(日本経済新聞 2002/2/16)

  三井化・住化 樹脂統合会社 4月営業開始

 三井化学と住友化学工業は15日、両社の汎用合成樹脂事業を統合する新会社「三井住友ポリオレフィン」(東京・中央、榊由之社長)を今月中に設立、4月1日から営業を始めると発表した。当初予定より半年遅れとなるが、合理化を進めて競争力を強化する。
 新会杜は汎用樹脂であるポリエチレンとポリプロピレンの生産管理、研究開発、販売を手がける。資本金は70億円で折半出資。従業員は当初440人で発足する。両社は人員削減や品種の統廃合、物流費の削減などにより計260億円規模の合理化効果を見込んでいる。三井化学はこれに合わせ、全額出資の合成樹脂会社グランドポリマーを4月1日付で吸収合併する。
 三井化学は同日、ポリプロビレンの生産設備を再編することも正式発表した。大阪工場(大阪府高石市)に約120億円を投じ、2003年9月完成予定で年産能力30万トンの設備を建設。同工場の年産10万8千トンの設備と、堺工場(大阪府堺市)に持つ年産5万トン、同7万トンの2つの設備を2003年末までに停止する。老朽化した設備を止め、新鋭設備に更新する。


(日本経済新聞 2002/2/1)

  三菱化学など4社 事業統合、大幅ずれ込みへ  「早くて秋」の見方強く ユニカー合流案浮上

 三菱化学、昭和電工、東燃化学など化学4社のポリエチレン事業統合が当初予定の今春から大幅にずれ込むことが31日、明らかになった。東燃化学が5割出資する
日本ユニカーも合流した方がよいとの意見が浮上しているためだ。現時点で統合時期は早くて秋との見方が強く、合理化効果が遅れる可能性もある。
 当初案では、三菱化学と東燃化学が出資する日本ポリケムと、昭和電工と日本石油化学が出資する日本ポリオレフィンが今年4月をめどに共同出資会社を設立、ポリエチレン事業を統合する計画だった。
 だが、東燃化学と米化学大手ダウ・ケミカルが折半出資する日本ユニカーも単独では生き残りが難しい。統合会社に参加したほうが、各社のポリエチレン設備を統廃合しやすいとの見方が浮上、合流を検討し始めた。関係者によると、東燃化学の親会社の米エクソンモービルと、ダウ・ケミカルなどの間でユニカーの統合の是非や条件などを協議しているもようだ。  そのため、日本ポリケムと日本ポリオレフィン両社は現在、品種や設備の統廃合などの交渉を一時凍結している。ポリエチレン事業は原料ナフサ高と製品価格の低迷で赤字の状態で、統合交渉が長引けば各社の収益悪化につながる可能性もある。


日本経済新聞 2002/6/22

樹脂事業統合大幅ずれ込む ポリケムなど3社

 三菱化学と東燃化学が出資する日本ポリケムが、巳本ポリオレフィン(JPO)、チッソとの間でそれぞれ予定している合成樹脂事業の統合が当初計画に比べ大幅にずれ込むことになった。2002年春から年央としていたが、東燃化学の実質的な経営権を持つ米エクソンモービルの承認が遅れているため。
 東燃化学のポリケムヘの出資比率は現在35%。重要案件に対する拒否権を持つが、今回の統合でこれを失うことから慎重に検討していると関係者はみている。チッソは6月末の定時株主総会に統合をはかることを断念。JPOも「ポリケム側の態度決定を待っている状況」(首脳)。両社とも年内の発足を目指すが、微妙な情勢だ。
 ポリケムはJPOと代表的な樹脂のポリエチレン、チッソとポリプロピレンの事業をそれぞれ統合して新会社を設立する計画。統合2社は国内最大規模の生産能力を持つメーカーとなる。

     * 下記 日本ユニカー問題も        


(化学経済 2000/9)  

ポリオレフィン一体化会社の現況と展望 日本ポリオレフィン       設立発表

日本ポリオレフィンの概要

本社所在地  東京都港区虎ノ門一丁目26番5号
設立     1995年6月1日
営業開始   1995年10月1日
資本金    150億円
営業目的   (1)合成樹脂の製造および販売    
       (2)各種の合成樹脂加工品の製造および販売
決算期    12月31日
従葉員数   620人 
事業所    本社、大阪支店、名古屋営業所        
       研究開発センター(川崎・大分)
       大分工場、川崎工場
株主     昭和電工(65%)日本石油化学(35%)

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ポリエチレン専業で再スタート  2002年度には経営基盤を確立  

 ポリオレフィン樹脂事業統合会社の先駆けとなった日本ポリオレフィン(略称JPO)は、2000年6月に設立5周年を迎えた。大分のLLDPE設備を大分エルエルに分離し、その後休止したのに続き、1999年6月にはPP事業をモンテル・エスディーケイ・サンライズ(MSS)に譲渡、ポリエチレン(PE)専業メーカーとして再スタートした。  
 2000年からは輸入品と競合できる製造コストを狙いに中期5カ年経営計画「翔輝21」をスタートさせ、2002年度に経営基盤の確立、2003年度における累損の一掃を計画している。あわせて大分の基礎研究部隊も2000年10月には川崎の研究開発センターに移し、研究分野の一体化を完了させる。研究開発力の強化、さらなる合理化を進める中で、PE専業メーカーとして国際競争力の確立を目指すことにしている。 
 JPOは95年6月、昭和電工65%、日本石油化学35%の出資割合で設立され、同年10月に両親会社からポリオレフィン事業を譲渡され、営業を開始した。初年度の売上高目標は1000億円で、97年度における黒字化を目標に設定した。  
 昭和電工と日石化学でポリオレフィン事業には総勢約1500人の従業員が関与していたが、事前のスリム化でJPOは1056人体制でスタートした。樹脂のブランド名を一新し、需要分野ごとに営業組織を統合し、PE,PPの2営業本部体制とし、同時に研究開発体制については大分地区に基礎研究の一部を残しながらも、川崎地区の両社の樹脂研究所を統合、応用研究機能を一体化した。  
 生産拠点は大分、川崎の2カ所で、生産能力は主力のHDPEが大分3系列19万7000トン、川崎が2系列13万5000トンの合計5系列で年産33万2000トン。また、LDPEは大分が3系列12万3000トン、川崎が3系列9万1000トンの合計21万4000トン、LLDPEは大分が1系列6万3000トン、川崎が1系列6万7000トンの合計13万トンで、ポリエチレンの生産能力合計は67万6000トン。 一方、PPは大分が21万6000トン、水島の日本ポリプロが6万4000トン、東北ポリマーが3万トン、浮島ポリプロが3万6000トンの合計34万6000トンとなり、ポリオレフィン生産量としては年産100万トン規模の国内では最大級の企業となった。
 

 120億円超の合理化達成でも100億円の累損  
 東西の2生産拠点体制を生かした物流の合理化を皮切りに、合理化・省力化を促進し、経営基盤の確立を目指したが、原料のエチレン価格がナフサ価格に連動した価格フォーミュラであったこともあり、事業スタート後からのナフサ価格の上昇を樹脂価格に転嫁できず、業績の低迷を余儀なくされた。  
 このために96年度から中期経営3カ年計画「MARCプラン」が作成され、当初計画以上の速いスピードでコスト削減を目指すことになった。第1段階は既存枠組みの中での徹底した物流合理化で、第2段階でグレードの統廃合、生産体制の効率化、物流の最適化、在庫の削減、併せて研究開発、営業部門における人員削減など抜本的な合理化対策を実施し、販売面ではシェアの高いHDPE分野の重点強化を図った。さらには新規需要が期待できるメタロセン触媒を使用したLLDPEの本格的事業化を促進させ、同時に製造拠点の再編成・設備の再構築にも着手した。  
 これらの対策の結果、MSSにPP事業が譲渡される直前の99年5月には819人体制となり、スタート時に比べ240人弱減少した。さらにPP分離後の675人体制(MSSからの業務受託78人分を含む)から2000年7月には617人まで減少している。また、生産効率を上げ、設備の最適運転を図るためにグレード統廃合が進められ、99年10月にはHDPEで設立当初の195から171に、LDPEで190から160に、LLDPEで121から73に減少した。  
 同社の試算によると設立当初のフイージビリティー・スタディとPP分離以前の99年上期では、工場における製造コストが年間64億円、全社の管理費が36億円、物流費22億円などとコストダウンが図られ、総額は124億円に達すると試算されている。しかしこれらの合理化努力にもかかわらず、経常損益段階の赤字は98年度まで続き、98年度末の累損は100億円を超えるレベルまで達した。  

 PP事業をMSSに譲渡   
 収益を圧迫してきた最大の要因は、ナフサ価格の上昇が直ちに連動してエチレン価格が上昇するにもかかわらず、それを製品価格に転嫁できないことにあるが、出血を抑えるために
大分のLLDPE事業を99年1月に大分エルエルに分離・譲渡した(その後、設備は休止)。また3月には旭化成工業との合弁会社の日本ポリプロのPP設備を休止した。同時に6月にはPP事業をオランダ・モンテルポリオレフインズ、昭和電工、日本石油化学の合弁会社であるMSSに譲渡し、JPOはポリエチレン専業メーカーとして再スタートを切った。  
 これらの結果、99年度に経常利益で初めて18億円の黒字を計上した。しかしポリオレフィンの輸入関税は2004年には 6.5%の定率になることが決まっており、値下がりする輸入品と競合しながら累損を一掃するためには、2工場のさらなる合理化、高付加価値分野へのシフトによる売上高のアップ、物流費の削減、管理部門の合理化努力が必要になっている。  

 2003年度に累損一掃へ  
 このために作成されたのが2000年度を初年度とする中期5カ年経営計画「栩輝21」。2002年度までの前半3年間で、主力商品のHDPEについて大分工場での再編成・能力増強、川崎の能力増強を図るほか、メタロセン触媒ポリエチレン(商品名ハーモレックス)拡販など高付加価値製品分野の拡充を図ると同時に管理システムの改革を進める計画である。これまでは少額の投資で合理化を図ったのに対して、単位当たりの固定費を削減するために多額の資金を投入しているのが特徴である。  HDP巳設備の再構築は、大分の4万トンと6万トンを1系列に結合し2段重合設備に改良、同時に8万トン設備を3段重合設備に再編、lO万トンに増強する。川崎ではHD/LLの併産の4万1000トン設備をパイプ専用にし、また11万トン設備はボトルネックの解消で13万トンに増強する。すべての工事は2001年初夏までに完了し、新しい生産体制が構築される。これによる合理化は経常利益べ一スで年間20億円規模と計算されている。さらに口銭の引き下げなど物流費コストの削減、管理部門の合理化、高付加価値製品の増収などを図り、金利上昇などマイナス要因を加味し、30億円程度の経常利益の確保を目指している。  さらに2004年までに親会社を巻き込んだ形でユーティリティーコスト、メンテナンスコストのさらなる削減を計画している。  

 基礎研究も統合・一体化へ  
 汎用分野から高価加価値分野へのシフトを目指すJPOにとって研究開発は推進力でもある。設立1年後に川崎地区にある両社の樹脂研究所を統合、応用研究開発機能を一体化させたことで、LDPEでは透明性に優れる日石化学とフィッシュ・アイが世界最高レベルで少ない昭和電工の重合技術がシナジー効果を発揮し、両社の特性を兼ね備えたグレードが開発されている。技術開発のシナジー効果をさらに上げるために、これまで分離されていた触媒など基礎研究分野についても、研究開発部隊を川崎に移すことにした。移転は2000年10月に完了、これにより研究開発部隊の真の一体化が図られることになる。  
 大分における設備の再編成、さらには研究体制の一体化などにより、JPOは2002年度までに経営基盤を確立し、2004年度までに累損の一掃を目指している。  
 関税率の改定で日本のポリオレフィン業界はこれまで以上に輸入品の脅威にさらされることになり、さらなる合従連衡が見込まれている。累損を一掃し、経営的に身軽になったとき、世界にも通用するHDPE技術を中心に新たな展開の可能性が広がる可能件が高い。

 


日経産業新聞 2001/3/19

合成樹脂メーカー 外資、日本で存在感増す
 サンアロマー、日本ユニカー 再編の台風の目に

 日本で外資系合成樹脂メーカーの存在感が高まってきた。オランダのバセルが50%出資するサンアロマーと、米ダウ・ケミカルが50%出資する日本ユニカーの2社だ。バセルとダウはそれぞれポリプロピレン、ポリエチレンで世界最大の生産能力を持ち、日本で攻勢をかけ始めた。国内化学業界では輸入関税が下がる2004年をにらみ合従連衡が加速しているが、外資との本格競争はすでに幕を開けている。

 
ダウ、日本に生産拠点
 今年2月5日。米連邦取引委員会の認可を得て、米化学大手ダウ・ケミカルと米ユニオン・カーバイド(UCC)の合併が実現した。売上高284億ドル(約3兆4千億円)。世界最大級の化学会社誕生という発表文の中に、目立たない一文がまぎれていた。
 「ポリエチレンでは日本のカワサキ(川崎)にも生産拠点を持つ」−−。これは日本ユニカーを指す。日本ユニカ−はUCCと東燃化学の折半出資のポリエチレンメーカー。UCCとの合併でダウは世界有数の化学品消費市場である日本の拠点を手に入れた。
 「ダウの人とはあいさつを始めたばかり。今後の運営方針は分からないが、引き続き良好な関係を築けると思う」。日本ユニカーの初谷幸夫常務は慎重に話す。さっそく日本ユニカーは3月末で役員陣を大幅に刷新する。旧UCC出身者はほぼ全員退任し、代わりにダウ・ケミカル日本の本多助重社長が代表取締役副会長に就くほか、
ダウは取締役1人を常駐で派遣する
 UCCとの合併でダウのポリエチレン生産能力は世界で約880万トンに増えた。日本の業界全体の能力380万トンをはるかに上回る。ダウはアジアではタイに拠点を持つほか、今後中国に生産拠点を築く見通し。ある業界関係者は「研究開発力や投資余力が日本勢とはケタ違い。日本で高品質の製品技術を習得し、海外で導入、アジアなどから日本に輸入するのも可能」と脅威に受け止める。

 技術導入で対応可能

 
サンアロマーも似た状況にある。同社はバセルが5割、残りの5割を昭和電工と日本石油化学が出資するポリプロピレンメーカーだ。バセルは、英蘭系メジヤーのロイヤル・ダッチ・シェルと、独化学大手のBASFがポリオレフィン(ポリプロピレンとポリエチレン)事業を統合して昨年10月に発足したばかり。ポリプロピレンでは合計の年産能力が510万トンと断トツの世界1位になった。
 バセルは台湾のほか、韓国に大型生産拠点を持つ。サンアロマーの高橋恭平副社長は「コスト競争力を強化するため、現在、韓国からポリプロピレンを調達し、日本で販売することを検討中」と語る。ポリプロピレンは自動車のバンパーなどに使う。日本の自動車各社の品質要求は厳しいが、日本の技術を導入すれば対応は可能だ。

 樹脂メーカー集約へ
 外資にとっても日本に拠点を持つ意味は大きい。日本の自動車や家電各社に納入すれば「高品質のお墨付きをもらうようなもの。世界のどこでも通用する」(外資幹部)と期待する。
 住友化学工業と三井化学の経営統合合意に続き、三菱化学や昭和電工など4社はポリエチレン事業の統合に動いている。2004年の輸入関税引き下げをにらみ、国内合成樹脂メーカーは最終的に4−5グループに集約される見通し。外資系メーカーは確実にその一角を形成するだけに、業界再編の台風の目になる可能性もある。


日本経済新聞 2002/9/22

ポリエチレン 国内生産を大幅縮小
 三井住友系 設備の1割廃棄 アジア拠点は増産
 宇部興産  来年度中に撤退 

 石油化学メーカーが代表的な合成樹脂であるポリエチレンの国内生産を相次ぎ縮小する。最大手の三井化学と住友化学工業は、共同出資会社の設備を2004年までに1割廃棄する。宇部興産は事業撤退の方針を決めた。関税引き下げによる低価格品の輸入増で採算が悪化、一段の業界再編が避けられない状況となっている。住友化学はシンガポールで石化製品の生産増を計画しており、アジア市場に活路を求める動きも強まりそうだ。
 ポリエチレンの生産縮小は合成樹脂の基礎原料、エチレンの過剰設備問題に直結する。国内のエチレン生産能力は現在年740万トンで、560万トンの国内需要を上回る。ポリエチレンはエチレン消費の45%を占めており、今後、エチレンの設備過剰が深刻化するのは確実。設備廃棄につながる事業統合などの、業界再編を促しそうだ。
 国内石化9社の2001年のポリエチレン生産量は330万トン。最大手の三井住友ポリオレフィンは、千葉などに年産能力95万トンの設備を持つ。年48万トンを生産・販売する低価格品のうち24万トンの生産を取りやめ、高付加価値品の拡販でカバーできない10万トン分の設備を廃棄する。この規模での設備廃棄は業界で初めて。
 年間20万トンを生産する7位の
宇部興産は、2003年度までに撤退する方針を決め、事業売却の検討に入った。三菱化学系で2位の日本ポリケム、昭和電工系で3位の日本ポリオレフィンも低価格品の生産を縮小する。この2社は既に経営統合に合意しており、合計年133万トンの設備のうちまず約9万トン分の廃棄を決めた。
 一方、住友化学は英蘭系メジャー(国際石油資本)のロイヤル・ダッチ・シェルグループとの間で近く、シンガポールで共同運営する石油化学コンビナートの大幅増強で最終合意する見通しだ。2006年をめどに設備能力をエチレン換算で年100万トン前後増強する計画で、合成樹脂などを含めた総投資額は2千億ー3千億円にのぼる。住友化学は三井化学との間で2003年秋の経営統合を決めており、アジア市場に生き残りをかける姿勢を鮮明にする。
 経済産業省によると、アジアのエチレン換算の石化製品需要は年率6%の勢いで増え、2006年には4100万トンに達する見通し。2000年の域内生産能力は3150万トンと不足しており、欧米メーカーも中国などで相次ぎコンビナートの建設に乗り出している。

 


日経産業新聞 1994/12/2

三井石化と宇部興産、樹脂生産で提携 国際競争力アップ優先
 公取の認定がカギ 共販離脱との二者択一も

 石化業界のタブーがついに破られた。主役は三井石化と宇部興産。ポリエチレン分野で「共販をまたがる提携」をやってのけた。日本の石化メーカーの至上命題はいうまでもなく国際競争力のアップを図ること、もはや共販という呪縛にとらわれて、提携・合併をちゅうちょする時代ではない。
 三井石化と宇部興産は1日、次世代の樹脂といわれるメタロセン触媒を使ったポリエチレンの生産で提携に合意したと発表した。

 休止プラントを活用
 合意は@三石が気相法直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を製造するメタロセン触媒技術を宇部にライセンスするA宇部は休止中の気相法LLDPEプラント(年産5万トン)を使い年間3万トン前後生産、両社がそれぞれ販売するB三石は3年後をめどに自社設備(同10万トン)を新設するーーという内容。
 三井石化は米エクソン社とメタロセン触媒技術を開発、これを活用した次世代樹脂を新規事業の柱に育てようとしていた。パイロットプラントはあるが、市場を開拓するには量が少なすぎる。そうこうするうちに、三菱化学がこの春から同様の樹脂(高圧法)の試験販売に乗り出した。
 このままでは顧客を押さえられてしまうーー。技術にかけては世界水準にあると自負ずる三井石化だが、現物がなければ営業はできない。プラントを新設するとしても時間がかかる。過剰設備が原因で石化市況がどん底にあるというのに設備増強を唱えたら業界から非難の大合唱が沸き起こるだろう。“説得”している間に三菱はせっせと商品を売り、地歩を固めていく。 そこで同社は同業他社のプラントを何とか使えないか、と考えた。幸いなことに需要の低迷で、稼動を停止している設備が国内に数基ある。
 いろいろ調べた結果、宇部興産と石油精製系の石化メーカーの2社を絞り込み、最終的に同じ千葉コンビナート地区で操業している宇部の設備を活用する方がいいと判断、宇部に白羽の矢を立てた。
 一方、宇部興産は休止設備の償却負担など固定費の増加に頭を抱えており、石化事業の採算を好転させるためには同プラントを再稼動させるしか手がない、という状熊に陥っていた。両社の利害はすぐに一致したが、話はそう簡単ではない。
 三井石化は三井日石グループ、字部興産はユニオングループと共販グループが異なるためだ。公正取引委員会が共販をまたがる提携をすんなり認めるとは考えられない。ことによっては「提携」か「共販離脱」の二者択一を迫られる可能性もある。
 最悪の場合、共販離脱→制度崩壊といった事態にも進みかねない。これまでのポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンの総称)の提携を眺めても昭和電工−旭化成工業(エースグループ)、東燃化学−出光石油化学(同)と共販内の提携しかない。

 技術供与など強調
 石化のタブーに挑むか、それともあきらめるか。悩みに悩んだ末、両社は挑戦することにした。もちろん同業他社に配慮して、提携は「生産委託」ではなく「技術ライセンス供与」である、とか提携期間も三井石化が設備を新設するまでの「つなぎ」なので共販制度には影響を与えない、と大した提携ではないことを強調している。
 そこが少々こそくな感じがするが、いずれにせよ両社がタブーに挑み、深い溝を一気に越えようとした「勇気」は同業他社も見習うべきだろう。
 
 経済合理性の時代に
 ほかの産業では当たり前のことだが、経済合理性を優先している。東レは中小業者保護の観点から禁じ手とされていた化繊の輸入を検討しているし、自動車、造船などでは安くて品質の良い韓国の鉄鋼を使い始めている。施主の機嫌を損ねないよう、国産資材を使っていたゼネコンですら海外資材の活用を本格化させている。
 それに比べると石化業界には“暖かい”(甘い)ところがあるようだ。人員整理に追い込まれたある大手化学メーカーの首脳は「他社が大変ですねえ、と同情してくれるんだよ」と苦笑いしていた。業界に配慮したり、他社に同情するようなメーカーが国際競争力を持てるはずがない、と思うのだがどうだろう。