公取委強化へ独禁法改正案 談合課徴金引き上げ 公取委発表 課徴金資料
研究会報告書 「自首企業」は減免
公正取引委員会は28日、独占禁止法の改正案を検討してきた独禁法研究会の報告書を発表した。強制、調査権の導入や違反企業への課徴金の大幅引き上げなどで公取委の権限を強化、カルテルや談合などの取り締まりを強める。公正な競争社会の実現に向け、来年度中の法改正を目指す。
▼「累犯」は許さず
「違反行為で得た売上高の6%」としている課徴金は大幅に引き上げる。談合などによる不当利益に比べて課徴金が低い限り、違反は減らないからだ。「違反が割に合わないようにする」(竹島一彦委員長)には大幅アップが必要と判断。公取委は不当利益は売上高の2割程度とみており、まずは10%台への引き上げを検討しているもようだ。それでも欧米に比べると低い水準にとどまる。一度摘発されても違反を繰り返す悪質企業には課徴金を加算する制度も導入し、「累犯」を許さない仕組みにする。
談合やカルテルに加わった企業が公取委に「自首」して違反行為をやめ、内部情報を提供する場合は課徴金を減免する。米国の司法取引のような駆け引きはせず、違反行為の首謀者ではないなど一定条件を満たせば自動的に課徴金を減免する。最初に申し出た企業は全額免除する。違反企業に「アメ」を与え、密室での談合やカルテルの内部情報を引き出すのが狙い。
課徴金引き上げという「ムチ」との併用で違反を抑止し、摘発の実効性を上げたい意向だ。欧米は同様の制度を導入済み。欧州連合(EU)が2001年に摘発した国際カルテル事件で日本企業が自首し、制裁金の減免を受けた例もある。公取委はEUより先に同じ事件を調査したが、証拠不十分で排除命令を出せなかった。
▼刑事責任追及はあくまで検察権限
公取委は課徴金は減免できるが、刑事告発をしないという確約は与えられない。研究会では、課徴金を減免する一方で刑事告発するのは整合性がとれないとの指摘も出たが、刑事責任追及について権限を持つのはあくまで検察当局。刑事訴訟法では、公取委が告発対象から外した企業であっても、検察は独自権限で起訴できることになっている。
公取委は「検察当局との事前協議で、課徴金減免企業を告発対象からも除外するよう理解を求める」と釈明するにとどまっている。実際の制度運用ではこうした不透明部分の解決が必要だ。
▼参入妨害にメス
新規参入妨害の取り締まりも強化する。電力、ガス、通信、航空などの公益事業や、市場を席巻するような新技術を独占する企業などが主な対象。
光ファイバーなど新規参入に不可欠な施設や基本ソフト(OS)などの技術標準を自由に使わせない「参入妨害行為」が判明すれば、それだけで排除措置を命令できるようにする。大手電力会社が送電線利用を制限したり、大手航空会社が参入企業と競合する路線だけ値下げするような行為を取り締まりやすくする。特に悪質な妨害は課徴金の対象とする方針だ。
独禁法研究会報告書のポイント ▽課徴金制度の見直し ・課徴金の大幅引き上げ ・違反行為を「自首」した企業には課徴金を減免 ・違反行為を繰り返す悪質企業には課徴金を加算 ▽新規参入妨害の排除 ・課徴金の適用範囲を新規参入妨害などにも拡大 ・事業に不可欠な施設や技術を持つ企業の新規参入妨害に排除命令 ▽調査・措置・審判制度の見直し ・強制調査権限を導入し、刑事告発を積極化 ・排除命令と課徴金納付命令を同時に出し、手続きを簡素化 ・同調的値上げに対する報告徴収を弾力的に実施 |
企業「二重処罰」と反発 新規参入組は歓迎姿勢
公取委の権限強化に企業からは警戒の声が上がっている。日本経団連は課徴金引き上げを問題視している。独禁法違反企業には刑事罰も適用されるため、課徴金引き上げで制裁色が強まると、憲法が禁じる「二重処罰」になると主張する。
これに対し報告書は、課徴金は制裁金ではなく、不当利益返還と違反による社会的損失の負担を求めるものだとしており、争点になりそうだ。
談合疑惑の多い建設業界では「談合の申告はムラ社会の裏切り。下請け仕事を減らされかねない」と漏らす関係者さえいる。過去の告発も談合から外れた企業の意趣返しが大半で、仲間内の口は堅い。自首が明るみに出て仲間外れになるのを恐れ、自主申告をためらうムードが強いという。
ただカルテルや談合が後を絶たないのは事実。野放しにすれば一部企業の高・コスト体質は是正されず国際競争力も高まらない。公正な競争促進は消費者や経済の新陳代謝にも不可欠。企業の言い分が世論の支持を得られるかどうかは不透明だ。
一方、電力、通信業界はそれぞれの事業法と独禁法の「二重規制になりかねない」(藤洋作電気事業連合会会長)と懸念する。事業法が参入妨害を予防する事前規制なのに対し、独禁法は事後規制。「どちらか一方で十分」との見解だ。
同じ企業でも新興勢力は「電話回線などの利用促進は利用者と事業者双方に資する」(有線ブロードネットワークス)「参入妨害を迅速に排除してもらわないと新規事業者の利益を損なう」(イー・アクセス)と公取委強化を歓迎している。
独禁法違反の対象になる可能性もある米マイクロソフトの日本法人は「法律は順守するが不透明な部分もあり意見交換を進めていく」(法務担当)としている。
日本経済新聞 2003/11/18 課徴金資料
国際カルテル取り締まり 「自首」制度
欧州で浸透
制裁減免狙い日本勢も利用
国際的カルテルに加わった企業が当局に内部情報を提供、制裁金の減免を受ける「自首」制度が欧州で浸透してきた。日本企業の利用も目立ち、最初に申し出た企業が制裁の全額免除を受ける特権を利用する例もある。
欧州連合(EU)の欧州委員会は10月、食品防腐剤に使う化学品で国際カルテルを結んでいたとして、ダイセル化学工業など日本企業3社と独企業1社に総額約1億3800万ユーロ(約175億円)の制裁金を発表した。だが同じカルテルに加わりながら、チッソだけは制裁を免除された。
1998年秋。チッソの関係者が欧州委を訪れカルテルの存在を内部告発。この情報に基づいて欧州委は調査を開始し不正行為を暴くことに成功。制裁免除は協カヘの見返りだった。
制裁の100%免除を受けるには様々な条件を満たす必要がある。カルテル摘発に決定的な証拠を他の企業より先に提出すること、カルテルを主導した「主犯」でないことなどだ。制裁免除は1件につき1社までだが、それ以外の企業も当局への協力度合いに応じて制裁金が減額される。
関係者によると、EUが1996年に制裁の減免制度を導入して以来、これまでに約100社が適用を受け、うち8社が全額免除された。日本企業は25社が減免され、全額免除は2社と、ともに全体の4分の1を占める。日本勢で全額免除の第1号は、2002年12月の武田薬品工業(化学調味料カルテル)だ。
EUの法令は違反企業への制裁額が総売上高の最高10%と日米より厳しい。2002年までの5年間の制裁総額は、米国での約1800億円に対しEUでは約3700億円と2倍。巨額制裁と減免制度を組み合わせ、効果的に取り締まる。
2002年には減免制度を見直し、企業が「自首」しやすい仕組みに改定した。新制度で減免申請は既に50社を超えるという。
日本では公正取引委員会の研究会が10月に発表した報告書で、カルテル参加企業への課徴金減免制度を提案。採用されれば、EUと似た制度が日本にも登場する。
1999年9月 武田薬品 ビタミンバルクのカルテル事件で米国司法省と合意
http://www.takeda.co.jp/press/99091001j.htm
http://www.rondan.co.jp/html/mail/0109/010902.html
1999年10月に武田薬品が第一製薬、エーザイと共にビタミン剤による摘発を受けたのである。当然武田としては司法取引の絶対的条件である全ての取引、つまり調味料についても味の素についても供述し、司法省及び大陪審に協力と反省を示した。よって武田薬品は他の二社と共に法人に対する罰金のみで役員、社員についてはおとがめを受けていないのである。
2001/11/22 http://www.b-bridge.com/bionews/bio/nov/ge.html
日欧8社にEUが命令 カルテルで最大の罰金
EUの欧州委員会は21日、武田薬品工業など日本3社を含む日欧8社に対して、ビタミン製品の販売で価格カルテルをしていたとし、罰金支払命令を出したと発表した。罰金の総額8億5500万ユーロ(約923億円)で、カルテル行為に対して欧州委員会が命じた罰金としては過去最大。罰金の内訳はロシュ(スイス)4億6200万ユーロ、BASF(ドイツ)2億9600万ユーロ、武田3700万ユーロ、第一2300万ユーロ、エーザイ1300万ユーロ。
独禁法課徴金で火花
経団連が改正対案、 OECDが提言へ
独占禁止法の改正を巡る攻防が活発になってきた。日本経団連は13日、独自の改正案を発表した。不正利得が少なかったり、調査に協力したりした場合に、談合やカルテルなど違法行為への課徴金を公正取引委員会案より軽くするのが特徴。一方、経済協力開発機構(OECD)は課徴金の大幅引き上げが必要とする報告書を近く発表する。秋の臨時国会提出に向けた調整作業は難航しそうだ。
独占禁止法課徴金を巡る主要な論点 |
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OECD案 |
公取委案 |
経団連案 |
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算 定 率 |
引き上げが必要。諸外国の状況をみると2倍程度の引き上げでも低すぎる | 現行基準の2倍程度に引き上げ、繰り返し違反行為にはさらに5割加算 | 現行基準(6%)程度で据え置き、事件ごとの重大性、悪質性に応じて加算・減算する |
減 免 制 度 |
第一申告者は全額免除、第二申告者以降は協力に応じて減額するルールを明示 | 第一申告者は全額免除、第二申告者は50%軽減(立ち入り検査後は30%軽減) | 第一申告者は全額免除、第二申告者は50%軽減、第三申告者以降は30%軽減 |
刑 事 罰 の 調 整 |
公取委案は適切 | 刑事罰の罰金と課徴金が両方かかる場合は罰金額の2分の1を課徴金額から減額 | 企業は課徴金に一本化。刑事罰は個人のみ。併存の場合、選択して適用する |
経団連が改正対案 調査協カすれば軽減
公取委は独禁法改正案の通常国会への提出を目指していた。しかし、自民党や経団連などの反対を受け、通常国会への改正案提出を断念。秋の臨時国会提出に向けて調整を進めている。
公取委案は現行の課徴金(大企業で違法行為による売り上げの6%)を2倍程度に引き上げる内容。これに対し経団連は「現行基準でも制裁としての意味を十分に備えていた」と主張している。
その上で経団連案では課徴金の基準率を現行の6%程度に据え置いている。
不正利得が小さい場合や調査に協力すれば20%減らす一方、再犯は40%増とするなどメリハリをつけている。ただ、最大でも公取委案と同じ水準にしかならない。
また、経団連は「課徴金と刑事罰の両方を科すことは、憲法が禁止する二重処罰に当たる」と批判。企業への制裁は課徴金に一本化するよう求めた。
違法行為を自首した企業に対する課徴金の免除では、公取委案は先着2社に限った減免を打ち出していた。これに対し経団連は、減免の条件を公取委の立ち入り検査前の申告に限る一方、対象企業数の拡大を求めた。
「経団連案なら抑止力低下 公取委が反論
公正取引委員会は経団連案の通りに課徴金の基準を6%に据え置き、減算もすると同時に、企業に対する刑事罰の罰金まで廃止すれば「制裁が弱くなりすぎて違反に対する抑止力が低下してしまう」(事務総局)と反論している。
経団連案は「現行の法制度では実現できない。秋の臨時国会への法案提出を先送りしようとしているとしか思えない」(幹部)というのが公取委の基本的見解。
欧州連合(EU)には制裁金の減算制度はなく、米国では一定の条件を勘案して罰金を加減算しているが、いずれも制裁金や罰金の基準が日本より大幅に高いので、単純には比較できないとしている。
刑事罰と課徴金のどちらかに一本化する案についても、日本には刑事罰の役割まで肩代わりする行政制裁金はなく、独禁法だけ独自の法制度をとるわけにはいかないと主張。刑事告発した場合に課徴金を科さないとすると、企業向け罰金は最高5億円どまりなので不正利得が大きくて悪質な談合ほど「やり得」になるという矛盾が生じる恐れがある。
OECDが提言へ 最大3倍強に上げを
経済協力開発機構(OECD)が近く公表する「対日規制改革フォローアップ(事後点検)審査報告書」の概要が明らかになった。競争政策に関し、効果的に違法行為を抑止するために独占禁止法の課徴金を大幅に引き上げるよう法改正を求めた。
OECDは報告書で「課徴金を2倍程度に引き上げれば国際的な常識には近づくが、それでも効果的な違反行為の抑止には低すぎる」と指摘。大企業製造業の課徴金算定率を現行の売上高の6%から最大で3倍強に当たる20%程度に引き上げるよう求めた。
OECDによると、米国では売上高の46%の罰金を科した例があるほか、ドイツでも違法行為による不当利得の3倍までの罰金を命じることができる。日本の公正取引委員会によると、過去のカルテル・入札談合による不当利得の平均は16.5%で、「6%では違反行為を防止できない」との見方だ。
談合やカルテルを防止するために、公取委に談合の事実を告発した談合参加者に対して課徴金を減免する措置の導入も提言した。
OECDによると、内部告発者の課徴金を減免する措置は各国で談合の摘発に効果を上げており、「日本の消費者を害する国際的なカルテルに対処する際に他国の競争当局との協力も容易になる」と提言した。
公取委の委員の大半を中央省庁出身者が占めていることに関しても「より広い経歴を持つ委員を迎えれば公取委の独立したイメージを高めるのに役立つ」と改善を促している。
2005/4/20 日本経済新聞夕刊
談合課徴金10%に上げ 改正独禁法が成立
談合やカルテルの取り締まりを強化する改正独占禁止法が20日の参院本会議で可決、成立した。独禁法の抜本改正は1977年以来。談合など違反行為をした企業から徴収する課徴金を製造業の大企業の場合で製品売上高の10%(現在は6%)に引き上げるのが柱。公正取引委員会による調査権限も強化する。2006年1月をめどに施行の見通しだ。
改正法では中小製造業の課徴金も3%から4%に引き上げる。違反行為を繰り返す「再犯企業」は課徴金を5割増しにする制度も導入する。過去10年以内に独禁法違反があった製造業の大企業は課徴金が15%と、現在の2.5倍になる。
企業による談合やカルテルが露見しやすくするため、談合の事実を公取委に自主申告した企業の課徴金を減免する制度も設ける。公取委が立ち入り検査をする前に、最初に申し出た企業は課徴金を全額免除、2番目は課徴金額の50%、3番目は30%割り引く。「アメとムチ」の制度に切り替え、違反行為の抑制を目指す。
公取委による調査権限も強まる。刑事告発のために、公取委が裁判所の令状を持って強制的に立ち入り検査できるようにする。
公取委は独禁法違反かどうかを判断する審判手続きへの信頼を高めるため、法曹資格を持つ審判官を増やす。
独禁法の改正は公取委が2002年に検討を始めた。だが、課徴金の大幅な引き上げに難色を示した経済界や与党との調整が難航し、昨年の通常国会を目指していた法案提出が昨年の臨時国会にずれこんだ。臨時国会でも独自の改正案を出した民主党との議論が長引き、今国会に継続審議となっていた。
毎日新聞 2005/10/17
公取委 談合申告者告発せず 独禁法運用方針 早期発見目指す
公正取引委員会は6日、入札談台や価格カルテルなどの悪質な独占禁止法違反について、立ち入り検査前に、法律違反があったことを最初に申告した業者・個人は刑事告発しないと発表した。改正独占禁止法が施行される来年1月から実施する。同法には自主申告した事業者の課徴金を減免する制度を盛り込んでいるが、刑事告発を免除することをはっきりさせることで内部告発を促し、談合事件の早期発見と解決を図る考えだ。
改正独禁法は、違反行為を行った企業に対する課徴金を大幅に引き上げるなど制裁を強化する一方で、自主申告した業者や個人について課徴金減免制度を導入した。
立ち入り検査前であれば、@最初の申告者は課徴金を全額免除A2番日は50%減額B3番目は30%減額ーーとすることにし、「アメとムチ」での違反防止を図ったのが大きな特徴だ。
ただ公取委は、課徴金減免だけでは、特に役員や従業員などの個人が内部告発をする動機付けとして不十分と判断した。このため、告発についての方針を示した公取委の文書に、立ち入り検査前に最初に申告した業者・個人に限って、刑事告発しないという文言を加えた。ホームページでもこの方針を公表した。
刑事告発を免除されたり、課徴金を減免されるためには、ファクスなどの文書で公取委に申告する必要がある。これは、申告の順番を明確にするためという。ただし、国際カルテル事件の場合は、口頭での申告を認める。
最初の申告者に限った理由について公取委事務総局は、「刑事事件の自首と同じ基準にした」と説明。「内部の協力者を得る意味でもこうした制度は有効」と効果に期待を寄せている。
改正独禁法は来年1月4日に施行される。
日本経済新聞 2007/2/1
公取委新基準「寡占度」に軸足 合併審査、世界シェア考慮 企業再編に追い風
公正取引委員会は31日、企業合併を認めるかどうかを審査する指針(ガイドライン)の改正案を公表した。合併後の国内市場占有率(シェア)より、業界全体の寡占度合いを測る指数を重視する基準に緩和。同時に国際競争にさらされる業界は世界市場での寡占度を考慮し、国内シェアが高まっても合併できるようにする。業界再編が進む可能性が出てきた。
公取委は31日、自民党の委員会に新指針案を示し、了承された。4月にも適用する。
いまの指針では合併をほぼ無審査で認める基準は、合併後の国内シェアが25%以下など厳しい条件を付けている。新指針はこのシェア基準を廃止し、業界の寡占度指数だけで判断する。
どんな合併が認められるか? HHI(Herfindahl-Hirschman Index) | ||||||||||||||
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国際性他界製品
しかも業界によっては海外市場も指数に考慮する。これまでは原則、国内市場で計算していた。国際競争にさらされる商品ならば世界市場で、主にアジア地域の製品と競合するならアジア市場で指数をはじく。
世界を舞台にした業界かどうかは公取委が判断する。輸送コストや関税障壁が低く多国間で流通しやすい製品や、商品の代替性が高い製品を対象にする。半導体や液晶、ソフトウエアは世界市場、鉄鋼はアジア市場が基準になるとみられる。
そのうえで上位5−10社ほどの寡占度が低い業界ならば、上位同士の合併でも問題ないと判断する。寡占度が高い業界でも、シェアが小さな企業を吸収合併する場合は、ほぼ無審査にする。
寡占度が高い業界で、そこそこ大きな企業を合併する場合はより審査を厳しくする。そのなかで問題の恐れは小さいとみなして簡単な審査で済ませられる基準は、新指針でもシェア基準を併用する。合併後35%以下が条件となる。ただ、このシェア基準も海外を考慮するうえ、寡占度指数自体の条件も緩める。
今回の改正案に照らして最近5年の合併例178件をみると、ほぼ無審査になる案件は3件から54件に増える。簡単な審査で済む案件を含めると48件から84件に広がる。
たとえば液晶テレビ業界を国内市場で見た場合、最大手のシャープはシェア47%、上位5社の寡占度指数は2900となり、他社との合併は認められにくい。国際商品とみなされれば、シャープの世界市場でのシェアは20%で指数も929と大幅に下がるため、合併しやすくなる。
技術革新も加味
新指針は合併による生産性向上や技術革新も考慮する。合併で大規模な研究開発が進んで製品価格が下がるなど消費者の利益につながる場合や、新製品開発で新たな市場を生む場合は、シェアや寡占度指数の上限を超えても合併を認める。
とはいえ経済産業省が当初求めていたシェア基準を35%以下から50%以下に引き上げることは見送られた。国内産業にとっては大幅な規制緩和とはいえない。一方、国際商品でも「すでに運用として海外も考慮されている面もあり、どこまで前進するかは不透明」との見方もある。
「選択肢広がる」 産業界一定の評価
産業界は合併審査の新指針について、「再編の選択肢が広がるのはありがたいこと」(エルピーダメモリの福田岳弘最高財務責任者)とおおむね評価している。外国企業による日本企業の買収が容易になる「三角合併」が5月に解禁されることも触媒となり、企業のM&A(合併・買収)は一段と加速しそうだ。
半導体業界の競争力の尺度は国内ではなく世界シェア。家電などを制御するマイコンでは、ルネサステクノロジとNECエレクトロニクスの合計シェアが国内だと6割を超えるが、世界では3割強にすぎない。価格下落と国際競争が進む中で、国内半導体産業の再編を促す可能性もある。
ビール業界も「迅速な経営判断につながり、企業競争力が高まる」(キリンビールの佐藤一博常務)と期待。「業界再編への追い風となり、各企業がさらに効率的な経営環境を検討する機会となる」とみている。
世界再編が進む鉄鋼は合併の判断基準が国内からアジア全体に広がる可能性がある。鉄鋼大手からは「より大きな市場で判断することは歓迎」との声があがる。ただ、建設機械などに使う厚鋼板や、自動車など幅広い用途で使う熱延広幅帯鋼(ホットコイル)は日本への輸入が少ないうえ、アジアでの日本企業のシェアも高く、直ちに再編が加速する状況にはない。
一方、国際競争の波にさらされていない分野への影響は限定的。製紙業界は昨夏から再編機運が高まっているが、対象は国内の合従連衡であるため、「新指針の詳細を見極めたい」という反応にとどまっている。
日本企業のM&A件数は昨年、前年比1%増の2760件強と過去最高。金額も3割増の15兆円と高水準だった。新指針の適用や三角合併の解禁で、企業の再編意欲が高まるのは必至だ。
2007/10/16 日本経済新聞夕刊
談合・カルテル 主犯格の課徴金増額 公取委 独禁法改正で基本方針
公正取引委員会は16日、独占禁止法改正の基本方針を発表した。談合などに科す課徴金の見直しが柱で、対象の違法行為に不当表示などを加える。主犯格の企業が支払う課徴金を増やす一方、違法行為を自主申告した企業への減免措置は拡大する。来春の通常国会に独禁法改正案を提出する構えだが、行政処分への不服申し立ての審判を公取委自らが手掛ける制度は維持しており経済界の反発は必至。法改正まで曲折がありそうだ。
16日開いた自民党の独禁法調査会で報告した。課徴金の対象となる違法行為は、現在、ほぼカルテルや談合に限られている。改正法で新たに対象になるのは、大企業か中小企業などに不利な取引を強いる優越的地位の乱用、虚偽広告などの不当表示、不当廉売などで競争を制限する「排除型私的独占」など。こうした行為にはこれまで、違法行為の差し止めを求める排除命令や警告しか出せなかった。課徴金と排除命令をセットにすることで、企業の違法行為を抑制する効果が増す。
現行の独禁法では、違反企業には売り上げや受注高の最大10%の課徴金を科し、再び違反した事業者には50%の割り増しを命じている。今回の改正では、主犯格の企業へも課徴金の割り増しを求める。加算率については今後詰める。違法行為を自主申告した企業の課徴金を1事件につき最大3社まで減免する制度も減免企業数を増やす。
基本方針のポイント
▼独禁法違反の課徴金
・対象=不当表示、優越的地位の乱用などを新たに加える。
・割り増し=カルテル・談合で主導的役割を果たした企業は負担増に
・違法行為を自主申告した企業の減免措置拡充
▼課徴金対象となる違法行為の時効(除斥期間)を3年から5年に
▼公取委の審判制は維持
▼他社株式を取得した場合は合併と同様に事前届け出を義務付け