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2025/5/3 アスベスト被害救済 大阪高裁の判決を受け、政府が「除斥起算点」を変更
アスベストを扱う工場で働き、じん肺を患ったとして元労働者の遺族が国に損害賠償を求めた裁判で、大阪高裁は4月17日、1審とは逆に遺族の訴えを認め国に約600万円の賠償を命じた。
賠償を求める権利がなくなる「除斥期間」が争点となり、国は「医師の診断日」としてきたが、判決では「行政が被害を認定した時」が起算点になるとして、現在、国が示している救済の運用とは異なる判断を示した。
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アスベストを扱う工場でおよそ8年間働いていた兵庫県尼崎市の男性は、1999年にじん肺と診断され、2000年5月に労働局から健康被害と認定された。
男性側は2020年に、国におよそ600万円の損害賠償を求める訴えを起こしたが、死亡したため遺族が裁判を引き継いでいる。
アスベスト被害の救済をめぐっては、国は一定の要件を満たした当事者と和解し、その際の除斥期間の起算点を2019年に「被害の発症が認められる時」に変更した。
今回の裁判では、除斥期間の起算点となる「被害の発症が認められた時」がいつであるかが争点となった。
遺族は「行政が健康被害を認定した時」と主張したのに対して、国はこれよりも早い「医師の診断日」とし、権利は既に消滅していると主張し、訴えを退けるよう求めた。
1審は国の主張を認め、除斥期間が過ぎているとして訴えを退け、遺族が控訴した。
4月17日の判決で大阪高裁の三木素子裁判長は「じん肺は病状がどの程度進行するのか、固定するのかすらも現在の医学では確定できず、病気にかかった事実は行政の決定がなければ認めがたい」として「行政が被害を認定した時」が起算点になると判断し、遺族の訴えを認めた。
判決のあと、弁護団が会見を開き、奥村昌裕弁護士は「逆転勝訴の判決が出てほっとした。国が起算点の変更を官報にも載せず、勝手に変えたというのが問題で、判決には大きな意義がある」と話した。
「除斥期間」の起算点について、厚生労働省は当初「労働局がアスベストによる健康被害を認める決定をした時」としてしたが、2019年以降は「医師の診断でアスベスト被害の発症が認められた時」と起算点を早める変更をしていた。
変更の理由について厚生労働省は、2019年の福岡高裁判決で、賠償金の支払いが遅れたことに伴って支払う「遅延損害金」を「医師の診断日」から支払うよう命じたため、「除斥期間」もそれにあわせるようにしたと説明している。
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今回の大阪高裁判決に対し、国は5月2日、上告を断念したことを明らかにした。上告期限は5月1日までで国の敗訴が確定した。厚生労働省石綿対策室は「慎重に検討し、関係省庁とも協議した」とコメントした。
厚生労働省は石綿肺についてのみ、起算点を「被害の発症時」から「行政上の決定日」に運用を変更する。
東京科学大学の近藤正聡准教授などの研究グループは、液体状になった金属を使い、海水から真水や金属を効率よく分離する技術を開発した。
地球には14億km3と非常に多くの水が存在するが、その内の97.5%を海水が占めていて、淡水は2.5%しかない。
その淡水のうち、68%が氷河、31%が地下水として存在していて、川や湖などのアクセスしやすい淡水はほんのわずかしかない。また地下水は汚染されている場合がある。
このように、利用できる淡水が十分に存在しないために、世界では20億人以上の人が水不足に直面している。
足りない淡水を補うために、海水淡水化プラントで大量の淡水が海水から生産されている。
-
海水を淡水化する原理として、下図に示すように半透膜を利用して水だけを透過させて得る逆浸透膜(Reverse
osmosis)法や海水を蒸発させて水を得る多段フラッシュ法がある。
海水淡水化プラントで淡水を生産した際には、海水を濃縮したブラインと呼ばれる排水が淡水の1.5倍程度の量で発生する。
世界では1年間で50兆リットルに及ぶブラインが発生し、現在は、海洋環境に影響がでないように希釈してブラインを放出している。
一方で、海水は様々な金属元素を薄い濃度で含んでおり、海水が濃縮したブラインは
「掘らない資源」と呼ぶことができる。
研究グループは、核融合炉等の冷媒として期待される液体金属錫に関する研究を実施してきた。液体金属錫は、はんだ付けにも使用されるように、他の金属と結合しようとする強い反応性を有している。
そのため高温の状態では、液体金属錫は配管や容器を溶解してしまう課題があるが、この欠点を活かすことで、ブラインに含まれる海水資源を効果的に回収できるのではないかと考えた。
本研究では、淡水化ブラインを液体金属錫に直接接触させて海水資源を回収する研究を実施した。また、世界で課題とされているヒ素で汚染された地下水の浄化にも試みた。
これまでの淡水化で処分が課題だった高濃度の海水にも使える。海水資源の有効活用につながる技術で、5年以内にコンテナサイズの装置の開発を目指す。
チームはセ氏300度に加熱して液体状になったスズを使った。液体のスズは別の金属と反応しやすい性質を持つ。
液体のスズにブラインを約8時間連続して噴霧するとブラインに含まれる水分はすべて蒸発し、発生する水蒸気を蒸留して淡水として回収する。
図1(a):
ブラインを液体金属錫に直接接触させることで、@液体金属錫の表面では
蒸留の原理で淡水の蒸気を生産し、Aブライン中に含まれるNaやMg、Ca、K などの金属元素を液体金属錫中に溶解させて濃縮できることが分った。
図1(b):
ブラインに接触させた錫をゆっくりと冷やすことにより、錫の中に溶解した金属元素を析出物として回収できることも分かった。スズを冷まして固めると、
ブライン中に含まれるNaやMg、Ca、K などはスズと反応した物質として析出する。冷却速度をゆっくりにすると金属の種類によって析出するタイミングが違うので、特定の金属のみを回収できる。

金属元素は、海水の直接接触蒸留プロセスにおいて液体スズプールに蓄積される。各金属元素は、液体スズ中での溶解度がそれぞれ異なり、液体温度は505〜573
Kの範囲で制御される。
Kは初期段階で沈殿が始まり、すぐに成長が停止した。同時に、Naも沈殿が始まり、徐々に成長した。Caも沈殿が始まり、Kの沈殿後にすぐに成長が停止した。Mgは徐々に成長した。

ヒ素など有毒な物質で汚染された地下水の浄化にも使える可能性がある。
ヒ素で汚染された水を浄化する実験を実施したところ、高温の条件ではヒ素やその酸化物が蒸発してしまうため効率良く回収できないものの、300℃以下の低温の条件において効率的にヒ素を捉えて取り除くことができることが
分かった。
今後、海水に含まれるリチウムなどの有用な金属の回収方法も探す。
今後は金属加工を手掛ける金属技研や、核融合発電スタートアップのエクスフュージョンなどと共同で試験プラントを造り、数リットル単位のブラインで実証する。
液体金属のスズを循環させながら効率的に金属を回収できるようにし、淡水化用のプラントに併設する設備の開発を目指す。
本成果は、世界水協会(The International Water Association)が発刊している「Water Reuse」誌に3月1日付で掲載された。
Liquid metal technology for collection of metal resources from seawater
desalination brine and polluted groundwater
2025/5/8 ドイツ首相にCDUのFriedrich Merz 党首
ドイツ連邦議会(下院=定数630)は5月6日、首相指名選挙の投票を行った。
しかし、キリスト教民主同盟(CDU)党首のFriedrich Merz氏(69)が獲得した票は310票にとどまり、指名に必要な過半数316票に足りなかった。
今回、キリスト教民主・社会同盟とドイツ社会民主党は連立を組んでおり、合計328議員を有する。このうち少なくとも(他党がすべて反対したとしても)18人が支持しなかったことになる。
1回目の投票で首相を選出できなかったのは戦後のドイツで初めてである。
メディアはMerz氏が本年1月に移民政策の厳格化のため極右団体「ドイツのための選択肢」と議会で協力したことに反発した与党議員が造反した可能性があるという見方を伝えている。
同日に2回目の投票をおこない、Merz氏は2回目では325票を獲得し、首相に選出された。
政治アナリストらは、首相選出投票で造反者が出たことにより連立与党の間で不信感が高まる可能性が高く、欧州でドイツの強力なリーダーシップが必要とされている時に、連立政権が不安定になるとの見方を示している。
ーーー
ドイツの総選挙は2月23日に行われ、最大野党会派の中道右派「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」が第1党となった。CDUのFriedrich
Merz 党首(69)が次期首相になる見通し。
Friedrich Merz
氏は、メルケル元首相との「政争」に敗れ、政界を一時引退したが、2021年に連邦議会議員に復帰した。
Merz氏が、「防衛においてアメリカから独立できるよう、できるだけ早くヨーロッパを強化することが最優先事項だ」と述べたことが注目された。
ドイツでは下図のとおり、メルケル首相の時代でも連立政権が続く。
|
Merkel
首相 (CDU)
|
2021/12
Scholz 首相(SPD) |
2025/5 Merz首相
(CDU) |
1 |
2 |
3 |
4 |
2005/11 |
2009/10 |
2013/12 |
2017/9 |
2018/3 |
2021/9 |
|
2025/2 |
|
キリスト教民主同盟
|
キリスト教
民主・社会同盟
(CDU/CSU) |
連立 |
連立 |
連立 |
245 |
連立協議 |
連立 |
196 |
|
208 |
連立
|
キリスト教社会同盟 |
ドイツ社会民主党(SPD) |
|
152 |
離脱 |
|
→ |
206 |
連立 |
120 |
緑の党 |
|
|
|
67 |
|
協議 |
|
118 |
85 |
|
自由民主党(FDP) |
|
連立 |
|
80 |
|
協議 |
離脱 |
|
92 |
0 |
|
ドイツのための選択肢(AfD:極右) |
|
|
|
87 |
|
|
83 |
|
152 |
|
左派党 旧東独共産党系 |
|
|
|
69 |
|
|
39 |
|
64 |
|
無所属 |
|
|
|
9 |
|
|
1 |
|
1 |
|
合計 |
|
|
|
709
(過半数は355) |
735( 368 ) |
630( 316) |
*
キリスト教社会同盟はバイエルン州のみを地盤とする政党
*
Scholz内閣で連立を組んでいた自由民主党(FDP) は議席数がゼロとなった。
2025年の予算案を巡ってリントナー財務大臣(FDP)
とショルツ首相が対立,、2024年11月6日にショルツ首相ががリントナー財務大臣を解任する方針を表明したことで、FDPは連立政権から離脱した。
その後の総選挙で、FDPは得票率が4.33%に減り、少数政党が乱立するのを避けるためにつくられた阻止条項(足切り条項:5%未満は無効)により議席数ゼロとなった。
以前は、第1投票(選挙区候補者への投票)で3議席以上を確保した政党、および民族的少数者を代表する政党に対し5%条項は適用されないとされていたが、2023年6月の選挙法改正でこの条項が廃止された。
キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)は4月9日、連立交渉合意を発表した。
連立交渉は2月23日の総選挙で第1党となったCDU/CSUと、現政権与党で第3党のSPDの間で行われていた。
両党は連立交渉と並行して、財政規律緩和を可能とする基本法の改正案も上下両院で可決させ、新政権始動後の財政出動の枠組みを整備していた。
-
GDP比で1%を超える防衛費を債務ブレーキの適用対象外とし、GDP比1%を超える防衛費については、借り入れにより賄えるようになる。
- インフラ投資のため、5,000億ユーロの特別基金創設
インフラへの追加投資のために12年間にわたって運用し、うち1,000億ユーロは気候変動対策に充てる。
さらに、1,000億ユーロは州にも配分し、各州が12年間にわたってこの基金からインフラへの投資ができるようになる。
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各連邦州政府予算の財政規律緩和:これまで債務が許されていなかった州予算で、GDPの0.35%までの債務を可能とする。
2025/5/19 新規プレバイオティクスによる抗肥満作用の発見
理化学研究所、ダイセルらの共同研究グループは、消化管内で酢酸を特異的に増加させるセルロース試料である水溶性酢酸セルロース(WSCA)が腸内細菌に作用することで消化管からの糖質吸収を抑え、肥満を改善することを明らかにした。
本研究成果は、プレバイオティクスに基づく食品を介した肥満予防に貢献するものと期待される。
プレバイオティクス(prebiotics)は、消化管内で特定の腸内細菌に働きかけることでヒトに有益な効果をもたらす食品成分。水溶性食物繊維やオリゴ糖などを含む。
共同研究グループは、WSCA
をマウスに投与した結果、肥満や高血糖、脂肪肝が改善すること、WSCA の効果により腸内環境の変化を介して吸収可能な単純糖質を減少させること、および、WSCA
が肝臓での糖質貯蓄を減少させることを突き止めた。

肥満は 2
型糖尿病や心臓病などいろいろな生活習慣病の基盤となる病態で、日本のみならず世界中で増加しており、その効果的な対策が望まれている。
近年、GLP-1 作動薬などさまざまな治療法が開発され、実用化されている。(2024/4/15
新タイプの肥満症治療薬が急増 )
しかし、投薬にかかるコストや副作用の懸念などから、安価で手軽な対策の開発が望まれている。
プレバイオティクスは「消化管内で特定の腸内細菌に働きかけることでヒトに有益な効果をもたらす食品成分」と定義されている。プレバイオティクスの一種である食物繊維は腸内細菌に代謝されて短鎖脂肪酸など有益な代謝物を増加させることや食物繊維を多く含む食事は健康増進につながることも知られている。
一方、ヒトの腸内細菌には個人差があることから、プレバイオティクスを効果的に分解して有益な代謝物を産生する細菌を保有するとは限らず、その効果が人それぞれ異なる理由の一つであると考えられる。
共同研究グループは、短鎖脂肪酸の一種である酢酸を消化管内で効果的に遊離する水溶性酢酸セルロース(WSCA)を作成し、どのような腸内環境であっても酢酸を増加させることができる手法を開発した。
共同研究グループは、WSCA
をマウスに投与すると、マウスの体重増加が抑制されることを突き止めた。この効果はその大部分が上部消化管で吸収される酢酸ナトリウムの投与では見られないため、消化管内で酢酸を増加させる WSCA に特徴的であることが分かった。
さらに、肥満マウスにWSCA を投与したところ、高血糖や脂肪肝などが改善することが判明した。一方、他の短鎖脂肪酸であるプロピオン酸、酪酸の効果も同様の方法で調べたが、体重増加などに変化は見られなかった。
次に共同研究グループは WSCA がマウスの代謝に及ぼす影響を調べた。
その結果、WSCA は脂肪分解の代謝を促進するとともに、糖質代謝を抑制することが分かった。特に肝臓におけるグリコーゲンの貯蔵量が減少していたことから、WSCA
が消化管からの糖質吸収に影響を与えている可能性があるのではないかと考えた。
そこで、WSCA が腸内環境に与える影響を調べたところ、WSCA は消化管内の代表的なヒト腸内細菌である
Bacteroides 目の細菌を増加させていた。また、通常マウス、Bacteroides thetaiotaomicron
菌の単独定着マウス、
および無菌マウスいずれにおいても消化管内の酢酸濃度を増加させたものの、
無菌マウスでは体重抑制効果が見られなかった。さらに、WSCA は
消化管内においてマウスが分解・吸収可能な麦芽糖などの単純糖質を減少させたが、この効果は無菌マウスでは見られなかった。
最後に、共同研究グループは酢酸が腸内細菌に与える直接的な効果を調べた。その結果、酢酸は
Bacteroides thetaiotaomicron
菌の増殖を促すことで糖質消費を加速させること、また、同菌の糖質代謝に関わる遺伝子の発現を増やすことが分かった。
以上の結果から、WSCA は消化管内で酢酸を増加させることで、Bacteroides
thetaiotaomicron 菌をはじめとする腸内細菌による糖質消費を促進し、その結果、消化管からの糖質吸収を制限して体重増加を抑制する効果をもたらすことが明らかになった。
本研究成果は、プレバイオティクス(消化管内で特定の腸内細菌に働きかけることでヒトに有益な効果をもたらす食品成分。食物繊維やオリゴ糖などを含む)に基づく食品を介した肥満予防に貢献するものと期待される
本研究は科学雑誌『Cell Metabolism』オンライン版(5 月16 日付)に掲載された。
タイトル:Acetylated
cellulose suppresses body mass gain through gut commensals consuming
host-accessible carbohydrates
2025/5/22 日本人の大腸がん患者の5割に特徴的な腸内細菌による発がん要因を発見
国立がん研究センターと東大医科学研究所は5月21日、大腸がんの全ゲノム分析で、日本人症例の5割に、腸内細菌から分泌されるコリバクチン毒素による変異パターンが存在することが分かったと発表した。
大腸がんは日本において年間罹患者数は14万人を超え(全がん種で第1位,
2020年)、死亡数も年間53千人以上(全がん種で第2位,
2023年)と、保健衛生上非常に重要ながん種で、大腸がんの発生には、生活習慣が深く関わっていることが知られており、喫煙、飲酒、肥満、欧米型食生活などにより大腸がんが発生する危険性が高まる。
がんは様々な要因によって正常細胞のゲノムに異常が蓄積して発症することが分かっている。
近年の大規模ながんゲノム解析から、突然変異の起こり方には一定のパターンがあることが明らかになってきた。こうしたパターンは変異シグネチャーと呼ばれ、喫煙や紫外線暴露といった様々な環境要因と遺伝的背景によって異なることも知られている。
がんゲノムデータから変異シグネチャーを抽出することで、そのがんがどういった原因の組み合わせによって発がんに至ったのかという原因を追跡することが可能である。
今回、日本を含む11か国の国際共同研究により981症例の大腸がんを対象とした全ゲノム解析が行われた。解析の結果、下記が判明した。
コリバクチン(colibactin)毒素は、大腸菌やその他の腸内細菌によって生産・分泌される2次性代謝産物であり、DNAに傷(2重鎖切断)を起こすことが知られている。
-
コリバクチン毒素による変異パターンは、高齢者症例(70歳以上)と比べて若年者症例(50歳未満、大腸がん全体の約10%を占める)に3倍多い傾向がみられた。→
若年者大腸がんの重要な発症要因である可能性
- さらに、大腸がん初期段階に起こるドライバー異常であるAPC変異の15%がコリバクチン毒素による変異であることが分かり、コリバクチン毒素によるDNA変異が大腸がん発症早期から関与していることも示された。
-
大腸がんにおけるコリバクチン毒素による変異パターンは、その時に存在しているコリバクチン毒素産生菌の量とは関連しない。早期から持続的に暴露していることが大腸がん発症に寄与するのではないかと推定される。

世界的にも患者数が急増している日本人症例からコリバクチン毒素による変異シグネチャーが最も高頻度に確認され、この変異シグネチャーの量が国別の発症頻度と相関していることからも、日本における大腸がん増加の重要な要因であることが示唆された。
また、コリバクチン毒素による変異シグネチャーが若年者症例に多いことから、国際的にも問題となっている若年者大腸がんの大きな要因の一つであると考えられる。
一方で、若年者大腸がんにはコリバクチン毒素以外の未知の要因による変異シグネチャーもみられること、今回解析された日本人症例は少ないことなど、新たな課題も見つかっており、その解明に向け、若年者大腸がんを中心とした大規模な多施設共同研究によって国内の各地域からサンプルを集め、全ゲノム解析を行う研究計画を進めている。
今後の研究で、コリバクチン毒素による大腸発がんの国内における広がりや若年者症例の発症要因の全貌、ドライバー異常の全体像が明らかになれば、日本における大腸がんの新たな予防法や治療法の開発につながると期待される。
また、これまで行ってきた国際共同研究の結果から、食道がん・腎臓がん・大腸がんのいずれにおいても、日本人症例には世界の他の地域と比較して特徴的な発がん要因がそれぞれ存在していることが明らかになった。
本件は2025年4月23日にNature に発表された。https://www.nature.com/articles/s41586-025-09025-8
2025/5/27
富士レビオ、米国でアルツハイマー病の診断補助用の「血液による体外診断用医薬品」の承認取得
富士レビオ・ホールディングスは5月19日、傘下の Fujirebio Diagnostics, Inc. が、アルツハイマー病の診断補助を目的として、血漿中の
217 位リン酸化タウ蛋白(pTau217) と β-アミロイド 1-42 の比率を測定する検査試薬「Lumipulse G pTau217/ß-Amyloid
1-42 Plasma Ratio」について、FDAより承認を取得したと発表した。全自動化学発光酵素免疫測定システム「ルミパルス G1200」で使用する。
本試薬は、アルツハイマー病の診断補助を目的として、FDA
から承認された初めての血液用体外診断用医薬品となる。
日本での承認申請については8月にもデータを提出、欧州では年内に手続きに入る計画。
ーーー
アルツハイマー型認知症の原因は未だ解明されていないが、進行に伴っていくつかの特有の病変が見られる。
例えば、神経細胞の外側では「アミロイドβ」が蓄積して老人班を形成し、神経細胞の中では「タウタンパク」が蓄積してタンパク質が糸くず状に変化したようなもの(神経原繊維変化)が見られるようになる。

本試薬は、認知機能低下の症状を有し、アルツハイマー病等が疑われる 55
歳以上の人を対象に、脳脊髄液中のβ-アミロイド 1-42 および β-アミロイド 1-40
を測定し、その比率を評価することで、アルツハイマー病の特徴のひとつとされる脳内アミロイドβの蓄積状態の把握の補助として用いられる。
これまで陽電子放射断層撮影(PET)が診断に使用されてきたが、費用と時間がかかるほか放射線を利用するため、患者の負担が大きい。また、脳脊髄液中のアミロイドベータやリン酸化タウ蛋白の量を測定することで病態を推定する
腰椎穿刺(脳脊髄液検査)はいろいろなリスクを伴う。
それらに対し、この新しいルミパルス検査は、単純な採血のみを必要とする。検体採取における被検者への侵襲性を低減させるとともに、簡便に検査を行えることから、より広く検査の機会を提供できるものとして期待されている。
同社は、脳脊髄液中の β-アミロイド 1-42 と β-アミロイド 1-40 の比率を測定する検査試薬について、2022 年5 月にアルツハイマー病等による認知機能低下の診断補助を目的とした米国で初めての体外診断用医薬品として
FDA の承認を取得した。
今回の検査試薬「Lumipulse G pTau217/ß-Amyloid 1-42
Plasma Ratio」は、これに続くアルツハイマー病の診断補助を目的とした血漿中のバイオマーカーを測定する体外診断用医薬品として米国で初めて承認された。
FDA より Breakthrough Device の指定を受け、2024 年9
月に承認申請をしていたもの。今後、上市準備が整い次第、本試薬の販売を開始する予定。
FDAは認知障害を有する成人の499の個々の血漿サンプルのデータを評価し、つぎのように述べている。
この臨床試験では、陽性結果を有する個人の91.7%がPETスキャンまたは脳脊髄液検査結果によるアミロイドプラークの存在を有し、陰性の個人の97.3%がアミロイドPETスキャンまたは脳脊髄液検査結果が陰性であった。
検査を受けた499人の患者のうち、ルミパルスG
pTau217/β-アミロイド1-42血漿比の結果が不確定なものは20%未満であった。
これらの知見は、新しい血液検査が認知障害を有する患者における検査時のアルツハイマー病に関連するアミロイド病理の有無を確実に予測できることを示している。
ルミパルスG
pTau217/ß-アミロイド1-42血漿比に関連するリスクは、主に偽陽性および偽陰性の検査結果の可能性である。
この検査試薬は、認知機能低下の兆候や症状を訴えて専門の医療機関を受診した患者を対象にデザインされたものであり、結果は、他の臨床評価とあわせて慎重に解釈すべきである。
FDA医療機器・放射線保健センターのMichelle
Tarver所長は、「米国では約700万人がアルツハイマー病に罹患しており、この数は、今後約1300万人に増加すると予測されている。今回の承認は、アルツハイマー病の診断にとって重要な一歩であり、米国の患者にとって、より早期の診断が容易になり、より身近なものとなる可能性がある」と述べ
ている。
富士レビオは1950年に日本で創業し、1966年に世界初の梅毒検査製品「梅毒HA抗原(TPHA)」の製品化に成功して以来、世界の臨床検査薬業界にイノベーションをもたらす研究開発、製造、マーケティングに携わってきた。
米国のCentocor Diagnostics、スウェーデンのCanAg
Diagnostics、ベルギーのInnogenetics等、国内外のIn
Vitro Diagnostics(体外診断用医薬品)を開発・製造・販売する企業を傘下に収め、さまざまなノウハウを蓄積し専門性を強化し続けてきた。
このような臨床検査薬市場における専門性と経験を礎とし、同じグループの一員で世界有数のラボラトリーを有する潟Gスアールエルの臨床検査に関するリソースやノウハウを最大限活用するなど、グループ一体となった強力な体制を整えている。
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