了承した。
石渡明委員が反対するなか、山中伸介委員長と他の委員の計4人が賛成した。政府は今国会に関連法案の提出をめざす。
2023/2/10 原子力規制委員会、原発60年超運転に向けた規制制度案の承認持ち越し→承認
ーーー
衆議院は4月27日の本会議で、電気事業法、原子炉等規制法、再処理等拠出金法、再エネ特措法および原子力基本法の改正案を束ねたGX脱炭素電源法案(脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案)を賛成多数で修正可決した。
同法を巡っては自民、公明、日本維新の会、国民民主の4党が衆院通過前に規制委の審査の効率化を求める文言を付則に加えた。
原発の立地地域だけでなく「電力の大消費地である都市の住民」の信頼を確保し、協力を得ることを国の責務とする内容も修正して盛り込んだ。
5月31日の参院本会議で可決、成立した。
2023/6/2 米の債務上限法案 下院で可決、上院へ送付
アメリカ政府の債務上限の引き上げをめぐり、バイデン大統領と野党・共和党のMcCarthy下院議長が基本合意した。
今後は最終的に法案として上下両院で可決する必要がある。
McCarthy下院議長は5月28日に法案を完成させて大統領と再び協議し、正式に合意したうえで、5月31日に採決を行う方針を表明した。
Yellen財務長官は、債務上限の引き上げを行わなければ6月5日にもデフォルトに陥る恐れがあると指摘している。
それまでに下院と上院で可決し、大統領がサインする必要がある。
2023/5/28 米債務上限 引き上げで基本合意
議会に提案された法案
The Fiscal Responsibility Act of 2023
の主な内容は下記の通り。
債務上限を2025年まで凍結
2023年1月19日に債務は31兆4000億ドルの上限に到達した。
下院議会は4月26日、連邦債務上限を最大1兆5,000億ドル引き上げ、連邦政府の支出を4兆5,000億ドル削減する法案を賛成217、反対215で可決した。
しかし今回、上限は変更せず、2025年1月1日まで凍結する。
(現在の上限を超えての借り入れが可能)
国防費以外の歳出制限
2024年度は2023年度と同レベルとし、2025年度は1%だけ増やす。それ以降は制限なし。
国防予算は3%増とする。
未使用のCovid 19 予算の返還 約300億ドル
福祉予算
Medicaid(医療扶助)は変わらず。
Supplemental Nutrition Assistance Program (=Food
Stamp ) で就業が求められる年齢を50歳から54歳に引き上げ
IRS予算
Inflation Reduction
Actで決まった最富裕層への課税推進のためIRS予算(10年間800億ドル)から、2024年度と2025年度にそれぞれ100億ドルを他の予算に振り向ける。
エネルギー計画認可
化石燃料と再生可能エネルギー計画の認可を容易にする。環境レビュープロセスの簡素化
下記テーマについてはいずれか一方が希望したが、今回の合意に含まれなかった。
奨学金免除
共和党はバイデンによる奨学金免除の取り消しを求めていたが、生き残った。
増税
民主党は富裕層への増税を図ったが、含まれず。
クリーンエネルギー
共和党はInflation Reduction
Actのなかのクリーンエネルギーや気候変動に関する主部分の削除を狙ったが、実現せず。
ーーー
法案をめぐっては、双方の一部の議員からは反対の声が上がっており、共和党の強硬派の委員は「法案を阻止するために何でもする」と述べた。
共和党保守強硬派の議員連盟「Freedom
Caucus」メンバーの下院議員は、McCarthy議長の今回の動きは議長解任の理由になると述べた。メンバーは次々に法案への反対を同僚に訴えた。
下院が4月26日に通した法案では、連邦債務上限を最大1兆5,000億ドル引き上げる代わりに、連邦政府の支出を4兆5,000億ドル削減するもので、今回の法案は削減がゼロであり、あまりにも異なることを問題視している。
McCarthy 院内総務を下院議長に選ぶ際に「Freedom
Caucus」のメンバーが反対し、過半数を取れないまま、何日もかかった。McCathyは反対派の説得のため、多くの妥協をした。議長解任動議の提出条件は会派の半数の賛成であるが、
最終的に1人で動議を出せることを承認した。
大統領と議長は29日のメモリアルデー(戦没者追悼記念日)の祝日もそれぞれの党の議員に法案を支持するよう働き掛け、可決に十分な票の確保に努めた。
McCarthy下院議長は5月31日の下院本会議で採決を行う方針で、まず5月30日に下院の議事運営委員会で審議した。同委メンバー13人中9人が共和党議員で、そのうち最右翼の3人がMcCarthy議長に批判的である
が、賛成7(共和党7)、反対6(共和党2、民主党4)の賛成多数で本会議審議に進めることを可決した。
下院本会議は5月31日夜(日本時間6月1日朝)
投票を行った。その結果、賛成多数で可決し、上院に送付された。
共和党
民主党
合計
賛成
149
165
314
反対
71
46
117
棄権
2
2
4
合計
222
213
435
法案は上院で審議・採決される。6月5日(月)以前に債務上限が引き上げられるか適用停止とされなければ、前代未聞のデフォルトに陥る可能性があり、それまでに上院で可決し、大統領がサインする必要がある。
上院ではフィリバスター(議事妨害)を阻止するために60票が必要であるが、 上院での法案可決はほぼ確実視されている。
議員の中には法案の一部修正を求める声もあるが、仮に修正すれば、再度下院で議決する必要があり、時間がない。
上院勢力図 無所属は元民主党員
共和党
民主党
民主系 無所属
無所属
合計
49
4 8
2
1
100
共和党のスーン上院院内幹事は6月2日夜までの法案可決で与野党が一致する可能性に言及した。
2023/6/2 債務上限法案を上院も可決、デフォルトを直前回避
米民主党上院トップのシューマー院内総務は6月1日、債務上限停止法案を通過させるまで会期を続けるとし、同日中に法案可決に向けたプロセスを開始すると言明した。
政府の資金繰りが行き詰まるとされる6月5日までに残された時間はわずか4日で、その間に上院は可決し、署名のためにバイデン大統領の送付する必要がある。
両党の多くの議員が5月31日に下院を通過した法案への反対を表明していた。このため10本の修正条項を投票にかけた。(11本とされているが、記録では10本)
修正が可決されると下院に戻す必要があり、間に合わなくなるが、これらの修正条項に可決の見込みはなく、迅速に法案自体の採決に進む見通しになっていた。
(議員が特定項目について修正を提案したという証拠作りのためだけのもので、国家の緊急時にこんなことをやるのは理解し難い。)
修正提案の議決は次の通り。
投票時間
賛成
反対
棄権
結果
No.1
07:30 pm
21
75
4
否決
可決には60票の賛成が必要
2
08:22 pm
35
62
3
3
08:38 pm
46
51
3
4
08:53 pm
49
48
3
5
09:05 pm
17
81
2
6
09:22 pm
46
51
3
7
09:36 pm
48
51
1
8
09:49
pm
47
52
1
9
10:01
pm
48
51
1
10
10:18 pm
30
69
1
その後、6月1日10:37pmにThe Fiscal Responsibility Act of 2023を投票した。可決には フィリバスター(議事妨害)を阻止するために60票が必要であるが、超党派の議員が賛成し、63票の賛成で辛うじて可決した。
共和党
民主党
民主系 無所属
無所属
合計
賛成
17
44
1
1
63
反対
31
4
1
36
棄権
1
1
合計
49
4 8
2
1
100
民主党系では無所属のBernie Sanders などが反対した。
Biden大統領は議会のタイムリーな行動を称賛し、できるだけ早くサインすると述べた。6月2日の午後7時(日本時間3日朝8時)に声明を発表する。
6月3日にバイデン大統領が署名し、成立した。署名が3日になった理由は、議会が法案の詳細を確定する作業が残っていたため。
2023/6/5 トヨタ、米国でバッテリーEV生産、電池工場に追加投資
トヨタは6月1日、米国でのバッテリーEV(BEV)生産と電池工場への追加投資で電動化への取り組みを強化すると発表した。
・Toyota Motor Manufacturing Kentucky, Inc.(TMMK)で2025年からバッテリーEVのSport
Utility Vehicle(3列シートSUV)を生産開始する。
トヨタが米国でBEVを生産するのは初めてで、Toyota
Battery Manufacturing, North Carolinaで生産する電池を搭載する。
・Toyota
Battery Manufacturing, North Carolina
2021/11、ノースカロライナ州のGreensboro-Randolph Megasiteでの建設決定、投資額 12.9億ドル
2022/8、25億ドルの追加投資発表
今回、21億ドルを追加投資し、インフラ整備 (総投資額は59億ドル)
拡大する電動車の需要に必要なリチウムイオン電池を生産・供給
2025年稼働予定、ハイブリッド車(HEV)、バッテリーEV(BEV)用電池を生産
トヨタの米国での電池製造の動きは下記の通り。
同社は2021年10月18日
に、米国において2030年までにBEV用を含む車載用電池の現地生産に約3,800億円(約34億ドル)を投資することを発表した。
トヨタの北米事業体のToyota Motor North America(TMNA)は2021年11月、豊田通商との合弁で
Toyota Battery Manufacturing, North Carolina(TBMNC)を設立した。
TMNA90%、豊田通商10%の出資で、車載用電池を製造する。
2025年からの稼働を目指す。
2031年までに約12億9,000万ドル(約1,430億円、※用地、建物の費用を含む)の投資と、現地での新規雇用1,750人を見込む。
2021年12月7日、投資する車載用電池工場の建設地について、ノースカロライナ州のGreensboro-Randolph
Megasiteに決定したことを発表した。
2025年の稼働開始時には、4本の生産ラインでそれぞれ20万台分のリチウムイオン電池を生産する。将来、少なくとも生産ラインを6本に拡張し、合計で年間120万台分の電池を供給することを目指す。
トヨタは2050年までにクルマと事業活動両方におけるカーボンニュートラルを達成するための取り組みを続けており、新工場では、100%再生可能エネルギーを使用する
。
2022年8月31日、TBMNCはバッテリー電気自動車(BEV)用電池の生産能力を増強するために、約25億ドルを追加投資
すると発表した。新たに約350名を雇用する予定で、総雇用数は約2,100人を見込む。ハイブリッド車(HEV)、BEV用の電池を生産する。
今回、今後の電池の需要増を見据え、将来の拡張に備えた土台づくりとして、現在建設中のTBMNCに、21億ドルを追加投資し、インフラ整備を進めることを決定した。TBMNCへの総投資額は59億ドルに達する。
ーーー
トヨタ自動車は2023年4月1日付で佐藤恒治執行役員が社長に就任するのに伴い、新体制では「次世代バッテリー電気自動車(BEV)を起点とした事業改革」「アジアのカーボンニュートラルの実現」を重点事業の柱として進めると発表した。
従来、同社ではハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、水素燃料電池車、電気自動車と全方向に向けて対応を進める「マルチパスウェイ」戦略を強調してきた。同社のBEVは22年5月に発売したSUV(多目的スポーツ車)タイプの「bZ4X」のみ。
2021年12月14日、「バッテリーEV戦略に関する説明会」に登壇した豊田章男社長は2030年までに30種類のBEVを発売し、2030年には世界での年間販売台数を350万台、うちレクサス100万台との目標を掲げた。350万台はトヨタの年間販売台数の3分の1にあたる規模。
この時点でも、北米、欧州、中国は100%BEVとしていた。
今後はBEV中心となる。佐藤新社長が「足元のCO2 を減らす、省エネルギーの観点の取り組みしながら、中長期的にBEVにシフトする」とした。新CTO(最高技術責任者)の中嶋裕樹新副社長は「様々な現場でBEVの開発は進んでいる。マルチパスウェイの重要な手段の1つ。開発のスピードをより一層上げていきたい」とした。
2026年までに10モデルの電気自動車(EV)を市場に投入し、年間150万台を販売する計画を発表した。
ーーー
米国ではホンダはLG Energy Solutionと組んでいる。
2023/3/7 ホンダとLGの米バッテリー工場 起工式
日産自動車は日米英のバッテリー事業(NECとのJV)を中国の エンビジョンAESCに売却した。
2017/8/15 日産自動車とNEC、バッテリー事業を譲渡
日産は現在も エンビジョンAESCから電池を購入するとともに、英国での同社の増設に協力している。ただし、 中国企業が80%出資するエンビジョンAESC の電池を採用した場合、米国で昨年8月に成立した「インフレ抑制法」で税制優遇を受けられない懸念があり、2つめの電池調達先を検討している。
EV減税の対象となる新車について、北米地域での最終組み立てを義務付け、さらにEV用電池の原材料である重要鉱物の調達先を、米国か、米国と自由貿易協定(FTA)を結んでいる国に事実上制限する。
主な要件 (控除額は個人の場合)
税額控除額
価格が5.5万ドル(バンやSUV、ピックアップトラックは8万ドル)未満であること
必須
-
車両の最終組み立てが北米(米国、カナダ、メキシコ) で行われていること
必須
-
@電池材料の重要鉱物のうち、調達価格の40%(2027年から80%)が自由貿易協定を結ぶ国 で採掘あるいは精製されるか、北米でリサイクルされていること
どちらか
必須
3,750ドル
A電池用部品の50% (2029年から100%)
が北米で製造されていること
3,750ドル
2023年3月28日に「重要鉱物のサプライチェーンの強化に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」(日米重要鉱物サプライチェーン強化協定:日米CMA)が署名され、即日発効となった。米国は、同協定をインフレ抑制法(IRA)上のFTAとみなす。
2023/6/6 OPECプラス、協調減産を2024年まで延長
「OPECプラス」は6月4日、協調減産の枠組みを2024年末まで延長すると決めた。サウジアラビアは独自に日量100万バレルを7月に追加減産すると表明した。下落基調にある原油価格を下支えする姿勢を示した。
ーーー
OPECプラスは2022年12月4日、前回会合で決定した日量200万バレルの減産を維持することで合意した。
サウジアラビアのエネルギー相は2023年3月14日、OPECプラスが昨年10月に合意した減産方針を2023年末まで継続すると述べた。
OPECプラスは4月2日、5月から日量116万バレルの減産を実施すると発表した。市場の安定を維持するために供給を据え置くとこれまで約束していたため、協調減産は意表を突く格好となった。
サウジアラビアは5月から日量50万バレルの供給削減を表明、クウェートやアラブ首長国連邦(UAE)、アルジェリアなども同様に減産を発表した。
ロシアが3月から単独で実施している減産を加えると、昨年末比で日量
166万バレルの減産となる。ロシアは6月までの減産としていたが、これを更に延長する。(当初報告にガボンを追加)
従来までの200万バレル減産に加え、合計で365万バレルの減産となる。
2023/4/3 サウジ、日量50万バレルの減産を表明、クウェートやUAEも追随、OPECプラスとして昨年末比
165万バレル(計365万バレル)の減産
ーーー
「OPECプラス」は6月4日、OPECの本部があるオーストリアのウィーンで今後の原油の生産量を決める会合を開いた。当初は現在の枠組みを2023年末まで維持する方針だったが、7時間におよぶ今回の協議の結果、これを2024年末まで延長 することで合意した。
サウジアラビアは自主的に7月に日量100万バレルを追加で削減すると表明した。5月からの50万バレル減産に追加するもので、これにより4月の生産の日量1050万バレルが約900万バレルとなり、2021年6月以来の低水準となる。
わずか1カ月で追加措置を打ち出したのは、弱含む原油相場への警戒感からで、国際指標の北海ブレント原油先物は1バレル76ドル台と、世界景気減速への懸念から4月の高値より1割以上安い。
サウジは100万バレルの減産について7月以降も続ける可能性があるとした。
ロシアも「ロシアは今後も合意事項を順守していく」と述べたうえで、1日あたり50万バレルの自主的な減産を来年末まで延長する考えを示した。
追加減産は次の通り。(千バレル)
2023/5
2023/7
サウジアラビア
500
+1,000
イラク
211
UAE
144
クウェート
128
カザフスタン
78
アルジェリア
48
オマーン
40
ガボン
8
小計
1,157
ロシア
500
合計
1,657
2,657
総計
3,657
4,657
OPECプラスは声明で、協調減産に加わる国々の2024年の生産量を1月からさらに日量140万バレル引き下げ、合計で日量4,046万バレルに設定したと発表した。
大部分はロシア、ナイジェリア、アンゴラの目標を現在の生産水準に合わせて引き下げたものであり、実際の削減にはならない見通し。ロシアやナイジェリア、アンゴラの割り当てを減らす一方、
生産能力を増強してきたUAEは約20万バレル引き上げた。
次回の閣僚級会合は11月26日にウィーンで開く。
2023/6/7 BRICS、グローバルサウスを取り込み拡大へ
中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカでつくるBRICS=新興5か国の外相会議が、南アフリカのケープタウンで6月1日から開かれた。
6月2日にはサウジアラビアやイラン、それにキューバなどBRICSへの加盟に関心を示している国々の代表も参加した会合
( "Friends
of BRICS" talks )が開催され、加盟国の拡大について意見を交わした。
出席:Iran, Saudi Arabia, UAE, Cuba, Democratic
Republic of Congo, Comoros, Gabon, and
Kazakhstan
オンライン参加:Egypt, Argentina, Bangladesh,
Guinea-Bissau and Indonesia
中国が加盟国の拡大を積極的に推し進めるなか、これまでにおよそ20か国が加盟に関心を示しているとされている。
南アのパンドール国際関係・協力相は、BRICS拡大の指針を文書にまとめる作業を実務者レベルで続け、「8月の首脳会議で提示したい」と述べた。
ロシアは、ロシアに制裁を行っている国の加盟には反対する立場を示している。
8月の首脳会議はことしの議長国の南アフリカで行われるが、南アは国際刑事裁判所の加盟国であり、逮捕状が出ているプーチン大統領が自国内に入った場合には拘束する義務を負う。南アフリカ政府は「様々な法的選択肢を検討している」としており、どのような対応をとるのかが焦点となっている。
南ア政府は今年1月にはラブロフ露外相の訪問を受け入れて友好関係を確認している。
ーーー
ブラジル、ロシア、インド、中国の 四か国の第一回の首脳会議は 2009 年にロシアで開催された。主に通貨問題が話し合われ、新興市場と発展途上国の国際金融機関における発言権と代表性を高めることを求めた。
この新興 4 か国の総称の“ BRICs ”は投資銀行 Goldman
Sachs のエコノミストの Jim
O'Neill が書いた 2001 年 11 月 30 日の投資家向けレポートで初めて用いられ、世界中に広まった。
2011年4月に BRICs に南アを新たに加えた新興5カ国( BRICS )の首脳会議が中国海南省の三亜市で開かれ、「三亜宣言」を採択した。
2011/4/23 BRICs から BRICS へ
2022年のBRICSの人口は世界人口77億74百万人の42%を占める。
インド 14億23百万人、中国 14億13百万人、ブラジル
2億14百万人、ロシア 1億43百万人、南ア 61百万人、合計 32億54百万人
2022年に議長国を務めた中国がBRICSの 拡大を仕掛けた。激化する米中対立やロシアのウクライナ侵攻で、世界の二分化が深まったが、中立的な立場にとどまろうとするグローバルサウスをうまく取り込めば、有利な状況を築けると中国は読んだ。
これに真っ先に名乗りを上げたのは中東のイランと、南米のアルゼンチン
で、両国は2022年6月に加盟を申請している。
イランはロシアに攻撃用ドローンを供給し、中国とも25年間と長期の経済協定を結ぶなど中露両国と関係が深い。反米路線をとるイランのライシ大統領はBRICS加盟を最優先課題に位置づける。
昨年夏時点では、この2カ国が新規加盟し、G7に対抗した「A7」(Alternative
7 )が結 成されるとの観測も高まった。
しかし、加盟希望国は2国にとどまらない。本年の議長国である南アのスークラルBRICS担当大使
は、13カ国から正式申請を受けており、非公式を含めると19カ国に達しているとしている。
加盟が噂される国は下記の通り。
OPEC
OPEC+
その他
既存メンバー
ロシア
ブラジル、インド、中国、南ア
中東・北アフリカ
イラン、サウジ、UAE、
アルジェリア
バーレーン
エジプト、トルコ
アフリカ
ナイジェリア
セネガル
中南米
メキシコ
アルゼンチン、ニカラグア
アジア
インドネシア
タイ、カザフスタン、バングラデシュ
サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、ナイジェリアなどの産油国が加盟すれば、世界の石油・ガス資源の過半数を押さえることとなる。
2023/6/8 世界初の「歯生え薬」の実用化に向けた治験
医学研究所北野病院歯科口腔外科で、先天的に永久歯の数が少ない人に対し、薬を投与して歯を生やすことを目指した治験を2024年7月から始める。2030年の実用化を目標とする。
公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院は、 大阪市北区扇町にあり、急性期総合病院としての機能を有している。
大阪の実業家 田附政次郎氏が、京都帝国大学(現
京都大学)医学部で胸の病を癒されたことに感謝、同大学の学術研究に資することを目的に提供された寄付金に基因する。
1925年、同大学医学部内に財団法人田附興風会医学研究所が設立され、1928年、研究事業遂行のための臨床医学研究用病院が大阪に付設された。
付記
北野病院等は2024年5月3日、 グループが進めている先天性無歯症に対する歯の再生治療薬(通称名「歯生え薬」)の研究計画について、2024年3月25日付で医薬品医療機器総合機構(PMDA)から承認が下りたことに伴い、この度、京都大学医学部附属病院の協力のもと医師主導治験を開始することとなったと発表した。
今回、First-In-Human試験に必要な非臨床試験およびPMDA対面助言を完了し、プロトコール骨子を確定した。それをもって、京都大学医学部附属病院
早期医療開発科次世代医療・iPS細胞治療研究センターにて、健常人を対象としたFIH試験を実施し、TRG035のヒトにおける安全性を確認するとともに、適切な投与量を同定する。
ーーー
京都大学医学研究科口腔外科学分野の高橋克准教授(当時)が、永久歯の次に生える歯(第3生歯)を成長させることによって歯の再生の実現が可能なことを発見した。
ヒトでは大臼歯が1生歯性(永久歯)、それ以外は2生歯性(乳歯+永久歯)で、歯数は厳密に制御されている。
実際には、乳歯と永久歯のあとに第3歯堤という歯の原器 があるが、骨形成タンパク質(BMP)等の働きを阻害する拮抗分子USAG-1遺伝子の働きによって第3生歯は消失 してしまう。
橋克准教授による長年の研究によ り、この 拮抗分子USAG-1遺伝子を抑制する中和抗体や siRNA ( 2本鎖RNAが遺伝子の発現を抑えてしまうRNA干渉に関与するRNA)によって無歯症モ デル動物で欠損歯が歯槽骨と共に回復することが分かった。
マウスやビーグル犬、フェレットなどの動物に歯生え薬の候補となる中和抗体を投与したところ、歯が欠如していた箇所から歯が生えることが確認できている。
歯の再生を促す新規医薬品を開発する歯科領域の創薬ベンチャー、 トレジェムバイオファーマ(Toregem
BioPharma)は2020年5月12 日に設立された。
Toregemの社名は To oth
Rege neration M edicine(歯の再生薬)から採った。
京都大学医学研究科口腔外科学分野の喜早ほのか氏がCEOを務め、高橋氏が共同創業者のトレジェムでは、USAG-1中和抗体のヒト化に向けた開発を進めており、中和抗体と siRNA の化合物を 新規医薬品として上市することを目指している。
2020/12/2 歯の再生を促す医薬品を開発する
トレジェムバイオファーマ
トレジェムバイオファーマは2022年3月8日、第三者割当増資で4億5000万円を調達したと発表した。この資金調達により、 USAG-1
中和抗体の非臨床安全性試験と治験用製 剤の製造準備を進めた。
2022/3/11「歯生え薬」の安全性試験実施
ーーー
橋克准教授は現在、 医学研究所北野病院歯科口腔外科の主任部長として、歯の再生治療薬の治験を進めている。
日本医療研究開発機構(AMED)による支援の下、医学研究所北野病院を中心とする全国の10以上の医療機関、研究機関とトレジェムバイオファーマ社によって産官学連携プロジェクト:「先天性無歯症患者さんへ、治療薬をお届けすることを目指している」を行っている。
歯の再生治療薬の治験を計画しています
ご本人あるいはご家族の方で、次に当てはまる方は先天性無歯症かもしれません。
ー15歳になっても乳歯が残っている。
ー乳歯が抜けたのに永久歯が生えてこない。
ー歯の数が6本以上少ないと言われたことがある。
2030年に患者さんへ治療薬をお届けすることを目指しています。
上記に心当たりのある方は担当医にお尋ねください。
まずは、生まれつき歯が生えない先天性無歯症のうち、永久歯が育たずに6本以上の永久歯が欠如している場合を適応疾患として想定している。
ヒトの永久歯が先天的に欠如する原因となっているのは、骨形成たんぱく質であるBMPやWntの働きを「USAG-1」と呼ばれる分子が阻害しているためで、USAG-1の働きを抑制する成分を体内に投与することで、歯の芽(歯胚)の発達を助け、歯を生やそうと考えている。
具体的には、薬を全身投与すると、歯堤があるところに歯が生えてくる。現在は、新薬候補物質である中和抗体を使って、マウスとサルを対象に臨床試験の前段階である非臨床安全性試験を行っている。2024年から先天性無歯症の治療薬として臨床試験を開始する。
参考 別のアプローチ
2020/6/29 エア・ウォーター、「歯髄幹細胞を用いた再生医療」を世界で初めて実用化
2023/6/9
米国のEV税額控除制度の例外
米政府は4月17日、Inflation Reduction
Actにより、消費者が電気自動車(EV)を購入する際に税優遇の対象となる車種の新たなリストを明らかにした。
米政府は自国市場のEVについて、消費者が最大7500ドルの税額控除を得られる販売支援策を採っている。4月18日から
昨年に成立したInflation
Reduction Actに含まれた電池材料についての新たな要件を適用するのにあわせ、対象車種を更新した。
低・中所得者がエコカーなどの新車を購入する際に、下記の条件を満たした場合、1台当たり3,750ドルか、7,500ドルのいずれかの税控除を受けられる。
北米以外で組み立てられたEVについて、同月以降税控除の対象外とした。
主な要件 (控除額は個人の場合)
税額控除額
価格が5.5万ドル(バンやSUV、ピックアップトラックは8万ドル)未満であること
必須
-
車両の最終組み立てが北米(米国、カナダ、メキシコ) で行われていること
必須
-
電池材料の重要鉱物のうち、調達価格の40%(2027年から80%)が自由貿易協定を結ぶ国 で採掘あるいは精製されるか、北米でリサイクルされていること
どちらか
必須
3,750ドル
電池用部品の50% (2029年から100%) が北米で製造されていること
3,750ドル
発表された対象車種は全て米国メーカーのものである。(Stellantisは多国籍企業だが、対象は元々米国車である。)
最大の控除額7500ドルが適用されるEVとPlug-in
Hybridは合計でわずか10車種にとどまる。バッテリーの構成部品や重要鉱物の調達先に関する要件が厳格化され、Plug-in
Hybridの車種は大半が対象外となった。
Stellantis、Ford、Teslaが生産する別の計7車種には、最大額の半分となる3750ドルの控除が適用される。
日欧韓メーカーの車はすべて対象外となった。
2023/4/19 米国の電気自動車税額控除の新しい対象発表
対象外となった日欧韓メーカーは大幅に売上を減らすと予想された。
しかし、現代自動車によると、現代自動車と傘下の起亜自動車は5月に米国市場で昨年同期より20.8%増の14万7103台を販売した。両社とも昨年8月から10ヵ月連続で前年比販売台数が伸びており、昨年11月以降は7ヵ月連続で2桁の伸び率である。
低迷が予想されていた電気自動車は、米国で前年比48.5%増の計8,105台を販売した。
現代自動車グループは
米国で生産されなくても補助金の恩恵が与えられるレンタルやリースなどの商業用車両市場を攻略し、成長の勢いを牽引した。
本ブログでは見逃していたが、 米財務省は2022年12月29日、消費者がリース契約した電気自動車(EV) も2023年1月1日から最大7500ドルの商用EV向け税額控除の適用対象にする方針を明らかにした。北米以外で組み立てられたEVも控除が受けられるよう になる。
財務省は、「北米で組み立てられた」 という税額控除の規定は変更せず、「長年の課税原則」の解釈 に基づいてリース車両を控除対象とする判断を下したと説明している。
Internal Revenue Serviceによれば、Honda, Audi,
Volkswagen, BMW, Hyundai, Jaguar Land Rover, Kia, Mazda, Mercedes-Benz,
Mitsubishi, Nissan, Porsche, Subaru, Toyota, Volvo その他のメーカーのEVが対象となる。
米国のリースマーケットは非常に大きく、ドイツのStatistaの報告では、2022年に米国の消費者が得た新車の約1/5 がリースされたものである。
インフレ抑制法に盛り込まれたEV促進策は、北米以外で組み立てられたEVの購入は税額控除が適用されない形となり、EUや日本などのメーカーから不満が噴出。韓国などの一部外国自動車メーカーは、商用EVの税額控除拡充を要望し、この控除を活用すればリース価格を引き下げられると主張していた。
自動車業界団体の米国自動車イノベーション協会の代表は「米国でのEV普及にとって前向きな展開」と評した。
2023/6/12 厚労省、ノバルティスファーマの遺伝子治療「ルクスターナ」の承認了承
厚生労働省は5月26日に薬事・食品衛生審議会再生医療等製品・生物由来技術部会を開き、遺伝性網膜ジストロフィー(IRD)に対するノバルティスファーマの遺伝子治療「ルクスターナ」(Luxturna、一般名:voretigene
neparvovec)の承認を了承した。
6月中にも正式承認される見通し。
眼科領域の遺伝子治療薬は初の承認で、「両アレル性RPE65
遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィー」を効能・効果または性能とする。
RPE65 という遺伝子には、網膜の視細胞が光を感じるのに必要な物質を作る際に働く酵素の情報が載っている。この酵素が遺伝的に欠損していたり、働きが悪かったりすると、視細胞が光を感じるのに必要な物質を作ることできず、視細胞の光感受性能が著しく低下する。
(RPE65 は,網膜視細胞の光受容に必要なビタミン A 代謝産物である 11-
シスレチナールの合成に必要な酵素をコードするため、この酵素が遺伝的に欠損すると,眼内で 11
シスレチナールの生成ができなくなり,視細胞の光感度の大幅な低下が生じる。)
「ルクスターナ」はヒトRPE65
遺伝子を搭載 した非増殖性組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)を成分とする再生医療等製品で、網膜下にある網膜色素上皮(RPE)細胞に感染することにより、搭載された遺伝子発現構成体が細胞の核内にエピソーム
( 細胞が本来もっている染色体とは別に,比較的短い環状DNAが独立した染色体として安定的に維持されたもの
)として留まり、ヒトRPE65遺伝子は長期間安定して発現する。
遺伝学的検査によりRPE65
遺伝子の両アレル性の変異が確認されたIRD患者が投与対象となる。
用法・用量または使用方法は「通常、1.5×1011 ベクターゲノム(vg)/
0.3mLを各眼の網膜下に単回投与する。各眼への網膜下投与は、短い投与間隔で実施するが、6日以上あけること。同一眼への本品の再投与はしないこと」となっている。
海外では、2017年に米国で、2018年に欧州で承認されており、2022年8月時点で40
以上の国または地域で承認されている。
承認されれば、
アンジェスの「コラテジェン」(べぺルミノゲンペルプラスミド)、
ノバルティスファーマの「ゾルゲンスマ」、
第一三共の「デリタクト」(テセルパツレブ)
に次いで国内4番目のin
vivo(生体内)遺伝子治療で、眼科領域の遺伝子治療としては国内初となる。In Vivo遺伝子治療は直接生体内に遺伝子を導入する方法。
他に、ex
vivo (生体外)遺伝子治療としてノバルティスファーマの「キムリア」が承認されている。Ex
vivo遺伝子治療は体の外で遺伝子導入する方法。
ーーー
キムリア 点滴静注(一般的名称:チサゲンレクルユーセル、申請企業:ノバルティスファーマ)CAR-T細胞治療
キムリア(CAR-T細胞療法)は、患者の血液中の免疫細胞(T細胞)を取り出して外部で遺伝子導入することでT細胞を強力にし、さらにそれを培養して増やした後患者の体の中に注射して戻す治療法
「再発または難治性CD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)」と「再発または難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)」を効能・効果とする。
希少疾病用再生医療等製品。厚労省によると、推定される投与対象患者数はピーク時で年間250例程度。
2019/2/22 厚労省部会、国内初の遺伝子治療2品目の承認を了承
コラテジェン 筋注用4mg(一般的名称:ベペルミノゲン ペルプラスミド、申請企業:アンジェス)
「標準的な薬物治療の効果が不十分で血行再建術の施行が困難な慢性動脈閉塞症(閉塞性動脈硬化症及びバージャー病) における潰瘍の改善」
2019/2/22 厚労省部会、国内初の遺伝子治療2品目の承認を了承
アンジェスは2023年5月31日、「コラテジェンⓇ 筋注用4mg」について、厚生労働省に、慢性動脈閉塞症の下肢潰瘍の改善を効能、効果又は性能として、改めて製造販売の承認申請を行った。2019年3月に条件及び期限付製造販売承認を取得しているが、承認期限内に承認条件評価の結果を改めて承認申請することになっている。本件が承認された場合、再生医療等製品の条件及び期限付承認制度の導入後、初めて条件解除の承認を受ける製品となる。
ゾルゲンスマ(一般的名称:オナセムノゲンアベパルボベク、申請企業:ノバルティスファーマ)脊髄性筋萎縮症
脊髄性筋萎縮症は遺伝的要因により、脊髄等の運動神経細胞が変性・脱落 することで、筋収縮刺激がうまく伝達できなくなる疾患。
ゾルゲンスマはウイルスを利用して静脈注射で患者に正常な遺伝子を導入する。
厚生労働省の専門部会は2020年2月26日、世界一高い薬とされる脊髄性筋萎縮症の遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」の国内での製造販売を了承した。
2019/5/29
米 FDA、世界一高額の難病治療薬を承認
デリタクト:世界初の脳腫瘍ウイルス療法
東京大学医科学研究所附属病院 脳腫瘍外科の藤堂具紀教授らの研究グループは、単純ヘルペスウイルス1型(口唇ヘルペスのウイルス)に人工的に3つのウイルス遺伝子を改変した第三世代のがん治療用ヘルペスウイルス
G47Δ の臨床開発を進めてきた。
第一三共は、藤堂教授と共同で開発しているがん治療用ウイルスG47Δについて、
脳腫瘍の一種の膠芽腫の患者を対象に実施した医師主導治験において有効性と安全性が確認されたため、2020年12月28日、悪性神経膠腫に係る再生医療等製品製造販売承認申請を国内で行った。
2021 年 6 月 11 日 悪性神経膠腫を適応症とした再生医療等製品(一般名
テセルパツレブ、製品名
デリタクト注)として承認された。
補正加算として市場性加算Iの10%、先駆け審査指定制度加算10%がつけられ、薬価は1mL1瓶143万1918円に設定した。市場規模はピーク時の10年目に208人、販売額は12億円と予測している。
神経膠腫(グリオーマ)は、原発性脳腫瘍のおよそ4分の1を占める。悪性度に従って4段階に分けられるが、治験の対象となった膠芽腫(グリオブラストーマ)は、最も頻度が高く予後も悪い悪性度4の神経膠腫で、手術をしてから放射線治療と化学療法を行っても、平均余命は診断から18カ月、5年生存率は10%程度とされる。G47∆(デリタクト注)の適応対象となるのは、悪性度3と4の悪性神経膠腫である。
がんのウイルス療法とは、がん細胞のみで増えることができるウイルスを感染させ 、ウイルスが直接がん細胞を破壊 する治療法。
遺伝子工学技術を用いてウイルスゲノムを「設計」して、がん細胞ではよく増えても正常細胞では全く増えないウイルスを人工的に造って臨床に応用する。がん細胞だけで増えるように工夫された遺伝子組換えウイルスは、がん細胞に感染するとすぐに増殖を開始し、その過程で感染したがん細胞を死滅させる。
増殖したウイルスはさらに周囲に散らばって再びがん細胞に感染し、ウイルス増殖、細胞死、感染を繰り返してがん細胞を次々に破壊してい
く。一方、正常細胞に感染した遺伝子組換えウイルスは増殖できないような仕組みを備えているため、正常組織は傷つかない。
G47Δは、口唇に水疱ができる口唇ヘルペスの原因ウイルスとして知られている単純ヘルペスウイルス1型の3つのウイルス遺伝子を改変して、藤堂教授らが作製した世界初の第三世代のがん治療用遺伝子組換えヘルペスウイルス
。
単純ヘルペスウイルス1型は、がん治療に有利な特長を多く備えている。
1)ヒトのあらゆる種類の細胞に感染できること
2)細胞を殺す力が比較的強いこと
3)抗ウイルス薬が存在するため治療を中断できること
4)患者がウイルスに対する抗体を持っていても治療効果が下がらないこと
単純ヘルペスウイルス1型のゲノムから、がん細胞だけで増えるウイルスを造ることができた。
単純ヘルペスウイルス1型の3つのウイルス遺伝子を改変した。これにより、
がん細胞では、増殖したウイルスはウイルス増殖、細胞死、感染を繰り返してがん細胞を次々に破壊していく。
正常細胞に感染した遺伝子組換えウイルスは増殖できない。
3つのウイルス遺伝子を改変したG47Δは、既存のがん治療用ウイルスに比べて安全性と治療効果が格段に高くなっている。
また、大きな特徴として、複製した増えたG47Δが、破壊したがん細胞とともに免疫に排除される過程で、がん細胞が免疫に非自己として認識されて、抗がん免疫が惹起されるため、G47Δを投与した部位のみならず、遠隔のがんに対しても免疫を介して治療効果が期待できる。さらに、G47Δは、がんの根治を阻むとされるがん幹細胞をも効率よく破壊することが判っている。
ウイルスの
ヒトの正常細胞
ヒトのがん細胞
「γ34・5」遺伝子
ヒトの体には、ウイルスに感染した細胞が自滅し、ウイルス増殖を防ぐ仕組みがある。
ウイルスのγ34・5遺伝子はこれを食い止め、宿主である細胞を生き続けさせようとする。
遺伝子改変でこの働きをなくせば、ウイルス増殖を防ぐ仕組みは維持できる。
がん細胞ではウイルスに感染したら自滅する機能がそもそも壊れているため、ウイルスのγ34・5遺伝子が働かなくても、がん細胞内では増殖が可能。
「ICP6」遺伝子
ウイルスのDNAを合成する酵素を作る遺伝子
この働きを阻害すれば、ウイルスは正常細胞で増殖できなくなる。
がん細胞はそれ自体の増殖が活発でDNA合成に必要な酵素が多く存在する。
そのため、ウイルスはICP6の働きがなくても、がん細胞では増えることができる。
(上記2遺伝子により)
正常細胞ではウイルスは増殖しない。
がん細胞ではウイルスは増殖
(問題点)
(「ヒトの免疫が邪魔し、がん細胞を破壊する能力が落ちてしまうのでは?)
「α47」遺伝子
ウイルスを人体の免疫システムに見つかりにくくする「隠れみの」のような機能を持つ。
この機能を人工的になくし、逆に免疫が強く働く。
がんは患者自身の細胞なので、免疫システムに敵だと認識されない。
しかし、隠れみのを失ったウイルスが感染して「目印」となる ことで、がん細胞が見つかりやすくなり、免疫の攻撃対象となった。
壊れたがん細胞に特有のたんぱく質も免疫は異物と認識し、攻撃がさらに増すことも分かった。
2023/6/13 米最高裁、アラバマ州で新たな黒人選挙区を支持
米連邦最高裁判所は6月8日、共和党が策定したアラバマ州の選挙区割りを退け、黒人が多い地域に2つ目の選挙区を割り当てるよう求めた下級裁の決定を支持した。
同州の有権者の4分の1以上は黒人だが、2021年に改定された区割りで黒人有権者が過半数を占めた選挙区は7つのうち1つだけだったため、黒人やリベラル派の有権者らが違法だとして提訴していた。
最高裁は保守派の判事が9人中6人を占め、近年は1965年の「投票権法」の権利保障対象を限定的に解釈する傾向があったため、米メディアは「予想外の判決」と報じた。バイデン大統領は「投票を巡って人種差別があってはならないとする基本原則が確認された」と歓迎する声明を出した。
決定は5対4だった。ここ10年で2度、投票権法に関して否定的な判断を示した最高裁にとって、大きな方針転換となる。今回の決定ではリベラル派3人に保守派のロバーツ長官とカバノー判事が賛成した。
性別
born
人種背景
指名した大統領
就任日
判断傾向
Clarence
Thomas
男性
1948/6
アフリカ系
George H.
W. Bush
1991年10月23日
保守
John Roberts (Chief)
男性
1955/1
白人系
George W. Bush
2005年9月29日
保守
Samuel
Alito
男性
1950/4
イタリア系
2006年1月31日
保守
Sonia
Sotomayor
女性
1954/6
ヒスパニック系
Barack Obama
2009年8月8日
リベラル
Elena
Kagan
女性
1960/4
ユダヤ系
2010年8月7日
リベラル
Neil
Gorsuch
男性
1967/8
白人系
Donald Trump
2017年4月10日
保守
Brett Kavanaugh
男性
1965/2
白人系
2018年10月6日
保守
Amy Coney
Barrett
女性
1972/1
白人系
2020年10月26日
保守
Ketanji Brown Jackson
女性
1970/9
アフリカ系
Joe Biden
2022年6月30日
リベラル
ーーー
米国では10年に1度の国勢調査を踏まえ、連邦議会下院選の新しい選挙区割りが適用される。
2023/6/14 井戸水からダイオキシン、近くに農薬工場跡
福岡県久留米市荒木町のJR荒木駅前にある住宅地や商店街の井戸水から、環境基準の数倍にあたる高濃度のダイオキシンが検出されている。
住民は、近くの農薬工場跡地の土からしみ出していると訴え、敷地を調査して汚染土を廃棄するように求めているが、工場側は拒んでいる。
荒木町周辺では、上水道が整備された今も日常生活に井戸水を使っている住民も多い。市は年に2回、地区ごとに井戸水の水質のサンプル調査を実施。この検査で2020年12月、1本の井戸水から基準値を超すダイオキシンが検出された。
2022年8月には同じ地点で基準値の約6倍、近くの別の地点でも3倍と住宅街から相次いでダイオキシンが検出された。以来、この2本の井戸で超過検出が続いている。濃度は最大で1リットル当たり1兆分の6.1グラムに達し、環境基準の「1兆分の1グラム」の6倍を超えた。
駅を挟んだ反対側では1983年まで、三井化学の子会社の三西化学工業の農薬工場が稼働していた。
九州新幹線の建設に伴う調査で2007年、荒木駅構内で土壌や地下水から最大で基準の95倍のダイオキシンが検出された。
調査の結果、
(1)
三西化学工業の農薬の埋設が推定される箇所(3箇所)のうち、埋設A地点で、基準値等を超えるダイオキシン類、BHC、PCPが検出された。
埋設B・C地点では、基準値を超えるダイオキシン類は検出されず、BHC、PCPが基準値等を超えて検出された。
(2)住民からの要請箇所の13箇所のうち、ダイオキシン類が6箇所、BHCが7箇所、PCPが9箇所、CNPが3箇所、基準値等を超えて検出された。
地元の抗議を受けて、同社と三井化学は2009年、住民側と覚書を交わして対策にあたり、工場敷地内の汚染土を囲って漏れ出しを防ぐ「遮水壁」を地下に設ける工事などをしてきた。
2009年2月23日 三西化学工業 / 三井化学
三西化学工業(株)工場跡地のダイオキシン類等土壌汚染対策計画(骨子)及び荒木校区住民との覚書の締結について
これにより、ダイオキシンは一旦、検出されなくなった。
なぜ、いまになって再び基準値を超えるダイオキシンが検出されているのか。
環境保全課では「地下水の流れは非常に遅い。1年間に20メートルくらいしか進まない。取り残された汚染地下水が今になって駅西側の住宅街に流れたんだろう。基準超過したものが出ているので対策をと再三、工場側に話しているが『いったん広まってしまった汚染地下水に何かするのは非常に難しい』という回答
で、直接的な対策は難しい」としている。
地元の自治会長(ダイオキシン等対策委員長) は、「この遮水壁が16年の熊本地震で壊れ、新たな汚染が出ているのでは」と話す。
これまでに周辺住民の健康被害は確認されていない。
環境保全課では「今検出されているのは飲み水ではありません。生活用水、庭のまき水。庭の撒き水につかったとしても、健康への影響はありません」としている。
住民組織「校区まちづくり振興会」は昨年11月、両社に「汚染土壌廃棄要求書」を提出し、遮水壁では効果に限界があるとして、汚染土をすべて廃棄処分することを求めた。
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