化学経済 2001/5
4.PVC製造プロセスのクローズドシステム化
1.製造プロセスのクローズドシステム化
1970年代に入って,多くの製造プロセスからの廃棄物による環境の汚染が,いわゆる「公害」として社会の大きな問題となってきた。そこで製造プロセスからの廃ガス,廃水,廃液体・固体の廃棄物をできる限り排出しないように,廃棄物についてプロセス全体を閉鎖系(クローズド化)にする「製造プロセスのクローズドシステム」という,新しいプロセスについての考え方が生まれた(1)。
1960年代後半から,水俣病が水銀による海洋汚染が原因であることが明らかになるにつれて,水銀法による食塩電解からの水銀含有廃棄物の漏洩(ろうえい)が,全国的に公害問題として騒がれはじめた。1970年代に入るとソーダ業界は水銀電解プロセスからの水銀排出防止の技術開発を共同で行うことを決め,「クローズドシステム調査専門委員会」を組織し,電解プロセスからの水銀の排出をできる限り少なくするプロセスの開発を行った。このときに「クローズドシステム」という言葉が最初に使われた。したがって「製造プロセスのクローズドシステム」という概念は,わが国で最初に生まれたものである。
その約20年後の1994年,G.パウリによって「ゼロエミッション(廃棄物ゼロ)」という概念が出され,国連大学において提唱され,この考え方は世界に広がった。この「ゼロエミッション」の考え方を個別の製造プロセスへ適用したものは,「製造プロセスのクローズドシステム」と考え方は同じである。ほぼ同じような考え方で「クリーンプロダクション」,あるいは「クリーンテクノロジー」などの言葉が使われるようになった。
クローズドシステムの考え方を示すと第1図のようになる。
公害問題が顕在化するようになり,製造プロセスからの廃棄物が問題になりはじめると,廃水処理や廃ガス処理の技術がプロセスに取り入れられるようになったが,それは第1図の(a)に示すように,プロセスから出てきてしまった廃棄物を,どう処理するかというものであった。これでは「私はつくる人」「あなたは廃棄物を処理する人」となり,製造プロセスと廃棄物処理とが分断されたものとなる。これを欧米では“end
of pipe"の考え方といっている。
これに対してクローズドシステムの考え方は,(b)に示すように,プロセスの廃棄物の各発生源に注目して,廃棄物自体をいかにプロセスから発生させないようにするかというもので,廃棄物をプロセス自体の問題としてとらえるものである。
具体的なプロセスのクローズドシステムの手順(方法)を示すと第2図のようになる。
手順一1は,プロセスのどこからどのような廃棄物が排出されているかを明確に知ることである。廃棄物についてのフローシートをネガティブフローシートと呼ぶ。1970年代には,このネガティブフローシートが明確になっている製造プロセスは,ほとんどなかったというのが実状であった。
手順−Uは,ネガティブフローシートをみて,どこが量的に多いか,どの廃棄物の処理が難しいかなどを検討し,反応に用いる薬品を転換したり,操作法を改善したり,漏洩やこぼれの防止法の技術開発などプロセスの単位操作を改良することによって,プロセス廃棄物をできる限り少なくすることである。これには現場の改善提案的な改良も重要であるが,さらに反応を見直すなど技術の基本にかかわる改良もある。
手順一Vは,それでも出てくる廃棄物については,その発生源(できるだけ廃棄物が単純である時点)で処理して,再利用を図ることである。これは廃棄物処理設備をプロセスの一部として取り込むことになり,廃棄物処理をプロセスへ内包化することになる。
以上の手順で既存のプロセスのクローズドシステム化を図ることになる。しかし,さらに進めるには,廃棄物が基本的に少ない,原理的に異なる他のプロセスに転換することになる。これが手順一Wのプロセスの転換である。重合プロセスであれば,溶液重合プロセスなどから,基本的に廃棄物がでない塊状重合プロセスヘの転換などが,その例である。高密度ポリエチレンが,溶液重合から気相重合プロセスへ転換すると,プロセス廃棄物は極めて少なくなる。しかし,これには重合触媒の高活性化などの技術進歩が必要となる。
重合様式によるポリマー製造プロセスの単純性の比較は,連載3の(上)第2図に示されている。基本的には単純なプロセスほどプロセス廃棄物は少なくなる。
2.塩ビモノマー問題の発生
PVCの製造プロセスにおけるクローズドシステム化は,塩ビモノマー(VCM)の発ガン性問題が出発点となっている。VCMは沸点マイナス13℃の常温ではガスである。芳香性をもち,臭気の感知濃度が250〜4000ppmと比較的に高濃度であり,毒性はなく,難燃性であることから安全なガスとみられていて,ヘヤースプレーや殺虫剤などのスプレー用のガスとして用いられていた。
VCMやPVCの製造現場においては,VCMのガス爆発については注意が払われていた。しかし,爆発下限濃度が空気中4%であることから,VCMのタンクや重合器の内部のように高濃度になる可能性の場合を除いて,一般の作業環境においてはまったく安全とみられていた。
1965〜1969年ごろに,米国において長年PVCの重合のスケール除去に従事していた労働者の中に,手指の指端骨が細くなる珍しい病気であるAcro−osteolysisの患者が発生したことが報告され,VCMの有害性が注目された。米国のFDA(Food and Drug Administration)は,1973年アルコール性飲料にはPVC容器を用いることを禁止した。
1974年1月,米国のB.F.GoodrichはNIOSH(National
Institute of Occupation
Safety and Heaith)に,PVCの製造にかかわった従業員が,ガンとしてはまれなAngiosarcomaによって数人が死亡したが,このガンはVCMの高濃度の被ばくと関係があるのではないかと報告した。これは,世界中のPVC関連業界に衝撃を与えるとともに,VCMは発ガン性の物質として緊急に対応すべき世界的な課題となった。当時の状況とその経緯を第1表に示す(3)。
第1表 VCM問題の経緯
年代 | VCM問題の事項 | |
1965〜69 | Acroosteolysisの発生 | |
1973 | FDA,アルコール性飲料にPVC容器使用禁止 | |
1974.1 | B.F、Goodhch,従業員のAngiosarcomaによる死亡を発表 | |
4 | FDA,VCM系のスプレーの使用禁止 | |
5 | OSHA,労働環境VCM濃度 暫定規制50ppm | |
12 | 労働環境VCM濃度基準 1ppm | |
1975.9 | FDA、食品用硬質・半硬質の許可制の規制提案 | |
12 | EPA,排出口濃度規制10ppmを提案 日本厚生省食品容器包装PVC材料 VCM 1ppm |
これを契機に過去にさかのぼって世界的に疫学調査が行われた。その結果1975年ごろまでに米国で10人,カナダ10人,西ドイツ6人など52のAngiosarcomaの症例が発見されている(10,11)。その後1985年の報告では118件の症例があり,日本にも2人の症例があったとされている(12)。これらAngiosarcomaにかかった人たちは,すでに製造技術の項で述べたように,重合器の中に入って高濃度のVCMに暴露されながらスケール除去を専門とするオペレーターがほとんどで,その平均の就労年は17年間といわれている。日本での2件の症例はPVCの大規模生産国としては非常に少ない結果である。これは,わが国ではスケール除去作業を専門とするような就労体制はなく,スケール除去作業は新入オペレーターの初期訓練の1つとして,1〜2年だけの期間であったことによるものである。
Goodrichの報告以来,第1表に示すように米国のFDAは4月には,VCMガスを用いたスプレーの使用を禁止した。続いて世界各国で禁止が決められ,わが国でも6月には使用を禁止し,VCM使用のスプレー製品の回収が行なわれた。
労働環境について米国OSHA(0tupation
Safety and Health
Adminlstration)は,暫定基準として50ppmとしたが,のちに1ppmに改訂した。カナダは10ppm,西ドイツは20ppmから順次下げて5ppm,日本は2ppmとした。
1975年9月には,FDAは食品用の硬質,半硬質のPVC容器については分析値をつけた認可制とした。日本では厚生省が食品用のPVC材料中の残留VCMを1ppmとすることを決定した。
一般地域環境の規制としては,米国のEPA(Enviromental
Protection
Agency)が1975年12月に,プロセスの排出口での濃度を10ppmとする規制案を発表したが,規制までには至らなかった。しかし,これが世界の基準として認識されるようになった。
3.PVC製造プロセスのネガティブフローシート
こうした世界の状況の中で,PVCの製造プロセスにおけるVCM対策がわが国でも最も緊急の課題となった。各企業あるいは業界全体として真剣な対策が検討された。1970年代のPVC懸濁重合プロセスからのVCMの廃ガス,廃ポリマー,廃水の発生源やその量を示したネガティブフローシートを第3図に示す。 この図には改善後の1990年代の値も示されているが,上段に示す値が1970年代の標準的な廃棄物の排出量である。
この数値は1975年に,高分子学会の反応工学研究グループが,大学と企業の共同研究によって,年産10万トンのPVC懸濁重合プロセスのモデルを想定し(このシリーズBの第3図のフローシート)(2),化学工学的な計算をベースに,製造プロセスからの廃棄物の発生についてのフローシートを作成したもので,わが国ではじめて公表されたポリマー製造プロセスのネガティブフローシートである(3)。
このネガティブフローシートからVCMの排出の発生源をみると,乾燥工程からの廃ガス,モノマー回収工程からの廃ガス,スケール除去のために重合器を開缶する時に排出するVCM,スラリータンクのスラリーの増減に伴うタンクの呼吸ガスに含まれるVCMなどであることが分かる。この中で量的に多いのが乾燥工程と回収工程の廃ガスからのVCMである。
また,廃ポリマーについては重合器からのスケール,乾燥工程でのこぼれ品や付着レジン,廃水に含まれる微粒子レジンなどがある。廃水については遠心分離器から重合に用いたプロセス水,重合器やタンクの洗浄水などがある。
4.VCMについての対策
まず最も排出量の多い乾燥工程からの廃ガスのVCMについては,次の3つの方法が考えられる。 @乾燥廃ガスを活性炭などでVCMを吸着除去する方法
A乾燥廃ガスを燃焼してVCMを除去する方法
B乾燥に入る前にPVCのスラリーからVCMを除去する方法
まず考えられるのは,出てきた廃ガスを処理する方法である(“end
of pipe”の発想であるが)。@の乾燥廃ガスの活性炭吸着法について,塩ビ業界はエンジニアリング会社と共同でその開発を試みた。流動層プロセスと固定床プロセスの両者について,パイロットプラントまでの研究が行われた(4)。
乾燥工程から排出される1500g/トンPVCのVCMは,乾燥空気(1.7×104Nm3/hr)で希釈されて,100ppmのVCM濃度となる。このような希薄なVCM廃ガスを活性炭で吸着処理することは,廃ガス処理装置も大きく,コストも高くなって経済的に不利になることが分かり,結局,実用化は行われなかった。
また,Aの焼却処理法も,日鉄化工機の水中燃焼法や日本ゼオンの燃焼一塩酸回収法が開発されたが(5,6),これも活性炭処理と同じく,希薄ガスの処理では経済的に不利になり乾燥廃ガスの処理では実用化されなかった(これらの技術はモノマー回収工程からの廃ガス処理には用いられている)。
ここで,上記Bの方法の乾燥工程に入る前に,PVCのスラリー状態で,残留VCMを除去する技術開発がどうしても必要になった。ここで問題となるのは,PVCの加熱によるレジンの着色問題である。 PVCは100℃に近い温度から,脱塩酸の熱分解がはじまりピンクから褐色の着色レジンとなる。着色レジンのPVC製品への混入は,絶対に避けなければならないことであった。したがって,スチームストリピングによってPVCスラリーを加熱して脱VCMすることは,非常に難しい技術と考えられていた。このため初期の段階では,経済的には不利であり,“end
of
pipe”的な発想であることは理解しながらも,乾燥廃ガスの活性炭吸着などの技術が真剣に検討されたのである。
スチームストリッピング技術については,重合反応後の重合器をそのまま用いたり,ストリッピング槽を用いて,撹拝(かくはん)しながらスチームと接触させて,脱VCMを図る方法など多くの技術開発が行われていた。しかし,結局はオーソドックスなストリッピング塔による脱VCMが主流となった。塔方式でも充填塔などの開発も行われたが,最終的には棚段方式が主に採用されている。棚段方式では塔内の一部にスラリーの滞留部分があると,熱履歴を受けて着色レジンとなるので,滞留防止が塔設計のポイントとなる。棚に残留するレジンの洗浄の方法,滞留しないような特殊な構造の多孔板の棚,棚自体を間欠的に回転させるなどの技術が開発され,多くの特許が出願されている。
スチームストリッピング温度,塔での滞留時間,PVCの重合度と脱VCMの基本的な関係を示したのが,第4図である(7)。PVCへのVCMの吸着や拡散についてはBerensなどの一連の研究がある。図から滞留時間に対して残留VCMは指数関数的に減少し,温度は高いほど脱VCM速度は大きくなっている。これらの結果はBerensの結果とよく一致し,PVC粒子からの脱VCMは拡散律速であることを示している。重合度は高い方が脱VCMは早くなっている。
ストリッピング塔の1例を第5図に示す(9)。堰板(えんばん)をもつ多孔板の棚で,常時あるいは間欠的に温水で棚を洗浄するように工夫されている。上部からPVCスラリー,下からスチームを入れて,5〜6段の多孔板でスラリーとスチームを接触させ,VCMを除去する。
スラリーは80〜110℃で,滞留時間は約10分である。各段にはリング状の洗浄管がつけられ,スラリー温度より±lO℃の温水を細孔から噴射して洗浄し,棚段にレジンが残留しないような工夫がなされている(9)。
このように重合後のスラリーをスチームストリッピングするすることによって,スラリー中に1500ppmあった残留VCMを数十〜数ppm(乾燥PVCに対して)までに除去することができるようになった。その結果,乾燥廃ガスのVCM濃度もPVC製品中の残留VCMも大幅に低下した。その結果は第3図の下段に示されているように,45gとなっている。これは乾燥廃ガス濃度に換算すると3ppmとなる。
乾燥廃ガスに次いでVCM排出量が多いのは,モノマー回収工程である。1970年代には1200gのVCMが排出されていた。これは重合器などからの未反応VCMを回収して,重合工程ヘリサイクルする場合,蓄積される非凝縮ガスをそのまま大気に放出していたからである。これを溶媒吸収や活性炭吸着などガス回収装置でVCMを回収すことによって,大幅に排出量を減量することができる。またこの廃ガスを,すでに述べた焼却処理法によって燃焼させて,塩酸を回収することも行われた(6)。
重合器から排出されるVCMは,重合器のクリーニングのために重合器のマンホールを開け,人がはいれるまでに内部のVCMをパージするために排出されるVCMである。1970年代は700gであった。当時はバッチごとに,スケール除去作業を行っていたし,重合器の壁に付着したスケールはVCMガスを多く含浸しており,重合器は主要なVCMの発生源であった。また,スケールからのVCM除去には時間がかかり,重合器内のVCM濃度は高くなった。こうした環境の中でのスケール除去作業であったため,この作業を長年行った人たちがAgiosarcomaにかかったのである。重合器内部は平均2000ppmあったとされている(10)。
これらの問題は,このシリーズBで述べたように,高圧ジェットクリーナーの開発,さらにスケール付着防止技術の開発によって,スケール除去は日常的にはほとんどなくなり,1ヵ月以上も無開缶で操業できるようになり,重合器からのVCMの排出はほとんどなくなった。しかし,ある期間ごとには開缶して重合器のクリニーングが必要になるので,その際いくらかのVCMが排出されることになる。これが平均して40gとなる。
スラリータンクの呼吸ガスに含まれるVCMは,大気に開放されていた1970年代には200gであったが,これはタンクをモノマーの回収ラインにつなぐことによって,現在ではゼロとなっている。
さらに,重合器の洗浄廃水やモノマー回収工程でのコンプレッサーのシール水などにはVCMが含まれているので,これらはスチームのバブリングによって脱モノマーされ,モノマーは回収される。
5.廃ポリマー,廃水対策
廃水は,重合器の洗浄水と回収工程のコンプレサーのシール水,そして遠心分離機からの重合に用いられたプロセス水である。これらは上述したように最近では脱VCMされている。しかし,これら廃水はPVCの微粒子を含んでいる場合が多い。そこでこれらは廃水処理工程に入れられ,アクリルアマイドなどの凝集剤を用いて凝集沈殿させてPVC粒子を分離する。この処理水はろ過することで装置などの洗浄用として用いることが可能である。しかし,この水には重合で用いた分散剤のポリビニルアルコール(PVA)や開始剤の残渣などが含くまれており,廃水のCODやBODの原因物質となる。
これらの除去には活性汚泥処理が行われる。通常の活性汚泥ではPVAなどの生物分解や資化は起りにくいので,ある期間の馴養(じょうよう)によってPVAを資化するように活性汚泥を培養して用いられる。こうした活性汚泥ではPVAは90%以上の処理が可能である。
さらに,これを活性炭などの高度処理によって,プロセス水にも再利用が可能であるが,実際には経済的な理由で,現在わが国では廃水のリサイクルは行われていない。
廃PVCについては重合器からはスケールとして発生する。また,乾燥工程や包装などのパッキング工程から,レジンのこぼれなどによって発生する。さらに,廃水処理からは凝集沈殿物として発生する。スケール付着防止技術や乾燥工程でのこぼれ防止などの技術の進歩によって現在では非常に少なくなっている。しかし,どうしても発生するものは,低グレード品として販売したり,低品質製品へのリサイクルでなどが行わている。
6.最新のPVC懸濁重合プロセスのフローシート
以上に示したような,廃棄物対策,主としてVCMについての技術的な対策を行った最新のPVC懸濁重合プロセスのフローシートを示すと,第6図のようになる(このシリーズのBの第3図(2))に示した1970年代のフローシートに対応させたもの)。
1970年代と比較して,大型重合器のあとに大型の未反応VCMの除去槽でまずVCMが回収され,スラリータンクに入れられる。ここからは連続操作となり,スラリーをストリッピング塔を通して脱VCMが行われる。PVCは遠心分離機で水と分離され,流動乾燥機で乾燥され,製品となる。回収されたVCMは圧縮,冷却されて,VCMは重合工程にリサイクルされる。ベントガスは溶媒洗浄されて(第6図のフローシートの場合),VCMを除去し大気に放出される。重合器の洗浄水やコンプレッサーのシール水は脱VCMされて廃水処理へ入る。
主としてVCM対策のために付加された新しい装置は,第6図で網掛けされたものである。これらはクローズドシステム手順一Vの廃棄物処理装置のプロセスヘの内包化に相当するものである。またスケール防止技術の開発や乾燥工程におけるこぼれ防止の改良などは,手順一Uの単位操作の改良に相当するものである。
このようなプロセス廃棄物についてのクローズドシステム化を行った結果として,第3図の1990年代のネガティブフローシート(下段)に示すように,大幅なプロセスからの廃棄物の削減が達成された。 PVC懸濁重合プロセスにおける,VCMの排出原単位(PVC1トン製造するのに,モノマーであるVCMを何g排出するか),モノマー原単位(PVC1トン製造するのに,モノマーが何トン必要とするか。VCM排出量に,廃ポリマーなどを加えたもの),水の原単位(PVC1トン製造するのに必要なプロセス用の純水)の1970年代と現在のレベル(1990年代)との変化を対比して示すと第2表のようになり,大きく改善されていることが分かる。
第2表 PVC製造プロセスの原単位(懸濁重合)
VCM排出原単位 モノマー原単位 水の原単位
1970年代 3,615 1.030 5.0
1990年代 95 1.003 3.1
モノマー原単位や純水の原単位の向上は,その減量による経済的効果のみではなく,廃水処理費用など環境対応のコスト低減などにおいても,大きな経済効果があるこも注目すべきである。
7.おわりに
ここではVCM対策を中心にしたPVC製造プロセスのクローズドシステム化について,1970年代以降のプロセスの変化についてまとめた。 PVCと環境問題については,VCMの有害性問題のほかに,PVC製品廃棄物の焼却におけるダイオキシン問題,軟質PVCに必要な可塑剤の環境ホルモン問題,そしてPVC製品の廃棄物リサイクル問題など,今までに多くの問題が社会問題として取り上げられた。
現在,VCM対策と同じように,1つひとつそれらの問題について,PVCの企業や関連業界で積極的な取り組みがなされている。これらについても別の機会にまとめることが必要になるであろう。
<文献>
1)佐伯康治編著「化学プロセスのクローズドシステム」,工業調査会(1979)
2)佐伯康治,化学経済,47,〔11〕,78(2000)
3)反応工学研究会,「ポリ塩化ビニール製造における塩化ビニル対策一アセスメント1」高分子学会(1976)
4)鎌田太一,化学装置,20,〔5〕,27(1978)
5)鶴田英正,石油学会誌,16,〔8〕,22(1973)
6)町田衛,漆間文雄,日化協月報,〔1〕,1(1976)
7)文献1)のp.80〜96
8)A.R,Berens,J.Vinyl Technology,1,No.1,8(1979)
9)チッソ,特開昭54−8693(1979.1.23)
10)飯島英雄,「暮しのなかの化学」(和田野基編)p.51,ダイヤモンド社(1977)
11)プラステックス,27,〔3〕,16(1976)
12)D.Forman.B.Bennett,J.Stafford,R.Doll,British
Journal of Industrial Medicine,42,750(1985)