世界のLNGビッグビジネス   http://www.mizuho-ir.co.jp/kikou/lng.html

富士総合研究所
環境・資源エネルギーグループ
主事研究員 冨田 哲也

 

本連載は、弊社が石油公団から受託した「LNG市場における取引形態の変化の現状」の調査結果をもとに最新の情報を追加し構成するものです。

 

第1回:拡大するLNGビジネス

世界的な天然ガス需要の拡大を背景に、LNGビジネスが急速に拡大している。特に、天然ガス価格が高騰している米国では、各地で受入基地の建設計画が相次いでおり、これまで受入基地のなかった西海岸やカナダ、メキシコ、バハマなど周辺国でも米国市場をねらった基地建設の計画が進んでいる。


第2回:エクソンモービル

エクソンモービル(以下エクソン)は、世界最大の民間石油会社であり、天然ガスの埋蔵量と生産量においても民間企業として世界一である。 原油高を背景に、2003年の業績は、売上高、利益とも大幅に拡大し、純利益は2兆円を超え、他の業界を含めても世界一の規模を誇る。


第3回:ロイヤルダッチシェル

度重なる埋蔵量の下方修正で、揺れているロイヤルダッチシェルであるが、LNG事業については、世界最大規模を誇り、オーストラリア、ブルネイ、マレーシア、オマーン、 ナイジェリアと各地のLNG事業をリードしてきている。


第4回:BP

1998年に大手石油会社アモコを買収し、BPは、米国、英国で最大のガス生産者となった。2003年の天然ガス生産量は8.6Bcf/dで、これは日本の消費量を上回る規模となっている。 他社から購入して販売している天然ガスはさらに多く、生産量の3倍強のガスを米国、英国を中心に販売している。


第5回:シェブロンテキサコ

2001年10月にシェブロンとテキサコが合併し、天然ガスの生産量、埋蔵量では世界4位のシェブロンテキサコ(以下シェブロン)が誕生した。ただし、同社は他のメジャーに比較して石油の比率が高く、天然ガスの生産についても今後の生産量低下が予想される米国に集中していることから、米国以外の天然ガス事業の拡大が同社の経営上の課題となっている。


第6回:トタール

フランスを拠点とするトタールは、1999年にペトロフィナを、2000年にはエルフを買収し、トタール・フィナ・エルフとなり、2003年には再び社名をトタールに戻した。 現在、石油天然ガスの生産規模では、世界4位の民間企業であるが、フランス企業ということもあって、アフリカでは1位、中東で2位と、アフリカ、中東に強い企業である。


第7回:コノコフィリップス

コノコフィリップス(以下コノコ)は、2002年8月、米国大手のコノコとフィリップスが対等合併して設立された。米国の石油企業としてはエクソンモービル、シェブロンテキサコに次ぐ業界3位の規模となっている。


第8回: レプソルYPF

レプソルYPF(以下レプソル)は、スペインの国営石油会社を母体として1986年に発足した会社であり、発足時の事業の中心は石油精製や石油製品の販売であった。その後、上流事業を含めて各地で買収を繰り広げ、1999年には南米最大の上流資産を保有するアルゼンチン国営のYPFを買収したことによって、スペイン、アルゼンチンの2地域を拠点とする世界規模の石油会社となった。


第9回: スタットオイル

ノルウェーのスタットオイルは1972年に設立された国営石油会社で、2001年には部分民営化によってオスロとニューヨークの証券取引所に上場したものの、 現在も政府が株式の81.7%を保有している政府傘下の企業である。


第10回:BGグループ

BGグループは、英国のブリティッシュガスから分割された会社で、ガス田の開発や生産、LNG事業、パイプライン事業、発電事業などを行っているが、 海外業務を中心としており、英国内の都市ガス事業については、同じくブリティッシュガスから分割されたセントリカが"ブリティッシュガス"ブランドを使用して営業を行っている。


第11回:ENI

ENIは、イタリアの国営石油会社として1953年に設立された会社で、欧州を代表するエネルギー企業である。かつては、炭化水素公社と呼ばれていたが、現在は政府保有株式の大部分が売却され、ミラノとニューヨークの証券市場に上場している。


第12回:マラソンオイル

マラソンオイル(以下マラソン)は、1887年にオハイオオイルという名前で創業された米国の石油会社で、創業2年後にはロックフェラーによって買収され、その傘下に入った。 一時はロックフェラー系の製鉄会社USスチールの完全子会社になっていたが、2002年には分離され、現在は単独の上場企業として、石油・天然ガスの開発、石油精製、石油製品の販売等を行っている。


第13回:カタール石油公社

カタール石油公社(以下QP)は、カタールが英国から独立後の1974年に国営企業として設立された。設立当初は石油の生産と輸出が中心業務であったが、世界第3位、世界シェア15%弱という莫大な確認埋蔵量を誇る天然ガスの生産とLNGを中心とする関連事業を次々に立ち上げ、天然ガスを中心とする事業転換を図っている。


第14回:ペトロナス

ペトロナスは、1974年にマレーシア政府によって設立された国営石油会社であり、同社が国内の石油天然ガス資源の所有権をすべて保有し、管理を行っている。 しかし、その事業領域は、石油・天然ガスの開発・生産から、石油精製、石油製品販売、ガス供給、LNG生産など多岐にわたる。 また、海外事業にも積極的で、現在では世界35カ国で事業を展開しており、他の国営石油会社のお手本とも言える存在となっている。


第15回:アルジェリア炭化水素公社

アルジェリア炭化水素公社(以下ソナトラック)はアルジェリアの国営石油会社であり、主な事業として石油・ガス田の開発を行っており、原油、コンデンセート、天然ガス(パイプライン)、LPG、LNGを生産・販売している。石油精製は、子会社を通じて行っているが、国内の都市ガス事業については電気事業も行っている国営のソネルガスが担当している。


第16回:中国海洋石油

中国海洋石油総公司(CNOOC、以下シーノック)は、1982年に中国沖合の石油・天然ガス開発を行う目的で設立された国営石油会社で、設立当初は資金と技術力に優れる外資の協力を得て開発を行う企業であった。しかし、事業領域を下流事業にも拡大するとともに着実に生産量を拡大させ、2001年には子会社を通じてニューヨーク、香港の両市場への上場に成功し、中国で3番目の海外上場石油会社となった。


第17回:ガス・ド・フランス

ガス・ド・フランス(以下GdF)は、欧州を代表するガス会社であるとともに、欧州最大規模のLNG輸入業者である。2004年のガスの販売実績は660億m3で、これは東京ガスの約6倍に相当する規模である。


第18回: スエズ

スエズ運河の建設で有名なスエズは、現在は電力、ガス、水道、廃棄物処理事業を中心とするコングロマリットである。 会社の組織は、欧州の電気・ガス事業を行うスエズエナジーヨーロッパ(SEE)、欧州以外の電気・ガス事業やLNG事業を行うスエズエナジーインターナショナル(SEI、旧トラクテベル)、 エンジニアリング等を行うスエズエナジーサービス(SES)、水道・廃棄物処理事業を行うスエズエンバイロメントの4部門から成る。


第19回: ユニオンフェノサ

ユニオンフェノサは1982年にユニオンエレクトリカとフェノサ社の合併により設立されたスペインの電力会社で、発電規模ではエンデサ、イベルドローラに次ぐ国内3位の規模である。04年末の発電規模は978万kWで、うちスペイン国内が706万kWを占めている。


第20回: センプラエナジー

センプラエナジーは、ロサンゼルスなどを供給エリアとする都市ガス会社サザン・カリフォルニア・ガスとサンディエゴ周辺を供給エリアとする電力・ガス会社のサンディエゴ・ガス・アンド・エレクトリックの2社を傘下に持つユーティリティを中心とする企業である。


第21回:韓国ガス公社(KOGAS)

韓国ガス公社(以下ガス公社)は、1983年に設立された国営企業で、LNGを輸入し、所有するパイプラインを通じて都市ガス会社や電力会社への販売を行っている。韓国では、LNGの輸入と卸売は現時点でガス公社が独占しており、86年にインドネシアから輸入を開始して以来、韓国で消費されるLNGはガス公社が全て輸入してきた。


第1回:拡大するLNGビジネス 米、中、そしてインド

 

世界的な天然ガス需要の拡大を背景に、LNGビジネスが急速に拡大している。特に、天然ガス価格が高騰している米国では、各地で受入基地の建設計画が相次いでおり、これまで受入基地のなかった西海岸やカナダ、メキシコ、バハマなど周辺国でも米国市場をねらった基地建設の計画が進んでいる。米国は、世界の天然ガスの約4分の1を消費する最大の消費国であり、現時点ではごくわずかに留まっているLNG輸入が、いかに拡大するかは、輸出国や関連企業にとって最大の関心事だ。
 
また、中国、インドといった超大国がLNG輸入プロジェクトを進めていることも、世界のLNGビジネスに与える影響が大きい。インドは既にカタールから輸入を開始し、中国では、沿海部各地(広東省、福建省、浙江省、天津、大連、青島等)で基地建設の計画が相次いでいる。今のところこの2つの超大国が消費するエネルギーは石炭が中心であり、天然ガスにシフトしていくには時間が必要と見られているが、将来の高い購買力を武器に、低価格での供給を要求しており、日本など既存国の売買契約交渉にも影響を及ぼし始めている。
 
表1に既存のLNG輸出入国と、今後LNG貿易が見込まれる国を列挙した。新たに輸出入を行う国だけでなく、既存の輸出入国の多くでも新規プロジェクトが検討されている。さらに、既存プロジェクトの拡張計画も相次いでいることから、LNG関連ビジネスを展開する企業にとっては事業拡大のチャンスが広がっており、新規参入の機会も広がっている。
 
表1 拡大するLNG輸出入国
  輸入国 輸出国
2003年実績 【アジア】日本、韓国、台湾
【アメリカ】米国、プエルトリコ、ドミニカ共和国
【欧州】ベルギー、フランス、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペイン、トルコ
【アジア太平洋】インドネシア、マレーシア、ブルネイ、オーストラリア
【アメリカ】米国(アラスカ)、トリニダードトバゴ
【中東】アブダビ、オマーン、カタール
【アフリカ】アルジェリア、リビア、ナイジェリア
今後輸出入の可能性がある国 【アジア太平洋】中国、インド※、フィリピン、シンガポール、タイ、ニュージーランド、インドネシア(国内取引)
【アメリカ】メキシコ、カナダ、バハマ(主として米国フロリダ州向け)、ジャマイカ、チリ
【その他】イギリス※、クウェート、キプロス、カナリア諸島(スペイン)
【中東】イエメン、イラン、サウジアラビア
【アメリカ】ベネズエラ、ブラジル、ボリビア※、ペルー、コロンビア
【アフリカ】エジプト※、赤道ギニア、アンゴラ、モーリタニア
【その他】ノルウェー、ロシア、ウクライナ
※ボリビアは、ペルー、ブラジル等第三国で液化して輸出することを検討中。エジプトは年内にもスペインに輸出開始予定。インドは今年から輸入を開始した。イギリスは過去に輸入実績有。
カタールとオマーンの液化事業に権益を保有している韓国ガス公社は、両液化プロジェクトの2003年分の配当として合計約百億円を受け取った。KOGASは韓国でLNG輸入を独占する世界最大のLNG輸入者であるが、上記の2つの液化プロジェクトにも資本参加している。韓国ガス公社を含め、今後韓国のガス事業改革がどのように進められるかは依然として不明であるが、一足先に、韓国ガス公社に限定されてきたLNG輸入が、自家消費分に限って他社にも許可されるようになった。これを受けて大手製鉄会社の浦項製鉄とSK財閥が共同で受入基地を建設し、インドネシア産のLNGを輸入することを決定した。このプロジェクトではLNGを、現在BPが中心となって計画しているタングープロジェクトから調達する予定で、BPはこのLNGを燃料とするSK財閥の発電事業に資本参加を決めた。
 
このような事業展開は昨今のLNGビジネスを象徴する出来事だ。韓国ガス公社の例では、LNGの輸入販売を行う下流事業から上流事業への展開例であり、BPの例では、ガス田開発と液化事業を主とする上流事業から下流事業への展開例である。BPは、これまでトリニダード、オーストラリア、アブダビでの上流事業を中心に、LNGビジネスを展開してきたが、最近では、上流事業以外にも、米国、イギリス、スペイン、イタリア、中国での受入基地建設計画に参加もしくは使用権の獲得を予定している。さらに、LNGタンカーを確保することによって、自社の権益がない液化基地からもLNGを調達して販売するような貿易事業も拡大させている。
 
活発化する企業の動き
 
これらの上流から下流への参入は、BPだけでなく、他の国際石油資本大手や、独立系石油開発会社、資金力に余裕のある産ガス国の国営企業にも広がっている。LNGビジネスは、ガス田の開発・生産、LNG化、輸送、再ガス化、ガス販売・発電という一連のチェーンを構成しており、これまでは各種規制等によって、それぞれの分業体制が確立していた。しかし、最近では、下流事業での自由化の進展、産ガス国での外資受入拡大などを背景に、上流、下流のいずれの企業も、相互参入を図り、自社でLNGチェーンを構築することによって、事業の安定化や売上げ・利益の拡大に力をいれている。
 
また、欧・米・アジアでのガス価格の変動パターンの違いを背景に、より価格の高い地域に供給することにより利益の最大化を図る裁定取引や、スポット、スワップなどの取引拡大をねらっている企業も出てきている。
日本の企業では、各地の液化事業に参加してきた三菱商事が米国西海岸で受入基地建設計画を進めており、東京ガス、大阪ガス、東京電力といった電力・ガス会社も、上流事業への参加を進め始めた。
 
ガス事業強化を会社の方針としている国際石油資本はもちろんのこと、ドラスティックな自由化が進展し、熾烈な競争を繰り広げている欧米の電力・ガス会社も、ここ数年動きを活発化させている。

第2回:エクソンモービル

エクソンモービル(以下エクソン)は、世界最大の民間石油会社であり、天然ガスの埋蔵量と生産量においても民間企業として世界一である。 原油高を背景に、2003年の業績は、売上高、利益とも大幅に拡大し、純利益は2兆円を超え、他の業界を含めても世界一の規模を誇る。苦戦してきたLNG事業
エクソンの主なLNG事業の展開について図に整理したが、同社の地図から消えてしまった液化基地がある。 それは、現在、経済制裁が解かれ欧米の石油会社が殺到しているリビアでの液化基地である。1970年に当時のエクソンはリビアの液化事業を立ち上げ、 スペインとイタリアに向けて供給を続けていたが、1981年の経済制裁によって撤退に追い込まれた。また、インドネシアのアルンでは、1978年から液化基地を立ち上げているが、 最近は地域情勢が不安定で、出荷停止に発展したこともあり、今後LNG事業の継続は難しいとも見られている。エクソンモービルのLNG事業の展開

プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定
カタール カタールガス(T1/2/3) 890 10 日本、スペイン、欧州 稼働中
カタールガスU(T4/5) 1,560 30/15〜30 英国、欧州 2008/10
ラスガス(T1/2) 660 25 韓国 稼働中
ラスガス(T3/4/5) 1,410 29/30/30 インド、欧州、アジア、米国 2004/05/07
ラスガス(T6/7) 1,560 30 米国 2009/11
インドネシア アルン(T3/4/5/6) 600 30 日本、韓国 稼働中
オーストラリア ゴーゴン 500 未定 米国等 2008以降
アンゴラ アンゴラ 400 12 米国等 2008以降
(注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。


カタールに集中

ライバル企業が世界各地で液化基地を展開する中で、同社は、カタールに集中する戦略をとっている。 カタールは、現時点ではインドネシア、アルジェリア、マレーシアに次ぐ世界4位のLNG輸出国であるが、エクソンが主導している大規模事業が実現するころには、 世界一のLNG輸出国になっている可能性が高い。これまでに稼働しているカタールの事業は、日本、韓国、欧州に加え、今年に入ってインドへの供給も開始した。 今後は、LNG需要が急増すると見られる米国と欧州向けを中心に大幅な拡大が計画されている。
 
このうち英国向けの事業は、カタールガスU(2008/10年稼働予定)と呼ばれる780万トン/年の超大型プラント2トレインを建設する事業で、 英国では、ミルフォードヘイブンで受入基地の計画を進めている。このカタールガスUプロジェクトは、カタール石油公社(QP)と2社で実施する予定で、 上流から下流まで、QPも参加する方向で計画が進められている。米国向けにも、同じ規模でラスガスプロジェクトの拡張事業が検討されている。米国での受入基地については、 テキサス州サビーヌパス(ゴールデンパス LNG)とテキサス州コーパスクリスティ(ビスタデルソルLNG)にエクソン単独で建設する計画を発表し、 他にもメキシコ湾沖合でも検討しているとされる。
 
これらの英国、米国向けの大規模LNG事業については、過去に例のない20万〜25万立方メートル級の大規模タンカーを中心に大量に確保する予定で、 輸送効率の向上を目指している。ただ、このような大規模タンカーを受け入れられる基地は限定されるため、柔軟に各地に出荷するというよりも、 英国、米国のベース需要を賄うことを想定しているとされている。
 
英国、米国への計画以前から予定していたラスガスのイタリアエジソン向けの供給については、エジソンの経営不振とイタリアでの受入基地建設が進まないことから、 エジソンの受入基地事業の権益90%をQPとともに買収し、自ら進めることにした。さらに売買契約の内容を改め供給規模を350万トンから470万トンに拡大し、 2007年から供給することを目指している。

イエメンなど撤退
太平洋市場を見た場合、長期的にはアラスカでの事業も検討しているとされるが、現時点で動き始めている事業としては、ロシアのサハリンTプロジェクトがある。 ただし、こちらはLNGではなく、パイプラインで日本やロシア国内へ供給することを目指している。 また、LNGプロジェクトが計画されているオーストラリアのゴーゴンガス田については権益を14.3%保有しているが、 他社が相次いで計画している米国やメキシコの西海岸への受入基地建設は発表していない。
 
また、参加を予定していたイエメンのLNG事業からは撤退し、ナイジェリアで検討してきたウェストニジェール LNGについても見送られることになった。

第3回:ロイヤルダッチシェル

度重なる埋蔵量の下方修正で、揺れているロイヤルダッチシェルであるが、LNG事業については、世界最大規模を誇り、オーストラリア、ブルネイ、マレーシア、オマーン、 ナイジェリアと各地のLNG事業をリードしてきている。これらの事業にはそれぞれ拡張計画があり、新規事業としてもロシアのサハリン2、オーストラリアのゴーゴンとグレーターサンライズ、 イランのペルシャLNG、ナイジェリアの新プロジェクト、ベネズエラのマリスカルスクレLNG、リビアと、その品揃えは世界一である。新たなLNG貿易事業

これまで同社は、長期契約に基づいて権益を保有している液化基地から日本、韓国等へ販売することを主要な事業としていたが、2001年5月には、新たな事業形態として、 販売先を確定せずにオーストラリアNWSのLNG370万トンを5年間に渡って購入することを決めた。これに合わせて自社タンカーを4隻に増強している。
 
同様に、ナイジェリアのT4/5とT6から、また、オマーンからもLNGを購入することを決定しており、北米、欧州、アジアのガス価格の変動を見ながら、 より利益が得られるガス価格の高い地域への販売を行えるような体制を整えつつある。
 
シェルは、このような貿易事業拡大のために、受入基地の建設計画も積極化させている。その中心は、米国もしくはメキシコ市場の大西洋市場で、 再稼働した米国メリーランド州のコーブポイント受入基地の使用権を取得したことに加え、ジョージア州エルバアイランド受入基地の拡張分の使用権も取得することで合意している。
 
さらに、米国メキシコ湾沖合にも受入基地を建設する計画があり、メキシコでは、国営電力への供給を入札で落札し、東海岸のアルタミラに受入基地を建設することを決定している。 北米東海岸で以上の4拠点が完成すると、これらに、ベネズエラ、ナイジェリア、オマーン、イラン、リビアなどから幅広くLNGが供給される態勢ができる。
 
太平洋市場については、米国のカリフォルニア州で受入基地計画を推進していたが、住民等の反対によって、計画は進展していない。 また、メキシコのバハカリフォルニアで進めていた受入基地計画は、センプラエナジーが進めていた計画と統合され進められることになった。この基地が完成した場合は、 サハリン2のLNGやオーストラリアの複数の事業等から供給される可能性があり、既にオーストラリアのゴーゴンの事業からは200万トン/年分を北米市場向けに購入することで合意している。
 
オーストラリアのもう一つの新規事業であるグレーターサンライズでは、沖合ガス田の新しい商業化方法として開発を進めてきた浮体式の液化プラントの実用化を予定していたが、 他の方法で開発したい参加他社の意向もあって、現時点では、浮体式の採用は決定していない。
 
ロイヤルダッチシェルの参加している液化基地の概要
国            プロジェクト                  生産能力
(万トン/年)          
権益保有率
(%)        
販売先                 稼働予定 (年):                
ナイジェリア NLNG(T1〜3/4・5/6) 960/800/540 26/26/未定 欧州、米国ほか 稼働/05/07
浮体式 未定 未定 未定 未定     
オマーン  オマーン(T1・2/3) 660/367 30/12 日韓、欧州、米国 稼働中/05
ブルネイ ブルネイ 720 25 日本、韓国ほか 稼働中
オーストラリア NWS(T1〜3/4/5) 750/420/420 16.7/16.7/12.5 日本、韓国、中国ほか 稼働中
ゴーゴン 1,000 28.6 メキシコ、中国、韓国 2008以降
グレーターサンライズ 500 26.6 未定 未定
マレーシア MLNG(T・U/V) 1,460/760 15 日本、韓国、台湾 稼働中
ベネズエラ マリスカルスクレ 470 30 米国ほか 2007以降
ロシア サハリンU 960 55 日本ほか 2007
イラン ペルシャLNG 800 25 インド、欧州 未定
(注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。
 
イラン、リビアへも進出
インドでは、ガスの販売先が確定していないものの、グジャラート州ハジラで受入基地の建設に着手しており、今年中にも完成すると見られている。稼働当初は、オマーンなどの既存基地から供給することが可能であるが、レプソルと進めているイランの計画はインド向けを中心に進めているとされている。
 
イランのLNG開発は、同国最大のサウスパルスガス田のガスを使用する予定であるが、同ガス田は、LNG開発で先行するカタールのガス田とつながっていると見られており、この開発をめぐって両国間は微妙な関係にある。シェルは、LNG事業についてはイラン側に入り、カタール側ではガスツーリキッド(GTL)事業の計画を進めることになった。
 
また、リビアでは、大規模LNG事業を念頭に上流部門への参加についてリビア国営石油会社と提携することで3月25日に合意している。

第4回:BP 

1998年に大手石油会社アモコを買収し、BPは、米国、英国で最大のガス生産者となった。2003年の天然ガス生産量は8.6Bcf/dで、これは日本の消費量を上回る規模となっている。 他社から購入して販売している天然ガスはさらに多く、生産量の3倍強のガスを米国、英国を中心に販売している。
 
LNG液化事業については、トリニダードのアトランティックLNG、アブダビ、オーストラリアNWSの3事業に参加してきている。 大西洋市場では、トリニダードのアトランティックLNG事業から欧米へ供給する事業を中心にしており、このアトランティックLNGは、現在第4トレインを増設中で、 さらに拡張することが検討されている。また、アンゴラ、イラン、インドネシアで新規事業に参加する予定である。
 
他社からもLNGを調達
BPでは、液化事業の規模を拡大するばかりでなく、受入基地や発電事業、また、他社からLNGを購入して販売するなど、下流を含めたLNG事業の拡大、多角化を急いでいる。
 
米国では、メリーランド州コーブポイント受入基地の使用権を取得し、トリニダードからの供給を開始した。 また、ニュージャージー州南部ではクラウンランディングと名付けた受入基地の建設を計画している。
 
欧州では、発電所向けを中心に天然ガス需要が拡大しているスペインにおいて、バスク州ビルバオの受入基地と発電事業からなる複合事業に参加した。 この事業は、既に昨年8月から稼働している。
 
また、英国ではアイルオブグレイン受入基地の使用権をアルジェリア国営ソナトラックと共同で取得した。 BPは、アルジェリアでは、LNG生産にも利用する大規模ガス田の開発を行っており、ソナトラックとは共同でLNGの販売を行う合弁企業を設立し、英国への販売にとどまらず、 北米などその他地域へもアルジェリア産LNGの販売を行う予定である。さらに、イタリアでも受入基地の建設を検討している。
 
BPでは、下流への進出を強化するため、自身で生産に関与していないLNGからの調達も始めている。既にカタール、オマーンから購入を開始し、 エジプトでは、ユニオンフェノサが主導するダミエッタのLNG液化基地に、BPが生産する天然ガスを供給し、同時にここで生産されるLNGの購入を決めた。

BPの参加している液化基地の概要
プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定
オーストラリア NWS(T1〜3/4/5) 750/420/420 16.7/16.7/12.5 日本、韓国、中国ほか 稼働中
UAE アブダビ 480 10 日本ほか 稼働中
トリニダード ALNG(T1/2・3) 360/660 34/42.5 スペイン、米国ほか 稼働中
ALNG(T4) 520 38 米国ほか 2005
インドネシア タングー 700 37.2 中国、韓国、メキシコ 2007
アンゴラ アンゴラ 400 12 米国等 2008以降
イラン イランLNG 800 25 未定 未定
注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。
 
 
アジア太平洋はタングーを核に
 
一方、太平洋市場においては、インドネシアで同社が中心的に計画を進めているタングーの液化事業を核として下流への進出を図っている。
 
中国では、中国海洋石油が進めている中国初の広東LNG受入基地への参加をBPが決めたことから、広東LNGにはタングーから供給されることが有力視されていた。 しかし、広東への供給は同じくBPが参加しているオーストラリアNWSから供給されることになり、タングーからは、中国で2番目となる福建省の基地への供給が決まった。
 
また、タングーについては、韓国で製鉄大手のポスコとSK財閥が共同で建設する受入基地への供給が決定したが、併せてこのLNGを使用するSKの発電事業についても、 35%出資することになった。
 
現時点では各社の計画が相次ぐ北米西海岸での受入基地の建設計画は明らかになっていないが、 タングーからは、大手電力・ガス会社を傘下にもつセンプラエナジーのメキシコ西海岸の受入基地に供給する予定になっている。
 
BPではタングー以外に、エネルギー不足となっているインドネシアのジャワ島西部に受入基地を建設する提案を行っている他、 フィリピンの受入基地建設にも参入意向があると見られている。
 
4つのLNG事業が計画されているイランにおいては、販売先として期待しているインドのリライアンスと組んで事業を検討してきたが、 リライアンスがインド国内で大規模ガス田を発見したため、先行きは不透明となっている。

第5回:シェブロンテキサコ

2001年10月にシェブロンとテキサコが合併し、天然ガスの生産量、埋蔵量では世界4位のシェブロンテキサコ(以下シェブロン)が誕生した。ただし、同社は他のメジャーに比較して石油の比率が高く、天然ガスの生産についても今後の生産量低下が予想される米国に集中していることから、米国以外の天然ガス事業の拡大が同社の経営上の課題となっている。LNG事業としては、既存事業がオーストラリアNWSへの参加のみで、他の大手企業と比較すると見劣りする状況にある。
 
しかし、オーストラリアゴーゴンとアンゴラの液化事業は同社が主導して推進しており、また、ナイジェリアの新たなLNG事業であるブラスリバーへの参加や、ベネズエラではLNGに供給されると見られるガス田の開発にも参加することを予定している。
オーストラリアゴーゴンを中核に
オーストラリアのゴーゴンプロジェクトは、シェブロンが権益の57%を持つオーストラリア北西部の大規模沖合ガス田の開発プロジェクトで、LNGプラントは、ガス田と大陸の中間にあるバーロー島に建設することが決定している。
 
最終的な投資決定は行われていなものの、シェブロンとシェルがメキシコ東海岸でそれぞれ計画している受入基地への供給が予定されており、また中国向けやシェブロンが出資している韓国LGカルテックスへの販売も見込まれることから、1,000万トン/年規模の大規模事業として2008-9年ごろ立ち上がるものと見られている。
 
なお、中国は、エネルギー政策上、LNGの調達に関して上流権益を獲得するようにしており、ゴーゴンのプロジェクトについても中国海洋石油が上流権益の一部を取得する方向で調整が行われている。韓国のLNG事業については、出資先のLGカルテックスが麗水に新たに受入基地を取得する予定で、この基地への供給が見込まれる。
 
北米西海岸の受入基地については、メキシコのバハカリフォルニア州沖合に建設を予定しており、530万トン/年の規模でスタートし、その後2倍に拡張する予定である。ただし、バハカリフォルニアでの受入基地建設については、建設計画が相次ぐ中で、マラソンオイルが主導する計画が中止に追い込まれるなど、地元住民の基地建設に対する反対は強く、シェブロンの計画についても実現は不透明な状況にある。

ポートペリカン計画

このバハカリフォルニアと同種の沖合基地を米国メキシコ湾でもポートペリカンという事業名で計画しており、こちらは既に建設の承認を沿岸警備隊から取得し、基本設計に着手している。

このポートペリカンの規模は、バハカリフォルニアの基地よりも若干大きく、稼働当初600万トン/年程度でスタートし、後に倍増する計画である。

この受入基地への供給が可能な自社の液化事業としては、シェブロンが中心となっているアンゴラの事業とナイジェリアのブラスリバーLNGの計画がある。アンゴラの事業については、アンゴラ初の事業ということもあり、国営石油会社の資金調達問題や参加企業のどの油田の随伴ガスを使用するか、またプラントをどこに建設するか調整が遅れており、最終投資決定にはまだ時間が必要と見られている。

シェブロンは、ベネズエラのデルタナガス田の開発にも参加を予定しており、現時点では、その規模、用途は確定していないが、同国でシェルが主導しているLNGプロジェクトへの供給や、隣接するトリニダードのLNGへの供給が選択肢として残されている。

シェブロンテキサコの参加している液化基地の概要

プロジェクト 生産能力
(万トン/年)
権益保有率
(%)
販売先 稼働予定
オーストラリア NWS(T1〜3/4/5) 750/420/420 16.7/16.7/12.5 日本、韓国、中国ほか 稼働中
ゴーゴン 1,000 57 メキシコ、中国、韓国 2008年以降
アンゴラ アンゴラ 500 36.4 米国 2008年以降
ナイジェリア ブラスリバー 1,000 20 米国ほか 2008年
注)今後の計画には正式に確定していない数値を含む。

GTLではサソールと合弁

同社のガス事業としては、LNG以外にGTL事業に注力しており、こちらは、南アフリカのサソールとサソールシェブロン社を設立して事業を推進している。カタール、ナイジェリアでの計画が進み、さらにオーストラリアでも検討しているとされる。

 

 

続く